【AN】調査は自分の足で!

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/08 07:30
完成日
2014/07/12 04:14

みんなの思い出

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オープニング

 ラテン語で下水道の意味を持つ【Aqua Nigura】の略称である【AN】はゾンネンシュトラール帝国においては定期的に実施されるある掃討作戦の通称だ。
 近代都市であるバルトアンデルスの地下を走る下水道の規模は全長1000km以上に及び、迷路のように張り巡らされている。
 だが、最新鋭の機導術を誇る代償としての魔導汚染に常に悩まされている帝国の、首都ともなれば下水道の汚染から雑魔が発生するレベルの汚染となるのは避けられない。そう、【AN】とは第一師団による定期的な掃討作戦行動の名称なのだ。この掃討から暫くは下水も安全な場所になる――筈であった。
 発端は、大切なものを下水道に落としてしまった子供が雑魔に襲われた事件である。第一師団長オズワルドは、直ちに調査隊を組織し、下水の再調査を命じた。
 だが――。
「調査に向かった分隊が行方不明だと?」
 第一師団執務室にて、師団長オズワルド老は副師団長・エイゼンシュテインに思わず聞き返す。それにエイゼンシュテインが答えた。
「下水内の伝話からの最後の定期報告は『数が多すぎる』だそうだ」
 思案の後、オズワルドが口を開く。
「ヴィルヘルミナには俺から報告しておく。人員を再編成しろ。だが――」
 副長が答えた。
「この時期の師団は人手が足りん。また、ハンター連中を招集するしかないかもしれんな」

●地下下水道入口
 指令書に目を通したリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は、わざわざ現場に足を運んでくれたオズワルド(kz0027)に目を向けると問い掛けた。
「現在の状況と内容は把握しました。これらを踏まえた上で、オズワルド様が私の所へいらした事を推測すると、原因究明に繋がる糸口を探したい……と言うことでよろしいでしょうか?」
 微かにズレた眼鏡の位置を直し、リーゼロッテは首を傾げる。それを見止めて咥えていた葉巻を揺らすと、オズワルドは低く唸った。
「ま、そう云う事だな。敵の形状から考えて地下汚染が原因だろうが、もうちっと踏み込んだ情報が欲しい」
 出来るか? そう問い掛ける視線に、リーゼロッテは再度指令書に目を落とす。
「ここに来る前クロウ先輩ともお話をしてきましたが、地下下水道の水を採取出来れば可能だと思います。ただ、採取する水は出来るだけ濃い方が望ましいですので、少し踏み込んだ場所での採取が必要かと思います」
「踏み込んだ場所か……となると、雑魔が多少いる場所じゃねえと駄目だな。その辺はハンターに任せれば良いか」
 ふむ。と目を細めたオズワルド。そこにのんびりとした声が響く。
「こんにちわぁ」
「ナサく――……コホンッ……錬魔院院長、何故こちらに?」
 思わず出そうになった呼び名を呑み込み、リーゼロッテは冷静を努めて言葉を紡ぐ。
 こうした態度の裏にはリーゼロッテの偏見もあるのだが、それ以外にも色々と複雑な事情がある。
 そもそも錬金術師組合と錬魔院は昔から水と油も良い所。しかも現在のトップ同士になってからは更に仲が悪いと言う噂付きで、特にリーゼロッテは出来る事なら関わりたくないとも思っている。
 しかしそんな彼女とは反対に、ナサニエル・カロッサ(kz0028)は何も気にしていないよう笑って近付くと、猫背のまま2人の顔を見上げた。
「どぉも、また会いましたねぇ」
「随分と行動的じゃねぇか。自分で調査する気にでもなったのか?」
 クイッと上げられたオズワルドの眉に「まさかぁ」とナサニエルが笑い返す。その遣り取りを見ているだけで、嫌な思いがするのは考え過ぎだろうか。
 リーゼロッテは零れそうになる息を密かに呑み込むと、出来る限り毅然に言葉を紡いだ。
「錬魔院院長、何かご用でしょうか? もしご用がないようでしたら私はこれで――」
「指令書見ましたかぁ?」
 ピクリ。とリーゼロッテの眉が動いた。
「僕も見たんですけどぉ、ちょっと今忙しいんでぇ、マテリアル観測装置を貸しますからぁ、それで調査してくれませんかぁ?」
「は?」
「僕、外出たくないんですよぉ。もう歩きたくないんですよぉ。これ以上いたら溶けちゃうんですよぉ」
 畳み掛けるように発せられた言葉に眉を潜める。
 相変わらずと言うか何と言うか。
 元々研究室に籠って外に出ない性格だったが、ここまで酷くなったのだろうか。いや、我が侭な性格も出不精な所も昔と何ら変わりない。
 本当ならここでお説教の1つでもしたいが、そう出来ない事情が彼女にはある。故に紡ぎ出す言葉は固い。
「何故私に頼むのでしょうか。同じ院の方、もしくはハンターの方にお願いすれば良いと思いますが……」
「オズワルドさんがぁ、リーゼに頼めば良いって言ったんですよぉ」
 オズワルドさんが頼めば良いと言った? 彼女は伺うようにオズワルドを見ると、彼は知れっとした様子で告げた。
「マテリアル観測装置を1個設置させたら疲れたって言うんでな。ま、調査の一環として頼むわ」
 思わず震え出しそうになるがここは我慢だ。
 リーゼロッテは立ちながら揺れているナサニエルと、今にも葉巻に火を灯しそうなオズワルドの双方を見比べると、今度は分る様に溜息を吐いて胸を張った。
「わかりました。マテリアル観測装置の設置を引き受けます。その代り貴方は今すぐこの場から立ち去って下さい!」
「え~? データは僕が調べるのでぇ、いても良いと思うんですけどぉ」
「でしたら自分で向かわれてはどうでしょう? それが出来ないようでしたらお引き取り下さい!」
 ダンッとその場で地面を踏み付けたリーゼロッテに、オズワルドとナサニエルの目が見開かれる。しかしそんな事などお構いなしにリーゼロッテはオズワルドに続ける。
「観測装置設置には私も同行します。どこかの錬魔院の院長さんの様に自分で動く事を嫌うようでは正しい数値など出ませんから。勿論、オズワルドさん……駄目とは言いませんよね?」
 キラリと光った眼鏡にオズワルドの口から息が漏れる。そうして肩を竦めると「好きにしろ」と疲れた声を零したのだった。

リプレイ本文

「みなさん、今日はどうぞよろしくお願いしますね」
 そう言って微笑んだリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は集まったハンター達を見回す。その腕の中には、今回設置するマテリアル観測装置が抱かれている。
「それが、マテリアルを観測する装置ですか?」
 なんだかすごく重そうですが……。そう言葉を濁らせると、こなゆき(ka0960)はなんとも言えない表情で観測装置を覗き込んだ。それ続いてファティマ・シュミット(ka0298)も同じように観測装置を覗きむ。
 その表情がすぐれないのは気のせいではないだろう。
「確かに重そうです……うー……ますますハードル高いなあ」
 見るからに高度な錬金術の機械。田舎から出てきて独自に錬金術の研究をしてきた自分には理解出来そうもない装置に彼女の眉尻が下がる。
「けどま、そんな重厚なものを設置しないといけないくらいに下水道は汚染されてるってことだろ? 何が起きてるんだろうな」
 ヴァイス(ka0364)はリーゼロッテの抱く装置をチラリと見ると、彼女の脇に在る下水道の入口に目を向けた。
 そこには既にミカ・コバライネン(ka0340)とオイレ・ミッターナハト(ka1796)の姿がある。
「ミッターナハトさんはどう思う?」
「うん? 今言っていた組織のしがらみ云々の話かい? それだったら特に興味はないが……」
 情報屋としての話なら興味はあるが、今ミカが口にした組織のしがらみに関しての話には興味がない。それが仕事に役に立つなら別だが。
 しかしミカは言う。
「いや、そっちじゃなくて、道の話さ」
 そう言って彼は事前に借り受けていた地下道の地図に目を落とした。
「見た限りだとほぼ一本道だね。既に頭に記憶してあるので道順の問題はないが、不安かい?」
 微かに口角を上げて笑んだ彼に「いや」と言葉を返す。そうして顔を上げると、彼は傍で下水道の入口を見詰めるディル・トイス(ka0455)に目を向けた。
「トイス、何か気になるものでも?」
「あ、いや」
 そう言葉を詰まらせると、彼はミカにだけ聞こえるように声を潜ませ「子供や分隊は無事だったかなってさ」と零した。
「ま、大丈夫だろ」
 声を潜ませるのは周囲に気を使っての証拠。ミカは彼の意図を汲み取って小声で返すと、下水道突入のために近付いて来た面々を振り返った。
「それじゃま、行きますか」
 観測装置はリーゼロッテが持つらしく、彼女が腕に抱えている。他にも照明を持ったり腰に括りつけたりしている姿も見えるが、ふとある姿が気になった。
「そのお洋服、可愛いですね!」
 こなゆきの服に興味津々でファティマが瞳を輝かせている。先程までの不安はひとまず後ろに置かれているらしい。
「普段着ているものとは勝手が違いますけれど、これはこれで悪くない感じです」
 微笑む彼女が着るのは「まるごとうさぎ」真っ白なうさぎの着ぐるみを来た彼女は確かに可愛い。
 可愛いが……。
「若干、動き辛そうだな」
 率直な感想をヴァイスが零してくれた。
 それに「ふふ」と笑みを零し、こなゆきは小さな尻尾を揺らして下水道に近付く。そして順番に下水道に下りて行くのだが、ふとオイレが思い出したように口にした。
「リーゼロッテ嬢は真ん中を歩いてな。でもって、オジサンは後衛希望で」
 オイレはそう言うと、飄々とした様子で下水道へ降りて行った。


 下水道へ降りて一番、ファティマは眉を寄せた状態で口と鼻を抑えた。その姿にヴァイスも同意するように顔を顰める。
「凄い臭いだな……っ、下水も、凄いな」
 視覚と聴覚は感覚を共有していると言うが、こういう場合は共有しなくて良い気がする。
 ヴァイスはそっと視線を逸らすと、込み上げる嗚咽を呑み込むようにそっと口を閉ざした。
 それを視界にミカは興味深げに下水を見やる。
「何処の世界も変わらないな……理解不能な世界よりはずっと良いが、ね」
 零して懐に手を伸ばそうとして思い留まる。これだけの汚染状況だ。煙草に火を点けたところで無事とは限らない。
「やれやれ」
 彼はそう零すと、こちらを見ているディルに目を向けた。そうして「どうした?」と眉を上げるのだが、彼は緩く首を横に振って前を見る。
「灯りが消える前に戻って来よう」
 ランタンの照明時間は3時間。この間に行って戻って来なければ、殆どの者が灯り無しで下水道を歩く羽目になる。
 そうなる前に何とか行って戻って来なければいけない。
「それでは参りましょう。リーゼロッテさんは壁際を歩いて下さいね」
 こなゆきはそう言うとハンディLEDライトを片手に歩き出した。それに続いて他の面々も歩き出す。
 そして後衛を歩き出したファティマは口と鼻を抑えていた手を放すと、意を決したように息を吸い込み……咽た。
「っ、けほ……うぅ……臭いよお。で、でも、ここでめげたらダメだよね! めざせ一流錬金術師!」
 おー! そう声を上げて涙目で歩き出す。そんな彼女を微笑ましく見守りながら、オイレは中を歩くリーゼロッテに問い掛けた。
「設置と採取にはどれくらい時間がかかるのかな?」
「そうですね……それほど時間はかからないと思います」
 設置で10分もあれば、採取はほぼ一瞬でしょうし。そう応える彼女に「成程」と頷く。
 それくらいの時間なら強襲があった際にも対応できるだろう。とは言え、そうしたことがないに越したことはないのだが。
「臭いには慣れてきましたが、この場の空気は気持ちの良いものではありませんね」
 そう、前衛を行くこなゆきが呟いた時だ。
「危ない!」
 下水を照らしていた彼女のライトが上を向いた。それと同時にディルの盾が彼女の前に翳される。

 キュイッ!

 手に掛かる振動と奇妙な音。それに眉を顰め、弾けた水面に目を向けた。
 そこにいたのはうさぎほどの大きさをしたミジンコ。ミジンコは頭の触覚を伸ばすと、踏み込んだ勢いのまま斬ろうとしたディルに襲い掛かった。
 それを見て取ったヴァイスが動く。
「リーゼロッテ、動くなよ!」
 そう指示を飛ばしてリアルブルー産の銃を構える。そうして引き金に指を添えると、一気に弾を撃ち込んだ。

 キュンッ!

 パンッと頭を破裂させて水に落ちて行くミジンコ。それに次いで別のミジンコも姿を現す。
「その動き、見切りました!」
 こなゆきは視力を強化し、水の中を高速移動するミジンコの姿をライトで追う。その上で纏ううさぎの衣と同じ霊の力を借りると、彼女は水の中から伸びて来た触覚を受け止めた。
「ぅ、ぬめぬめしてますッ」
 気持ち悪い! そう顔を顰めながらも、クローで受け止めた触覚は離さない。
「このまま引き上げます。どなたか援護を――」
「この暗さで当たるかねぇ?」
 言いながら片目を眇めて照準を合わすオイレ。彼は頬に腕添える事でブレを抑えると、弾にマテリアルを送り込んで放った。

 キュイィンッ!

「おーおー、続々出て来るな」
 呑気に構えながらもミカは徐々に集まるミジンコの群を見た。それから静かに護られているリーゼロッテを見る。
「大丈夫か……て、如何した?」
 驚くでもなく騒ぐでもなく、静かにしていた彼女。どうやらその理由は恐怖とかではなかった。
「これがぷちヴァッサーフローア……雑魔ですが可愛いですね!」
 目をキラキラさせる彼女に皆がドン引きする中、ファティマだけが彼女に同意して頷いた。
「わ、わたしもそう思いました! 鳴き声が可愛いですよね!」
 錬金術を志す者は感覚が違うのだろうか。
 そう思いながら皆がミカを見ると、彼は「いや」と首を横に振って肩を竦めた。


 下水道に入ってどれだけ経っただろう。
 光の差さない場所と言うのは、それだけで時間感覚が狂う。ランタンの油から察するに1時間は経っていないだろう。それでも皆の顔には疲労が覗き始めていた。
「いきます!! 下がって!!」
 振り降ろしたファティマのグレイブだったが、刃は虚しく空を切っただけ。
「ち、違います! こっちです!」
 彼女は慌てたように機導術の媒体である魔導計算機を取り出すと、改めてそれを振り降ろした。
 直後、激しい光が放たれ、新たに出現したミジンコを貫かれる。すると彼女は疲れた様子で息を吐き、後方を振り返った。
「これで、大丈夫です」
 先程からどれだけの量のミジンコを倒しただろう。先に進むにつれて増える存在に、こちらの体力がどんどん削られてゆく。
「どうにも、奥に行くほど数は増えてるが、弱くなってる感じだね。数が増えて若い個体になるって事は――っと、そこ!」
 話している間も気が抜けない。
 ミカは新たに水面に姿を見せたミジンコに銃弾を放つ。そして後衛で現在位置を確認していたオイレを振り返った。
「分裂でもしてるのかね、このミジンコ君は」
「どうだろうな。で、位置はどの辺だい?」
「もうそろそろ目的地って所かねぇ。しかし、錬魔院地下に近いのなら、錬魔院を通らせてくれれば早かったのにねぇ」
 大人の事情はあるんだろうけど。と呟いたオイレにリーゼロッテが目を伏せる。そうして彼女が目を上げると、皆は再び歩き出した。
「リーゼロッテは疲れてない?」
 ハンターとは違い、彼女は一般人で体力もない。だから問い掛けたのだが、その辺は杞憂だったらしい。
「お気遣いありがとうございます。私でしたら大丈夫です。普段から歩くことだけは慣れてますので」
 にっこり笑った彼女は、地方や他国へ錬金術を広めるために動き回っている。だからこそ歩くことへの体力はあるのだと言うが、これを聞いたファティマが言い辛そうに口を開いた。
「あの……わたし、錬金術を使って人の役に立ちたいんです。自分だけのためって、とても寂しいから」
 でも。そう言って視線を落とした先には、汚染された下水がある。
「……わたしたちって、誰かを幸せにしただけ、何かを不幸にしなくちゃならないんでしょうか」
 思い詰めたように表情を歪めた彼女に、リーゼロッテは優しい眼差しを向けると、歩く彼女の手を取った。
「錬金術は多くの人に幸せを与えられる技術だと思っています」
 錬魔院がどんな研究をしているのかはわからない。ただ彼等が魔法公害を起こす要素を出していると言うことは確かだ。
 それは同時に不幸になる人を生み出していると言うことにも繋がる。そのことはリーゼロッテにとっても悲しいことであり、彼女の望むことではない。
「あなたは間違っていません」
 リーゼロッテはファティマの手を握ると「大丈夫です」と微笑んで見せた。
「行き止まりです」
 唐突に響いた声に、リーゼロッテは勿論、彼女の言葉に手を握り返したファティマの目が向いた。
 そこには行き止まりになった柵の前に群がる無数のミジンコが。
 わらわらと個体を揺らして別の個体によじ登ろうとする姿は、流石にゾッとする。
「まさかとは思うが、あそこか?」
 一応確認せねばと振り返ったヴァイスに、リーゼロッテが頷く。それを受けてディルが前に出た。
「えっと……自分で設置するのか?」
「はい。これは私でないと設置できませんので」
「……それなら退治の間は待って。リーゼロッテが危ないのはダメだから。研究者って頭脳だろ? 集団の頭っていうのは大切だし、それに母さんが……あ」
 いや! 何でもない!!
 そう言葉を切った彼に疑問は覚えるが突っ込むつもりはない。リーゼロッテは大人しく足を下げると、彼らの闘いを見守るべく引いた。
「俺……戦闘員じゃなかったんだけどな」
 ポツリ、零してミカが前に出る。そうして取り出したのはハンディLEDライトだ。
「使ってみるか」
 彼は握る柄にマテリアルを送り込むと、こちらに伸びてくる触覚に向けて光の刃を放った。

 キュィッ!

「やっぱ似てるな……ブォン」
「!」
 再び放たれた光の剣。それに合わせてミカが何かを呟くと、短剣を振り降ろしていたディルが彼を2度見した。
「え、あの……なんで口で言って?」
「…考えるな、感じろ」
「え?」
 どういう事なの。そう思うも、敵は待ってくれない。
 改めて剣を振り降ろして触覚を振り払う。そうして1体、また1体と倒してゆくのだが、やはり数が多い。
「くそっ、うじゃうじゃとッ!」
 ヴァイスは避けきれずに切れた頬を拭うと、こなゆきが爪で舞い上げたミジンコの頭を撃ち抜いた。
 それに続いてオイレも銃弾を放つ。
「……、……水の中に潜られると少々撃ち辛いね」
 狙いは良いのだが水面に潜られると分が悪い。それでも伸びる触覚を頼りに強弾を放つと、ファティマが魔導計算機から光の刃を伸ばして斬り掛かった。
「お願い、当たって!!」
 祈りを込めて放った一撃。
 これがミジンコの胴に直撃すると、うさぎほどの小さな存在は小さな奇声を上げて下水の中に落ちて行った。


「随分と手際が良いねぇ」
 オイレはそう言いながら、慣れた様子で観測機を設置するリーゼロッテを見た。
 先程彼女自身が言っていたが、この様子なら時間はかからないだろう。それに水の採取の方も順調に進んでいるようだ。
「おい、あんま手を伸ばすと落ちるぞ」
 そう言ってファティマの腕を掴むヴァイス。彼女は今、リーゼロッテの代わりに下水の水を採取している。
「もうちょっとで奥の方の水が取れそうなんです。えっと……あ、採れました!」
 若干ヘドロも混じっているが、この方が詳細なデータが取れるだろう。
 彼女はリーゼロッテが持参した容器に納められた下水を見て満足げに笑んでいる。それを視界に納めながら、ディルは真上に在るであろう錬魔院を見上げた。
「……今は何の研究してるんだろ」
「私たちでは想像するのも難しい研究かもしれませんね」
 こなゆきはそう言って立ち上がったリーゼロッテを見た。
「終わりましたか?」
「はい。みなさんのおかげで無事観測装置の設置が出来ました」
 ありがとうございます。
 そう言って微笑んだ彼女に、ミカが呟く。
「もし偶然、不運にも流れ弾が観測機に当たったらボーナスとか?」
「……今、何か言いましたか?」
 顔は笑ってるが目は笑ってない。
 その姿に「ジョーク、ジョーク」と両手を上げると、ミカは助けを求めるようにヴァイスを振り返った。
「まあ、今のは冗談だとして、これが壊される心配はないのか?」
 確かにこれだけ雑魔のいる場所だと、いずれ壊される可能性があるのではないか。そう問い掛けた彼に、リーゼロッテは思案して頷く。
「そうですね。元々地下下水道は定期巡回も行っていますし、機材の定期メンテナンスは必要かもしれませんね」
 その時にはどうぞよろしくお願いします。
 リーゼロッテはそう言って微笑むと、帰りまでの道中の護衛継続をお願いして頭を下げた。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 理の探求者
    ファティマ・シュミット(ka0298
    人間(紅)|15才|女性|機導師

  • ミカ・コバライネン(ka0340
    人間(蒼)|31才|男性|機導師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 死線の盾
    ディル・トイス(ka0455
    人間(紅)|15才|男性|闘狩人
  • アイドルの優しき導き手
    こなゆき(ka0960
    人間(紅)|24才|女性|霊闘士
  • 毒花摘み説き者
    オイレ・ミッターナハト(ka1796
    人間(紅)|34才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ヴァイス・エリダヌス(ka0364
人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/07/07 21:59:31
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/02 21:42:17