• 不動

【不動】大首長選~頂の道

マスター:有坂参八

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/20 19:00
完成日
2015/06/29 20:33

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


数多の代償を払いながらも歪虚ガエル・ソトとヤクシーは討たれ、辺境…赤き大地の諸部族はついに、悲願たる聖地奪還を果たした。
聖地リタ・ティトの大霊堂に集った諸部族の重鎮達は、これまでと、これからの事を語り合う。
未来と、過去の事を。

「部族会議を、やりなおそう。このままじゃ、きっと、ダメなんだ」
 開口一番、スコール族の長ファリフ・スコール(kz0009)は、決意の宿る瞳で言い放った。
「ほう」と、嬉しそうに見守るのは、老戦士シバ(kz0048)。
 その隣には、聖地を守り続けた巫女達を束ねる、大巫女が座している。
「どうかね、蛇の爺さんや」
 大巫女の問は、ほんの少し芝居がかっている。対するシバの答えもまた、然り。
「そうさの、スコールの長は正しい。儂ら老いぼれに反対する道理もあるまい。あとは……部族を束ねる首長達が決める事。違うか?」
 老人達の深く静かな視線が、もう一人の『首長』へと無く。
 バタルトゥ=オイマト(kz0023)。一度は帝国への恭順を唱えたオイマト族の長は、かすかな沈黙の後に答えた。
「……ファリフに、賛成する」
「バタルトゥさん……!」
 ファリフが、目を丸くする。彼女にとって、予想外の回答だったから。
 バタルトゥは何かしら言葉を秘めているようだったが、この場で語る事はなかった。
「では、決まりじゃな」
 最有力部族であるファリフとバタルトゥを中心に、シバと大巫女が相談役となって、彼らは今後の方針を決めた。
 その結果は、こうだ。

『辺境部族は民族の門を開き、あらゆる異邦の友との協力関係を模索する。
 しかし、あくまで民族として自立する道を追求し、いかなる国家にも従属はしない。
 その為に部族間の意志を協議・共有する場として、部族会議を再設置する』

 ……既に部族会議は、以前の心揃わぬ烏合の衆とは違っている。
 戦いの中で答えを模索して来た彼らが、共有できる目標を見出すのに時間はかからなかった。
「あとは……頭が必要じゃな。部族を、赤き大地の子を束ねる、『大首長』が」
「大首長……?」
 シバの発言に、ファリフは首をかしげる。
 一方のバタルトゥは、終始冷静だった。
「……いわば、議長、か。帝国や王国、同盟の長と肩を並べる……代表者……」
「おお、聡いなオイマトの長。よいぞ、よいぞ」
「どのように、決める?」
 老人の薄笑いを軽く流しながら、バタルトゥは問う。
 シバは地図を広げ……予想外の回答を、口にした。


「まさか、競争で決めるなんて……」
 会議が終わった後、青空の下でファリフは一人、はふー…と、重くはない溜息を吐いた。
 『部族会議の大首長は、二大有力部族であるオイマトとスコール、二者の競争を以って決定する』
 それが、シバの語った大首長の選出方法だった。
 いまになって変化の兆しを見せるとはいえ、赤き大地の子はやはり、自然に生きる戦士の子。
 ならば力をもってその資格を証明するが、最も正統な選出法であろうと。
「スヴァルナ山かぁ。どっちの道でも、まる一日くらいかかりそう」
 渡された地図を広げ、見つめる。
 聖地リタ・ティトの北にある、スヴァルナ山……それが、競争の目標だった。
 山頂にある祠へ先に辿り着き、簡易的な浄化の祈祷を行った者が、部族会議の初代大首長となる。
 祠へ至る道は、楽だが遠い西回りの道と、険しいが近い東回りの道の、二つ。
 籤を引いた結果、ファリフは西回りの道を行く事になっていた。必然的に、バタルトゥは東回りとなる。
 どちらにせよ、安全と言い切れる道ではない。
 聖地を奪還し怠惰の戦線を押し戻したとはいえ、歪虚に鉢合わす可能性も十分あるだろう。
「…………勝てるかな」
 直接手合わせしたことはないが、バタルトゥは十中八九、ファリフよりも格上の戦士だ。
 先の戦いでは感情に負けて失策を犯すこともあったが、本来の実力は赤き大地の戦士に名を連ねて、なお屈指の筈。
 それに……
「ハンターの皆は、バタルトゥさんに手を貸すかも……」
 ぎゅっと、拳を握るファリフ。
 競争にあたって、シバはもうひとつ、二人の族長に条件を出していた。
 即ち『競争には、各々が星の友を伴う事』。
 その意図する所は、シバは語らなかった。自分で考えろという事だろう。
「うーん」
 珍しく、ファリフは首をひねる。
 部族の戦士でなく、あえて『星の友』達と共に勝負に望む、その意味とは。
 しかし……しばらくしてふと、ファリフは目をぱっと見開き、おもむろに立ち上がった。
「やめた! 考えてもしょうがないっ!」
 ファリフは未熟だ……未熟だが、ただひたむきに、一生懸命に行動してきた。
 それは地を駆ける獣達が、その時己の為すべき事を、迷うことなく為すかの様に。
 そしてその事が自分の唯一にして最大の強みであると、幼き首長は本能的に理解していた。
「ハンターズソサエティに行こう。きっと……きっと、誰かがいるはず」
 誰かが、力を貸してくれるはず。ハンターが。白龍の示した……いや、互いに認め合った『星の友』が。
 辺境の運命を左右する重大な勝負を前に、少女の足取りは軽かった。

リプレイ本文

 星の友たるハンターを待っていたファリフは両手を広げて迎え入れた。
「待っていたよ。来てくれてありがとう」
 まだ日は地平線を昇っていなく、暗がりの中で笑顔を見せるのは星の友と見定めたハンターだからだろうか。
 大首長選という大舞台に呑気で構える様子が見えないファリフに緊張の色が見えた。
「バタルトゥの方も気になるだろうが、実際は自分との戦い、バタルトゥは敵ではなく、今後、手を取り合って部族を纏める仲間となる。もし彼らが危機に陥っているなら、見捨てず救援に向かうのもいい、勝負よりも人命が大事だからな」
 ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)の言葉にファリフは緊張した表情を少し緩ませた。
 東の空が暁色に染まっていくと、まだ幼さの残る彼女の細い肩が暁色に染まってゆく。
「この勝負、勝ち負けに拘るより、いかに僕達が協力して祠に着く事が出来るか……それが大事だと思います!」
 三日月 壱(ka0244)の言葉通り、このレースに勝てば、ファリフは辺境部族のトップ……大首長となる。幾人もの命が彼女の肩にかかる事になる。
「競走中どうするか迷う場面もあると思う。決断前ならいいけど、一度決断したら絶対迷わないでね」
 天竜寺 詩(ka0396)の言葉にファリフは共に進むハンター達の姿を見やり、彼女はしっかりと頷いた。
「円陣を組みましょう」
 そう言ったのはエアルドフリス(ka1856)。
「えん……じん??」
「肩を組んで一致団結の気合を入れるんだ」
 首を傾げるファリフとルシオ・セレステ(ka0673)にキヅカ・リク(ka0038)が簡単に説明をした。
「賛成!」
 自分もやると言ったジュード・エアハート(ka0410)が声を上げると、他のハンターも名乗りを上げてきたので、有志で円陣を組んだ。
「なんだか、温かいね」
 円陣を組んでいる際、ファリフが呟く。
「皆となら大丈夫な気がする。よろしくねっ」
 ファリフの気持ちが高揚するように声音が明るい。
 ハンター達は「応」と気合いの声をあげると、日が地平線から上がってきた。
「参りましょうか」
 フレイア(ka4777)が東の空を見つめて声をかける。
 朝日が昇り、始まりを伝えた。


 朝を告げる小鳥達がさえずる中、ファリフ達は出発する。
 まず動き出したのは偵察A班。
 その後から直衛班とファリフ、他の班が動き出す。
 怠惰の部下や雑魔が出にくい楽な道とはいえ、その道はオイマト達が向かう道のほぼ倍。
 急がなくてはならないし、戦闘にとられる時間がないとはいえないのだ。
 まだ雑魔や怠惰の部下の姿はなく、道は走りやすい道である。
「今の所は大丈夫なようですね」
 周囲を見回り、上泉 澪(ka0518)がA班に声をかけた。
 エイルが道から少し外れた茂みを掻き分けると、雑魔ではない兎がびっくりする。
「あ、ごめんね」
 兎に謝ったエイルが仲間を見やって「異常なし」と告げた。
「聞こえますか?」
 トランシーバーを口元に向けて麗奈 三春(ka4744)が声をかける。
「今の所は敵の姿はないぞ。おう、向かってくれ」
 通信機器を使って三春やリュー・グランフェスト(ka2419)が様子を他の班へそれぞれ伝える。

 A班より連絡を受けた他の班が動き出す。
 歩くというよりも、速度を落とした駆け足で移動していた。
 天気は晴れており、雲のくっきりとした色合いが夏に向かっている事を伝える。
「風も特に無しですね」
 ルシオがファリフに言えば、彼女はルシオの言葉に同意する。
「ほんと、いい天気だね」
 ファリフの隣で走っていた弓月・小太(ka4679)に話しかけると、彼は目を見開いた。
「え、あっ、そ、そうですね!」
 おどおどする小太にファリフは「緊張してたら疲れちゃうよ」と笑う。
 試練を課せられているファリフにリラックスしてもらえるようにとしていたのに、これでは逆だとばかりに小太は目を丸くする。
「さ、A班が見えてきたよ」
 そんなやりとりを見ていたリクが口元に笑みを浮かべて声をかけた。

 次を走るのは偵察B班だ。
 日はもう地平線から上がっており、天辺を目指して上がろうとしている。
 通常の生活であれば、この時間は朝食を食べ終える頃だ。
「軽く食べよう」
 偵察の最中であるが、オキクルミ(ka1947)が提案する。
 程ほどに腹を満たす事は大事である。
「そうだな」
 彼女の提案にルトガーが頷き、レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)へと視線を向けると、トランシーバーを使って偵察結果を他の班へ伝えていた。
「この辺はまだ出てこないな」
 首を横に振ってバルバロス(ka2119)が周囲を確認する。
「そのようだ。レホス、報告は終わったか?」
 ルトガーが通信を終了しただろうレホス声をかけるとルトガーへ顔を向ける。
「他の班もまだ敵の襲撃は受けてないと言ってたよ」
「それはよかった。本隊と合流する前に少し腹に入れた方がいい」
 レホスの報告にルトガーとバルバロスが安堵を含めたように頷いた。
「お疲れさまです、少し休みましょう」
 壱がレホスに水筒を渡す。とレホスもお疲れと声をかけて水を飲む。
「今日は、暑くなりそうだね」
 気温の上昇か、体温の上昇か詩が顔を上げて呟いた。
 合流する前に持ってきた食料をB班で少しずつ食べて空腹を埋めていく。

 先行班よりトランシーバーや魔導短伝話を使って情報は得たものの、更に実際に会って会話を通じて情報を得ているのはシリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820)。
「足跡は発見されていたのか」
 三春から話を聞き、シリルが唸る。
「後方から追ってくる可能性がありますね」
 直衛班のエアルドフリスが懸念の声を上げると、二人は頷く。
「進まねぇと事は終わらないさ。まずはこれまで通り、警戒を怠らない事だな」
 ジャンク(ka4072)の言葉はもっともであり、三人が頷いた。
「ここから先は更に見通しがよさそうです」
 Han=Bee(ka4743)が先を見やれば、C班は動き出す。
 太陽が昇っていくと同時に気温も上昇している。
 遠見の眼鏡をかけたジャンクはレンズを調節して視界を広げて警戒をしていた。
「何か見えたか?」
 ジャンクとは反対方向の警戒を行っているHan=Beeは一拍おいて「見えました」と答えた。
「ただ、今の所、こちらに気づいているような様子は見て取れませんでした。距離からして見つかれば、本隊と鉢合わせる可能性があります」
「数は?」
 トランシーバーの周波数を整えつつ、日紫喜 嘉雅都(ka4222)がHan=Beeに問いかける。
「数は四体、狼の雑魔が三体とトロルが一体」
「狼は射撃で倒すことは可能ですが、トロルに見つかるのは難しいですね……」
 顔を顰めるにHan=BeeにC班の皆が一度、口を閉じた。

 C班の嘉雅都より報告を受けた他の班はファリフの意見を待つことにした。
「どうしますか」
 白神 霧華(ka0915)の言葉にファリフは少し戸惑った様子を見せる。
「君はこのチームの長だから」
 そう言ったのはルシオだ。
「最後まで無事に指揮を取る責任はあるのだよ」
 静かにファリフに告げる言葉は突き刺さるものであったが、瞳は穏やかであった。
 トロルは巨体でもあり、中々に強敵だ。この人数で協力し合えば難なく倒せる事はわかっている。トロルだけなら逃げ切れるかもしれないが、他の怠惰の敵に見つかれば、より多くの足止めをくらう事になるだろう。
 そして、誰かが傷つく可能性があるとファリフは思案をめぐらせる。
「ファリフ様」
 悩むファリフにエアルドフリスが声をかけた。
「大首長となるのはファリフ様かバタルトゥ様です。ですが、我々に任せてもいいこともあります」
「星の友を、皆を見捨てるなんて出来ないよ」
 迷いの目をしたファリフは目を閉じて呟く。
「ボクはファリフさんのことを手伝いたいと思ってる。友達だから支えたいと思うし、頼っていいんだよ」
 レホスが声を上げると、瞑っていたファリフの目がひらき、彼女の方を見るとレホスは穏やかに微笑んでいた。
「決断するのはファリフさんだけど、君だけが戦ってるんじゃない。ハンターは強いよ」
 更にジュードが言えば、ファリフは真直ぐハンター達を見た。
「発見したC班は狙撃で狼を倒してほしい。B班は先に行ってC班と合流してトロルの撃破。ボクたちがそこを通り越すまで時間を稼いでほしい。D班は戦闘から逃げて先に進んで偵察をしてほしい。A班は直衛班と同行」
 ファリフの言葉にフレイアは微笑んで三春に通達を願う。

 嘉雅都のトランシーバーから応答の声が聞こえ、彼は指示に応じた。
「本隊はなんと……?」
 シリルの問いに嘉雅都は静かに答える。
「迎撃です。これから急ぎでB班が来ますので、それまでに遠射で狼を仕留めてほしいとのこと。これはファリフの指示です」
 嘉雅都が言えば、にやりと笑うのはジャンクだった。
「ファリフにそう言われちゃぁ、しょうがねぇ。おじさん、頑張っちゃおうか」
「B班がある程度来るまで待機ですよ」
 シビアにジャンクへ釘を刺す嘉雅都にHan=Beeとシリルが口元を緩ませる。
「狙撃出来る間合まで進みましょう」
 Han=Beeが言えばC班は敵を狙撃出来るポイントまで動く事にした。

 先を駆けるのはD班とB班。
「おったぞ」
 紅薔薇がC班の姿を見つけた。
 とはいえ、距離はまだ先。
「こちらの距離では敵の姿は見えませんわ」
 メリル・E・ベッドフォード(ka2399)が双眼鏡を覗いて向こうを見やる。
「それなら好機だ。D班は先を急いで偵察を頼む」
 ルトガーが言えば、D班のメンバーは頷いた。
「D班が抜けるには狼の機動力を逸らす事が先決だな。遠射で先に倒すかこちらへ向けるのがいいだろう」
 更にバルバロスが言えば、ガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)が「何卒宜しくお願いします」とB班へ目礼をする。
 そろそろD班と分かれる頃にオキクルミがD班を送り出す。
「気をつけてね!」
 オキクルミの言葉に「御無事で」とレイ・T・ベッドフォード(ka2398)が声をかける。
 D班を見送ると、B班のメンバーの肉眼からC班の誰がというのが判別できてきた。
 同時期、C班の面々も応援のB班の姿に気づく。
「来たな」
 シリルが言えば、ジャンクと嘉雅都が狙撃体勢に入る。
「狼は三体だったな。手伝おう」
「お願いします」
 ルトガーの言葉に嘉雅都が感謝の言葉を告げる。
 目的の敵は見えており。敵からもハンター達の姿は見えているのだが、まだハンターの姿に気づいてはいないようであった。
「さっさと仕留めるのがいいね」
 銃を構えるジャンクだが、バルバロスに声をかける。
「この身体で射撃だから、さ」
「致し方ないな」
 バルバロスが胡坐をかくと、「悪いな」と屈託なく笑みを浮かべてバルバロスの肩に銃を載せて安定させる。
 先に集中したのはルトガーとジャンク。彼らの持つ銃が一番射程距離が長い。
 他のハンター達は射撃手達が集中出来るように警戒をしていた。
 まず、引き金を引いたのはルトガーであった。
 射程距離内で撃ち出された弾丸は引き寄せられるように一匹の狼の胴体へめり込み、衝撃で横へ吹き飛ばされる。
 前を走っていた仲間が吹き飛ばされた姿を見て、その原因を見つけようと視線をめぐらす狼の目に銃弾が突き抜けた。
 最後の一匹がハンター達に気づき、狼は一気に駆け出す。
 より近くなった際、狼は他の人間達……ファリフ達本隊に気づいたようだった。
 足をどちらに向けようか悩んだ狼だったが、時間を与えられることなく嘉雅都が撃った弾丸の前に倒れるしかない。
「さぁこい!」
 壱のブロウビートに反応したトロルがハンター達めがけて歩き出す。
 巨体であるがゆえ、歩けば地鳴りのようだ。
 ジャンクに肩を貸していたバルバロスが立ち上がり、猛然とトロルへと向かう。
 シリルやレホスはトロルがファリフ達へ興味を向けないように威嚇射撃を行った。ファリフ達は迎撃するC班B班を気遣うように声を立てずに先を行く。
「ぬぅん!」
 バルバロスとトロルが互いの獲物を撃ち合わせて力比べをする。壱の声で挑発となってしまったのか、トロルの力が重たく感じた。
 姿勢を低く構え、素早くトロルの背後に回り込んだのはHan=Beeだ。迷うことなくトロルの膝裏を狙って自身の体重を乗せて回転するように剣を薙ぐ。
 更に詩がトロルのもう片方の足にウィップを巻きつけて動きを阻害する。
 動きが止まったのを見計らい、オキクルミがトロルの腰へ斧を叩き付けた。痛みに身体をひねるトロルにハンター達の一撃が入った。

 現時点で一行の中で先を走っているのはD班だ。
「やれやれ、ランチも落ち着いて取れぬとはのう」
「走りながら食べるランチが一日あってもいいと思うよ」
 ため息交じりの紅薔薇(ka4766)にジュードがパンの欠片を口の中へ入れる。
「敵の姿は?」
 ガーベラが尋ねたのは妹のメリルだが、彼女の状態は心ここにあらず。
「いえ、今の所は」
 メリルが気にしているのは後方の戦闘だろうか。
「彼女を護る人はいます。私達もまた、それに該当します。傍にいることがなくても、護る事はありますよ」
 ファリフを心配するメリルにガーベラはため息混じりに諭すと、メリルは頷いた。
 とはいえ、メリルの気分が落ちているのは事実、班の士気が落ちるのはよくない。上げるにはやはり、食べ物であろう。
「レイ、あの辺りに茂みがあるわ。果物を見つけてきて頂戴」
 ガーベラが指で示す方向へレイが駆け出した。
 迷うことなくレイは茂みの中へ入り、果物を探しに行くが、茂みの向こうからレイの叫び声が聞こえ出す。
「あら、何かいたのかしら」
「いいのか……」
 しれっと呟くガーベラに紅薔薇がツッコミをいれる。
「多分……大丈夫でしょう」
 メリルが応えるも紅薔薇の耳にもレイの驚く声は聞こえていた。
 ガーベラはそのまま警戒へと意識を向けている。
 現状、敵の姿はなかった。


 トロルと戦うB班、C班を背にして先を進むファリフの表情は険しかった。
 心配するファリフに声をかけたのは小太。
「だ、大丈夫ですっ! ハンターは弱くなんかありませんっ!」
「うん、何度も一緒に戦ってるからわかるけど……」
 知っているのだ。ハンターの強さを。
 それでも、任せるという事に抵抗してしまった。
「ファリフさんはどんな大首長になりたい?」
 問うのはエイル・メヌエット(ka2807)だ。
「え……」
 顔を上げるファリフに前を歩くリューが振り向く。
「何かしらのヴィジョンがあるんじゃねぇの?」
「ヴィジョン……」
 呟くファリフの言葉に他のハンター達も彼女へと視線を向ける。
「この競争で何か見えることがあるかもしれないぜ」
 リューが言えば、ファリフは目を瞬く。
「来ましたよ」
 澪がファリフを促せば、後ろからB班C班が駆けて来た。
「お待たせ!」
「よかったよ……無事で……」
 オキクルミの言葉にファリフは無事であった事を安堵して喜ぶ。
「僕達はそう簡単にはやられません!」
 壱が言えば、ファリフの動きはかたまってしまう。
「ファリフ?」
 紅薔薇が尋ねると「そうだよね……」とファリフが呟いた。
「星の友だもんね……行こう。向こうにD班が待ってる!」
 笑顔となったファリフが一気に駆け出してハンター達が後を追う。
「ちょ、ファリフさん、危ないですよ!」
 慌てて追いかける直衛班にお構いなしでファリフは走る。
 フレイアがトランシーバーでD班に迎えを頼む。
 通信中のD班もファリフが独走していることに気づき、ジュードが駆け出した。
「ファリフ様、落ち着いてください。果物は如何でス」
 D班と合流し、メリルが言えば、ファリフは早く向かいたくて落ち着かない様子。
「大人しく待ってて」
 そう言ってA班が偵察へ赴く。

 ファリフを他の班に任せて再びA班が偵察へ飛び出した。
「よっと」
 近くに木を見つけたリューはウィップを木の枝に巻きつけてる。しっかりと巻きついた事を確認すると、軽やかに登りだしてウィップの先を回収して更に昇っていく。
 双眼鏡で確認すると、行く先で敵の姿が見える。
 取り出した電話の相手は本体。
 相手は見えるだけで八体ほど。オーガとトロルの姿もあった。
 通話している本隊の方ではファリフの指示を待っている。
「後方、左から影が……!」
 三春の声が下から聞こえてきたので、リューは言葉通りに向けば、本隊の更に後ろから雑魔の群が向かってきている。
 伝話の向こうのファリフは突き進む案を出した。
 かなりスムーズに行ってるとはいえ、バタルトゥ達もまた急いで先を進んでいることだろう。
『後方から来る雑魔は基本的には無視して、前を進もう! バタルトゥさんも進んでいるだろうし!』
 伝話の向こうからファリフの元気な声が聞こえてくる。
「直衛班はファリフを宜しく」
『わかりました!』
 伝話の向こうでファリフがやる気を出しているのがわかる。
 時間も時間であり、急がないとならない。やる気出しすぎのファリフを落ち着かせなくてはならないと感じたリューは即、木から降りた。

 ファリフの方はといえば、やる事が決まり、あとは祠へ一直線だと思っているようで、皆を急かし速く走ろうとしている。
「落ち着いてください」
 フレイアがファリフの前に回りこんで彼女を宥める。
「でも、早く行かなきゃっ」
「参りますよ、覚醒するのももう少し後でお願いします。先ほど連絡があった敵を倒した後で覚醒しますから」
 フレイアの言葉にファリフは「はい」と少ししょんぼりした様子で承諾をした。
「道中は盾役となります。覚醒するときが着ましたら力を解放してください」
 霧華の言葉にファリフは頷いた。
「じゃぁ、行くとするか」
 リクの言葉に全員が頷いた。

 本隊が駆け足で向かっていく。
 A班とも合流し、歪虚の群へと駆けていった。
「射撃が出来る人は、先を走って!」
 ファリフが声をあげると、射撃武器を持っているハンターが先を走る。
「狙いは?」
「足が速そうな雑魔の足止めお願い!」
 嘉雅都の問いにファリフは間髪いれずに答えた。
「承った」
 ルトガーがそう答えて先を走る。
 ちらりと、ジュードがエアルドフリスの方へ目配せをした。彼の視線が何と言わんとしているのか理解し、彼は頷いた。
 遠距離射撃が可能な者達が先に引き金を引く。
 放たれた銃弾は前を走る狼や鹿の雑魔が弾丸の衝撃に耐え切れなく、ようにその場へ崩れ落ちる。
 銃弾を受けなかった雑魔はハンター達の姿を認識したのか、銃弾が発射された方向へ向かってきた。
 拳銃の類を所持している中距離射撃攻撃が出来るハンター達が引き金や投射攻撃を雑魔たちへと向ける。
「さぁ、行って!」
 レホスが銃を構えてファリフへ叫ぶ。
「無事に到着してね……!」
 真っ向から言われたファリフは「わかったよ」と返した。
「さぁ、参ります!」
 シールドを構えた霧華が戦闘となって直衛班が駆け出す。
 ハンター達の攻撃に当たった手負いの狼が霧華目掛けて飛び掛るも、頭がき飛ばされてしまう。
「進むがよいのじゃ」
 紅薔薇の言葉に霧華はしっかり頷く。
 ステッキを掲げてフレイアが発動させたのはアースウォール。
 砂の壁を歪虚の前に出現させる。
 脆い砂の壁ではあるがファリフが抜けられれば十分な代物。
 巨体のオーガが砂の壁を壊そうとしてボロボロと砂がファリフ達の頭上に落ちてくる。
「もう少しで抜けます」
 トロルの前に立ちはだかった澪が走り抜けるファリフに声をかけると、彼女は大太刀を抜き放ち、歪虚へと向けた。
「悔い、なきように……」
 澪はファリフの言葉を待たず、間合をつめ、祖霊の力を武器に込める。マテリアルの流れを感じつつ、澪が大太刀を振り上げると、トロルが棍棒を振り下ろそうとしていた。
 それよりも速く動いた澪の太刀がトロルの腹を切り裂く。
 澪の後姿を見たファリフだが、彼女の言葉を裏切らないように駆けるも、オーガが道を塞ぐ。
 瞬間、火球がオーガの顔を目掛けて飛び込んできた。
「この道は只の道じゃあないんだ。邪魔せんで頂こうか……っ」
 エアルドフリスが顔を燃やされて悶えるオーガへと厳しく告げ、ファリフを促し、前へと走っていく。
 悶えるオーガより降りかかる火の粉をファリフから守ったのはレイのシールド。
 更にガーベラが魔導銃の火力でオーガを吹き飛ばした。
 ファリフの背後を取ろうとした鹿の雑魔を確認したリクが至近距離で銃を鹿の頭へ打ち込む。
「もう少しで抜ける。そのあと、覚醒して走り抜けるよ」
 リクの言葉にファリフは駆け出すことで応える。
 先頭では霧華がシールドを使って敵の攻撃がファリフに来ないように耐えていた。
 ふと、シールドから伝わる衝撃が軽くなったことに霧華が気づく。
「大丈夫ですか!」
 小太が応戦してくれていたようだった。
「はい」
「もう少しだよ!」
 ファリフが叫び、跳躍して飛び込む狼へ斧を叩き込む。
 敵の群を抜けた時、目的の場所は近く、一時間くらいで行けるだろう。

「さぁ、覚醒して一気に……!」

 誰かが叫ぶと、ファリフと共に動ける者は次々に覚醒を始める。
 道中に雑魔の姿があったが、覚醒したハンターの前に蹴散らかされていった。

「バタルトゥ……さん」
 目的の場所に着いたファリフが見たのはバタルトゥと彼についたハンター達。
 少し先に彼らが到着していた。
「ファリフ様……」
 メリルが遠慮がちに言えば、ファリフは空色の瞳を伏せて一つ深呼吸した。
 顔を上げたファリフはいつもより瞳の輝きが増したようにも思える。
「負けを認めるよ。けど、星の友であるハンターの皆にあんなに頑張ってもらったのに申し訳ない……」
 最後はハンターへの気遣いでしゅんとしてしまうファリフだが、リクが微笑む。
「僕は直ぐ隣りにいて笑い合えるそんな存在で……仲間でありたい。君の中に悔いが残っていなければそれでいい」
「そうですね」
 詩もリクの言葉に頷く。
「今回は残念な結果になったが、目指す道は見えたのかい?」
 ジャンクが言えばファリフは頷いた。
 彼女の視界には後から追ってきただろう、自分を支えてくれたハンター達の姿が見えてきた。
「ボクはやっぱり、今までどおりに帝国の帰順は反対だ。従うんじゃなくて、対等になりたい」
 ファリフは一度言葉を途切れさせて更に言葉を紡ぐ。
「確かに、辺境は歪虚の脅威から逃れられていないし、帝国の力は必要だと……思う……本当は、認めたくないけど」
 唇をかみ締めるファリフだが、拳を握り締めてハンター達を空色の瞳が見据える。
「それでも、辺境は辺境のままで戦いたい。スコール族を、辺境の皆を護る為に戦いたい! ボクはまだ経験が足りないから、もっと強くならなきゃいけない!」
 ファリフの熱の篭もった言葉のあと、彼女はそっと息をつく。
「その時は皆、また力を貸してほしい」
「勿論です」
 レホスが言えば、ファリフは「ありがとう」と返した。
「負けたとはいえ、見事な心構えじゃ」
 にっこりと紅薔薇が微笑み、ファリフの言葉を称える。
「ファリフはよく頑張ったよ。皆、ファリフを胴上げしよう」
「胴上げ?」
「リアルブルーでは、祝福や感謝を称えてするのですよっ」
 小太がファリフの問いに答えると、彼女は「ボク負けたよ!?」と叫ぶ。
「よく出来ましたので、よいかと」
 くすっと、Han=Beeが微笑む。
「よし、いくぞ!」
 ハンター達の号令でファリフが宙を舞う。
 皆の思いと共に宙を舞ったファリフは夕日が視界一杯に入ってきて、少しだけ目を潤ませた。
 悔しいわけじゃない。
 バタルトゥとの勝負は僅差であった事実を踏まえ、また一歩ずつ踏み出そうとファリフは思う。



「よいか、ファリフ」
 大巫女の言葉にファリフは頷いた。
 後日、シバと大巫女の審議の後、オイマト族長バタルトゥ・オイマトが大首長となった。
 大首長となれなかったファリフであるが、彼女の表情は晴れやかなもの。

 神殿を出たファリフは一つ伸びをする。
「ボクに出来る事をしよう」
 そう言って、ファリフは駆け出した。

(代筆:鷹羽柊架)

依頼結果

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参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • あざといショタあざとい
    三日月 壱(ka0244
    人間(蒼)|14才|男性|霊闘士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 理由のその先へ
    レホス・エテルノ・リベルター(ka0498
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

  • 上泉 澪(ka0518
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士
  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • 不屈の鬼神
    白神 霧華(ka0915
    人間(蒼)|17才|女性|闘狩人
  • クラシカルライダー
    ルトガー・レイヴンルフト(ka1847
    人間(紅)|50才|男性|機導師
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 答の継承者
    オキクルミ(ka1947
    エルフ|16才|女性|霊闘士
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 闊叡の蒼星
    メリル・E・ベッドフォード(ka2399
    人間(紅)|23才|女性|魔術師

  • ガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401
    人間(紅)|28才|女性|聖導士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • 的確な分析
    シリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820
    人間(蒼)|25才|男性|聖導士
  • 明敏の矛
    ジャンク(ka4072
    人間(紅)|53才|男性|猟撃士

  • 日紫喜 嘉雅都(ka4222
    人間(蒼)|17才|男性|機導師
  • 百年目の運命の人
    弓月・小太(ka4679
    人間(紅)|10才|男性|猟撃士
  • Beeの一族
    Han=Bee(ka4743
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士
  • 戦場の舞刀姫
    麗奈 三春(ka4744
    人間(紅)|27才|女性|舞刀士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • 英知へ至る道標
    フレイア(ka4777
    エルフ|25才|女性|魔術師

サポート一覧

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アイコン ファリフさんに質問
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/05/19 22:36:13
アイコン 頂きストリート 西回り編
レイ・T・ベッドフォード(ka2398
人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/05/20 09:10:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/18 02:58:34