為政者の休日

マスター:石田まきば

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~4人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/10/01 19:00
完成日
2019/10/03 10:15

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●第三師団、エルヴィンバルト要塞

「……私は何をやっているのだろうな」
「ゲーベル師団長」
「酔ってないぞ?」
 ぽつり、と執務室に零れた声には直に反応が返される。カミラはそんなテンポの良い空気も非常に好ましいと思っているが、それを口に出すことはしない。
 彼女の有能な部下は、怒ると少しばかり面倒なのだ。
「いや、なんというかだな。私は帝国の食事事情を改善したいと思ってここに来たはずなのだぞ?」
 お互い今日の仕事は終えていて、今実際に手掛けているのは明日以降でもいい仕事だったリ、こまごまとした片付けだ。だから会話なんて問題なく、手元は少し速度を落としたのみで動き続けている。
「それは着任当初から伺っています」
 有名ですし、師団の皆はわかりきっていますよという部下の言葉に満足そうに頷いて、カミラは爆弾を落とした。
「だからな、師団長を辞めるのも手だと思うんだ」
「……………」
「ん、なんだテオ?」
「いえ、何も聞えませんでした」
「だから師団長を辞」
「聞えませんね」
「聞こえてたんじゃないか!?」
「……いきなりなにを」
 渋々と言ったように、あからさまに特大の溜息を吐きながらうながす副長に、カミラは目を輝かせる。
「正直、帝国の食事事情はもう十分だろう? それが私の力ではなく、ハンター達の持ちこんだ知識や技術によるものだというのは若干悔しさもあるが、喜ばしい事だ」
「だったらそのままこの席に居ればいいじゃないですか」
「だがなあ、私自身が自分の技術を極める旅に出たいと、ふと思ってな? これからならリアルブルーも行ける気がしないか? ……今の“出刃”も気に入っているが“戦うコックさん”とか絶対に格好良いだろう?」
「カルヴァドス瓶ごとその口に突っ込んでほしいんですね分かりました」
「待てテオそれでは私が酔いつぶれる! 何でシードルじゃないんだ!?」
「前後不覚になって記憶と世迷い言を次元の彼方に吹き飛ばせばいいと思いますよ」
「……駄目か、テオ?」
「駄目です」
「すこっしもか? 譲歩なく?」
「隙間も欠けもどこにもありませんね」
「そうかー……まあ、陛下のことも好きだからなあ私」
「部下達の心情も慮って下さい」
「ああ、もちろんテオの胃痛もな?」
 このやりとりは今後頻繁に繰り返されるようになるし、もう一人の副長も加わって終わりのないコントと化すようになる。それを楽しみ始めるカミラ、というわけなのだが……それはまた別の話である。


●雑貨屋二階、エルフハイム出張所

「……やはり……保養所の建設は早い方が良さそうだな」
 森都に居る部下から上がってきた報告書を読みながら、これからとるべき方策、その優先順位を付けているのはユレイテルである。
 近々帝都での庶民議会に参加するため、経由地でもあるここ、マーフェルスにて溜まっていた仕事を黙々と片付けていた。
「大長老様。庶民議会の方から回ってきたデータ、纏め直しておきましたので」
「ありがとう、助かる」
 パウラの声がして、視界の隅にデバイスが置かれた。常に記録用の本を手放さなかった彼女は、紙とペンで速記が可能程優秀な秘書なのだが……最近、タイピングソフトなるものと出会ってしまったのである。
 本来の図書館員だった彼女は紙の質感やインクの香りに拘るほどの本好きであるのだが、仕事の全てを手書きで、という現実に限界を感じていた。
 というより、決定的なこと……リアルブルーで言うところの腱鞘炎になってしまったのだ。
 なにせ上司は大長老ユレイテル。帝国の庶民議会に席を持つ異色の議員。この事務所にも外交や商売に関する仕事はあって、とにかく日々を過ごすだけで仕事は増える一方なのである。
 更に最近は結婚式の為のスケジュールをあけるためだと、仕事を前と後に随分と詰め込んでいた。それがまだ……終わっていない。
“読んでいて楽しい物語の為に身体を壊すなら本望”ではあるけれど、パウラの場合は仕事が原因である。
 仕事を喜んでこなしているように見える上司はともかく、パウラはどちらかと言えば早く図書館に異動したいと思っているのである。自由日本と戯れる時間が欲しいのである。
 なので、仕事では本来自身が持っているポリシーを、ついに曲げることにしたのだった。
 カタカタ、カタカタタッ、タタン!
「……その音は?」
「お聞き苦しかったなら申し訳ありません」
「いや、そうではないのだが……なぜ、態々それを?」
「? 普通のキーボードですが?」
「少し旧式では、と思うが」
「いえ、私はこれが。ほんの少しでも、文字を書いている実感が欲しいので」
 魔導スマートフォンなどのタッチパネル式は“記録している気がしない”ということらしい。
「……そうか」
「要件はそれだけでしょうか、ユレイテル様」
「中断させて悪かった」
「いえ、丁度切れ目でしたので……これも、お願いいたします」
「わかった」
 またひとつ、確認しなければならない書類データが増えた。
(……可能性はまた一つ、増えた、か?)
 新たな書類の作成を始める秘書の背をみながら、ユレイテルはしばらく考え込むのだった。


●金槌亭

「先日はキーボードをありがとうございました」
「私のお古でよかったんですか」
「? どうしてでしょうか?」
「普通は新品を欲しがると思うのですが」
 伝もありますし手配しましたよ、と静かに語る副長に、秘書は心底不思議そうに首を傾げた。
「新品なんてめっそうもない。使い古されているのがいいのではありませんか」
「……そういうものですか?」
「そういうものです」
 少なくとも、私は。
「毎日毎日データばかり、新旧の確認はあくまでも数値だけ……何か、過去を実感させるものがないと、仕事にならなくなっているんです」
「……難儀な性格ですね、貴女」
「元の持ち主である貴方に使い勝手を聞けるので、困った時に助かります」
「……はぁ」
「?」
「貴方の上司は機導師だとお聞きしていますが」
「私の疑問に時間をとらせては、他に支障が出ますので」
「……私のスケジュールに対する配慮は」
「ご自分の調整だけでなく、師団の調整全ての統括をされている方が、長耳族の小娘の為に私生活の時間を割いているとでも?」
「そうだと言ったらどうしますか」
「どうもしません」
「随分と変わりましたね。昔は随分と世間知らずだったはずなのに」
「……なっ、それは!」
「あれだけの激務に揉まれれば仕方ありませんね」
「っ!」
「まあ、私も侮っていましたし」
「……はぁ」
「……これで、おあいこですよ」
「!」

リプレイ本文

 出張所はあくまでも最終目的地だ。
(さて、途中何店くらい本屋があったかな……)
 脳内地図を広げるシルヴェイラ(ka0726)の視線の先にはエルティア・ホープナー(ka0727)が古書探索に励んでいる。
 特別急ぐ予定もない為、あえて本屋を避けるほどの理由はない。
 なにより、本に関しての嗅覚が鋭い幼馴染の事だ、たとえ別の道を通ったとしても、感づいて元の道に戻るか、それとも新たな本屋を見つけるか……結果は変わらない。
(はぐれないようにだけ注意しておけばよいだろう)
 荷物持ちそのものは当たり前すぎて、意識する必要さえもない。

「色々と大変そうね……」
 と言っている筈のエアの声は、間に本があるからかくぐもって聞こえにくい。
「エア、流石に……突然すまないね」
 ユレイテルには気さくに挨拶を向けるシーラが、さりげなくエアを窘める。その声に素直に応じて、借りた机に今日の成果である本達を置いた。丁寧過ぎるくらい、ゆっくりと。
 早く紐解きたい思いは変わらない。けれど訪れた用事もまたエアにとって大切に思っていることなのだ。
「……けれど、やっぱり期待する者も多いし……手伝える事が有れば言って頂戴」
 近くに居れば手伝うわ。そう続くあたり素直だ。
「機会があえば頼むとしよう」
 ユレイテルの声は僅かに笑いが含まれている。シーラに目配せがあったことを、エアは気付かない。
 ふと、シーラの居る場所とは違う、誰もいないはずの場所に視線が向かう。
(もし……それが、叶ったとしたら)
 友人になりたかった、そう思えた誰かがいたかもしれない場所。
「少しでも長く、森の外に居られる様に……」
 エアは彼の願いがそうであったと信じている。だから。
「彼の生きた証で誰かが救えたら……そう、思っているのよ」
 それが叶うなら、いつか。
 見たことのない表情で、知らない物語を紡ぐ彼に出会えるかもしれない。それが楽しみだから、出来る事を。

 エアの呟きは小さくて、すぐ傍のシーラにしか聞こえていない。
「小物の新作は何があるか聞いても?」
 シーラはエアの思考を止めない。そして背を押しもしない。ただ、傍で当たり前を続けるだけだ。
 植物モチーフがあるはずだと尋ねれば、今は小動物が好むような小さな木の実のものが多いらしい。林檎のような果物とはまた、別だ。
「……進めるとするなら、これか」
 ユレイテルの指示でつくられたらしいそれは石を磨き素朴なドングリの形そのものに整えた首飾り。その花言葉にシーラは購入を決める。
 物思いにふけるエアは、幸いにも会話を聞いていなかった。
 ただ、シーラに贈られるまま。首から下げる。

「帰りたくないわ」
 食事をとりながら、零れてしまうのはエアが常に持ち続けている物語への欲求。
 その言葉に、対面に座るシーラが一瞬動きを止めた事には気づいていない。エアの熱い視線は傍らに置いてある、というよりも積み上げてある、手に入れたばかりの本達に注がれているのだから。
 しかし今一番エアの興味を惹くのは、一冊の貴重な古書だ。
「ねえ、シーラ……だから」
 二階の部屋を一晩借りましょう?
 言葉にしなくても、視線だけで通じると知っている。実際、幼馴染は頷いてカウンターに頼みに行ってくれた。
「……少しだけ……」
 古書に手を伸ばそうとしてから、すぐに引っ込める。
 食事中だと言う事を忘れていた。
「早く読みたいわ、貴方に綴られた言葉を追って、示された情報を抜き出して。新たな物語の結末に誘われたい……」
 本当は、食事をしている時間さえ勿体ないと思っている。
 けれどそれはシーラに言うことはない。これまで共に歩いた日々の中で何度も繰り返してきたから、今更言う必要もない。
 でも、きっと、言えば呆れることだろう。
「……それも、今更なのかしら」
 視線は変わらず古書の、古ぼけた装丁を、微かな汚れを、擦れた題字を追っている。

(一部屋、でよい……よな)
 今までだってそうだった。それが当たり前だった。
 普段の生活空間は確りと分けているのだが、こうして二人で出歩く時、不慣れな場所の時、目を離した隙にどうなるか心配になる程に生活面に気を使わないシーラの愛しい幼馴染は、基本的にシーラの世話がないと色々と成り立たないのだ。
 だが今日は、いつもほど、押し隠すには難しく思えた。
 世界が平穏に近付いたから気が抜けたこともあるだろうけれど、やはり先ほどの贈り物のあたりで、さりげなく惚気られたと感じたからだろうか。
 危うく別の意味にもとれる、エアの言葉のせいかもしれない。勿論、視線を追えば理由までしっかり把握できたわけだけれど。
(誰かのせいにするとは、私らしくない)
 平静を装って一部屋借り受ける。幸か不幸か、他の部屋は丁度埋まっているらしい。理由付けは、完璧になってしまった。
「……すまない、後で寝酒を頼めるだろうか」
 自制心は完璧だと自負があった。まさか、酒に頼る日が来るとは思わなかった。

「暫く一段落か」
 溜息に意識を向ければ、酒精の香りが鼻をくすぐる。
「珍しいわね」
 カルヴァドスの甘い香りを楽しむように聞けば、ため息交じりの声が返る。
「私だってたまには珈琲以外を飲む事もあるさ。仕事の最中という訳でもなし……」
 シーラの呼吸と同じタイミングで頁を捲る。
「一緒に飲むかい?」
「この夜のうちに読み終えたいわ」
 古書から目をあげずに答えるのはいつも通り。それはいつも通りのやり取りだ。ただ、珍しく酒があるだけで。
「……この先どうなるだろうな」
 珍しく、酔っているのだろうか?
「戦争に勝ったとはいえ、失われたものも多い。心配はさほどしていないが……」
「ありのままを物語として留めおく、それだけでしょう?」
「そうだな。人という種はとても強いものだ。私だって、君と共に目にして来たのだから」
 衣擦れの音が近づいてくる。
「エア。折角だしリアルブルーにでも遠出してみようか?」
 やっぱり、酔っているのかもしれない。とても魅力的だけれど、現実的な幼馴染が言うにはいささか違和感がある。声音で冗談だと分かるけれど。でも。何か違うものも混じっているような気がして。
「……そういえば」
 近くなった顔を見て、思い出す。
「シーラ、私また旅に出るわ」
 リアルブルーよりも近い場所に。現実的な、けれど雲をつかむような手がかりだけを共にして。
「この子の片割れを探しに行かなくてはならないもの」
 マテリアルが文字と共に、黒蛇の姿を浮き上がらせる。腕を這い寄り添う精霊の姿を示して、そのままシーラを見つめる。
「東の……エトファリカに渡った所迄。情報が得られたの」
 戦いが終わった今、ハンターとなった切欠であり原点を。本来のエアが求めていたものに、取り掛かりたい。
(かの国での戦いで、損傷が無い事を祈るばかり……)
 こうして話している間も、本当は気だけが逸る。けれど一人で発たなかった。幼馴染の傍に居た。
「シーラ……貴方はどうする? 」
 確かにあの一人旅からの帰還、ひどく叱られはした。けれど同時に心配だけを向けられて、苦しかったことも覚えている。
 問いかけるのは、あの時を除いて。ずっと傍に居る幼馴染が、どうするか……その答え次第で過る、微かな寂しさへの予感に怯えているからだ。
「……エア。私は常々言っているだろう」
 微かな不安の色を取りこぼすことなく、シーラはエアの瞳を捉える。
「何がどう変わろうとも、変わるつもりもない事もある」
 私が、私の意思で君から離れることはない。
「これからも、君の隣に居るさ」



「それじゃ、ユレイテルさんに会いに行きましょうなの」
 約束した時間通りに出張所前で落ち合ったディーナ・フェルミ(ka5843)が前を、協力者である穂積 智里(ka6819)が後から続いて事務所に入っていく。
「こんにちはなの、ユレイテルさんか、ユレイテルさんに連絡できる方に会いに来たの」
「ご相談したいことがあるのです。取次いでお話を聞いていただける方がいらっしゃるなら、その方でも構いません」
 そう告げたディーナと智里は、応接スペースへと案内されるのだった。

「お待たせして申し訳ありません。先に私がお話を伺います」
 お茶を運んで来た少女のように見えるエルフが、そのまま二人の対面のソファへとつく。
「貴女は?」
「この前の、記録係さんですよね」
「改めて自己紹介させていただきます。大長老ユレイテルの秘書を務めております、パウラと申します」
 書類を纏めるお手伝いもしておりますから、報告はお任せください。その返答に納得した二人が話し始める。

「私達、先日の依頼……森都の巫女達の話の際も、ハンターとして参加していました」
 切欠を話し始めるのは智里になった。
「覚えております」
 簡潔な言葉だが、その時の様子も全て余さず記録していた様子を思い出して、智里は乾いた笑いを浮かべてしまった。
「私が智里さんに話したように、私も智里さんから、研究者達の様子を聞いたの聞いたの。私達は、これからも北征や南征のために浄化の武具を求め続けるの」
 それで。言いながらディーナが示すのはフォーティアン。隣に座る智里もエグリゴリを見せる。
 パウラはそれらに一度視線を向けたけれど、すぐに二人の言葉の続きを待つように、視線を戻した。
「その過程で手に入れた、余剰分なら。そのままお渡しして、巫女ちゃん達の穢れ浄化の研究に役立てて貰えればと思ったの」
 智里が、もう一方の手に持っていたヴァイザースタッフを机の上に置いた。
「私のフォーティアンや智里さんのエグリゴリは希少過ぎて、使用状態を見せる事しかできないけど。それ以外の機導術を使える武具を提供することで、穢れの浄化に関する研究が進むなら。じゃんじゃんやってほしいなって思ったの」
「希少なだけではなくて……このエグリゴリは私のメインウェポンですのでお渡しできません。でも、ディーナさんのおっしゃったように、この錬金杖はそのままお渡しすることが可能です」
 もちろんこれひとつだけではないと、急くように言葉を紡ぐ。
「今日は持ち込めませんでしたが、他にも 蒼機剣2種や蒼機杖E=Dグラジオラス、魔導機式抜刀剣白雪等でしたら、無償でお渡しできます。必要ならお送りしますので仰って下さい。森都の研究者の方は、解析するなら分解されるのでしょう?」
 実際に杖を狙われた智里は、あの時遅れをとったことを少しばかり恥じている。研究者の熱意を侮っていたと、そう思う。
「私達のメインウェポンはお渡しできませんが、集めただけの武具ならお渡しできます。私達は1日でも早く森都の巫女様達の浄化のお手伝いをしたいと思っているのです。ユレイテル様が確認した物を持込むなら、森都の研究者にとっても問題ないかと、そう、思いました」
「……」
 話し終えた後も、パウラは黙っている。手は止まらずに、キーボードをたたく音が続いている。
「パウラさん?」
 手が止まったところで、智里が声をかけた。ゆっくりと視線が重なる。
「いえ、大丈夫です……そうですね、私でもわかることもありますので、いくつか、お話しさせていただいても?」
 それで互いの理解が深まるならと、頷く二人。
「では、二つほど……お二方の武器が、希少であることは私にもわかります。何より研究者達は専門家です、それ以上に理解しています……確かにあの場で手元から奪うことを止められなかった私にも非はあります、申し訳ありませんでした」
 一度、深く頭を下げる。
「彼等はあの場で解体への意欲を見せようとも。観察だけに留めております。未知だからこそ、簡単に解体などできるはずがありません」
 今、智里が提供しようとしている錬金杖のように、あらかじめ、その前提で渡したものならともかく。
「ですので、解体することだけが研究ではないと、それだけは誤解していただきたくありません」
 失礼な態度だったことは、重ねて謝罪申し上げます。
 もう一度頭が下げられる。
「……いえ、こちらこそ……」
 饒舌さに飲まれて、智里はそう言うしかなかった。
「もう一点は疑問です。お二方は、どうして希少なものを提供してまで、私達に報いようとなさるのでしょうか」
 真直ぐな視線が、二人を射るように見つめる。
「……高位の巫女が2人、お亡くなりになったと聞きました」
「私、あの場に居たのに、浄化術も蘇生術も使えたはずなのに。何で巫女様2人を喪わせてしまったのか、ずっと後悔してるの」
 ディーナの答えに、パウラが首を傾げる。
「私は法術武装を主に集めてるから、あんまり機導術関係を持っていないけど。それでもフォーティアンがあるから……多少は役に立てると思うの」
「咄嗟にリザレクションを使えなかったことを、ディーナさんは気に病んでいて。それで、私も気になっていたから、この提案をして……賛成してくれて」
 必死に言葉を紡ぐ二人は、パウラの疑問の焦点に気付いていない。
「……お気持ちは、ありがたいと思います。確かに、提供はありがたいですし、使用時の状況を見せていただくのは研究の為になると思いますが……」
 言葉の響きも、意味も。断りの意思を帯びている。
「「……??」」
 今度は二人が首を傾げる番だ。その様子に、パウラは一度呼吸を整えてから、尋ねた。
「蘇生術、とは……リザレクションのことをおっしゃっていると、そう受け取ってかまいませんでしょうか?」
 頷くしかない二人。
「では、僭越ながら。ハンターの皆様に依頼をするにあたり、私も勉強をさせていただいておりますので」
 そう、前置いてパウラは淡々と続ける。
「そのスキルは、戦闘不能になり倒れた者の傷を癒す術。即死の、つまり既に死んだ者を生き返らせるものではありませんよね?」

 高位巫女達は、堕ちかけた少女巫女達の穢れをすべて引き受けていた。
 仮に彼女達二人をスキルで浄化しようとしたとして、その場の全員のスキルでも足りたかどうか、むしろ足りなかった筈だ。
 その為に森都の長老達は居た。彼女達を確実に殺すために刃を振るった。
 高位巫女達だったからこそ、多くの穢れを抱えてなお、死の刃を受け入れる為、自身の身体を抑えておくことができたのだ。

 お話を続けることが難しそうですし、今日はお引き取り下さい。呆けたままにそう告げられた二人はとぼとぼと帰路につく。
 差し出した錬金杖も智里の手に戻っていた。
「筋違いの謝罪がわりに差し出されたようにしか見れない、ですか」
 つまり、受け取りを拒否されたということだ。
「見せてくれるのは歓迎だ、とも言ってたけどね……」
 ディーナの声も沈んでいる。歓迎、という言葉はそのままに受け止められそうになかった。行き掛けの寄り道で堪能した、数々の料理の味がうまく思い出せない。
 買い込んだ小物達も手元に残っているけれど。味気ない、思い出以前の品物になってしまった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 物語の終章も、隣に
    エルティア・ホープナー(ka0727
    エルフ|21才|女性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言