• 不動

【不動】相剋の叙唱 覇軍の主は死地で嗤う

マスター:藤山なないろ

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/04/02 22:00
完成日
2015/04/15 03:03

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

 昨年勃発した、あの“災厄”が去って以降、4度の満月が過ぎた。月の光は満ちては欠け、その都度グラズヘイム王国は着実に“復興”の途を辿ってきた。
 だが、復興に一定のめどがたったのと、“その戦い”が起こったのは、ほぼ時を同じくした頃だった。

●辺境大規模作戦、発令

「先のナナミ河での怠惰戦において、我が国からは副長ダンテ・バルカザール率いる王国騎士団部隊、並びにヴィオラさま指揮のもと聖堂戦士団からも一部戦力を派遣して頂きましたことは、皆様すでにご存じのことかと思います」
 グラズヘイム王国の王城で今まさに開催されている“国の最高意思を決定する円卓会議”において、卓を囲む面々をぐるりと見回し、王女システィーナ・グラハムが宣言する。
「いま再び、辺境より協力要請がありました。“怠惰を討ち、聖地を奪還する”……と」
 誰も言葉を発せぬ部屋で、頃合いを見計らって発言したのは大司教のセドリック・マクファーソン。
「そうですな。……“先日派遣した戦力の派遣継続”、でいかがだろうか」
「それは“追加戦力は送らない”ということですか?」
 間髪いれずに問う少女の表情には、明らかな陰りが見える。
「派遣した戦力は、いずれも我が国が誇る有数の戦士たちばかり。十分な協力姿勢は、示せているかと」
「はい。優秀な方々が向かわれたと聞いております。ですが……」
「……王女殿下、恐れながら」
 視線を落とした少女を見かねたのか、マーロウ家現当主ウェルズ・クリストフ・マーロウが口を開いた。
「殿下のため、言葉を選ばず申し上げよう。失礼は容赦頂きたい」
 穏やかながら厳しい瞳をまっすぐに見つめ、王女は老紳士の言葉に頷いた。
「当然、派兵に応じることで辺境に恩を売ることもできれば、我が国の威厳を示すこともできましょう。だが……覚えておいでだろう。先の同盟領への派兵直後、我が国に起こった惨劇を」
 ──昨夏のことだった。同盟領で勃発した狂気の歪虚による大戦。それに際し、王国は可能な限り最大級の戦力を送ることで精力的に同盟を支援した。しかし、その時から“王国の悪夢”は始まっていたのだ。同盟への派兵直後、王国内で増加・活発化したのは羊型歪虚。それらを抑えるために王国騎士団はすり減り、やがて来る黒大公べリアルとの大戦においても十全な対応をできぬままに終わる。王国は数多くの人を亡くし、途方もない損害を被った。今なお癒え切らない戦火の傷跡は、“たった4ヶ月ほど前につけられたばかりのもの”だ。
「黒大公は今なお彼の島にあり、いつ何時その災厄が降り注ぐとも知れぬ……私は、増援派兵には賛同致しかねる。それだけだ」
 他の貴族たちもマーロウに賛同する者が多く、“会議体として追加派兵を是としない”意向であると知れた。
 ──辺境と、そこに住まう人々のことを思えば、隣人としてもっと彼らの力になりたい。ただそれだけなのに。
 卓の下、膝に載せていた少女の白い手に力が込もった……その時。
「まぁ、それならそれでいいんじゃない?」
 へら、と。軽口をたたくような気安さで、男が言った。
「“王国としては”これ以上の派兵をしない。騎士団も、戦士団も、僕達貴族の『王国軍』も動かさない……そのほうが今の僕らにはベターだろうし、ね」
 少女の想いを嗅ぎ取ったのかは定かではないが、男──港街ガンナ・エントラータの領主であり、王家の傍流であるシャルシェレット家の現当主ヘクスが会議の舵を握り始めた。
「それにさ、同盟領への派兵と比べたら国は大分余力を残しているワケだし、これってつまり“先の派遣戦力はそのまま派遣するから、残る騎士達で責任もって国をきちんと守ります”ってことだ。そうだろう、エリー?」
「……無論だ」
「喧嘩を売っているのか」と応戦しかけた自身を律し、訝るような視線を送る王国騎士団長エリオット・ヴァレンタイン。それを面白がりながら、ヘクスは構わずこう続ける。
「ま、そういうことだから。”王国”としての方針は決まったよね。じゃあ――」
 周囲の貴族連中の思惑など知ったことではないのだろう。ヘクスは、飄々とした態度のまま笑ってこう述べた。
「もし我が国の、そして王女殿下の御為、はたまた隣人の為に義勇を以って“貴族の誰かさんが個人的に出兵する”、なんかは夫々の自己責任……ということでいいんじゃない?」
 視線の端に捉えた王女の瞳には、明るい光が射しているように見えた。



 辺境。マギア砦へ向かう平野で、彼らはそれを発見した。
「まさか、“あの数”の巨人を……?」
 呟く少女を一瞥し、燃えるような赤髪の男──王国騎士団副団長にして赤の隊隊長ダンテ・バルカザールが、嗤った。
「いっそ好都合じゃねえか。……歪虚なら殺したって誰も文句言わねぇからな」
 あからさまに口角を上げ、好戦的な瞳をギラつかせている。
 まさかこれは、来る戦いへの“期待感”、だろうか? 正気の沙汰ではない。
 ──お兄様は、こんな狂戦士を従えているの?
 少女には、王国騎士団の清廉潔白な印象は自身の想い込みに過ぎないのではないかと感ぜられた。

 遡ること少し。
 王国西方を統治する貴族グリムゲーテ家の私兵団が、嫡子ユエルの指揮のもと辺境マギア砦を望む王国拠点へやってきた。
「フレッシュゴーレム、ですか」
「フレッシュなわりに鮮度は怪しいが」
「……」
「まぁ、そう怒んな。しかし、連中も随分イイ趣味してんじゃねぇか」
 怠惰の巨人連中が、突如周囲の村々で人を食い漁り始めたとの情報が寄せられた。王国連合軍は、直ちにそれを掃討せんと行軍開始。偵察の結果、“現時点で歪虚軍の核と目された異形”は、人の肉を寄せ集めて生まれた最悪の生物──道の正邪を問わぬ魔術師連中に呼ばせれば“フレッシュゴーレム”と言うに相応しいらしい。その異形は、悪いことに“人”のような形状をしているという。寄せ集めた肉も部位を問わず、中途半端に元の形を連想させる“雑な凹凸”に嫌悪感をおぼえるばかりでなく、まともに直視できないものもいるという。聖堂戦士団を率いるヴィオラ・フルブライトは思案気な面持ちで「予感が当たらないことを祈るばかり」と言ってはいたが、彼女が何を“予感”したかは定かではない。
「肉塊までには、まずデカブツをぶっ殺さなきゃならん。嬢ちゃん、悪ぃこたぁ言わねえ。覚醒者ですら連中の相手は……」
「でしたらなおのこと、そうでない者も助力せねばなりませんね」
 頑ななユエルの返答に、漏れる盛大な溜息。
「お前の目は、親父そっくりでいけねぇな」

 そうして、時は来た。
「このクソッタレな戦場に来ちまった馬鹿ども、よぉく聞け!!」
 響き渡る怒号のごとき号令に、全ての戦士が前を向く。
「目標ッ! 群がる怠惰のデカブツども!」
 ダンテの跨る馬が嘶き、王国騎士団の騎兵が一斉に呼応する。
「全軍突撃ィ! てめぇらの血を以て、この道絶対に拓いて見せろ!!」

リプレイ本文



「さて、と。頃合いだ。んじゃ、ダンテ副長――いっちょ派手に暴れて来てく……」
 ナハティガル・ハーレイ(ka0023)が無線の相手に伝え終えるより早く、彼の前方で大剣が閃き、ややあって巨体が大きく傾いた。
「ったく……人の言うことなんざ聞かない性分だってことは、解っちゃいたけどな」
 溜息一つ零した青年の視線の先には、意気揚々と暴れ始めた赤髪の男。とはいえ、彼がこの指示を聞こうが聞くまいが、やるべきことに相違はない。ナハティガルの駆るゴースロンを先頭に、グリム騎士団と覚醒者で組織された別働隊が右翼より全軍突撃。青年は、蠢く巨人の群を見据えて口角を上げた。
「血路を切り拓くのが俺達の役目、って訳か。良いだろう……キッチリ仕事はこなすぜ」
 不敵な笑みを湛えた青年の両眼が妖しい輝きを放つ。そして──遂に、王国連合軍の戦いが幕を開けた。

 開幕の一撃は、なぜか我先に先頭を行く“隊の長”によるものだった。真っ向から切り伏せられ傾く巨体を眺めながら、ジェーン・ノーワース(ka2004)は小さく息を吸い込んだ。呼吸を整え、自らの愛馬に身を任せていれば、足が竦みそうな事実からある程度目を逸らすことはできた。だが、“目の前の事実”から目を逸らすことは、どうあがいても出来はしない。『ただただ巨人を相手にするだけの戦場ならばよかった』と、少女は心の底から嘆息する。相手がどんなに屈強な歪虚だろうと、その方が幾分マシだったはずだ。
 少女の脳裏にチラついて離れないのは、別働隊のグリム騎士団を指揮する同じ年頃の少女──ユエル・グリムゲーテの姿。恐らくこれは“負い目”などという類の感情だろうと少女自身理解していた。なぜならジェーンは、ユエルの父の死因に少なからず関わっていたから。
 ──そんなの、いま考えることじゃない。私的な感傷は、この場にいらないし。
 あの日の事実を胸の内に秘めながら、少女は小さく首を振る。今必要なのは、巨大な歪虚の群を葬るための絶対的な手段と、ユエルという名の“戦友”に自らの血を……背中を、預けて戦い抜く覚悟だけ。
「……邪魔ね」
 ダンテに続き、第2撃。ジェーンがゴースロンの突撃力ままに巨体の足元へ滑り込み、渾身の力でグリムリーパーを振り抜いた。死の鎌は確実に肉を捉え、刃が足部に食い込む瞬間にマテリアルの光を放つ。
「早く、どきなさいよ」
 その刃は、圧倒的かつ凶悪なまでの威力だった。少女はものの見事に“巨人の足を一刀両断”して見せる。
「ははッ……たいしたモンだな、オイ?」
 切断部位から噴き出す体液を浴びながら動じることなく馬を駆るジェーンに、ダンテが嬉々として笑い声を上げる。だが、少女はそれに応えるでもなく、興味なさげに視線を次の対象へと定めた。少女にとっては、“自分の認めた人物”以外が何を言おうと、どう思おうと、どうでもいいし、強いて言えば敵すら何者だろうと関係ないのだ。
 ──ただ、目の前の暴威に納得がいかないだけ。
 体の奥に蟠るこの感情を何と表現するのか、少女にはわからない。
 けれど、世界は思った以上に呆気なくて、いとも容易く壊れてしまう。だから、少女は死の鎌を振るい続けた。



 ダンテとジェーンの一撃で倒れ伏したトロルは、続く騎士らの追撃で呆気なく黒煙と消えた。驚異的速度で1体目の巨人を仕留め、次の対象に目を向けるハンターたちのなか、ナハティガルに後続する文月 弥勒(ka0300)やルカ(ka0962)が戦場を鋭い視線で見渡している。
「敵は4体1組で陣形を組んでる。1つの組にオークが1体、それを囲うようにトロルが立ってんな……なんだありゃ、陣形のつもりか?」
「そのようですね。それにしても……“あれ”は醜悪、です。死者の解放と魂の安息の為にも……一刻も早く、討伐しましょう」
 どうやら、件のゴーレムまで計20体の巨人を葬れば最短ルートで道を拓けるだろうと推察できた。
 だが、その時──1体のオークが雄叫びをあげた。オークを囲うように左右に1体ずつ位置していたトロルがその叫びに呼応。突撃した直後の王国騎士らを見据え、深く腰を落としている。あの2体は王国騎士隊を“挟撃”しようというのだろう。
「なるほど、オークがチームの指揮官か。張り合いがありそうだ」
 図体だけのカカシじゃねえことを願うぜ──そう呟いて、隠しきれない高揚感を覚えながら弥勒は振り返る。
「血路を拓く時は最初の勢いが大事だ。こっちもさっさと行くぞ」
 共に往くグリム騎士団が、少年の言葉に応えるように負けじと雄叫びを上げ突撃。次の瞬間には王国騎士隊に挟撃を仕掛けるトロルへと総攻撃を仕掛けることに成功した。文字通り一番槍──先頭をゆくナハティガルが、戦槍を高々と掲げ、上段から躊躇なく振り下ろす。鋭い穂先が脚を切り裂くも、背後からの襲撃にトロルは成す術もない。
「ユエルはグリム騎士団の統率に集中してくれ。……巨人共の相手は俺達に任せろ」
「はい、私たちは後方からの射撃を主として援護に努めます」
 一撃を繰り出し、離脱したナハティガルがユエルの傍に寄り添って告げる。そこへ、矢継ぎ早に少女に飛んできたのは、聞きなれた弥勒の声。
「……分かってると思うが、前に出るなよ」
 少女の父は、黒大公側近のクラベル戦において騎士に囲まれた部隊中央から弓を放ち、応戦。しかし、その“射撃の為に確保していた射線を突かれ、殺された”のだ。弥勒は、それを見ていた。だからこそ……思うところがあったのだろう。
「てめえを守るために死ななくてもいいヤツが死ぬ」
「……」
「それ以外ならやらかしても許してやる」
 不服そうな少女に敢えて弥勒は告げた。だが、返ってきたのは少女の珍しい物言い。
「私が貴族だからですか? それとも、覚醒者ではないから……?」
 周囲の騎士らも酷く驚いたようだ。これは偏に少年に気を許している証拠でもあるのだろうが。
「私にとっては、弥勒さんが死ぬことも騎士たちが死ぬことも等しく許し難い……」
 視線を落としたのも束の間、青年らの意に応じるようにユエルは息を深く吸い込んだ。
「これでも私は騎士の端くれ、守りは不要です! 総員攻撃態勢! 全員……撃てーッ!!」
 グリム騎士総員で放った矢の雨が巨体へ次々降り注ぎ、呆れた様子の弥勒とルカがそれに続いて銃撃を見舞った。
 だが……こちらの別働隊には、火力が足りなかった。
「傷が、塞がりかけています……!」
 撃ちこんだエア・スティーラーの弾丸が風の加護を伴いトロルを撃ち抜いたはずだった。だが、その風穴を肉がうねりながら塞いでゆく。目を見張る回復速度……その隙に、再び唸りをあげた巨人。挟撃を、止めることはできなかった。2体のトロルが、腰を落とした状態から一気に駆け上がり、突進撃を繰り出す。”騎士の塊”を踏み荒らさんと、巨体が体躯に見合わぬ速度で大地を揺らしていく。
 が、しかし。
 1体のトロルが突如動きを制止した。敵の挟撃は破綻。最悪の事態は免れたようだが、その理由は……
「俺と力比べか? いい度胸してやがる。……てめぇら、こいつは俺がもらう」
 巨人の1体、その5m近い巨躯の突進を最前線のダンテがたった一人で止めていた。トロルの膝に突き立つ大きな剣が見える。ただ、様子がおかしい。
「なんですか、あれ……黒い、靄みたいなものが……」
 戦況に気を配り続けていたルカが、それに気づいた。“剣の様子が明らかに違う”。男の大剣から黒の靄のようなものが立ち昇っている。あの雰囲気は、どこか歪虚似た禍禍しさを放っていた。
「なんでもいいわ。次……行くわよ」
 まだ敵は沢山残っているのだし、と。突進を裕に回避し、次の標的を定めたジェーンに、ダンテの傍で剣を振るっていたティト・カミロ(ka0975)が目を見開く。
「えっ!? いくらダンテさんだって、あんなの一人じゃ……」
「“もらう”って、あの男は言ったのよ。あげればいいじゃない。……私は、要らないもの」
 ジェーンはティトの異論も意に介さず、王国騎士を踏み荒らしたもう一体めがけ全速力で接近。次々と、そして淡々と大鎌を振るい続けている。
「……確かに。ダンテ様がこれと仰られればお供しましたけれど。止めても聞かないでしょうからね」
 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)もジェーンの言い分を認め、諦めの息を漏らす。覚悟を決めると、改めて背筋を伸ばし、馬首をめぐらせた。
「あぁっ、ちょっ、突撃速いって……くそっ、俺も負けないからなっ」
 ティトもヴァルナに倣い、手綱をぐっと握り締める。
 目標は、敵巨体の脚部。大太刀を構え、そして──渾身の一刀。
「俺がティト・カミロだ! 俺の刀を受けてみなっ!」
 浴びせた一太刀が見事に足を切断。少年の勢いに乗って畳みかけるように王国騎士らが剣を突き立てた。
 そして、最後の一撃は──ヴァルナ。
「一体、どこまで私達を馬鹿にすれば気が済むのですか、歪虚は……!」
 巨体は見る間に近づいてより巨大な威容を見せつけてくる。敵との距離、約2m。いよいよ射程圏。少女の怒りは、眼前に迫る巨人に留まらなかった。見据える戦場の奥に潜む圧倒的な悪意に、頭の奥がショートをしてしまいそうだ。
「死体が自然となってしまうのは仕方が無いとしても、死体を集めて作り変えるなど……!」
 少女が、ただ立ちはだかる敵を切り伏せることのみに支配されている。守りなど捨てた。今やるべきことは明白。上段に構えたテンペストの青緑色の刀身が陽の光を受けて輝き、そして嵐の如き勢いで振り下ろされる。
「死後の安寧を与える為の道は切り拓いてみせます」
 肉の感触がリアルな間、漏れていた巨人の怨念めいた叫びは、ややあって手ごたえと共に消失していった。



 こうして王国連合軍は、順調に次々巨人を討伐していった。様々に講じた策の中でも、なにより“基本的な巨人の倒し方”を忠実に実践し、ダンテ率いる脳筋隊にそれら基礎戦術を説いておいたことが功を奏した。しかし、強力な巨人を、自分たちの数より多く相手にせねばならない戦場だ。ハンターらが体力気力の限界を迎えて後がなくなったにもかかわらず、血路の開通までには未だ最後の壁が立ちはだかっていた。

 あと僅か数mだというのに──最後の道を拓く為の数十秒は、ある少年にとってはさぞ長く感じられただろう。
 トロルの唸り声。何度となく耳にしたそれは、乱打の合図。しかし、回避が間に合わず直撃した王国騎士団員がついに意識を失い落馬した。同時に、ゴースロンも息絶えたようで、血路の上に騎士と馬の体が横たわる。ここまで負傷者ゼロと完璧に抑え込んでいた王国連合軍だが、最後の最後で“犠牲を出すことになりそうだ”──ダンテは、それを認識し、敢えてこう叫んだ。
「てめぇら、いいか! 残り4体、命に代えても攻め落とせ!!!」
 ……だが。それを、無視できない少年がいた。
 最後に仕掛ける総攻撃。突撃の号令に全軍が唸りを上げる中、ティトは一人、ゴースロンの手綱を大きく切った。
「おい、起きろ!」
 落馬した騎士はまだ意識が戻らない。このままここに単身残すよりはマシだ──そう判断したティトは、下馬して騎士を揺り起こす。血路の外にも多数の巨人が犇めいている状況。男の意識が覚醒した時……ティトは迷わず、”命を救うこと”を選んだ。
「囲まれる前に離脱だっ!」

 かたや、最前線。ダンテがオークの脛へ大剣の一撃をぶちまけると、そこを挟撃手のナハティガルが強襲。
「ったく、随分青いもんだ。ま、ここまで来たら……楽勝だろ、多分な」
 ボロフグイの穂先が巨人の足を深く抉った。直後、カウンターを狙い腕を振りかぶるオークを制し、ナハティガルの離脱を支援するようにユエルが声高に一斉掃射の指揮を叫ぶ。騎士9人が一斉に弓を射る横で、弥勒が最後の巨体目がけて一気に距離を縮めてゆく。弥勒の接近までの時間を稼ぐべく、放たれルカの一撃。魔導拳銃の弾丸が風を纏い敵の目玉を寸分違えぬ精度のもとに撃ち抜いた。
「殺された上に、辱められた人々を思えば……必ず貫き、討伐して見せます」
 地獄の叫喚もかくや、巨人が頭を押さえて悶えのたうつそこをヴァルナの剣が迎え撃つ。騎兵の突撃力そのままに、大振りの一撃を叩きつけ──
「すぐにもう一度眠らせて差し上げましょう」
 次へ次へと繋がる連携。ラストアタックが──弥勒の馬上からの縦一閃。煌剣の軌跡は仄白く輝き、裂いた端から歪虚の肉片は黒い靄と化して消えていった。
「ま、こんなもんだろ。道は拓いてやったぜ」

 少年たちの目線の先に開けた光景に、彼らは何を見たのだろうか。



 それからややあって。
 異形の肉塊は葬られ、そしてそれを操る人型歪虚に、十三魔の配下を名乗る道化師など随分賑やかな連中が去った戦場は、未だ濃い死の香りに包まれていた。肉片に塗れ、骨片が散る戦場は、現世の地獄──安易に言えば、そこは死地だった。死者も出た。再起不能者も出た。本作戦はまさに、血路の上に開かれ、死闘の上に掴み得た勝利と言えた。

「ダンテさん達、戦い詰めの筈ですが……タフですよね」
「団長についてくのも俺らの仕事っすからね」
 死臭もやや薄れる戦線から離れた救護テントにて。ティトや、彼が救った王国騎士がルカの治療を受け終えた頃、のっそりとダンテが現れた。
「よう。……生きてたみたいだな」
 ティトは何の気なく、ダンテの姿を見て立ち上がる。
 だが……少年を待ち受けていたのは、ダンテの平手打ちだった。
「なっ……にすんだよ!」
 大きな手。その強さに、騎士一人守り抜いて走った少年の体がテントの隅へ吹き飛んだ。口の端から垂れる血の味は、巨人の一撃をまともに受けた時の全身の軋みなんか比にならない、強烈な“痛み”が感じられる。
「俺は以前、お前に“てめえのペースでやりゃあいい”と言った。そりゃな、てめえの勝手を通せって意味じゃねえ」
「わかってるよ! ……でもっ、放っといたら死んでただろ!!」
「あぁ。その“血”で、“路”が拓けんだ。解るか、小僧」
 グラズヘイム王国騎士団として派遣された自分たちの役目……男の言葉は、強い信念と覚悟の塊だった。
「でも……俺には出来なかったんだ」
 強い視線で見上げるティトに相対するダンテは、しばしの沈黙の後、燃えるような髪をがしがし掻くと黙って少年に背を向ける。男の手で出入口の垂れ幕が上がると、差し込む光がやけに眩しくて、ティトは複雑な心境で目を眇めた。……その時。
「てめえの行いは認められねぇ。だが……そいつは、俺の大事な部下だ。礼は言わせてもらうぞ、“ティト”」
 聞き返す間もなく、ダンテはその場を立ち去った。
「なんだよ、今の……。ていうか、俺の名前、覚えてたんだな」
 少年は、嵐のような男の来訪を振り返って小さく笑うと、瞳を閉じて傷だらけの体を横たえた。

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MVP一覧

  • 勇敢と献身に混在する無謀
    ティト・カミロka0975
  • グリム・リーパー
    ジェーン・ノーワースka2004

重体一覧

参加者一覧

  • 一刀必滅
    ナハティガル・ハーレイ(ka0023
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 壁掛けの狐面
    文月 弥勒(ka0300
    人間(蒼)|16才|男性|闘狩人

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 勇敢と献身に混在する無謀
    ティト・カミロ(ka0975
    人間(紅)|16才|男性|闘狩人
  • グリム・リーパー
    ジェーン・ノーワース(ka2004
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ヴァルナ=エリゴス(ka2651
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/04/02 22:00:26
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/30 05:43:35