白黒にゃんことお茶を

マスター:STANZA

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2014/06/30 12:00
完成日
2014/07/09 11:32

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング




 猫雑貨と花を扱う小さな店の主人、フロル(kz0042)の朝は優雅に始まる。
 まずは執事が優しくその肩を揺り起こし、目覚めたところにメイドが温かい紅茶をそっと差し出し——

 嘘です。

 執事とメイドが起こしてくれるのは本当ですが……半分は。

 実際のところは、こうだ。
 まずは「執事さん」が寝ているフロルの顔を肉球でぺしぺし叩き、それでも起きなければ爪を出し、更には「メイドさん」が猫タワーの上から腹の上にどすんとダイブ——
「ぐぇっ!!?」
 どんなねぼすけでも、これは起きる。
 って言うかもう少し飼い主をいたわって、優しく起こしてくれても良いと思うんだけどな。
「……執事さん、メイドさん……私、そのうち死んじゃいますよー?」
 そう、執事とメイドとは、この猫達の名前なのだ。
 スリムな黒猫が執事さん、ぽっちゃりふわふわの白猫がメイドさん。
 本物の執事やメイドは雇えないから、せめて気分だけでも……という事なのだろうか。

 フロルは右手で寝ぼけ眼をこすり、左手で痛む腹をさすりながら、渋々起き上がる。
 いや、猫の腹ダイブくらいで死にはしないと思いますけどね、これでも覚醒者だし、一応は。
 その足元で伸び上がり、二匹の猫はゴハンの催促。
「ねぁー」
「なぅー」
「はいはい、ごはんですねー」
 フロルは裸足のまま、ペタペタと台所へ赴くが。
「……あ」
 そういえば、キャットフードを切らしていたんだっけ。
「あー、昨日の帰りに受け取ってこなきゃー……と思っただけで忘れてましたぁー」
 注文はしておいたのだ。
 ただ、取りに行くのを忘れただけで。
「でも、こんな時は多分……」
 フロルは寝間着のまま外に出て、やたらと広い庭を通って門の所へ。
 そこには注文して置いたキャットフードの袋が置かれていた。
「あーやっぱりー」
 あの店の主人は、フロルが注文したまま取りに行くのを忘れる度に、こうして家まで届けてくれるのだ。
「いつもありがとうございますー」
 店の方角に頭を下げてから、フロルは大きな袋を抱えて部屋に戻った。

 猫達の皿にフードを取り分けてから、フロルは自分も食事の支度を始める。
 支度と言っても、庭に出たついでに採ってきた家庭菜園のトマトやキュウリに塩を付けて囓るだけという、シンプルすぎる代物だ。
 別に菜食主義という訳ではない。
 ただ、自分の食費にまで回せる程の収入がないだけで。
 幸いな事に、ご先祖様のお陰で広い家と庭だけはある為、そこに畑を作れば自分一人が食べる分くらいは何とかなっていた。
「でも猫のゴハンは畑では作れませんからねー」
 だから乏しい現金収入は全て猫の餌代に消えるという訳だ。

 フロルが生まれたカヴァーリオ家は、かつてこの地が王国領だった時代は、それはそれは羽振りの良い貴族だった、らしい。
 その頃の名残は今も、屋敷のあちこちに見て取れる。
 ご先祖様の肖像画や代々受け継がれて来た武器防具、それに室内の調度品——どれもこの屋敷同様に古く、使い込まれてはいるが。
 カヴァーリオ家が栄華を極めていたのは、もう遠い昔の事。
 今では屋敷の維持管理もままならない程の、立派な没落貴族だった。
 それでもフロルは、貴族の義務と誇りだけは忘れない。
 ノブレス・オブリージュ、高貴なる者に伴う義務——もっとも、殆ど庶民と変わらない暮らしぶりである現在の彼に、それを実践する機会は殆ど巡っては来ないのだが。
 寧ろご近所や商売仲間に心配され、世話を焼かれ、時には施しを受けたりもする、それが彼フロリアス・カヴァーリオの現状だった。

 それはともかく。

 今日は「猫雑貨と花の店フロル」の定休日。
「何をして過ごしましょうかねー」
 猫達と遊ぶのは勿論だが——
「ああ、そうだー、雨漏りの修理もしないとー」
 居間に廊下、台所。普段から使っている所だけでも三箇所はある。
 それに廊下は板が腐りかけている所もあったっけ。
 使っていない部屋も、そろそろ埃が溜まっているだろうし——
「ああ、でも……ハンターの皆さんとのお喋りも捨てがたいですねー」
 この間、花を届けてくれた人達とも、ずいぶん話が弾んだし。
 他にも色々な話を聞いてみたい。
 リアルブルーの事は勿論、この世界についてもまだまだ知らない事だらけだ。
「お茶会でも開いてみましょうかねー」
 余り大したおもてなしは出来ないけれど。
「あなた達もきっと、いっぱい遊んで貰えますよー?」
「ねぁー」
「なぅー」

 そうと決まれば早速——
「ハンターオフィスで声をかけてみましょうねー」
 黒猫と白猫を肩に、フロルは立ち上がる。

 あ、そうそう。
 ついでにキャットフードを届けてくれたお礼と、代金を払って。
 お茶菓子なども、少し買って来ようか。

リプレイ本文

 その日の朝早く。
「フロルちゃん、おはようなの!」
 猫達に起こされたばかりのフロルの耳に、リラスティ(ka1001)の元気な声が響く。
「ちょっと早めにお邪魔させて貰ったの。もしかして起こしちゃったかな?」
「いいえ、大丈夫ですよー」
 寝ぼけ眼にボサボサ頭、パジャマ代わりの着古したシャツ。
 とてもお客様の前に出られる格好ではないが、フロルは気にしない様子で微笑んだ。
「ちょっと待って下さいね、今おもてなしの準備をー」
「ああ、いいのいいの。フロルちゃんはのんびりしててなの」
 フロルの家は、何だか色々ヒドイ状態だと聞いている。
 早めに来たのも掃除の手伝いをする為だった。
「家事は得意なほうだから、ぱぱぱっとすませちゃうの!」
「え、でもお客様にそんな」
 だが、彼女は押しが強かった。
「猫ちゃんたちは、これを食べてのんびり待っててね」
 白と黒、二匹の猫と、自分が連れて来た三毛猫に牛乳と魚の干物をご馳走して――

 と、そこに更なる訪問者があった。
「こんにちは。リィン・ファナルと言います。お呼びいただいて、有難うございますっ」
 リィン・ファナル(ka0225)は深々とお辞儀をすると、にっこり微笑む。
 最初は丁寧にご挨拶から、これ対人関係の基本。
 勿論、猫達にもきちんと挨拶を。
「猫さん達がいっぱいだぁ……可愛いなぁ。うんうん」
 しゃがみ込んだリィンは、ご褒美に群がる猫達を嬉しそうに眺める。
 そしてもうひとり。
「あら、猫……?」
 自らも黒猫の様な雰囲気を纏った女性が微笑んだ。
「フロルも猫を飼ってるのね。あたしもなの。長毛の白猫でね。リアルブルーから一緒に来たのだけれど――あら、ごめんなさい」
 挨拶がまだだったと、その女性――ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は軽く頭を下げて歩み出た。
「Ich freue mich, Sie kennen zu lernen.Flor」
 耳慣れない言葉。
 自分の名が呼ばれたらしい事はわかるが――
「あたしはケイ。今のはリアルブルーのあたしの国の言葉で『初めまして』よ」
 そうしている間に何処かから掃除用具を探して来たリラスティは、さっさと廊下を掃き始めた。
「あら、お掃除?」
 自分も手伝おうと、ケイは長い柄の付いたブラシを手にする。
「お掃除基本は上から奥から。折角だもの、ピカピカにしましょう?」
 二人でやれば、それだけ早く終わりそうだ。
 埃を払ったら雑巾がけをして……
「拭き掃除するだけでとても綺麗になるものね」
 何年も掃除されていない様な、こんな家は特に。

「それなら、私は先にお菓子の準備をしようかな?」
 リィンは台所を覗き込む、が。
「……うわ、すごい事になっちゃってる……」
 分厚く積もった埃と、天井に張った蜘蛛の巣。
「まずは……お掃除から、かな」
 気合いを入れて腕まくり。
「よーっし、ぱぱっとやっちゃおうか!」
 まずは外の井戸に洗い物を全部集めて、しっかりとタワシでごしごしと。
「ん? これはちょっと高そう?」
 壊さない様に気を付けて、優しく優しく。
「金製のものは傷ついちゃうから、注意しないとね」
 それが終わったら、ケイとリラスティ、それにフロルにも手伝って貰って、台所をピカピカに磨き上げる。

 やがて他の客達が現れる頃には、屋敷はすっかり綺麗になっていた。
 三人には、後で多少なりと心付けをしなくては。

「これで、やっと料理が出来るかな?」
 リィンは買って来た材料を調理台の上に並べる。
 作るものはクッキーやパウンドケーキ、フレーバーは季節物のイチジクにさくらんぼ、ベリー類など、さっぱりとした酸味があるもので。
「お手伝いさせて貰っても良いかしら」
「ありがとう、助かりますっ」
 申し出たケイに、リィンは二つ返事。
「ケイさんも、お料理が得意なんですか?」
「それほどでもないわ」
 しかし、それが謙遜である事は、家で作って来たというチェリーパイと各種ベリーがたっぷり入った真っ赤なサマープディングの出来映えを見ればわかる。
「皆のお口に合うと良いのだけれど」
「すごく美味しそう!」
 これは負けてはいられないと、リィンは気合いを入れ直した。
「手伝って貰えるなら、他にも色々出来るかな?」
 果汁にゼラチンを混ぜて火にかけて、型に入れて氷水で冷やし固めればフルーツゼリーの出来上がり。
 店で寒天も見付けたので、こちらはきなこと黒蜜で和風デザートに。
「それなら緑茶もいるわね」
 がっつり食事がしたい人には、リラスティが持って来たナッツや干し肉、エールにパンを。
 少しアレンジすれば、結構豪華なパーティメニューに変身するかも?

「やあやあどうも、こんにちは」
 軽く手を振りながら、フワ ハヤテ(ka0004)がやって来る。
「本日はお招きいただきありがとう。のんびりさせてもらうよ。あ、これお土産」
 差し出したのは、クッキーの詰め合わせ。
 これはもしかして、魔術師協会広報室の談話室七不思議のひとつに数えられている(らしい)、いつの間にか増えている不思議なクッキーという奴か。
「味に当たり外れがあるみたいだけど、ハズレを引くのもまた楽しいと思わない?」
 ハズレと言っても食べられない程でははいしね。

「にゃんにゃんにゃー! 猫ちゃんにゃ!」
 自分も猫を連れた猫大好きなミミー(ka1311)は、猫にまっしぐら。
 因みに猫の名前は「にゃー」で、語尾は「にゃ」だ。
 人の耳には紛らわしく聞こえるかもしれないが、にゃーはちゃんと聞き分けている。
「にゃんこーにゃんこー! ネコネコにゃんこーにゃ!」
「にゃーん」
 あれ、返事した。
「違うにゃ、今はにゃーを呼んだんじゃないにゃ!」
「にゃーん?」
 結論、にゃーは律儀にお返事を返す良い子なのですにゃ。
「執事さんとメイドさんと一緒に遊ぶにゃ! にゃーも一緒に遊ぶにゃ!」
 勿論お手伝いもするにゃ!
 でも何すれば良いにゃ?
「そうにゃ! 皆が準備してる間ににゃんこと遊んであげればいいにゃ!」
 猫に邪魔されたら困るし、それも立派な仕事だよね。
 ただ自分が遊びたいだけとか、そんな事は……あるけど!

 そしてここにも、猫にまっしぐらな猫だいすきネコスキーが。
「猫さん、遊ぼ……うにゃっ!?」
 しかし、飛び出そうとした瞬間。
 桜蘭(ka2051)は誰かに猫耳フードの襟首を掴まれ、引き戻されてしまった。
「桜蘭。猫に飛び付く前に挨拶しなきゃだろ」
「……ぅ、……はぁい……」
 そう言われて、桜蘭はちょっと不満そうに上目遣いで鶲(ka0273)を見る。
 だが言われた事はもっともだし、挨拶が大事な事はちゃんとわかっていた。
「私は、桜蘭っていいますっ。フロルさん、よろしくですっ!」
 ぺこりとお辞儀をし、にっこり。
「俺は闘狩人の鶲だ。今日は招いてくれて有難う、フロルさん」
 鶲は少し大人びた表情で微笑んだ。
(第一印象は大切だからな)
 挨拶は基本中の基本だし、初対面の人や目上の人には礼儀正しく。
(……っま、全部母さんからの受け売りだけど)
 母親に似て、その辺りはごく自然に振る舞う事が出来る。
 ついでにフェミニストである所は父親に似たらしい。
「ご丁寧に、ありがとうございますー」
 フロルが挨拶を返し、訊ねる。
「お二人はご兄妹ですかー?」
「いや、お互いの父親が親友同士なんだ」
 幼い頃に何度か会った記憶はあるが、再開したのは互いにハンターになってからだ。
 因みに同い年だ。
 世話焼きお兄さんと可愛い妹にしかにしか見えなくても、同い年なのだ。
「ほら、そんな顔してっと猫達が心配すんぞ?」
 鶲はくすりと笑って頭を撫でると、桜蘭は途端に機嫌を直した。
「にゃんこさんと、遊んでも、いいかな……っ!」
 我慢しきれず、返事も待たずに鶲の手を引っ張って猫達の所へ。

「二人も一緒に遊ぶにゃ!」
 出迎えたのはミミーと四匹の猫。
「何して遊ぶかにゃ! にゃーは何したいにゃ?? わくわくだにゃ!」
「にゃーん」
「わかったのにゃ、一緒に外で遊ぶにゃ! 猫は狩りが得意なのにゃ! いっぱい取ってくるにゃ!」
 ネズミとかヘビとか。え、それは困る? じゃあオモチャでいいや!
「フロルさんも一緒に遊ぶにゃ! お友達いっぱい居ると楽しいのにゃ!」
 何か手伝おうとはしてるみたいだけど、役に立ってる様には見えないし。
「華麗なじゃらしテクを見せてほしいのにゃ!」
 掃除を終えたリラスティもそこに加わる。
「にゃーもみんなみんなお友達なのにゃ! みんなで居れば笑顔になるにゃ! 笑顔が一番なのにゃ!」


「天気も良いし、外で食べるのはどうかな」
 やがて準備も整った所で、ハヤテは椅子やテーブルを屋根付きのテラスに運び出す。
「ここなら陽射しは程よく遮られるし、風通しも良いし、美味しいものをもっと美味しく頂けそうだよ」
 だが、人よりも先に猫の方がその場所を気に入った様で、四匹の猫達がテーブルの上へ。
「こらこら、この上に乗るのは駄目ですよ~」
 リィンが抱き上げて「めっ」としてみるが、猫達はどこ吹く風だ。
「……おいで……」
 ケイに優しい声で呼ばれ、白黒猫達は素直に尻尾を立てて寄って行く。
「良い子達ね。毛並も綺麗だし、フロルに大切にされてるのね……」
 綺麗なお姉さんに微笑まれると猫達も嬉しい様で、二匹で膝に乗りゴロゴロゴロ。
「今度はうちの猫も連れてきて一緒に遊ばせてあげてみたいわ。良いかしら? フロル。きっと仲良く出来ると思うんだけれど……」
 はいはい、いつでも歓迎ですよ。

 あちこちで可愛がられた猫達は、巡り巡って鶲と桜蘭の所へ。
「わぁ、もっふもふー!」
 そうだ、猫ってもふもふしたの好きだよね?
 鶲が首元に巻いたファーなんか、どう?
「……にくきゅうぱーんちっ」
 猫の手を持って、ファーをもふもふ。
「何してんだよ」
「え、だめ?」
「猫が嫌がってなきゃ、いいけどさ……にしても黒猫と白猫って、なんか父さんと母さんみてぇ」
「ひーたんのパパとママ?」
「うん。ほら、うちの父さんは黒髪、母さんは白髪だろ? だからなーんか黒白見ると両親の事浮かぶんだよなぁ」
「白と黒って対みたいでいいねっ」
 桜蘭は白猫をそっと抱き締めながら微笑む。
「また、ひーたんのパパさんやママさんにも会えるといいな」
 鶲と会うのも久しぶりだし、前は小さかったから、こうしてきちんと話をする事もなかった気がする。
「そういや桜蘭は今一人で住んでんの?」
「私? 私はパパとママと一緒に住んでるよっ」
「そうか。俺は母方の叔父さんがこっちに住んでっから、其処で世話になってる」
「じゃあ、今度からはいつでも会えるねっ。同じハンターだし、お仕事も一緒に出来るかな」
「まあな」
 無邪気な問いに、鶲は苦笑い。
(放っておくと変な奴に連れてかれたり歪虚に突っ込んで大怪我してそうで怖いよなぁ)
 安全を確保する為にも、常に行動を共にした良いかもしれない。
「なんかあったら俺ん家来いよ。三毛猫も居るし」
「三毛猫さんいるのっ! 絶対に行くねっ!」
 差し出された住所のメモを、目を輝かせながら受け取った桜蘭を見て、鶲は再び苦笑い。
(猫に釣られる辺りヤッパ心配だけど口煩く言いたくねぇしなぁ)
 小姑みたい、なんて言われそうだし。
(仕方ねぇし今はのんびり楽しむか……)
 しかし桜蘭の目的は猫だけではないのだ。
 鶲とこうしてのんびり過ごしたり、お喋りしたり。
「今日みたいにまた、いっぱいいっぱい遊べるといいなっ!」
「ん、そうだな」
 黒猫を撫でながら、鶲は頷き――
「そうだ、フロルさん」
 ふと思い付いて訊ねてみる。
「俺も最近一匹拾ったんだけど、世話の仕方とか教えて貰えるかな」
 どうぞどうぞ、何でも訊いて下さいな。

「のんびり、そんな時も大事なの」
 リラスティは猫達を眺めながら、お茶とお菓子を楽しんでいた。
 さて、どんな話をしようかな?
「この間、皆でどらごんをたおした時の事がいいかな?」
「ドラゴンを倒したのですか、すごいですねー!」
 フロルが驚いて目を丸くするが。
「どらごんみたいだけど違う雑魔さんだったの。でも結構手強かったの」
 リラスティは身振り手振りを交えて冒険の様子を再現する。
「あ、楽しくないかな?」
「いいえ、そんな事ありませんよー」
「そうだね、実に興味深いよ」
 ゆったりとお茶を楽しみながら話に耳を傾けていたハヤテも頷く。
「話を聞くのは好きでね」
 価値観の違う相手との会話から新たな発見を得る、というのはよくある話だ。
「……ボクのことについてかい?」
 特に語るほど面白い経験はしていないとハヤテは言うが、聞いてみたら驚きのエピソード満載、というのもよくある話。
「では、魔術を始めたきっかけでも話そうか」
 楽しい話のお礼、という訳でもないけれど。
「エルフが基本マテリアルに敏感なのは知ってるだろう? ボクは幼少時それが顕著で、生活に支障をきたすくらい酷かったんだ」
 故に家から出ることも殆どなかったのだが。
「ある時親が魔術の本を持ってきてくれてね」
 これでマテリアルの制御を学べば多少マシになるかもしれない。そうすれば家の外にも行けるだろう――そう言われた。
「その言葉に飛びついたんだよ。それがきっかけさ」
 魔術のおかげか成長するにつれて耐性が出来たのか、今では体質もある程度改善されている。
「それでも混雑した場はくらくらするから苦手だよ」
 覚醒すれば平気だけど、と肩を竦める。
「こんなものでいいかな? しかしこの紅茶美味しいね!」
 お代わり、良いかな?
「美味しいお菓子とお茶と……幸せだね」
「うん、皆で笑い合えるひと時はきっと何よりもすばらしいことなの!」
 主人に代わってお茶を煎れながら微笑むリィンに、リラスティも笑みを返す。
「それにしても良いお天気。こんな日は歌でも歌いたくなるわね……」
 ケイはこう見えて、リアルブルーでは歌で生計を立てていたのだ。
「これでも歌姫、なんて呼ばれたりしたのよ」
「それは是非、聞いてみたいですねー」
 しかしタダという訳には……
「いいのよ」
 笑って、ケイは立ち上がる。
 その喉から溢れ出した伸びやかな声が、故郷の歌を奏で始めた。
 向こうの言葉ではロックテイストのソフトなバラード調とでも言うのだろうか。
 こちらの世界の歌とは全く違うが、音楽はどこの世界でも通じる共通の言語。
 聞いているうちに、リラスティの身体がうずうずと動き出した。
 リズムを捉えてしまえば、それに乗るのは難しくない。
 ケイの歌声に合わせて、リラスティは即興で踊り始めた。
 蒼と赤のコラボが皆を魅了する。
 相変わらず猫と遊んでいたミミーも、猫達さえ、暫し時を忘れて魅入っていた。


「……リアルブルーはもっともっと色々な音に溢れてるのよ」
 歌い終わったケイが一礼し微笑む。
 舞姫にも惜しみない拍手が贈られた。

 皆、今日は楽しい一時をありがとう。
 機会があれば、またいつか――

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧


  • リィン・ファナルka0225
  • 夢を魅せる歌姫
    ケイ・R・シュトルツェka0242

  • リラスティka1001

重体一覧

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師

  • リィン・ファナル(ka0225
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 夢を魅せる歌姫
    ケイ・R・シュトルツェ(ka0242
    人間(蒼)|21才|女性|猟撃士
  • 修羅の血
    鶲(ka0273
    人間(紅)|12才|男性|闘狩人

  • リラスティ(ka1001
    ドワーフ|20才|女性|聖導士

  • ミミー(ka1311
    人間(紅)|12才|女性|霊闘士

  • 桜蘭(ka2051
    人間(紅)|11才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/25 18:40:11
アイコン フロルへの質問板
リラスティ(ka1001
ドワーフ|20才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/06/30 06:55:41