変わる世界

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/15 07:30
完成日
2015/05/19 04:16

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「そもそも、彼女一人に器の運用を任せるのが間違いだったのです」
 長老会に引きずり出されたジエルデは、折檻の直後でぐったりとした顔を上げた。
 木々に囲まれた卓を囲む長老達の中、年若いエルフが立ち上がっていた。
「他に適任がいるというのか? ヨハネ」
「いえ、彼女が適任です。しかし器という術具を一人で管理するのは難しい。器はともかく、彼女はエルフです。二十四時間器と共にはいられません」
 青年は穏やかにジエルデへ笑いかける。そして老人達を見渡し。
「今代の器は最高傑作との声も高い一級品ですが、同時に度し難くもあります。器の管理方法を一新する時期に来ているのではないでしょうか?」
 ヨハネと呼ばれた長老に視線が集まる。
「まず、僕が器の管理を補佐します」
「由緒正しい血筋の貴様が“人形師”になる必要はなかろう」
「不名誉な役割は不名誉な者が任されるべきだ」
「森の外に出られる年齢のエルフは僕とジエルデだけですよ? それに人形師は不名誉な称号ではない筈です」
 穏やかな声に長老達は顔を見合わせる。
「今、オルクスの再出現に始まり世界の情勢は動き出しています。森を守る為には決断も必要です」
「まるで維新派のような事を言うのだな」
「僕は恭順派ですよ。ですが、長老会には最低限森の民の生活を“維持”する義務もあると考えます。皆さんはこれまで通りで構いません。ただ、僕が森の外で活動する事を認めて欲しいのです」
 それは長老達にとってはある意味他人事であり、強く反発する必要性もない。
 青年に反対する声はなかった。元々維新派にも理解のある長老会故に、当たり前の判断でもある。だが……。
「僕は器に力の使い方を学習させるべきと考えています」
「器に意志を持たせれば悲劇の繰り返しになるぞ。だからこそ、“判断”と“力”を切り分けたのだろう」
「承知しています。しかし、器にある程度の自我とマテリアルコントロール技術がないままでは、“精霊”の意志に支配されてしまう。それこそオルクスの二の舞いです」
 ざわつく長老達。ヨハネは笑顔で主張する。
「器というのは使い方によって価値が変わります。帝国との取り引き材料にも、そしてオルクスという身内の恥への切り札にもなる。強力な浄化術は帝国と対等以上の関係を実現しますし、オルクスを消滅させられればエルフハイムは安泰です。この故郷を、永遠にする事も夢ではありません」
「しかし……帝国との争いは望まぬぞ? 器の暴走で犠牲を払うのも御免被る」
「その為に、エルフハイムの戸を少しだけ緩める事を考えています。いざという時、恭順派ではなく維新派を切り捨てれば誰も傷つかずに済むでしょう?」
 ジエルデには不思議だった。このヨハネという長老はいつも黙ってばかりで存在感のないような優男だったはず。
 しかし一度こうして口を開けば、何故か老人達が納得する。それは普段から彼が何らかの活動を水面下で進めて来た事を意味している。
「まずは器の新しい運用を。そして近々エルフハイムの方針と、新たな長老についてご提案があります」

「礼を言うべきでしょうか」
 会議が終わってすぐ、ジエルデの肩に布をかけたヨハネに問う。
「君が里を無断で出たのは、何か重大な理由があったからなんでしょう?」
 ジエルデが私用でエルフハイムを留守にしている間に器が森を出てしまう事件があった。
 原因は現在も不明だが、それに伴いジエルデは監督責任を問われた。何故森を出たのか、理由も説明しないジエルデを長老会は厳しく罰した。
 言える筈のない理由だった。だから決して彼女は口を開かず、罰は長期間に及んだ。
「僕は恭順派だ。そしてジエルデ、君も同じ恭順派。そして森の外に出られるのは僕らしかいない。助け合うのは当然だよ」
「しかし私は……」
「“人形師”の役割だって、器と共に外に出られる者でなければ不可能だった。君は自分で思っている以上に重宝されているんだよ」
 水浸しになったジエルデの冷たい手をそっと両手で包み、ヨハネは笑う。
「僕はね、オルクスを消滅させなければエルフハイムの未来はないと思っている。そしてアレを消し去るには、器を強くする必要がある」
「あの子を……」
「どちらにせよ闘いが避けられないのなら、せめてその中で彼女が生存できる可能性を模索するべきじゃないかな?」
 戸惑いの視線を向けるジエルデにヨハネはまっすぐな眼差しを返す。
 この森の中で自分と正面から向き合ってくれる者も、汚れた身体に触れてくれる者もいなかった。
「僕にいい考えがあるんだ。きっと君と僕は手を取り合える……仲間になれると思うよ」
 この森の中で何ができるのか、ずっと考えていた。
 変わらなければならない。それはジエルデの願いでもあった。
「救えるのかしら……今からでも、こんな私にでも……」



 森の浄化作業。それは常に危険と隣り合わせだった。
 だからこそ器には複数の警備隊と巫女が同行する。しかし先に器の暴走以来、巫女達は露骨に器を恐れるようになった。
 ヨハネはそれを好都合と言った。彼は器そのものが覚醒者として雑魔と闘い、その上で浄化作業を完了すべきと提案したのだ。
 正直な所、ジエルデにはまだわからなかった。この判断が正しいのか、それとも間違いだったのか……。
 森の浄化には最適なポイントがある。そこへ向かう道中、予想通り雑魔の集団に遭遇した。
 護衛に雇ったハンター達が戦闘に備える中、器の少女もまた専用の浄化の楔を手に取る。
「確認。私も戦っていいの?」
「……ええ。これからは、自分の身を自分で守る事も覚えるのよ」
 器は戦ってはいけない。浄化術以外にその力を使ってはならない。
 それは遥か昔、エルフハイムが産みだしてしまった悪夢の再来を避ける為であった。
 しかしその悪夢を打ち払う為に、器という存在が必要なのも事実。
 矛盾と不安の中、それでもジエルデは変化を求めた。変わらなければ道具は道具のまま。ならばせめて、少しでも違う未来を……。
 器は自らの手首を裂き、溢れた血を木製の剣の彫込へ流す。
 真っ赤な血は楔にマテリアルを注ぎ込む。傷口に舌を這わせた少女は、うっすらと目を細め微笑んでいた。

リプレイ本文

 エルフハイムの依頼で森に足を踏み入れたハンター達の前、器の少女は樹木に手を当て感知する。
 探し求めるのは闇の中心点。ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は遠巻きにその様子を見つめていた。
「あの子はあれで浄化地点を割り出せるのか?」
「そういう特別な力があるとは聞いているわね」
 ロニ・カルディス(ka0551)の疑問に答えるユーリ。神楽(ka2032)は振り返り、ヨハネに目を向ける。
「それで、器は人間として接するっす? それとも道具として接するっす?」
 神楽の質問はユーリも気になる所だった。ヨハネは笑顔を浮かべ。
「どちらでも構わないよ」
 その答えに意外そうなジエルデ。ジェールトヴァ(ka3098)は首を傾げ。
「それが新しい方針なのかな?」
「そうではないよ。どう扱った所で、あれの本質は変わらないからさ」
「では、名前を呼んでもいいのかな?」
「構わないよ。尤も、彼女に名前はないけどね」
 それはとても寛容な判断にも見えた。少なくともこれまでは禁止されていた筈だ。
 そんなハンター達の疑念を晴らすように、青年は苦笑する。
「道具に名前をつけたからといって、それが動き出し、喋り出すわけじゃない。名前はただの記号だからね。勿論、君達の感性であれを道具と受け入れられないのも理解できる。だから、人間扱いする事を禁止したりもしないよ」
 事実上の規制緩和通告ではあったが、それと喜ぶにはヨハネの言葉は事務的だ。
「じゃあ、今後は器が他のハンターと組む事も想定してるってわけっすか?」
 神楽の質問に頷き返す。ジエルデはそれを複雑そうに聞いていた。
「んん~? なぁんか微妙にいけ好かねぇ感じするぜ、あいつ」
「ハンターに好意的、とも取れるが……」
 紫月・海斗(ka0788)は唇を尖らせながら呟く。ロニが苦笑を浮かべると、腕を組み。
「それに引き換えジエルデ義姉様はなんていいスタイルなんだ!? ジーザス! 血の繋がりさえあれば!」
「……何の話かわからないが、俺にふらないでくれ」
 がくりと肩を落としたロニ。一方器は探知を終え、森の中へ歩き出した所であった。
「あ……待って! 一人じゃ危ないわ!」
 ユーリが駆け出すと、端で話を聞いていたダラントスカスティーヤ(ka0928)も後に続く。

 ハンター達が追いかけると、器は既に足を止めていた。正面には無数の雑魔が徘徊しているのが見える。
「……あの奥か?」
 ダラントスカスティーヤの言葉に器は頷く。ジェールトヴァは腰を落とし、器の肩を叩く。
「あなたは、この役目についてどう考えているのかな?」
「……? 何も?」
 器からは何の感情も汲み取れない。本当に今、少女は何も考えていないのだ。
「初めから全力で飛ばさないで、ペース配分をするんだよ。私達がサポートするから、連携して闘うんだ」
 二度、少女は首を傾げた。どうも通じていないらしい事に気付き、ジェールトヴァは冷や汗を流す。
 そんな時だ。海斗が取り出したのは猫耳のカチューシャとネックレスであった。
「ハイ! 今日はこれを着けて闘ってもらいます!」
 仲間達からの冷ややかな視線を一身に受け、男は咳払い。
「ちゃんと意味はあるぜ。それを壊さねーように戦うんだ。必要な力を必要な所に使う、ってな」
「成る程、一理あるっすね」
「てっきり貴方の趣味かとばかり……」
 神楽とユーリの言葉に海斗は親指を立て。
「勿論、俺のテンションの問題もあるぜ!」
 また冷ややかな視線を独り占めにした。しかし、ジェールトヴァは素直に感心していた。これは確かに妙案だ。
「頑張れた子にはご褒美にこのお菓子をあげます」
 海斗が包みからマカロンを取り出すと器の目が見開かれた。そして自ら猫耳を装着する。
「子供だとは思っていたんだけどね……」
 器はすっかり海斗の言う事を聞いているが視線はずっと包みに向いている。それでもコントロールできた事には違いない。ジェールトヴァは苦笑を浮かべた。
「戦うの初めてだから、上手くやれるかわからないけど」
「大丈夫だよ。何があっても助けるからね」
「……? 何故?」
 真顔で首を傾げられると何とも言えないのだが。
「では、ここは霊闘士の先輩としてこの俺が精霊と同調するという事についてレクチャーするっす!」
「神楽、もう行ってるぞ!!」
 胸を叩く神楽の肩を掴むロニ。さっきまで目の前にいた器はもう駆け出していた。
「……あはは! あははははは!」
 しかも何か大声で引きつったような笑い声を上げながら、である。
「この一瞬で何が起きたんすか!?」
 先程まで器は無表情、戦いにも何の感情も抱いていなかった筈。
「まるで別人……」
 そう呟き、ユーリも駆け出す。暴走しているわけではなさそうだが……。
 器は目についたスケルトンに木刀を叩きつける。反撃は背後に跳んでかわすが、空中を回転し木を蹴り、大地に手を着いて跳ねると再び骨へ襲いかかる。
「やれやれ……チームとしての行動は、要練習だな!」
 ロニはロザリオを握り締め目を瞑る。キィンと甲高い音が響き、光の波紋が広がっていく。
 それを浴びた雑魔達は次々に何かに縛られるように動きを止めた。
「ゴーストの方は俺が何とかしよう。今の内に孤立した器を援護してやってくれ」
「私もお供しようかな」
 ロニとジェールトヴァは霊体を纏った小石、亡霊型の雑魔と対峙する。
 人数的には圧倒されているが、二人は聖導師の力で亡霊の動きを止める分には苦労しない。
「霊闘士は霊と同調して力を借りるっすけど同調しすぎっす! 同調しすぎて獣の霊と同化して野生に還ったなんて話もあるっすし仲良くと従うは違うっす! 人間関係と一緒っす!」
 神楽の呼びかけに反応しない器だが、頭から猫耳が外れかけると動きを止めた。
 いそいそと戻そうとする器にスケルトンが襲いかかるが、その一撃はダラントスカスティーヤが受け止め、海斗が放ったヨーヨーが頭蓋を粉砕した。
「おいおい、ちっとばっかテンション上がりすぎじゃねぇの?」
「違う。私じゃない」
 目をぱちくりさせる海斗。神楽は駆け寄りながら叫ぶ。
「典型的な霊闘士の過剰憑依状態っす! 本当に一度も戦った事なかったんすね!」
「霊闘士の憑依状態……まさか、これまでの暴走って……」
 目を細めるユーリ。神楽は敵に発砲しつつ、とりあえず器を捕まえろと海斗にジェスチャーする。
 しかし器は海斗の手をすり抜け、ニタリと笑う。
「まったくもう……邪魔よ!」
 器に近づこうとするスケルトン二体。側面から接近したユーリは刃を走らせる。
 雷の軌跡を残し、二体のスケルトンが吹っ飛んだ。ダラントスカスティーヤは器をかばうように位置を調整するが、その肩を踏み台に飛び越えた器が敵に突っ込んでいく。
「仕方ないっすね……フォローしつつ一気に片付けるしかないっす! 聖霊様、たっけってーっす!」
 神楽が肩に乗せた二体のパルムが目をギラリと輝かせると、青白い光が神楽から迸る。
「よくわかんねぇが、とりあえずは援護しときますかぁ!」
 ライフルを構える海斗。その銃口に魔法陣が浮かび上がり、放たれた光の弾丸が木々の合間をすり抜けスケルトンを穿つ。
「あの数の敵を相手に素晴らしい立ち回りじゃないか。もう少し僕たちは見守ろう」
「え、ええ……」
 心配そうなジエルデの肩を叩き、ヨハネは目を細める。彼の言う通り、十四体もの雑魔を相手にハンター達は圧倒している。
「こちらも急ごうか。特にゴーストは、器が吸収してしまう恐れがあるからね」
 ジェールトヴァが杖を掲げると、音と共に光の輪が広がり、ゴーストの動きを封じていく。
 ロニは拳に巻きつけたロザリオを掲げ、大地を打つ。すると溢れた光が衝撃派となり、ゴースト達を襲った。
 元々動きを封じられている上に、本来は核に攻撃しなければダメージを与えられない亡霊型であるが、回避の余地のない飽和攻撃に一瞬で蒸発していく。
「うおっ、あっちなんかめっちゃ光ってる!」
「予想以上にゴースト殲滅が早いっすね。神楽さんも活躍したいので、こっちを手伝うっす!」
 魔導銃を構え狙撃する神楽。赤い光を纏った弾丸が骸骨の頭を貫通し、また一体倒れる。
「この程度の敵……相手にならないわ!」
 最後のスケルトンを一刀両断しユーリは刃を収める。
 全ての敵が消滅すると、器はまるで力が抜けたように崩れ落ちる。
 ダラントスカスティーヤは片手でそれを抱き止めると、安堵したように小さく息を吐いた。



「いや、驚いたよ。ハンターの力がここまでとはね」
 汚染の中心地点に楔を立てた器はもう暴走する様子は見られなかった。
 浄化作業はさほど時も必要とせず終わった。本来ならば何時間もかかる儀式を、少女は一人で完了する。
「……率直に質問します。オルクスとは、かつての器だったのではありませんか?」
 ユーリの声にヨハネは向き合う。
「それは答えられない」
「何故です? オルクスも器も似た意匠の術具を持っています。他にも状況証拠が揃っているのにしらを切るんですか?」
「仮にエルフハイムがそれを認めたらどうなるのか、君はわかっていないようだね」
 オルクスは帝国の宿敵だ。その原因がエルフハイムにあるとなれば、当然調査の手が加わる事になる。
 場合によってはそう成り得る存在として、器は粛清されるかもしれない。
「それがオルクス・エルフハイムを歴史上から消した理由だね?」
 ジェールトヴァの言葉にヨハネは前髪を弄りつつ。
「長老会は帝国との全面戦争を望んでいない。勿論、僕もね」
 大人達の話を他所にぼんやりとする器。ダラントスカスティーヤは歩み寄り、少女の木刀を手に取る。
「戦わせるつもりなんですね。オルクスと」
 ユーリに微笑みを返すヨハネ。
「貴方は……いえ、エルフハイムはあの子に自らの犯した過ちの尻拭いをさせようとしている。秩序の為と言って、沢山の嘘をついて」
「他にどうやってあのバケモノを滅ぼせる?」
「オルクスは私が……いえ、私達の手で討ちます」
「――不可能だよ。それは君自身が良くわかっているはずだ」
「それは……っ」
「だからこそ、僕は器と君達を引きあわせた。世界を変える為に、一つの力では足りないからね」
 ヨハネは真っ直ぐにユーリを見つめ、その肩を叩く。
「オルクスを滅ぼし、過去を帳消しにすることで、帝国との全面戦争を避ける……それがあなたの真意なのかな?」
 それだけとは思えない。だが、ひとまずジェールトヴァはそう解釈する。
「なら、あの子を……器という“駒”としてではなく、一人の人間として接して欲しい」
「それは出来ない。何故なら、“それ”がオルクスという怪物を作ったから」
 ソレは人の身でありながら、飛び抜けた才覚を持つ巫女であった。
 だからこそ力に溺れた。“人であったから壊れた”のだ。
「長老会は器をジエルデに運用させる事で、力と判断を切り分けた。しかしご覧の通り、今のままでは“判断”に従えない」
 だから力を使いこなさねばならない。道具のままで。その結論にジェールトヴァは静かに目を閉じた。
「それにしたって何を憑けてんすかねぇ。猿かなんかっすか?」
 頬を掻きながら溜息を零す神楽。見れば器はダラントスカスティーヤと肩を並べ剣を振っている。
「精霊に主導権渡すな~とか色々説明したっすけど、さっぱりわかってないみたいっすね。むしろああいう教え方の方が覚えがよさそうっす」
 ダラントスカスティーヤは剣の構えや振り方について身振り手振りで教えていた。不思議なのは、全く会話がないのにそれが成立している事だ。
「あの子は人の気持ちの動きを何となく感じ取る事が出来るのよ。彼はきっと、純粋な人なのね」
 嬉しそうに微笑むジエルデ。海斗は驚き。
「何!? 人の考え読めんの!? よし! 俺の考えをよむぶろっぷ!?」
 ジエルデに杖で背後から頭をガツンとやられた海斗が悶絶する。
「変な事したら殺しますからね♪」
「目がマジっす」
 震える神楽。海斗はよろけながら器に歩み寄り、ご褒美のマカロンを差し出す。
「約束のマカロンだぜ」
 器は無表情に瞳だけ輝かせマカロンを頬張る。
「怪我はねぇみたいだな。よし、どれどれ」
 海斗は徐ろに器の胸を両手で揉んだ。
 海斗は徐ろに器の胸を両手で揉んだ。
「んっ」
 器が小さく声を上げた直後、ダラントスカスティーヤの剣の柄が海斗の頭頂部にめり込んだ。
 更に背後から飛んできた光弾が直撃し、その身体はスローモーションで木に叩きつけられた。
「これだから人間の男はッ! 八つ裂きにして森の養分にしてやるッ!!」
「ががが外交問題は勘弁してくれっす~!」
 鬼の形相で叫ぶジエルデを取り押さえる神楽。ロニは無言で気絶した海斗を引きずり、端っこに寝かせた。
 今となっては彼が本当は何をしようとしたのかは誰にもわからない。器は微動だにせずマカロンを食っている。
 まだ収まりの効かないジエルデがとても表現できない言葉を喚きながら魔法をぶっ放すのをロニとジェールトヴァが必死に止めている中。
「優れた兵器の故障確率も優れた人間の裏切る確率も0じゃねっす。だから俺の世界では一定時間解除コードをいれないと爆発する首輪みたいな安全装置があったっす。器に安全装置が無いから不安なんじゃないっすか? あれば運用の不安が消えて器にもう少し自由をあげれるんじゃないっすかね?」
 神楽の提案にヨハネは笑い。
「その必要はないよ。僕の計画には彼女の管理、そして安全の担保も含まれている」
「器を自由にするということ?」
「その為に出来る事をしているつもりだよ。信じてもらえるかはわからないけれどね」
 驚いたユーリにヨハネは優しく語りかける。
「彼女一人に負担を集中させない為に、器の制度を見直す必要がある。そして君達のような勇敢な戦士の力もね」
 ユーリと向き合うヨハネだが、神楽は納得していなかった。器の安全性を保証する為に、他にまともな手段があるとは思えなかった。
「なら……約束してください。私達がオルクスを討ったなら、あの子を道具ではなく、“人”として生きられるようにすると」
「いいだろう。約束しよう。こちらも望む所だからね」
「……さ~て、俺も器に直接覚醒を見せて手取り足取り教えてやるっすかね~」
 どうもヨハネを信じられない神楽は頭の後ろで手を組みながら歩き出す。
「それにしても……どこが道具なんだ? 皆怒ったり笑ったり、必死になったり……人間扱いそのものじゃないか」
 ロニは苦笑を浮かべながらそう思う。
 本気でキレているジエルデも、器を取り巻く者達も、間違いなく彼女を人として扱っている。
 それは長い歴史の中でようやく辿り着いた小さな変化にすぎない。だが、まだ未来は無限に広がっている。
 ダラントスカスティーヤに手を取られ歩く器を見ていると、そんな風に思えるのだった。

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MVP一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディスka0551
  • 自爆王
    紫月・海斗ka0788

重体一覧

参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • 無口の傭兵
    ダラントスカスティーヤ(ka0928
    人間(紅)|30才|男性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/05/15 01:16:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/10 23:48:25