ゲスト
(ka0000)
希望の出汁
マスター:韮瀬隈則
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/26 19:00
- 完成日
- 2015/06/03 06:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
辛勝──
全体でいえば負けはしなかった、のだ。
けれどもCAM実験場を襲った歪虚の爪痕は深く、復興に勤しむ者たちの疲労は濃い。
地面を覆う瓦礫。そしてまた瓦礫。
●
「はい。確かに査収いたしました」
埃まみれの兵士らを見かねた部族会議の誰かが、オフィスに依頼を出したものか。近隣のドワーフ集団とハンター達の混成チームが、臨時の入浴設備を兵站の片隅に構築し、いまその査収を新米受付嬢がその上司とともに行っていた。
簡易井戸の増強と近隣の水源からの水道敷設、ポンプと臨時貯水槽、野外用ボイラーにバケツシャワーにスノコとテント……
受付嬢のもつクリップボードに挟まれた書類に、チェックマークが書き込まれていく。
構築速度重視、需要の最大公約数。無骨だが、野戦の入浴設備とはそういうものだ。
「これでサッパリ、汗を流せるな」
「まだ水は冷たいから、シャワーに湯が使えるのは有難い」
何かの用事を済ませがてら、査収の様子を見ていた兵士らの嬉しげな声が聞こえる。
リアルブルー出身の受付嬢は、そういえばと、日が落ちたあとの水と風の冷たさを思い出す。ひよわな自分なら、温泉にでも浸からなければ、あんな重労働の疲れなんか抜けやしない。
「……温泉にゆっくり浸かれればなぁ」
「ここに脈はあっても、今からだと間に合わないな」
え? と横の上司を見る。ん? と上司が見返す。思わず口にこぼれた言葉が、ホープ周辺で温泉が欲しい、ととられたらしい。それで、今から湯脈を探すのかと。
「いっ……いえ。私なら疲れをとるなら、じっくり湯船に浸からないとなぁって、あのその」
温泉じゃなくても、お気に入りの入浴剤の香りにつつまれてリフレッシュできればなー、などとですね?
あわあわと弁解をする受付嬢を、何事かあったのかと思ったのだろう。構築を受け持ったドワーフ集団が寄って来る。しどろもどろの会話から、設備の不備ではなく個人的な上位互換の要望だとわかった後も、ごそごそ数名で何かを相談しあう。
「遠慮するな、浴槽ならすぐできるぞ?」
「ふへっ?」
ふいにドワーフ集団の頭に声をかけられ、受付嬢は変な声をだした。
●
数時間後──
「ホープ復興計画における、臨時野外入浴設備。追加構築の概要です。はい」
受付嬢が、ドワーフ集団とハンター達に書類を配る。
要は、疲労回復とリフレッシュを図り作業効率の改善と事故の予防を目的とする、簡易浴槽を増設するわけです。……と、上司は部族会議に上申し、あっさりと承認を貰ってきた。外枠を組み、リアルブルー側から提供された防水シートで目張りをし、給湯設備を数基増やせばよい改修が容易なことも、快諾の一因だろう。
「問題というか、最大の課題はですね……」
こればかりはハンターさんの知恵を借りないといけないのだ、と、受付嬢が頭を下げる。
「普通のお湯ではなく、温泉風というか薬湯というか、とにかく兵隊さんたちが元気になるような入浴剤を入れて欲しいんです」
……あとですね、と、こっそり付け加える。
「残り湯でよければ、ハンターさん達もぜひお風呂入っていってください」
辛勝──
全体でいえば負けはしなかった、のだ。
けれどもCAM実験場を襲った歪虚の爪痕は深く、復興に勤しむ者たちの疲労は濃い。
地面を覆う瓦礫。そしてまた瓦礫。
●
「はい。確かに査収いたしました」
埃まみれの兵士らを見かねた部族会議の誰かが、オフィスに依頼を出したものか。近隣のドワーフ集団とハンター達の混成チームが、臨時の入浴設備を兵站の片隅に構築し、いまその査収を新米受付嬢がその上司とともに行っていた。
簡易井戸の増強と近隣の水源からの水道敷設、ポンプと臨時貯水槽、野外用ボイラーにバケツシャワーにスノコとテント……
受付嬢のもつクリップボードに挟まれた書類に、チェックマークが書き込まれていく。
構築速度重視、需要の最大公約数。無骨だが、野戦の入浴設備とはそういうものだ。
「これでサッパリ、汗を流せるな」
「まだ水は冷たいから、シャワーに湯が使えるのは有難い」
何かの用事を済ませがてら、査収の様子を見ていた兵士らの嬉しげな声が聞こえる。
リアルブルー出身の受付嬢は、そういえばと、日が落ちたあとの水と風の冷たさを思い出す。ひよわな自分なら、温泉にでも浸からなければ、あんな重労働の疲れなんか抜けやしない。
「……温泉にゆっくり浸かれればなぁ」
「ここに脈はあっても、今からだと間に合わないな」
え? と横の上司を見る。ん? と上司が見返す。思わず口にこぼれた言葉が、ホープ周辺で温泉が欲しい、ととられたらしい。それで、今から湯脈を探すのかと。
「いっ……いえ。私なら疲れをとるなら、じっくり湯船に浸からないとなぁって、あのその」
温泉じゃなくても、お気に入りの入浴剤の香りにつつまれてリフレッシュできればなー、などとですね?
あわあわと弁解をする受付嬢を、何事かあったのかと思ったのだろう。構築を受け持ったドワーフ集団が寄って来る。しどろもどろの会話から、設備の不備ではなく個人的な上位互換の要望だとわかった後も、ごそごそ数名で何かを相談しあう。
「遠慮するな、浴槽ならすぐできるぞ?」
「ふへっ?」
ふいにドワーフ集団の頭に声をかけられ、受付嬢は変な声をだした。
●
数時間後──
「ホープ復興計画における、臨時野外入浴設備。追加構築の概要です。はい」
受付嬢が、ドワーフ集団とハンター達に書類を配る。
要は、疲労回復とリフレッシュを図り作業効率の改善と事故の予防を目的とする、簡易浴槽を増設するわけです。……と、上司は部族会議に上申し、あっさりと承認を貰ってきた。外枠を組み、リアルブルー側から提供された防水シートで目張りをし、給湯設備を数基増やせばよい改修が容易なことも、快諾の一因だろう。
「問題というか、最大の課題はですね……」
こればかりはハンターさんの知恵を借りないといけないのだ、と、受付嬢が頭を下げる。
「普通のお湯ではなく、温泉風というか薬湯というか、とにかく兵隊さんたちが元気になるような入浴剤を入れて欲しいんです」
……あとですね、と、こっそり付け加える。
「残り湯でよければ、ハンターさん達もぜひお風呂入っていってください」
リプレイ本文
●
「呼んでくだされば、運ぶの手伝いましたのに……」
目隠し用の布を括りつける支柱を立てていたミオレスカ(ka3496)の視線の先に、えっちらおっちらと兵站裏の倉庫からネコ車を満載にして、幾つものカゴを運ぶシャルティナ(ka0119)の姿。華奢で優しげな女の子で、とても重いものを持てるようにはみえない。
「大丈夫。楓さんにも手伝ってもらってるし、それにこれ、見た目より重くないのです」
ね?
振り返るシャルティナの斜め後ろに、同じく樽と紙袋を積んだネコ車を押す遠火 楓(ka4929)。
「大物はドワーフのオジサン達が運んでくれてね。ほら、そこのそれ」
楓は着々と組みあがる給湯設備の横に、いくつも積み上げられた木箱を指差す。
女の子3名は全員小柄で、覚醒した姿を知らなければ──いや、それでも手を貸したくなるらしい。そういえばあのドワーフ集団は、受付嬢の何気ない呟きから、簡単に浴槽を組み立ててくれた。無骨な外見に似合わぬ世話好きなのかもしれない。
当のドワーフの頭は聞こえないフリで手を動かし、目を逸らした向こうから近づいてくる春陰(ka4989)に気がつくと、照れ隠しなのか大声で指示を求める呼び声をあげた。
「若いの。改造はこの仕様でやっちまってかまわんのか、の?」
細身を鎧う筋肉をしならせ、春陰は抱えてきた菖蒲の束を水を張った樽に活ける。
近くに菖蒲の群生地はあるかと地元の部族に聞いて良かった。このような花が咲くのだと絵に描いて、すぐに思い当たった案内をしてもらえた。その部族はまだ少年だったから、これが薬草なのだと春陰に聞いて目を丸くし、そういえば古老が東方の風習らしいと沐浴の盥に数葉を浮かべていたと手を打った。辺境──そこは東方と絆を結んだ地。
「はい。仕事を増やして申し訳ないのですが、お願いします」
ドワーフ頭の持つ図面とあらかた組みあがった浴槽を見比べ、春陰は頭を下げる。
運用の参考にと調べた、ホープ復興に携わる兵士達の内訳には、傷病をおして作業に当たる者たちがいたはずだ。
簡易浴槽の1辺に段差と手すりを追加でつけられないか、と、遠慮がちに聞いた春陰に、朝飯前のおやすい御用だとこの頭は笑った。
●
簡易浴槽の完成した順から、ボイラーで焚かれた湯がゆっくりと注がれていく。
「温泉なんて随分行ってなかったな……露天とか、数年オーダーだわ」
楓が突き抜けるような天──周りと中央に目隠し布を張っただけの浴槽群から空を見上げ、指を折る。薫風の初夏。土嚢と鉄枠と防水シートという無骨な浴槽に、せめて開放感をと屋根を設けてあるのは脱衣所のテントだけだ。
「脱衣所の色分けと、カゴの設置もすみましたの。あっちの青いのが殿方、こちらの赤いのがご夫人用」
シャルティナが暖簾のかかったテントを指差し、バケツシャワーの設置された一帯を経て浴槽までの導線を確認する。たしか4つの浴槽を4種の薬湯に分け、それを2つづつ日替わり交代で男女に振り分けるのだったか。
ミオレスカがクリップボードにチェックをつけていく。1日でも1時間でも早く、復興作業にあたる人々に提供したい。だからこそ丁寧に。
「はい。導線よし。日替わりで切り替えるときの仕組み、よし。……えと……あとは」
植物を浮かべた浴槽はかけ流しで、薬剤を使ったものは循環でまわして、メンテナンスは朝晩のほかは定時チェック、でいいですよね?
ミオレスカはシャルティナと楓と、目隠し布越しの春陰に確認する。循環用の魔道ポンプ付きの樽にヘアキャッチャーの網が仕掛けてあって、それを換えるのと、植物がヘタレてきたら追加するのと。
「午前は夜番の方。医療方から入浴許可のおりた方々は、昼ごろに。とのことです」
春陰の応答。できるだけゆったりはいってもらうには、と、各々の都合のよい時間帯を聞いてきたらしい。じゃあ……と、ミオレスカはタイムテーブルを組む。
湯が溜まってきた。
そろそろ入浴剤を投入してもよいころだ。
「ん。この紙袋の中身ね、リアルブルーの入浴剤」
当時、すっごくハマっててね。大人買いしてたの。
投げ込んでみる? 楓が持参した小さなボール状の粉の塊たちをみせる。
湯の中に投げ込むとそれは、しゅわしゅわと溶け、薄桃色の湯に桜の香りが立ち昇った。
「効能は疲労回復で、このしゅーって溶けてるのが血行を促進するから、肩凝りと腰痛にいいとか?」
向こうに居たときは効能なんて意識してなかったけれどね。と、楓。
「こっちのガーゼの袋も、すごく良い匂いなのです……」
シャルティナが、女湯のもうひとつの浴槽にいれる柑橘類と匂い袋をかわるがわる嗅いで、うっとりとする。
「匂い袋の中身は、干したオレンジの皮に、楓さんが手配してくれた蜂蜜の絞りカスを足してみました」
ほら、兵站から柑橘類を運んできたときの、あの樽の中身です。ミオレスカが指さす。
「蜜蝋には保湿効果があるから、冷え性と皮膚のひびわれにいいと思って。あとここの介助用の段差? 沈めてある木箱の中には炭が入ってて、これも皮膚を清浄に保つ働きが……」
続けようとして、楓はシャルティナとミオレスカの尊敬の眼差しに気がつく。
「や! だから一時期ハマってただけ!」
ちゃぽんちゃぽん。シャルティナが湯に丸のままの柑橘類を投入していく。
「兵士さんたちが元気になりますように……」
1つ1つ願いを込めて、今度は橙、今度は柚子、と兵站から貰ってきた箱から取り出しては湯に放つ。
丸くて黄色い塊は、一度沈んでくるりと浮かび、3m四方程の浴槽へ漂いだしていく。
(毎日一定以上の傷物はでるから、これ全部、今日使っても平気って兵站の人から聞きました)
ちゃぽんちゃぽん。祈りをいくつもいくつも。
「……はっ! つい木箱3つ分もいれちゃいました!」
(入れすぎで毒になることって、ない……ですよね?)
どぼんどぼん。男湯の片方の浴槽にドワーフの頭が岩塩を投入していく。
「ミオレスカさんだったか。岩塩はどのくらい入れればいいかの?」
ドワーフ集団がホープに持ち込んだ岩塩のうち、食用に適さないものを捨てないで岩塩風呂に、とミオレスカが頭に提案し、持ち帰る荷物が減ると二つ返事で放り込んでいるのである。
「頭の里の近くに塩化物泉があると思うんですけれど、それと同じくらいでお願いします」
目隠し布の向こうからミオレスカの声。ハンター以外との会話が洩れ聞こえるのは、避難民の大人たちと打ち合わせをしているものか。
どぼんどぼん。
(……はっ! あの効能を思い出してつい、入れすぎてしもうたわ)
●
夜勤明けの兵士が重い体をひきずってテントをくぐる。
彼らはもう何日も日勤と夜勤の変則シフトを続けているのだ、と、春陰は聞いている。
「バケツに湯を汲むのは俺がやりますから、汚れを落としたら浴槽にゆっくり浸かってください」
体が強張って、小さいバケツシャワーひとつ横木にかけるのに、骨が筋が軋むのだ。俺も歳だな。と自嘲する兵士に、いえ、任務で気を張って居られるだけでしょう、と春陰は微笑む。
「手前は菖蒲湯。東方に伝わる薬湯はいかがでしょう? 『尚武の節日』は少し過ぎてしまいましたが、邪気を祓い身体を強めます」
鮮烈な菖蒲の香り──
菖蒲と尚武は語呂合わせにすぎないが、この香りは疲れ浅くなっていた呼吸の深さを取り戻す。
「奥のもか?」
少し黒味がかった湯を覗き込んだ年配の兵士に、岩塩風呂だと答える。出身地にもあったのだろう。懐かしいな、と、早速浸かりに行く。
夕刻前。付き添いの看護兵を労い、傷病兵の湯上り支度を手伝っていると、復興の手伝いで泥だらけになった避難民の子供達が大人に連れられてやってきた。
「風呂嫌ぁーい!」
これ静かになさい。ちゃんと洗って。すみません煩くて。
避難民の大人達が慌てて傷病兵と春陰に頭を下げる。
「いえ……」
春陰がお気になさらず、と返す前に、傷病兵が呵呵と笑う。
「坊主ども。今日の湯は男の勝負に勝つ魔法の風呂だ。浸かって100数えろ!」
「本当っ!?」
少年達が駆け出す。
「って効能でいいんだよな?」
ニヤリ。傷病兵が春陰に目配せする。
「ちょっと男子ー! 泳がないでよー!」
目隠し布の向こうから、避難民の女の子だろう声と、ミオレスカの明るい笑い声がする。
「いい匂い」「すごぉい、もうほっぺたプルプル!」
「そうでしょう? 両方入っていってね」
ああ。ミオレスカは子供達は疲れるほど元気に風呂に入れるほうがいいのだ、と言っていた。春陰は打ち合わせの時を思い出す。疲れて温まってぐっすり眠るのが子供の仕事。
どこか嬉しそうな傷病兵に、春陰ははい、と頷いた。
●
「火の回りよし。清掃完了。明日の支度、できてます」
シャルティナの指差し確認。
日勤の兵士らの入浴が終わり、男湯女湯、テント周りの清掃も済ませた。
「ハンターの皆さんもお湯を堪能してくださいね」
再度、完成した浴槽の査収に訪れた受付嬢が、この贅沢な貸切を勧めてくれていた。
細い新月が天の中央。
初夏の星が弱い月の光を補う。
「最近……お風呂ばかり入ってます、ね。気のせいじゃなくて」
シャルティナは指折り数えて、ほら、つい先日もすごい秘湯を堪能したと思い起こす。やっぱり季節の変わり目だから、お風呂でちゃんと温まる必要性があっての依頼出願なんでしょうかね?
バケツシャワーの掛け湯を済ませ、二つの浴槽のどちらへ入ろうか、と悩む。
「せっかくだから両方に入るのが良いと思うわよ?」
楓が髪を高く結い上げ直しながら浴槽のそばにやってくる。
ちゃぽりと、桜の入浴剤の湯をすくい、まだ効いてるわねと薬剤の性能に自分で驚く。足し湯に合わせて夕方に2個追加したけれど、1個でよかったかも?
「明日は導線を調整して、男女のお湯が今日と逆になりますからね。もちろん、全部のお湯に入りますよね?」
ミオレスカも髪をまとめタオルで包む。うまくタオルの端を止められないのを、楓がほら貸して、と巻き上げる。楓とミオレスカ、二人の髪を包むタオルがまるで狐の耳のように可愛らしくて、シャルティナは自分でも気づかずに見蕩れていたのだろう。ほら、いらっしゃいよ、と楓がシャルティナの髪も同じように包んで、ミオレスカがお揃いですねと笑う。
「桜の匂い、いい匂い……」
「でしょ?」
私、そういえばお花見堪能しそびれちゃってた。
「はぁ……きもちぃ……」
ふぃー、と楓が息をついて、ババァくさいとかほっといてよねと明後日を向く。
「風流かな。って気分ですね」
「うん。でも花より団子。花よりお酒。かな、やっぱ」
ゆるりゆるり。ミオレスカが湯をゆっくりとかき回すと、まだ熱量をもつ湯が桜の香りを濃くさせる。
「お酒。いいですねぇ」
私は花も団子もお酒も好きですよ?
シャルティナが楓の花よりお酒発言に反応する。
「東方かぁ。日本酒欲しい。あるかな。あるよね?」
「東方ですねぇ。どうなるんでしょう……」
酷い戦況と聞く東方。その地の桜は、それでも美しく咲いたのだろうか?
「口の中が、こう、日本酒気分なんだけど……」
「じゃぁ蜜柑風呂いきましょか」
すぅ……と最後に桜の香りを吸い込んで立ち上がった身体に、薄桃色の湯が伝う。
くるぅりくるり。
多々の柑橘は、お湯に浸かった3人の水流をうけてゆるく廻る。
それが面白いのか、シャルティナが果実たちを指先でつつく。
「む? 誰か齧ったあとがありますよ?」
避難民の子供たちの誰かだろう。小さな歯型。
「美味しそうで素敵な匂いですもの。柑橘類と蜂蜜なんてゴールデンコンビじゃないですか」
ミオレスカはレシピを挙げる。焼きたてパンにはマーマレード、紅茶にレモンピール、この青くて小さい柑橘はお肉やお魚に絞るやつ。
「あー……あれは美味しかったです」
シャルティナも思い出したのか、幸せそうな顔になる。
「何よ。詳しく教えなさいな」
楓が二人に話を促す。ミオレスカが今までの冒険で関わった、美味しい食べ物を挙げていく。いろいろなレシピとの素敵な出会い。最後に、ちょっとお腹がすいちゃいましたね。と照れてつぶやく。
うんうんと頷いていたシャルティナが、くんっと自分の身体の匂いを嗅いで、あら、と気づく。
「落ちなかった血の臭い、消えてます」
「本当……」
楓も確認して首肯する。
「戦うのも返り血を浴びるのも苦ではないけれど、そればかりで荒んでたものね」
脆く乾いて落ちる歪虚の返り血が、いつまでもこびり付いているように感じるのは、それが負のマテリアル故だろうか。
「……もう上がるのです?」
もっと浸かっていたいけれど眠気が押し寄せてくる。
シャルティナと楓の瞼とに合わせたように、狐の耳のタオルが横にたれる。
「のぼせる前に上がって、早く寝るべき……」
ふぅ。
脱衣所に向かって、ミオレスカが脱衣籠の横に置かれたバケツの中身と手紙に気づいた。
「受付嬢さんから、お礼のお手紙とパック牛乳の差し入れですって!」
風呂上りに牛乳とは、わかってるわね。と、皆に笑みがこぼれる。
●
「まだ大丈夫かい?」
清掃をあらかた済ませた春陰は、最後の訪問者に少し間をおいて、はい、と答える。まだ湯は熱かったはずだ。
「仕舞いなのにすまんね」
いえ、と返して、片足をひき杖をつく老人に介助の手を伸ばす。
掛け湯の後にゆっくりと岩塩風呂に身を沈め、ああと呻いて四肢をのばす。
「おぬしは浸からんのか?」
「一緒に、ですか? いえ、まずは皆様の疲れを癒すほうが先です。聖地奪還を労わずに俺が先になど申し訳が立ちません」
湯加減は大丈夫ですか? と近寄る春陰の腕を老人がつかみ、俺は年寄りだから介助も隣で一緒に入って貰わないとキツイんだよ、とにやりと笑う。
仕方ない。苦笑ののち一礼して腰布1枚で隣に身を沈める。
「東方の者かの?」
「はい」
この老人は確か受付嬢と共にいた小さな集落の部族長、だったか。
聖地奪還の一助を担った東方の民にむけ、老人が礼を言う。こちらこそと慌てて返す。
「俺はただ……」
護るべき大切な主のため剣を振るうのみ、ですから。
そうか。と相槌をうち、春陰を見る老人の目。誰だろう。春陰と同じ志を背負う者を、遠くに思い出している目。
(俺は誰かに似ているのだろうか。主を最後まで護らんとする、誰かに……)
老人が空を見上げ、春陰も追う。
この空は遠く東方にまで続く空。
ここは辺境──東方との縁が残る地。
「呼んでくだされば、運ぶの手伝いましたのに……」
目隠し用の布を括りつける支柱を立てていたミオレスカ(ka3496)の視線の先に、えっちらおっちらと兵站裏の倉庫からネコ車を満載にして、幾つものカゴを運ぶシャルティナ(ka0119)の姿。華奢で優しげな女の子で、とても重いものを持てるようにはみえない。
「大丈夫。楓さんにも手伝ってもらってるし、それにこれ、見た目より重くないのです」
ね?
振り返るシャルティナの斜め後ろに、同じく樽と紙袋を積んだネコ車を押す遠火 楓(ka4929)。
「大物はドワーフのオジサン達が運んでくれてね。ほら、そこのそれ」
楓は着々と組みあがる給湯設備の横に、いくつも積み上げられた木箱を指差す。
女の子3名は全員小柄で、覚醒した姿を知らなければ──いや、それでも手を貸したくなるらしい。そういえばあのドワーフ集団は、受付嬢の何気ない呟きから、簡単に浴槽を組み立ててくれた。無骨な外見に似合わぬ世話好きなのかもしれない。
当のドワーフの頭は聞こえないフリで手を動かし、目を逸らした向こうから近づいてくる春陰(ka4989)に気がつくと、照れ隠しなのか大声で指示を求める呼び声をあげた。
「若いの。改造はこの仕様でやっちまってかまわんのか、の?」
細身を鎧う筋肉をしならせ、春陰は抱えてきた菖蒲の束を水を張った樽に活ける。
近くに菖蒲の群生地はあるかと地元の部族に聞いて良かった。このような花が咲くのだと絵に描いて、すぐに思い当たった案内をしてもらえた。その部族はまだ少年だったから、これが薬草なのだと春陰に聞いて目を丸くし、そういえば古老が東方の風習らしいと沐浴の盥に数葉を浮かべていたと手を打った。辺境──そこは東方と絆を結んだ地。
「はい。仕事を増やして申し訳ないのですが、お願いします」
ドワーフ頭の持つ図面とあらかた組みあがった浴槽を見比べ、春陰は頭を下げる。
運用の参考にと調べた、ホープ復興に携わる兵士達の内訳には、傷病をおして作業に当たる者たちがいたはずだ。
簡易浴槽の1辺に段差と手すりを追加でつけられないか、と、遠慮がちに聞いた春陰に、朝飯前のおやすい御用だとこの頭は笑った。
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簡易浴槽の完成した順から、ボイラーで焚かれた湯がゆっくりと注がれていく。
「温泉なんて随分行ってなかったな……露天とか、数年オーダーだわ」
楓が突き抜けるような天──周りと中央に目隠し布を張っただけの浴槽群から空を見上げ、指を折る。薫風の初夏。土嚢と鉄枠と防水シートという無骨な浴槽に、せめて開放感をと屋根を設けてあるのは脱衣所のテントだけだ。
「脱衣所の色分けと、カゴの設置もすみましたの。あっちの青いのが殿方、こちらの赤いのがご夫人用」
シャルティナが暖簾のかかったテントを指差し、バケツシャワーの設置された一帯を経て浴槽までの導線を確認する。たしか4つの浴槽を4種の薬湯に分け、それを2つづつ日替わり交代で男女に振り分けるのだったか。
ミオレスカがクリップボードにチェックをつけていく。1日でも1時間でも早く、復興作業にあたる人々に提供したい。だからこそ丁寧に。
「はい。導線よし。日替わりで切り替えるときの仕組み、よし。……えと……あとは」
植物を浮かべた浴槽はかけ流しで、薬剤を使ったものは循環でまわして、メンテナンスは朝晩のほかは定時チェック、でいいですよね?
ミオレスカはシャルティナと楓と、目隠し布越しの春陰に確認する。循環用の魔道ポンプ付きの樽にヘアキャッチャーの網が仕掛けてあって、それを換えるのと、植物がヘタレてきたら追加するのと。
「午前は夜番の方。医療方から入浴許可のおりた方々は、昼ごろに。とのことです」
春陰の応答。できるだけゆったりはいってもらうには、と、各々の都合のよい時間帯を聞いてきたらしい。じゃあ……と、ミオレスカはタイムテーブルを組む。
湯が溜まってきた。
そろそろ入浴剤を投入してもよいころだ。
「ん。この紙袋の中身ね、リアルブルーの入浴剤」
当時、すっごくハマっててね。大人買いしてたの。
投げ込んでみる? 楓が持参した小さなボール状の粉の塊たちをみせる。
湯の中に投げ込むとそれは、しゅわしゅわと溶け、薄桃色の湯に桜の香りが立ち昇った。
「効能は疲労回復で、このしゅーって溶けてるのが血行を促進するから、肩凝りと腰痛にいいとか?」
向こうに居たときは効能なんて意識してなかったけれどね。と、楓。
「こっちのガーゼの袋も、すごく良い匂いなのです……」
シャルティナが、女湯のもうひとつの浴槽にいれる柑橘類と匂い袋をかわるがわる嗅いで、うっとりとする。
「匂い袋の中身は、干したオレンジの皮に、楓さんが手配してくれた蜂蜜の絞りカスを足してみました」
ほら、兵站から柑橘類を運んできたときの、あの樽の中身です。ミオレスカが指さす。
「蜜蝋には保湿効果があるから、冷え性と皮膚のひびわれにいいと思って。あとここの介助用の段差? 沈めてある木箱の中には炭が入ってて、これも皮膚を清浄に保つ働きが……」
続けようとして、楓はシャルティナとミオレスカの尊敬の眼差しに気がつく。
「や! だから一時期ハマってただけ!」
ちゃぽんちゃぽん。シャルティナが湯に丸のままの柑橘類を投入していく。
「兵士さんたちが元気になりますように……」
1つ1つ願いを込めて、今度は橙、今度は柚子、と兵站から貰ってきた箱から取り出しては湯に放つ。
丸くて黄色い塊は、一度沈んでくるりと浮かび、3m四方程の浴槽へ漂いだしていく。
(毎日一定以上の傷物はでるから、これ全部、今日使っても平気って兵站の人から聞きました)
ちゃぽんちゃぽん。祈りをいくつもいくつも。
「……はっ! つい木箱3つ分もいれちゃいました!」
(入れすぎで毒になることって、ない……ですよね?)
どぼんどぼん。男湯の片方の浴槽にドワーフの頭が岩塩を投入していく。
「ミオレスカさんだったか。岩塩はどのくらい入れればいいかの?」
ドワーフ集団がホープに持ち込んだ岩塩のうち、食用に適さないものを捨てないで岩塩風呂に、とミオレスカが頭に提案し、持ち帰る荷物が減ると二つ返事で放り込んでいるのである。
「頭の里の近くに塩化物泉があると思うんですけれど、それと同じくらいでお願いします」
目隠し布の向こうからミオレスカの声。ハンター以外との会話が洩れ聞こえるのは、避難民の大人たちと打ち合わせをしているものか。
どぼんどぼん。
(……はっ! あの効能を思い出してつい、入れすぎてしもうたわ)
●
夜勤明けの兵士が重い体をひきずってテントをくぐる。
彼らはもう何日も日勤と夜勤の変則シフトを続けているのだ、と、春陰は聞いている。
「バケツに湯を汲むのは俺がやりますから、汚れを落としたら浴槽にゆっくり浸かってください」
体が強張って、小さいバケツシャワーひとつ横木にかけるのに、骨が筋が軋むのだ。俺も歳だな。と自嘲する兵士に、いえ、任務で気を張って居られるだけでしょう、と春陰は微笑む。
「手前は菖蒲湯。東方に伝わる薬湯はいかがでしょう? 『尚武の節日』は少し過ぎてしまいましたが、邪気を祓い身体を強めます」
鮮烈な菖蒲の香り──
菖蒲と尚武は語呂合わせにすぎないが、この香りは疲れ浅くなっていた呼吸の深さを取り戻す。
「奥のもか?」
少し黒味がかった湯を覗き込んだ年配の兵士に、岩塩風呂だと答える。出身地にもあったのだろう。懐かしいな、と、早速浸かりに行く。
夕刻前。付き添いの看護兵を労い、傷病兵の湯上り支度を手伝っていると、復興の手伝いで泥だらけになった避難民の子供達が大人に連れられてやってきた。
「風呂嫌ぁーい!」
これ静かになさい。ちゃんと洗って。すみません煩くて。
避難民の大人達が慌てて傷病兵と春陰に頭を下げる。
「いえ……」
春陰がお気になさらず、と返す前に、傷病兵が呵呵と笑う。
「坊主ども。今日の湯は男の勝負に勝つ魔法の風呂だ。浸かって100数えろ!」
「本当っ!?」
少年達が駆け出す。
「って効能でいいんだよな?」
ニヤリ。傷病兵が春陰に目配せする。
「ちょっと男子ー! 泳がないでよー!」
目隠し布の向こうから、避難民の女の子だろう声と、ミオレスカの明るい笑い声がする。
「いい匂い」「すごぉい、もうほっぺたプルプル!」
「そうでしょう? 両方入っていってね」
ああ。ミオレスカは子供達は疲れるほど元気に風呂に入れるほうがいいのだ、と言っていた。春陰は打ち合わせの時を思い出す。疲れて温まってぐっすり眠るのが子供の仕事。
どこか嬉しそうな傷病兵に、春陰ははい、と頷いた。
●
「火の回りよし。清掃完了。明日の支度、できてます」
シャルティナの指差し確認。
日勤の兵士らの入浴が終わり、男湯女湯、テント周りの清掃も済ませた。
「ハンターの皆さんもお湯を堪能してくださいね」
再度、完成した浴槽の査収に訪れた受付嬢が、この贅沢な貸切を勧めてくれていた。
細い新月が天の中央。
初夏の星が弱い月の光を補う。
「最近……お風呂ばかり入ってます、ね。気のせいじゃなくて」
シャルティナは指折り数えて、ほら、つい先日もすごい秘湯を堪能したと思い起こす。やっぱり季節の変わり目だから、お風呂でちゃんと温まる必要性があっての依頼出願なんでしょうかね?
バケツシャワーの掛け湯を済ませ、二つの浴槽のどちらへ入ろうか、と悩む。
「せっかくだから両方に入るのが良いと思うわよ?」
楓が髪を高く結い上げ直しながら浴槽のそばにやってくる。
ちゃぽりと、桜の入浴剤の湯をすくい、まだ効いてるわねと薬剤の性能に自分で驚く。足し湯に合わせて夕方に2個追加したけれど、1個でよかったかも?
「明日は導線を調整して、男女のお湯が今日と逆になりますからね。もちろん、全部のお湯に入りますよね?」
ミオレスカも髪をまとめタオルで包む。うまくタオルの端を止められないのを、楓がほら貸して、と巻き上げる。楓とミオレスカ、二人の髪を包むタオルがまるで狐の耳のように可愛らしくて、シャルティナは自分でも気づかずに見蕩れていたのだろう。ほら、いらっしゃいよ、と楓がシャルティナの髪も同じように包んで、ミオレスカがお揃いですねと笑う。
「桜の匂い、いい匂い……」
「でしょ?」
私、そういえばお花見堪能しそびれちゃってた。
「はぁ……きもちぃ……」
ふぃー、と楓が息をついて、ババァくさいとかほっといてよねと明後日を向く。
「風流かな。って気分ですね」
「うん。でも花より団子。花よりお酒。かな、やっぱ」
ゆるりゆるり。ミオレスカが湯をゆっくりとかき回すと、まだ熱量をもつ湯が桜の香りを濃くさせる。
「お酒。いいですねぇ」
私は花も団子もお酒も好きですよ?
シャルティナが楓の花よりお酒発言に反応する。
「東方かぁ。日本酒欲しい。あるかな。あるよね?」
「東方ですねぇ。どうなるんでしょう……」
酷い戦況と聞く東方。その地の桜は、それでも美しく咲いたのだろうか?
「口の中が、こう、日本酒気分なんだけど……」
「じゃぁ蜜柑風呂いきましょか」
すぅ……と最後に桜の香りを吸い込んで立ち上がった身体に、薄桃色の湯が伝う。
くるぅりくるり。
多々の柑橘は、お湯に浸かった3人の水流をうけてゆるく廻る。
それが面白いのか、シャルティナが果実たちを指先でつつく。
「む? 誰か齧ったあとがありますよ?」
避難民の子供たちの誰かだろう。小さな歯型。
「美味しそうで素敵な匂いですもの。柑橘類と蜂蜜なんてゴールデンコンビじゃないですか」
ミオレスカはレシピを挙げる。焼きたてパンにはマーマレード、紅茶にレモンピール、この青くて小さい柑橘はお肉やお魚に絞るやつ。
「あー……あれは美味しかったです」
シャルティナも思い出したのか、幸せそうな顔になる。
「何よ。詳しく教えなさいな」
楓が二人に話を促す。ミオレスカが今までの冒険で関わった、美味しい食べ物を挙げていく。いろいろなレシピとの素敵な出会い。最後に、ちょっとお腹がすいちゃいましたね。と照れてつぶやく。
うんうんと頷いていたシャルティナが、くんっと自分の身体の匂いを嗅いで、あら、と気づく。
「落ちなかった血の臭い、消えてます」
「本当……」
楓も確認して首肯する。
「戦うのも返り血を浴びるのも苦ではないけれど、そればかりで荒んでたものね」
脆く乾いて落ちる歪虚の返り血が、いつまでもこびり付いているように感じるのは、それが負のマテリアル故だろうか。
「……もう上がるのです?」
もっと浸かっていたいけれど眠気が押し寄せてくる。
シャルティナと楓の瞼とに合わせたように、狐の耳のタオルが横にたれる。
「のぼせる前に上がって、早く寝るべき……」
ふぅ。
脱衣所に向かって、ミオレスカが脱衣籠の横に置かれたバケツの中身と手紙に気づいた。
「受付嬢さんから、お礼のお手紙とパック牛乳の差し入れですって!」
風呂上りに牛乳とは、わかってるわね。と、皆に笑みがこぼれる。
●
「まだ大丈夫かい?」
清掃をあらかた済ませた春陰は、最後の訪問者に少し間をおいて、はい、と答える。まだ湯は熱かったはずだ。
「仕舞いなのにすまんね」
いえ、と返して、片足をひき杖をつく老人に介助の手を伸ばす。
掛け湯の後にゆっくりと岩塩風呂に身を沈め、ああと呻いて四肢をのばす。
「おぬしは浸からんのか?」
「一緒に、ですか? いえ、まずは皆様の疲れを癒すほうが先です。聖地奪還を労わずに俺が先になど申し訳が立ちません」
湯加減は大丈夫ですか? と近寄る春陰の腕を老人がつかみ、俺は年寄りだから介助も隣で一緒に入って貰わないとキツイんだよ、とにやりと笑う。
仕方ない。苦笑ののち一礼して腰布1枚で隣に身を沈める。
「東方の者かの?」
「はい」
この老人は確か受付嬢と共にいた小さな集落の部族長、だったか。
聖地奪還の一助を担った東方の民にむけ、老人が礼を言う。こちらこそと慌てて返す。
「俺はただ……」
護るべき大切な主のため剣を振るうのみ、ですから。
そうか。と相槌をうち、春陰を見る老人の目。誰だろう。春陰と同じ志を背負う者を、遠くに思い出している目。
(俺は誰かに似ているのだろうか。主を最後まで護らんとする、誰かに……)
老人が空を見上げ、春陰も追う。
この空は遠く東方にまで続く空。
ここは辺境──東方との縁が残る地。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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【相談】いい湯かな ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/05/25 23:34:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/26 06:57:45 |