ピンクスパイダー

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/01 22:00
完成日
2015/04/08 22:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 それはある意味とても美しい色。
 それはある意味とても可愛らしい色。
 それはある意味とても美味しそうな色。
 しかし、生物としては毒々しい色。


 ある森でゴブリン退治の依頼を終えたハンター2人を襲った悲劇。
 たまたま方向が一緒になった行商人一行と共に帰路に着く途中だった。
 何もない草原に、ぽつねんと浮かぶ3つの異色の影。
 最初は誰か布を落として行ったのかと思い、ハンターの1人がその影に向かって隊列から抜けて、その影へと近付いていった。
 近付くにつれ、それがケバケバしい色をした『何か』だと言う事に気付いた。
 そして、24の紅い目に捕らわれた瞬間、その影に押し倒されていた。
 見守っていたハンターの1人が異常に気付き、声をかけ助けに向かうが、襲われたハンターは時既に遅く、覚醒することも出来ないまま喉笛を食い千切られ絶命していた。
 襲っていたのは全身がピンク色をした大蜘蛛3体。
 これが、ただの大蜘蛛で無い事はハンターでなくともわかる。
「雑魔……!! 逃げろ! みんな、逃げ……!!」
 ハンターの男が殿となり、声を上げた次の瞬間、3体にのしかかられて、草陰に消えた。それでも激しい衝突音と雄叫びから、彼が善戦した事に偽りは無い。
 ……しかし、数分後、草原には血飛沫の音と肉を咀嚼する音が響いた。
 残された行商人達は、幸いにして馬を持っていたため、騎乗して戦線を離脱。
 そして不眠不休で街道を駆け、ハンターオフィスへと雪崩込んだのだった。


「依頼です。すでにハンター2名が犠牲になっています。うち、1名はハンターとしての経験も豊富な人物でした。決して油断されませんよう、最初に警告させていただきます」
 いつも以上に厳しい表情をした説明係の女性は、集まったハンター一人一人の顔を見渡してから、資料へと視線を移した。
「敵は雑魔。大蜘蛛のような姿形をしています。これが3体」
 ざわっ、と場の空気が揺れる。
「大きさは胴体部分で1m程。脚の長さも含めれば2mにも匹敵します。どれも鋭い顎と牙を持ち、口から粘着性の強い糸を吐きます。この糸に絡み取られると回避行動がしづらくなるようです。8本ある脚の脚力は強く、複数回攻撃を行うようです。動きも素早く、1m程ジャンプもします」
 雑魔ではあるが、どうやら動きそのものは蜘蛛と殆ど変わりないようだった。
「この大蜘蛛は耐久力が高く、攻撃が通りづらいそうです。そして何より3体が同じ人物を攻撃することがあるため、体力が低い者が狙われた場合は注意が必要です」
 回復手段を確保しなければ戦い続ける事自体が困難となる場合もあるかもしれない。そう誰かが密やかに呟いた。
「幸いにして発見場所は周囲に何もない草原地帯。膝下まで草が生えていますが、動くのに支障はないでしょう。また、この3体の大蜘蛛は全身がピンク色の体毛で覆われているので、発見は容易いかと思います」
 念のために双眼鏡はこちらで貸与します、と彼女は付け加えた。
「参加される者同士の連携と、臨機応変な対応が必要となる、大変危険な任務となるでしょう。それでも、これ以上被害が出る前に討伐をお願いいたします。そして、どうか全員生きて帰って来て下さい。ご武運をお祈りしております」
 そう珍しく私情を挟んだ彼女は、深々と頭を下げたのだった。

リプレイ本文


 若草が柔らかに揺れ、白や黄色の野花が春の喜びを伝えてくる中で、遠目で見ても明らかに異物とわかる3つのピンクの塊。
「マンマミーア! マジでピンク!!」
 超級まりお(ka0824)が双眼鏡越しに感動とも呆れともとれる声を上げた。
「小さい時もあの色だったのかな? 凄く目立つね」
 リューリ・ハルマ(ka0502)の呟きに、リリティア・オルベール(ka3054)は思わずわちゃわちゃとピンクの子蜘蛛が集っている様子を想像してしまって、生理的嫌悪感から来る鳥肌を押さえるために両腕をさする。
「これ以上放って被害を拡大させるわけにもいかないですし、何としても討たないと!」
 その決意は固い。だが、苦手なものは苦手で早々に双眼鏡から目を離す。
「大蜘蛛か、虫は初めてというか、未経験だからな、基本は変わらん……そう信じようかね」
 双眼鏡を外して目頭を軽く揉みながら、リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)はそうぼやいて、今回参加のメンバーを見渡す。
「色合いが可愛らしいからと油断は禁物ですわよ、ティーアさん」
「あれ……可愛いか? どう見ても趣味が悪いだろ」
 シェリア・プラティーン(ka1801)の軽口に、眉間にしわを寄せて答えるティーア・ズィルバーン(ka0122)。2人のやり取りを見て、リカルドは『少なくとも知った人間が怪我するのも、理不尽な理由で孤児が出るのも好きじゃ無いしな』と、薄く笑みを浮かべる。
「それで、どうするアルか? 分かれて戦うにも、どう分かれるアルか?」
「まぁ予定通り3方向から攻撃をしかけて、それぞれの班が1匹ずつ受け持つんでいいんじゃないかな?」
「では、私達はあの向かって一番左の蜘蛛を担当するね」
 李 香月(ka3948)の問いに、ミリア・コーネリウス(ka1287)が気負わぬ様子で答え、それにリューリが同じC班として行動するリリティアとダラントスカスティーヤ(ka0928)と目配せで了解を得ながら、攻撃対象を示した。
「じゃ、ボク達A班は右行こうかな」
 まりおの声に香月も「了解アルヨー!」と応え、ここまで参加メンバーの言動を静かに観察していた音桐 奏(ka2951)も「異論ありません」と頷いた。
 その間もダランは敵がこちらに気付いて動き出さないかと観察していたが、蜘蛛達はぴくりとも動かない。
「じゃ、配置についたら各班手を上げて合図ね。僕が両手を挙げたら、一斉攻撃ってことで」
 ミリアがそう告げると、各自静かに頷いて速やかに行動を開始した。

「しかし……保護色とは無縁のピンク色ですか。さて、この場で打ち抜き、殲滅するとしましょうか」
 奏は魔導銃のフォアグリップを強く握り、これ以上被害を増やさないためにも必ず終わらせると、決意を新たにする。
「この辺でいいアルか? ではミリアに合図を送るアル!」
 蜘蛛との距離とB班との距離を双眼鏡で確認して、香月はミリアに向かって手を振る。
 暫くすると双眼鏡の向こうで、ミリアが両腕を上げ、前進を始めたのが確認できた。
「人間の強さは仲間とのコンビネーション……性質の違うハンターが共に戦う時、三つ首の怪物の如き強さを発揮するアル!」
 香月の高らかな宣言に、まりおは笑って「そうだねー。頑張ろうね」と応え、奏は無言のままトリガーに指をかけ、蜘蛛に向かって前進を始めた。


 B班はシェリアのホーリーライトが炸裂した後、さらにリカルドがペンタグラムで蜘蛛の腹部を撃ち抜いた事により、一体を自分達側へおびき寄せる事に成功した。
「仇討ちってわけでもないんだけど、こんなところに縄張りをもたれちゃ迷惑なんだよね」
 双眸を紅く輝かせたミリアは皆より一歩前に出て、己の鳩尾ほどの大きさのあるアムタトイを構えた。そして近付いて来た蜘蛛の前脚を叩き切らんと斧刃を振り下ろした。
 しかし、硬い表皮はその一撃を受けてもなお、裂ける事は無かった。
「それじゃ、銀獣の狩りを始めるぜ!」
 ミリア1人を孤立させない為に前衛へと躍り出ると、ティーアは斧形態にしたツヴァイシュトースツァーンで反対の左前脚へと攻撃を繰り出す。
「っ、硬いな」
 両手掌に伝わってきた衝撃に蒼光を宿した瞳を顰め、思わず呟やくと得物を構え直した。
 蜘蛛は一番近いミリアにその前脚を振り上げ叩き付けようとしたが、ミリアのガードに弾かれた。
 ミリアはニヤリと強気の笑みを浮かべると、両足を踏みしめて、再び斧を構え直した。
「攻撃は僕が受け止める。あとのみんなは攻撃をっ!!」
 そう叫ぶと同時にミリアは再び斧刃を振り下ろすが、同じ手は喰わぬと蜘蛛も図体に見合わぬ機敏な動きで攻撃を受け止める。
「今回も宜しく頼むぜ、シェリア」
 気心知れた仲であるシェリアに声をかけると、反対側でミリアが敵を引き付けたお陰でできた隙を突く。その狙い澄ました一撃は蜘蛛の8つある紅い瞳を一つ潰した。
 痛みか衝撃か。蜘蛛が大きく跳ねた。
 そして、その巨体はリカルドにのしかかるように落ちて来た。
「!?」
 リカルドは咄嗟に身体を捻って下敷きになるのを回避すると、その回転を利用して振動刀を振り抜き脚を撫で斬る。
「おぉ、危ない危ない」
 この蜘蛛は機敏な動きをするが、胴体だけで1mある。下から腹部を裂く事も考えていたが、重量がわからない以上押しつぶされる可能性もあり、咄嗟に逃げる事にしたのだ。そしてその判断は着地した時の音圧から決して間違いでは無かったと、リカルドは冷や汗を流した。
 シェリアは蜘蛛の正面に立つと、自身に光を纏う。毛先に暖かみのあるピンク色を帯びた金の髪が風を受けてふわりと広がる中、至近距離から光弾を放とうと盾を構える。
「私が注意を引き付けますわ!」
「あぶねぇ!! 無茶するな」
 ティーアの前では凛々しい態度を保とうとするシェリアだが、大胆な行動は逆にティーアに心配を抱かせる。特にティーアは直接攻撃を仕掛けて敵の硬さと、間近で一撃の重さを肌で感じたばかりだ。あの一撃は守りに重点を置いたミリアだから防げたもので、決して敵の攻撃力が侮れないものである事は察知していた。
 一方でシェリアの意志が固い事も感じたティーアは、一瞬ためらった後、もう一度「無茶するなよ」と告げ、敵の攻撃を引き付けるべく蜘蛛へと斧を構え直す。
 その言葉の変化をきちんと受け止めて、シェリアは真剣な眼差しは蜘蛛に向けたまま、口元に微笑を浮かべて「はい!」と応えた。
 そんな4人を7つの紅い瞳はただ静かに獲物を見定めるように映していた。


 次いで敵の引き離しに成功したのはC班だった。
 一体がB班に向かって動き出したのと同時にリューリのリボルバーが火を噴き、リリティアが風を纏った弾丸を撃ち込んだ事により、目標の蜘蛛が動き出す前に自分達へと注意を引き付ける事に成功したのだ。
 蜘蛛はその8本の脚を軽やかに動かし、リューリとダランの目前まで一気に間合いを詰めて来ると、口から糸を吐き出した。
 ダランはそれを素早く避けると、蜘蛛の右側の脚の節を狙って強く踏み込み、右腕一本でロングソードを振り下ろす。剣の刃で煉瓦を叩いたような音が響き、その強度に一瞬眉を顰めた。
「ガンガン行くよ! どーん!」
 そんなダランの脇を駆け抜け、リューリが己の首元まである戦槍、ボロフグイを大きく振り払う。
 そこにリリティアも走り込んで3人で蜘蛛を囲む様に布陣すると、天墜で斬り込んだ。
 リューリが適宜声をかけ注意を促し、リリティアはそれに呼応して狙いを調整し、ダランは黙々と敵を引き付けるように強打を繰り出していく。3人が互いをカバーし合う事、突出しない事に注意を払った結果、どの班よりも連携が取れ、着実に敵へ攻撃を当てる事が出来ていた。
「結構、攻撃重いね」
 頬を流れるのは汗か先ほど受けた傷からの出血か。リューリは確かめもせずそれを乱暴に肩口で拭って、祈りと力を宿した穂先を蜘蛛に向け、大きく振りかぶる。
 その渾身の一撃は蜘蛛の視界の一つを奪う事に成功した。
 すると蜘蛛は前4本の脚を滅茶苦茶に動かし暴れた。
 それを好機とみたリリティアが一瞬で間合いを詰めると、斬龍刀を振り上げ、その名の如く天を墜とす勢いで右側前脚へ振り下ろす。
 しかし、その一撃は不意の動きにより地面へと沈む。
 ――次の瞬間、リリティアの真紅の双眸が捉えたのは、その振り回されている前脚の尖端が自分に向かって振り下ろされてくる様子だった。回避行動も間に合わない一瞬。なのに、やたらとゆっくりと迫ってくる尖端を見つめ続けた。
 そして目を閉じると、熱いと感じる程の血飛沫を頬に感じ、全身にのしかかる重みと衝撃を受け入れた。


 奏の弾丸は確かに蜘蛛に命中したが、他の2匹が動き出した事により、そちらへ蜘蛛は頭を向ける。
「そっちじゃないよー」
 まりおがダッシュで蜘蛛へ肉薄すると、左後脚を叩き斬らんとオートMURAMASAを振り下ろした。
 火花が散りそうな音が立ち、すぐにバックステップで体勢を整えたまりおの横を、香月が走り抜けて拳を振り上げる。
「ホアタァ! アチャア!」
 気合いと共に突きを入れた後、一瞬動きが止まって後ろへと飛び下がった香月は、両の拳を開いてぶんぶんと振った。
「すごく固いアルね」
 グーパーグーパーと開いて閉じてを繰り返した後、「でも」と呟くと、再び拳を握り、全身を流れるオーラを纏わせて攻撃の構えを取る。
「負けないアル」
 殆ど発見時と動いて居ない場所で蜘蛛と戦う事になったA班だったが、他の班が蜘蛛を引き付け攻撃している事で、蜘蛛同士が連携攻撃を取る事はほぼ不可能な配置で戦う事には成功していた。
 さらに、各班の動向も肉眼で追う事が出来る程度の距離となり、奏はひっそりと笑う。
「さて、皆さんはどんな行動を見せてくれるのでしょうか。愉しみですね」
 そう呟くと、黒蒼色を纏ったフリューゲルを再び構えて前衛の2人に届く様に声を張った。
「敵の足を止めます。攻撃のタイミングに注意して下さいね」
 蜘蛛が前衛の2人に向き合い、奥にいる自分も(多分)認識したと思われるそのタイミングで奏は威嚇射撃を放ち、その場から動けないようにする事に成功した。
「グッジョブ。ありがとー」
 まりおは先ほど自分が攻撃した左後脚を狙って振動刀で斬り付けていく。
 前衛の2人は蜘蛛を逃がさない為に、まりおが左後ろ側、香月が右前側に挟むように陣取り、蜘蛛の猛攻を避けつつ攻撃を繰り出していった。
 幾度かの交戦の後、香月がノーモーションから蜘蛛の頭胸部に拳を打ち込むと、その前脚を悶えるように振り回し始めた。
『もしかして頭弱点アルか?』
 明らかに違う動きをする蜘蛛を見て、香月はもう一度頭胸部を狙って拳を打ち込もうと正面から挑みかかった。
 しかし、その紅い八ツ眼に捕らえられた瞬間、ぶわぁっと白い糸に視界を奪われる。驚いて後ろに下がろうとしたが、その足も上手く動かずその場に尻餅をついてしまった。細いとりもちのような、ねっちょりとした糸が絡まり、慌てて逃げようと焦れば焦るほど上手く起き上がれない。
「アイヤー! 起き上がれないアル~! 助けて~~!!」
 その様子を見て、奏がすぐに魔導銃を構えて狙い澄ました一撃を放つが、わずかにその弾道は逸れてしまった。
 まりおが自分の方を向かせようと傷の入った左後脚へさらに強く刀を打ち付ける。
 しかし、蜘蛛の怒りを孕んだ八ツ眼は藻掻く香月から動かない。
「だめ! 逃げて!!」
 まりおの叫び声と蜘蛛が動いたのはほぼ同時。
 蜘蛛の脚が蠢く度に血飛沫が飛び、座った状態でガードを取っていた香月が、糸の切れた人形のように地に倒れた。
 その様子を見た奏は、奥歯を強く噛みしめてトリガーを引いた。
「観察が趣味ではありますが、味方が喰われているところを観察するつもりはありません」
 狙い澄まして放たれた弾丸は、八ツ眼の一つに吸い込まれるように命中した。
 すると、突然大きく跳ね上がり、香月の上から離れ走り出した。
「逃がさないってー」
 まりおがその後を追い、背後から強襲する。
 まりおが狙い続けて居た後ろ脚の一本がついに斬り放たれ、蜘蛛の動きが止まる。
 奏もまりおと蜘蛛の後を追い走り出したが、まず安否を確認しようと香月の元へ駆け寄った。ひゅぅひゅぅと細くはあるが呼吸音がし、心臓が動いている事を確認して、胸を撫で下ろす。
「後で助けます」
 聖導士はシェリアしかいない。B班を見るとまだ戦っているようだった。
 奏は香月を蜘蛛の視界から遠ざける為にも、銃を構えてまりおの後を追った。


 ――その時、脳裏をよぎったのは、失ってしまったもの。二度と、還ってこない人。
 もう、あんな思いは二度と御免だ。
「っ!」
 地面に頭を強かにぶつけて、リリティアは『あぁ、致命傷って熱いっていうけど、打った頭の方が痛むんですね』などと思った次の瞬間。
「ダランさんっ! リリティアさんっ!!」
 リューリの悲痛な叫びを受けて、リリティアは我に返った。身を起こそうと身体を動かして、自分の上にダランが覆い被さっている事に気付いた。酷く重い男の身体に触れると、熱い血糊がべったりと両手を濡らした。
「ダランさん! 大丈夫ですか!? リリティアさん!」
 リューリは蜘蛛を引き付けるため、長い戦槍の刃で腹部を裂き、蜘蛛の攻撃を柄で受け、はじき返しながら2人に声をかけ続けた。
 ダランは小さくうめいて無事を伝えようとするが、言葉が出てこないばかりか、動く事もままならない。頭部、背部、大腿を爪で抉るように攻撃され、その箇所が心臓になったようにドクドクと脈打っているのがわかる。『……これは体力の殆どを持って行かれたか』と冷静に自分の状態を把握して、自己回復を試みる。
「ダランさん!」
 ダランが自分を庇った事を把握したリリティアが、ダランをなるべく動かさないようにその下から抜け出し、その傷口を確認する。
 マテリアルの暖かな流れが出血を抑え傷口を塞ごうとしているのを見て、ダランは意識があり回復を試みていることを察知すると、リリティアは涙が出そうな程安堵した。
 ダランは俯せになっていた顔をゆっくりとリリティアの方へ向けて、漸くリリティアを捉えた。
「……」
 無言のまま、ゆっくりと目を伏せて、再びリリティアを見る。
『俺は大丈夫だ、行け』
 ダランの無言の意思を受け、リリティアは大きく頷いて立ち上がった。
「必ず仇は討ちます!」
 『まだ死んでない』ダランは心の中でツッコミを入れたが、勢いよく走り出した後ろ姿を見て、守れた事に満足すると唇の端を持ち上げた。
 戦線に復帰したリリティアはリューリの一撃に合わせるように斬龍刀を振り下ろし、その後脚の一つを切り落とす事に成功した。
「ダランさんは?」
「無事です、自己回復されてます」
 その言葉にリューリは安堵の笑みを浮かべると、戦槍を大きく頭上で回して構えた。
「良かった。じゃぁ早く終わらせて帰らなきゃ」
 2人は頷くと、止めを刺すべく刃を蜘蛛へと振り下ろした。


 どうやらこの蜘蛛は自分の傍らで最も動きの大きいものを襲う傾向があるらしい。
 そこに気付いたミリアが積極的に動き、また鉄壁の防御を貫いたお陰で、B班は重大な負傷者を出す事も無く着実に攻撃を与えていた。
「ティーアさん、今ですわっ!」
 シェリアの光弾が炸裂した所に、ティーアが斧を振り下ろす。鈍い音を立てて、蜘蛛の最後の脚が斬り離された。
「動きを抑えりゃただの的……ってわけにはいかねぇよな」
 ティーアが油断無く斧を構え直し、入れ替わりにリカルドが大きく踏み込み、振動刀でその腹部を切りつけた。
 最期のあがきと蜘蛛がミリアに蜘蛛糸を放つが、ミリアはそれを身体を逸らす事だけで避け、お返し、とばかりに戦斧をその頭胸部に叩き込んだ。
 ざぁ……と風が吹き、蜘蛛は塵となって消えていく。
「よし、終了。……っと、他の班はどうかな?」
 ミリアが戦斧を担ぐように肩にかけ、周囲を見渡す。
「A班かな、ありゃ」
 リカルドが自分の負った傷を確認して『まだ戦える』と振動刀の柄を握り直すと、まだ生きている蜘蛛に向かって走り出す。
「シェリア、行くぞ」
「はい」
 ティーアの傷が心配ではあったが、言うが早いか駆けだしてしまった彼の後ろ姿にシェリアは付いていく。


「みんなありがとね-」
 リューリとミリアが駆けつけた時、既にまりおは前衛1人で蜘蛛を引き付けながら戦っていた。
 かなり息は上がっていたが、それでも殆どの攻撃を回避し続けるその集中力と持久力は凄まじい物がある。
 また、奏の狙撃もその殆どが命中し、主に頭胸部と腹部の傷は銃創だった。
 2人の到着でかなり戦況は良くなり、B班のメンバーが到着した時には既に蜘蛛は左側の全ての脚を落とされていた。
「そろそろ止めいっとく?」
「援護します」
 奏の強弾が再び目を撃ち抜き、まりおはその隙を逃さず上段に構えた振動刀を頭胸部に振り下ろした。

 ――こうして3体の蜘蛛達は無事退治された。

 静けさを取り戻した草原では若草が柔らかに揺れ、白や黄色の野花が春の喜びを伝えてくる。

 それはとても美しい色。
 それはとても可愛らしい色。
 それはとても美味しそうな色。
 それは春を表現する色のひとつ。

 ピンク色の小さな花が3つ、風に揺れていた。

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参加者一覧

  • アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター
    ティーア・ズィルバーン(ka0122
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士

  •  (ka0824
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 無口の傭兵
    ダラントスカスティーヤ(ka0928
    人間(紅)|30才|男性|闘狩人
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 白金の盾
    シェリア・プラティーン(ka1801
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • 志の黒
    音桐 奏(ka2951
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • ピットファイター
    李 香月(ka3948
    人間(蒼)|20才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦会議室
ミリア・ラスティソード(ka1287
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/04/01 10:45:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/03/30 16:04:55