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　今日もご苦労だった。
　そう労うように換え馬業者の老人が馬車から馬を解放し、小屋に入れる前に街道のすぐ横に設置した桶で水を飲ませる。
　近隣の地方都市へ中途半端な距離に位置するこの小さな集落は、殆ど換え馬業と近郊産業の寄せ集めで出来ている。必要最低限の施設のみを街道沿いにおき、農業地といくつかの工場、地方都市の消防兼自警団の訓練に使う練兵場が道の周囲を囲むだけ。換え馬業も簡易宿も細々とほぼ日々のルーチンワークばかりで、たまに騒動が起きた時だけ飛び込みの客が来る程度であった。

　だから。
　その軋む車輪と荒ぶる蹄の音はイレギュラーで、水を飲み終えた馬を牽く老人は何事かと街道にのりだし、その異変に襲われた。
　悲鳴に慌てて飛び出しなんとか老人を救出した宿の若者が、医者とオフィス出張所に連絡をとり、たまたま別件で集落に居合わせたハンターが集まったころ──異変の続報と追加要請が加わった。

●
　状況を整理します、と受付嬢が詳細を提示する。

　老人と若者の供述はこうだ。
　馬が異様なゴブリンの馬車によって連れ去られた。
　賊どもは最初はしずしずと、薄暗い時間の脇道を潜むように進んでいたものか。孤立する馬か馬車を見つけると、その隠密行軍を解き、強襲するのだという。
「儂らが襲われた時は、２頭立ての戦車様式の馬車へゴブリンが３体……。着飾ったメス１匹が御者、下僕のようなオス２匹が弓持ち。そのメスの手綱で馬の一頭は猛り、もう一頭は馬具で苦しめられ無理矢理追いたてられるようで……」
「さらに異様だったのは、御者の操る馬具です。いや、他に乗っている弓兵も普通のゴブリンじゃなかったですが、あの御者が持つ手綱はただの馬具じゃない。それ自体が触手みたいな雑魔じゃないか、そんな動きをして、馬を絡めとりさらって戦車の馬列に加え去って行きました」

　ゴブリンは歪虚化。
　その手に操る手綱もまた歪虚、馬車に馬を繋ぐ触手型の雑魔だろう。本体は御者ゴブリンか、あるいは馬車そのものか。
　さらわれ繋がれた馬も、暫くの間は生きて取り戻せるかもしれない。しかし、永くは持つまい。やがて衰弱し歪虚に取り込まれ、今度は進んで人を襲う存在となる。猶予は殆どないだろう。

「続報と追加要請、というのは？」
　ハンターが聞く。受付嬢は、朗報といってよいものか……と前置き、自警団からの急報を示す。

　つい先ほど。
　街道を行く自警団の補給隊が、くだんの馬車に襲撃されその馬２頭を奪われた。
　老人の馬と合わせ都合４頭が、この半時間ほどで捕らわれたことになる。
　朗報というのは、その馬車の逃げ込んだ先というのが、自警団の練兵場であること。また、自警団の上役……地方都市の有力者が居合わせ、捕縛のための高速馬車を１台、ハンターに貸し出しても良いと表明していること。

「自警団の全面協力が見込めるってわけか？」
　ハンターの問いに受付嬢は首を横に振る。
　自警団とつくが消防が主な業務だ。もともと軍が派遣されるまでの応急処置しかできはしない。まして、集落へ急ぎ配置できるのは、練兵場駐在分隊である非戦闘員２０名のみ。地方都市からの本隊移動は間に合わない。練兵場の封鎖はできても強行突破に持ちこたえる時間と回数は少ないだろう。まして馬車相手の戦闘などは……
「有力者はかの馬車を「馬連帯」と名付け、馬連帯の迅速な破壊と捕縛された馬の解放奪還を、ハンターへ依頼しています」
　老人の依頼と合わせ、４頭。元から繋がれた２頭はもう駄目だろう。

　ほら、あそこです。受付嬢が練兵場の方角を指す。
　冬の夕方。薄暗い午後が夜へと変わるのはすぐだ。夜襲は避けたい。払暁は遠い。思っていたよりも時間の余裕はない。
「馬連帯、か……」
　馬をさらう暴走馬車。厄介な相手だ。
　だがそれ以上に──
　ゴブリン共の構成と相まって、なんかムカつく命名であった。

●
　練兵場正門横。人と馬一頭がかろうじて通れる扉をくぐり、簡易バリケードに取り付く自警団団員の略式敬礼にハンター達は手早く応える。
　取り急ぎこれがやっと。
　駐屯の数名が僅かな時間に対応できたのが、正門・通用門の簡易閉鎖と建物への施錠。図面類の持ち出し、であった。
　事務方が、図解するまでもないですが、と恐縮しながら図面と建物を交互に指差した。正門側、手前が車庫と馬小屋、奥が兵舎群。グラウンドを挟み、通用門側手前に倉庫群、奥が屋内訓練所などの施設群。敷地平面を囲む丘への道は元より馬車は通れない……

「こんなのがのさばってたら、迂闊に出歩けやしないよね」
　ミリア・コーネリウス(ka1287)は恐縮する自警団を、よく追い込んでくれた、と励ます。遊弋を防いだだけでどんなに助かったか。
「名付けのダジャレも負けん気のうち、か……」
　敵は柵を越えられない。利用しない手はない。皐月＝Ａ＝カヤマ(ka3534)はクオン・サガラ(ka0018)を手招く。引きずり出すか追い込むか？　いっそ両方できりゃいいんだがな。自警団のおっさん達、手伝ってくれるんだろう？　一緒に反撃しようぜと自警団へ皐月の笑み。
「タイムリミットはシビアに見るべきですね。確実に敵が狙ってくるのは、出口……」
　釣っても追い込んでも、最終的に敵は出口を探す。２つある選択肢を１つに絞る。クオンの思考。──さてどちらにするか？

「戸締りん時とバリ構築した時の様子を団員に聞いたっす。両翼手前側、馬小屋兼車庫……すぐソコっすね……と倉庫には気配なし。見通しが比較的いいのとバリ作業の気配で、奥に引っ込んだんじゃねぇかって」
　無限 馨(ka0544)の見る限り、闖入時の轍跡も正門からグラウンドを経て、奥へと続いている。つまり奥の兵舎群と訓練施設群の二択。建物形状と樹木の陰になる部分があり、夕刻の今、見通しは悪い。
　探索隊に立候補される方は居ますか？
「隠密に優れていても、物理的に馬車の隠れられる場所はそうないでしょう。二択なら複数人でセルを組めます。近寄る必要もありません。発見したら静かに逃げて」
　周波数は合わせてあります。月架　尊(ka0114)が自分と無限の持ち込んだトランシーバーを調整し自警団に差し出す。

　奥の建物からならば──
　出口の前、足止めになる場所を思案していたクオンの指が、図面の倉庫群の上をなぞる。
「この倉庫。グラウンドへ面した壁を使っても宜しいですか？」
　通用門手前。壁に寄せれば機動に制限がかけられる。伏撃するのに機材の取り回しもいい。なにより馬小屋に敵を近づけないですむ。
　自警団上役の快諾。
　好きに使ってくれと、倉庫と馬小屋兼車庫の鍵がハンター達に渡される。

「ゴブリン戦車か……」
　ふむ。だがモドキだ。襲撃された輸送隊の供述を元に、コレなら超えられまいと、バルバロス(ka2119)の筋力が正門前のバリケードを瞬時に補強した。歪虚の馬車でも物理的に超えられないと遠目にも判る。
　正門と車庫の前に自警団数名が荷を運ぶ。一見の限り──通用門側のバリケードを分解し、正門と車庫の補強作業中に見えるだろうか？　対して通用門はガラ空きだ。
　だが実際は──
「飛越訓練用の柵と……カモフラージュ用の網はありますか？　あとは丸太などは？」
　クオンと自警団が、倉庫内から訓練器具と消防用具を利用した偽装柵を通用門前まで運び、植え込みに隠す。丸太の代わりに鉄梯子はどうかと聞かれ、上等と返す。

「これが高速馬車か。ああ。ボクはアルベルト・ラートリー(ka2135)」
　よろしくね。
　車庫の中、調整が行われている高速馬車の横。遠藤・恵(ka3940)に差し出されるアルベルトの握手。
「は、はーいっ！　遠藤・恵ですっ！　こちらこそよろしくね」
　あの私、これがハンターデビュー戦だったりしてですね。いきなりこれで。
「うん。個性的なゴブリンだよね」
　別の仕事で来た筈なのに戦車相手。恵……新人ハンターにはとんだ番狂わせだ。でも変だけれどゴブリン相手だから。仲間も居るしね。アルベルトが雑魚の癖にムカツクよねと苦笑する。恵の緊張は取れただろうか。
　振り返って高速馬車。
「車庫周りには依然として敵影はありません。我々の警邏が牽制にもなっています」
　奴が車庫の中の馬を諦めたら、残るターゲットを我々に絞れます。月架が警邏から帰り、今度は馬連帯討伐の高速馬車に乗る。
「この馬車と開放した馬たちの回収、よろしくな」
　月架と同じく制圧班として馬車にのるミリアが、団員に段取りを頼む。
　おまたせ。
　皐月が倉庫側の警邏から戻ってきた。
「発見の連絡をもって状況開始、だぜ。ブースト装置の最終確認は出来てる？　よし！」
　馬車回収を担当する団員と皐月の略式敬礼。歪虚相手に、稼動時間に限りある試作高速機動装置。御者のリレータイミングはシビアになるだろう。

　ハンター達のトランシーバーが点灯した。
「じゃあ、頼むよ」
　アルベルトが恵に乗車を促す。
　私の特技が役立つかな？　役立つよね？


●
「奴さんら発見。通用門側の奥……訓練施設群の丘寄りの建物の陰で、グラウンド越しに車庫と正門を伺ってるっす」
　通用門は死角みたいで細工には気づいてねぇでしょう。取り急ぎ、団員は退避させるっす。無限が、推測される視界と馬車の挙動を報告する。
「了解、こちらも団員を一時退避。３分後に状況開始」
　クオンの応答。
　無限は倉庫に向かえ。鍵と窓は開けてある。
　自分も団員も配置につく。伏撃よし横撃上等、だ。

「物欲しげに馬小屋を見ておるか……」
　フン。ならば堂々と動くまで。
　頼むぞ。バルバロスは愛馬の首筋を撫ぜる。
「回避機動を打ち合わせ通りやりゃ、大丈夫じゃね？」
　高速馬車の御者席の皐月。俺は蒲柳の質だから、実践じゃなくてゲームや映画とか？　見てるだけ？　とかだけどな。カチ込みとかは苦手でね。皐月の物騒な独白。
　そして──
　馬小屋兼倉庫の扉が開き、騎乗のバルバロスと高速馬車がグラウンドに進み出た。

　静々と。
　そう。最初は警邏を装うのだ。
　先導するはバルバロス。その後を、頼りない備え付けの照明をともし馬車が追う。ゆっくりと、能力を隠し、御者席に皐月。荷台にはボロ毛布が１枚とミリア、月架、恵の３人……

　襲撃は静かで突然だった。
　グラウンドを大回りし訓練施設群最奥を超える。あそこで睨んでいる。そう知らなければ急襲に対応できるのはハンターでも難しかったろう。
　いきなりの車輪の軋みと蹄の音。馬車の背面すぐそこに、ゴブリン戦車──馬連帯が迫っていた。

「散開！」
　御者のメスゴブリンが距離を詰め、異様な馬具付の手綱を振り上げた。
　月架の警報！　バルバロスは右、馬車は左に散開する。
　メスゴブリンは一瞬迷い──騎馬のバルバロスを追った。
　獲物の数で狙うなら間違いなく馬車。だがバルバロスの武器、戦斧「アムタトイ」は馬の背に置いたままであり、一方、馬車の上には恵がその武器、重藤弓に矢をつがえ矢面に立つ御者、メスゴブリンを狙っていたためである。
『キィッ！』
　耳障りな声で背後の弓兵、オスゴブリンに恵の始末を命じ、メスゴブリン自らは馬連帯──戦車本体に繋がれた馬達に激をとばす。
「まずい！　が、貴様。ワシを追うてくれて助かったぞ」
　リアルブルーの鉄のグリフォンが、これと似た機動で敵を狩るらしい。２頭の騎馬で囮と追撃を担い、散開と強襲を交代で繰り返すのだそうだ。そぅら。横を見ろ。
　バルバドスを追ううちに、左旋回からブーストを起動し高速馬車が馬連帯に迫る。バルバロスの嬉々とした笑み。
　まだ、ワシを追うか。
　馬車の仲間がゴブリン共の手数を殺ぐ。故にバルバロスに焦りはない。
（無茶させるが頼むぞ）
　ロッテ戦術とやらのもう一仕上げ。愛馬に一喝、速度を上げ更に右へ。右へ！
　右手に倉庫群がさしかかる。
「かかりよったな。もう遅いわ！」
　そして、単騎の身軽さを活かした急減速。
　馬連帯はバルバロスの騎馬を追い抜き、右側面を迫る倉庫の壁に塞がれ機動を半減させていた。
「ハハハッ！」
　今度はワシが制圧班の支援に回る番であったな？

　数十秒前──

「おっさん、やるじゃん」
　左旋回から進行方向を通用門向けに戻し、皐月は高速馬車を追撃させる。
　負けてらんねぇし、馬に無理させらんねぇし、距離とられてブースト残数余計に食うわけにもいかねぇし。なにより……
「お爺ちゃんの馬返してくださいね！　今すぐ！」
　あの馬。お爺ちゃんが持ち逃げされた馬です。酷い……鞭打たないで！
「お爺ちゃん子の！　私が！　許しませんよ！」
　恵が半泣きで長射程をゴブリン達に射掛ける。当たらないのは元より承知。メスゴブリンを苛立たせ、射手のオスゴブリンを自分に向ける。
　敵の追跡対象と迎撃対象がバルバロスと馬車上の恵で乖離している今が、高速馬車を寄せる格好の機会。
「倉庫前ルート確定だね」
「伏撃班、いつでもいいって！」
　ミリアと月架のＧＯサイン。
　皐月がブーストにギアを入れ、その速度を誇るが如く馬連帯へ高速馬車が吶喊した。

　ブースト停止。馬連帯と高速馬車が並ぶ。
　敵弓手の射程内……
「今度は本気モードです。あったれー！」
　弓手同士の撃ちあい。２対１。
　これまでオスに施された強化、１回。恵、シャープシューティングを乗せ微動だにせぬ立射。
「っと。バフ追加はナシや。一発ヘッドショット喰らわせたろか、ワレェ！？」
　皐月が隠し持っていたライフル「メルヴィルＭ38」が、メスゴブリンに向かって吼える。
　その銃声に更に紛れ込むように、更に銃声──
「やっとボクの射程に入ってくれたね。これで仕事ができるよ」
　馬車の荷台の毛布が立ち上がって剥がれ、魔導銃「シルバーバレット」の銃口から狙撃の余韻を残してアルベルトが現れる。
　狙撃手は当てるのが仕事だからね。強化を受けて調子に乗ってるほうのオスを狙ったんだけど、構わなかったよね？
「構へんで」「僕は早くメス殴りたい」「ボクは触手が気になります」
　そんな同乗者の答えを待たず、アルベルトのエイミング。再射撃。
「手品はね。タネと仕掛けがバレる前に、次のトリックを仕掛けるんだったよね」
　見事な手品だったよ。有難う。
　今度こそ１匹のオスゴブリンを蹲らせ、アルベルトは恵に微笑んだ。

●
「馬連帯の右側面を倉庫の壁にコスらせた時がチャンス、だね」
「おう。ごっつエエ感じに寄せたるさかい気張っていけや」
　馬連帯に制圧班が強襲を図る。
　ミリアがバルディッシュを担ぎあげる。ようやくコイツの出番だ。
「伏撃班との同期完了。目算では通用口から３番目の倉庫で強襲です」
　月架がクオンのトランシーバー越しの音声量を上げる。恵が無限のサブ機にカウントダウンを送る。
『そろそろあの御者──メスゴブリンも通用門ががら空きなのに気づくでしょう。右手を塞がれ、後退もできず。左手の馬車を襲って強行突破を図るか、このまま直進し通用門からおめおめ逃げるか……』
　どちらにしても──
　限られた手数、だ。選ばれなかった選択肢に隙が生じる。
　機を逃さずに馬連帯を止める。
　さらわれた馬達の残り時間は少ない。歪虚どもにこれ以上浪費はさせない。

「手綱、残り８本！」
　この期に及んで馬を狙うか。それとも、弓手よりも効果的と判断した、メスゴブリンの高速馬車への牽制か？
　月架が馬車へ延びる手綱を切り落とす。
　弓手は強化される暇もなく、それでも健気にハンターへ矢を向ける。
「コレが気になりだしたか？　あぁん？」
　ミリアが今度は自分の番だと武器を誇示して攻撃を自らに引き寄せる。
「３・２・１……」
　恵のカウントダウン。
「っしゃコスった」
　皐月の再ブースト。高速馬車の加速と裏腹に、馬連帯の速度がガタリと落ちる。
　倉庫の壁と──御者が気づいたのだ。倉庫を抜けた先、目指す通用門の偽装柵。クオンと自警団らの伏兵に。

　──更に。
「甘いっす。大甘っす。伏兵が正面だけなんて、誰が決めたンすかねぇ？」
　突然！　まさに青天の霹靂！
　馬連帯が擦った倉庫。死角も死角。その高窓から無限が荷台のオスゴブリン背後に降ってきた。通用門前の伏兵に連動した更なる伏撃、倉庫側面からの奇襲。
「お嬢がた。いまカチ込む場所をあけるっす」
　懐の死角に入られた弓手など惨めなものだ。時間が惜しいっすから。その一言、それだけで脇腹にメイル・ブレイカーを喰らい無限に馬車から蹴り落とされる。
　制圧の大詰め。
　蹴り落としたオスゴブリンを追って馬車から飛び降り、引導を渡した無限の無駄に爽やかな笑顔と敬礼を受け、ミリアが殊更大仰に武器を振りかざし、離脱する高速馬車を背後に庇うように馬連帯に飛び移る。月架が再度手綱が投げられる直前に飛び乗り、メスゴブリンに斬りかかる。
「外した？　いいえ？　次の攻撃こそが本命ですとも」
　ボクもフェイントは得意なんですよ。咄嗟に腕で防御しましたよね？　そう。その腕、頂きます。メスゴブリンの手首から先が「クラウンナイツ」の斬撃で消失しした。
「あとはミリアさん。このメスは馬連帯ごと滅ぼしてしまいましょう。ボクは手綱を引き受けます」
　応！
「惨めだね。取り巻きの居なくなった勘違いブスって……」
　歪虚に侵されているから、バルディッシュの錆にもなりゃしない。
　そうだね。一気に戦車ごと片付けよう。
　ミリアの強打が何度も、何度も、メスゴブリンと馬連帯を打ち抜いた。

　制御を失いよろよろ迷走する馬連帯の前に、クオンとバルバロスが立ちふさがる。
「車輪を止めればよいのだろう？」
「はい。車輪が止まれば制圧戦から開放戦に移行できます」
　支援します。クオンがバルバロスの持つ鉄梯子へ攻性強化を施す。
　ガクリ！
　車輪に梯子を巻き込んで馬連帯の片車輪が歪んで折れる。
「あとは馬の開放か……」
「万一には防御障壁でお護りします」
　いや。手向けだ。抵抗は我が身に引き受けよう。バルバロスが雑魔化した最初の２頭を、ありあまる筋力で押さえつける。
　ええ。早く。一刻でも早く、馬を救い出してあげましょう。
　クオンによってトランシーバー全機に馬連帯停止が告げられた。


●
「おーい。そっちが終わったらこのデカブツ葬るの手伝ってよ！」
　ミリアと月架が、戦車と手綱を寸断してゆく。
　馬連帯は馬への執着そのまま、切れ端になってようやく消える。
　馬が１頭、また１頭。馬連帯のくびきから開放されていく。
「辛かったっすね。もう楽にしていいっすよ」
　既に雑魔化していた最初の２頭に無限がトドメをさし回向する。

「お爺ちゃんの馬も団員さんの馬も、助けられたね！」
　念のため一晩練兵場に留置するけれど、朝には戻れる。
　小さな宿場に平和が戻った。