弔い

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/30 19:00
完成日
2014/07/07 06:36

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 二人の旅人が眺めているのは荒れた教会だった。
 ひびの入った壁はシミが広がり、それを覆い隠すようにツタが生い茂っている。窓にはバツを描くように木の板が打ち付けられ、しかもそれは風雨にさらされて朽ちかけているようであった。漆喰が剥がれた塀の周りも草が繁茂し、教会を示す門標ですら探すのを困難にさせるほどであった。
 花束を持った髪の長い女性は寂れように悲しむ、というよりは、どこか遠い目をして自らの記憶を辿っているようであった。
「もうずいぶん経つのね」
「あの時にはもうボロボロだったしね。なんかあんまり好い感じゃないけど、本当に行く気?」
 女性を姉と呼んだ青年は大きな剣を背負い、周りに気を配っていた。確かに風は微かにすえた匂いを含んでいるし、太陽はかげり陰鬱な空気を強調させる。歪虚の影響を受けて破壊衝動にかられた動物が出てもおかしくないはずだ。
「ええ……あなた達のこと忘れてないって気持ち、届けてあげたいから。それに私を守ってくれるから、ここまで来てくれたんでしょ? あなたがいるなら大丈夫って、姉さん信じてるから大丈夫」
「あのね……どんな雑魔がいるかわからないところに墓参りに行くっていう身内を、はい、そーですか。って放っておけるわけないだろ」
 にっこり笑う姉に、弟は片頬だけ釣り上げてシニカルな笑みを浮かべた。ここに来る前までにもう何度もここに戻るのは止めようと言ってきたのだ。だが、姉はいつも同じ調子で微笑むのだ。まったく、こんな風に信頼されたらイヤだと言えなくなってしまうじゃないか。
 姉は弟が押し黙ったのを見て、もう一度にっこり微笑むと、花束を持ちなおして修道院へと足を踏み出した。
「それに悲しみを一人で背負い込ませたくないしね」
 か細い体ながら、草をはらい分けて歩いていく姉の背中を見ながら、聞こえないように弟は小さく呟いた。
 あの時。村が真っ赤に染まった夜。歪虚に襲われた記憶がよみがえる。
 狂気じみた咆哮。たくさんの悲鳴。断末魔。それらはまだ焼き付いて離れない。
 村に戻り、皆をこの修道院に葬り旅だった。あれから血のにじむような訓練を積んだおかげで、故郷を破壊した歪虚を見つけ出しこの手でトドメを刺すことはできた。だが姉も弟もその復讐の後に残ったのはすがすがしさではなく、虚無感であった。
 だからだろうか。姉が故郷にまた戻りたいと言った時に、口では制止を呼びかけるものの、止め切れなかったのは。

 草は奥に進むにつれ、数自体が減り、ほとんどが地面に寝そべるようにして枯れきってしまっていた。二人を歩を阻むものは少なくなり、歩きやすくはなっていたが、空気はさらに淀み、まるで水の中を歩くような重たるい感覚がつきまとった。
「墓は別のところに移した方が良かったかもね」
「でも、やっぱり眠るところは故郷がいいと思うわ。それに昔はこんなになると思っていなかったし……」
 そう言いつつも姉の言葉には後悔の色が浮かんでいた。これだけおどろおどろしい空気を歩いていれば、誰だってそう思うだろう。
 教会の壁が切れたところまで進むと、視界が大きく開ける。見えるのは等間隔に並ぶいくつもの石、石、石。
 墓地だ。
 いや、それは過去形に表現した方が良かったかもしれない。
 そこは負の生命がたむろう集会所だった。墓標の合間は不自然にへこみ、そこにいくつもの白骨が蠢いていた。彼らは虚無の眼窩からあるはずのない視線をこちらに送っていた。反射的に肌が泡立つような感覚に襲われる。
「姉さん、やっぱり墓参りは無理だ。引き返そう」
「でも……!」
 名前に反応されたことで、何らかの思念が残っているのでは。希望と絶望がないまぜになって泣きそうな顔をしながらも、姉は花束をしっかり抱きしめ続ける。
「でもじゃない! あっちの仲間入りをするために僕たちは来たんじゃないんだ!!」
 やはり、無理やり制止しておけば良かった。弟は心底後悔した。
 故郷の皆がアンデッドになっていることを予見してなかったわけでない。そんなことは百も承知で来たつもりだ。
 だが実際に蠢く白骨を目の前にして、これまでに体験したことのないひどい衝撃が心の中を走り、ようやく理解した。
 大切にしてくれていた人の残骸でも、手を上げることはできない。無理にその禁忌を破ろうものなら、自分のアイデンティティが根元から崩壊してしまうだろう。それは弟だけでなく、姉も同じのはずだ。
「姉さんっ」
 白骨の動きは思ったより早かった。気が付けば眼前に複数のサレコウベと尖った指の骨が迫っている。
 弟は素早く姉をかばい鋼鉄のアームレットで骨の攻撃を防ぐと、姉の腕を引っ張り一気に元来た道へと駈け出した。姉の手にしていた花束がその拍子に投げ出され、地面に落ちた。その衝撃で色鮮やかな花びらがグレーの世界に四散する。
 それを踏み荒らして骨は迫ってくる。
 姉弟はそれから無我夢中で走り続けた。

 気が付けば、淀んでいた空気は薄まり、ごく普通の草原の中にいた。息も絶え絶えで二人は座り込んだ。
「どうしよう……」
「他のハンターに頼もう。自分たちで決着つけられないのは歯がゆくて仕方ないけど、僕も姉さんも……きっと手を下せないよ」
 姉は不服そうな顔をしていた。自分たちが手を下せないことを他人にゆだねるなんてしたくはない。
 だが、自分たちでどうにかできるのか、と問いかけられれば、きっと答えられないし、歪虚を放っておくわけにもいかない。
「うん……そうだね、それがいいよね」
 姉は自分に言い聞かせるように、何度もそう言って頷いた。
 そしていつもの微笑みを作って、弟に向けた。
「できる弟を持てて、姉さんは嬉しいなあ。私だときっと一人で抱え込んでるところだわ」
「うん、そうだろうね。だから姉さん、依頼で来てくれたハンターに無理言わないように。姉さんが喋るとぼろが出て、みんな心配して無茶するから」
 声を詰まらせる姉に、追い打ちをかけるように弟は言葉をつづけた。
「あと余計な希望もいわない。間違ってもハンターに花束届けたいから同行したいとか、安全なところで埋葬しなおしたいから遺品を、とか。そういうのは来てくれた人に任せる。そして、どんな結果になっても僕たちは受け入れる。いいね?」
「え、あ……はい」
 反論させないように弟はまくしたてながら、姉の了承を奪い取った。
 それでもやっちゃうんだろうなぁ。と心に思いながら。
 いざという時は仕方ない。大事なものを守るのが僕が剣を握る理由なんだから。弟は剣を杖にして立ち上がり、もう一度遠くになった故郷を見つめなおしたのであった。

 ほんの少しの時間でいい。故郷に安寧を届けたい……。

リプレイ本文

 依頼者である姉弟と合流し、現場の村にいくまでの間にハンター達は軽く自己紹介をしていた。
「俺はザレム・アズール(ka0878)。よろしく」
 ザレムの挨拶に姉弟もそれぞれに頭を下げて、自己紹介をする。
「僕はジーン、それから姉の……」
「レアです。よろしくお願いしますね。たいして何もできませんけど……あ、お弁当用意してきましたから、一緒に食べましょう」
 弟はややぶっきらぼうな感じで、姉はそれを補って余りあるほどに愛嬌のある性格だった。愛らしい弁当箱を見て、初めての依頼で少し緊張気味であったトレイシー・ヴィッカー(ka1208)にもさすがに笑みがこぼれた。一方、シエル・ヴァンテスター(ka1612)はそんな姉弟の姿に強いプレッシャーがあるように見ていた。辛くて仕方ない。だが辛い気持ちが伝搬して自分たちの活動に影響を与えたくないようにひた隠しているのだと。
「あなた達お二方もハンター、しかも相当の手練れとお見受けするが?」
 それを示すかのようにクリスティン・ガフ(ka1090)の問いかけに姉弟はそろって一瞬だけ、表情が凍り付き、少し迷った後で弟がぼそりと呟いた。
「……いや。スケルトンですらまともに戦えないような臆病者のハンターだよ」
「いや、かつての住人が変異した姿なら当然じゃ。妾が同じ立場であれば簡単に覚悟を決められたかどうか」
 クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)の言葉に姉弟は少し救われたようであった。
「故郷に、思い出がたくさんあるのですね?」
 姉弟の心の傷をそっと布をあて、膿を吸い出してあげたい。そんな気持ちがトレイシーの言葉尻からうかがうことができ、それを知ってか知らずか姉は遠くを眺めるようにして語ってくれた。
「村の人みんな優しい人でした。全員が家族みたいで。いつでも太陽に包まれているみたいにあったかい。そんな村でした。みんなが私たち姉弟を守ってくれたんです。今度は私たちが守らないと、って、思ってた、んですけど」
「左様でございましたか……それが骸(むくろ)となりて彷徨う姿を見るのは辛ろうございましょう」
 ガルヴァート=キキ(ka2082)は傷とも刺青ともとれぬ痕に埋まった顔で静かに語った。キキには、仲間がアンデッドになったという経験はさすがにないが、仲間が幾人も目の前で失ったことはある。まだ出だしの若い頃は、そんな仲間をみて死の恐怖に震えたこともあったことを少しばかり思い出していた。
「身内を失う痛みは私にもよく理解できます。私の場合は事故でしたが……」
 シエルは姉弟の話を聞くにつれ、頭の片隅がちりりと痛むのを覚えたが、黒髪をかるく撫ですかし努めて何事もなかったかのようにふるまった。シエルの気持ちが己の過去に向いているのを気づいてか、ユリアン(ka1664)は姉弟に向かって強くうなずいた。
「身内を失っていなくても、供養してあげたいという気持ちはわかる。僕たちに任せてくれ」
「うん、任して。その気持ちは絶対に無駄にさせない」
 マファルダ・ベルルーティ(ka2311)はぐっとバスタードソードの束をぐっと握り締めてそう言うと姉弟も静かに頷いた。それを見てクリスティンはもう一度口を開く。
「そういうことだ。私たちは供養をする手伝いもさせてもらう。だが話を聞く限り、私たちがスケルトンと戦う事自体がレア殿やジーン殿の禁忌(タブー)に触れるかもしれない」
「ああ、見たくないものを見ないためにも、隠れていて欲しい。できれば耳も……」
 続いてザレムがそう言って、クリスティンが取り出した綿で作った耳栓を見せると、弟の方は苦笑いを浮かべ、複雑な顔をする姉の脇腹を肘でつついた。
「すごい念の入れようだな。だけど、ありがとう。ほら、姉さん」
「ううぅ……はい、お願いいたします」
「ふむ……。無理はするでない」
 明らかに見届けたい気持ちに揺れる姉の姿をみてクラリッサがそう声をかけるが、その言葉がきっかけとなれたのか、姉は少しだけうつむいた後、顔を上げた時にはすっきりとした明るい顔になっていた。
「ありがとう。お願いいたします」
 これで一同の覚悟も決まった。ハンター達は墓地の構造や戦術などを再確認し、いよいよ現場へと向かうこととなった。


「とは言ったものの、やっぱり木端微塵はまずいよね……墓石を踏みつけるわけにもいかないだろうし」
 トレイシーはロッドの具合を確かめながら、墓地を眺めた。教会の入り口でクリスティンと待機する姉弟の言う通り、墓石の隙間を通る道はスケルトンの這い出た後でひどく凹凸しており、その間を動く骨が目的もなく徘徊していた。
「骨の中核は腰骨だろうから、そこを狙おう」
 ユリアンもショートソードを構えつつ、墓地だけでなく自分たちが来た道なども警戒しながらそう言った。ただこの辺りに来た時あたりからモヤが出始め、視界はあまり良好ではない。このエリア自体が歪虚の影響を受け始めているのかもしれない。クラリッサやクリスティンがランタンを用意していたのは正解だったと言えるだろう。
「墓石の破損も心配しなくていい。ここで迎撃して近づかせる過程で順に削ろう」
 ザレムはそういうとマテリアルを活性化し、アルケミストタクトに注ぎ込んでいく。
「何か音や気配でこちらの存在を知らせる必要があるかな……」
「それならこのババアがその役目を受けましょうぞ。皆の衆、準備はよろしいかな?」
 揃った合図が飛んだと同時にキキは、一瞬で姿を消した。いや、駆けだしのだ。恐ろしいスピードで。枯れた体躯ながら踏み出したその足跡は広く深くまるで象を思わせた。
 宙空に舞ったキキは、自分たちの作った凸凹に足を取られながらのろのろと進むスケルトンを真上からダガーで襲いかかると、カシャァァァンというまるで陶器が砕けるような軽い音が響いた。スケルトンの一匹の頭骨から頸椎にかけてを粉々に打ち砕き、さらに踏み潰すようにして着地した。
 一般の人間なら即座に絶命しているような一撃ではあったが、スケルトンは多少砕け落ちたところでそれほど影響はなさそうだった。それどころか、生気を華々しく香り立たせるキキの登場を喜んでいるかのようだった。遠巻きに見ていた時とは明らかに違うスピードでキキを取り囲もうとする。
 が、キキをすぐ狙える場所にいた2体はシエルとザレムの機導銃の一撃を胸や脚に受けて大きく揺らいだ。
「今の間に早く戻ってください」
 致命にはなっていないが、自らを支えていた部分が破壊されて大きく動きがぶれる。シエルの言葉に従ってキキは再び跳躍して皆の元に舞い戻り、ユリアンとマファルダの間に立った。
「できるだけ引きつけよう。こちらから無理に出向かなくとも……」
「ひあっ!?」
 ザレムの言葉を遮るようにして風を切って飛んできたのはスケルトンの肋骨だ。前衛の間隙を縫うようにしてトレイシーの足元に突き刺さっていた。奴らは自分の骨を次々とへし折って投げてくる構えを見せる。キキが潰した相手など自分の頭蓋の破片を手裏剣のように投げてくるではないか。どれもハンターたちに有効打を与えるものではないが、突き刺さる時の勢いを見る限り、軽くはなさそうだ。
「全部投げつくしたら動けなくのかのう」
 新たに肋骨を投げようとしたスケルトンにマジックアローを叩きこんだクラリッサが唸った。
「それまでここで防御態勢? それにできるだけ綺麗に葬ってあげたいのに自分で自分の体をボロボロにされたら困るよ」
 マファルダがそう言って少し姿勢を低くした。ユリアンも同じように体をかがめて、マファルダと目で合図をした。そして、まるで何年も一緒に訓練してきたかのように同時に歩を奔らせる。
「てぇぇやぁぁぁぁっ」
 ユリアンは風を味方につけたかように加速した。あまりの速さに手負いスケルトンはその存在を視界にいれることはできなかったのであろう。まだユリアンが踏み込む前の場所を見たままのスケルトンの懐に飛び込むと気迫のこもった斬撃を叩きこんだ。腰骨を一気に砕き去る。
 そのユリアンの上をマファルダのバスタードソードが真一文字に閃くと、横に立っていたスケルトンが分断されて崩れ落ちた。
「あと2体っ」
 マファルダは薙いだ刃をそのままの勢いで地面にたたきつけ、その遠心力を利用して飛び上がり反転すると、自分の脇をすり抜けて進もうとしていたスケルトンの延髄に蹴りを叩きこんだ。だが、それだけで沈むスケルトンではない。着地しバランスの安定しないマファルダに振り返りざまに一撃を加える。
 一撃を覚悟したマファルダの視界に電光のようなフラッシュが襲った。
「スケルトンごときの勝手を私が許すわけないでしょっ」
 マファルダのレザーアーマーに軽く食い込んでいたスケルトンの爪は、光を浴びて一気に風化したかのようにボロボロと崩れ落ちる。
 それがトレイシーのホーリーライトによるものだと気づくのにマファルダは少し時間がかかった。というより今の言葉を発したのが、言葉少なで大人しい印象のトレイシーであるとは誰も思わなかったのだ。近くにいたシエルも一瞬、目を点にしていた。
「覚醒とは不思議なものよのう」
 ま、人のことは言えんがな。と艶めかしい微笑みを浮かべるクラリッサの髪はまるで命をいただいたかのように怪しく蠢いていた。そんな彼女が持つマギスタッフからはマテリアルの光が輝く。
 残り一体になったスケルトンは仲間を失ったことに気付くことなく、ユリアンの元へと歩み寄ろうとしていたが、クラリッサが生み出した光の迸りがそのスケルトンを飲み込まれて、そのまま崩れ落ちた。
「ちゃんと弔ってやるからの」
「これで終わりですかね。外にいるクリスティンさんに連絡を取ります」
 シエルが魔導伝話を取り出した。その普段真っ暗なインターフェイスが光を帯びた。まだ操作していないにも関わらず、である。姉弟を護衛していたクリスティンの声を聞き取ると同時にもうシエルは元来た道と走り出していた。
「向こうにもまだいるようです」

「よりにもよってやりにくい相手だな」
 クリスティンは刀を正眼に構えつつ、距離を見極めていた。後ろには姉弟がいるのでそれほど下がれるわけでもないが。
 スケルトンは仲間たちが戦闘してい方角と真反対の方から、ゆるりとやって来た。そちらに施設は何もないと姉弟からは聞いていたが、空間が存在していないわけではなかった。さまようスケルトンが行きつく先の可能性はあったのだ。
 特にここの教会の主であろう服を来た者であるならば。
「神父様……」
 敵の気配を感じ、そちらを先に向いたのはやはりハンター経験の多さからだろうか。クリスティンよりも姉弟の方が早かった。
「ジーン殿。すまない。手早く終わらせる」
「わかってる。姉さん。目をつぶって」
 弟はすぐさまクリスティンの意図を察して覆いかぶさるようにして身を庇った。
 それが恐怖から身をうずくませているように見えたのだろうか。スケルトンはクリスティンを差し置いて襲い掛かろうとした。
「斬り捨て御免」
 クリスティンがすばやく進路に割って入った。そして踏み込みと同時に、首の骨を切り裂いた。ほとんど音もなく、被っていたミトラに包まれるかのようにしてその上の部分は落ちてなくなった。
 だが、スケルトンはまだ動いた。首から上を無くしても覆いかぶさるようにしてクリスティンに襲い掛かる。
 鈍い音が響いた。
「間に合ったようですね」
 統制を失い、バラバラに崩れたスケルトンの遥か後方からシエルの声が響いた。クリスティンは手裏剣を拾うとそれを本来の持ち主に返して微笑んだ。
「ああ、タイミングも狙いも完璧だ」


「ご、ごめんなさい。あの、できるだけ綺麗に残そうって思っていたんですけど。私は装備とかあれば残したいと思ってたんですけど、結局着てなくて」
 場所を移動して、野原にある一本の樹を墓標代わりにして納骨していた姉弟にトレイシーはいっぱいいっぱいの表情を浮かべて謝罪した。ハンター達の力により、大きな損害もなくスケルトンはすべて破壊したのだが、全力を伴った攻撃は少々強力すぎたようだった。
「手加減なんて僕たちでも簡単にはできないよ。それにあの場所は歪虚化が進行してたから埋めなおすこともできない。おかげで姉さんも僕もこの手で運んであげることができたんだ」
 弟は微笑んでそう言ってくれた。姉も同意した後、ハンター達に深々と頭を下げる。
「それより怪我がなくて良かった……。私の無理なお願いでみんなに怪我一つでもあったら、その方が辛かったと思う。多分、一生悔やんでいたかも」
「気にしないことだ。歪虚は誰かが倒さねばならないし、人間が住める地域をこれ以上減らすわけにもいかない」
 スコップで埋葬するだけの深さの穴を掘っていたザレムに一息つくとそう言った。帝国ならばどのようにこの後の処理をするのだろうか、ふとザレムの故郷や家族の顔が浮かんでは消える。
「歪虚化を抑える手始めはこうして祈ってやることじゃろうな」
 クラリッサは言葉少なに、丁寧に拾い集めた遺品を穴へと収めていく。それに従いマファルダも同じように拾い集めた骨をそろえて穴へと運んだ。剣技を磨く際には考えもよらなかった思いが、ふとマファルダを駆け巡っていく。強くなる、強大な敵と巡り合いたい。その気持ちに揺らぎはない。だが、はて、私はいくつの死と向き合うのだろうか。
「……この者たちは幸せでございましょうな。祈ってくれる人がいる、覚えてくれている人がいるというのは」
 やがて運んできた遺骨や遺品はすべて収めおわり、土をかぶせ終わった後、小さな静寂の中でキキはぽつりと言った。彼女の記憶の中だけで生きる者は多い。弔ってやることもできずにいたかつての戦友が思い出されるのだ。
「それじゃ、最後にユリアンさん」
 トレイシーがそっと声をかけると、ユリアンは埋葬の間に作っておいたリースを姉弟に渡した。皆には埋葬を手伝ってくれた上にここまでしてくれたことに感激して姉は泣き崩れそうになったが、シエルに助けられつつ木の枝にかけることができた。
「みんな、ただいま……この人たちのおかげでやっとみんなの元に帰ってこれたよ」
 ただいま、か。ユリアンは青く広がる空を見上げると、ふと母親のことを思い出したのであった。
 それからしばらくの間、黙祷が続いた。その様子を後ろから見守っていたシエルは自分が両親の墓参りをしている姿と重ねてみていた。私は両親の墓前で何を祈っていたのだろうか。
 静かな時間が過ぎ、日も暮れかかった頃、クラリッサは立ち上がり姉弟に手を差し伸べた。
「さあ行きましょう。先輩方。私たちは歩まねばなりません」
 弔いは明日への道標。次にすべきことは未来へと歩き出していくことなのだ。

依頼結果

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重体一覧

参加者一覧

  • 風の紡ぎ手
    クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659
    人間(蒼)|20才|女性|魔術師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人

  • トレイシー・ヴィッカー(ka1208
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

  • シエル・ヴァンテスター(ka1612
    人間(紅)|21才|男性|機導師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士

  • ガルヴァート=キキ(ka2082
    エルフ|87才|女性|霊闘士

  • マファルダ・ベルルーティ(ka2311
    人間(紅)|20才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【弔い】相談スレッド
ザレム・アズール(ka0878
人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/06/30 18:40:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/25 07:50:14