• 血断

【血断】帝国北方の地にて―再会―

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/07/14 15:00
完成日
2019/07/23 10:02

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●宙が避ける

 大半のハンターが「邪神ファナティックブラッド」との最終決戦に向かうさなか、
 帝国軍第二師団は祖国防衛のために戦を続けていた。
「シュターク隊は左右に展開! 右翼は俺に続いて左に旋回する。
 歪虚を左翼と挟み撃ちにしてぶっ潰すぜぇ!」
「「了解!!」」
「連中を殲滅したら北へ吶喊!
 先攻中のヴァルター隊と合流し、残りの歪虚を殲滅すりゃあ区切りがつく。それまで踏ん張れ!!」
「「アイアイマム!!」」
 帝国軍第二師団長シュターク・シュタークスン(kz0079)が
 陣頭指揮を執りながら次々と現れる歪虚を大剣で圧し潰す。
 団員も気合十分だ。持てる力を尽くして雑魔や歪虚を討伐していく。
 斬り込みを主とする剣や槍の名手を集めたヴァルター隊、
 そして術士や猟撃士を集めたゲリラ戦を得意とするスザナ隊。
 彼らの活躍もあり時折現れる手ごわい歪虚に手間取ることはあろうとも
 現状は8割方第二師団が優勢と言える状況だった。
 今もシュターク隊に挟み込まれた歪虚達が圧倒的な攻撃にぐしゃりと潰され、
 物言わぬ灰燼として消えていく。
 だがその瞬間、軍用トランシーバーからヴァルターの叫びが響いた。
『師団長、副師団長! 応答願います!!』
「どうした、ヴァルター!」
『我々は北6、東7のポイントで交戦中。そこで宙が突如避け、奇妙な女が落下。
 強烈な負のマテリアルを帯びている点からシェオル型と判断。至急応援を願います!』
 ヴァルター隊は精鋭揃いだがあくまでも斬り込みに特化した部隊だ。
 スザナ隊の支援やシュターク隊の協力がなければ、
 未知の能力を秘めるシェオル型歪虚との戦いでは圧倒的に不利となる。
「わかった。こっちはたった今歪虚群を殺ったところだ。今すぐ突入する。
 それまでどんな形でもいい、とにかく奴から目を離さず逐一連絡するように!」
『了解しました、それではこちらはできるかぎり奴を足止めします。
 トランシーバーは常に繋いでおきますので!』
 続いて聞こえるのは無数の剣戟の響き。ヴァルター達はシェオル型と交戦を始めたのか?
 それともまだ多くの歪虚と戦闘を繰り広げているのか?
 どちらかは判断がつかないが――。
 シュタークは地を強く蹴りながら叫んだ。
「ヴァルター隊が危険だ、合流を急ぐぞ! 足を止めずに進め!!」


●麗しき天女は闇の子を宿す

 シュターク隊が目標ポイントに向けて駆けだしてから間もない時のこと。
 ヴァルターは無数に這い寄る奇妙な黒い歪虚を
 二刀流で斬り裂きアスラトゥーリでその群体を掻き消した。
 しかし目の前に浮かぶ純白の羽衣を纏った女は慈愛に満ちた表情で微笑み、
 自らの影から黒い歪虚を次々と生み落とす。
(くっ、こいつらがいるせいで斬り込むこともままならないか……。
 美女は好きだが歪虚となりゃあ話は違うぜ!)
 ヴァルター隊は既に疲労困憊だ。
 一瞬手を止めただけで黒の歪虚が次々と増殖し彼らを囲んでいく。
 一方、女は傍仕えのように佇む歪虚の頬を両手で包み込むと優しくキスをした。
 するとたちまち歪虚の肉体が爆発的に膨張して逞しい四肢が生えた。
 マテリアルも以前と比べ物にならないほど強くなり、最早力だけならシェオル型と遜色がない。
「おいおい、冗談だろ……シェオル級のパワーの歪虚が増えるとか……!」
 強化された歪虚の力を肌で感じ取った団員が汗を滲ませ、一歩後退する。
 あの黒の歪虚のみであればまだしばらくは粘れたはずだ。しかし。
 もしこの強化が続くとするなら
 シュターク隊の到着前にどれほどの団員が犠牲になるだろう。
 ヴァルターは苦悩の末決断した。
「俺が殿を務める。皆、一旦撤退するぞ!
 師団長、副団長、ヴァルター隊は遺憾ながら後退します! 合流ポイントは……」
 通信を受けたシュタークは歯噛みした。
 また敵はシェオル型、しかも時間をかけるほど不利になる要素を含んでいるときた。
「……ハンターがどれほどこの世界に残ってるかはわかんねーが、力を借りるしかねえな。
 大至急ハンターの応援要請を頼む! 俺達はこのままヴァルター隊の救援に行く!!」
「はっ!」
 シュターク隊の中で最も俊足の青年に合流先を示した地図を渡し、彼女は再び走り出した。
 もう一刻の猶予もない。
 スザナ隊もヴァルター隊の支援に全速力で向かっているというが……それでも間に合うか否か。
 シュタークは心の中で叫んだ。
(ヴァルター、お前はまだオウレルに会ってねえんだ。
 お前があいつの信頼に応える前に死なせるわけにはいかねーんだよ!)


●光と影

「くっ……このっ!!」
 ヴァルターは膨張した黒の歪虚と交戦し部下達を逃がすさなか、
 幾度も巨大な拳で殴打され酷い傷を負っていた。
 それでも彼は諦めない。
 第二師団の部隊長を拝命した時から、オウレルの帰る場所を守るのは自分だと決めていたからだ。
「絶対に誰も死なせねえ。
 戻ってきた時に誰かがいなくなっていたら、あいつは必ず悲しむ。それだけは許せねえんだッ!!」
 二本の剣で拳をいなし、返す刃で黒い肌を削ぎ落す。
 だが奴には痛覚というものがないのだろうか。そのまま拳を振り上げた。
「……っ!」
 声が出ない。既に兜も鎧は潰れた玩具のように歪み、剣も刃先が折れ役に立ちそうにない。
 ああ、ここまでかと思った瞬間――。
 ――どんっ!
 一体のスケルトンがヴァルターを突き飛ばし、彼の身代わりに粉砕された。
「な……スケルトンが俺を……?」
 信じられないと身を起こすヴァルター。
 その視線の先にはぼろぼろになった第二師団の制服を纏った剣士オウレルが立っていた。
「ヴァルター……間に合ってよかった」
 彼の口から覗くものは吸血鬼独特の鋭い牙、そして高位歪虚クラスの負のマテリアル。
 だがはにかんだ少年らしい笑顔はそのままで……ヴァルターの目から涙が零れた。
「オウレル! お前っ、戻ってきてくれたんだな!」
「ああ。歪虚に身を堕とそうとも……大切なものを守るために!!」
 オウレルが腰に挿した二本の長剣を引き抜く。
 彼の瞳にはもう悲しみも迷いもなく、そこには静かな闘志だけが揺らめいていた。

リプレイ本文

●歪虚と吸血鬼

 ハンター達が目標ポイントに到着した瞬間――幾人かが息を呑んだ。
 目の前で、かつてエリザベートとの戦の後に姿を消したオウレルが無数の歪虚と交戦している。
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は
 試作法術刀「華焔」で巨大な歪虚を斬り裂くや、振り返りざま眉を顰めた。
「イケメン君、久しぶりだな。この状況は?」
「シェオル型の出現を感じ急行したところ、ヴァルターが……あいつを死なせるわけにはいかなくて!」
 彼の放った衝撃波が小型の歪虚達を消滅させていく。
 その様を見たアルマ・A・エインズワース(ka4901)が朗らかな笑みを浮かべた。
「わぅっ、オウレルさんお久しぶりです! お変わりなくて何よりです~。ところでお友達は?」
「ヴァルターは危険な状態でしたので後退させました。
 彼曰く、この先にいるシェオル型は黒い歪虚を大量に生み出すと同時に強化する力も持つようです」
「それでは時間はかけていられませんね。道を切り開くのは僕にお任せです!」
 水のマテリアルがアルマの腕に集中し、歪虚達を氷柱で斬り裂いていく。
 歪虚達は呆気なく砕けるも、大型の歪虚は胸部を守るよう腕を組み地に足を踏みしめた。傷は、浅い。
 しかし四肢が後天的に造られたものなら核が頭か胴にあると彼は考え、庇った位置から確信を得た。
「皆さん、歪虚の核は胸にあるようです!」
 そこで早速ボルディア・コンフラムス(ka0796)が守護者としての力を解放する。
「事情はよく分からねぇが、積もる話もこんな奴等がいたらできねぇだろ。
 無粋な奴にゃ退場してもらわねぇとなあ!」
 全身に漲る力を脚に集め、銀嶺のペダルを強く踏み込む。
 そして丘陵地中部の大型歪虚達を視界に収めた彼女は魔斧「モレク」を手に、不敵に笑った。
「ほら、かかってこいよゴキブリ野郎! 炎獣の牙で砕いてやる!!」
 その後方でリリア・ノヴィドール(ka3056)は歪虚の群れを斬り裂き吶喊していた。
 しかし心の奥が密かに揺れる。
(オウレルさんを味方と認識しないと歪虚同士の仲間割れに見えるのよ。
 第二師団の皆が解ってくれるといいのだけれど……)
 ――思考を傾けたその時、先ほどまで凍結に苦しんでいたはずの大型歪虚が迫ってきた。
 足を止めるわけにはいかないのに!
 にじり寄る敵に応戦もやむなしとダガーを構えるリリア。そこに眩い光が放たれた。
「さて、今日も歪虚全ブッコロのお時間ですぅ!
 あ、もちろんオウレルさん達には手をあげませんのでご安心くださいねぇ!」
 星野 ハナ(ka5852)が五色光符陣を放ち、リリアの周囲にいる歪虚達を焼き尽くしたのだ。
 彼らはシェオル型歪虚の影から生まれた闇。それゆえに光の力に耐性がない。
 小型の歪虚は霞のように消え去り、
 大型歪虚は皮膚の表面を引き剥がされ獣のような悲鳴を上げて転がった。
「こっちの歪虚達は私に任せてくださいぃ。今必要なのはシェオル型に時間を与えないことですぅ!」
「わかったの、お願い!」
 その傍らでディーナ・フェルミ(ka5843)は銀嶺の懸命に走らせた。
(最前線には既に大型歪虚が2体もいる。少し無理してでも支援に行かないと!)
 できるだけ交戦しないよう、時折迂回しながら敵陣をすり抜けていく。
 彼女の瞳は守り手としての強い決意を湛えていた。
 その頃、時音 ざくろ(ka1250)はリリアを追いつつ周囲に群がる歪虚たちを大きく薙ぎ払った。
「必殺、横一文字斬り!
 このシェオル型が人里に向かったら絶対ひどいことになる。それだけはざくろは許せない!」
「……うん。……それに、やっとここまできた……。お兄さんと皆が……少しでも近づけるように」
 ざくろの後方からシェリル・マイヤーズ(ka0509)がランアウトを付与した脚で疾風の如く駆ける。
 今回の戦いの結果がオウレルの未来を決定づけるかもしれないのだ。
 ざくろは彼女とともに走りながら誓った。「皆で必ずこの冒険を救いの物語にするんだ!!」と。


●天女への道程

(物量作戦とは鬱陶しいな。ある意味邪神という膨大な勢力との戦の縮図か。
 確かに終わりのなさに心が折れるかもしれないな)
 焔舞と踏鳴を重ね、人間の脚力の限界を突破したアルトが刃を振るう。
 アルトの業のひとつ、散華はすれ違った敵全てを斬る神速の剣。
 それは仲間達の進軍を支える道を容易に造り出す。
 そしてボルディアと対峙する大型歪虚までも斬りつけると、彼女は静かに口角を上げた。
「どうしたよ、アルト」
「ああ、今になって思ったのだ。この場にいる者たちは諦めという行為に縁がないとな」
「そりゃ、違いねぇ」
 にやりと笑うボルディア。
 彼女は「心技体、鋼の如し」を発動し、大型歪虚3体に囲まれながらも互角の戦を展開している。
「こんな攻撃、百年かけても俺は倒せやしねえぜ!?」
 斧で敵の拳を押し返し、跳び蹴りは極限まで引き上げた身体能力で対応。
 すかさず地面を転がり足元をすり抜ける。
 そして彼らの足を狩るべく放った「烽火連天」。
 二連の大焔の幻影が低空を滑空するように薙ぎ、硬質な物がぶちりと千切れた。
『グオオォオオッ!!?』
 突然体がぐらつき、膝をつく歪虚たち。そこに銀の輝きがマテリアルの導きで敵の身を抉った。
 リリアが強化術式・紫電で自己を強化。
 そして歪虚にチェイシングスローを絡めて一気に距離を縮め、投具を広角投射で放ったのだ。
「足りない部分は策で補うのよ!」
 リリアは一線級のハンターと同等の胆力と戦略を持つ。
 そしてボルディアとリリアの連携で敵が怯んだ瞬間。
 帝国軍第二師団師団長のシュタークが空間から出現した。
 彼女は戸惑いを見せるもすぐに順応し
「手前がシェオルの手下か!」と大型歪虚を袈裟懸けに斬り裂く。
 これはハナがシュターク隊の到着とほぼ同時に
「シュタークさんはとっとと前をお願いしますぅ! 大型歪虚とかシェオル型狙って下さいぃ!」と
 八卦灯篭流しでシュタークのみを前衛に跳躍させた結果だ。
「シュターク隊の皆さんは隊伍を組み大型でない黒歪虚に対応して下さいぃ!
 絶対に無理しちゃ駄目ですよぅ!」
 符を持ち替え、歪虚を殲滅するべく前進を始めるハナ。
 隊員はすぐに彼女の意図を読み武器を構えた。
 アルマは徐々に歩みを進めながら魔導拳銃「ヘキサグラム」を構えるや、
 ダブルキャストでデルタレイの術式を二篇一気に謳う。
 彼の銃から12の光条が放たれ、
 そのうちの2条が深い傷を負った大型歪虚の胸を二重に撃ち抜き消滅に至らしめた。
(丘の中心部まで進めば全域が僕のコフィンの射程内。それまでは皆さんを守らないと!)
 その頃ざくろはボルディアを囲む大型歪虚の前に割り込み、
 わざと拳を盾で受けると攻性防壁を発動させた。
「超機導パワーオン、弾け跳べっ!」
 激しい雷撃と同時に歪虚が大きく吹き飛ぶ。
「時間をかけるほど歪虚も大型歪虚も増えるんだよね。
 この状況を見るに、シェオル型もこちらの突破力に気づいたはず。急がないと!」
 ディーナもセイクリッドフラッシュで周囲の歪虚達を消滅させると再び銀嶺を走らせる。
「私も全力でお手伝いするの!
 このまま一気に押し切っていこう、誰かが犠牲になるなんて赦さないんだから!」
「誰も死なせない。お兄さんも第二師団の皆も守るから……!」
 シェリルが絶火刀「シャイターン」を構え、
 アサルトディスタンスで歪虚と大型歪虚を巻き込みながら斬り裂いていく。
 その視線の先には空中で歪虚にキスを交わすシェオル型歪虚がいた。
「ここのデカブツは俺とハナ達に任せろ。弱ってるから俺達だけでやれるはずだ。
 終わったら応援に向かう。皆はまず奴をブッ叩け!」
 ボルディアの叫びにアルトとオウレルが頷きあい、走り出す。
 堕落した天女を誅するために。


●麗しき狂気

 天女は己の周囲に歪虚達を張り巡らせると、ハンターのもとへふわりと飛んできた。
 彼女は華奢な身体を覆う羽衣で次々とハンター達を叩きつける。
 すると周囲に花粉に似た濃密な香りが漂い始めた。
(うっ……これは!?)
 先ほどナイトカーテンで姿を隠したばかりのシェリルは思考の錯乱に困惑した。
 誰が敵で誰が味方なのかわからない。声もひどく歪んで判別できない。
 シュタークもざくろも同じ状況にあるのか、虚ろな瞳で周囲を見回す。
 このままではアイシクルコフィンの援護を受けられないだけではなく――危険だ。
「皆、正気を取り戻して! ゴッドブレス!!」
 ディーナが複雑な術式を唱え、清らかな祈りの力を解放する。
 瞬時に彼らの瞳に光が戻り、ざくろが剣を構えると自らのマテリアルを高めた。
「よくも今まで好き勝手してくれたよね。
 もう君達に自由は与えない! 超機導結界発動……ここはもうざくろの領域だ!」
 敵の侵入、視線、射線を封ずる絶対の結界「ポゼッション」が空間を支配したのだ。
 彼の周囲に集まっていた歪虚全てが容赦なく弾き飛ばされ、陣形が大きく乱れる。
 そこで生まれた隙にアルマがアイシクルコフィンとデルタレイを
 ダブルキャストで詠唱しあらゆる歪虚を次々と破壊する。
 続いてシェリルがシェオル型の腕にチェイシングスローを放ち、
 空中に跳ね上がるとそのまま絶火刀でシェオル型の背を突いた。
(上からのダメージは想定外のはず!)
 姿を現したシェリルの刃はシェオル型の背を砕き、左の乳房を大きく斬り裂いた。
 ぐらりと堕ちる天女。
 そこに羽衣のレンジ外へ移動したリリアが強化術式・紫電で強化した体で広角投射を発動。
「こういう相手には堅実で猪口才に戦うのよ!」
 シェオル型のみならず、多くの歪虚に深い傷を負わせた。
 続いてオウレルが魔の力を宿した剣でバーストエンドを発動。
 シェオル型の顔を大きく抉る。
 ――そこに輝く石のようなものが見えた。
 命乞いするように空へ手を伸ばし、浮遊し始めるシェオル型。
 それに憐れむようなまなざしを向け、アルトが華焔を構えた。
「悪いな、救ってはやれない。
 私にできるのは、お前を滅ぼし、悪夢の繰り返しをここで終わりにしてやることだけだ」
 空渡の術で宙を跳び、相手が想定できない角度――後方に落下する最中で頭部に必殺の一撃を放つ。
(天誅殺……手応え、あり!)
 輝く石が砕けたシェオル型はほつれる糸のように宙に散り、後には何も残らなかった。


●誓いと願い

 シェオル型の消滅後、歪虚達は今までの力が消え失せ次々と討伐されていった。
 第二師団の負傷者はハナとボルディアの奮戦の甲斐もあり最小限に収まり、
 現在はディーナとハナの丁寧な治療を受けている。
 特に傷の深かったヴァルターはディーナの
 リザレクションとフルリカバリーでほぼ全快し、彼女に何度も礼を述べた。
 そんな中でボルディアがシュタークに軽く手をあげる。
「よう。確かクリピクロウズとやり合った時以来だから4年? 久しぶりだな」
「ああ、そんぐらいか。早いよなァ。でも皆、元気そうで何よりだ」
 だが朗らかな挨拶のうちにボルディアの視線が渋くなっていく。
「……ところでお前、その服なんだ? 『ロシュツキョー』とかいう奴じゃねえのか」
「これか? 職人に『丈夫で動きやすい鎧』を注文したんだよ。
 で、届いたのがこれだ。動きやすくて具合が良い」
「でも法的に見せちゃいけねぇ部分隠してるだけで、社会的に死亡済みだろ。
 ワケわかんねぇ……マジで何考えてンだ」
 全く、女子力がないにも程がある。ボルディアは頭を抱えつつ、負傷者の救助に向かう。
 その入れ替わりでハナがシュタークにヒーリングポーションを手渡した。
「……あのぉ、最前線の人数が多い方が良いと思ったんですぅ。ごめんなさいぃ」
「や、お前の判断は間違っちゃいねえ。
 奴を仕留めるには電撃戦しかなかった。あいつを守るためにも。感謝してる、ありがとな」
 シュタークは一瞬オウレルに視線を送り、ハナに笑みを向けた。
 そう、彼女とてオウレルを仲間と信じていたいのだ。
 だがその時、怒号が響き渡った。ある団員がオウレルの胸倉を掴み肩を揺らす。
「お前、どの面さげて戻ってきた? グンター、ジーク、ヨーゼフを殺りやがって!!」
「それは、悪かったと思っている……」
「だったら!」
 腰のサーベルに手を掛ける団員。そこにシェリルが両腕を広げ割り入った。
「お兄さんは味方……! 『オウレル』を知っているなら……分かるはず……!」
 そこにリリアが落ち着いた声を皆に聞こえるよう響かせた。
「害なす存在と仇なす存在は必ずしもイコールではない、なのよ。
 過去に過ちを犯したといえど彼は今、生き直そうとしてる。
 現にあたし達が到着するまでオウレルさんは単独で敵を足止めしていたのよ」
「……」
「そのことは認めてほしいの。今の彼の意志は本物だって。すぐに赦すのは難しくても、ね」
 リリアの説得に団員がバツが悪そうに頭を掻くと「好きにしろ」と背を向けた。
 シェリルが静かに言葉を紡ぐ。
「お兄さんは……これから沢山、活躍するの。そしたら何かが変わる……。
 今だって、変わった。未来は変化する。望みを掴んで……。
 お兄さんは英霊を目指したらいいと思う……たくさんの人を助けて」
 しかし現状では歪虚は死ねば全てが消滅する。
 そして英霊と死者の魂は全く別の存在だ。
 だがハンター達は未知の領域を目指している。
 その先に歪虚でも未来を切り拓ける世界があるかもしれない。
 シェリルはその可能性を信じる。
「明るい第二師団が、私は好き。
 ねえ……全部終わったら昔みたいにお芋の収穫祭しよ。皆で笑って……」
 その声にシュタークは頷くと、オウレルに一着の服を放り投げた。
「これは?」
「随分なボロを着てるからな。も少しまともな服を着ろ。
 あとお前はこれから今まで殺った分の倍の命を救え。こいつは師団長命令だ」
「……!」
 オウレルの腕の中にあるものは第二師団の真新しい制服だった。
 そこでアルマが微笑み、彼の腕をとる。
「オウレルさん、今も全部終わったら消えるつもりですか?
 もし願いが変わったら教えてくださいです。僕、味方ですので!」
「ありがとう、アルマさん。僕は……出来る限り沢山の人を救い、償います。でも限界がきたら……」
「わかりました。僕は天秤の守護者。願いを受けて、量って、叶える者です。
 それにオウレルさんのお身体は歪虚さんでも、心はヒト。僕、オウレルさん好きだから約束します!」
 続いてディーナも会話が一段落がついたのを確認するや、オウレルの背を軽く叩いた。
「今回はありがとうなの。
 歪虚の本能に負けたら倒しに行ってあげるから、それまで悔いなく生きればいいの」
 ディーナは生と死が常に隣り合わせにあるものと知っている。
 それゆえに、生あるうちは精一杯生き抜いてほしいと――紫の瞳は深い優しさに包まれていた。

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MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843

重体一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796

参加者一覧

  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドール(ka3056
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/13 07:10:26
アイコン 相談卓
シェリル・マイヤーズ(ka0509
人間(リアルブルー)|14才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2019/07/14 13:04:08