ボラ族、超特急の木炭配送

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/22 09:00
完成日
2015/05/25 22:13

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 商人の一人旅は基本恐ろしいものである。
「はーい、動かないでね?」
 峠の頂にて。
 ミネアは手近な樹にロープで縛りつけられていた。目の前で拳銃を突きつけているのは先刻までは素敵だと思っていたオシャレなお姉さんである。
「やだー、ミネアちゃんってば若いのにいい荷馬車使ってんのねー。あら野菜もピースホライズンのお高いヤツじゃないの。やるわねー」
 女はまるでお宝に触れるようなウキウキとした顔でミネアの馬車の検分を始める。そして普段は曳いていない後ろの貨物カートにも目をやる。
「あら、これ木炭? こんなレトロも取り扱ってんのね。ミネアちゃんってば幅広い!」
「そ、それはお友達が海の町で鍛冶場を借りるのに、必要なんです!! もうすぐ、すぐに運ばないといけないんです」
 ミネアは悲痛な声を上げた。
 花見で一緒になった元辺境の民ボラ族はどこで仕事をするのかずっと迷っていたらしい。だからミネアがツテを辿って船舶道具の鍛冶を少し手伝ってくれるなら鍛冶場を譲ってくれると約束を取り付けたのだ。ミネアは本業とはまるで関係ないが、ものはついでで木炭を運んであげていたのだが。
 仕事をすぐに始めないとまともな金銭を持っていない彼らは困ってしまう。だから時間が惜しいとショートカットしたのが不味かった。
 おかげでものの見事に追いはぎに出会ってしまったのだ。
 最初は普通の人だと思って談笑していたのだが……。
「あらそー。でもけっこうこれも売ればお金になるわねー? っていうかミネアちゃんも可愛いから、売ったらお金になるかも?」
 背筋が凍った。冗談じゃない。
 凍り付いたミネアの顔を見て女はケラケラと笑った。
「ま、あんまり酷いことしたら、お上に目ぇつけられるしね。冗談よ。でも、これは勉強代として貰っていくわね。ああ、変なこと喋って見なさいな……殺るから」
 ミネアは震えてそれ以上何も言えなくなった。
 そんなミネアの目の前で、彼女の馬車が動き出す。
 地方の人に渡す予定の野菜が、約束していた木炭が。運ぶ為に特別に借り受けた荷馬が……。
「待ってぇ!!!」
 全財産どころじゃない。あれを失ったら信頼も失う。
 ミネアは一生懸命に身を動かそうとしたが、ぎちぎちに縛られたロープは全く解けもしない。
「同胞よ。泣くな」
 そこにハンターの声が響いた。女が去ろうとしていた反対方向。ミネアが向かおうとしていたところから走って来たのはボラ族の族長イグだった。それと共に何人かのハンターの姿も見える。
 女は渋い顔をすると、荷馬に次々と鞭をくれた。が、重たい木炭のカートを曳いているのでは流石にスピードが出ない。
「うぉぉぉぉぉ、裁きを受けろ!!!」
 イグの横から、雷を纏った大男ゾールが突撃してきた。巨大な棍棒を振り回すその姿は女でなくとも恐怖に値する。
「ちっ……、じゃあ木炭ぐらいは返してやるわっ!!」
 女は加速する荷馬車の上をひらりと踊り、木炭カートとの連結を銃で弾き飛ばすとカートを蹴り飛ばした。
 カートに邪魔されてイグは動きを止めるのに対し、勢いづいたゾールはそのカートを一気に飛び越える。
「ゾール、任せたぞ!」
 カート越しにイグの叫びに地響きのよう声が帰ってきた。

「い、イグさん、怖かったぁぁァ」
 やっと解放されたミネアはしばらくの間大泣きしていた。その間イグは何も言わずじっと胸を貸してくれていた。
「あ、そういえば……ぐす、木炭……」
「助けてくれたんだな。感謝するぞ。ミネア。心配になって見に来たかいがあった」
 イグは鷹揚だったが、ミネアはそれほど余裕のある子ではなかった。
「でも、これ……今日中に運ばないといけんいんでしょ? 鍛冶の計画が全部狂っちゃう」
 作り始めが遅くなれば完成も遅くなる。船舶の部品も遅くなれば……彼らの仕事は最初から暗礁に乗り上げてしまうことになる。
「大丈夫だ。木炭はここにある。問題ない」
「でも、今から町まで遠いよ! 夜になっちゃう!!」
 ミネアの言葉にイグは不思議そうな顔をしていた。
「何を言っている。ミネア。ここからは下り道だぞ? 押せば進む」
 その言葉にミネアは固まった。
 下り道なのだから押せば進むのはそりゃ当然だ。
 だが、ここは山道。曲道もあれば障害物だってある。ブレーキもかけずに全力で進めば人もいる。
「ははは、さぁ、ここまでやってくれたのなら次は我々の出番だな。さ、ミネアは上に乗っているといい」
 イグはそう言うと、ミネアをひょいと担ぎ上げ、木炭の上にチョコンと据え付けられた。
「さぁ、いくぞ!!!」
 ハンドルなし、シートベルトなし。
 レールも轍もなし。あるのは……人力。
「い、い、ぃ」
 ぐんぐん加速するカートにミネアは再び涙を浮かべた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

リプレイ本文

 カートはゆっくり峠の下り坂へと近づいていく。
「よっし、今の間に木炭をこぼれないようカバーするよ!」
 アーシュラ・クリオール(ka0226)の号令に合わせて藤峰 雪凪(ka4737)は小柄な体型を活かし、ひょいっとカートの上、震えるミネアの横に着地するとすかさずミネアごと飛び上がった。
 その下をくぐるようにしてアーシュラが木炭がこぼれないようにと毛布をばさぁっと被せる。
「同業者を助けるならぁ、トントンえーいしゃぁ!」
 その毛布の端を掴んでクレール(ka0586)が釘バットから釘を引き抜きバットで打ち込む。一度で二度おいしいアイテムだ。
「反対側もよろしく!」
 クレールがシバ・ミラージュ(ka2094)合図して釘バットを投げるとシバはがっちりキャッチして微笑んだ。
「クレールさん、このバット、くれーるんですか?」
「…… ……」
 気のせいか、時間が止まった。
 シバは硬直した面々に小さく謝ると釘バットで毛布を貫きカートに固定していく。
「大丈夫ですよ、ミネアさん」
 毛布の上に着地した藤峰が微笑む。おっとりとした空気を作る下がった目じり。それはミネアの恐怖を和らげるのにとても効果的だった。ガチガチの彼女に希望の光が小さく花咲く。
「うぅぅ、藤峰さぁん」
 情けない声を上げて泣きつくミネア。
 ……の腕を取って藤峰は外見に似合わないような早さで、ロープを括り付けた。
「落ちたら大変ですので、申し訳ありませんが縛りつけさせていただきますね」
 はい?
 キョトンとするミネアをよそに藤峰は腕にくくったロープの端を輪っかにして、カートの角にある小さな突起に投げて引っ掛けるとそのまま引いてグン、と固定した。続いて左手、右足、左足。呆然とするミネアはあっという間に木炭の上で大の字に縛りつけられてしまった。
「これで大丈夫です」
 にこーっと笑う藤峰。安心させるための笑顔であったが、……怖ぇ!
「ミネアさんだけじゃ、飛ばされるかもしれないですけど大丈夫。男の僕が被さっておきますから」
 シバが大の字になったミネアの上で可愛い笑顔を浮かべる。
 これ、何のプレイですか!?
「よーっし、これで準備完了かな」
 ラミア・マクトゥーム(ka1720)はカートの縁に掴まっていたマリエル(ka0116)を毛布の上にまで引き上げると少しずつスピードの上がり始めるカートから景色を眺めた。
 峠は間もなく急な下り坂だ。


「イグさーん、がんばれーっ!」
 アーシュラの応援でによる最後のひと踏ん張りでガタン、とカートの傾きが変わった。途端にカートも何かに目覚めたように一人でに動き始める。
「きたきたぁ」
「怖い……」
 ワクワクとした声を上げるラミアとは対照的に、双眼鏡を持つマリエルは体を硬くしていた。記憶にある限りこんなスピードのある乗り物に乗った覚えがない。胸が詰まる感覚を加味したところでは多分生まれて初めてかもしれない。こんな危険な乗り物に身をゆだねるのは。
 顔に当たる風はどんどん勢いをまし、新緑豊かな爽やかな風を全身を次々駆け抜けていく。
「癖になるかも!」
 風をかき分け進む感覚に胸躍らせラミアは大きく叫んだ。その横で冷静にマリエルは双眼鏡で遥か前方をのぞき見ていた。
「前方、中程度の石が二つありますっ。右車輪にあたるかもしれません」
「よしっ、任せて!」
 クレールはカートの側面に両足をつけ、後は身体につけた命綱に任せて姿勢を取るとデバイスを前に向けた。流れる光景は勢いを増すばかり。マリエルの言う石はまだ遠くに小さく見えるばかりだ。
「いっけぇぇぇぇ」
 デバイスにマテリアルの光が収束すると、光のトライアングルが出現する。
 トライアングルの頂点が光り輝くと、石に向かって光線が発射された。小さな爆風と共に、粉塵が巻き起こる中をカートは突っ切って行った。
「やたっ!」
 クレールは思わずその場でガッツポーズ。
「カーブが近づいてきてます! カーブ地点に岩!」
 マリエルはそんなクレールなど気にも留めず、次なる危険ポイントに声を上げる。
「クレール、ジェットブーツでいくよ」
 アーシュラもクレールと同じようにして縁に立った。
「イグさん、右へ急カーブするからしっかり支えてね!」
「任せておけ」
 サムズアップで答えるイグ。もはや自分の脚では追いつかないほどにスピードアップしているので、カートに足をかけ、時折地面を蹴っている。
「さーて、いくよ」
 空間認識能力の高いラミアが数え始める。スピードと距離がを感じつつ、どれだけの時間が必要となるか自然と頭に浮かんでくる。
 シバが着ている服をためらわず脱ぎ去り、勢いよく回転する車輪にこすり当ててスピードを殺す。
 アーシュラとクレールがカートの縁に手をかけ、足を貯めた。
「ジェットブーツ、いっくぞー!!!」
 クレールが吼えた。
 軽く振り子のようにして、クレールは揺れ動くとカートの前に足を突き出し、カーブにある岩に足をつけたかと思うと、そのままジェットブーツを作動させる。着地の衝撃とジェットブーツの反発で強烈な音と同時に、車体が大きく傾いた。
「せやぁぁぁ!」
 その数瞬後にアーシュラはカートの縁に体重を大きくかけた後、ジェットブーツで地面を蹴りだした。
「ふわ、っとと」
 強烈な爆発力が二連続で続き、カートの巨体もさすがに大きく傾き、左の車輪がふわりと浮いた。
 そこにイグが左側を『押し上げた』。
「せいやぁぁぁ!」
 本日の決まり手。イグの上手投げ。
「にぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 悲鳴を上げたのは文字通り手も足も出ないミネアである。
 カートは勢いあまって横転する中、藤峰が素早くミネアの右手足のロープの端を引いた後に傾くカートを駆け昇った。
 ずずぅん。という地響きの後、派手に土煙が立ち上る。
「大丈夫ですよ」
 横転したカートの天辺で藤峰はミネアを抱きかかえたまま、にっこりと微笑んだ。
 が、ミネアにそれに応えるほどの余裕はない。なんとか意識はあるものの、ぐったりして動けない。
「追いはぎがよほど怖かったんでしょうね」
「ち、ちが……」
 シバの言葉に「違う!」と言い張りたかったところだが、ミネアにそんな気力はない。
「ちが? ああ、血が引くような思いをされたんですね。うんうん、わかります」
 もう好きにして……。
 ミネアは藤峰の手の中でかくんと崩れ落ちた。
「あっちゃー、毛布破れちゃったよ」
 ミネアを下ろしてしばし介護する間に、ハンター達は横転したカートを引き倒して元に戻した。毛布のおかげて木炭は大して散乱せずに済んだが、毛布は横転の勢いですり切れてボロボロになっていた。
「でも被害が最小に抑えられたんですから、間違いではなかったと思います」
 邪魔でしかなくなった毛布を捨てると木炭を積み直すマリエルはすっかり煤けた顔。だからこそより輝く笑顔にラミアも「そうだね」と頷いた。『海燕の寝座亭』でもマリエルの物事に穿った見方をせず、優しい心遣いを見せるところにラミアは心底ほっとするし、なんとしても庇いたいと思う。
「それじゃ再出発しましょうか」
 藤峰は再びミネアを縛りつけて、出発の合図をした。
「はにゃ!?」
 ようやく意識を取り戻したミネアはまた大の字に縛りつけられていることに気が付いた。
「大丈夫、大丈夫」
「大丈夫じゃないっ! ってかなんで一枚脱いでるんですか!!」
 覆いかぶさりながら、なだめるシバにミネアは唾を飛ばしてまくし立てたが、そんな苦情はスルー。だってブレーキに使ったんだもん。
「イグさん、次は気を付けてね」
 ぎゃーぎゃー喚くミネアに気にした様子もなく、再び発進するカート。
「あ、今度は水たまりです」
「奥には石もあるよ」
 マリエルとラミアがそれぞれに危険物を予告する。
「水は僕が弾き飛ばします」
 シバはそう言うと、カートの上で態勢を取り直しマギスタッフを構える。が、先にこけた影響があるのか、それとも道が若干悪いせいもあるのか、ガタガタと上下に揺さぶられるとどうも集中できない。
「スピードを少し緩めてください」
 シバがそう言ったが、イグはそのまま地面を蹴り、スピードを上げ続けている。
「あの……イグさん?」
 ランナーズハイ状態だ。もうスピードを上げ続けることだけに執念しているといってもいい。
 ……すぱぁん!!!
 シバはハリセンで容赦なくイグの頭を張り飛ばした。
「少、し、弱、め、て、く、だ、さ、い!」
 ようやく我に返ったのか、イグは足をかけてスピードを緩める。その間にシバは向き直ってウォーターシュートを解き放った。
 水の塊に吹き飛ばされ立ち上る水の柱。
「もうっちょお!」
 アーシュラはそ言うとタクトから機導砲を放ち、水柱の向こう側へ叩き込む。
 どばっしゃゃゃゃぁぁ!
 水の中にカートが突っ込むと同時に、飛び散る石の欠片がバラバラと顔に当たる。
「ひゃっほーーい!」
 粉塵と水飛沫はキラキラと輝いて、七色の光彩を放っていた。をまるで虹の中を進んでいるような気分だ。
 ラミアは数瞬の間そんな空間に見入ってしまう。
「次……左カーブ!」
 マリエルの指示に再びクレールが縁へ下り、ジェットブーツ発動!
 今度は成功して、左の車輪だけで急カーブを華麗にターンする。
「次は……人です!」
 姿勢を保つのが大変になって来たのか、それとも毛布を失った後からの振動で自然と埋まったのか分からないが、膝半ばまで木炭で埋まったマリエルが叫ぶと同時に、クレールがサークレットを身に着け、しっかと念じる。
「 危ないっ! 危険っ!! どいてーーー!!!」
 クレールの声が、サークレットに象られた女性の像によって大きな男性の声、高らかな女性の声、唸るような獣の声と様々に重なって響く。
 が、超高速で駆け下り続けるカート。大声で叫んでも声は後ろへ後ろへ流れていく。
「ごめんなさいっ!! 超特急カート、駆け抜けますーーー!!! ひぃぃ、早く気づいてぇぇぇぇ」
 よりにもよって先を歩くのは耳の遠そうなお爺さん。のんびり空を仰いで一息ついているところだ。クレールの叫びなどどこ吹く風だ。
「仕方ないありません。わたくしが出ます」
 命綱を外して、カートの上で膝を折って飛び出す姿勢を固める藤峰。
「あたしもやるっ」
 ラミアも目で合図し、アーシュラやマリエルと頷き合う。
「クレール、5秒後に鳴らしてくれる?」
 デリンジャーをそっと渡すアーシュラ。クレールは呼びかけを諦めてデリンジャーを受け止めるとしっかと頷いた。続いてアーシュラはイグとシバにも話す。
「イグさん、『3』でブレーキ。シバさんも同時にブレーキ。『1』になったら全力で押してね!」
「わかった!」
「お任せください」
 イグとシバが同時に頷く。
 ラミアの合図と共に、マリエルはこくりと喉を鳴らすと大きくカウントダウンを始めた。
「それじゃ、行きます……5」
 アーシュラとラミアが同時にカートの前方の縁に手をかけてふわりと飛び降りた。
「4」
「カートが通過いたします。ちょっと手荒にしますが、お許しください!」
 クレールが最後通告を行うと同時に、アーシュラとラミアの後を追うように藤峰が前へと飛び出した。アーシュラ達先行組は縁で屈んで待機、飛び出した藤峰はそのまま老人に覆いかぶさるようにして着地。そのまま地面へと伏せた。
「な、なんじゃ!?」
「しばし御辛抱をお願いします」
 藤峰は目を白黒させる老人におっとりとほほ笑んだ。
「3」
「急ブレーキぃぃ!!!」
 シバは自分のシャツを犠牲にして車輪に引っ掛ける。同時に走りこんでいたイグも足をつっかえ棒にし、マリエルも補助ブレーキを全力で引いてとにかくスピードを落とす。
 それでもスピードは落ち切らない。伏せた藤峰と老人の元に暴走カートが轟音と共に迫る!
「2」
 アーシュラとラミアが縁から飛び降り、カートの下に吸い込まれる。
「これが炎の獅子の力だよっ!」
 ラミアが叫ぶと同時に幻影の炎がカートの下で吹き荒れた。
 地面を背にしてラミアがカートの腹底を蹴りあげた。巨重が足にかかる。
「うりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「跳ねろぉぉォ!!」
 アーシュラが叫び、同じく両の足を揃えてそれを手伝う。マテリアルの爆風が巻き起こる。
「1!」
 クレールの持ったデリンジャーが空中に向かって甲高い発砲音を響かせた。
 マリエルが叫ぶと同時にブレーキレバーを解除する。
 イグの体が一段と大きくなり、フクロウのような羽毛に覆われる。先までとは全然違うパワーで押しこむ。
 前輪部分を跳ね上げ、力を一気に解放して後押しされたカートは……

 空を舞った。
 アーシュラとラミアの眼上を走る車輪。
 藤峰を照らす光輪を遮るカートの影。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 いくばくかの木炭と、ミネアの絶叫と涙の筋で放物線を描きながら、華麗にカートは空中を走っていた。

 カートが着地する前にラミアは態勢を整え、手を差し伸べるマリエルとクレールの元へ跳躍しカートへ戻る。
 藤峰はお爺さんに「失礼しました」と一礼すると、シバがはためかせるズボンをロープ代わりにしてカートの縁に移動する。
 アーシュラもジェットブーツを続いて使った……が、あと一歩。もう少しだったカートの縁がゆっくりと手の先から離れていく。
「あ……」
「それでこそ勇気あるボラの民だ」
 ぐんっ、と突然引き寄せられた。カートの勢いが伝わってくる。
 呆然とするアーシュラとカートをつないでくれたのは、イグであった。
「ありがとう、イグさん!!」
 イグの腕に抱えられて、アーシュラはしばし幸せの中にいた。


「お待たせしました。ミネア様より木炭をお届けに……」
 ボラ族が喝采して出迎えたカートから藤峰はひらりと降りると、ちょこんとお辞儀をした……がミネアがいない。
 ……落とした?
「いえ、ロープはここにちゃんとついているし……」
 藤峰は自分でくくったロープがまだピンと張っていることを確認した。四隅とミネアを縛りつけたロープは途中から木炭に埋もれている。
「埋もれちゃったかな?」
 擦り傷を癒すラミアは慌てず焦らず木炭の山をどけていくと、案の定木炭に埋もれ、あまつさえ口にもいっぱい詰めながら、目をぐるぐると回すミネアがいた。
「かなりの強行軍でしたから、お疲れでちゃいましたかね」
 クレールの言葉にシバは首を振った。
「炭を口にいれるとは、古来より『臥薪嘗炭』といい、悔しさを忘れないことを指しているのです。ミネアさんは追いはぎの事、そしてこのカートをみんなで運んだことを決して忘れないと表現しているんだと思います」
 おおお。シバのステキな推測に皆が手を叩いて感心した。
「ありがとう、ミネア! ありがとう、ハンター達。我々もこの恩義は決して忘れないぞ!!」
 イグはたいそう感動して、ハンター一人ずつに握手をし喜びを分かち合ったのであった。気絶したミネアの言い分は存在しない。

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MVP一覧

  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオールka0226

重体一覧

参加者一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオール(ka0226
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • ずっとあなたの隣で
    ラミア・マクトゥーム(ka1720
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士

  • シバ・ミラージュ(ka2094
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師

  • 藤峰 雪凪(ka4737
    人間(紅)|13才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 超特急相談!
クレール・ディンセルフ(ka0586
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/05/21 23:25:45
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/17 11:53:02