ブラストエッジ鉱山攻略戦:封印編

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/06 22:00
完成日
2015/05/13 19:40

みんなの思い出

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オープニング

「間違いございません。人間を引き入れたのはご子息ですわ、マハ王」
 ブラストエッジ鉱山の最下層。地の底へ続く大穴を前に老いぼれたコボルドが立っていた。
 覗き込んだ闇の向こうには何も見えない。ただ無に等しい闇だけがあり、その穴を囲うように神殿が形成されている。
「愚かな……裏切りの王子にイヲは懐柔されたというのか。一族の恥晒しが!」
 牙を剥き出しに吠える大柄なコボルド。そしてその隣で白い布を纏った細身のコボルドが並んでいる。
 それぞれがジャ族、ベノ族の族長。屈強な武人を率いるジャ族と、呪術に優れたベノ族。
 そんな二人が頭を垂れる老人こそマハ王である。王はゆっくりと振り返り、白く濁った瞳で二人を見つめる。
「子はまた産ませれば良い。それよりも今はゾエル神の復活を急ぐのだ。神さえ目覚めれば、人間等……」
「ゾエル神なくとも、我らジャ族の武人が人間を駆逐してご覧に入れましょうぞ!」
「イサ・ジャ……あんた、本気でコボルドが人間に勝てると思ってるの? おめでたいわね」
「貴様ら呪い屋にとってはそうであろうよ、ラシュラ・ベノ。王よ、号令さえ頂ければ直ぐにでも奴らを我が一族が血祭りに!」
 二体の族長が睨み合う中、チリンと鈴の音が響いた。
「ンッン~……中々理解していただけないようですが、この鉱山で戦を続ける事に意味があるのですぞ、ご両人」
 白いスーツ姿の男は咳払いと共に自らが従えた小柄な少女の肩を叩く。
「ゾエル神復活の為には、まずは聖域を完全にしなければなりません。築城は我らにお任せあれ」
「いつまで待てば良いのだ! こうしている間にも人間共は総攻撃の準備を進めているのだぞ!」
「イサに同意するわけじゃないけど、イヲの採掘場が人間に奪われた今、供物の供給量は大幅に減ってしまったわ」
「だからこそ、この城に篭もり戦う事に意味があるのです。ヴァンパ~イアの能力というのは、そういうものですからな!」
 両手の指を同時に鳴らし、男はニッカリと笑う。それから少女の頭をポンポン叩き。
「ご心配めされるな。我らは暴食の女王たるオルクス殿の助力を得てここに居るのです。当然! 万全! 断然、問題なし!」
 その場で両腕を広げ回転する男。二人の族長は互いに顔を見合わせる。
「……ラシュラ。このような者達に……」
「でもね、彼らのお陰で私達の力は飛躍的に高まったわ。もう人間に圧倒されるだけの私達じゃない」
 ラシュラが手を翳すと青い炎が浮かび上がる。人ならざる者との契約は、コボルド達に超常的な力を授けた。
「間もなく全ての時が満ちる。三百年続いた我らが怨嗟を以って、悲願はようやく実を結ぶであろう……」
 老人が見下ろす闇の奥底。決して命が存在することを許されない深く暗い死の底で、何かが目覚めようとしていた。



「色々調べてみたけど、ゾエル・マハなんてものは存在しないと思うよ」
 カルガナの言葉にシュシュは目を丸くする。
 イヲ族から得た情報にゾエル・マハという邪神の存在があった。ホロンもそれは証言してくれたのだが……。
「コボルド族に神が居たなんて話は帝国の歴史書には記録されていないんだ」
「でも、そういうのがいるって……ねぇ、ホロン?」
 頷くホロン。だがカルガナは怪訝な表情を浮かべる。
「そんなに言うなら取り寄せた資料があるから自分で調べてご覧。ただ、捏造されたとしても神は神、彼らにとって重要である事に違いはないだろうね」
「ゾエル神が復活したら、どうなるんだべか?」
 首を横に振るホロン。正直な所、ホロンもゾエル神についてはよくわかっていなかった。
「ただ、歪虚である可能性は否定出来ないと思うよ。コボルド達がそこに勝算を見出しているのなら尚更だ」
 コボルドやゴブリンは、基本的には歪虚の尖兵とされる。
 それは彼らが歪虚と共に人間を襲い、場合によっては協調性すら見せるからだ。
 適性亜人達は、人間が精霊と親しむように歪虚の力を得る。操られている場合もあるだろう。だが事実関係はどうあれ、ヒトは亜人を敵と見做す。
「仮にブラストエッジのコボルドが歪虚と組んでいるというのなら、尚更許すことは出来ない。帝国の脅威は排除しなければ」
「じゃあ、殲滅作戦を……?」
「早めたいところだけど、敵の切り札について何もわからず、敵の本陣に兵力を注ぎ込むのは危険だね」
 ゆっくりと立ち上がったカルガナは机の引き出しから荷物を取り出す。布に包まれたそれは帝国の軍服と認識票であった。
「第一師団から通達があった。単独によるイヲの領域開放の功績を讃え、シュシュ・アルミラに上等兵の位を与える」
「……い、いきなり上等兵だべ……ですか!?」
「上等兵は部隊長レベルの下士官階級だ。最も、武力を重んじる帝国において、覚醒者の劇的昇進は珍しくもないけどね」
 自分もそうだと言わんばかりに指差し、それから男は敬礼する。
「現時点を以って、君にブラストエッジ攻略戦の先行突入偵察隊の指揮を任せる。引き続き鉱山に向かい、ゾエル・マハの正体を暴いてほしい」
 イヲの領域を人間に開放したことにより、この戦争の状況は大きく人間優位に傾いたと言える。
 それが出来たのはシュシュだけの力ではないが、“それは帝国軍の功績であった”とする為にも、見せしめの英雄は必要とされた。
 あくまでも、コボルド族の協力やハンターの協力ではなく、帝国軍の力による勝利。
 味方の犠牲は限りなく少なく、敵の領土を奪う。昇進でシュシュが同等の成果をこれからも出し続けたとしたら……。
「――君は優秀だよ、シュシュ。是非とも僕らを導いて欲しい」
 士官用のコートに袖を通し、シュシュは敬礼を返す。
 わかっている。迷いながら出したこの答えと進むべき道の険しさ。そして自分達が利用されているだけだということも。
 だとしても――それでも。自分の理想の為に、今は戦うしかないのだから。

リプレイ本文

 ブラストエッジ鉱山、ベノの領域。
 紫色に発光するマテリアル結晶が突き出した洞窟内は仄かに明るく、しかし深淵は計り知れない。
「ここから先は未知の領域だ。注意して進もう」
 近衛 惣助(ka0510)が広げた手製の地図を紅薔薇(ka4766)も覗きこむ。
「何が必要になるのか現状では全然判らんのじゃ。手当たり次第に調べて情報を持ち帰るしかなかろうて」
「ホロンはゾエルについては知らないの?」
 イェルバート(ka1772)の問いにホロンは首を横に振る。
「じゃあベノの長については?」
「年若イト聞ク。我ガ里ヲ離レタ後、就任シタト」
「長によってはイヲ族と同じように酷使されている可能性もあるのう」
 紅薔薇の懸念はイェルバートも抱いていた。
「ベノのコボルドの忠誠度は気になる所だね」
「ふむ……人語を解するコボルドか。こうして肩を並べて闘う事になるとはな」
 ハンター達には今回イヲ族が五体同行している。奇妙な鉱山獣を横目にユルゲンス・クリューガー(ka2335)は興味深そうだ。
「確かにここならではの光景かもしれないな。なかなか可愛い奴らなんだよ」
「そうか。ともあれ宜しく頼むぞ、指揮官殿」
 惣助に肩を竦め返すユルゲンス。シュシュは少し照れくさそうに頷いた。
「士官用のコートだとなんだか雰囲気が違って見えるね。隊長さんって呼んだ方がいいかな?」
「べ、別にシュシュは大した事してないだよ。これまで通り、皆で頑張るんな」
 笑いかけるイェルバート。ユルゲンスはそんな仲間達に小さく笑みを浮かべた。


 ハンター達は班を二つに分割した。
 先行し安全な進路を確保し誘導する班とそれに続く本隊。
 先行班は薄暗い洞窟の中、マテリアルの光だけを頼りに慎重に歩みを進めていく。
「まるでアメリカ冒険映画のようですね」
 小声で呟く花厳 刹那(ka3984)。オウカ・レンヴォルト(ka0301)は壁沿いに進みながら無言で頷く。
「……油断のないように、しないとな」
 その前ではジャック・J・グリーヴ(ka1305)がコボルドと共に鉱山獣に跨がり、うぞうぞ移動していた。
「乗り心地は悪くねぇが、あんま細かい動きはできねぇのな」
 例えば鉱山獣は急には止まれない。急カーブも出来ない。あまりお利口ではないのだ。
「一応ハンドサインみたいなのは考えてみたが、こいつら基本的にアホだからなぁ」
「アワイイ?」
「可愛くねーよなんでだよ」
 首を傾げるコボルドに冷や汗を流すジャック。
 まず先行班が気になったのは、とにかくベノの領域は入り組んでいるという事だ。
 一々三叉路にぶつかる。とりあえず迷わないように真っ直ぐ進んでいるが。
「……こちら先行班。また真っ直ぐ進む」
『承知した。こちらも特に異常はない』
 トランシーバーから聞こえるユルゲンスの声。オウカは無線を片手にまた三叉路を進んだ。
 間もなくして先行班は動きを止めた。正面から発光する何かが近づいてくる。
 しかし鉱山獣はでかすぎて隠れる場所もない。慌てる三人の目の前で、謎の発光物は曲がり角を折れた。
 オウカは直ぐにトランシーバーで合図を送る。三回二回の交互合図は敵を見つけたが気付かれなかった事を意味する。
 三人は顔を見合わせた。何故目の前まで来て何事も無く曲がったのか。視界には入っていたとしか思えないのだが……。
 一旦停止の合図を送り、三人は進路を変更しようと道を引き返し始めた。異常事態はそこで発覚する。

『こちら先行班。既に別ルートへ入った、のか?』
 ユルゲンスは首を傾げる。
「いや。言われた通り真っ直ぐそちらに追従している筈だが……?」
 と、前方で仲間の声に顔を上げる。ユルゲンスの前には広大な空洞が広がっていた。
「開けた空間に出た。そちらの報告にはなかったと思うが」
『今、先行版は一度進路変更の為に引き返したのですが、本隊が見当たりません。再確認ですが、真っ直ぐ進んだのですよね?』
 ユルゲンスの視線に紅薔薇は「当然じゃ」と言わんばかりに頷く。
『き……はず…………道……の……』
 急にオウカの声が途切れ途切れになり、無線は途切れてしまった。
「ホロン、コボルド達は何かわからないか? 敵の気配とか」
 惣助に首を横に振るホロン。イヲの領域とは勝手が違うし、コボルドの気配と言えばここは巣なのでずっと感じている。
「シカシ、確カニ、何カ音ガスルヨウナ……」
「あれを見て。壁に何か描いてある」
 七夜・真夕(ka3977)は空洞の入口付近の岩陰に隠れていた。
 ランタンの灯りを消して近づくユルゲンス。その空洞には無数の石が整然と並べられていた。
「これってもしかして……墓?」
 イェルバートの言う通り、そこは巨大な墓地のようだ。
 紅薔薇が双眼鏡を覗き込むと、巨大な壁画とその下に集まったコボルド達の姿が見えた。
「壁画を崇めているようじゃな。壁には……紙を貰えるかの?」
 惣助に手渡された紙を膝の上に乗せ、紅薔薇は壁画をなんとなく書き写す。
 大きく巨大な闇が背の高い鎧姿の生き物を蹂躙する様は、何かの物語のようだが……。
「これまでに鉱山に入った事がある人は、何かわからない?」
「いや……ここの雰囲気はイヲの領域とは違いすぎるよ」
 真夕に首を振るイェルバート。と、その時。墓地に通じる無数の道から一斉に亡霊型歪虚が姿を見せた。
 無論、彼らの背後からもだ。大型の鉱山獣がいることもそうだが、全員がやり過ごせる程の死角は存在しなかった。
 青白く光る亡霊はハンター達の真上まで来ると眩く発光し、ケタケタと笑い声を上げる。
 それに反応するように全ての亡霊型が、そして墓所に集まっていたコボルドが振り返った。



「おい、どうなってやがる? なんで迷った?」
 ジャックが焦るのも無理はない。真っ直ぐにしか進んでいないのに本隊と逸れ、しかも真っ直ぐ戻ったら突き当たってしまったのだから。
「どの段階で逸れてしまったのでしょう……全く気づきませんでした」
「無線も通じない……離れすぎたわけではないと思う、が」
 オウカには電波増幅のスキルもある。ならば何らかの通信障害が発生したと考えるべきだろう。
 とにかく今は何とか合流するなり脱出路を発見するしかない。だが進めば進むほど、道は見覚えのない景色に変わっていく。
「む……。少し、息苦しくない、か?」
 オウカの言う通り、何か胸の詰まるような感覚がある。コボルドは全く影響を受けていないようだが。
「何だか集中が削がれるような気がしますね。ほんの僅かな違和感ですが……」
 と、その時。ジャックの乗り込んだ鉱山獣が突如動きを止めた。
 天井や壁、床から霊体の腕が伸び、それが鉱山獣を絡めとったのだ。慌てて飛び降りたジャックだが、罠には気づけなかった。
「くっ、やはり床を長い棒で叩いて進むべきでしたか!」
「ずっとそれでは、全然進めないのでは……?」
「ていうかなんだ!? どういう罠だこれは!?」
 解除方法も良くわからない。見た感じ怪しい装置も呪文が刻まれた石もないのだが。
 霊体を攻撃する三人だが、亡霊型は核を破壊しない限り消えない。一瞬霧散するが、すぐに鉱山獣に絡みつく。
 命に関わるような罠ではないようだが、鉱山獣は動けない。コボルドも困り果てている。
 そうして暫く罠に嵌っていると、ハンター達を挟撃するように前後に敵集団が現れた。
 コボルドの骨の鎧を纏った亡霊型歪虚。その数八体。
「ていうかバリバリに見た目も歪虚じゃねえか! コボルドの巣じゃなかったのかよ!」
 ジャックの言いたい事もわかるが、それよりも亡霊型の背後に目を向けよう。
 そこには黒いローブを纏った、青白い肌の少女――吸血鬼型の歪虚が立っていた。
 両目を布で覆った吸血鬼は空中に氷の結晶を生み出すと、ハンターへと勢い良く発射した。、

 呪術師風のコボルド達は杖を掲げ、黒い炎を生み出す。
 並んだ二十体のコボルドが同時に発射する火炎弾が降り注ぐ中、ハンター達は撤退を開始する。
「思い切り魔法撃ってきたねっ」
「単体の戦闘力がイヲ族とは比較にならんな……」
 走るイェルバート。惣助も弓を打ち返しながらごちる。
 逃げるのはいいが、どこへ逃げればいいのかもわからない。しかも亡霊型の歪虚がハンターを追跡してくる。
 ユルゲンスは刃を抜き亡霊を斬りつけるが、コアが同行していないタイプなのかダメージを与えられない。
「皆下がって! 十分引きつけて……今!」
 真夕は火炎弾を放ち、小さな亡霊型を纏めて吹き飛ばす。これでも倒せはしないが、物理攻撃より時間は稼げるようだ。
「鉱山って聞いてたけど、おばけだらけじゃない!」
「退路はどちらじゃ!? 倒せぬ敵に数で圧倒されては押し切られるぞ!」
 紅薔薇の言う通り、このままでは全滅もあり得る。背後からはまた亡霊が追いかけてきているし、正面からは骨を纏ったコボルドの亡霊が駆け寄る。
 惣助は速射で接近する敵の動きを止める。イェルバートは正面に手を翳し魔法陣を作った。
 放たれた三つの光が亡霊を次々に撃ち抜く。ユルゲンスは低い姿勢から突進し頭蓋を剣で叩き割り、紅薔薇は怯んだ敵の中央をすり抜けながら刃で両断する。
「核は頭部のようだな」
「む……頭を真っ二つにするべきじゃったか」
 再び起き上がろうとする頭蓋をシュシュとホロンが叩き割り、背後から再び接近する亡霊は鉱山獣が雷撃で追い払った。
「真っすぐ進んでるのに出口に辿り着かないだよ!?」
「……待って! 何故か僕のつけた目印が右にある!」
 急制動してシュシュを呼び戻すイェルバート。意味がさっぱりわからないが、彼が壁に刻んだ目印は右方向にあった。
「おかしいな。地図と全然違うぞ」
 困惑する惣助。だが今はこれしか道標がない。
 イェルバートを先頭に走る一行。そうしている間にも次々に敵が出現し、妨害を企てる。
「次は左……な、なんで?」
 自分の目印が信じられなく成って来た頃、脇道から大型のコボルドが飛び出してきた。
 その肉体は腐り、鋼鉄で補強されている。文字通り鋼の爪を振り下ろすとユルゲンスが盾を構え受け止めた。
「剣機型だと……?」
 怪物は口を開くと、そこから火炎を放出する。ユルゲンスの鎧は炎の渦に飲み込まれた。
 紅薔薇は炎の脇を抜け、ユルゲンスを抑えこむ腕を肩から切断。炎から逃れたユルゲンスは地べたを転がり壁に追突した。
「全く次から次へと厄介じゃのう!」
 イェルバートはユルゲンスに強化を施す。幸い直ぐに立ち上がれる程度の負傷のようだ。
 剣機型の脇を抜けて走るハンター達。ユルゲンスは追撃を食い止めながら前進。惣助はコールドショットで剣機型の足を凍らせ転倒させる。
「見えた! 出口だ!」
 外へ続く光はなぜか曲がりくねった道の先に差し込んだ。
 イェルバートに続き脱出するハンター達。亡霊型は追跡を諦めたようだが、剣機型が勢い良く飛び出してくる。
「はあ~っ、しつこいのう」
 険しい山の傾斜を滑り落ちながら紅薔薇が反転し震動刀を構える。
「こいつを連れてキャンプに戻るわけにはいかない……ここで仕留めるぞ!」
 惣助の言葉に従い、ハンター達は反転、剣機型の迎撃に乗り出した。

 群がる亡霊型に発泡し迎撃するオウカだが、数があまりに違いすぎる。
 孤立した先行班は既に五体の歪虚を撃破。更に増援として出現した十体を加え包囲されていた。
「コボルドさんが手を貸してくれなかったらもうやられていましたね……」
 傷だらけの二体のコボルド、そして罠に囚われていない鉱山獣がフォローしてくれるが、それも限界に近い。
「何とか本隊と合流するか、脱出しなければ……」
 刹那の言葉に頷くオウカ。
「だが……どっち、へ?」
「まずあの吸血鬼を突破しなきゃな。俺が壁になる。鉱山獣で敵を押しのけて突破するぞ!」
 発砲しながら前に出るジャック。襲いかかる獣型の亡霊を撃ちぬく中、吸血鬼は両手に集めた冷気を解き放つ。
 円形の洞窟を螺旋を描くように無数の氷の刃がせり上がりジャックを襲う。四方八方から氷に切り裂かれるジャックだが、盾を振るい氷を砕いた。
「……うらぁあっ! 今だ、行け!」
 飛び出したオウカは震動刀に炎を纏わせ一閃。正面の亡霊型を薙ぎ払い道を切り開く。
「悪いが、退いてもらう……!」
 コボルドを乗せた鉱山獣が雷撃を放ちながら突進。吸血鬼を突き飛ばし脇を抜けるが、吸血鬼は空中に氷の槍を三つ構築する。
 刹那は鉱山獣の背から飛び降りながら氷の槍を刀で打ち払い、自らへ狙いを変えた残りの二発は壁を走り、天井を蹴って回避しつつ鉱山獣の背に乗り移った。
「す、すみません」
 抱き止めながら頷くオウカ。ジャックは鉱山獣を飛び降り、手綱を握りながら走る。
「……こっちだ! 多分な!」
「わかる、のか?」
「もう目だの方向を信じてもしょうがねぇだろ! 風を信じるんだよ!」
 恐らくまだここは出口からそう遠くないはず。ジャックはそう信じて風の流れを感じる。
 何度も同じ所を堂々巡りしているようにしか思えないが、風は吹いている。オウカは背後から迫る敵を射撃で迎撃しつつ。
「行き止まり、だぞ……?」
「ジャックさん、目の前は壁ですよ!」
 ジャックはそれでも銃を連射し、鉱山獣の突進と一緒に蹴りを放つ。
 砕けた壁の向こうには絶壁じみた急斜面、そして眼下には森が広がっていた。
 そして当然だが落下する。ジャックと刹那の悲鳴が響き、オウカは無表情に落ちていった。



「……という事があったのですが、そちらも大変だったようですね?」
 刹那の視線の先、半ば蒸発し機械部品だけを残した怪物の残骸が転がっていた。
 ハンター達は麓で何とか合流を果たしたが、全員が満身創痍であった。
「ベノ族って、元々こんな感じだったの?」
 イェルバートに高速で首を横に振るホロン。まさか亡霊だらけになっている等、誰が想像しただろう。
「生きているベノ族らしき者は、例の墓所の術者達しか見かけなかったのう」
「連携や対処能力が明らかにイヲ族より上だったね。同じコボルドとは思えないよ」
 紅薔薇に続きイェルバートも振り返る。ゾエル神についてはあまり情報を得られなかったが、ベノの領域については掴めた気がする。
「場違いな、吸血鬼型も見た、な……」
「ふむ……一度戻って情報を整理するか」
 オウカの報告に惣助は溜息を零す。正直、色々ありすぎて考えがまとまらない。
「鉱山獣、一匹置き去りにしちまったな……すまねえ」
 傷ついたコボルドに屈んで語りかけるジャック。刹那も礼を言いながらその頭を撫でた。
「しかし、これでゾエル神の正体も推測出来るかもしれんな」
 紅薔薇の言葉にイェルバートは頷く。
 あの壁画、そしてベノの領域に渦巻く無数の亡霊型歪虚。
 新たな領域は幾つもの謎と共に、ハンター達を迎え入れようとしていた。

依頼結果

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MVP一覧

  • →Alchemist
    イェルバートka1772
  • 不破の剣聖
    紅薔薇ka4766

重体一覧

参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • ケンプファー
    ユルゲンス・クリューガー(ka2335
    人間(紅)|40才|男性|闘狩人
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
近衛 惣助(ka0510
人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/05/06 20:03:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/03 20:26:50