ある日の金槌亭

マスター:石田まきば

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2015/01/26 19:00
完成日
2015/02/06 21:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●本愛ずる

(どうしてこうなったんだったかな)
 エルフハイムの森の外に出るだけでも大事件だというのに。
 森の外で、人の街で一人、何をしていいのかもわからずに座っている自分。
(待っている間自由にしていいって、言われても)
 思いつかない。だからずっと、あまり味のよくないシードルをちびちびと飲んでカウンターの端の席に座っている。
 こんなことが、自分の身に起こるなんて思っていなかった。

 一年前……いいや、ほんの数か月前まで、自分は大好きな本に囲まれた生活を送っていた。
 外から持ち込まれる本を読んだり、古いものを書き写して新しい本を作ったり。時には本になってもいないような、雑多の情報の集まり、走り書きのメモの集まりを一冊の本に纏めることだってあった。
 言葉に触れていれば、紙に触れていれば幸せだった。
 昔ながらの手漉きの薄い紙も、大事に扱えば今も優しい自然な手触りを保ってくれるし、書かれた当時、製本された当時の事を文章だけでなくその姿かたちからも教えてくれて、なんだか懐かしい気持ちになるから好きだ。
 最近は新しい紙も導入されて、丈夫でめくりやすい紙が増えた。外の香りを持ち込んできたようで気に食わないという先輩も居るけれど、時間が経てば馴染んで慣れていく。その過程をじっと眺めるのも面白い。
 図書館にはエルフハイムのエルフ達が集めた古い記憶も、新しい知恵も、そして外に溢れる変わったことも、森の外に出た同胞達がしたためた詩集の形で集められる。
 パウラはそこで本に携わる仕事を愛していたし、本も知識も勿論愛していた。
 図書館を訪れる同胞達と本について語るのも、同僚達と本の扱いについて、本の世話について話し合うのも楽しいと思っていた。
 同年代の友人達には若いのに固いと言われることも多かったが、それだけ本が好きで選んだ仕事だし、小さい頃からずっと図書館に勤めるのが自分の天職だと思っていた。無事に採用された時も嬉しかったし、ずっと楽しんで仕事をしている間も幸せだったし……いつか、禁書と呼ばれるほどの本を読めるほどの立場になれるくらいこの場所に腰を据えて、それを目指して勤めを果たして……そうやって年を取っていくのだと、何の疑いもなかった。

「何のご用でしょうか?」
 上司の詰所に呼ばれた時は、もしかして昇進できるのかと期待したのだ。
「パウラと言ったかな……若いのに、ずいぶん優秀だと聞いているよ」
「はい、ありがとうございます!」
 深く頭を下げてから、顔をあげる。図書館でも片手の指に入るほどに偉い立場のエルフ、そしてその隣に立つのは……長老?
 図書館は長老の会議所にも近い。比較的年若い長老は自分で図書館に足を運ぶこともあるから、パウラも幾人かは顔を合わせたことがある。そのうちの一人が、今、なぜこの場に居るのだろう。
(どうして私の辞令に、長老が関係あるの?)
 予想と違う。
(ううん、どうしてリヒャルト様が私の仕事ぶりを確認するの?)
 図書館から役人に転身したと言う前例は確かにあったと記憶している。けれど自分はそんな希望を出した覚えはないし、今後も出す覚えはない。
 どうして?
「君に、折り入って頼みがある」
「長老直々の頼みだ、パウラ、いい話だよ」
 リヒャルトの言葉に続いて、上司の言葉が追い打ちをかける。
(これは、断れないってこと……よね?)
 内容を聞く前に、断る道は絶たれてしまっていた。もう本に触れることはできないのかもしれない、そんな絶望感がパウラの脳内を支配する。
 その感情が表情にも出てしまっていることは勿論、彼女の表情を見て上司とリヒャルトが視線を合わせて頷き合ったことなど、パウラは少しも気づいていなかった。

●白黒はっきり

 フロアの角、勝手口からほど近く。
 二人がけのテーブル席の一方に座り込んだテオバルトは、視界の隅にエルフの少女を捉え、誰にも聞こえないように舌打ちをこぼした。
(紛れ込んだ耳長族……ですか)
 別にエルフそのものが珍しいわけではない。しかし第三師団の駐留するここマーフェルスで、明らかに「森から出てきました」とばかりの様子を見せるエルフは少々目立つ。
 収穫祭の時期のように、祭で人がにぎわう中であればそれはさほど目立たないのだけれど。
 仕事柄、こういったエルフ達が厄介ごとを起こさない様、もしくは巻き込まれないように気を使うのも自分達師団兵の仕事だ。
 ここはエルフハイムに近い。エルフ達の話によれば、一番近い区画はブラットハイムと言う名なのだそうだが。
(わざわざご苦労なことですね)
 維新派と呼ばれるエルフは、特にナデルハイムに多い。皇帝選挙に立候補したエルフはナデルハイムで役人をしているという話だし、今カウンターに座っているエルフはその男の秘書だと言う話だ。
 ナデルハイムから一番近い帝国都市は本来であれば帝都なのだが、エルフハイムに対する業務を担っているのが第三師団だからと、かの役人ユレイテルはマーフェルスに窓口を得ようとやってきた。帝国の事情も鑑みた上で行動していたから、テオバルトはそれまでエルフに抱いていた先入観を見直してみる気になった。
 簡単に考えを変えるのは難しいし、平等な判断が必要だ。まだ信じ切るということは難しいけれど。
(すべてのエルフがそうではないし、そこの少女も同じとは限りませんがね)
 典型的な田舎者らしい行動を繰り返すパウラから視線をそらす。監視しているのも馬鹿らしくなってきた。
 今日は非番なのだ、たまには仕事の事を忘れたい。
(思いっきりビールを飲む日があってもいいとは思うんですがね)
 それでもこの酒場に来て、何時もの定位置に座ってしまうのは……職業病なのだろう。
 上司に『奇跡の電卓』『影薄き頭脳』と揶揄される男は、副長としての顔の他に、情報屋としての顔も持っているのだ。

●金槌亭

 印象の薄い常連の横顔を見つけ、主人はつまみを作り始めた。
 ビールに合わせるのはヴルストと揚げた芋。日によって芋の形を変えるのは、目先でも料理を楽しんでほしいと言っていた息子の言葉を参考にしたから。今日の芋は厚めの輪切りで、胡椒をきかせた揚げ衣にくぐらせてある。
「どうぞ」
 常連の前に皿を置く。彼がどこの誰かも知っていて、この席に座るのが何のためかも知っている。状況にもよるが、彼の仕事の手助けをすることもある。勿論店に損害が出ない範囲で、ではあるが。
「今日は」
「夕方くらいまで」
 今日は夕方までここで情報を集めるらしい。機を見て酒も注ぎにくればいいだろう。
「皆さんとは飲まないので?」
「マスターが冗談を言うとは」
 シュラーフドルンに努める兵士達もよく現れるこの店で、彼らが上司の存在に気づいたことはただの一度もない。それだけテオバルトが印象の薄い外見をしており、服装のイメージも変えているという事なのだとは思うが。
「そうでしたね。……ごゆっくり」

リプレイ本文



(辺境だと入手が難しかったからな)
 武具店の並びに足を運んだシリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820)は、今日の目的の一つである手入れ道具を手に小さく口元を緩ませた。
 CAM騒動で寄ったついでとはいえ収穫だ。拠点に戻る前にじっくり帝国の空気を感じようかと、今度は市場へ足を向けた。

「いくら言われても嫌なものは嫌なんだって何度言えばわかるのかしら!」
 乗馬中にもかかわらずフェリア(ka2870)は声を荒げる。
 ハンターとなったのは家の者も皆納得しての事だったはずだ。仕事の合間に家に戻る度、見合いの話を聞かされるようになったのはいつからだっただろう。
(わかってはいるのよ)
 後継ぎは必要だ。自分は結婚していてもおかしくない年齢の女で、次期当主の立場でもある。親の決めた許嫁が居なかったことの方が奇跡だ。
 始めのうちは殊勝に話を聞いていたのだ。多少は繰り返されても致し方ないと思っていた。
「それにしたってしつこいと思うわ!」
 自分の力量の限界を知るまでは結婚しないと決めていた。それを分かってくれていると思っていたのだ。
 けれど彼らは違ったらしい。話し合いが足りなかったことは認めよう。けれどこちらの主張ももっと聞いてほしいじゃないか。たまらず途中で抜け出してきてしまった。
(少々はしたなく怒鳴ってしまった気もするけれど……気のせいとしておきましょう)

 朝からずっと歩き通しだったトリス・ラートリー(ka0813)は足元がおぼつかなくなっていた。彼女は見落としていたのだ。辺境と帝国の都市との違い……人の密度と、街の構造について。不慣れさは体力では補えなかった。
(興味深いものも多かったですし、これが『外』の世界なんですね)
 辺境にはなかった品で溢れていたから一人ではしゃいでしまったことも理由の一つ。
「そういえばおなかもすきました」
 どこからか美味しそうな匂いが漂ってくる。視線を巡らせた先でトリスの視界に金槌亭が映った。

「親父、お勧めの酒と料理は何かな?」
「マーフェルスは初めてですか」
 カウンター声をかけるシリルに、グラスを拭いていた主人が穏やかに答える。
「ああ、帝国でゆっくりとできるのは初めてなんでね、この土地の料理とか知りたいのさ」
「いいご判断です」
 帝国の他の都市と比べると食事に力を入れていますからと言いながら出されたのはカルヴァドスと野菜入りのヴルストだ。
 リンゴを産出する地域の酒と、日持ちしないため量は作れないがあっさりとした味を好む客に好まれる品。
「息子が職場で教わった料理なんですが」
 今度礼をしなければならないという主人の視線に含みを感じ、シリルは頭を捻った。
(料理は得意じゃないが、そうだな)

 茹で芋を潰して、クリームで延ばすときめが細かくなる。芋がまだ熱いうちにチーズを加えれば風味も増す。
 シリルの伝えた手順通りに完成した試作品が供される。
「すごいな、これだけの説明で。うむ、本当に美味い」
 舌鼓を売ってから、もう少し分けてもらえないかと頼む。その皿を持って行きたい先がある。

 エルカイトを馬屋に繋ぎ、入っていった金槌亭。
(私もさっきまであんな顔をしていたのかしら?)
 その表情に親近感を覚え近寄る。
「そこ、いいかしら?」
 相席の申し出にびくりと震えたパウラだが、名乗ったフェリアに名乗り返す余裕はあったようだ。
「何かありましたか? 随分と不機嫌な様子ですが……ああ、気を悪くしないで下さいね。私も少し嫌な事がありましたので。接点の無いもの同士よければ愚痴りあいでもしませんか?」
「これは親父に作ってもらったリアルブルーの料理さ。味は保証付だ」
 シリルも寄って来て、パウラに皿を差し出す。不景気な表情をしていたのが気になっていたのだ。
「なに、俺太刀は完全な通りすがりだしな、誰に伝わると言う事もないし、吐き出すだけでも随分と楽になるぞ」
 知らない誰かだからこそ言えることもある。奢りますとの言葉通り二人分のシードルを頼みながら、フェリアもその場に腰を据えた。

「ひと休み程度にするか、確りお食事をいただいてしまうか迷います」
 時間をかけて悩んだ結果頼んだのはアップルパイとお茶。
 食べ進めるうちに物足りなくなってくるのはどうしてだろう。ほんの少し小腹を満たせればいいと思っていたはずなのに。
「すみません、このお料理もお願いします」
 追加注文は白身魚のフライとマリネ、定番のヴルスト。
「あ! その、パンも一緒に注文できますか? 難しいなら、構わないのですが……」
 ビールも合いますよとの勧められる。
「お酒ですか? そうですね……飲み物は、お茶でいいです」
 興味が無い訳ではないし、飲んでもいい年齢だ。外を知るにはいい機会だけれど。

 腕のいい情報屋が居るとの情報を上杉浩一(ka0969)が手に入れたのは最近の事だが、目的の人物を見つけるまでに日数を要した。
 賑わう酒場の一角に、目立たないように、ただ空気のように存在する男に目をつけて近寄る。
「相席で構わないか? この通り混雑しておるのでね」
「どうぞ」
 適当な料理と相手の分を含めた酒を注文しながら目の前の男の容貌を確認する。これといった印象のない、どこにでもいるような中肉中背だ。

 この縁に一杯どうだと、グラスを差し出しながら男へ話しかけた。
「探している男がいる……すまんが、紹介状はないんだが、大丈夫かな?」
 世間話のように装った口調なのは人目を気にした結果だ。
「要りません」
 既に目の前に居るのだからと返される。
「モノに寄りますが」
 グラスが移動した。第一関門通過に安堵する。
「探しておるのは……名を聞いて笑ってくれるなよ? こっちも難儀しておるんだからな」
 そこから先は声を潜めた。探しているのは名を出していいのかもわからない、ヒルデブラント・ウランゲル……この帝国先代の事だからだ。
「ああ、名乗りが遅れた。俺は上杉浩一。帝国領内で探偵をさせてもらっておる」
 今後につながることを期待して、相手の沈黙を追うように名乗る。
「上杉……さん。転移者ですか」
「そうだ」
「彼はその時、四霊剣との戦いに出ていた」
 それだけ。浩一に手札がない以上これが限界だろう。

「御馳走様でした♪ とても美味しかったです。さっきのお茶、御代わりいいですか?」
 近くを通った店員に食後のお茶を頼む。
(今は、これで十分堪能できました)
 トリスはまたこの店に来ようと思っていた。お酒を飲まなかったのもそのためだ。
 一人で飲むよりは、誰かと……大事な許嫁と杯を酌み交わす方がいいに決まっている。次に二人で出かける時は帝国を案内することにして、その休憩にここを使おう。

 食器をわきに避けて本とノートを開く時雨 凪枯(ka3786)。
 これまでに読んだ紅界の本を元に自作した辞書から単語を引き出していく。
「『幸せ』はこれでいいとして。『そば』はどれだったかねぇ。近く、横、隣……あ~、もうっ」
 自分が使いやすいようにと何度も編纂を繰り返した辞書だが、まだ十分ではないのだなと実感する。
 覚醒者は神霊樹のおかげで西方地域の言葉が理解できる。それは文字についても同様だ。蒼界に居た時には見たことのなかった文字でも見れば意味が分かるのだ。おかげで辞書作りなんて面倒なことも取り掛かれた。
(んん?)
 視線を感じて隣を見れば、少女が凪枯手元をじっと見つめていた。同類の気配を感じ取って声をかける。
「あんた、文字は読めるかい?」
「あっ……はい」
 見つかった恥ずかしさで頬を染めた彼女だが、興味が勝ったらしく改めて身を乗り出してきた。
「よかったらこれ、読んでいろいろと教えてもらえないかねぇ」
 翻訳したノートを差し出すと、少女の目に輝きが増した。

 パウラの指摘をメモに取り、辞書やノートへ反映させる。お礼に飲み物を奢りながら凪枯は改めて本への情熱を語り合う。
「ほら、子供向けの本や話って自戒が入ってたり土着の文化が反映されてたりするだろ?」
「確かに地域によって暮らしぶりも違いますし、それが伺えますね」
「そういうのを探したり見つけたりするのが好きでね、だから諦めたくないんだよねぇ」
「とっても、よくわかります……!」
「そうだ、お嬢ちゃんはどんな本が好きなんだい? 恋愛や冒険……は、リアルブルー独自かねぇ?」
「自分のそういった経験を元に詩集を作る同胞も居ます……私は、どんなものでも好きですよ」



 ハンター業の帰り道にフラメディア・イリジア(ka2604)は金槌亭の戸をくぐった。
「さて、休みの日じゃしたまには昼から飲むのも一興じゃろうて。うまい酒はあるかのぅ?」
 騎士の娘としての暮らしをしていた頃には立ち寄ることもなかった酒場も、ハンターとして経験を積んだ今は自然になじむ事が出来ている。元から物怖じする性質ではないこともあるけれど。
(休日をのんびり過ごすのも悪くなかろうて)
 昼食の時間を少し過ぎて居たおかげで店の賑わいも落ち着いている。
 視線を巡らせた先にどこかそぐわない雰囲気をもった少女を見つけ、ツカツカと歩み寄っていった。
「ふむ、そこなエルフの少女、何か困っておるようじゃがどうしたかえ?」
「えっ……私ですか?」
 どこか空中を眺めていた少女がフラメディアに視線を向ける。
「そうじゃよ。良ければ我に話してみぬかの?」
「困ってる、ように……みえますか?」
 眉尻が下がっている。やっぱりという言葉が似合う顔だ。
「なぁに、ちょいと飲むのに付き合ってくれればそれでよいからの? 一人で飲むのはやはりつまらぬしのう?」
 我は酒の肴に話相手が欲しいし、其方は誰とも知れぬ行きずりに話してもしかしたらすっきりするかも知れぬ。損のない話だろうと言えば、少女の肩の力が少し解れたようだった。

 思わぬところで出会ったものだ。イーリス・クルクベウ(ka0481)は店内にパウラを見つけ予定を変えることにした。
(仕事帰りの一杯のつもりじゃったが)
 彼女がここに居るならば、彼もこの場所に来るかもしれない。

「まずはエールを頼むかの」
 適当に目についたつまみと共に注文し、テンポよく飲み始めるフラメディア。その勢いに相手はただの酔っ払いだと認識したようだ。
「お主、パウラではないか?」
 そこに声がかけられる。
「覚えておるか? 以前顔を合わせたイーリスじゃよ」

「わしは仕事明けで一杯呑みに来たところじゃ、一緒に呑まんか?」
 同席するフラメディアにも構わないだろうかと視線を向ける。
「皆で飲む方が楽しいじゃろうて!」
 勿論否やはなかった。

「パウラは帝国の酒に馴染めておらんのかもしれん、これならどうじゃ?」
 イーリスが注文したのはシードルと新鮮な林檎ジュースを混ぜたもの。エルフハイム産のシードルに比べれば確かに帝国産のシードルは味が落ちる。けれどこれならば林檎の風味で酒の質も度数も抑えて飲むことが出来るだろう。
「本当です、飲みやすい……」
 一口確かめたパウラが微笑む。顔が火照ったようにも見えるところから、あまりお酒にも強くないのかもしれない。
(すまんが酔ってもらうぞ)
 あとで介抱はするからと、イーリスは心の中でこっそりと謝っておいた。

 パウラはあっさり酔っぱらいと化した。好きな仕事から離れ、面倒な役目を押し付けられたこと。その割に強制的な命令が無い事に対する不安をぽつりぽつりとこぼし始める。
「ほうほう、パウラ嬢はずいぶんと苦労しておるのぅ……。まあ、その分幸運が待っておるじゃろうて!」
「折角『外』に出てきたのじゃ、幾つか本を買って帰るのも良いと思うぞ?」
 二人の相槌、特にイーリスの返しがずれていることにも気づいてはいないようだ。
「図書館の内勤からは離れましたが、自分で……外勤の同胞のように趣味で楽しむのもいいかもしれません」



 夕方も酒を手に帝国兵と思しき者達やハンター達を相手に情報入手を試みた浩一だが、結果は芳しくない。
 早々に切り上げ酒を楽しむことにする。じっくり飲もうと頼んだのはアクアヴィットだ。
「日本酒がほしいな……」
 味覚で馴染むのは難しいのだなと実感する夜になった。

「二度目ともなると……常套手段なのか、イーリス殿」
「なんのことかのう」
 こっそり度の強いカクテルに変えた秋の頃の事だろう。イーリスは酔っているのじゃからととぼけておいた。
「そうか。では私も、酔っているからな……ありがとう、いつも、感謝している」
 それは先日の人柱の事か、それともパウラのことか、他にもあるのか。真意は聞いても答えないだろう。お互い、酒に酔っているのだから。
(失敗したかのう?)
 目的は達成したはずで、仕掛けたのは自分のはずだったのだが。どうやらユレイテルの方が上手だったようである。

「確か『金槌亭』とかいう酒場が第三師団の溜まり場だった筈だが……」
 歪虚の情報を得る為に各地にコネがあって損はないし、そろそろ宿を探さねばならない。ナハティガル・ハーレイ(ka0023)は日も落ち始めた頃合いに金槌亭の扉をくぐった。
「ユレイテルじゃないか……! こんなトコで何やってんだ?」
 すぐに見知った顔を見つける。帝国兵が集まりやすい酒場だからこそ、エルフのグループは目立った。
「ナハティガル殿、君か」
 彼の傍には出来上がっている女性達。
「お前が直接ココに来るって事は……何かあったのか?」
「先に手を貸して貰えるだろうか」
 彼女達を安全な場所に移さなければ、ゆっくり話も出来やしない。

「またエルフハイムで何かあったのか? 困ってんなら力になるぜ」
「今日は私の都合でな。またハンター達にも仕事を頼むことになると思う」
 ナハティガルだって、剣妃の襲来から気になることが増えた。辺境の一人である自分よりも事態の中心に近いこの男はもっとだろうと思う。
(それなりに忙しい身の筈だ。遣いだけで済む用事では無い……って事かね)
 探るような真似はあまりしたくない。エルフハイムの情報規制は厳しいという事も把握しているから、話せる事があればユレイテル自身から聞けるだろう。
「お前もどうだ? マーフェルスの芋料理は絶品だぜ?」
 今は酒を酌み交わせるこの機会を楽しんでもいいだろうと思いなおす。
「食える時には食っておけ。忙しい時は尚更だ」
「頂こうか」

「祭の件なんだが、シャイネから話行ってるか?」
「聞かせてもらった。先日の共闘の際に君に礼を言う暇があればよかったんだが」
 慌ただしかったから遅れてしまったとの謝罪と共に、改めて感謝の言葉が続く。
「祭だけでなく、共闘の面でも、今後動きやすいようにしたいと思う」
 エルフハイム全てを動かす程の権力はない。しかし維新派の志を持つ者ならば、ナデルと、次第によってはブラットに住む者達ならば。今度ソサエティに頼む仕事はその為の準備に関係しているのだと続いた。

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  • 一刀必滅
    ナハティガル・ハーレイka0023
  • ユレイテルの愛妻
    イーリス・エルフハイムka0481

重体一覧

参加者一覧

  • 一刀必滅
    ナハティガル・ハーレイ(ka0023
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • ユレイテルの愛妻
    イーリス・エルフハイム(ka0481
    エルフ|24才|女性|機導師

  • トリス・ラートリー(ka0813
    人間(紅)|15才|女性|闘狩人
  • 売れない探偵
    上杉浩一(ka0969
    人間(蒼)|45才|男性|猟撃士
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • 白狐の癒し手
    時雨 凪枯(ka3786
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • 的確な分析
    シリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820
    人間(蒼)|25才|男性|聖導士

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依頼相談掲示板
アイコン 相談
トリス・ラートリー(ka0813
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/01/26 03:58:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/22 00:32:53