再び歩きだすために

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/01 07:30
完成日
2015/05/09 00:15

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 開け放たれた窓から漏れる光に目を細め、ハイデマリー・アルムホルムは見舞に訪れたリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)を見た。
「……どうしてもダメなの?」
 そう問い掛ける彼女が居るのは、帝都バルトアンデルスにある国立病院だ。
 剣妃オルクスとの闘いで腕を失った彼女は、搬送されて直ぐ左腕の切断を行った。その後は昏睡状態が続いたらしいが、今では意識を取り戻し会話出来るまでに回復している。
「回復も順調で、明日にでも組合の病院に移って良いと許可も出てるわ……このままいけば直ぐにでも現場に復帰」
「無理です」
 現場に復帰できるのよ。そう紡ごうとした言葉が遮断される。それに眉を潜めて唇を引き結ぶと、ハイデマリーは再び口を開いた。
「腕がない状態での復帰は無理かもしれない……でも、義手があれば可能よね? だから私はあなたを呼んだの。錬金術師組合組合長にして、私の望む義手を作れる貴女を」
「義手はあれば研究は可能。その言葉には同意しますが、あなたが求める義手はあまりにも危険です。それにあなたの場合、自由になる腕をつけたら無理をするじゃありませんか」
 組合にはなかなか近付かないハイデマリーがどこで何をしているのかは報告で聞き止めている。今回の件も、何故腕を失ったのかと聞いた時には意識が遠退きそうになった。
 それ故に、彼女に自由の利く腕を与えることは賛同しかねる。そもそもハイデマリーが望む義手は普通の義手ではない。
 組合の組合長に頼むくらい精巧な義手。それはつまり――
「私が開発中のパワーアシスト装備は未完成です。一般の方へ提供出来るほどの安全性も確保されていない以上、怪我人であるあなたに使う事も出来ません」
「……組合長はいつもそうね。安全、安心、そればかり……でも、そうやって保身に走っていては研究なんて進まないわ……」
「……それでも……安全性を確保できない状態で使う事は出来ません」
 ハイデマリーに見えない場所で手を握り締めたリーゼロッテは、脳裏に浮かんだ設計図を振り払う様に立ち上がった。
「明日、組合の病院へ移転する手続きをしてきます。準備が整いましたら移ってもらいますので……それまでゆっくり休んで下さい」
 彼女はそう言うと、ハイデマリーの無い腕に視線を落として複雑そうな表情を浮かべた。

●翌日
「自分で腕を吹き飛ばした時はどうなるかと思ったですが、順調に回復しているようで何よりですよ」
 そう言ってリンゴの皮を剥くのはタングラム (kz0016)だ。
 彼女はハイデマリーが組合の病院に移転すると聞き、回復祝いと様子見を兼ねてやって来たのだ。
「でもあれですね。その腕では活動は無理でしょうし、しばらくは静養を兼ねてゆっくりするですよ。はい、ウサギ」
 差し出されたウサギのリンゴを受け取りながらハイデマリーの眉が寄る。そうしてウサギの耳を齧ったところで彼女はタングラムを見た。
「義手の作成を組合長に依頼したわ……断られたけど」
 ポツリ。零す声に自分の分のリンゴを剥いていたタングラムの手が止まる。
「以前、組合長がパワーアシスト装備の研究をしていると報告書を読んだわ。最近では錬魔院の子と一緒に、パワーアシスト装備を応用した魔導アーマーの開発もしていると聞いたし……その技術を応用すれば義手だってできると思うの」
 今の自分の技術では無理かもしれないが、錬金術師組合の組合長を務めるリーゼロッテなら可能だ。
 そもそも彼女は昨日『一般の方へ提供出来るほどの安全性も確保されていない以上、怪我人であるあなたに使う事も出来ません』とは言ったものの、実現できないとは言っていないのだ。
 それはつまりリーゼロッテなら作れるという事だ。
「……まだ、立ち止まれないの。まだ私にはやることがあるの。浄化術のことや師匠のこと……まだ始まったばかりなのよ」
 ハイデマリーが研究している浄化術はまだ完成していない。それを実現する為にも、そして師匠とエルフハイムの関係の為にも立ち止まる訳にはいかない。
 悔しさと苛立ちを隠すようにリンゴに齧りついた彼女にタングラムの口から溜息が漏れる。
「私の周りは阿呆ばっかりですねぇ。そもそも金はどうするですか? 組合長直々の義手なんて膨大な金が掛かるですよ」
「それは……組合の実験に協力する形で安くしてもらえないか、な……なんて」
「それ、組合長にも言ったですか?」
 コクン。無言で頷く彼女に「あぁ」と声が漏れる。
 人道的活動を行っているリーゼロッテが人体実験のような事に賛同出来るはずもない。もし今回作成する義手が本人同意の元でも、錬魔院の研究に難色を示している彼女が率先して行う訳にはいかないのだ。
「あの組合長を説得するのは骨が折れそうですねぇ……で、諦めるですか?」
「あ、諦めるわけないわ! 私には私の夢があるの。それを半ばで諦められるはずないわ!」
「了解なのですよ」
「タン、グラム?」
「変な所で切るでねぇですよ! 今回の件は私の不手際でもあるので協力するですよ。組合長の説得は私に任せるです」
 リンゴを置いて立ち上がったタングラムに、ハイデマリーは瞳を潤ませて頷きを返した。

●錬金術師組合
「……やってるでねぇですか」
 密かにリーゼロッテの元を訪れたタングラムは、彼女がデスクの上に広げている設計図を見て息を吐いた。
 彼女のデスクの上にあるのは義手の設計図だ。それも一晩で書き起こしたとは思えないほど精巧で、完成度の高い完成図。
「これはどういう代物なのです?」
「開発途中の部分甲冑方式魔導アーマーを応用したパワーアシスト装備です」
 リーゼロッテ曰く、一般人には扱えない重量だが、能力者が装着して微量のマテリアルを提供する事で中に搭載された小型魔導エンジンが起動して軽量化を促してくれる他、機導術の媒体としても機能するらしい。
 つまり義手と機導兵器の両方を備えた物、という事だ。
「これには難点があります。長時間の魔導エンジンの稼働はオーバーヒートの可能性があるんです。それにマテリアルを消費する為、人体への影響も多い……」
「今のハイデマリーでは命の危険がある、そういう事ですね?」
「はい」
 頷くリーゼロッテを視界に、タングラムは設計図を見詰めた。
 たぶん、この義手を使えばハイデマリーは活動を再開できる。けれどそれは同時に彼女を危険に晒す事にもなる。
「……これだけの装備となると、迷いますねぇ」
 リーゼロッテの踏み切れない理由は良くわかった。そして自分にも迷いが生じている事も理解できた。
「ハンターに頼みますかね」
 タングラムはそう密かに零すと、錬金術師組合を後にした。

リプレイ本文

 錬金術師組合の近く。他のハンターよりも僅かに遅れてリーゼロッテの元へ向かっていたイーリス・クルクベウ(ka0481)の足が止まった。
「どうかしたか?」
「何が彼奴を駆り立てておるのか……そう、思ってのう」
「それを知るために遅れてまで資料を漁っていたのだろう?」
 問い掛けるレイス(ka1541)にイーリスの視線が落ちる。彼女は今の今までハイデマリーの研究資料を探していた。
 元々イーリス自身もエルフハイムの維新派である。その維新派筆頭の人物は浄化術改良の協力を帝国に働きかけようとしていた。
 もし、その研究者と共同で研究や改良が進められるのなら双方共に願っても無い事だろう。だから――と思って資料を探したのだが。
「やはりこちらも簡単には明かせぬか」
(恭順派の浄化術は秘匿されておるし仕方のない事じゃろう。だが、わしはその一端に触れた。それはこの男もそうじゃ……)
『俺はあの時、ハイデマリーに命を救われた。出来るなら彼女の希望を叶えてやりたい』
 レイスは此度の依頼を受けた面々の前でそう告げた。その後、個別に資料を探ると言い出したイーリスに着いて来てくれて今に到る訳だ。
(そもそも維新派故に維新派の浄化術もある程度知っておるが、未だ改良が必要な上、外部公開は好まれておらぬ。なのに何故、一組合員がそれに近しい技術を持っておる?)
 見つけた資料は端的な物ばかり。イーリスが望む資料はハイデマリー自身が持っている可能性が高いだろう。
(予想でしかないがもしかすると、理論体系はエルフハイムと全く同じ物ではないのかのう……)
「レイス、と言ったか。わしはハイデマリーに手紙を届けようと思うのじゃが、お主はどうする?」
 ハイデマリーに恩義があるのなら同行するだろうか。
「ならこれを渡してくれ」
 言って差し出された手紙を、イーリスは「確かに」と受け取った。

●同時刻
 一足先に錬金術師組合へ足を踏み入れたエハウィイ・スゥ(ka0006)は、今回の依頼を思い返して米神を揺らしていた。
「でかぱいのバカ。悩んでる時は周りを頼れって言ったのにっ! ホント頭と胸ばっかデカくなっちゃって心はお子様かっての!!」
「まあまあ、落ち着いてください」
 暴れる勢いで地団太を踏むエハウィイに、秋桜(ka4378)がなだめに入る。
「ボインさん……いえ、リーゼロッテ組合長さんにも考えがあるんですよ」
「そんなのはわかって――」
 笑顔で肩を叩く自称マシュマロ女子の秋桜。そんな彼女の顔を見るも一瞬、直ぐに胸へと落ちた視線が悲痛な色を帯びる。
「くぁああ! 何かムカついてきた! これもそれも全部でかぱいのせいだ! 説教しに行く!」
 そう駆け出したエハウィイに、秋桜は意味も分からず首を傾げる。
 そんな2人の様子を見ていたスピノサ ユフ(ka4283)はクスリと笑って目を細めた。その様子にロベリア・李(ka4206)の目が向かう。
「これから重要な決断を迫りにいくなんて到底思えない光景だ」
「ああ、確かに。けどまあ、リーゼロッテと面識があるのなら納得のいく反応だと思うわ」
 相談しろと言っておいたのに何も言わず抱え込んだ友人。それに対する怒りに似た感情は自分にも覚えがある。
「それにしても、パワーアシスト機構を備えた義手か。元軍属整備士としては惹かれるものがあるわね」
 そう零して歩き進め、リーゼの執務室の前で足を止める。そうして中を覗き込んだ所で、後ろからやってきた牧 渉(ka0033)とゼカライン=ニッケル(ka0266)を振り返った。
「どうし――」
 戸惑うリーゼの胸に顔を埋めるエハウィイ。彼女はリーゼを床に押し倒したまま言う。
「色々考えた結果でかぱいは貧乳もとい品のあるお乳、品乳女子の敵だ! 私の敵なのだ!」
「――えっと……こんな話をしに来たんだ、っけ?」
「内容的にはやや惹かれなくもねぇが、違ったはずだ。だよな、兄ちゃんに嬢ちゃん」
 不安になったのだろう。ゼカラインを見た渉に、彼はそう言ってスピノサとロベリアを振り返る。
「我々はダンコたる決意を以て巨乳もとい虚しいお乳、虚乳女子を駆逐する!」
「それだと私も駆逐されちゃうんですが~」
「しゃらーっぷ!」
 ピシッと突っ込みを入れたエハウィイに秋桜の目が瞬かれる。そうして全員が目を点にしている中、遅れてやってきたレイスが惨状に眉を潜めた。

●一息ついて
「――つまり、場を和ませるためにやったと?」
 用意された椅子に座り、レイスはこれまでの説明を受けて息を吐いた。
「いきなし深刻な顔して説得に行っても中々上手くいかないっしょ……だからまずは、って」
「説得、ですか?」
「聡明なあなたの事です。聞かずともわかっているのでは?」
 聞き返すリーゼにスピノサが問う。それに彼女の視線が落ちると、レイスは立ちあがって彼女の前で頭を下げた。
「すまなかった。俺はハイデマリーの腕を失わせる事になった場に居合わせた。それどころか彼女のお蔭で今も生きている……申し訳ない」
 レイスはハイデマリーにも謝罪の手紙を書き、彼女への謝罪を明らかにしている。そんな彼に告げる。
「彼女の怪我は彼女の意思によるところが大きいでしょうから、誰かの所為という事はありません。止めても実行するでしょうし」
 ですから頭を上げて下さい。そう放つ言葉に彼女にレイスの頭が上がる。
「そこまでわかっていながら何故」
「そうだね。今の言葉を聞く限り、リーゼロッテさんは彼女のことをよくわかっているようだ。では何が貴女を不安にさせているのか……」
 この声に、リーゼは少しためらう様にして、用意した設計図を広げた。
「貴方がたがこちらへいらしたのは、この義手の製作を依頼するためですよね?」
 そう小さく笑って息を吐く。その姿にエハウィイの眉が動いた。
「この義手は装着のために神経同士を接続するプラグを埋め込む必要があります。ですが今の彼女ではその手術に耐えられないでしょう」
「へぇ。生命の危機に繋がる手術しか出来ねぇのか? 麻酔だってあるんだろう。違ぇか?」
「……手術自体が成功しても、術後の経過が順調な保証はありません。それにもし手術が無事に成功して義手を得たら、彼女は再び危険な場所へ足を踏み入れるでしょう。そうなれば――」
「お前さん、どこかこれ以上は出来ねぇって思ってるんじゃねぇのか」
 手術で無理と、術後にも懸念事項はあると、そう言葉を連ねる姿にゼカラインが目を眇める。
「あいつの覚悟が本物なら、お前さんもその熱意に答えてやるべきだ。技術が足りねぇなら、蒼の世界の連中にソッチ方面詳しいのだって居るはずだろ」
 1人で抱え込むな。そう告げる彼に「でも」と声と視線が落ちる。
「リーゼロッテさん。あなたはわかっているはずだ。あなたが彼女の腕に自由を与えなくても、彼女は自由だということを」
「そうだな。スピノサの言う通りだ。ハイデマリーは恐らくまた無茶をすると思う。あの思い切りの良さや覚悟は相当なものだ。ここで彼女の足を遅らせたとしても、彼女はきっと止まらない」
 レイスの前でハイデマリーが取った行動は、普通の覚悟では出来ないものだ。だからこそ断言できる。
「貴女の心配も当然だが、いずれまた『その時』が来た時に出来る限りフォローできるだけの環境を整えておくか繋がりを作っておいた方が彼女を救う事に繋がると思う」
「人の心は時に流れる水に例えられる……人が水の流れる川の流路を堰き止めた時、水は流れる方向を変える。しかし、流れは止まない。水は山を遡らず、異なる出口を求めるだけだ」
 場合によっては堰き止めた壁を乗り越え、更なる勢いを持って飛び越えて行くことだってある。
「彼女は諦めないだろう。余所から腕を手に入れようとするかもしれず、そのまま復帰を試みるかもしれない」
 そこまで口にして、スピノサは深刻な表情で眉を寄せるリーゼを見た。
「あなたの最善が、彼女を今の姿にしておく事であるなら……いや、こんな言い方は卑怯かな。ただ、あなたにとって、錬金術師として、人として……今し得る最善とは?」
 言葉が切れると同時に静寂が訪れる。それはリーゼの戸惑いを表すものだった。だが、その沈黙が破られる。
「ああ! もう我慢できないっ!」
 大きな声を上げて立ちあがったエハウィイはリーゼの前に立つと、怒ったような表情で彼女のことを見下ろした。
「ヒキニートにはキドージュツなんてチンプンカンプンだけど、リーゼは立場もあるからそう簡単に人に危ない橋渡らせるわけにはいかないのは知ってる。でもさ、リーゼの技術で人助け出来るならしてあげたいでしょ? もう図面とか引っ張り出してんならその気あるはずだ」
 確かにリーゼは無理と言いながら義手の設計図を用意した。それはつまり作る意思があるという事だ。
「責任なら一緒に取ってあげる、もちろん皆も取ってくれる、後押ししたのは私らなんだから」
「エハウィイさん……」
「何度も言うけど周りを頼って、私らを頼って。私らはいつだってリーゼの味方でいたげるよ」
 そう笑顔を見せた彼女に、リーゼの顔に少しだけ晴れた笑みが覗いた。

●ハンターの提案
「義手を条件付きで貸与、ですか?」
「そう。狙いは問題があった場合にすぐ回収できるようにって言うのと、人体実験じゃなくてモデルケースだってことの実証のためね」
 言ってロベリアは、義手を貸与する際の条件を掲示してきた。
「まず、1日における稼働時間を制限するの。もし本人が稼働時間を守らなくても、義手そのものに制限を設ければ可能なはずよ」
「あとは危険区域での行動牽制とかもあった方が良いかもですね。その次に設ける条件は、義手の定期報告とメンテナンスも義務化です。これはハイデマリーさんの負担を少しでも減らすために必要な事だと思います」
 と言うのは秋桜だ。
 そしてロベリアが続ける。
「で、第3に監督責任者の明確化と第三者による監視と補助の徹底ね。責任者や監督者を設けて、研究を含む単独行動の牽制をするのよ」
「違反があれば魔導機械の義手は回収して、それ以降は普通の義手で生活するって言うのを約束してもらうんです」
「理想と夢を実現させるためには多少のリスクはつきものよ。だからこそ、周りがフォローする。そんな条件よ。どうかしら」
「勿論、お怪我が治り、万全の状態で、が第一条件ですけど……そもそもこの条件下なら、手足が不自由になった方の為の技術が、何かを壊す行為に使われる事への抵抗感は理解できます。それを踏まえての制限です。恐らくこれでも、何かを傷付ける道具として利用されてしまうとは思いますが」
 そう言葉を切って、彼女はリーゼの目を見た。
「後は、ハイデマリーさんとこれまでお仕事をしてきたボインさんが、信頼して義手を貸せる相手かどうか、お任せします。自分の命を削ってまで叶えたい夢。なんとか叶えさせてあげたいです」
 そう言い切った彼女に、リーゼは設計図に向き合う手を止め、別の紙を取って筆を走らせ始めた。そうして1通の手紙を手に皆を見まわす。
「どなたか、この手紙をハイデマリーに届けて頂けませんか?」
「俺が行きましょう。俺は技術の方はさっぱりなんで、せいぜい雑用に勤しみます。他に、物資の手配などあれば行いますが……どうします?」
「では、これを組合の受付へお願いします」
 手早く書き止めた必要物資のメモ。それを受け取ると、渉は踵を返し、何かを思い出したようにリーゼを振り返った。
「……貴方の体現する錬金術が人ひとりの夢を繋ぎ止めることになるのだとすれば、それは願ってもないことだと思いますけどね。……夢を追うことこそが生きる道だという方もいらっしゃるものですよ、組合長さん」
 微かに上げられた口角にリーゼの目が瞬かれる。そして渉の姿が消えると、彼女は小さく笑んで声を上げた。
「どなたか、手を貸して頂けませんか?」
「おう。それなら【歌う鋳鎚】のメンバーとして、ワシも部品の製作やらせてくれや。間違いなく、あいつの心の鎧、心の刃となる筈だ。ついでに、リミッター付きの義手なんてどうだ?」
 ニッと笑ったゼカラインにリーゼの眉が上がる。
「敵が雪崩れ込んで来てピンチに。そんな時に発動するリミッター。黄金色に輝くハイデマリーが敵をなぎ払う! ロマン過ぎるだろう?!」
「……普通に頼む」
 軽く咳払いをしてレイスはリーゼを見る。
「剣妃の能力は異常だ。だが、ハイデマリーと彼女の技術はその状況でも術を使用し結界に穴をあける事さえして見せた。エルフハイムの秘術の一部である『楔』の再現が可能であるなら、それは希望だ。『器』などという生体兵器を用いず、また剣妃の能力内でも使用可能であるなら切り札になり得る。剣妃に挑む者として、俺も彼女の為の助力をさせて貰いたい」
 そう再び頭を下げた彼に頷きつつ、今聞こえた耳慣れない言葉を反芻する。そこにロベリアの声が届く。
「私は制限に関する部分を担当するわ。リアルブルーの技術の見せ所ね」
 動き出した者たちの姿にリーゼの顔に笑みが浮かぶ。そして作業に戻ろうとした時、秋桜が彼女を止めた。
「これは私事なのですけど……機導術に危険は付き物。そろそろ、鉱物マテリアルに変わる新エネルギーや、浄化術を組み込んだ機導術の大幅な軽減に取り組みませんか?」
 そう囁く彼女に、リーゼの目が瞬かれた。

●再び
「義手が、もらえる……」
 渉から手紙を受け取ったハイデマリーは紙面に書かれている内容に目を落として瞳を潤ませた。
「お返事は……組合長さんに直接お願いしますね。必要なら事情に通じている方を一緒にお呼びして下さればと」
 事情に通じている方、と言うのはタングラムの事だろう。その言葉に頷く彼女の手元には、もう一枚、別の手紙が置かれていた。
「それは?」
「……ハンターの錬金術師からもらったものよ」
 言って視線を落とした手紙はイーリスの物で、ハイデマリーが研究している浄化術に関しての提案が書かれていた。
(私の浄化術とエルフハイムの浄化術が同じとか……それに……)
 維新派筆頭人物が事務所を構え、帝国へ浄化術改良の協力を求めている事。それに伴い彼の人物へ親書と論文を送ってみてはどうかと言う提案が手紙には書かれていた。
「維新派との共同研究……」
 手術は今すぐ行われない。つまり彼女には時間があるという事だ。
 食い入るように手紙に魅入る彼女に渉が囁く。
「随分と熱いものをお持ちでいらっしゃるようで。貴女からの頼みも、説得もありましたけど……それだけで組合長さんが動いて下さったわけではないと思うんですよね」
 ですから。と、言葉を切った彼にハイデマリーの目が向いた。
「心配を掛けるのは胃に穴を空けさせない程度で勘弁してあげて下さいね」
 そう僅かに笑った彼に、ハイデマリーはぎこちない笑みと頷きを返した。

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MVP一覧

  • もえもえきゅん
    エハウィイ・スゥka0006
  • 愛しい女性と共に
    レイスka1541
  • 軌跡を辿った今に笑む
    ロベリア・李ka4206

重体一覧

参加者一覧

  • もえもえきゅん
    エハウィイ・スゥ(ka0006
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 探し物屋
    牧 渉(ka0033
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 鋼のロマン
    ゼカライン=ニッケル(ka0266
    ドワーフ|42才|男性|機導師
  • ユレイテルの愛妻
    イーリス・エルフハイム(ka0481
    エルフ|24才|女性|機導師
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 軌跡を辿った今に笑む
    ロベリア・李(ka4206
    人間(蒼)|38才|女性|機導師
  • 救いを恵む手
    スピノサ ユフ(ka4283
    人間(紅)|29才|男性|機導師
  • ブリリアント♪
    秋桜(ka4378
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
イーリス・エルフハイム(ka0481
エルフ|24才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/05/01 00:00:25
アイコン 質問専用板
秋桜(ka4378
人間(リアルブルー)|17才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/04/28 21:34:50
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/28 10:37:39