Lost child―Daydream―

マスター:冬野泉水

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2015/05/01 19:00
完成日
2015/05/03 22:14

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 古き信仰の街、ルクス。
 ピースホライズン近郊にあり、エクラ教の厚い庇護を受けるこの街にジルが赴任して、早くも半月が過ぎようとしていた。
 なんといっても、暇である。ものすごく暇である。街の人々は温厚そのもので諍いも殆どないし、あるとすれば失せ物探しくらいで雑魔の発生も見られない。
 一言で称するなら、美人の多い平和な街、というやつだ。
「だからってサボって良い理由にはなりません。はいこれ、署名してください」
「俺、今さ……この街で一番miseryな自信があるわ」
「はいはい」
 穏やかな街ではあるものの、ジルの事務仕事はそれなりにある。教会の主であり、この街の信仰や流通関係の許認可も受け持つ彼の机には、今日もエミリオから届く山のような書類があった。
「Hey エミリー、流通のは別に俺じゃなくても良いんじゃねえの?」
「同感ですが、行政関係をピースホライズンに丸投げするわけにもいきませんし、うち絡みの物資が多いのであれば我々が監察するのが当然です」
「つったって、シルベリアブルーとかクロスとか、好きに売ってくれよ……教会関係ねえじゃん」
「あんた、本当に美人揃いの教会ってだけでここを選んだんですね」
 冷たく言い放ったエミリオがため息をつくと、丁度執務室の扉が開き、年長のシスター・マリアが紅茶を持って現れた。自愛に満ちたとはまさにこのことを言うのだろう、暖かな笑みを浮かべる彼女はまだ三十代。独身である。
「Welcome,シスター・マリア。今日も実に美しい」
「あらやだ、司教様ったら」
 既に素で通すジルの言動に慣れたシスター達は彼の軽口を流して、彼の机にティーカップを二つ並べた。
「シスター……すみませんが、この人のためにシルベリアさんの話をしてあげてください」
「構いませんよ。シルベリア・ルターという方がリアルブルーから来訪したのはご存知でしょうが、彼は実は向こうの神父さまでしたの。我々で言うところの助祭――エミリオ様と同じですね」
 へぇ、というジルが真面目に聞いているかはこの際何も言うまい。
「そのシルベリア様はリアルブルーについて、大変な知見をお持ちでした。シルベリアブルーを発見し、シルベリアクロスの染料とすることを考案したことで、当時、本山にも見捨てられそうであったこの街を再興したのです。街の人々からは当時、聖人に等しい待遇であったとか」
「聖人、ねぇ」
「ええ。それ以来、シルベリアブルーを使ったお守りは、この教会が管理する商品の一つとなりました。誇り高き来訪者の御霊を傍に感じ、その恩恵を受けられるよう……その流通量に関する承認が、司教様のお仕事ですわね」
 暗にお手持ちの書類をしっかり見て下さいね、と言いたげなシスター・マリアであった。要するに、シルベリアブルーは貴重なので、お守りとはいえそうそう大量生産はできない。一月に市場に並ぶのは、工房一つあたり十個かそこらという。街に飾り細工の工房は三つなので、三十が限界だ。
 ジルが署名する書類は、その流通量を報告するもので、同時にシルベリアブルーを乱用しないかを監視するものでもあるのだ。
「なるほどな……じゃあ、しっかり見ることにするかな」
「お願い致します。司教様がいらしてから、この教会はとても明るくなりましたの。私、楽しいことが大好きですので、司教様が大好きですわ」
 にっこり微笑んで退室したシスター・マリアの紅茶を一気飲みし、ジルはエミリオをじっと見た。怪訝そうなエミリオは眉根を寄せる。
「俺のこと、大好きだってよ。たまには弟子からも聞きたいぜ」
「子供ですか。良いから仕事してください」

 ●

 平和な街にある静かな教会が震撼したのは、その日の午後だ。
 今年十六歳になるというシスター・レラがおずおずと執務室を訪れた。
「あの……ロックハート司教様」
「どうした?」
「あ、あの……お客様、がっ」
 言いかけたシスターを押しのけ、齢十くらいだろうか、男の子が満面の笑みを浮かべて飛び込んできた。
 そして、驚愕の一言を放ったのである。

「パパ―――ッ!!」

 回れ右して逃げなかっただけ、ジルの判断は賢明だった。
 ひっしとしがみつかれたジルは、軽蔑の眼を向ける愛弟子と、泣き出しそうなシスターと、声を聞きつけて集まった他のシスターや助祭達の不審そうな視線を一気に受けて我に返った。
「ち、違ぇっ! そりゃ女性は好きだが、隠し子とか、そんな教えに背くことはやってねえぞ!」
「司教……あなた、とうとう一線を……」
「おいい、エミリオ! 話を聞け!!」
「ほ、本当に、司教様のお子様では、ありませんか……?」
「落ち着きなさい、シスター・レラ。子供の髪の色をご覧なさい、俺と色が違――」
「あんたが落ち着いてください、ジェラルド様」
「パパはパパだよっ! パパだいすきっ」
「こ、このガキ……!」
 以上、ジルが誤解を解くまで、この流れを数度繰り返した。
 とりあえず誤解は解け、落ち着きを取り戻した執務室には、少年とジルだけが残っていた。エミリオがいるとうるさいので、彼ごと全員追い出したのだ。
「それで、坊主……何が目的だ? 俺は金もないし、地位はまぁそこそこだが出世街道に乗ってもいないし、何より独身子無しだぜ」
「パパさぁ、あんなに慌てるならやましいことがあるって言ってるようなものだよ?」
「やかましいわ。お前、俺の前だと随分あれだな……」
 可愛らしい赤毛の少年は、シスター達の前では非常にあどけない子供だったが、“パパ”の前ではひどくにくたらしい。ものっすごくにくたらしい。小さいエミリオだ。
「今度うちに来た司教がどんなのかと思ってさ。でも、見た目よりは真面目そうかな……変なしゃべり方だけど」
「Wait。言っておくが、俺は聖人みてえな慈悲は持ちあわせてねえからな」
「こわーい。良いの? 泣くよ?」
「……」
 子供って怖い。
 そう思って、二度と子供は持つまいと思ったジルであった。

 ●

 少年の名前はルシオと言うらしい。この街の出身の赤毛が眩しい少年である。
 彼が言うには、探しものを手伝って欲しい、お礼はするというものだった。
「ガキから金は受け取らねえぜ」
「お金なんかないよ。だからついでに、この街を案内してあげる」
 半月もいるくせに、忙しくてろくに街も回れてないんでしょ。書類だけ見て知った気にならないでよ。
 にくたらしく言うルシオは、青色の瞳を光らせる。
 ここまで言われても、とりあえず引き下がるのが大人の判断であろうが、あいにくジルはあまり大人な方ではない。
 ぽん、と彼は手を打った。
「OK,boy! その報酬、乗ったぜ。ただし、俺も条件をつけさせてもらうぜ」
 ハンター達に街案内をする手間が省け、迷える子羊の悩みも消化できて、こんな一石二鳥は逃さない。これで浮いた時間は遊びに使える。
 笑顔の裏で、相変わらず怠けることしか考えていないなまぐさ神父であった。

リプレイ本文

 不意打ちも良いところだ。
「ええと、ジルさん……ですね。初めまして。僕はユージーンと申します」
 ユージーン・L・ローランド(ka1810)がジルに小さく頭を下げる。そうして、もう一人の“ジル” ――ジル・ティフォージュ(ka3873)の整った顔を笑顔で覗き込んだ。
「ねえ、両方ジルなんだし、これは不可抗力だよね? マリア兄様♪」
「……っ、全くお前は……!」
 ジル――銀髪の青年は溜息をついた。この状況を利用して、特別な名を公然と呼びに来るとは、隙のない弟である。
「仕方ない……帰って以降は許さん」
「はい、マリア兄様」
 ニコッと笑ったユージーンの笑顔は、銀髪のジルには凶器そのものだ。
 というわけなので、嬉しそうなユージーンの悪ノリに便乗して、今回は銀髪のジルを“マリア”としたい。

 ●

「本当に行くの? ――じゃあ、とりあえず近いし、シルベリアブルーのところから行く?」
 ハンター達の話をひと通り聞き終えた少年は、すたすたと歩き出してしまった。ハンター達も慌ててその小さな背中を追いかける。
「おーい、お前ら、はぐれるなよー」
 十代の多い状況で、引率の先生のようになっているジルに鳴沢 礼(ka4771) がビシッと手を挙げる。
「はい! 迷いそうになったらジル司教を目印にするんで、大丈夫っす!」
「俺はランドマークか……」
「お互い、せいぜい目印になろうではないか、司教殿」
 笑いを堪えてマリアが言う。
 その隣で、ルシオが冷たい視線をジルに寄越していた。
「ねえ、本当に人望あるの? 偉い人なんでしょ?」
「……」
 小声でルシオに言われてぐぅの音も出ないジルだ。
「あの……ジェラルドのおにいはん……」
 そこへ、浅黄 小夜(ka3062)が彼の裾を引っ張った。五十センチ近い差の彼に気づいてもらうには、こうするのが一番早いことを彼女はとうに学んでいたのだろう。
「ん? どうした、princess?」
「小夜は……頑張って、ジェラルドのおにいはんを……見失わんよぉ、ついていきます……」
「ああ、本当、頼むぜ。まあでも、大人に任せときな。お前達は楽しむんだぜ?」
 引率中のハンターとはぐれて迷子にさせました、では体裁が悪い。
 早くもぐったりとするジルに、小夜はどうすれば良いか分からないながらも必死についていく。
 そんな背中を見ながら、シェリル・マイヤーズ(ka0509) は傷の癒えたばかりの爪先を見下ろした。生死の境を彷徨ったのはつい最近のことで、未だこの場にいる現実感が湧いてこない。
(楽しむって……どうするんだっけ)
 目深に被ったフードの下で、表情を変えない少女は自分に問いかける。

 ●

「えっ! そ、そんなにするの!!」
 シルベリアブルーの工房は街に三つ。そのうち、街で最も小さい工房を案内されたハンター達は、蒼い石がきらめく店内にほぅ、と息を吐いた。
 同時に、お値段の伏せられたシルベリアクロスの金額を聞いて、弓月 幸子(ka1749) が悲鳴にも似た声をあげる。すごい。全然買えそうに思えない。
 だが、思ったより品数が少ない。聞けば、朝に出荷を終えてしまい、残っているもの限りになってしまっているのだという。
「本当に、この間は助けていただいたのに申し訳ないですね……」
 見習いだという職人の青年は、ぺこぺこと頭を下げた。小さなもので良ければ、おまけしますよ、と付け加えて。
「Hey,ちょっと良いか」
 ここだけの話だけど、と言いながらジルが青年を奥へ連れて行った。
 店内に残されたハンター達は、並べられた商品を見て回る。
「これ……綺麗……」
 じっと小物のコーナーを眺めていたシェリルは思わずそう零した。
 小さな歯車が複数重なるようにデザインされたイヤーカフだ。流線の美しい銀細工の隙間に、指先に乗りそうなほど小さなシルベリアブルーの破片が嵌り、更に細かい破片が周りに星雲のように散らばっている。
「これが……奇跡の……色。信じたら……何か起こるのかな」
 気になった品なので、値札を覚悟して捲る。意外にもそれほど高くない。というより、ジルに聞いていた値段よりもずっと安い。
「それは見習いが作ったやつだよ」
 シェリルの横からルシオが口を挟む。
 一人前ではないが、売り物としては成立する。この工房は、それも商品として格安で売り出しているのだという。
 一方、礼は目の前に御守を二つ並べて、うんうん唸っていた。
「こっちも良いんだよなー……あ、でも、こっちのここも捨てがたいんだよなー」
 悩んでいるのはペンダント型の御守と、ブレスレッド型の御守だった。問題は、二つも買う余裕がないことだ。
 ペンダント型のものは、先端に十字架の金細工があり、中央に小さくシルベリアブルーの破片が配置されているもので、ブレスレッド型は、ミサンガのように編みこまれた金と銀の表面に砕いた細かな破片が散りばめられているものだ。お値段は殆ど変わらない。
 だんだん悩みすぎて頭が痛くなってきた礼だが、ここは腹を括るしかない。
「ええい! 記念だし、いったれー!」
 ブレスレッド型の御守をわっしと掴んで、礼は声を上げた。
 高らかに宣言する礼を余所目に、ユージーンは小さなブローチを手にとっていた。十分に吟味し、それを選んだ基準は、隣にいる兄に似合うかどうかだ。
「マリア兄様」
「ん?」
 呼ばれて近づいた兄の胸にブローチをそっと当ててみる。小さく球体に削られたシルベリアブルーが二つ並べられた、三日月形のものだ。色白の兄によく似合っている。
「うん、これにします」
 何故俺に当てた、とマリアに言われながらも、ユージーンは微笑むだけで何も言わずそれを手に収める。首を傾げる兄に微笑みかけ、他の商品も見るように促した。
 やや怪訝そうにするマリアの近くでは、小夜がこれだと決めたものを手にとっていた。
 真っ黒にした硝子を子猫の形にした御守である。丁度猫の目の部分と、首に巻かれた蒼いリボンの部分にシルベリアブルーの破片が使用されている。
「お。それにしたんだ」
「あ……鳴沢のおにいはん……」
 横から声をかけた礼に小夜は頷いた。同じリアルブルーの出身で、帰りたいと願う者同士、他の参加者よりも気安く話ができるのだ。
「こんなのもあるんだ。可愛いじゃん」
「小夜は……こんな瞳の、猫を……飼っていた、から……」
 まだ少し硬さの残る小夜と、溌剌とした礼。
 傍目には話しながら買い物をする彼らが、兄妹のように見えたことだろう。


 驚きは、この後待っていた。
「おーい、決めたら精算しろー」
 奥からようやく出てきたジルが声をかける。
 ハンター達は各々の商品をレジに持って行き、職人の青年にお金を渡したが、彼はこれを固辞したのである。
「お代は既に司教様からいただいておりますので」
「えっ」
 思わず声を上げたのは幸子だった。
 青年いわく、今回買いに来ることは事前に連絡を受けており、以前の落盤工事で皆を救出してくれたのがハンターであることも聞いていた。元々、今回はその御礼もかねて、かなりの安価で提供するつもりだったが、ジルが教会のシスター達の分もまとめて買うので、もっと安くしろと値切ったらしい。
 結果、ハンター達の分も含めて、ジルでも買える金額まで落ちたというわけだ。
「奥で何かやってると思ったら……」
 呆れた顔でルシオが呟いた。
「その代わり、すみません……お一人様一個でお願いします」
 でないと商売上がったりなので、と付け加えた青年だが、唖然としているハンター達にそれが聞こえたかどうか。

 ●

 途中休憩の昼休み。
「美味しいお店教えて欲しいな、一緒に食べようよ」
 幸子に言われ、ルシオは工房からほぼ近いカフェに彼らを連れて行った。看板はカフェだが、肉料理が自慢の家庭料理屋に近い。
 この場にいないのはシェリルとユージーン、マリアの三名だけだ。
「おみやげ、一つしか買えなかったのは残念だったな。お金ならあったのに」
「悪い。そういう交渉だったからな」
 ふぅ、と息を吐く幸子の手には、結局最後まで悩んで決めたシルベリアブルーの御守があった。ペンダントトップとしても使えるそれは、金色で、雫の形にシルベリアブルーを埋め込んだものだ。
「で、何食べる? 俺、美味しいもの食べたい! 名物料理とか!」
「名物料理ね……他は?」
「あと、アイス食べたい!」
 アイスって何……と呟くルシオは礼のペースにすっかり嵌っているように見えた。かくいう礼も、これが初めての依頼で緊張していたので、いつもよりちょっとテンションが高い。
「あの……ジェラルドのお兄はん……」
「ん? どうした?」
 きゃいきゃいはしゃぐ礼とルシオを保護者にも似た目で見ているジルに、小夜は小さく話しかけた。
「おにいはんは……ここで、どんなお仕事……してはるんですか……?」
「あー……」
 サボっていますなどと、ジルに良い感情を持っている小夜に言えるはずがない。
「シルベリアブルーの流通管理や教会の管理、後は街で困ったことがねえか、とかかね。また今度、ゆっくり聞かせてやるぜ」
 よくもそこまで誤魔化せるものだが、とにかくジルは何とか小夜の純粋な質問を乗り切った。
 そして、滑らかな流れで話を変える。大人はずるい。
「あ、そうだ。お前ら。さっきはどんなのを買ったんだ?」
 料理が来るまで少しある。
 彼らはその間、お互いシルベリアブルーの工芸品について、見せ合いをすることにした。

 ●

 集合場所だった教会。
 地形を把握しながらここへ戻ってきたシェリルは、教会の中を覗いていた。
 この教会は、街の中心部に近いところにあって、人々の生活が把握しやすい位置にある。頑丈に作られているから、ちょっとした戦闘のシェルターにもなるだろう。
 ただ、城壁がないのは気になるな、と考えたところで、彼女は自分自身に肩を竦めた。
(……何かあった時の為に……と思うあたり、最近は……戦いの事しか……考えてない。でも今は……必要な事、だよね?)
 エクラ教の聖光を表す瀟洒な装飾を眺めて、シェリルは椅子に腰掛けてしばし自問する。
「死んだら……私はどこにいくのかな……?」
 色々な命を奪ってきた。けれども逆に、つい最近も、自分が生死の境を彷徨った。
 死はいつも、自分と隣り合わせにある。
 そんな自分に答えをくれる存在は、いるのだろうか。

 ●

「城壁はなし、か。この間の崩落事故と言い、このご時世に少々無用心なところがあるな」
 街をユージーンと回るマリアはそう呟いた。
「ねえ、兄様」
「うん?」
 立ち止まったユージーンは、先ほど手に入れたシルベリアブルーのブローチをマリアに差し出した。
「受け取らないなんて言わないでくださいね、マリア兄様」
「お前……これ……」
「いつも無茶するんですから、御守です」
 心配と安堵の入り混じった弟の表情を見て、受け取らない兄はいない。
「ありがとう」
 簡単な感謝の言葉にユージーンの口元が緩む。その様子を見て、マリアもまた安堵した。
 せめて二人の時は、“次期領主”から“ただのユージーン”とならんことを――。

 ●

「ルシオくんの……探しもの、って……」
「え、何? それもこの人から聞いてるの?」
 ちょっと驚いて言うルシオに、小夜はこくりと頷いた。
 教会への帰り道、彼らはルシオの探しものについて話を聞いた。本来、今日は観光するだけではあるが、彼らなりのルシオへの気遣いとお礼のつもりなのだろう。
 だが、ルシオは困ったように眉を寄せ、笑いながら言った。
「良いんだよ、それは。――どうせ、見つからないのは分かってるしね」


 教会での解散後、ルシオは彼らに行くところがあるから、と先に抜けようとしたが、くっついていく気満々の礼が首を振って言った。
「案内してくれたお礼だし、手伝うぜ!」
「本当に良いんだってば。縁もないあんたらに頼むことじゃないよ」
「まーまー!」
 ニッ、と笑った礼は続ける。
「折角こうして会ったんだし! それに、俺の故郷では、擦れ違っただけで縁があったって言うんだぜっ」
「……じゃあ、勝手にすれば」
 ちょっと嬉しそうに言ったルシオに連れられて、結局七人――ジルまでくっついてきた――は彼の背中を追い始める。
 結果、辿り着いたのは街外れの墓地だった。
「こんなところまで、探してるの? ……って……ごめんね」
「良いよ。その反応は間違ってない」
 幸子の言葉に首を振ったルシオは、やがて墓地の一角で立ち止まった。
「ほら、これが探している人だよ」 
 指された墓石に刻まれた名前を見て、彼らは一瞬、言葉を失った。

 ――シルベリア・ルター――

「俺の父さん。あ、言っとくけど、あのシルベリアさんじゃないから」
 ルシオはぽつぽつと話しだした。
 かの有名なシルベリアと同姓同名の父親は、この街に転移してきたルアルブルーの異邦人であった。伝説の再来と言われ、皆に慕われた彼は、程なくしてシルベリアブルーを使った工芸品を作り始める。
 だが、ある日――、
「病死だったよ」
「ルシオ……」
 声をかけようとしたシェリルだったが、二の句が繋げない。この後、彼に何て言えば良いのだろう。
「探しものがあるっていうのは、口実で……」
 寂しかったのだ。父が死に、シルベリアブルーの工芸品を見ることも少なくなり、自分が取り残されたようで。
 だから、何も知らないであろう教会の新しい司教に泣きついてみた。ハンター達はこうして、なんのメリットも無いのに集まってくれた。
 流石に父がいた工房を案内した時には驚きを隠せなかったが。
「ありがとう。楽しかった」
 そう言ったルシオの言葉を掻き消すように、風が一陣薙ぐ。
 誰もがその強さに目を瞑り、次に目を開けた時――ルシオの姿は既にそこになかった。
「ルシオ……くん……?」
 周りを見回す小夜に、葉巻を口に咥えたジルが言う。
「大丈夫だ。あいつは帰ったよ。挨拶もねえのはガキだから許してやってくれ」
「……父を想うが故に、か」
 呟いたマリアは、合流前に買っていた白百合を墓に手向ける。隣では、ユージーンが静かに祈りの言葉を呟いた。
「勝手と思うが、これくらいはさせてもらおう」
「いや、あいつも喜ぶだろう。ルシオには俺から伝えとくぜ」
 ジルの落ち着きに、何かを感じたマリアだったが、うまく言葉には出来なかった。
「――戻りな。墓地ってのは長居するもんじゃねえからな」
 そう言って、ハンター達を促したジルは彼らの背中を見送った後、花の手向けられた墓石の側面に視線を向ける。
 この街では、家族は同じ墓に入り、同じ墓石に名を刻む。

 その、側面に刻まれた名は――。

「……ま。たまには“そういうこと”もあんだろ」
 ジル以外知り得ない、墓石に刻まれたもう一つの名前。
 真か偶然か、誰にも分からない。
 葉巻の煙を燻らせ、まもなくジルもその場を後にした。

 了

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参加者一覧

  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • デュエリスト
    弓月 幸子(ka1749
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • はるかな理想を抱いて
    ユージーン・L・ローランド(ka1810
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 亡郷は茨と成りて
    ジル・ティフォージュ(ka3873
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 蒼き星雲に祈りを込めて
    鳴沢 礼(ka4771
    人間(蒼)|15才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 観光相談…?
浅黄 小夜(ka3062
人間(リアルブルー)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/04/30 22:32:01
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/29 19:11:59
アイコン 質問卓
シェリル・マイヤーズ(ka0509
人間(リアルブルー)|14才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/04/30 21:50:11