僕の考えたオウドウは最初から破綻している

マスター:Urodora

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~8人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/11 19:00
完成日
2015/02/17 06:10

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 
 終わった季節を思い出そうとしてみた。とっくの昔にすぎている。
 奇跡よ起きろ! 祈ったところで起きるわけもない。
 だから言葉の数だけ夢を語り 今日も楽しかったよ。だれでもない誰かに言った。
 よくある日常。よくある風景。よくある幸せ。それだけでいい。
 のだろうか?

 過ぎた時は戻らない、そんなことは分かっている。
 はじまる前に終わり、終わる前にはじまる。ずっとずっと同じ物語を繰り返し、もうこのままでいい。
 本当に?
 
 雲間の雨 去る姿をずっと見つめている 
 差した光はうちのそと 求める君もここにいない
 
 それでも
 
 そっと手を伸ばし、静かに言う。
 
 もう一度。

 もう一度、はじめることにしよう。

 季節が回り、いつかまた――新しい風が吹くように。

●とうとつに襲撃されることはただしい

「またくるよ!」

 少年が叫ぶ。
 人ならざる者の群れはいまだ遠くにあるが、距離は縮み始めた。
 両者の接近を妨げるかのように銃口はゆっくりと向けられる。瞬間、閃光がたぎり、放たれた弾丸が一陣へ突き刺さった。続けざま、とどろく音に連なり輝きを帯びた死が下卑た輩へ幾度となく打ち込まれる。 刹那、奇妙な悲鳴が上がり、仲間の死に恐れをなした亜人の群れは退却を開始した。
 その様子を見届けた射手の青年は、大きく息をはくと生まれた時間でささやかな休息をとった。

 「こりゃ、ちょっと危険かな」

 張りつめた空気の中、発せられた声はどこかのんびりとしている。
 次の襲撃に備え口笛を吹きながら銃の手入れをする姿は、これからピクニックにいく準備をしている。
 そんな風に少年には見えた。
 

 事のはじまりは、村はずれにゴブリンの群れがやって来た。それだけの話だった。
 友好的とはいえないが敵対していたわけでもない。
 しかし争いは起こった。
 小さい村だ守る者などいない。
 幸いだったのは、一人のハンターが村にいて迎え撃ったこと……そして。

 
 状況は最悪だ。
 数度の襲撃で半ば力もつきかけている、武器も心もとない、拠点にした小屋も崩壊寸前。そう長くはもたないだろう。
 再び、草原の向こうに複数の影が現れる。数が増えた。それを見た少年は恐怖を感じた。最大限に感じた。
 このままだと……きっと死ぬ。
 
「もうだめだ、逃げようよ」

 かなわないことを続けて命を失うくらいなら、逃げてしまえばきっと楽になれる。
 無駄なことを続けてがんばっても仕方ない、だから少年は言った。
 けれど、
 
 「私は残る。家族が村に残っているからね」
 
 青年は答える。
 そこにあるのは澄み切った静けさだ。静寂の内に秘めた強い意思を感じ少年は黙った。
 
 「そうだ。一つ頼みがあるのだけど、聞いてくれるかい?」
  
 どこか困ったように言うと、青年は頭をかいた。
  
●美少女はぜったいてきにただしい

 なぜこうなったのだろう。
 無事に安全な場所までやってきて、村を守る。
 そのためにハンターへ依頼するように頼まれて支部までやって来た――そこまではおぼえている。 
 
 今、少年の前に一人の少女がいる。言葉にするなら清楚という文字がどこか似合う少女だ。動というよりは静、つやのある黒髪が肩まで伸びている。背丈は少年より頭一つ下、見上げる表情にどこか凛としたものを感じさせるのは、整った目鼻立ち、大きな瞳に秘めた鋭いまなざしのせいだろう。
    
 「そのまま逃げ帰ってきた。それでも男なの」
 
 少女は頬を紅潮させ強い口調で少年を非難している。
 その様子は、容姿から感じる雰囲気とは、また別の活発さを生んでいた。
 
 「なんで、君が怒るんだよ。関係ないだろ」
 「関係なくない、まだ何かできたよ。なのに……何もしないで帰ってくるなんて、信じられない」
 「助けを呼びにここまで来たじゃん、僕が残ってどうなるんだよ」
  
 ムカつく、ムカツク、すげーむかつく。この女は何も分かっていない、何も。
 少年の心の奥、不意に浮かんだ感情の渦が理性をふりきって飛び出した。
  
 「なら君がいけばいいよ、何もしないくせに口だけなの。女っていいよね。弱くていいし、僕だって好きでこうしてるわけじゃない知らないうちにこんな世界にとばされたんだぞここは、ここは、僕の本当の世界じゃない、どうすればいいんだよ、どうしろっていうんだよ」
 
 ほとばしる言葉の羅列は意味より熱気を伝える。
 今までの少年とは違い怒りが混ざった声。それを聞いた少女は眼を伏せ、黙り、うつむいた。
 沈黙が場を支配し二人の距離が遠のく……重苦しい空気を破ったの少女のほうだった。 
  
「そんなこと……わ…か……て……る……」

 さっきまでの勢いは消えて陰りにとぎれる声。しだいに震える肩とゆれるまつげがしめすものは……。
 
「泣いてる? の」

 問いを聞きもせず少女は駆け出した。過ぎる影が運ぶ風は、鼻腔をくすぐる心地よい香りと、
 
 「――バカ」

 小さなささやきを少年に残した。
 意味が分からない。今日。偶然。はじめて会ったのに。理不尽だ。
 何が悪いのだろう、助けを呼びに来て約束は果たした。
 むだな戦いで死んで、満足すればいいのだろうか? それはおかしいと感じる。
 なのになぜ、こんなにも無力さを感じているのだろう、正しいことをしたはずなのに――どうしてこんなに苦しいのだろう。
 少年はしばらく、少女の去った方を見ていた。
 けれど何かを決意したように一歩、また一歩。扉に近づく。
 開け放たれた扉の外、見える空は曇天、流れる雲が重々しくこちらをみつめている。
 少年はさらに一歩、踏み出そうとした。
 その時、突然不規則な鼓動が胸をしめつけた。両肩に何かが重なった。
 振り返れ。このまま見ないふりをすればいい、それでいい。どこがで誰かそう言った。
 飲んだ唾がとても苦い。喉の奥、出ない声に追い立てられる。握った両手も開かない。
 だから足元をみつめ、ただ立っていた。
 永遠に続くかのように思えた時間――。
 それが破られたのは、灰の空から落ちる雫が叩く音だった。
 雨に気づいた少年はゆっくりと顔をあげ、そっと宙へ手を伸ばす。
 手のひらを濡らして延々とすべる水滴、そこになぜか――少年は少女の涙を見た。
 
 「いけばいいんだろ……いけば」
 
 強まる雨の静止を振り切って、少年も駆け出した。

 その後、

「こりゃまた、こんがらかったねえ……はあ」

 静けさを取り戻したオフィスに、依頼を受けた係員のため息だけが響いた。
 

リプレイ本文

●序

 強まる雨の中、二人は走った。
 追ってくる影は一つ、しだいに縮まる距離が不安を連れてくる。
 高鳴る鼓動は危機の訪れを教えている。全身に広がる疲労、痛みの嵐も肉体が休めと叫ぶ合図だろう。
 だが、ここで立ち止まり倒れるわけにはいかない。
 現実は無慈悲だ。
 逃げきることなど許さない、獣の姿を借りた死が後ろに迫る。
 小柄で華奢な体、カティス・ノート(ka2486)は逃げることを諦め、戦う覚悟を決めた。
 自らのうちにある力を解放し、天に杖を掲げる。
 力の波動はその先一点に収縮し、追ってきた何者を穿ち、しばらくすると影は動きを止めた。
 あがる肩、息を整えたあとで、カティスは隣に立つ少女へ無理に笑顔を作り、
「もう少しですよ。だいじょうぶ」、
 言ってみたが、力はあまり残ってはいない。
 握る通信機に向かい再度、
「応答してください」
 話す。
 数秒の雑音、応えはない。
 距離が足りないのだろうか?
 いや、もう範囲内のはず、もう一度だ。
「カーミンさん。つながった!」
 雑音が消え、声が聞こえた
「そっちはどう?」

 ――時は少し戻る

●戦1

 現場についたパーティーの前に現れた光景は、ほぼ予想の通りだが少し違った形も見せる。

「雨で視界が悪いわ……。でもそれは向こうも同じ!!」
 呟いたカーミン・S・フィールズ(ka1559)の見たもの。
 それはどこか気弱そうな感じのする少年の姿だ。そして今まさに何者かに襲われようとしている。
 同時にそのまた遠く、先にあるのは襲撃されている小屋だった。
 選択はいずれか。
 頭脳が判断を下すよりも早く、彼女の体が動いた。
 少年は、振り上げられた粗末な武器を目の前にしたとき、戻ったことを後悔した。
 恐怖で体が動かない。
「伏せて!」
 声を聞いた直後、地面と何者かの間に少年はいた。
「怪我はない?」
 カーミンの問いかけに少年は頷いた。
「そんなに上手くいくわけないか」
 呟いたカーミンに、
「?」
「ううん、こっちの話。良かった」
 ひとまず少年の無事を確保した。が、状況が好転したとは言いがたい。
 遠くに小屋を襲うゴブリン、そして後方に控えるのは弓を構えたゴブリンたちの姿がある。

 鹿島 雲雀(ka3706)は、
「悪知恵は回るわけか、黙ってそのまま襲ってりゃいいものを」
 吐き捨てるに言ったあと、小屋と弓どちらにいくべきか、迷う。答えは簡潔、シンプルだ。

 ユスティティア・メイベリー(ka0511)と花厳 刹那(ka3984)の二人は互いに目配せをした。
 言葉で伝える前に、行くべき先は分かっている。

 レオナルド・テイナー(ka4157)は、踊っている。
 今の状況は不本意でもあるし本位でもある。いっそどちらでもいい。
「ま、いいか。ボクちんの出番はまだ先だもん」
 劇的かつ平凡、正常と狂気、背反する二つの理を生とすること。
 いずれも所詮は道化の所以。

 少年を保護したカーミンは後方に控えていたアリア(ka2394)に向かって言った。
「ごめん、この子のこと頼むね」
 アリアは大きく頷くと少年をカーミンから預かった。
「自分の行動で、誰かを怪我させたり死なせてしまうって、案外寝覚めが悪いものよ」
 カーミンは前を見て進む、自らの道を示すため、そして彼女は振り返り言うだろう。 
「お願いだから、死なないでね」
 きっとそれが――開始の合図だ。

 突然、現れた人影にゴブリンは戸惑った。
 壁に振るい、刺さった斧は戻らない。
 焦りがゴブリンの顔に浮ぶ。
 混乱するゴブリンの前に現れた女、鹿島 雲雀は無慈悲に、
「死にやがれ」
 通告した。
 極力、下ろされる刃。黒い輝きがゴブリンの瞳に映る後。
 肉の裂ける断末、吹き上がる血潮は天を翔け、雨と混ざって斑に落ちる。
 その粒を受け、濡れた頬をゆっくり拭う鹿島は次の標的を目で追った。

 誤算。いや、これはこれで良いのかもしれない。
 彼女の前には弓を番えたゴブリンが並ぶ。
「これじゃ、本当に囮ね」
 慈悲を請うように両腕を大きく広げたカーミンは呟いた。
 矢面に標的は彼女一人、矢はまさに放たれる。
 寸前。
 閃光、魔法の矢が放たれた。

「ほんとカーミンちゃん、フラグ立てが好きよね」
 放たれた光の主はレオナルド。泥だらけの大地で一人スキップを踏む、三つ編みの男。
 口ずさむのは、異界の古い歌。
 ドゥドゥドゥーDancin' in the rain♪
「雨、雨、雨、こんにちはゴブ、そしてさようならゴブ」
 レオナルドのうちにある自らの律、その鼓動に従い踊る。
 放たれる光の色、それは心の無謬。

 連続で打ち込まれるマジックアローをきっかけに、両翼を走るユスティティアと刹那の二人がゴブリンの弓隊を襲撃した。
 その様子を後方で眺めていた雪村 練(ka3808)はしばらくすると言った。
「ちぇ寒いなあ。どうせそろそろ退却するんだろーわかってるんだよ」
 言いたいことは分かるが、迷彩服仕様の布団よ、仕事をしなさい。
「えーだって、今ここから撃ちこむと仲間を巻き込むぜ、それでいいの?」
 それは君が自分で判断することだ。パルムに聞くものではない。

 戦況は優勢だ。
 ゴブリンはゴブリン、数が揃っていても、ハンターの相手にはならないはず。
 しかし凶報とは突然届くものだ。
「それ本当なの!? カティス」
 傷だらけのカーミンが叫んだ。
 届いた一報は問題を複雑にした。
 なぜなら、その報によって追撃することを諦めるしかなかったのだから。

●小屋

 青年の安全を確保したパーティーは小屋に入る。
 そこで青年から聞いたのは、
「少数ですが、防衛線を突破されました」
 という事実だった。
  時ほぼ同じく、カティスから入った通信により、少女と合流を果たした直後。
  村が襲撃を受け移動をしていることも知る。
「予測の範囲を少し超えたってこと、想定はしてたけどちょっと甘かったか」
 練が言った。

 今回の行動はbetterかもしれない。
 だが誰か一人でも、もっと速くこの場に到達する手段を考えることもできる。
 確率は非常に低、だが可能性を考慮し、村側に数を向けるそれも一つ手でもある。
 とはいえ青年は無事であり、村に向かったゴブリンの数もそう多くもない。
 ここでパーティーは一つの選択を迫られることになる。
 ゴブリンを倒してから村を救出にいくのか、それとも応援を送るのか。
 移動時間がほぼ無いと考えても、倒すまでの間に村が襲撃されてしまえば、小屋を無理に守ってもしかたない。
 防衛ラインを放棄し村に戻るということは侵攻を許すことと同じだ。

 小屋のうちに沈黙が訪れた。
「迷っている時間、あまりないと思います……。カティスさん一人では少し危険です」
 刹那がそう切り出した。確かにこのまま放置すれば、村に回ったカティスが危ないかもしれない。
「確かにそうだな、でも誰がいく?」
 鹿島がそう返した。
 ユスティティアは黙ってそのやり取りを聞いていたが、何かを決心したのだろう。
 視線を上げると、
「私、いきます」
 静かに言った。彼女の内に沸く想い、それは彼女にしか分からないが、瞳は決意の色で満ちている。
「ティア本気なの?」
 友人である刹那にユスティティアは、ぽつりと答える。
「私がここにいなくても大丈夫だから」
 淡々と紡がれる言葉、その内に刹那はなぜか危うさを感じ、
「ティアがいくなら私も行きます」
 同行を申し出た。
 村に進んだゴブリンの数はそう多くはない、この二人だけでも戦力的には問題はなさそうではある。
「んじゃ二人は村をたのむ、こっちはプランB´を決行つーことで、さくっと倒した後、合流でいいかな?」
 練は布団の暗がりの中から周囲を見回す、特に反対はなかった。
「それでは、村まで案内しますね」
 青年が言う。
 そして三人は村へ向かった。

 三人を見送ったあと、
「女の同士の友情ってのもいいものね」
 カーミンがぽつりこぼした。
「カーミンちゃん、ならわたくしさまと」
 レオナルドが全て言い切る前に、
「ぜったいやだ、ってか女じゃないし」
「つれないねー」
 とたんに興味を失ったレオナルドは布団に話しかけた。
「君、被りもの?」
「ちがうね、正確にいうならオフトゥンをかぶって動くように設定した女子高生みたいな生き物だ」
 練が答える。何を言ってるか分からない? 気にしない。
「変わった子、意味不明だわ」
「あんたにはいわれたくないね」
 確かにどちらも違うベクトルで本当にそのままでいいのか? 普通の世界に戻れるぞ。そう言いたくなる気もする。
 会話を聞いていた鹿島は、
「あの二人、大丈夫なのか?」
 カーミンに聞いた。
「わ、私に聞かれてもなあ……。多分、問題ないと思う」
 今後とも色々大変な感じのする二人の未来を想い、頷きあう二人だった。
 一方、蚊帳の外に置かれた少年は呆然としつつも、彼を任されたまま一緒にいるアリアに聞いた。
「あの、えーと」
「アリアだよ! よろしくね」
「アリアさん。みなさん何をしてるですか?」
「歓迎パーティー! じゃないかな」
「そ、そうなんですか!」
 明らかに違う気もするが、そこは突っ込むところではない。突っ込むべきところは、
 アリアが猫耳カチューシャを少年にかぶせたことだ。
「もふもふするけど暖かいよー」
 暖かいけど、すごく恥ずかしいな、少年はそう思った。
 この展開、ここでなぜか一同の視線がカーミンに集まる。
 そうオヤクソク大好きっ子カーミンにぜひやってもらおう。
「なんで私が! ぜったい、やらないんだからね」
 だめです。バニーじゃないのが心残りだが、とりあえず許す。
「オヤクソクだー!」
 アリア。
「お約束だな」
 鹿島。
「お約束よね」
 レオナルド。
「にゃん、にゃん。にゃにゃーん」
 カミにゃん完成。ポーズはOK。
 こうして一つのオウドウが完成……した。かは謎として
「いつまでもじゃれてないでちゃっちゃと準備しろー。どうせ、すぐまた来るって」
 練が分かっているかのように言うと、窓の外に影が集まり始めた。

●戦2

 ぬかるみを歩く、今の体力では走ることもできない。
 背負った重さが身にしみた。
「置いていってください」
 曇った眼鏡の向こう側、カティスの瞳がみつめている。
「いやです」
 背負った少女は首を横に振った。
「頑固なんですね。くわしい理由は分かりません。でも喧嘩はやっぱり、だめですよ」
「……はい」
  二人の会話が止まった。追跡者の匂いが色濃くなる。

「!?」
 雨に濡れた二人、刹那とユスティティアの前に彼女たちが現れたのは、その少し後のことだ。
 迷いを振り切るよう刹那は大きく息を吸うと、自らを鼓舞するように声を張った。
「花厳刹那、参ります」
 鞘走り、間合いをつめる。対象は一体、汚れた顔がこちらを向いた。
 刹那の瞳の色を変わる。呼吸を整え静、息を止め動と吐いた瞬間、一文字に横斬る。
 奔る感触、身に何が起きたか理解する前にゴブリンの半身は崩れ落ちた。
 敵はまだ残っている。刹那の視線の先、ユスティティアの駆ける姿が見えた。
 己に宿った力を解放せよ。
 水滴の波、無限に連なり輝く瞳は紅、頬に刻まれた印は心の形を写す。
 吼えよ。
 限界まで収縮し律動する両足、力強く大地を蹴って飛びかかれ。
 空、天より振り上げられた刃が下ろされた時、引き裂かれた物体が地に転がった。
「終わり、だね」
 呟いて握る白刃、貫くべきは自らの――。

 戦いは終わったあと、刹那は震えている。
 目の前に現れたティアは、何も言わずぎゅっと抱きしめ
「刹那いこう、待ってるよ」
 そして微笑んだ。
 しばらく温もりを感じていた刹那だったが。
 本当は自分からしたかったのにな……そう思った。

 突如、来た衝撃に身を翻し、反撃する。
 踊る刃が相手の喉を切り裂くが、自らもまた粗野な剣を受ける。
「アリアさん!」
 うずくまるアリアが目の前にいる。アリアは今、自分を庇って傷ついた。
 痛みに耐えながら
「大丈夫だよ」
 アリア言った。
 無関係である誰か、自分のために戦って、どうなるというのだろう。
 戦うこと、戦わないこと、逃げること、逃げないこと。
 どっちでもいい、どっちでもいい、自分はどうしたいのだろう? なぜここに来たのだろう。少年は立った。
 だが歩まない、歩めない。
 それでも僕はまだ……どうしていいのか分からない。

  ――。

 戦いの趨勢は決まった。
 怪しい蒲団の両目から放たれた閃光が場を支配する。
 もはや群れのていを成していないゴブリンにその攻撃は決定だった。
「Optic Blast! 全滅だ」
 練は満足げに仕事を遂行したことを誇った。

●その後

 三人は無事合流した。
 カーミンは自分の作戦が全て実行できず、ちょっといじけた。
 アリアとカティスは怪我を治している。

 鹿島は思うところあって少年を呼び出した。
「取れよ。私が稽古をつけてやる」
 鹿島は棒きれは少年に渡した。
「本気でやらねーと、怪我するぞ」
 構える少年、鹿島の殺気が襲う。
 殺される。そう感じたとき、思わず少年は踏み込んで、棒を振った。
「甘いな、だが」
 軽くいなし、足をかけると少年は転んだ。
「お前さ、本当は力があるのに使わないだけだろ。戦う勇気はより良く使え。蛮勇にはするな。誰かを守るために使え。そうすりゃもっとイイ男になるさ」
 肩を叩き、鹿島は去った。

 事後。
 練が土を掘ってゴブリンの装備と死体を処分している。
 自分も埋葬しようとやってきたレオナルドは先客に聞いた。
「何やってるの?」
「細工だよ、細工。続きも最優先権で参加したいんなら、こいつら行方不明にしとけば、対応が遅れて一ヶ月開くかもしんねーだろ?」
「練君、最後まで意味不明ね」
 確かに、続きを出さない時はどうするつもりなのだろうか。
 練は帰り。
 残ったレオナルドはゴブリンの埋葬を愛おしそうに始めた。
 そこには彼なりの美学と意思があるが、理解されることはないだろう。

●オウドウはいまだ

 ティアの希望を聞いた青年は、彼女の頭を軽く撫でると答えた。
「二人だけのほうが上手くいくものですよ」
 ティアにはどうしてなのか分からなかった。だから刹那に後で聞こうと思った。
 刹那がその答えを知っているかは別として……。

 少年と少女。
 二人の間に生まれた距離は歩みよらないかぎり、そのまま変わることもないだろう。
 少年は、ほぼ面識のない少女に向かい、どうすればいいのかは分からない。
 自分が発した言葉で少女を傷つけたことは分かっている。
 だとしても――。
 少女はしばらく黙っていたが、
「ごめんなさい」
 なぜ謝るだろう、少年がその理由を聞く前に
「名前、まだ聞いてなかったね。私はトモ、春花 智」
 謝ろうと思った。でも何も言えなかった。
「僕はカケル。久遠寺 駆」
 ぎこちなく微笑み、少年はそう名乗った。

 了

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  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズka1559
  • ティーマイスター
    カティス・フィルムka2486

重体一覧

参加者一覧

  • Eの天秤
    ユスティティア・メイベリー(ka0511
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 愛おしき『母』
    アリア(ka2394
    人間(紅)|14才|女性|疾影士
  • ティーマイスター
    カティス・フィルム(ka2486
    人間(紅)|12才|女性|魔術師
  • 無類の猫好き
    鹿島 雲雀(ka3706
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人

  • 雪村 練(ka3808
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 狭間へ誘う灯火
    レオナルド・テイナー(ka4157
    人間(紅)|35才|男性|魔術師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/10 08:00:14
アイコン 王道とは
カーミン・S・フィールズ(ka1559
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/02/11 18:51:51