• 王国展

【王国展】Route:A 濃紺の導母

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
2日
締切
2015/02/21 22:00
完成日
2015/03/03 05:33

みんなの思い出

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オープニング


 システィーナ・グラハム(kz0020)王女の執務室。王城のほぼ中枢にあるそこは、この季節においても調度品や暖炉によって暖かく整えられている。そこに、ぽつり、と声が零れた。
「ハンターの皆さまに向けて、王国観光庁の設立……?」
「ええ」
 システィーナ王女の声であった。応じた鈍く低い声は、セドリック・マクファーソン(kz0026)大司教。
「現状、復興が進んでいるとはいえ、先日のベリアルの侵攻の傷は、決して小さくはありません」
「そう、ですね。民も、傷ついています」
 システィーナの理解に、セドリックは微かに笑みを浮かべた。
「その通りです、殿下。この国には余力がある。故に、土地も、経済も、時が経てば癒えましょう。ですが――民の心に刻まれた傷は、生半な事では癒えません」
「……そこで、観光庁、ですか? ハンターの皆さまが、どう関わるのです?」
「彼らの存在そのものが、王国の治安や防衛――そして経済に、深く関わります。安全の担保によって、民草に安堵を抱かせる。現状ですとその重要性は、言を俟ちません。その点でハンターに対して王国の内情を詳らかにし、また、国民が広くハンターの存在と意義を知ることは現状では十分に価値あることです」
「そう、ですね……ハンターの皆さまが、この国の民にとって救いになり得る」
 手を合わせて、王女はにこやかに笑んだ。華やぐ声で、言う。
「作りましょう、王国観光庁!」
「ええ、ではそのように。ああ、それと――」
 少女の喝采に、セドリックの聖人の笑みが返った。
「観光を扱う以上、民草にとっても近しい組織でなくてはなりません。そこで、システィーナ王女。貴女の出番となります」
「は、はい」
「貴女に、観光庁の代表をして頂きます」
「……ふぇ?」
「早速、催し物の段取りをしておきましょう。王女の名の下に各地に通達し、商会、職人、その他諸々の団体を応召し、展覧会を執り行う――」
「え、ぇ?」
「詳細は後日、識者を集めて会議を行いますので、それまでにお考えをお纏めください……それでは、私はこれで」
「え……?」
 ――戸を閉じたセドリックの背中を、少女のか細い悲鳴が叩いた。



 王国展覧会の会場内。喧騒に包まれたその中では様々な声が飛び交っている。素種々のスペースに区切られてはいるが、その様相は混迷を極めていた。誰かとはぐれたか、迷子と思しい年幼い茶髪の少女が辺りを見回しながら何処かへと歩き去っていくその傍らで、老人が青年の鎧姿にケチをつけている。

 あなたは、その展覧会を満喫していたかもしれないし、あるいは仕事で訪れていたのかもしれない。気の合う仲間達と訪れて、迷子になったかも、しれない。

 ――ふと。その足が止まった。王国内で絶大なシェアを誇るヘルメス情報局のスペースだ。
 スペースは、ある。あるにはある、のだが、商売っ気剥き出しの他のスペースと異なる装いである。ブースの『中に』濃紺の天幕が張られており、看板が二つ建てられているだけである。

『局員は取材中につき期間中不在 バックナンバーあり〼』
『こちらで当情報局が発売した【占い】がうけられ〼』

 なんとも適当極まる事この上ないのだが、成程、記者がこの機に座して待つわけも無い、ということか。
 煩雑な会場の中、この一帯だけが喧騒から遠い。天幕の佇まいが、そう感じさせるのだろうか。音がはじかれ、何処かへと吸い込まれていっているような錯覚。

 ――あなたは、天幕の中に足を踏み入れてもいいし、踵を返してもいい。

●Pattern "A"
 天幕に足を踏み入れると、内部は柔らかなランプの灯で照らされていた。オーク材の重厚な本棚が、静かに光を返している。
 音は無く、ランプが立てる音すらも感じられる程だ。何らかの魔術が施されているのだろうか。周囲から隔絶されたそこは、伝承にある異界のようでもあった。
 そこに、声が響いた。
「ようこそ、占いの小部屋へ」
 女性の声だった。反響はない。天幕に吸い込まれるように消えていったため、至近で発せられたように感じられる。
「――私のことはグランマとお呼び下さい」
 はたり、と。絵札を捲る音が響いた。
 口元を布で隠した女の指は細い。胸元には豪奢な宝石細工。それらが灯りを返し、グランマと名乗った女の手元には、ヘルメス情報局が制作した占い用の絵札がある。伝承や故事、風刺などを交えながら作られた絵札だと、あなたは知っていてもいいし、知らなくてもよい。ただ、絵札がある。
「さて」
 ぽつ、と。呟くように女は言った。声には、笑みに似た気配がにじんでいる。
「何を占いましょう?」

リプレイ本文


 人混みが、目に染みたか。上杉浩一(ka0969)は混雑を避けるように天幕の前に辿り着いた。看板に目を落とすと、首のこわ張りが強くなる。
「やれやれ」
 一休み、という訳ではないが。何となく足が向いたのだろう。男は天幕を潜り――そうして、占いを受ける運びとなった。

 ―・―

 しゅらり、と。絵札の音が耳に響く。

 ようこそ、と。女は言った。そうして、何を占いましょうか、と。
 心底占って欲しい程困窮はしちゃいない。だから、世間話程度にこう言った。
『俺は探偵をしているんだが、客入りが悪く稼ぎが悪くてね』
 喋っている裡に口元が寂しくなった。つ、と。煙草を示すと、頷きとともに豪奢な器が差し出された。
『――どうにかならないものかね』
『解りました』
 しゃらん、と。女が身に付ける装飾が鳴り、染み入る声と共に女は頷いて占いを始めた。

 ―・―

 ――この仕事止めたら探偵になるといいよ、似合うよ?
 かつて聞いた声が、木霊する。ただ、それだけで探偵を続けている。執着はあるが――何かを改めようとも、思っちゃ居ない。俺自身の弱気も、戦うことへの忌避感も、何も。この占いに期待はしていなかった。自分に腕が無いことは充分解っている。だからこれはただの世間話。ただの、愚痴なのだ。
 紫煙を吐いた、その時だ。

 三つの札が、差し出された。

 ―・―

「恋人、霊廟、王宮の札、ですね」
 囁き声が、落ちる。細い指で絵をなぞりながら、続けた。
「過去の選択……その結果が、今の貴方を縛り付けているのかしら」
「……さて、どうだったかな」
 紫煙を口元に漂わせながらの言葉に、笑みの気配が返る。
「今現状については――あなた自身は、そう悪いものではない、と思っている。けど、貴方は此処に来た」
 二枚目の札で指が止まる。自然と、浩一の視線が落ちた。
「何か、別の悩みがあるんじゃないでしょうか?」
「……」
 言葉に滲んでいる確信に、浩一は微かに息を呑んだ。
「占いの結果に、そう出ていたかい?」
「ふふ」
 つ、と。指で目元の布をなぞった。
「寝不足みたいでしたから」
「おぅ」
 深い溜息が、天幕に満ちた。

 ―・―

 ――『大切なもの』を得ることです。今の何かよりも、もっと大事なものを。
 天幕を去る寸前。最後に女はそう言った。
『これは、占いの結果です』
 いたずらっぽく添えられた言葉に苦笑せざるを得なかった。

 そんなに大事なものが得られるアテなど、無かったからだ。


 シエラ・ヒース(ka1543)はハンターである前に旅人、であった。
「私は旅を続けているわ。その中で色んなものを見てきたの」
 シエラはそっと目を閉じて、言った。彼女がこれまでに巡ってきた土地土地のことを、滔々と。
 重ねられた言葉の果てに見えたのは、旅を続けたいという希求の言葉。
「――でも、向かったことのないところも多いわ。歪虚がいるから、どうしても踏み入れないところもある」
 なればこそ。
「だから、教えてほしいのは旅路よ」
 その問いは、必然だったといえよう。
「どうやって歪虚が住まう森を抜けてその果てを目指せばいいのかしら。古い古い地図にだけ記された土地へ、歪虚が住まう土地を抜けて辿り着く道は?」
 願いにも似た問いに、グランマは頷きを返した。

 ―・―

 目を閉じる。回想されるのは過去の光景と、そこに抱いた感情。
 厳しい土地に住まう人々の生。行き交う人達の言の葉の巡りと、その熱。朽ちた教会に感じた時の巡りに、異邦の地からたどり着いた人々の軌跡。
 いずれも美しく、いずれも刺激的だった。
 だからこそ、見たいと思う。歪虚が住む地、その先にある景色を。
 ――こんなにも、見たく、感じたいのだ。
 この時間は、私自身を見つめる為にも良い時間だった。

 ―・―

 月と猫が描かれた札と、沢山の動物達が描かれた札。一目で二枚目の札に不吉を感じた。
「道は大きく二つ。いずれくる『変化』が、貴方に道を作るでしょう。それは、貴女自身が拓くものかもしれないし、周りが築くものかもしれません」
 つい、と。指が流れる。
「もう一つは」
 小さく、間が開いた。しんと沈み込んだ静寂が、耳を刺す。
「貴女自身が、深く怒りを向けられる道」
 呟くように告げられた言葉は、やはり不吉を孕んでいた。
「――具体的には、どういうものなの?」
 歪虚と戦いたいわけじゃない。ただ、一人抜けていけるのならば、それでいい。聞かないでただ帰るには、願いが強かったから、そう問うた。
「例えば」
 答えは。
「貴女自身が歪虚になる……とか、ですね」

 ―・―

 強過ぎる望みは禍を産む、と。グランマは最後にそう言った。添えられた笑みに私も頷きを返して天幕を後にし――唐突に湧き上がった雑踏に目を向ける。
「……さて」
 今は、展覧会を回る事にしよう。
 先のことはこれから考えて行けばいい、と。そう思えた。
 いつか、時が巡れば――答えも、望む景色も、見る事が出来る筈だから。


 Don=Bee(ka1589)はエルフである。名前の通り、辺境のある一族に連なる者だ。「こんにちは!」
 天幕を潜り、グランマを認めたDon=Beeは揚々と手を掲げ盛大に会釈した。
「ようこそ」
 座したグランマは緩やかな会釈と共に、席を薦めた。微かに漂うには笑みの気配――と、染み込み始めた出汁の香り。
 グランマに動揺の気配が見えないことにDon=Beeは喜悦の笑みを浮かべたようだった。Bee一族。中々に特色ある部族であることは想像に難くない。

 ―・―

「グランマどのは麺類の中で何が一番好きで御座ろうか?」
 グランマ。つまりお婆ちゃんとご対面した拙者、いの一番にそう言った。UDONじゃなければZUDONも吝かではなかった。
「麺は余り食べませんね……」
 ううむ、グレイ!

 ―・―

 それから拙者は饂飩神に仕える饂飩の使徒として布教に励んだで御座る。滔々と、小一時間くらい。濃密な出汁の香りが心地よい。うむ。
「――つまり、饂飩は世界の真理の一端という事で御座るよ」
「壮大なお話ですわね」
「うむ!」
 また1人、饂飩の素晴らしさを知ることが出来たと。善哉善哉!
 満足とともに、拙者、頷いて席を立とうとした、ところ。
「ところで、占いについては如何しましょうか?」
「……そうで御座った」
 使命にかまけて忘れていたで御座る。

 ―・―

「来たる明日は今日よりももっと楽しい明日で御座ろうか」
「……あら」
 お婆ちゃんは少し驚いた様子。
 うむ。拙者、出会ってからこっち饂飩の話しかしていないで御座るしな。
 とはいえ拙者の信仰は揺るぎないで御座るし、饂飩神を疑う事もまた無し。
 故に。『今』を。
 かつてよりも尚濃く楽しい今から続く明日を、占って欲しいと。
「一族の幸せを祈るのは首領として当然の事で御座るからなぁ」
 そう言うと、お婆ちゃんはくすくすと笑ったで御座る。
「――解りました」

 ―・―

 ――時計塔、王宮、光。
「未来を示すのは『光』の札、ですね」
「ふむふむ?」
「先を照らし、進むための光……特に未来に関しては、輝かしい未来、を意味します」
「おお!」
 優しい声色とともに告げられた言葉に、拙者はぱちと箸を鳴らした。
「占い、ありがたく。今度、拙者が作った饂飩を馳走するで御座るよ!」
「あら、ありがとうございます」

 ――婆ちゃんの知恵袋的なサムシングに裏打ちされた拙者らの未来。
 今から、楽しみで御座る。うむ!


 アイ・シャ(ka2762)は音も無く天幕へと足を踏み入れた。濃紺に誂えられた室内に満ちる静寂が、身に沁みる。
 ――ん。
 室内の様子にアイ・シャが一つ頷くと、女――グランマの会釈が届いた。アイ・シャは頷きを返しながら、小さく呟いた。
 ――たまには人にお話してみるのもよいでしょうか?

 ―・―

「何を――」
「私、に~さまと結婚できますか……!?」
 やや食い気味のアイ・シャに、グランマは小首を傾げる。
「お兄さま、ですか?」
「ええ、に~さまです」
 満面の笑みを浮かべたアイ・シャは続けた。
「物心ついた時、血縁は兄のみ……とはいえそれも腹違いですが」
 そこはかとなく腹違いを強調しながらの言葉に、くすり、と笑みが落ちた。
「実年齢は結構離れてるのですが、この乱世、血縁なく身寄りなくわたくしを特別の不自由なくここまで育てて下さいました」
 本当に嬉しそうに告げる少女に和やかな空気が満ち始めた、その時だ。

「暗殺者をしていたのもに~さまと同じになりたくて、です」
「……あら」

 ―・―

 ――大好きなのですけれどなんで中途半端に半分だけ血が繋がってるのでしょうか。
 ――全部なら諦められたのでしょうか?
 ――他人なら出会えていたのでしょうか?
 波濤。怒涛。愛が溢れすぎた一時だった。きらきらと、恋する乙女、そのままに。
「に~さま自身はどうなのでしょう?」
「……そう、ですね」
 いつの間にか、札が三枚、並べられていた。
「貴女が、お兄さまと結婚できるか、どうか」
 一枚目の札を捲りながら、グランマは言った。
「少し迂遠ですが、一つずついきましょう、か」

 ―・―

「未来を暗示する札は、『赤い月とユグディラ』――変化の象徴ですね」
「ということは……?」
「良くも悪くも、関係性は変わり得るということ、ですね」
 言いつつ、二枚目の札が捲られた。禍々しい絵柄に、アイ・シャの眉根が寄る。
「本来は救恤の象徴である竜が、財宝と共に在る――強欲が災いすると、悪い変化を齎すでしょう」
「……」
「それを避ける為には……賢者の札。助言者の存在が、貴女の恋路を支えます」
「助言者……」
「どなたか、身近に信頼できる方はいらっしゃいますか?」
「に」
「お兄さま、以外で」
「……」

 その日、アイ・シャから答えは出なかった。
 少女が天幕を去った後で、グランマは小さく息を吐いたのであった。
 ――心を許されぬ相手は慣れているが、かの少女は些か特別であった、か。


 身の丈を超えるほど髪は、しかし絹のようの艶やかさを備えていた。少女の名をLeo=Evergreen (ka3902)という。
「グランマ、ですか。よろしくお願いするのですよ」
 顔を傾けながらの少女の言葉には落胆。グランマの問う仕草に、溜息を吐くレオは気付きもしなかったようだ。
 ――それほどまでに、グランマの髪を覗けなかった事に気落ちしたか。そのままに、言う。
「レオは生憎エクラなんちゃらも神とやらも信じていないのですが……このタロットというのは、信じてもいいものなのです?」

 ―・―

 この世界で一番美しい髪に触れたい、触れられるかとレオは問うた。
 占いの結果を待ちながら、レオは自らの髪を手で撫でる。そうすると少しだけ心の薄靄が晴れた気がした。
 自覚し、少女は思った。瓜二つだ、と。
 母の髪をただただ愛した実父と、母の髪とそれよりも美しい髪を追い求める自分。
 ――お前の髪は母の次に美しい。
 かつての父の言葉が、少女を縛る。自分の髪ではダメなのだと。
 首から下が消えた母の髪よりも、それよりも美しい何かと、出会えるか。それは、正真正銘の、彼女の願いだった。
「もっと綺麗な髪を見つけられたら、ちょっとは、この胸の奥のもやもやが消える気がするのですよ?」
 口元から淡く零れた言の葉が、紅い髪に紛れて消えた。

 ―・―

「時計塔、怠惰、古の塔」
 並べられた札は三つ。その絵札をレオは順繰りに眺めていく。
「おそらく、貴女は望むものに出会う事が出来るでしょう」
 少女の希求に対しての言葉は、簡潔だった。
「そうなのですか」
 幾ばくかの安らぎを得て、ならばよしとばかりに少女は椅子からひょい、と飛び降りた。
「礼を言うのですよ?」
「……いえ、私は占っただけ、ですから」
 少女はそのまま天幕を後にしようとした、のだが。
 ふわり、と。少女の髪が跳ねた。
「もう一つ、いいのです?」

 ―・―

 少女は重ねて、こう問うた。
「『パパ』の夕食へのお誘いと、レオの夢が叶うこと、どっちが先にくることがレオにとっての幸せなのですよー……?」
 事の詳細は、おそらく少女にも解ってはいまい。勿論、グランマにも。
 ただ、女は残った札に触れながら、こう告げた。
「まずは、貴方自身が夢を叶えようとする事、ですね」
 残された札は『古の塔』。
「災禍の中にこそ、貴女が望むものがあるはずですから――諦めずに」
 その意味する所は――『破滅』、であった。


「……ふぅん」
 二ノ宮 灰人(ka4267)は濃紺の天幕に落ち込んだ静寂を見て、こう言った。
「やっぱりこの手の時代錯誤ブースはなくならないんだね」
 言葉は細く、灰色の髪は長く、その風貌も柔らかく少女的。

 だが 男 だった。

「今時占いって……胡散臭いなあ、普通じゃないし。それにこの普通じゃない静けさ」
 普通、と嘯く灰人は眼前の女――グランマに薦められた椅子に座って、こう言った。
「えっと、グランマさん? 普通に、よろしく」

 ―・―

 胡散臭い。
「……」
 ちらり、と。周りを見る。切り取られたかのような静寂。どう見ても胡散臭い。けど、悪意らしいものは感じなかった。だったらいいかと、そう思う事にする。都合は、いいし。

 ――少しだけ生きてる人間らしいこと、普通じゃないことしてみてもいいかな。

 胸の中でだけ、呟いた。

 簡潔に。簡潔に。ん? 簡潔にとなると普通ではない、かな。
「僕はリアルブルーに帰れるかを、占ってくれるかな」
 うん、普通だ。普通の質問だ。
 問いかけの言葉は、吸い込まれるように消える。グランマさんの会釈と、笑みの気配も、また。

 ―・―

 グランマさんは、僕の質問以外には何も聞かなかった。手持ち無沙汰の中、ただ、鳴る札の音に、『あの子』を思い出す。
 帰りたいのは、本当だ。会いたいから、帰りたい。
「至って、普通だよね」
 呟いた、その時だ。

「赤い月とユグディラ、強欲、そして、恋人」

 目の前に、三枚の札が並んでいた。全然気づかなかった。
「貴方が帰れるかどうか、は」
「うん」
「貴方次第、というところですね」
「はあ?」
 あやしい自己啓発?
 ハズレかと、落胆を示そうとした僕にグランマさんは続けた。
「貴方の未来に暗示されるのは、『変化』です。ただ、その変化を選ぶのは……他ならぬ、貴方自身」
「変化、ね……僕が?」
 笑えない。よりによって『僕』が、変わるなんて。
「変わりますよ」
 それでも、確信めいた声でいうグランマさんが示すのは『恋人』の札。
「『貴方』が『選ぶ』のだから、きっと……ね」
 見透かすような言葉に、それが占い師のやり口だと解っていた、けど。
「……選ぶ、ね」
 切り捨てられずに、そう、繰り返していた。

 選ぶ。僕が?
「普通じゃない、なあ……」
 重く、息を吐いた。身体の中から、澱を絞り出すように、長く。
 吐息は、天幕に吸い込まれて、どこぞへと消えていったけど、重い胸の内だけはどうしても消えなかった。

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参加者一覧

  • 売れない探偵
    上杉浩一(ka0969
    人間(蒼)|45才|男性|猟撃士
  • 縁を紡ぐ者
    シエラ・ヒース(ka1543
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 一本UDONマイスター
    Don=Bee(ka1589
    エルフ|26才|女性|猟撃士
  • Bro-Freaks
    アイ・シャ(ka2762
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • Philia/愛髪
    Leo=Evergreen (ka3902
    人間(紅)|10才|女性|疾影士
  • Flawed "Nor"
    二ノ宮 灰人(ka4267
    人間(蒼)|17才|男性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/20 23:16:08