• 血断

【血断】を架けあがる階

マスター:石田まきば

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/07/30 19:00
完成日
2019/08/07 10:08

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●「「「戦えないけど、皆のお手伝いがしたい!」」」

 エルフハイムの巫女である少女達は、浄化を行っていればよかった。能力を高める修行をしていればよかった。
 けれど外の世界を知って、ハンター達を知って、彼等の想いを知って。
 戦いの厳しさを、世界の脆さを、世の中の厳しさを知った。
「出来ることはないのかな」
「浄化しか、祈るしかできないね」
「私達、戦えないよ?」
「汚染された場所に行くのだって大変だよね」
 各地で浄化作戦に赴く度、巫女達は自分達だけで事を成せないことを歯がゆく感じていた。
「戦い方、教わってないよ」
「修行とお勉強で、時間なくなっちゃうんだよね」
「試しに自主練? 素振り?」
「追加で戦闘訓練かあ」
「自分達で倒せれば便利だけど」
 提案はしても、実行までの話には至らない。
「森じゃ、雑魔くらいしか見なかったもんね」
「……最初、皆、どうだった?」
 一人の声が妙に響いて聞こえた。少女達は顔を見合わせて。
「「「怖かった」」」
 皆の声が揃う。マテリアルを扱うことに長けた身、修行仲間だからこその調和。
「私達には早いって、大人達はわかってる……のかも」
「ありがたいけど。きっとずっとは無理なんだろうな」
「私、怖いって気持ち、隠せるようにはなったよ」

「……でも、それにしたって……」
 デリアの小さな呟きが、隣の巫女に拾い上げられる。
「気になることあるの?」
「フュネ様、焦ってるのかも、って」
 導き手であり師匠である高位巫女達、その中でも一番の使い手だ。
「元からだけど、確かにちょっと厳しくなった?」
「最初から辛かったよっ!?」
「それは貴女だけでしょー」
「私達の様子を気にかける頻度が、高くなってるようなの」
 茶化し合いの中に再びデリアの声。
 実際、巫女達は本人達も自覚できるほどに技量を高めている。そろそろ成長を喜んでもいいのではないだろうか。
「勘違いじゃなければ……心配してる時の目なの。ちょっと転んだ時とかに見せてくれる時の顔って言うのかな」
 一番接する頻度が高いデリアがこうまで言うのだ。少女達も共に、首を傾げた。
「「「なんでだろう?」」」
 少なくとも警備隊が、近年では帝国兵が共に行動するのが浄化作戦の基本だ。役割分担だと言われればそれまでだけれど。
 護衛がいるから浄化に専念しろ。戦うよりも能力を鍛えろ。そう求められている状況は本当に正常だろうか。
 覚醒者じゃなくともハンターは居るというのに。
 けれど、少女達の誰もその答えを知らない。

●「試したいことがある」

「またシェオル型が来たわけでな、この通り忙しいのだが」
「無理に時間をとっていただきかたじけない」
「調整をテオに丸投げる理由が出来たので構わないがな」
 嫌味の応酬でも始まるのかと内心身構えたユレイテルだったが、カミラの砕けた様子に肩の緊張を解く。しかし要件は急ぎのために時間を無駄にはしていられなかった。
「その作戦に、我々も参加させてほしい」
「浄化術か? 敵はこれまでより強い、護衛を増やす予算は」
「それはこちらが補填する」
 被せてくるほどの勢いに、カミラが一瞬目を見開く。
「……ならいいが……態々来るのだから、それだけじゃないんだろう?」
「実用化段階には至っていない、浄化術の試験をさせてほしい」
「それは今本当に必要か、大長老殿」
「長期の案件だ」
「なら」
「だが命がかかっている」
「なっ! その説明は、きちんとして貰えるんだろうな?」
「……長くなるので、機会は改めなければならない。都合がついた時でも構わない。ただ」
 カミラの威圧の前にも臆することなく。ユレイテルは己の言葉を噛みしめるように続けた。
「少しでも早く、少しでも多く。私達は、可能性を積み重ねておかなければならない」

●長距離対応浄化術試験概要(著:新生浄化術研究チーム)

 この試験は、巫女達自身が現地を訪れずとも浄化の力を行使できるか、その是非を確認するための一歩である。
 新たに研究開発された「通信楔(仮命名)」は、浄化術を線上に展開することに特化している。
 現時点では「10km離れた地点で、巫女の祈りを受け取ることに成功」している。
 この楔を一時的な浄化術の受け皿とし、同時に別の楔へと浄化術を伸ばす要として使用する。
 経由する楔の数が増えても浄化術を発動させることができるのか?
 今回の目的はあくまでも「現段階での術の行使可能距離」を判断することである。

・必要
 浄化術を行う巫女 術規模に相当する人数
 通信楔 距離に応じた数
 楔の警護要員 通信用楔の欠損や移動を防止するために、配置環境に合わせて必要な人数
 巫女達の護衛 今回のみ。有効距離が算出され次第対応可能な安全地帯を利用する

・使用する浄化術
 巫女の祈り
 エルフハイムの持つ浄化術で始めに覚える術であり、基礎修練方法である
 浄化術の展開されている範囲は汚染されにくくなるが、戦闘面において特別な影響はもたらさない
 今回の試験では楔を中心に半径1m程(=1スクエア)の範囲で清浄なマテリアルを感じ取れる程度
 有効距離の判断が優先されるため、巫女達の最も扱いやすい術を起用している

・使用できる通信楔
 9本
 1本は戦闘区域に配置、後衛担当者の所持が望ましい
 残り8本を警護担当者に預け配置
 楔同士の感知を確実にするためおよそ8km間隔での配置とし、警護担当者は半径1km程度の移動は可能な状況とする

 作成時は10本だが、1本は「有効距離が10km」を確認するための試験にて使用、消費している

・参考資料
 結界林
 ヒト避けと推測される楔
 故研究者との会戦記録

・研究展望
 有効範囲の強化
 線上から多角、平面から立体への展開能力強化
 術への耐久性能強化

 現在の通信楔は発展途上の代物であり、目指す完成系は遠い
 資料は少なく、解析、調整、実践と繰り返しへの覚悟が必要

●「……願望のままでなく」

(どれほどの延命措置になるのか)
 思いつく限り、手を出せる範囲に。少しずつでもいいからと取り掛かってはいるのだ。
 保養施設は流石に後回しになっているけれど、用地の確保は終わっている。
 必要な資金は天井を知らず、けれど正当な手段で集めなければ意味がない。
 焦っても状況は変わらず、淡々とこなすことしか出来ない。
 慮っても状況は進まず、渋々と切り捨て続けるのは難しい。
(記録も力もないままでも、知らず過去に近づけたと信じるなら)
 しかし、知らないうちに実績が既にあったと聞いてしまったら。危ういものだと聞いてもいるが。
(より過去に、かつての形に近づいたなら、切欠に……記憶と力になる……等と、望みすぎだろうか?)
 立場上問答は難しく。この考えはまだ明確に外には出していない。
 ただ他の観点でも利があるから、そちらを表にしているだけだ。
(僅かだとしても、動かない道は選べない)
 提示用として部下に持たされた資料を片手に、男の思考はめぐっていく。

リプレイ本文

●作戦前

「各通信楔の有る所から、巫女さん達の所に映像って送れないのかな?」
 ふと思いついた、というように尋ねる時音 ざくろ(ka1250)に、長老が足をとめる。
「この間のビデオレターから思いついただけなんだけどね」
 その節は協力に感謝する。前置いて続くのは一部の事情を含めた返答。
「最終的に機能として追加できれば、という案に含まれているが、優先度は非常に低いと言わざるを得ない状況でな」
 世の中には伝話もあり、崑崙を経由した中継技術も存在している。楔で賄えれば便利だが、必ずしも楔である必要もないという。
「あとは……何より今この場に。機材も、時間もないわけだ」
 考えてくれたことには非常に感謝していると締めて見送る体勢となった長老に、ざくろもなるほどと頷いて。魔動冒険王『グランソード』へと乗り込んだ。

「1つ気になることがある」
 挨拶にそう続けたセシア・クローバー(ka7248)はあらかじめ用意していたメモに書きつけた疑問をユレイテルへと向ける。
『昨今の情勢は森の外の不浄を深刻化させているか』
 余白に返事が書けるよう、ペンも渡す。
『技量の差もあり比較は難しい。だが新技術の普及で深刻化はしていないと見ている』
 渡されたメモを押し返し、次の頁を示す。
『これは清浄な森の延命措置か、彼女達に種族の未来が懸かっているか』
 表情の変化を逃さぬよう視線をぶつけてくるセシアに長老の視線が僅かに重なる。頷いて見せれば、答えは短く。
「肯定する。まずは猶予から作ってみせる」
 文字に残すことも厭うた結果らしい。セシアは感謝を告げて配置へと向かう。
(巫女達の寿命を削っている。とみるべきか……)
 不確定で穏やかと呼べないからこそ、容易に巫女達に知られるわけにはいかなかった。公にするタイミングを依頼主が図っている以上、セシアにできるのはここまでだ。内容も、その答えも。勝手に広められないと改めて胸に刻む。

「終わりの物語のその先……彼の生きた証が残るのね……」
 資料の記述を思い返すエルティア・ホープナー(ka0727)の視線は楔、その運ばれて行った先にどうしても向かってしまう。
「何やら唐突な気もするが、何か考えもあるのだろう」
 近くで警戒を続けるシルヴェイラ(ka0726)の呟きに振り返る。
「善い形に出来ると判明するまで表に出せなかったのではないかしら」
「確かに、君が研究したいと言ったら、私は隠蔽に尽力するだろうね」
 互いに納得して頷きあう。

 B班の各員配置につき、A班が戦闘を開始する予定時刻までに余裕があった。まだ祈りの体勢に入っていない巫女達の緊張を解す目的もあって、エンバディ(ka7328)は朗らかに話しかけた。
「僕はリグ・サンガマのエンバディ……」
 暇つぶしも兼ねているわけで、其々の話はそう深く掘り下げない。エンバディの声は気安いものだ。
「そうだエルフハイムらしいものって何かな?」
 巫女達が浄化術の最たる代表だ、話している間はただの好奇心旺盛な少女達だけれど。術式を尋ねてみたが、巫女達はそんなものはないと言う。
「じゃあ運んで行った楔は?」
 もっとしっかり見ておけばよかったと少しの後悔。
「魔法を増幅させる道具に近いのかな?」
 指輪を見せて、巫女達の視線をまた集める。
「僕もさ、積極的に前に出てまでは戦えないよ」
 上手くは言えないけれど。
「特性って大事じゃないかな」

「1人1人できることなんて限られてる」
 巫女達の不安を言葉にさせる。彼女達の中で留めておくだけではいけないとセシアは思う。
「戦だってそうだ、剣を振るえる者、弓や盾、怪我を癒す者……ほら」
 私は浄化ができないから、それができる巫女達に託すのだと示して。
「だから、あなた達も私達に託してくれ」
 戦う力を振るう役割を。必ず守るという言葉と共に、補い合う、その在り方を教えた。


●C班「浄化キャンプ警備隊」

「巫女ちゃん達の壁になるんですよぉ」
 惑わすホーのことなのだが、選んだ言葉がこれである。指示を出した星野 ハナ(ka5852)の頭上でくるりと旋回したポロウは巫女達の方へと飛んで行った。
「早く見つけるにこしたことはないですよねぇ」
 ハナ自身も警戒を続ける。時折交代をしながらではあるが、自身の番ではなくても簡単に気を抜けるものではない。

「レイヴ、すぐ動けるように待機だ」
 戦いが終わってすぐにでも治療を施せるように声をかけて、セシアもノエルクロッシュを構える。開戦の合図の鐘が鳴る。

(集中が乱れないといいが)
 驚かさないように声音には注意して。シーラが巫女達へ声をかける。
「敵影確認、これから戦闘に入る」
 変わりたいと思うその想いを汲むとするなら、隠すのではなく状況を逐一伝え、その上で術を維持できるようになるべきだ。これまでの浄化作戦でどれほどの壁に守られていたのかはわからない、あえて戦いを見せるという姿勢も意味がある筈だ。
「安心していいわ。何があっても護るから……けれど、戦場の恐怖を忘れてはいけないわ」
 幼馴染の意を汲んだエアが添える。オゴダイの弦は既に張っている。
「私達は貴女達のおかげで未来の物語を紡ぐ事ができる……だから、貴女達が進みたいと言うなら、手を貸すわ」
 シーラの練り上げたマテリアルがエアの纏う文様の中に混じる。初撃となる一矢は弓持ちの小鬼、その胸元へと吸い込まれていった。

 敵影を見つけてすぐに近付いていくハナは、少しでも早く射程に捉えてしまいたいからだ。
 すぐに展開できるよう天光にしっかりと触れる。放たれる光がハナの髪を透かすように照らしている。

 ハナの背を見送るしかない、驚きの声。
「早いねっ!? それならこっちも切り替えるんだよっ♪」
 草薙剣とレーヴァテインの構えは解かずに、狐中・小鳥(ka5484)の足運びがより軽やかなものになっていく。重い得物二つだというのに、足音だけでなく身のこなしだってリズムを刻む一部になっていく。あくまでも舞いながら、小鬼達を威圧するためのマテリアルを練り上げて。
「ん、こういう戦場でもアイドルとして戦うことは出来るよね?」
 誰かの視線が来るのが当たり前のステージではないけれど。敵を翻弄することは、確かに精神を、心を揺さぶっていると言える筈。
 剣は踊りを大きくみせて。小柄な小鳥をより強く演出していく。草薙剣は濃く、朱く、血気高い色を示しレーヴァテインと共に周囲を照らす。
 静かな筈の蓮華が翻り、それだけ舞の激しさを、小鳥のマテリアルを濃く、勢いを増して威圧に繋がる。
「私の歌を聞けー、なんちゃって♪」
 冗談めいた笑顔にも、うっすらと凄みが足されていた。

 符が生み出す結界の中に真夏の太陽を思わせる光が満ちる。光の檻に捕らわれたかのように小鬼の身体がびくりと震え、その目が瞬間閉じられる。悲鳴というよりは驚いた時の声がけれど、次第に痛みが伴うらしき苦悶のそれにかわる。
「そのまま釘付けになってくれていいんですよぉ」
 続けられる限り、ハナの符が繰り出されていく。

「お客さんの注目を集めるのがアイドルの本懐なんだよ♪ 敵にも味方にも変わらぬ愛を……リメンバーラブだよっ♪」
 敵への魅了でつくりあげた隙は、同時に味方へのエールでもある。等しく愛を振りまいて、小鳥の舞はまだ終わらない。
 草薙剣の放つ光が点滅を繰り返す。
「見惚れてるお客さんのアンコールには、答えないとだねっ?」
 振り抜けば、朱い花の演出が増えた。

 冷気の嵐が小鬼達の後方を囲む。少しでも動きが遅くなれば巫女達への危険は減るはずだ。願えば成るわけではないと分かっていても、セシアの意思はマテリアルにそう籠めることを止めない。
 仲間達を巻き込まないために位置取りを気にしたが、最もハンター達に近い盾持ちの小鬼には避けられた。
「腕が鈍っているうちに、頼んだ!」
 弓持ち二体の動きが遅くなっていることに気付いて、狙いが上手く行ったことに安堵する。手は止めずに次のマテリアルを練りながら、声を挙げた。

 引き寄せられていく小鬼を撃ち抜くことほど簡単なことはない。接近されることも考慮に入れていた。実際に小鬼たちが巫女達の元に来ようとしていたのはその視線を追うだけで明白だった。しかし足早に前へ出たハナとそれを追う小鳥のおかげで、ここまであの六体の群が近づく可能性はほぼなくなったと言えるだろう。
「別の群が来ないか、気にしておけば問題なさそうだ」
 シーラの声に頷く。
「ええ。4人いるのだし」
 気にかける方角を手分けすれば大丈夫そうだ。思うままをエンバディとセシアにも伝えてからエアは再び矢を放つ。シーラの撃ちだす雷撃を纏った弾丸に沿わせるように、けれど露を掃うように。
 より確実に、より正確に。エアの見据える先の小鬼が霞となって消えるまで、あと少し。

 矢を遮ることができるだろう、遮蔽物となりえる岩などの位置は把握していた。エンバディは身を隠しながら敵との位置関係を有利にしていく。
 特に弓、不意討ちされやすいため警戒を怠ることはない。
(攻撃から気を逸らすなんてことも出来るんじゃない?)
 均等にとはいかないが、小鬼六体全てに光の矢を向ける。降り注ぐように飛ぶ十本は壮観でもある。
 回避しようと動くだけでも狙いはずらせるはずだ。小鬼の攻撃を遅らせるだけでも十分に意味はある。

 傷が多く見受けられる小鬼を選んで光を飛ばすセシア。特に多い盾持ち一体には確実なダメージを求めて三本、残り二本は弓持ちの片方に向ける。

 戦いが終わり、別班の者達が戻ってくる。
 撤収準備もそろそろ終わる頃合いで、ハナが巫女達へと声をかけ、マテリアルを練る。見せることが目的だ、片付けながらも配置した符が囲む範囲はそう大きくない。結界の中心から言葉を紡ぐ。
「まあ私も符術師ですからこういうことは出来ますけどぉ、範囲も狭いし各人の技量もばらばらなのでぇ、一斉に浄化作業に入るっていうのはハンターを集めてやるんじゃ難しいんですよぅ」
 形は違えど浄化術。興味深々な瞳が集う。
「その点貴女達は全員で均一に能力が使えますぅ。浄化術で歪虚が入って来られない結界を作るとかぁ、歪虚がその中で活動しにくくなる結界を作るとかはぁ、同じくらいの能力を持った人間を多数集めないとぉ、誰か1人に負担が集中し過ぎてそこから陣自体が崩壊したりしますねぇ」
 能力の精度が近い同志で組んでいるだけだよ、なんて声が聞こえるけれど。それを効率的に行うのは簡単な事ではないはずだ。
「邪神戦争のせいでどこからでもシェオル型は空間転移で現れますしぃ、お国を守る為とぉ、貴女達しかできない事をする貴女達自身を守るためにぃ、貴女達の先生は急いでるのかもしれませんねぇ」
 ちらりと視線を向ける先のフュネは、こちらに背を向けていた。

「……出来る事があるなら協力させて貰うわ」
 ユレイテルに声をかけるエアの目は、物語を追う時のそれに近い。
「彼の発明は使い方を替えれば、きっと皆を救えると思うから」
「その時は私も行くので、手間はかけさせないつもりだよ」
 続くシーラの声がいつも通りの二人を示していて、長老が薄く微笑む。信用を垣間見せる。
「ああ、頼めることがあればにはなるが」
 気にかけてもらえるのは、ありがたい。


●B班「遠隔浄化用通信楔の警備」1地点

「この期に及んで実験とは面白い。必要とは発明の母じゃな。よろしいお手伝いしよう」
 面通しも終わり楔を受け取ってから、ミグ・ロマイヤー(ka0665)の表情は少しばかり締まりが無かったりする。配置場所に向かう間、どれほどヤクト・バウ・PCが自動走行できればよかったのにと思ったことだろう。移動時間だって馬鹿にならない。観察見分は研究の第一歩。技術屋としては非常に勿体ない時間である。
 しかし仕事は仕事だ。己の中の誘惑を振り切って、しっかりと己の身体に括りつける時……文字通り離してなるものかと念入りにチェックを行ったことくらいは愛嬌として欲しいものである。
(しかしあの旧弊でがちがちなエルフハイムが新しい試みをするとはな)
 よきかなよきかな。一人頷いて笑みを浮かべていれば、同行の警備隊の視線がちくちく刺さったりもした。警戒ではなく疑問といった様子だったので、ミグはすっかりと無視しておいたけれど。
 何よりあの閉鎖万歳の森の技術に直接触れられるという機会なのだ、オフィスで見かけて飛びついたのだから些細なことはどうだっていい。仕事を全うすれば文句は言わせないのである。

 森の見通しが悪いのは当たり前で、全ての樹がミグの駆るヤクト・バウ・PCより高いわけではない。つまり目立つわけだ。
「他の地点も似たようなものであろうのぅ」
 周辺の偵察を頼んだ警備隊、その消えた方角を見ながら腕を組む。指定された範囲の中でも多少開けた場所を選んだが、それはあくまでも戦闘で不利にならないためだ。
「失敗したのう、ここではミグの砲戦機がいかせんではないか」
 戦闘はむしろ好きな方だと自覚している。ミグは機導師であり、機械的なものであれば大体なんでも好きである。特にヤクトでぶちかますグランドスラム、その砲撃後の爽快感を愛していると言ってもいいかもしれない。
 今も敵を見つけ次第一撃放ってしまいたい。跡形もなく吹き飛ばせばすぐに解決できるはずだ。しかしこの仕事は楔の護衛で森林破壊ではないのである。下手したら警備隊も巻き添えにしそうだとかはあえて触れない。
「まあ仕方あるまいて」
 いつか撃ち放題な仕事でもないものか、なんて思いつつも周辺の警戒へと意識を戻した。

 警備隊が避けた瞬間にあわせ撃てば、二体の片割れ、その脚を撃ち抜いていく。ラッド・フィエル01で充分そうだと次の狙いを定める。
「呆気なさそうじゃが」
 警備隊に目もくれず向かってくる風狼は狙いやすい。一体は装填した分を撃ちきる前に消えていった。
「後ろに回ろうと変わりはせん!」
 警備隊の牽制で接敵まではされていない、もう一体へと構え直す。決着は早そうだ。

 浮いて遮蔽物を減らせばよいだろうか、そもそもヤクトから出て外気に触れておくべきか。
 時間が許す限り楔の在り方を変えてみたミグはひとつ、頷いた。
「障害物があっても届く、という事実1つでも面白い話じゃて」

●2地点

「楔を持つ弓兵さんの護衛……とは言え」
 翠蘭を見れば、同意のつもりか相槌がかえってくる。
「どちらかと言えば早期撃破を目指す方針で参りましょうか」
 キャンプから近い配置の為に時間に余裕がある金鹿(ka5959)は作戦のおさらいを行っていた。
「私も打たれ強くはございませんし……あら」
 視界に映った影に気付き、目を瞬かせた。

「盾役? ああ、任せてもらって大丈夫だ」
 遊撃役として森林内の警戒を行っていた瀬崎・統夜(ka5046)としても、あてもなく彷徨うのは分が悪いと考え始めていたところだった。
 通信楔を持つ仲間達を繋ぐ線に沿って移動するのが無難ではあるが、その距離は長く、誰かと通信できるものでもないために即応行動が非常に難しい。なにより統夜自身通信器具の意味を見いだせず持ち込んでいないくらいで、戦闘準備がすべて無為になるなんてことは避けたかった。
 ようは、利害の一致である。
 此処はまだ巫女側から数えて二本目の楔。確実に楔を護るためなのだ。
 金鹿の提案に頷いた統夜は、改めて黒騎士を狩り楔を中心とした周辺の警戒に出るのだった。

「ご快諾いただけて何よりです。それではよろしくお願い致しますわ」
 深々と頭を下げる金鹿は、これで己の彼我が減ると安堵を抱く。翠蘭を中衛にすることで話を纏めてから、静かに待機していた警備隊へと視線を向けた。
「護りが厚くなりましたからご安心くださいませ……弓での支援も、頼りにしてましてよ!」
 不安にさせないという内心掲げていた目標も満たせそうだからこそ、金鹿の声に一層張りが出るのだった。

「まずは足止めと行こうじゃないか!」
 現れた二体どちらも範囲内の捉えることに成功した統夜がエヴェクサブトスT7を向ける、豪雨並みの弾丸が風狼達へ向かっていく。どれも牽制の為とは言え数が多い、風狼はどちらも避けきれるはずがなく、足止めを避けられるわけがなかった。

「今ですわ、翠蘭!」
 黒騎士と翠蘭を結界で包み込んだ金鹿はまだ淡く残る光の向こう、敵影を真直ぐに見据えている。
 此方に向かって来ようとしていた風狼達は弾幕からまだ抜け出せていないが、その瞳は確かに翠蘭をそしてその後方に庇われている警備隊を気にかけている。
(楔につられてきていると、考えてよいものなのでしょうか)
 次の符の準備をしながらも金鹿の思考が巡る。視線の先では翠蘭が壁になるとばかりに構えを固めた。少しでも、敵の直進を防ぐべきだ。楔に届かせる前に、より多くの攻撃を向けなくては。

 二体は互いの位置を変えながらも楔の方へと向かっていく。
 時に相棒の身体を足場にして、時にあえて速度を落として。
「甘いな、こっちも手があるんだよっ」
 紫電のマテリアルが黒騎士の構える得物を覆い、すぐに風狼二体の一方へと向けられる。
 速射、反動さえも利用してもう一体に向いて次射。
 初見だからなのか、運の女神か。二体どちらにも手応えが得られた。
「よしっ! このまま落としたいところだ!」
 射線の確保のためにも併走に近い形になっている。統夜は黒騎士を止めることなく次へと繋いでいく。

 翠蘭が操るコスモの攻撃。それがうまく風狼を捉えたことを確認してから符を閃かせる。少しでも多くのダメージを与える為なら機を伺う手間を惜しんではいられない。
「よくやってくれましたわ!」
 翠嵐に感謝を向けながらも狙いは違えず、光蝶が風狼へと飛んでいく。
「此処に辿り着かせる前に、1体は倒してしまいたいですわね」
 皆して狙いは揃えている。あと少しに見えるのだけれど。

(そろそろ割り込ませておくか?)
 二体同時に相手をし続けている、今のままでは決定打に今一つ足りていない。少しずつ削るだけではいけないと感じた統夜はNOWBLADEに視線を走らせる。
(いや、これは最終手段)
 いつでも使えるように切っ先をあげながら。黒騎士の機体そのものを風狼と楔の間へ向けた。
「そろそろ……終わっとけ!」
 ダメージが多い筈の一体へ銃口を向ける。そろそろ回避パターンも読めてきた。二体同時に相手するよりも、トドメへと確実に近づけたい。
 演算能力を集中させた一撃は頭部に吸い込まれ、貫いていった。

「あと1体、連携がなくなれば脆い筈ですわ!」
 後方で楔を護る警備隊にも聞こえるように声を張り上げる金鹿。予想よりも近付かれてしまってはいるが、最終手段をとるほどでもなく。なにより既に一体倒せているのだから、終着点は確実に見えていた。
 纏っているマテリアルの蝶が符を追うように飛んでいく。風狼を覆う光を途切れさせないよう、足止めを兼ねた猛攻を始めた。
「気を抜く暇なく、浄土を見せて差し上げますわ。お生憎様、私の案内はありませんけれど!」

●3地点

「……前線になんて来るものじゃないものね」
 巫女達を思い出しながらクレール・ディンセルフ(ka0586)は小さく首を振る。新生浄化術、という言葉にどこか皮肉を感じたからだが、心の中のことであっても掘り下げるつもりは無かった。
「分かっていたけど。これだけ離れると連携は無理ね」
 森の中だからというわけではなく、きっと平原だったとしても隣の楔を見ることは出来なかっただろう。
「つまり私達だけで楔を狙うシェオルを皆殺し!」
 急に上がる大声に警備隊の表情が崩れた。
「更にここで成果をあげれば、巫女さん達の安全に繋がる!」
 クレールの後方ではフェテルが警備隊の膝のあたりをポンポンしている。
「フェテル! 警備隊さん!」
 くるっと振り向いた時にはそんな気配もなくて、クレールは気付かない。
「頑張りましょう!」
 えいえいおー!

 各自に出来る警戒は続ける中、三人のうち誰かは必ず楔の傍に居る状態を維持していた。
「フェテル、本能で敵を察知したら一番近いのを指差して」
 周囲の土を掘り返し、楔の為の土台を作りながら言うクレールを指し示したいと二対の視線が重なる。
「これでよーし! 守りやすく、緊急時に持ち出しやすい! 完ッ璧!」
 満足そうに額の汗を拭ったところで、三人の動きがぴたりと止まる。
「来た……!」
 まさかのタイミングに驚きはあるが、事前の打ち合わせ通り三人は楔を背に円陣を成す。
 練り上げ変質させたマテリアルを自身の身体に巡らせたクレールが即座に放つのは大爪だ。敵は一体。三本のうち二本は虚空へと消える。距離があるうちは仕方ないと割り切るしかない。
「フェテル! 楔を守って! 私がケリをつける!」
 カリスマリス・クレールを構え走り出すクレールの目にはすでに風狼しか映っていない。
 心得たとばかりに鳴くフェテルは改めて立ち位置を直した後、警備隊を見上げ矢を撃つ身振りを示していた。

 クレールの駆ける足音に合わせてバンドリオンの音色が重なる。フェテルの足がクレールと同じリズムをパーカッションで刻み、左手のベースが音に重みを与えてくれる。メロディは忙しなく動く右手のピアノが担当している。小柄な体を最大限使った演奏はクレールの一撃に大きな効果をもたらす筈。
 風狼の顔の近くすれすれを矢が掠め飛んでいく。僅かな隙をクレールが逃す筈がない。
「接近戦で……鍛冶師に勝てるかぁぁっ!!」
 マテリアルを注ぎ込んで広げた武器幅、その勢いによって風狼の脚が二本吹き飛んだ。

●4地点

 警備隊に楔を任せ援護を頼めば、牽制を優先するとの快諾を得られた。
 イレーネはアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の提案の元に警備隊よりも前方に立つ。既に気配は捉えており、その数が見えるのを待つばかりだ。

「……3体か」
 イレーネの咆哮を聞きながら駆ける。ほんの少しばかり先を行く相棒は既に己の場所を選んでいるようで、迷いがない。二体の動きが鈍り、手前の一体に狙いを定めたようだった。
 其々の居場所を脳内で俯瞰する。それなりに広い場所を選びはしたが木々も生えており邪魔もある。だが同時に足場にだって使えるはずだ。思うより早く、アルトの身体はイレーネの元に戻れる最適なルートを叩き出す。今も先へと向かっている。
 一度は陽炎になったオーラが再び燃え上がった。全身、特に脚部に集まるマテリアルがアルトの身のこなしを更に洗練されたものに変えていく。
 互いに駆け近付いているとはいえ、距離があった。捉えられるのは一体だが早く削るに越したことはない。迷わず二撃分の華焔が閃き、手応えを感じると同時に三撃目を振るっている。
 イレーネの傍へと戻りながら消えゆく一体を視界に収める。
 朱い花が咲き、紅い花弁が散っていく。
「どこの狼か知らないが、同じ朱が通っていたか」

 イレーネの威圧を耐えた個体は、同時に統率体であったらしい。残った部下である一体をこちらにけしかけながら機を伺ってきている。
(普通なら慎重さは美点だが)
 今もなお身を護るように燃え続けるオーラを打ち消すアルトに疑問の声がかかる。警備隊へと振り向かずに声だけを張り上げる。
「傭兵とはいえ残業はしたくないんでな」
 しかし声音に熱はない。視線も体も、アルトの全ては二体の殲滅しか求めていない。
「さっさと終わらせてもらおう」
 イレーネの咆哮を追風にしながら疾走。統率体に辿り着く直前に矢が追い抜いていった。
 ゆっくりと感じられる時の中で、より確実に、克明に統率体の動きを捉え、そして動きそのものを封じるように、振う。
 二厘目の華が咲ききる前、綻び始めるその時は既に、アルトの身体は最後の華を咲かせる準備に入っている。
「……手応えは悪くないと思うが」
 最後の一体。導く者も居ない今、風狼はただの的だ。
「やはり大きさとしては物足りないな」
 イレーネの咆哮はまだ終わっていない。ゆっくりと耳に馴染む声を楽しむ余裕だってある。
(一応、前線側の警戒は増やしておくか)
 残業にならないことを祈りながら、華焔の切っ先をおろした。

●5地点

「さて、実験成果向上のためにも巫女らの戦闘訓練のためにも、私に出来る事を」
 メルキセデクに前衛を頼むため、指示を出しながらメアリ・ロイド(ka6633)は思う。
(何を焦っているのか……)
 これまでだって浄化術の輸出は行われていた。ずっと護衛が付けられ、それが当たり前になっていた。
(急に姿勢を変えたようにも見えます)
 確かに巫女達の意思は在ったのだろう、話を聞かせた自分にだって彼女達の決意の欠片は見て取れた気がしていた。けれどそうやって外の話を聞かせること自体、急ではなかっただろうか?
「……考える暇をくれないってか」
 周辺警戒から戻ってきた警備隊の声に、意識を切り替える。ピリクラーディナの抱く宝石が閃いた。
 メアリの赤を見えない歯車が巻き取って。自身と、メルキセデクと、警備隊それぞれに注ぎ込んでいく。メアリの赤はさらに強く濃くなっていく。
「一匹か。油断するつもりはねーけど、うまくあしらってやろうじゃねぇの」

 一矢を追いかけるように光も飛んでいく。真直ぐにメアリへと向かってくるのは楔を持っているからだろうか。
「次は来るはずだ!」
 再びマテリアルを注ぎながら叫ぶメアリを庇う形で風狼の進路を塞ぐメルキセデク。まだ風狼と接敵はしていないが、確実に、少しでも回り道させることに意味がある。
「ちっ、数匹相手を気にし過ぎたか?」
 一瞬の迷いを振り払い、威力重視でマテリアルを練り上げる。術式を空に展開する僅かな時間を待つ間、メルキセデクまで切り裂かないよう、立ち位置を僅かにずらすことも忘れない。
 氷柱は正面から風狼にだけ迫っていく。しかし足をとめるまでは至らない。大きく開いた口、研ぎ澄まされた牙が迫ろうとしたところでメアリの視界が急に変わる。
「……ああ、そのまま頼むぜ」
 メルキセデクの背に護られながら聞こえてくる音はくぐもった獣の声、常と変わらずに動く相棒の稼働音。
「鋭さが足りなかったようだな?」
 ダメージを負わないこちら側が圧倒的に有利に決まっている。

●6地点

 指定された配置場所に着いてすぐに、鞍馬 真(ka5819)は周囲の散策を始める。
 勿論そう離れるつもりは無く、少しでも足場の確かな場所を選びたいからだ。相手は獣、森の中で不利なのはどう考えてもヒトの方である。
 すぐ横を歩くシトロンの様子も確かめる。自身の武器の取り回しも大事だけれど、彼女の身を隠せる場所も必要だ。
「……要は、楔を守りながらシェオルを倒せば良いってことかな」
 腰に差した楔を見下ろすが、機導師のインストールをしていない門外の真である。ただ戦うばかりの自分にも、明確に出来る事がある、役にたてるというのは気分が良いものだ。
 グレーの尻尾が視界に移る。散歩気分で揺れる様子に、まだ時間の余裕があるのだと微笑みが零れた。

 見回すついでに見えた尻尾がびくりと震えて、真の瞳に鋭さが混じる。
「すぐに下がって」
 作戦は伝えてあるので急いでもらうだけでいい。シトロンの尻尾が向いている方角が敵の来る方角に等しい。もう一度足場を確認する瞳が金色を示し、カオスウィースを、次にオペレッタへと蒼い炎を纏わせる。
 こちらから向かうようなことはしない。風狼の狙いが何かを見極めようと、二剣を構え待つ。
「邪魔にならない場所で正解みたいだね」
 視線は楔に向かっている。確かに身に着けていると脚運びで確かめた真は柄を握る手にさらに力を込めた。

 水霊の囁きから溢れ出るメロディが蒼華をさらに燃え上がらせる。飛びかかってくる風狼、その腹に二剣で十字が刻まれていく。
 瞬時に振り抜かれた真の動きは捉えられるものではなかったが、今なお舞い散る炎の花弁が確かにその軌跡を示していた。
 遅れて放たれた蒼金のオーラは森を避けて宙へと向かうように伸びていく。既に霞となり始めていた微かな残骸さえも瞬時に消し去っていった。
「「……」」
 予想以上のあっけなさに沈黙する二人。
「1体だったからかな」
 何事も怪我なく終わるのが一番ではあるけれど。気合を入れていた分少しばかり拍子抜けである。
 そうは思いつつも、真自身周囲への警戒は解いていないのだけれど。

「……♪」
 駆けよってくるシトロンを受けとめるために一度武器を腰に戻した真の視線は柔らかい。
「少しだけだよ? 作戦が終わるまでは、まだ警戒していなきゃいけないんだからね」
 抱き上げて軽く撫でれば、ご機嫌に尻尾が揺れた。

●7地点

 世界全体を見ても、ヒトが、技術が、資源が、減る可能性があって。
 血断が迫る中でそれぞれを丁寧に扱えるかと言われると、確かに頷くのが難しいとユリアン(ka1664)は思う。
「でも、手を差し出せるうちは出来る限りの効率と成果をって、向き合いたいよね」
 特徴的な口調の誰かが過ったけれど、今のエルフハイムなら。
「一人ではないのだから、きっと……」

 ラファルにも上空からの警戒を頼み、警備隊と共に比較的開けた場所を選んだ。
「囮役ってことでいいかな」
 犠牲の精神というわけではないが、適任という自負を持って楔を身に着けておく。警備隊の気配が薄くなったのを確認して、警戒を強めた。

 風狼を影が覆った認識とほぼ同じく、ラファルの急降下で衝撃が広がる。
 微かに舞う砂埃の中を緑風に押されるように羽根と共に駆け抜けるユリアンが真星を振りかぶる。
 風狼の脚に走る傷から、ゆっくりと、風を堰き止める毒が入り込んでいく。

 一体だからこそ向き合いやすかったのかもしれない。
 風の名を冠する敵は、ユリアンの風を揺さぶるように真直ぐな視線を向けてくる。今や複数にわたる傷をものともせず、変わらない勢いで向かってくる敵のしぶとさに、諦めない根性に感心すればいいのだろうか。
 警備隊との連携も慣れてきて、矢のタイミングが読めるようになってきていたユリアンはトドメのため駆ける。
「お前の風、貰っておくよ」
 ラファルの羽音に送り出され、後脚を斬り抜いた時の手応えはもう、記憶に残るだけ。

 外見的な変化は見られず、ヒトであるユリアンにはそれ以上を判断できなかった。警備隊はエルフなわけであるから、彼の認識に頼りながら、試しにラファルにも楔を咥えさせてみた。
「持つ人は関係ない、っぽい?」
 楔そのものが存在さえしていれば、この試験は進められるということか。
 あとは時間の許す限り、警戒をしながら指定範囲内を巡ることにしよう。

●8地点

「討ち洩らしが出るかもしれません。大変恐縮ですが、共に楔の守護をお願いします」
 頭を下げて共闘を依頼するフィロ(ka6966)に警備兵が僅かに慄いたが、地面を見つめるフィロが気付くことはない。あくまでもフィロの行動理念によるもので、円滑にことを進めるための必要行程。なにより主側と判断されたエルフである警備隊に対しての敬意の表れだからだ。
(危険は限りなく引き受けるべきと)
 フィロにとっては楔だけでなく警備隊も護衛対象たりえる。だから楔もフィロが持つこととなった。

 着矢を待ってからライフルのトリガーを引く。現れた風狼は二体、動き次第ではあるが、コンフェッサーバルーンをつくりだすタイミングにはまだ早い。
「動きを見てからでも遅くはありません」
 効果時間よりも効率的な配置が重要な筈。揃って直進してくるのか、挟撃を狙い二手に分かれるのか。まだ判別は出来ないのだ。
 ひとまず近い方から狙ってみたが、手応えはあるもののどうにか弾が掠っただけに見える。援護がなければ外れていた可能性は高い。
「成程。次第によっては方針の変更も念頭に置きましょう」
 まだ初撃、一通り試してからでも遅くはない筈だ。

 三体横並びのコンフェッサーという視覚的圧迫感を前にしても風狼は止まらない。甘く見られているのかただの本能か、フィロの駆る本物に真直ぐ駆けてくる二体に向けディアボロスが突き出される。
 手前は胴に、推定統率体には脚に。練り上げられた密度を保ったマテリアルは走り抜けていくが、部下を足場にして跳び上がる風狼はうまく避けられてしまった。そのまま回り込むように駆けだす風狼を視界から外さぬよう留意しながら、フィロは次手を決める。
「確実さ優先とみます」
 敵が常に此方を見据え後方を気にしない以上、逃走の懸念はほぼ考えなくてよい筈だ。ならば狙うべきは傷を持つ一体。
「それまでは、バルーン相手に遊んでいてください」
 コンフェッサーの後方を護るように、新たなバルーンが現れる。敵は二体だが、先に二体出していたのだ、優勢は覆らない。

 警備隊からの援護は開けた場所、その外周に出てもらう形で受ける流れに変わっていた。少しずつ勢いを削り統率体にトドメを刺したフィロは追加勢力がないかの確認も怠らない。
(明確に狙われるほどの代物は、主人の存在を害するモノでは? ……と、判断する可能性もあるのでしょう)
 フィロの疑似感情の存在はそれを否定できている。楔周辺で起きる事象だけでなく、楔がもたらす未来の利益と、望む巫女達の意思、それらを理解しているからだ。


●A班「雷竜迎撃」

 ブレイズウイングの最大展開は星のマテリアルが集まる道標でもある。エストレリア・フーガ全体がキヅカ・リク(ka0038)と同じオーラに包まれ電流線が魔法陣を走る。
 狙う先である雷竜達ははじめこそ何かを目指して向かってきていたが、今はボルディア・コンフラムス(ka0796)の紅蓮のオーラ、更に加算され混じりあう強力な神聖性に引き寄せられていた。
 明らかに注目というレベルを超えた様子に疑問はあるが、都合がいいことは確かである。
『ボルちゃん、今からハルマ撃つんで気を付けて!』
『おぅ、いつでもいいぜ!』
 まだ雷竜という遮蔽物のない視界の向こうでボルディアが頷くのを確認し、光弾が破壊の限りを尽くす!
『なあこれ、毎回俺のすぐ傍ギリまでくんのか』
 眩しすぎる、という軽口が飛んでくる。
『必要な犠牲ってことで頼めない?』 
 出来れば連発したいと伝えるのも忘れない。
『きっちり通信入れろよ!?』
『了解!』
 やり取りの合間にもアルスターのライフルが雷竜二体に足止めを喰らわせる。
『出来れば今の2体を頼む!』
『一番近いしざくろが行くよ!』
 シャーリーン・クリオール(ka0184)に応えたざくろが魔動冒険王『グランソード』の構える斬艦刀で斬り払っていく。
「生憎こっちは、空でも地上と同じ様に戦えるから……突き進めグランソード!」
 動きの鈍った二体相手に、空戦仕様の機体で不覚を取ることはない。上手く二体の翼を傷つけることに成功している。
「……飛翔の様子でわかってはいたが、翼で風を捉えているのだな」
 リアルブルーの生物学的な常識では翼の大きさが合わない気もするが、しかし雷竜は実際に高みに戻る様子を見せない。マテリアルで浮いて、翼は体勢変化用ではなく助かったと思える程。思わず呟くシャーリーンだったが、すぐにトランシーバーに向けて叫んだ。
『片翼でも傷つけられれば奴らの飛行能力は奪える!』
 狙えるならば翼を、周知は手早く行うべきだ。
「やりにくい敵ですが、それなら十分手を出せそうですね……」
 まだ遠い敵影を見据えGacrux(ka2726)はサルンガの弦を引く。できればリクの攻撃を受けた個体がいい。
「地上からだって当ててみせるのです!」
 レヴェヨンサプレスの構えを崩さず、楔を軽く一撫でするエステル・ソル(ka3983)。
「ステラさん、見ててくださいね……小鳥さんお願いします!」
 気持ちを通わせるためにと愛称で呼んで、気合とマテリアルが籠められた小鳥達が空へと真直ぐ放たれていく。
 矢を避けた先で小鳥に迎え撃たれた一体が地上へと落ちていく。
「フローさん!」
「シャルラッハも一緒に行ってこい!」
 猛スピードで雷竜の群に突っ込んでいく二体は着実にダメージを与えているらしい。一体の落下を一早く確認したGacruxが警告に繋ぐ。
『これで地上に3体ですよ!』
 ただ一直線に落下するわけではなく、かろうじて翼に残っている皮膜を利用しているため滑空に近い。
 負傷をおしてでも近付こうとしているのか、三体は変わらずボルディアへと向かっている。
「待ちかねてたぜ、羽虫ども! 叩き落とされた気分はどうだ?」
 構えるのはペルナクス、天雷の理を秘めるモノ。ボルディアは天雷を放つ雷竜に己との力量差を見せつけるため、此処にいる。

 地上付近の雷竜達が集中攻撃を行うが、小回りを活かして避けるボルディアには当たらない。
「周りも見ねぇ羽虫に捕まってたまるかよ!」
 数が多いせいか、それとも引き付けられて本来の行動が変わっているからか。個で見れば強いはずの雷竜達は今互いに互いを邪魔する結果になっている。
 ボルディアに直接攻撃したくとも、先に接敵し囲んでいる別の雷竜がそれを阻んでいる。連携もなにもあったものではなかった。
 光を伴う鋭い風が矢を成して一斉に降り注ぐ。見えなくとも目指す場所はわかるからと、その場所さえ含まれていればいいと、手当たり次第に放たれていく。
「わわわっ! 数の暴力だよっ!?」
 正確には分らないが、十体以上が同時に展開しているために全てを避けきるのは難しい。充分に距離を取りきれなかったざくろとシャルラッハにフローは避ける為に飛び回る。
「これ、まだ全部じゃないよね? 集まりきる前に減らさないと!」
 次は距離を取って別の手段をとることに決めたざくろ。急所に喰らった損傷を確認し、まだ戦えることに小さく息をはいた。

『二発目行くよー!』
 雷竜に囲まれているのを幸いと受け取り、リクの合図にボルディアの口元に笑みが浮かぶ。
「壁になってくれるんだろ?」
 纏うオーラは絶えず輝いており、雷竜達は変わらず目を逸らせない。ならば倒すまでと繰り出す攻撃は大半が当たらない。更には当たっても、ボルディアが痛みを感じる様子が全くと感じられないのだ。
 唸り声に囲まれながらも笑みが深くなり、犬歯が見える。
「ビリビリはするんだぜ? でもなぁ最近肩凝ってたからな。丁度いいマッサージをありがとな」
 楽し気に揺れる尻尾が更に雷竜達を煽っていく。
 ハルマゲドンの衝撃が治まりきらぬうちに猛攻は続いていく。
 索敵も兼ねて滞空を続けるシャーリーンは支援重視にアルスターの舵をきった。
「空中戦と覚悟を決めてきたけどね」
 一通り皆の動きを追っていたが、命中率そのものが予想以上に低い。せっかくの弱体化を効果的に利用する為だ、より厚い弾幕をとアサルトライフルを主軸に変える。
 狙う場所は仲間が攻撃しやすい地点。けれど巻き込まない程度の猶予を開けて。
『もしかして範囲攻撃をするのかな』
 ラナンキュラスに持ち替えたGacruxに問いかける。
『低空飛行の数体なら巻きこめそうですので』
『ならそれも考慮して支援するさ』
 滞空状態のざくろにシャルラッハ、そしてフロー。三者に追加でGacruxの位置を俯瞰で纏めその中央へと銃口を定めた。
「次は巻き込まれるつもりがないからね、一刀両断スーパーリヒトカイザー!」
 マテリアルによって形作られた光の刃が伸びていく、細かく狙わずとも数体は巻きこめるほど密集し始めている雷竜群の中を、真直ぐに突き抜けていく。
 やや離れた場所から放つ当たり安全マージンを取ったざくろが決める。
 同時に地上からも閃光が走り、雷竜達を狙う剣がGacruxの合図を待っている。
「此方から喰らってあげますしょう」
 自身の生体マテリアルを籠めたラナンキュラスを振るい、刻を告げた。
 ワイバーン達が再び突進を繰り出すのに合わせてエステルの生み出す小鳥達も群に飛び込んでいく。同じタイミングで狙うからこそ意味がある。別の雷竜を選んでも、密集しているからこそ避けられる場所は限られる。其々が複数回攻撃を可能にしているから尚更だ。
(地上に降りる頃には十分に弱っている、それが最良なのです)
 第三師団兵達は雷竜達に正対する必要がなくなっていた。ボルディアに集う雷竜は今も他に目もくれていない。おかげ柄三体の対峙以前、一体ずつに総攻撃を行う事が可能になっていた。実際、彼等によってトドメも行われていたりするわけだ。
 だから少しでも多く攻勢に転じる。
「巫女の皆さんも、楔を辿った向こうで頑張っている筈なのですよ。ステラさんにも届いているのですよね……」
 浄化術とは違うけれど。やはり少しでも有利に傾きますように。レメゲトンを雷竜へと向ける度にステラに声をかけ、想いを込めるのを繰り返す。
 新たに二体の雷竜が落ちてくる。既にボルディアの周囲は囲まれていて、先の個体を踏みつけることも厭わない様子はやはりハンター側に有利に働くだけだ。
「シャル、その調子で次も頼むぜ!」
 その場でくるりと回転する余裕を見せる相棒の紅鱗がキラリ煌めいて、更に調子を上げていく。瞬間的な勢いを生み出す為にマテリアルを更に引き出さんと、輝きよりも炎の色が強くなる。
「壁の例だ、ハハッ、めいっぱい喰らっていいんだぜ!」
 今も噛みついて来ようとする雷竜、その咥内だろうが脚だろうが、構わずにペルナクスを振り抜いていけば、次の羽虫を招き入れるためのスペースが空いた。

 三体減った程度では雷竜達に焦りはない。そもそも引き寄せられている時点で焦る余裕はないのかもしれないが。中心となるボルディアは変わらず無傷で裁き、雷雨に巻き込まれたハンターもダメージを追うことはほぼないと言っていい。
 ワイバーン達が少しずつ動きに鈍りを見せ始めているのが、変化らしい変化だろう。

「充分に減らせたわけじゃないけど、そろそろ反動が来そうだよね」
 ハルマゲドン連発作戦は四回で撃ち止めだ。冷却に徹していたマテリアルエンジンの駆動音に限界を感じる。
(無理は良くないよね)
 今までの己を全く顧みない考えは脳内だったおかげで誰にも知られることはない。エストレリア・フーガのウイングを飛ばす先を見定めながらリクは高度を下げていく。
 出来るだけ群の外周から削る方が、範囲攻撃を行う仲間の攻撃を無駄にすることもないだろう。
「落ちてないけど弱ってるのも居るんだ? 狙っていっちゃおうかな!」
 格好いいところみせる機会でもあるからね!
「フローさん! 今届けますからね」
 ワイバーン達の負傷の蓄積、特にエステルの相棒が特に怪我が目立っている。
「期待以上ですが、無理は駄目なのですよ?」
 優しい風がエステルの髪を揺らし、蒼穹の青がエステルを中心に広がっていく。散りばめられた金はマテリアルだけでなくエステルの髪にも輝く。
 敵よりも仲間への癒しを求めたエステルの想いに答えるように輝きは柔らかく、マテリアルは留まらぬままに作られた刹那の夜空の中を巡り続ける。
 フローを、シャルラッハを、グランソードを護るように包み込んでから、敵対すべき敵に容赦なく牙をむく。薔薇の棘はあくまでも外側へ。避けようとする雷竜六体が絡め取られ、うちの二体が生命の終わりを迎えた。
 星の花弁が咲き誇るその時には、仲間達の傷は全てなくなっていた。
「怪我をするなとは言えませんけれど、早めに戻って治療を受けて下さいね!」
 頼りにしています、そう続けるエステルの声に元気いっぱいのフローの鳴き声が返った。
 制圧射撃を使いきったシャーリーンは弾丸に込めるためのマテリアルを練りはじめる。
「効率を考えて誰が一番か、と決めつけられはしないがね」
 それまでと同じ基準で標的を定めることになるのだが、今度は一体に絞らなければならない。これまでの戦闘を思い返し、視認できる範囲で弱っている個体を見出す、仕上げは演算装置に助けを借りて。
「……! よしっ」
 狙い通りの結果に小さく声が漏れたけれど、急いで通信を繋ぐ。
『1体抑え込めた、落とすまではいかないが狙いやすいうちに!』

 少しずつではあるが、蓄積していたダメージが表面化してきている。地上でボルディアに集う雷竜の数は三体から五体と一定を保ち続けている。
 弱体化を狙い、落とすための翼を狙い、その過程で十分に弱らされた雷竜は地上で纏めて薙ぎ払われるのである。
 残った雷竜の全てが攻撃射程内に入った時は、既にこの戦いはある種のルーチン作業と化していた。
「地上の敵さんが増えてきましたから、護りの陣を敷くのですよ」
 エステルの色彩が台地から立ち上る光となる。花弁が幾重も重なるような輝きは、媒体たる星神器の影響もあるのかもしれない。
『支援にまわりますね』
 地上からの射線にも限界があった。雷竜の大半が低空飛行状態の今、より大きな成果を臨むのは難しい。再びサルンガを構えたGacruxが狙うのは弱体化、そのため確実に攻撃を受ける個体を選ぶ必要がある。更に雷竜を新たに地上に引き落とす目論見もある。
(何方の近くを狙うのが良いですかね)
 ざくろとリクの位置を見ながら、移動を始めた。
「シャル! そろそろ回復してもらってきな!」
 隙間から垣間見える程度でも、相棒の状況くらい把握できて当たり前。ボルディアが大声を張り上げれば吼えて呼応するシャルラッハ。
「おう、いい子だ……俺の視界は暑苦しいけどな!」
 空けた場所には次から次へと雷竜が突っ込んでくる。作戦通りとはいえここまで嵌るとは思っていなかった。
「真の天雷使いを決めてやるってんで来た甲斐はあったし、いっそ釣りがくるか?」
 戦場の空気に高揚するままに、餓狼として、ボルディアはペルナクスを振るい続ける。
 この時、雷竜の数は半数をきっていた。
 防衛の強化に多少の手を割いても殲滅速度が変わらなくなっていた。
 もう一度心技体をかけ直したボルディアを前に、雷竜達は集う選択肢しか持っていない。
 作戦の終わりは、すぐそこまで近づいてきていたのだ。


●撤収前

「はーいみんなー、ご挨拶はー?」
「「「うぇーーい!!」」」
 半年以上たっているというのに布教効果はバッチリである。視界の隅で頭を抱えている長老を、リクは無情にもスルーしておく。
(ほら本気で止めるなら、ここで強権発動だっていいわけだしー?)
 止める間もなく布教した教祖サマは悪びれない。撤収作業を終えて緊張が解けたのか、笑顔が浮かぶ巫女達を見ているうちに表情も真面目なものになった。
(嘗てのエルフハイムではこんな事想像もできなかったんだろうな)
 なにより純粋なままで、健気で頑張る少女達だ。この光景を見るために、関わってきた日々はきっと無駄じゃない。
「勇気をもらったし、これでジュデッカに……」
「リクさん」
「何かなーマリ?」
「幼気な子達に何をなさってますの!?」
「勘違いじゃ」
「証拠は上がってますのよ!」
 金鹿の示すとおり、巫女達はリクを先生と呼んで居るのだった。

「祈りの力をどう引き出すのかは私には分りませんが、ちゃんと届いていましたよ」
 撤収前のほんの短い時間だが、巫女達に伝えたい言葉をメアリは届けることにする。
「遠く離れていても届く祈りというのは、届けたい気持ちの大きさや相手を想う力が重要なのでは?」
 もし、それが正解だとしたら。私の願いだっていつか必ず叶うのだから。

(それにしても、俺しか目に入ってなかったよな)
 囮役だからというだけでなく、楔を狙っていたように感じた。ラファルの攻撃を受けても。風狼はユリアンだけを見据えていた。
「他の皆もそうなら、確実に今後も狙われる。巫女の護衛は減らせても、楔の護衛が居ることになるよね」
 報告するユリアンにユレイテルが頷く。今後の研究目標に対抗策を加える予定とのこと。
「……最終的な目標は楔で結んだ内部、なのかな」
 ぽつりと零した言葉は問いかけるつもりではなかった。
「心身共に……とは思っている……」
 微かな返答は、すぐ傍に居ても大半を聞き取ることができなかった。

「戻ったら何か作っても構わないかな?」
 エルフハイムに戻るまでが仕事だ。シャーリーンの問いかけに長老が頷く。作戦前のお守りだと数粒ずつ配っていたドラジェは好評だったそうだ。戻ったらお茶の共にすると巫女達も喜んでいるという話。
「なおさら華のあるものが良いねえ」
 考え込むシャーリーンの横で、タルトタタンのレシピの交渉をするタイミングを計りかねる長老が見られた。


●結果報告書より抜粋

 A班の担う戦闘地域にて、巫女の祈りによる清浄なマテリアルが確認された。

 これにより、通信楔を複数経由することで浄化術をより遠方に届けることが可能だと証明された。
 現状では70km遠方までは確認できているが、この段階で用意できる通信楔の最大数を使用した結果である。
 より遠方への試験実施については現状予定されていない。
 同楔を量産することよりも、より改良を重ねた楔の開発が急がれる為である。
 これは当試験において歪虚の積極的な襲撃が認められたからであり、この現象が今回対峙したシェオル型の特異性との偶然の合致によるものか、歪虚全般を対象とするものか明確に判断できないためである。
 また同楔の予備はなく、現状の機能を下らない形での性能向上が求められていることも事実であり、また今回得られた70kmという距離は決して短いものではなく、今後の展望において十分な成果だと考えられるからである。

・今後の改修目標(優先順)
 歪虚避け
 多角展開
 立体展開
 耐久性(時間、距離、耐攻撃、耐術)
 小型化(携帯性上昇、設置容易化)
 ……

依頼結果

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  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオールka0184
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろka1250
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacruxka2726
  • 部族なき部族
    エステル・ソルka3983

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    エストレリア・フーガ
    エストレリア・フーガ(ka0038unit012
    ユニット|CAM
  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    アルスター
    アルスター(ka0184unit001
    ユニット|CAM
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    フェテル
    フェテル(ka0586unit003
    ユニット|幻獣
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 物語の終章も、隣に
    エルティア・ホープナー(ka0727
    エルフ|21才|女性|闘狩人
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    シャルラッハ(ka0796unit005
    ユニット|幻獣
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    マドウボウケンオウグランソード
    魔動冒険王『グランソード』(ka1250unit008
    ユニット|CAM
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ラファル
    ラファル(ka1664unit003
    ユニット|幻獣
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イレーネ(ka3109unit001
    ユニット|幻獣
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    フローライト
    フロー(ka3983unit003
    ユニット|幻獣
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シュバルツ
    黒騎士(ka5046unit001
    ユニット|CAM
  • 笑顔で元気に前向きに
    狐中・小鳥(ka5484
    人間(紅)|12才|女性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    シトロン
    シトロン(ka5819unit004
    ユニット|幻獣
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    ポロウ(ka5852unit009
    ユニット|幻獣
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    スイラン
    翠蘭(ka5959unit003
    ユニット|自動兵器
  • 天使にはなれなくて
    メアリ・ロイド(ka6633
    人間(蒼)|24才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    メルキセデク
    メルキセデク(ka6633unit002
    ユニット|自動兵器
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    コンフェッサー
    コンフェッサー(ka6966unit004
    ユニット|CAM
  • レオーネの隣で、星に
    セシア・クローバー(ka7248
    人間(紅)|19才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    レイヴ
    レイヴ(ka7248unit002
    ユニット|幻獣
  • 舌鋒のドラグーン
    エンバディ(ka7328
    ドラグーン|31才|男性|魔術師

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依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/07/28 21:11:12
アイコン 相談卓
鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/07/30 16:16:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/30 10:08:14