• 聖呪

【聖呪】覚醒者『ノゾミ』

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/05/20 22:00
完成日
2015/05/24 19:05

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●とあるハンターオフィスにて
「この依頼は、見ての通り、護衛任務です」
 ぶっきらぼうとはこういう事かと思う程、やる気のない受付嬢。
 機嫌が悪いと態度も悪くなる。
「どうするかな。お金いいしな……」
 ハンターが悩んでいた。
 北部のとある街道を通る馬車の護衛任務。
 依頼主は豪商の方で、なんでも、嫁入り道具を満載して、ウィーダの街からパルシア村に向かうらしい。
「……はやく、選んで下さい」
 トントントンとカウンターを鳴らしながら受付嬢が急かす。
「この報酬があれば、婚約指輪買えるしな……あ。でも、デートの予定が……」
 ドンッ! と受付嬢が力強く床を踏んだ。
「あんたにやる仕事はない! 帰れぇぇぇ!!」
 涙目になりながら、受付嬢がハンターを追い返す。
 依頼を受けに来たハンターに仕事の斡旋をするのが受付嬢の仕事なのに、見事なまでの仕事放棄だ。
「もう……私だって、私だって!」
 お金持ちと結婚だなんて羨ましい。婚約指輪貰えるなんて羨ましい。
 どうせ、私は貧乏で田舎村出身の娘で、他人の幸せを羨ましがって逆上しちゃう悪い女よ!
 ……みたいな雰囲気が漂っていた。
 微妙な空気の中、モニターには護衛依頼の詳細が表示されていた。

●パルシア村から伸びる街道にて
 揺れる荷台の中、行商人がチラっと顔を上げ、同乗している2人を盗み見た。
 1人は可愛らしい緑髪の少女。もう1人は白髪のお爺さん。
(護衛にハンターを雇うお金がないからって、こりゃないぜ……)
 知り合いを通じて雇った護衛は、戦えそうにない少女と爺さんだ。
「なにか、ご用でしょうか?」
 視線に気がついたのか少女が訊ねてくる。
「い、いえ、特にないです」
 慌てて答えたその時、馬車が止まる。
 御者から主人を呼ぶ声が聞こえた。
「おぉっと。ちょっと、見てきますね」
 逃げる様に行商人は荷台から降りて行く。
 溜め息をつく少女。
「……私、不安です」
「なに、初めは皆、そういうものじゃ」
 翁はアルケミストデバイスを磨くのに余念がないみたいだ。
 長年愛用してきたので愛着深い。
「強くなる為に必要なのは、心技体と守破離。今は基本を守りながら経験を積む事」
 元ハンターオフィスの教官だったともいう翁。
 かつては、依頼の達成の為に、冷酷な場面も淡々とこなすあり様から、『戦慄の機導師』と呼ばれる凄腕ハンターだったらしい。
 今は、少女を覚醒者として教育する役目を主から命ざれていた。
「ゴブリンぐらいが初陣にはちょうど良いのじゃ。なに、いざとなればワシもおるしな」
「だといいのですが……」
 暗い青を基調とした怪しい雰囲気を漂わせるドレスが、光の加減によっては黒く見えた。左腕にはアルケミストデバイスが埋め込まれた金属製の篭手を装着している。
 それらは、少女の為に、翁がどこからか調達してきたようだ。
 そこへ、行商人が戻ってきた。
「いやいや、すみませんね~。この先、道が細いので御者が心配になったみたいで」
 山の中を通る街道なのだが、これから先は道が細くなる。
 馬車一台がすれ違う事ができない。場合によっては退避スペースまでどちらかが戻らないといけない。
「最近、この辺りにゴブリンが出没するって話しですし、よろしくお願いしますよ」
 ゆっくりと馬車が動き出した。

●少女の初体験
「ありゃ。向こうからも馬車が来たか」
 行商人が荷台から街道の先を見て言った。
「こういう時、どちらが道を譲るのですか?」
「まぁ、交渉じゃな」
 少女の質問に行商人が答えた。
 緊急を要する場合がある時は譲ったりしないといけないし、お金で決める場合もある。
「このまま近付いてくれ」
 荷台から御者に呼び掛けると馬車は早さを落とす。
 いよいよ対向してくる馬車と対峙する……という所まで来た時だった。
 突然、轟音とともに岩が転がってくる。
 それは、馬車と馬車の間を分断する形となった。
「ありゃりゃ! まぁ、向こうの馬車の人と一緒に岩を動かすしかないか」
 行商人が驚いて降りようとした時、翁が行商人の服を引っ張ってそれを止めた。
「ゴブリンじゃ」
 翁が指差したのは崖上。
 岩を落としてきたのはゴブリンのようだ。しかも……
「大きい……」
 行商人が絶句する。
 巨大な岩が数個、斜面の途中で止まっていた。
 恐らく、崖上から落とした際に、あの場所で止まったのだろう。数匹のゴブリンが、そこへ向かっている。
「あの岩を落とすつもりのようじゃの」
「あ、あんなもの、当たったら、ひとたまりも!」
 行商人の言う通りだ。当たったら馬車ごと木端微塵だろう。
「す、すぐに退避だ!」
 後ろに下がろうとした所へ、ゴブリンが襲いかかってくる。
 それに馬が驚き、御者の言う事を聞かない。
「よし、出番じゃ、ノゾミ嬢ちゃん!」
 近寄って来たゴブリンを殲滅させれば、馬も少しは落ち着くだろう。
 力強く立ち上がった翁。
 だが……
「イタタタタ! こ、腰がぁ!」
「オキナ! 大丈夫ですか?」
「だ、だめじゃ、う、動けん。イタタタタ」
 プルプルと震える手で少女を指差す。
「ノゾミ嬢ちゃん、頼んだぞ」
「え……えぇー!!」
 少女は目を丸くして叫ぶのであった。

リプレイ本文

●開始
 醜悪な顔のゴブリン共が崖を駆け下りてくる。
「あちらの護衛は二人の様ですね……私は、あちらの援護に回ります。こちらは任せますね」
 マヘル・ハシバス(ka0440)が、マテリアルの煌めきを踵から残しながら、街道を塞ぐ岩を飛び越えていく。
 護衛任務なので、上手くいけば戦わずに報酬を貰えたと思っていたら、ゴブリンの襲撃だ。
「ちっ、めんどくせえ! ゴブリンの分際で余計なこと考えやがって!」
 悪態ついて、彼女の後に続くのは、アーヴィン(ka3383) だ。
 ゴブリン共は、大岩を崖上から落とすという作戦を取って来た。
 崖途中で大岩が、引っ掛からなかったら、ハンター達は危険だったかもしれない。
 2人の仲間が対向馬車へ向かうのを見届けながら、小鳥遊 時雨(ka4921)が緊張した赴きで弓を構えた。
(うえぇっ!? 最初っからかなりハードなんですけどぉ)
 時雨にとって初の戦闘。痛いのは嫌だけど、死なない程度に頑張ると決意する。
「ちょっと……ゴブリン、働き過ぎじゃないですかね」
 溜め息をつきながら、白水 燈夜(ka0236)は崖から転がるように駆け下りてくるゴブリンを見据えた。
 兎に角、馬車を早く退避させる必要があるだろう。戦闘が終わるまで、御者を馬車の中に隠れてもらう様に促す。
 御者と依頼主が慌てて馬車の中に入ってきた所で、馬車の中にいた星輝 Amhran(ka0724)が胸を抑えながら、彼らを出迎えた。
(胸の傷でまともに動けぬ……が、成すが侭では黒巫女の血が廃るわ……)
 彼女は、先の依頼で、ある歪虚に剣を突き立てられ重体中である。胸の傷が疼く。
「ふむ。先ずは後顧の憂いを絶ってから、ゆっくりと料理すべきか」
 ロイド・ブラック(ka0408)が全体の戦況を確認しつつ、スタッフを構える。
 迫ってくるゴブリンだけではなく、崖上にも弓を構えたゴブリンが、矢を放ってきた。

●殲滅
「良いと言うまでは頭を出すな。でなければ命は保障できん」
 ロイドが馬車の中に退避した御者や依頼主に指示しながら、馬に直撃しそうな矢に対し、マテリアルの壁を発生させた。
 数本が馬車に突き刺さっているが、この状況では仕方ないし、馬車の中には仲間もいるので、信頼して任せる。
 今は、迫ってくるゴブリンの群れへの対処が先だ。
「大岩押してる奴らの事も放っておきは辛いかな……」
 眠りを誘う雲を燈夜は放つ。
 崖途中で引っ掛かった大岩を動かそうとしたゴブリンの何体かはパタリとその場で眠りだす。
 それを起こそうとする他のゴブリン。少しは時間が稼げたはずだ。とくにかく、ゴブリンの数が多い。
「馬車の中は、星輝よろしくっ! 負傷中だし気をつけて」
 崖を降りてくる途中で不幸にも転倒したゴブリンに向かって矢を飛ばしながら、時雨は馬車から顔を出している仲間に声をかけた。
 次の矢を引き絞りながら、ロイドと燈夜の動きをよく観察する。
(私は新米だし威力もへっぽこ。なるべく弱ってるの狙いで確実に仕留めるよんっ)
 心の中で呟く。てんぱりまくりだが、ハンターのはしくれとして、無様な姿を依頼主達に見せるわけにはいかない。
 その時、突然のマテリアルの炎がゴブリン数体を焼いた。ロイドが放った機導術である。
「この狭い山道だ。逃げ道は後方以外にあるまい。炎の壁を前にして、さぁどうする?」
 彼の言う通り、ここは狭い山道、ゴブリンにとっては炎から逃れるには降りてきた崖に逃れるしかない。
 と言っても急には止まれないし、崖を登れないので、あっけなく焼かれていく。
「道を開く。今の内に動けるかね?」
 馬車の中にいる御者に声をかける。
 だが、御者は首を横に振った。馬達はゴブリンがいる限り、落ち着いてゆっくりと後退できないと見ているようだ。
 炎から逃れた。もしくは、範囲外にいたゴブリンが展開しながら迫ってくる所に、燈夜は水の球をぶつけていく。
「無理はしないのが信条なんだけど……」
 範囲攻撃を警戒してか、広がって迫るゴブリンを捌ききれないと感じた。
 咄嗟に、馬車の戸口側へと向かう。それを時雨が援護する。彼が、馬車の中に侵入しようとするゴブリンを警戒していると分かったからだ。
 その動きはゴブリンにとっては想定外だったようで、何体かがロイドに群がっていく。
 一体がロイドに殴りにかかったが、敢えて避けなかった。そして、そのゴブリンを引っ掴む。
「灰塵と化すまで、だ」
 ロイドは、掴んだゴブリン諸共、強力な炎を扇状に放つ。
 あっという間に焼きゴブリンだ。美味しくなさそうではあるが。
 ゴブリンの一体が馬車の入口を打ち破ると、中に侵入しようとして、転んだ。星輝が用意していた罠だ。
 危うく、すっ転んだゴブリンの一撃が当たりそうだったが、スレスレで掠める。
「残念じゃったのぉ?」
 蹴落とした所を燈夜の水球の魔法が炸裂し、逃げ出そうとして崖を上がっていくゴブリンを時雨が射止めた。
「これで、こちらは終わりだね」
「ちょーっと猟撃士っぽい? ふふん。なんて、余裕かましてられないけどっ」
 2人の言った通り、一先ず、迫って来たゴブリンは壊滅した。
 馬車の中から御者が降りてきて、馬を宥めにきた。これなら、無事に後退できるだろう。

●少女と翁
 対向馬車に真っ先に到着した、マヘルは荷台に避難する様に御者に促すと、前面に立った。
「あ、ありがとうございます!」
 緑髪の少女が緊張した顔でお礼を言ってきた。実戦は始めてなのだろうか、一年前のハンターになりたての自分を思い出す。
「実践は初めてですか。無理はしないでくださいね」
 この一年で戦いに慣れてしまった為か、こんな言葉が自分から出るとは思わなかった。
 意識を切り替え、迫ってくるゴブリンに向かって、光輝く三角形を作り出す。
「数が多い……一度に3体、私に……できるの……?」
 不安に思いつつ、放った機導術は的確に3体のゴブリンを葬った。
「ちっ、戦えるのが爺さんとガキだけか!」
 アーヴィンが状況を確認にすると、馬車とゴブリンの間に立つ。猟撃士である彼は、本来、後衛なのだが、この状況では致し方ない。
 爺さんは腰が痛そうだ。少女は装備から察するに機導師なのだろうか。
「後ろから撃ってろ! 俺にだけは当てんなよ!」
「が、頑張ります!」
 元気な返事が少女から返って来た。見るからに初心者の様なので、働きは期待できないが見捨てはしないと思った。
 爺さんはともかく女子供が死ぬのを見過ごすのは目覚めが悪い。
 最前線に立ったアーヴィンは、崖上から矢を放ってくるゴブリンに向かってマテリアルを込めた矢を放ち反撃する。
 無数のマテリアルの光が広範囲に降り注いで、弓ゴブリン共を牽制した。
「効果はあるようだな」
 再度、弓矢にマテリアルを込めるアーヴィン。
 もう一撃入れてやれば、弓ゴブリン共を無力化できると見たからだ。
 地上の方は、マヘルと少女の機導術によって、確実に数が減っていた。
「どれ、嬢ちゃんに、ワシのとっておきを見せてやろうか」
 爺さんが腰を押さえながら荷台で立ち上がる。
 マテリアルが輝く三角形が4つ出現すると、それぞれの辺で重なり、三角錐となった。
 高速で回転する三角錐の各頂点から光が放たれると、残っていたゴブリンを片付けていく。
「凄い……」
 マヘルが生唾を飲み込んだ。見た事のない機導術。
「なら、私は、大岩にいるゴブリンを」
 機動術を用いて崖を登るマヘル。ゴブリンの矢を警戒していたが、それは、アーヴィンによって無力化しつつあった。
 馬車は退避を始めているが、不要だろう。
 燈夜が唱えた眠りの魔法から目を覚ましたゴブリン達は近付いてくるハンターに恐れをなし、崖を這い上がっていったからだ。

●予感
「岩に潰されてお陀仏とか勘弁」
 大岩が落ちて来ないように、大岩を簡易的ではあるが、燈夜が固定した。
 こんな大きいのが複数転がってきたら、木端微塵だっただろう。同時にそれは、この街道が使えなくなる事も意味する。
「そもそもゴブリンは、周到に待ち伏せするような頭の良い生き物だったか?」
 一緒に固定作業に取り掛かっていたアーヴィンが疑問を口にする。
 敵の動きは見事であった。大岩を転がしての奇襲が失敗と分かったら即、馬車への牽制班と大岩を動かす班に分かれた。
 まるで、誰かに指揮されているかのように。
(っま、その答えは上に行けば、なにか分かるかもしれないか)
 そう思いつつ、崖上を見上げる。そこには、ロイドとマヘルの姿があった。

「さて、だ……既に、逃げ去ったか……」
 崖上でロイドは辺りを見回した。
 大岩から逃げ上がってきたゴブリン共の姿はそこにはなかった。
「ロイドさん、これを」
「これは……」
 2人が見つけたものは、ラプターの足跡だった。
 それも、ゴブリンが駆るサイズの物ではない。明らか大型のラプターの物だった。

 緑髪の少女に時雨が話しかける。
「しんどかったぁ~。いやー、お互いお疲れ様っ! 私は時雨だよん、貴女たちは?」
「はい。ご助力ありがとうございます。ノゾミと申します」
 丁寧に頭を下げる少女。
「初めての戦いで、もう、どうしていいかと」
「へぇ、新米さんかー。という事は、私と同じだ!」
 時雨は爽やかな笑顔を向ける。キョトンとしていたノゾミと一瞬の間の後、お互い声をあげて笑った。

 その笑い声は、馬車の中で蹲っていた星輝にも聞こえた。
 笑い声に聞き覚えがあり、馬車から顔を出して声の主を確かめる。
「お? ……おぉ!? 希かの?」
 青黒いドレス姿であり、腕にはアルケミストデバイスが埋め込んである篭手を装着しているが、間違いなく、ノゾミであった。
 少女も星輝の事を覚えていたようで、驚きの声を上げたのであった。

●邂逅
 ハンター達が全員集まった所で、少女はハンター達に名乗った。
「改めまして、皆様。ノゾミと申します。この度はありがとうございました」
「雰囲気も変わって見違えたのぅ?」
 星輝のそんな感想。
 半年前、王都近くの森で出会った頃とは大違いである。
「きっと、服装が違うだけです。ゴブリンが出るかもと、護衛のお仕事の為に、オキナが用意してくれたので」
 そのオキナは、馬車同士の譲り合い交渉の方にいる。
「そういえば、私が始めて戦った相手もゴブリンでしたね」
「マヘル様もそうなのですか!?」
 ノゾミが瞳を輝かせる。
 少女にとっては、間近で見る同じ機導師の戦いぶりだっただろう。
「こちらの馬車には、私も含めて、オキナと2人でしたから、最初はどうなるかと思って、怖かったです」
「護衛の費用はケチるもんじゃねえな。ここはいつもこんな風……ってわけじゃねえか、ケチるぐらいだからよ」
 アーヴィンの推測通りではある。ゴブリンの出没は最近になってから顕著になってきた様子だからだ。
「確かに王国北部での依頼が多かった気もします」
 ロイドがハンターオフィスに並べられたゴブリン討伐の依頼を思い出した。
「なにかが起きているという事かな」
 眠たそうに燈夜が思った事を口にした。
 ただ、それが、なにかまでは、誰も答えがでない事ではあった。
「ところで、ノゾミよ、まだ、あやつと一緒におるのか」
 星輝の言葉にノゾミよりも、周囲のハンターが首を傾げた。
 その状況を見て、緑髪の少女はニッコリと微笑んだ。
「私は、あの方と一緒に添い遂げられればいいのです。例え、今、離ればなれでも」
 恋する乙女とはこういう子を差すのかと分かりやすい程の反応。
「わぁ! 愛だねぇ~」
 事情を知らない時雨が手を合わせて驚く。
 遠距離恋愛なのかなと少女の台詞から勝手に思う。
「ノゾミや、名前の字はなんと書くか覚えておるか? 希望の希じゃ。どういう思いで付けて貰うたか、よう考えてみいよ? 今のままで良いのか……奴が何を成そうとしておるのか。の? 征く道は、熟考せよ?」
 心配する星輝の言葉。
「……私は今、希望の中で生きています。そして、それは、これからもです」
 その時、対向馬車の方から爺さんの声が響いた。
 ノゾミを呼んでいるようだ。少女は手を挙げて答えると、一行に再び深く頭を下げた。
「それでは、皆さん、失礼します」
 ふわふわゆるゆるの緑髪が楽しそうに踊る。
「また、どこかで会えるといいですね」
「縁があればまたよろしくねん?」
 マヘルと時雨の言葉に笑顔で返し、少女は乗っていた馬車へと向かっていった。
 入れ替わりに爺さんがやってきた。顔は笑っているのだが、その眼光は鋭い。
「ハンターの諸君、援護感謝する」
 腰の方は……大丈夫なのか、そうじゃないのかイマイチよくわからない。
「ワシの事はオキナとでも呼んでくれ。君らの名前を伺っても良いかの?」
 一行はそれぞれ名乗ると、オキナはそれをメモに残していた。
 歳のせいかすぐに忘れるからのと苦笑を浮かべる。
「オキナさんの、とっておき、凄かったです」
「爺さん、腰には気をつけろや」
 マヘルがゴブリンとの戦闘を思い出しながら声をかけ、アーヴィンは腰を差しながら忠告する。
 というか、腰が大丈夫だったら、ゴブリンの群れをオキナ一人で解決していただろう。
「それほどの機導術ですか……とても、興味がありますね」
 眼鏡に手を触れながら機導師であるロイドの台詞。
 オキナは彼を一瞥して、ニヤッと笑った。
「君は、ロイド君じゃったかな。鍛錬を忘れなければ、君はすぐにワシを越えられるじゃろう」
 アドバイスのつもりなのだろうか。どことなく嬉しそうなオキナである。
「ノゾミは、オキナの弟子?」
「まぁ……ワシが教育を頼まれているという所かの」
 時雨の質問に爺さんは首を振って答えた。
「オキナよ、あの子はネルベルという毒に侵され、床の中で甘美な夢を見ながら死を待つ病人に見えてならぬ」
 星輝の言葉にオキナは驚いた。
 主の名がこんな所で出てくるとは思っていなかったからだ。言葉を慎重に選びながらオキナは答えた。
「あの子が病人だとして、ワシにできる事は病と闘う事ができる力を身につけてやる事だけじゃ」
 お互いの馬車から集合の合図がかかる。出発する時間なのだろう。
 オキナは全員をしっかりと見まわした後、姿勢を正して深く頭を下げた。
「逢ったばかりの君らに言う事ではないかもしれんが、嬢ちゃんはいずれどこかで、窮地に陥る。ワシは助ける事ができんかもしれん。その時は、よろしく頼む」
 そして、腰が痛かったのかというような足取りで馬車へと向かって行った。


「教えて貰ってもいい?」
 馬車の中に戻った一行。燈夜の問いかけは星輝に向けられていた。
 内容は言わずとも全員が分かっていた。
 ノゾミと、オキナ、そして、ネル・ベルという名の人物とその関係について。
「わかったのじゃ。長いが時間はあるからの」
 去りゆく対向馬車をみつめながら、星輝は答える。
 胸の痛みが、チクチクと疼いたのであった。


 おしまい。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 13
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラックka0408

  • アーヴィンka3383

重体一覧

参加者一覧

  • お茶会の魔法使い
    白水 燈夜(ka0236
    人間(蒼)|21才|男性|魔術師
  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラック(ka0408
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 憧れのお姉さん
    マヘル・ハシバス(ka0440
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士

  • アーヴィン(ka3383
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士

  • 小鳥遊 時雨(ka4921
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アーヴィン(ka3383
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/05/19 16:32:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/15 23:49:28