芋煮とお汁粉

マスター:きりん

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2019/09/24 09:00
完成日
2019/09/25 10:09

みんなの思い出

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オープニング

●鶴の一声
 受付業務中、ジェーン・ドゥは上司のエルス・モウザムに声をかけられた。
「あ、ジェーン君。来週帝国ハンターズソサエティ支部と錬金術師組合、錬魔院が合同で外部者も参加可能な芋煮会をやるから。サクラの依頼出しておいてね」
「分かりました。……今回は妙なことにはなっていませんよね?」
 対するジェーンは何かを警戒している様子だ。
「というと?」
「去年納涼会をやった時は、錬金術師組合と錬魔院が張り合って妙なことになっていたじゃないですか」
「でも、アイスもかき氷も美味しかったでしょ? ジェーンちゃん喜んで食べてたじゃない」
 ジェーンは両手を動かして問題を棚に上げる動作をした。
「それはそれ、これはこれ。で、どうなんです?」
「ははは。あの二つの組織の人員が顔を合わせて、何もないわけないじゃないか。出店内容で張り合ってるよ」
「笑いごとですか! ……で、何が出るんです?」
 上司に苦言を呈しつつ、ひそひそとジェーンは尋ねる。
「錬金術師組合はオーソドックスにサトイモサツマイモジャガイモ三種が入った具沢山の芋煮汁だね」
 芋煮会と銘打ちながら、先んじて芋を全て独占する様は、まさに悪魔の所業である。
「……うわぁ。どれか一つに絞ればいいのに、全部入れるんですか。錬魔院がどんな芋煮汁にしようと被るじゃないですか」
「うん、確信犯だね。錬金術師組合側の責任者が高笑いしてたよ」
 語るエルス・モウザルはニコニコと福々しい笑みを浮かべている。
 この部下にしてこの上司あり。彼も中々考えが読めない。
「で、それに対する錬魔院の秘策は?」
「甘味で攻めるみたいだね。しかも今回は東方風でいくらしい。白玉か焼き餅を選べるお汁粉に、味噌田楽をセットで出すらしいよ」
「その味噌田楽という選択はどこから出てきたんですか。意味不明なんですけど」
 尋ねるジェーンの表情には呆れと憐憫が滲んでいた。
「錬魔院側の責任者がいうには、お汁粉に合うものが分からなかったんだって。客入りで勝ちたい錬魔院側が出した苦肉の策じゃないかな」
 そして、エルスは最後にもう一つ付け足す。
「あと今回は、リアルブルーからの難民に対する慰撫の意味もあるから。あと幻獣とかと触れ合えるスペースも設けるらしいよ。無理やりCAMも置けるようにするって」
「……波乱の予感しかしません」
 頭痛を感じたかのように、苦渋の表情でジェーンがこめかみを揉む。
「本音は?」
「美味しいものをタダで食べられるなら何でもいいです」
 表情を清々しい笑顔に変え、ジェーンはきっぱりと言い切った。

●ハンターズソサエティ
 ニッコニコの笑顔で、鼻歌まで歌いつつジェーンが依頼公開の準備をしている。
 いつにも増してうさんくさい笑顔のジェーンに、他の職員たちは戦々恐々としていた。
「はい、これで終わり、と。じゃあさっそく斡旋に行きましょうか」
 今回のようなサクラの依頼は公然の秘密的な扱いだが、あまり公にするのもアレなので、公開して埋まるのを待つより、斡旋の方が色々と都合がいい。
 ジェーンは立ち上がり、ハンターズソサエティにいるハンターたちへ売り込みをかけた。
「皆さん、美味しい依頼がありますよ。対費用効果という意味でも、文字通りの意味でも、大変美味しい依頼です。内容は、ハンターズソサエティ帝国支部、錬金術師組合、錬魔院共催の芋煮会を盛り上げるサクラです。とはいえ難しいことを考える必要はなく、皆さんで提供される食事を食べて、飲めや騒げやの宴をすれば良いだけになっております。サクラとして参加してくださる方々は、当然全て無料で飲食可能です。ちなみに私も参加させていただきます。皆様もいかがですか?」
 その場にいる誰もが、ジェーンが機嫌良くしている理由を理解した。
 コイツ、タダメシが嬉しいだけだ……!

●平穏な世界で
 冴子と美紅は帝国へとやってきていた。
 まだ自然発生する歪虚たちや暴食の眷属たちは残っているものの、邪神が滅び世界は概ね平和になった。
 世界を見て回りたいという美紅の熱意に、冴子が折れた形で、旅行をしているのだ。
 クリムゾンウエストに来たばかりの頃と違い、二人の表情は明るい。
 ハンターズソサエティ支部がある街を訪れた冴子と美紅は、ひょんなことからとあるチラシを手に入れる。
『芋煮会のお知らせ~錬金術師組合と錬魔院渾身の芋煮汁とお汁粉その他を味わってみませんか?』
 思わず冴子と美紅は思わずチラシを破きそうになるくらい握り締め、穴が空くほど見つめた。
 リアルブルーの日本人である二人にとって、どちらも馴染み深い食べ物だ。
 食べたいという欲求が心を擽った。
「行ってみようよ!」
「うん!」
 冴子と美紅は、詳細を尋ねようと慌ただしくハンターズソサエティへと走り出した。

リプレイ本文

●芋煮とお汁粉、そして味噌田楽
 SALFの受付嬢や職員たちが芋煮会の準備をしている。
 CAMの待機場所を白線で囲み、重いカラーコーンを置いて分かりやすくし、万が一にも事故が起きないようにし、提供する予定の酒やソフトドリンク類を氷水を張ったビニールプールの中に沈めていく。
 時期的にもちょうど残暑が戻ってきたタイミングで、飲み物はよくはけそうな気配が感じられた。
 錬金術師組合や錬魔院の関係者も半ば競い合うように設営を進めており、特に芋煮会であるにも関わらず実質芋煮汁を封じられたに等しい錬魔院の関係者たちは、恨みがましい目で会場設営を勧める錬金術師組合の人員たちを見つめていた。
 そんな錬魔院の関係者の中に、集合時間より早くやってきた星野 ハナ(ka5852)がいつの間にか混ざって作業していた。
「普段は錬金術師組合の方にお世話になっていますしぃ、錬魔院って何してるか分からないくらい馴染みがなかったですけどぉ、提供するものに射抜かれましたぁ。芋煮って地方文化過ぎてあんまり経験がないんですよねぇ」
 正直すぎるハナの言葉に、錬魔院の関係者たちが頬をひくつかせた。
「田楽は豆腐も生麩もこんにゃくもありますけどぉ、今回は何の田楽ですぅ?」
「オーソドックスに、豆腐やこんにゃく、茄子、サトイモなどを考えていますが……」
「個人的には生麩もお勧めですよぉ。こしあんのお汁粉と愛称抜群ですし、塩昆布と金平糖で可愛くデコれますしぃ」
 祭りで東方茶屋していることもあり、ハナはどんどん立て板に水を流すかのように意見を出していく。
 怒涛のトーク術に、いつの間にか錬魔院関係者たちはハナの意見を取り入れてメニューを決めていた。
「こ、これできっとあいつらに勝てるぞ!」
「その心意気ですぅ」
 続いてハナは錬金術師組合の設営会場へ顔を出しに行った。
 同じように焚きつけて、意見を出して、なし崩しに手伝いを了承させる。
 その様子をアーサー・ホーガン(ka0471)が見ていた。
「……バイタリティに溢れてんなぁ」
 アーサーはユキウサギのピーターも連れてきている。
 ピーターはお汁粉に使う餅をついている光景を見て、血が騒ぐのかしきりに気にしているものの、まだ我慢できている。
「ちょいと早いが、酒盛りといくか」
 ふらりと歩き出したアーサーの後ろを、ピーターがついていく。
「おう、早いな」
 少し早めにトリプルJ(ka6653)もやってきた。
 錬金術師組合と錬魔院の関係者たちが競い合うように作業をし、ハンターズソサエティの職員や受付嬢たちが自分たちが担当する会場の設営と全体の交通整理準備、CAM置き場などの区画整備を進めている。
 準備が遅れている可能性を考え、手伝えることがあればとトリプルJは早めにやってきたのだが、予定通りに開始できそうで、いい意味で予想は外れた。
「何だ、きちんと進んでるじゃねえか」
 これなら自分は手を出すまでもないと判断し、酒やソフトドリンク類を提供するハンターズソサエティの会場へ向かう。
 そこには、アーサーとピーターが既に来ていた。
 一人と一匹は両手に山と酒を抱えている。
 ごっそりと酒が減ったビニールプールに、ジェーンが会場の裏にある在庫置き場から大量の酒を取り出して来て補充しながら、顔をあげて微笑んだ。
 相変わらず笑顔はうさんくさい。
「トリプルJさんじゃないですか。キンキンに冷えているお酒がまだありますよ。おひとついかがですか?」
「おう、貰うぜ。どれだ?」
 ジェーンが示す酒の瓶を手に取ると、確かに手が悴むかと思うくらいに冷たかった。
 三組織とも出店準備が完了し、時間になって続々と客がやってくる。
 その客の中に、夢路 まよい(ka1328)、サクラ・エルフリード(ka2598)、レイア・アローネ(ka4082)の姿があった。
「ジェーンも来てるのかなー?」
 きょろきょろと周囲を見回したまよいが、ハンターズソサエティの会場で飲料を配るスタッフとして働いているジェーンを見つける。
「あ、見つけた!」
 ててててと走り寄ったまよいは、ジェーンを見つめにこりと微笑む。
「こんにちは、ジェーン!」
「こんにちは、まよいさん。皆さんもお揃いで」
 挨拶を返したジェーンがまよいに飲み物を渡す。
 サクラとレイアも追いついてジェーンのところへやってくる。
 レイアはポロウのポルンも連れてきている。
 ポルンはレイアの肩にとまっていた。
「お久しぶりです、ジェーンさん」
「久しぶりだな。……そうやって真面目に仕事をしている姿を見て新鮮だと思ってしまうのは何故だろうな」
「まあ、普段の行いのせいですから仕方ないですね」
 しみじみと呟くレイアと、レイアの発言に苦笑するジェーンのやり取りに、まよいとサクラはひそひそ話をした。
「ねえ、自分から普段の行いが変だってあれ、認めてるよね?」
「ジェーンさん、自覚があったんですね……」
「聞こえてますよ?」
 うさん臭さを増した笑みを向けてきたジェーンから、まよいとサクラは愛想笑いのままそっと目を逸らした。
 誤魔化すように周囲を見回したまよいは、ディルク、アンティ、アルム、トアの四人家族がやってきたのを目ざとく見つける。
「あ、懐かしい顔ぶれ見つけちゃった。ちょっと行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
 微笑んで手を振るサクラに見送られ、まよいは向かう。
 トアやアルムと一緒に芋煮汁を食べる。
「美味しい! 普段食べているお芋よりしっとりしてるの!」
「そうなの?」
「普段私たちが食べている芋よりも、良い芋を使っていますね、これは」
 口元を汁だらけにしてながら笑顔を浮かべるトアを愛し気に見ながら、母親のアンティが拭いてやっている。
 去年のように、トアが芋が飽きたと言い出さないかまよいはちょっと心配だったが、はっきりと美味しさに違いがあるなら問題なさそうだった。
 客として訪れた者たちの中には、夫婦で来ている者たちもいた。
 時音 ざくろ(ka1250)とアルラウネ(ka4841)も、そのうちの一組である。
 芋煮汁、お汁粉、味噌田楽を一通り貰うと、シートに座って仲睦まじく一緒に食べている。
 アルラウネのお汁粉はざくろが少し冷ましてあげるなど、アルラウネの好みに合わせざくろが甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
「帝国の芋煮ってどんなものかと思ったけど、美味しいね」
「そうねぇ。温かい食べ物はいいわね。特に汁ものは身体の芯から温まるし」
 二人とも穏やかな表情で、夫婦水入らずの時間を過ごしていた。
 一方、鳳凰院ひりょ(ka3744)と霧島 百舌鳥(ka6287)は冴子と美紅の二人と再会を果たしていた。
「わあ、ひりょさん、百舌鳥さん! また会えましたね!」
「……こんにちは。その節は色々とお世話になりました。ありがとうございます」
 芋煮汁をよそって貰いに行くところでばったり顔を合わせるという情緒も何もない再会だったが、笑顔で再会を喜ぶ冴子とペコリと頭を下げる美紅に、自然とひりょと百舌鳥の表情も綻ぶ。
「無事だったんだな。良かった」
「久しぶりだねぇ! 再会の喜びをこうして分かち合おうじゃないか!」
 ホッと胸を撫で下ろすひりょに対し、百舌鳥はいつも通りケラケラと笑っている。
 その肩に乗るポロウに気付き、冴子と美紅の目が引き付けられた。
「そ、その子は……?」
「もしかして、幻獣ですか!?」
「気になるかい? 何ならもふもふしても構わないよ!」
 歓声をあげてポロウに手を伸ばす冴子と美紅を見守る百舌鳥の頭上に影が差す。
 見上げればリーリーが飛んでいた。
 お汁粉を食べながら百舌鳥を探していた、アルマ・A・エインズワース(ka4901)のミーティアだ。
「わふーっ! 見つけましたー!」
 急降下してきたミーティアからアルマが飛び降り、百舌鳥の背中にしがみつく。
 衝撃で百舌鳥がたたらを踏んだ。
「アルマ君、君は自分の質量というものを考えているかい?」
「わふー?」
「これは考えていない顔だね……」
 キョトンとするアルマに何かを察した表情を浮かべた百舌鳥が苦笑する。
 当のアルマは冴子と美紅を見て表情を輝かせた。
「わふ、わふ。百舌鳥さん、この子達が例の子たちですねー?」
「わ、私たちのことを知っているんですか?」
「うん、百舌鳥さんから色々聞いてるよー?」
 驚く冴子へにこーっと笑いかけたアルマは、百舌鳥の背中から離れると向き直り居住まいを正した。
 その視線が、ちらりと美紅へ向けられる。
「初めまして、化け物ですよー」
「えっ?」
 笑顔のままの一声に、冴子が目をぱちくりと瞬かせ、美紅は口元を真一文字に引き結ぶ。
「ハンターの、それも百舌鳥さんと親しいお知り合いとお見受けしますが、そんな方が化け物だなんてとても思えません。化け物というなら、イクシード・アプリに頼ることを続けていたことで生まれていたかもしれない私の成れの果ての方がきっと……」
「わーわー! そんな暗い可能性の話は無し無し! 美紅ったらもう、真面目なんだから!」
 立ち込めかけた重苦しい雰囲気は慌てて遮った冴子によって霧散する。
 目を丸くしていたアルマの表情に、ゆっくりと温かな笑みが広がっていく。
「百舌鳥さん、いい子たちですね」
「そうだろう?」
 満足そうにケラケラと百舌鳥が笑った。
 その後は自己紹介を済ませ、アルマを加えて一行は雑談に花を咲かせた。
「凄い……! アルマさんは守護者で、アルマさんの奥さんは精霊なんですか!?」
「天秤なる守護者……それは一体どういうものなのでしょうか」
 感嘆する冴子に対して、美紅はむむむと唸る。
 二人にアルマは全く隠し事をしなかった。
「願いを拾って、量って、叶える。その役目を務めるものですよ」
 美紅の疑問にもあっさりと答える。
 訪れたハンターたちの中には、ひたすら食事に興じている者もいた。
 例えばディーナ・フェルミ(ka5843)は、マイペースにマイどんぶりを手に、エンドレスで芋煮とお汁粉、炭酸水を食べ続けて回っていた。
「山盛りいっぱい下さいなの!」
 おかわりコールに錬金術師組合の関係者は芋煮汁を山とよそった。
 そして隣の錬魔院の会場に目を向けて、にやりと挑発的な笑みを向ける。
 錬魔院の関係者たちの額に青筋が走った。
 そんなやり取りなど気に留めないディーナは、キラキラ表情を輝かせ、心なしか周囲にまで輝きが広がっているかのような機嫌の良さで芋煮汁を完食する。
 その足で今度は錬魔院の会場へ向かった。
「お汁粉山盛りで下さいなの白玉も焼き餅もどどんとなの、田楽もバッサバッサと盛って構わないの!」
 ずずいとどんぶりを差し出すディーナに、錬魔院の関係者たちは一同満面の笑顔を向けた。
 どんぶりに大量の白玉と焼き餅が入れられ、なみなみとお汁粉がよそわれる。
 さらに別の皿が準備され、山のように味噌田楽が盛り付けられた。
 錬金術師組合の会場で芋煮汁を貰った時よりも明らかにサービスされていると分かる量に、ディーナの表情がさらにキラッキラになる。
 今度は錬魔院の関係者たちが錬金術師組合の関係者たちを煽り始める。
「美味しいからもう一周するの!」
 全て食べ終えたディーナはハンターズソサエティーの会場で炭酸水を貰って一気飲みすると再び錬金術師組合の会場におかわりを貰いに行った。
 こうして、二つの会場はディーナへのサービスを競い合っていたのである。
 ちなみに当のディーナはわざとやっているわけではなく、完全に素だった。
 すぐに料理が無くなりそうであるが、そうはならなかった。
「どんどん作りますよぉ~♪」
 両方の会場を回り手伝いをするハナが、次々に新しく作り足していたからだ。
 作った傍からはけていく光景は料理人冥利に尽きるものであるし、良い食べっぷりは作る側としても悪くない。
「楽しいですねぇ」
 忙しく働きながらも、ハナの表情から笑顔が消えることはなかった。

●幸せな一日を
 宴もたけなわ。
 酒が入っていい感じに出来上がった者が出てくる頃合いになった。
 アーサーもその一人だ。
「おい、白玉と餅だけくれ」
 最初に錬金術師組合の会場に向かいお汁粉の汁抜きという謎の注文をすると、次に錬魔院の会場に向かい同様の注文をする。
「味噌だけくれ」
 そうしてアーサーはそれらを混ぜ合わせ、白玉田楽、餅田楽とした。
 再び錬金術師組合の会場に赴く。
「今度は芋だけと汁だけの二種類頼む」
 残っていた味噌に芋を搦めて芋田楽とし、汁に白玉を落として白玉汁とした。
 そんな中、お汁粉を肴に黙々と酒を飲んでいたピーターが一心不乱に餅をつき出した。
 どうやら本格的に酔っ払ったようだ。
 餅つきの最後に跳躍し縦に高速回転しつつ杵を振り下ろすが、目測を誤って地面をぶっ叩き衝撃でひっくり返った。
 大の字に倒れたピーターはそのままやがていびきをかき始める。
 レイアが連れてきたポルンは皆のアイドルとして可愛がられていた。
「ふふ。大人気だな」
「もふもふだー!」
「これは、病みつきになりそうです」
 主にまよいやサクラに撫でまわされている光景を、レイアも笑みを浮かべて見守る。
 肝心のジェーンは目を輝かせて手をワキワキと動かしながらにじり寄る姿でうさんくささが爆発し、ポルンに逃げられていた。
「あいつは……うん、まぁ好きなのかな。ある意味予想通りではあるか」
 ぽつんと残されたジェーンの背中に哀愁が漂っているのを見て、レイアは笑みを苦笑に変えた。
「はわぁ……か、可愛い」
「温かくて……柔らかい」
 一方で、アルマのミーティアと百舌鳥のポロウを撫でさせてもらい冴子と美紅の表情が溶け崩れている。
「いやあ、いいねぇこういうのも」
「そうですね」
 そんな二人を、百舌鳥とアルマが微笑ましく見守っていた。
 その頃、ざくろとアルラウネの間で、一生の思い出になるかもしれないやり取りが行われていた。
「これ、誕生日プレゼント」
「まあ! ……あら? これは」
 包みを開けて出てきたのは、女物の服だった。
「寒くなるし、お腹冷やさないようにと思って選んでみたよ」
 少し照れくさそうに、ざくろがはにかむ。
「嬉しいけど……。いいの? 服を着ないのがルールなんじゃ?」
「待って。その謎ルールはどこから?」
 ぎょっとしたざくろは慌ててアルラウネを問い質す。
「だって、服装の指定は無しなんでしょ? 服を着ないのがルールだと思って、今までそうしていたんだけれど……」
「ど、どうしてそうなったの!? アレはそういう意味じゃ無くて、どんな服装でもいいっていう意味で……」
 しどろもどろになりながら、ざくろは顔を真っ赤にしてアルラウネに説明したが、正しく伝わったかどうかは定かではない。
 一人、トリプルJはそんなやり取りの喧騒を聞き流しながら芋煮汁を啜っていた。
 その視線の先には、貧しいと分かる簡素な服装ながら、笑顔に満ちて芋煮汁やお汁粉、味噌田楽を食べているトアたち家族の姿がある。
 何ということはない光景だが、それはトリプルJたちハンターが命を懸けて守り切った平和な光景だった。
 平凡で、しかし尊い風景だった。
 もしかしたら失われていたかもしれなかった日常だった。
「悪くねぇな、こんな日も」
 空を見上げながら酒を呷り、目を細める。
 晴れた空に雲は流れ、そよ風が吹く。
 ただそれだけでも、酒が美味い。
「いただきますぅ」
 ひと段落して手伝うほどの忙しさでもなくなったハナが、ようやく自分の芋煮汁とお汁粉、味噌田楽にありついている。
 和やかに時間が過ぎていった。

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参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ピーター
    ピーター(ka0471unit003
    ユニット|幻獣
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ポルン
    ポルン(ka4082unit003
    ユニット|幻獣
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ミーティア
    ミーティア(ka4901unit005
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥(ka6287
    鬼|23才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    ポロウ(ka6287unit003
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/09/21 00:00:09