• 血断

【血断】グラウンド・ゼロ間引き作戦

マスター:きりん

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~15人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/06/20 07:30
完成日
2019/06/21 20:39

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●あれからの日々
 無事ハンターになった冴子と美紅を迎えたのは、動乱だった。
 平和で穏やかな日々は瞬く間に終わりを告げ、懐かしさすら感じる焦燥に満ちた日々が戻ってくる。
 邪神翼や黙示騎士との戦いには、二人は新米だという理由で参加しなかった。
 当然だ。
 参加したところで二人は新米もいいところだったから、犬死するのは目に見えていた。
 それからは依頼を受けては解決する日々で、二人は何とか新米というレベルから脱することができていた。
 これは、リアルブルーからの逃避行により心構えや最低限の戦闘経験が備わっていたからでもあるし、ハンターズソサエティに新米のハンターを育成支援する体制がしっかり整っていたからでもある。
 とはいえリアルブルーで出会い、一時期行動を共にしたハンターたちに比べればまだまだ弱いのは言うまでもない。
 ハンターズソサエティにやってきた二人は今日も依頼を見繕うつもりだった。
 扉を開いて中に入った冴子と美紅は、珍しい人物の珍しい姿を見つける。
 うさんくさい受付嬢ジェーン・ドゥ。
 クリムゾンウエスト人のはずなのだがリアルブルーにやたらと詳しい彼女は、リアルブルー人である冴子と美紅にただの受付嬢以上に世話を焼いた。
 受付嬢として依頼を斡旋したり、ハンターとして依頼に同行しその指導に当たったりとても世話になっている。
 しかし二人が少しずつ強くなるにつれて出会う機会も減ってきて、気が付けばすっかり見なくなっていた。
「ジェーンさん」
「……お久しぶりです」
 駆け寄って声をかける冴子に少し遅れ、美紅がやってきて頭を下げる。
「あら、あなたたちいいところに」
 振り返ったジェーンは、いつもの受付嬢姿ではなく、ハンターとしての装束を纏っていた。
「この依頼、一緒に受けてくれませんか? 人数が必要なんです」
「依頼……ですか?」
「これは……」
 差し出された依頼書には、リアルブルー人である二人にとってはまだ聞き慣れない単語が載っている。
『グラウンド・ゼロ間引き作戦』
「この前の投票の結果はもう聞きましたか?」
「はい。邪神を討伐するんですよね」
「スケールが大き過ぎて。私にはまだ実感が湧かないんですけど……」
 受け入れている様子の美紅と、戸惑っている冴子。
 二人の関係は、突き進む美紅とそれを追いかける冴子という、リアルブルーでの頃の関係を彷彿とさせた。
 あれから半年以上経っている。
 いや、半年以上過ぎてしまったのだ。
 美紅に残された時間は、あまりない。故に、彼女は走り続けている。
「手伝わせてください」
「危険よ!」
「分かってる。冴子は待ってていいよ」
 ジェーンが気遣わし気に美紅と冴子を見比べる。
「いいの?」
「構いません」
 答える美紅に迷いは見られない。
 再び、二人の道は分かたれたかのように見えた。

●守られるだけじゃない
 装備を整え、出立の準備を終えた冴子は、最後に自分たちが半年間暮らしていた部屋を振り返った。
 たった半年間だが、色々な事があった。
 クリスマス、正月、バレンタインデー、ホワイトデー、雛祭り、エトセトラ。
 リアルブルーでの思い出を、今も凍り付いた時の中にいるであろう家族との思い出をなぞるかのように、イベントを楽しんだ。
 でも楽しかった日々はもう終わり。
 死を隣人とする荒んだ日々が戻ってくる。
「……戦うと決めた。そのための力が、今はあるんだから」
 昔と違い、冴子の身体に震えはない。
 聖導師としての白いローブの裾を翻し、懐にしまった、思い出のオートマチックの感触を確かめ、冴子は歩き出した。
 階段を降り、扉を開いて外に出る。
「待ってても良かったのに。後悔しない?」
 共にリアルブルーに転移した強化人間兵たちが着ていたものと同じ装備に身を包んだ美紅が立っていた。
「ええ」
 もう冴子に迷いはない。
「一緒に歩きたいと望んだのは私。……私が、選んだのよ」
 冴子は美紅の隣に並ぶ。
 お互いの手を握り締め──二人は歩き出した。

リプレイ本文

●戦闘開始
「ジェーン様、危ないと思ったら、攻撃よりも移動を優先して下さいね」
「ええ、そうさせていただきます」
 フィロ(ka6966)の言葉に頷き、ジェーンは弓の弦の張りを確かめる。
 シェオル型歪虚も、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)にとっては強敵とはいえないようだ。
「新しい技を試す相手にちょうどいい」
 戦場を見渡したマリィア・バルデス(ka5848)とハンス・ラインフェルト(ka6750)の反応は対照的だった。
「全部アルコルの射程内よ。こういう戦場は猟撃士向きだもの。悪くないわね」
「掃討戦と聞いたので、この十倍は敵が居るかと思ったのですが……何と少ない」
 夢路 まよい(ka1328)と星野 ハナ(ka5852)は冴子と美紅、ジェーンの三人に話しかけた。
「結構ジェーンにお世話になってたんだね。大丈夫? おかしな依頼とか振られたりしてない?」
「ジェーンさんは放っておいても怪我するイメージが湧かないので良いですけどぉ、冴子ちゃんと美紅ちゃんはぁ、合流しやすいようこちらからスタートして貰った方が良いと思いますぅ」
「どういう意味ですか」
 うさんくさい笑顔のジェーンにそっと冴子と美紅は目を逸らした。
 ミリア・ラスティソード(ka1287)と南護 炎(ka6651)は共に行動する。
「行くぞミリア」
「隣は任せろ炎!」
 美紅と一緒に鳳凰院ひりょ(ka3744)は出撃した。
「支援狙撃します」
「ああ、宜しく頼む」
 立ちはだかるものを、イツキ・ウィオラス(ka6512)は悉く断ち斬る。
「歪虚を──悪夢を、討つ。なればこそ、歩き続けるのは、突き進むのは、必定」
 弓を手にしているジェーンを、サクラ・エルフリード(ka2598)はまじまじと見つめた。
「戦えたのですね……。何かこう……受付の人というイメージが完全についてました……」
「まあ、ハンターとして働いているよりも受付嬢として働いている時間の方が多いですからね。仕方ありません」
 ジェーンは苦笑している。
 新技をひっさげアーサー・ホーガン(ka0471)はやってきた。
「バーストエンド『ネフェルティ』の初御披露目だぜ! そして俺に秘策有りだ!」
 ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は冴子と美紅を見ながら思う。
(彼女達を少しでもより善く理解するためにも、覚悟を見極めるためにも今は戦いましょう)
「……負けたくない気持ちも、ありますから」
 不思議そうな表情で見つめる美紅にツィスカは微笑んだ。
「お互い頑張りましょうね」
 優雅に金鹿(ka5959)は戦闘準備をする。
「描いた未来を夢想に留めないため、今出来る最大限の努力をいたしましょう」
 霧島 百舌鳥(ka6287)は上機嫌に冴子へ話かけた。
「やぁ冴子君! 久しぶりだねぇ、会えて嬉しいよ! 元気にしていたかい?」
 驚いた表情を浮かべた冴子は、表情を綻ばせて駆け寄ってくる。
「百舌鳥さん!? どうしてここに?」
「もちろん、君達と共に戦いに来たのさ。ボクは君達の事が大好きだからねぇ!」
 戦いが始まった。

●序盤戦
 大量のマテリアルが練り上げられ、まよいの周囲を乱舞する。
 当然妨害しようとシェオル・ゾンビたちは攻めてくるが、そこへ矢が降り注ぎ歩みを止めた。
 ジェーンの援護射撃だ。
「時間稼ぎは任せてください」
「ありがとう! いくよっ!」
 いくつかの工程を簡略化させたまよいは、手元に溢れる魔力の奔流を空に向けて開放した。
 荒れ狂う魔力の嵐が一時的に暗雲を吹き飛ばし、はるか上空に七つの頂点を持つ巨大な星型魔法陣を展開した。
 静かに輝きを増す魔法陣の頂点に、小さな光が点る。
 小さいとはいっても、彼我の距離を考えれば、この時点で既にかなりの大きさだ。
 頂点に点った光はみるみるうちに大きくなり、巨大な火球となった。
「天空に輝ける星々よ、七つの罪を焼き尽くす業火となれ……ヘプタグラム!」
 落ちる。
 七つの火球が、まるで本物の隕石のように落ちてくる。
 スペースデブリが宇宙から成層圏を突破して赤熱し炎を纏うかのように、火球がグラウンド・ゼロに激突した。
 大地が捲り上がり、超高熱の溶岩と化した岩盤が、着弾地点を中心に周囲へ広がっていく。
 フィロが動き出し、イツキやサクラが続く。
「おらぁ、消し飛べ!」
 アーサーが魔法剣化させた星神器「アンティオキア」で刺突を繰り出す。
 オーラが美しい赤銅色の龍の姿を取った。
 咆哮が上がり、びりびりと空気と大地を震わせる。
 地上のハンターとシェオル・ゾンビたちを睥睨した竜が、一直線に駆け抜けいずこかへと飛び去っていく。
 その姿は、かつて三度の死闘の末に打倒された腐竜の在りし日の姿を思わせた。
「いきますよぉ~」
 符による陣を張ったハナが敵陣の真ん中にミリアと炎を送り込んだ。
 周囲のシェオル・ゾンビたちが襲い掛かってくる。
「それじゃあ少し頑張るかな」
「気合を入れるぞ!」
 ミリアが生体マテリアルで覆われ淡く光る大身槍「蜻蛉切」を薙ぎ払い攻撃を打ち払うと、炎が防御を捨て大上段に聖罰刃「ターミナー・レイ」を構え精神を研ぎ澄ました。
 素早く手元に引き戻してミリアが踏み込み刺突を繰り出せば、肉体を加速させ懐に飛び込んだ炎が大きく息を吸い込む。
 蜻蛉切がシェオルゾンビを貫き凄烈な光を放ち、注ぎ込まれた全霊のマテリアルが、神をも穿つ光の奔流を生み出した。
 同時にマテリアルを丹田から全身に巡らせた炎が、一刀にてすべてを斬り裂いていく。
「追撃いたします」
 予兆なくフィロの姿が掻き消える。
 フィロの掌打がシェオル・ゾンビに押し当てられた。
 火球の着弾地点の地面には何一つ傷がない。
 元のままの風景の中、蛇節槍「ネレイデス」を手にイツキが迫る。
「破っ!」
 先んじて鋭い呼気とともに大地を揺らさんばかりにフィロの踏み込みが行われ、星神器「角力」がその衝撃とマテリアルを余すところなく体内に浸透させて叩き込んだ。
「其の悪夢を、此処で断ち切ります」
 ネレイデスの射程を生かし、間合いを制して薙ぎ、払い、かち上げ、突きと次々繰り出したイツキは、連撃の最後に全身のマテリアルを練りネレイデスに乗せて一気に放出した。
「動きを止めている間に片方を集中して落としてください……」
 サクラが無数の闇の刃を作り、シェオル・ゾンビたちを串刺しにして空間に縫い付けた。

 注意深くシェオル・ゾンビたちを観察するツィスカは、美紅やひりょのフォローを兼ねつつ回転式魔導銃「ブレイドダンサー」の銃口を向けた。
 炎のようなオーラを纏い、アルトが姿を消す。
 元居た位置に残っていた残像が吹き飛び、走った軌跡にはマテリアルの残滓が炎の花びらのように舞い散っている。
 頭上に向けて新式魔導銃「応報せよアルコル」の引き金を引き、マリィアが連続で発砲する。
 同じようにスナイパーライフルで狙いを定め、美紅が銃撃する。
 その美紅にはいつでも守れるようひりょがついていた。
 守りを捨てたハンスが星神器「天叢雲」の鯉口を斬り、柄に手をかけた。
 放たれたマリィアの弾丸が暗雲立ち込める空を貫き、天へと抜けていく。
「斬ります」
 鞘走りがハンスの居合斬りを加速させ、空間を断つ斬撃へと昇華させた。
「……いきます」
 ツィスカのマテリアルによって構築された術式陣が前方に展開され、無数の氷柱を弾丸のように射出する。
 押し寄せてくるシェオル・ゾンビが風景ごとずれるような錯覚が起こり、氷柱が着弾しその身体を凍てつかせた。 
 アルトの炎の花びらが舞う。
 爆発的な加速をマテリアルに乗せた踏み込みが行われ、地面が陥没した。
「今だ!」
 飛び出したひりょが体内のマテリアルを燃やし、炎のようなオーラを纏ってシェオル・ゾンビたちの注目を引き付けた。
 金鹿の符があちこちにばらまかれた。
 一方空ではマリィアが放ったいくつもの弾丸が雲を突き破り、天空に到達して上空で孤を描き光の雨となる。
 それらは一時的に暗雲を吹き飛ばし、大空を光で満たした。
 眩い光で満ちた空が落ちるように、無数の光弾が地上を照らす。
 シェオル・ゾンビたちの間をすり抜ける間に幾条もの斬線が閃き、アルトがいつの間にかその背後に現れ試作法術刀「華焔」を振り切った状態で静止している。
 降り注ぐ光の雨がシェオル・ゾンビたちを打ち据える中で行われた乱舞はいかなる妙技か。
 さらに金鹿の符が稲妻と化し、四方八方から貫かんと迫る。
 アルトを追いかけるように、次なる斬閃の嵐が遅れてやってくる。
「まだ終わらん。これも持っていけ」
 帳尻を合わせるかのようにシェオルゾンビたちは身体中から激しく血を噴出させ稲妻を浴びた。
「景気よく行くよ」
 使用済みのマガジンを新しいマガジンに交換して再装填を行い、マリィアは再びアルコルの銃口を空に向ける。
 戦況を見つめながら、冴子はしきりに東の方を見ていた。
 ピンときた百舌鳥の表情に笑みが浮かぶ。
「んん、その顔は一刻も早く美紅君の所へ行きたいと書いているじゃないか。疾影士でもないのだから走って行くより早いだろう、是非乗りたまえよ!」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
 サイドカーに冴子が乗り込んだことを確認すると、百舌鳥は帝国軍用魔導トライクを発車させた。

●中盤戦
 マテリアルを体に巡らせて重力のくびきから逃れたアーサーがそろそろと岩を登っている。
 飛来する矢が次々シェオル・ゾンビに突き刺さった。
 視線を向けてジェーンの援護射撃を確認しつつ、フィルは攻撃を続ける。
 さらに十本の魔法の矢が降り注ぎ、二本ずつシェオル・ゾンビたちを射抜く。
 複数の魔法を同時詠唱したまよいの仕業だ。
 戦闘の途中、やおら一体のシェオル・ゾンビが急に機敏に走り出した。
「あっ、危ない!」
 まよいが視線を向ける先にはジェーンがいる。
「させません」
 だが急いで戻ったフィルが割り込んだ。
 その身体が黄金のオーラで包まれ、角力による無数の拳打を打ち込んだ。
「合わせますぅ~」
 ハナが複数の符をばらまき、結界を形成して光で焼いて追撃する。
 ミリアの神速の突きがガードごとシェオル・ゾンビを貫き、込めた根性を気合でぶっ飛ばせば、炎がターミナー・レイを全力で振り下ろし、唐竹割りにする。
 ほぼ真っ二つになりながらも、シェオル・ゾンビはまだ動いていた。
「げ。グロい」
「呆れた生命力だな……」
 放出されたイツキのマテリアルが岩にぶつかり弾けて消える。
「貫通とはいきませんか……」
 マテリアルを込めた拳で反撃を打ち抜き弾き返すと、続く攻撃で気功を蓄えた。
「皆さん、一度集まってください」
 サクラが精霊に祈りを捧げてマテリアルの力を引き出す。
 柔らかい癒しの光が空間に満ちた。
 シェオル・ゾンビの手が届かない高さにまで登ったアーサーは、蒼機槍「ダチュラ」に毒を付与して投擲する。
「ここからは、じっくり削ってやるぜ」
 突き刺さったダチュラを手元に手繰り寄せアーサーは自信あり気に笑った。

 群がって来ようとするシェオル・ゾンビたちは、ひりょに押し止められていた。
「そうはさせるか……!」
 守りに意識を集中させて構えを取り、噛み付こうとしてくるのを捌く。
「させない……!」
 美紅がシェオルゾンビたちの移動先に偏差射撃を行い、足止めしてひりょに群がる数を調整していた。
 さらに金鹿がマテリアル結晶を展開し、魔法の宝石を周囲で回転させて魔法陣として機能させ、魔法能力を強化した。
 ツィスカのブレイドダンサーの銃口にマテリアルの光が点る。
 マリィアのアルコルが轟音を上げて弾丸を撃ち出す。
 弾丸はマテリアルの光に包まれ、咆哮するかのような音を立てて飛ぶ。
 飛翔する弾丸の到達点ではアルトとハンスが戦っている。
 アルトの姿が消えるたび、炎の花びらが舞い踊り無数の斬撃が襲い掛かり疾走するハンスの居合抜きが縦横無尽に斬り裂いていく。
 弾丸がマテリアルで操作され、まるで獲物を狩ろうと駆け回る肉食獣のような複雑な軌道を描く。
 それはまるで突入タイミングを計っている獣そのもののような動きだった。
 シェオル・ゾンビたちはまだまだ倒れない。
「さすがのしぶとさといったところか。だが全力の私の動きをについてこれるか?」
 その言葉をアルトが発した瞬間、マリィアの弾丸が突入を始めた。
 飛来した弾丸がシェオル・ゾンビたちを貫いていく中、目を細めたアルトが宣告する。
「──本気を見せてやる」
 それは紛れもなく、シェオル・ゾンビたちにとっては存在の消滅の宣告に他ならない。
「本当にタフね。でも仕留めてやるわ」
 再びマリィアはスコープを覗き込んだ。
「嬉しいですね。もっと耐えて、私に斬られ続けてください」
 思っていたよりずっと強力な耐久性を見せるシェオル・ゾンビたちに、ハンスは闘志が湧き上がるのを感じた。
 ブレイドダンサーに籠められたエネルギーが、今や極光となって発射の時を待っていた。
「撃ちます!」
「お出でなさい」
 金鹿が人魚の精霊を顕現させる。
 人魚の精霊は螺旋状に高速回転する水流を生み出し、シェオル・ゾンビたち目掛けて撃ち出した。
 吐き出された光の波と押し寄せる水流が、壁のような圧力と勢いを伴い全てを押し流した。
 移動中も、冴子はサイドカーから身を乗り出し癒しの精霊術を行使して援護していた。
 特にシェオル・ゾンビの注意を引き付けているひりょを集中的に助けている。
「ひりょさん、危ない!」
 見覚えのあるオートマチックを抜き放った冴子が銃弾を連射する。
「おや、まだ銃を持っていてくれているのか! これは僥倖だ、贈ったかいがあったというものさ。これからも大切にしてやってくれるとボクはとても嬉しいよ!」
「当然です! 宝物ですから!」
 もう何度行ってきたのか、リロードの手つきに淀みはなかった。

●終盤戦
 生き残りをハンターたちは挟み撃ちする。
 シェオル・ゾンビが命ある者を呪う奇怪な叫び声を発した。
「効きません!」
 気迫で叫び返したフィルは不浄の力を弾き飛ばした。
「このー!」
「よくも……!」
「痛いですぅー」
 一時的に囚われてしまったまよいとイツキ、呪詛返しに失敗したハナは、すぐに地力で影響を跳ね除けた。
 ハナは肉体の復元を行う。
 炎は耐えたが、ミリアとサクラ、アーサーが囚われる。
 影響から抜け出すには少し時間が掛かりそうだ。
「くそっ……」
「絶対に負けるわけにはいかない!」
 奮起する炎がミリアを庇いながら戦う。
 星神器「レガリア」を手に、イツキがその力を開放させる。
「未熟な私に、力を貸して下さい」
 レガリアが震え、光り輝く。
「悪夢を断ち切る、必滅の光を此処に──ッ!」
 光を纏った一刺が空間を圧縮し、全てを貫通して轟音とともに背後に抜けた。
 力を吸収したレガリアが一層力強く輝き、イツキの傷を癒した。
「これで……!」
 何とか影響を振り払ったサクラが、大いなる祝福でミリアとアーサーを覆い、不浄を払った。
 ルーンソード「アクシア」を掲げ、マテリアルの光を発して鼓舞する。
「一気に終わらせましょう……。正義の光の下に悪を滅ぼすのです……コールジャスティス……!」
 正義の光を束ね勇敢さを引き出し、その概念を強化させた。
「俺を見ろ!」
 アーサーがアンティオキアを構え、マテリアルを放出し注意を引き付ける。
 シェオル・ゾンビたちはアーサーがへばりついている岩に群がり始める。
 そして、毒を付与されていたシェオル・ゾンビが次々に倒れ始めた。
 毒のダメージで力尽きたのだ。
 だが知らぬのばかりに残りの個体はアーサーを狙っている。
 どう考えてもシェオル・ゾンビたちは隙だらけだった。
 そしてそんな状態が見逃されるはずもなく。

 色が褪せる。
 音が消える。
 アルトが全身の反応速度を超加速させた。
 残像に残像が、炎の花びらの軌跡に更なる炎の花びらの軌跡が重なっていき、そのたびに無数の銀光が走る。
 生命を呪うシェオル・ゾンビの雄叫びも、強大な力を開放したアルトには効かなかった。
 華焔を振るう姿を捉えられない。
 斬撃を放ったことを示す銀光すら、次第にアルトの動きよりも遅れ始める。
「終わりだ」
 全ての事象を置き去りにして、アルトの感覚は時の彼方に到達した。
 呪いの叫びは合唱され、アルトやマリィアがいる場所にまで影響が及んだ。
「甘いのよ!」
 一喝したマリィアが影響を跳ね除ける。
 しかし冴子や美紅、ハンス、ひりょ、ツィスカ、金鹿が影響を受けてしまった。
 ハンスは居合斬りで雄叫びを斬り捨てようとしたのだが、攻撃ではなかったので仕損じた。
 金鹿は呪詛返しが失敗した形だ。
 すかさずマリィアが四大精霊プラトニスの加護を施すことで解除する。
「読み違えましたか……」
 動けるようになったハンスの手元がぶれ、涼やかな納刀音が響く。
 シェオル・ゾンビに無数の斬線が走った。
「もう少しです……!」
 ブレイドダンサーの引き金を引き続けるツィスカは、最後まで銃撃を続けた。
「止めですわ……!」
 金鹿が符をばらまき、再び人魚の精霊を呼び出す。
 水流がシェオル・ゾンビに直撃し、稲妻が降り注いだ。
 隙間を縫う美紅の狙撃が撃ち抜く。
 トライクが到着した。
「回復します!」
 サイドカーから飛び降りた冴子が精霊術を行使し広範囲に癒しの空間を作り出す。
「やぁ、美紅君にひりょ君! さて、これで前衛が二人に後衛が二人、非常にバランスが良いじゃあないか!」
 精霊に祈りを捧げて障壁を展開しつつ傷を癒したひりょが、百舌鳥と冴子がやってくるのを見て打って出た。
「美紅、冴子。背中は任せる。その代わりお前達に敵は近づけさせないからな」
 とにかく守りに重きを置いてしぶとく攻撃を受け、注意を引き続けるひりょの横に百舌鳥が並ぶ。
「勿論相変わらず荒事は専門外さ! だから、二人とも。しっかりサポートをお願いするよ!」
 普段通りケラケラ笑う百舌鳥は、ツインドリルランス「コスモ」のドリルを回転させた。
「見たまえ! ボクの新たな武装さ。中々に面白い武器だろう!」
 コスモを叩きつけて弾き飛ばしつつ、柄の部分で薙ぎ払う。
 くるりと翻った石突きが一回転する。
「んん、これはいけないねぇ。ボクの事も見ておくれよ!」
 渾身の一撃が叩き込まれた。

●戦闘終了
「さあ、他のエリアの掃討に参りましょう」
「ええそうしましょう」
 ハンスがフィロの提案に飛びついた。
「終わったら打ち上げしましょうよ」
 救援に向かう途中、マリィアがジェーンに持ちかける。
「せっかく掃討も済んだし、良さそうなお店の一つや二つ知っているでしょう?」
「では、私の取って置きのお店を紹介しますよ」
 ジェーンはうさんくさい微笑みを浮かべて答えた後で、ハンスを見る。
「嬉しそうですね?」
「斬らねば剣の道は極められない。長く多く斬ることができる戦場を望むのは、当然のことです」
「なるほど」
 物騒なハンスの言葉に、ジェーンの微笑みが深くなった。
 蒼褪めている冴子と美紅にハナが近付き頭を撫でる。
「お疲れ様ですぅ。大丈夫ですよぉ。ちゃんとこれも人助けになってますからぁ」
「が、頑張りました」
「良かったです」
 肩を貸し合い、ミリアと炎は戻ってきた。
「戦いなんざない方が良いに決まってる、だけどな今は少しだけ必要な時だ」
「『これから』を歩んでもらうためにも、俺たち先輩ハンターがしっかりしなければいけないな」
 美紅と冴子の無事をひりょは喜ぶ。
「色んな事があったが二人に出会えて良かったよ」
「私もです。ひりょさん出会っていなかったら、私たち、今頃……」
「絶対に忘れません。例えこの先私が死んだとしても……」
 こうして、今回の依頼は完了した。

依頼結果

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MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフka3744
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥ka6287

重体一覧

参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • アウレールの太陽
    ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥(ka6287
    鬼|23才|男性|霊闘士
  • 闇を貫く
    イツキ・ウィオラス(ka6512
    エルフ|16才|女性|格闘士
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ミリア・ラスティソード(ka1287
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/06/19 07:02:32
アイコン 質問卓
夢路 まよい(ka1328
人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/06/15 09:36:50
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/06/17 19:02:22