• 聖呪

【聖呪】王国北部劇

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/27 22:00
完成日
2015/06/04 21:59

みんなの思い出

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オープニング

 アーヴィーと言う名の村がある。
 王国の北西部の中でも北部亜人地帯に近い荒野の一角にある村で、転移門のある町から馬車でさらに一日半から二日といった地にあるなんの変哲もない辺鄙な田舎。数百年前はそこそこ大きな町であったらしいが、それも今では村外の風化した石垣に僅かに証跡を残すのみだ。
 人口は600人ほど。主な産業は畜産で、村の外では日々、牧草地に平飼いにされた牛やヤギを、牧畜犬や馬に乗った牛飼たちが追う長閑な光景が見られる。
 北部に近いこともあって度々ゴブリンは見かけられたが、精々、狩人と思しき少人数を遠目に見かける程度の話で、互いに干渉することは殆どない。放し飼いの家畜が稀に襲われることがあるくらいで──【王国始動】の際にも、王都の役人に案内されてきたハンターたちに、彼らを追い払う程度の依頼しか提示することができなかった程だ。

 そんな長閑なアーヴィー村にも、ここ最近の『王国北方の諸地域においてゴブリンたちの大規模な南下が確認されている』との噂は届いていた。
 どこか怯えた表情で顔を見合わせる村の女たちが立つ目抜き通りを、馬に乗った若い牛飼いが一人、村長の屋敷に向かって早駆けていく……
 鋤を手に立つ門番──その姿はどこからみても農民以外の何者でもないが──を余所に、門を駆け抜け、敷地へ入り。急停止の指示に嘶く馬をどうどうと宥めながら、牛飼は、庭に飛び出して来た村長に鞍上のまま報告した。
「また荒野を南下するゴブリンを見かけました! 数は8! 村の北方、三刻の距離です!」
「今日もか……! こっちに向かって来ているのか?!」
「いえ、これまでと同じように『枯れ木の森の丘』の方へと向かっているようです!」
 その報告内容に村長は渋く顔をしかめ…… 牛飼の青年に休むよう伝えた。早足で屋敷へ戻る途中、村長に続いて庭へと出てきた王都の若い役人──【王国始動】に際してハンターたちをこの村まで案内して来た人物でもある──と合流。部屋へと戻る。
「お聞きになりましたか? これでここ数日だけでも、村の周囲で見かけられたゴブリンの数は軽く100は越えましたぞ。にもかかわらず、王国騎士団は来られないと?」
「申し訳ありません。北部のあちこちで大規模なゴブリンの南下が確認されておりまして…… 中々すぐに急派できるという状況ではないらしいのです」
「領主様の兵隊たちも未だ辺境から戻られぬ。こんな時に、選りにも選って……!」
 苛立たしげに……というよりは、重圧に押し潰されそうな態で、村長が落ち着かな気に部屋の中をグルグル回る。無理もない、と役人は同情した。王国北部故の食の不安はあるにせよ、この村はこれまでずっと危機らしい危機などまったくなかった平穏な地であったのだ。
 それだけに、今回の事情は深刻だった。王国北部でいったい、何が起こっているというのか……
「とりあえず落ち着いてください。リーダーが動揺を見せれば村人たちは不安になります」
「う、うむ……!」
 役人の忠告に素直に背筋を伸ばし、髭を整え始める村長。その人となりを好ましく感じながら、役人は村長に尋ねた。
「村に戦える者たちはどれくらいいますか?」
「牛飼たちは皆、馬に乗れる。狩人たちは弓を使える。だが、皆、害獣を駆除したことがある程度で戦いの経験など殆どない。騎士様のように馬上で戦闘はできないし、狩人たちが持つ矢だって戦に耐えられるほど多くはないだろう。そうだ、元々武器がない。鋤などの農具を武器にするにもそもそも全員にいきわたるような数はない」
 村長の言葉に内心、嘆息を隠しつつ。役人は村長に背を向け沈思した。
 現状、村の戦力は無きに等しい。相手が夜中にこっそり放し飼いの牛に手を出すゴブリンの狩人程度ならまだどうとでもなるとは思うが……
「……ハンターを雇いましょう。それで急場を凌ぐしかないでしょう」
「おおっ、ハンター殿たちか……!」
 役人の提案に、村長の表情が明るくなった。過去にリアルブルーから転移して来た英雄たちの物語は、娯楽の少ないこの村にあっては皆が知る物語だ。以前、ハンターたちがゴブリン相手に示した戦闘能力は、譚もかくやと思わせるものだった。
「それはいい。不安に思っている村人たちも安心するに違いない!」
「私はハンターたちに状況を説明する為、ゴブリンたちの情報を集めてきます。案内役を一人、つけてください」

 方針が決まると、役人はさっそく行動に移した。
 慣れない馬にへっぴり腰で乗り、村の北から外に出る。途中、放牧地で案内役として村長に紹介されたベテランの牛飼と合流し、ゴブリンたちが集まっているという『枯れ木の森の丘』へと向かう。
「この丘の向こうがそうだ」
 案内役の言に従い、丘を登って稜線に伏せる。
 見渡す限りの荒野の中、とある丘の麓に固まっている人影の群れを見つけた。遠目にどうにかその詳細を確認しようと目を細める役人の横で、牛飼の男が事も無げに告げる。
「ゴブリンだ。数は80といったところか」
「見えるのか!?」
「放牧で遠くは見慣れている。造作も無い」
 役人は驚きを収めると、すぐに出来得る限りの詳細を伝えるよう頼んだ。女子供ばかりのようだ、と牛飼の男は言った。武装もしているようには見えないという。
(まさか部族単位で南下してきているのか……? であれば戦闘員の数は実数よりも少なくなるが…… だが、報告よりも総数が少ないようだ。男たちはどこへ行った……?)
 生じた疑問に役人が首を捻っていると、丘から幾筋もの煙がうっすらと立ち昇り始めた。
 やがて、丘の上から武装したゴブリンたちが、素っ裸のゴブリンたちを小突きながら麓へと下りて来る。
「あれは何だ? あの丘には何があった?!」
「この地に住むゴブリンたちの住処があった」
(つまり、この地に元から住んでいたゴブリンたちが、南下して来た別の部族に攻められ、敗れたということか──!)
 役人は跳ねる様にその場を去ると脱兎の如く馬へと走り出した。おい、どうした、と追いながら牛飼の男が背後を振り返る。
 丘から降りてきた者たちと合わせ、ゴブリンたちの総数は200人を越えていた。
「ただのゴブリンじゃない。ソルジャーやメイジといった戦闘職を含む集団だ。その集団が現地の部族を併合した。余所者に、村の存在が知れる」
 荒野は自然の恵みに乏しい。狩りだけではあれだけの人数は養えない。
 なら、どうするか。──決まっている。よそから奪う他はない。
「すぐに避難の準備を始めてください」
 村に戻るや否や、役人はなりふり構わず村長に進言した。
「今すぐ方針の決定を。王国の増援が来るまで村に籠もって耐え忍ぶのか…… 一旦、村を放棄して隣り街まで避難するか」

リプレイ本文

「何を隠そう、俺たちがリアルブルーから来た異世界人ッス。俺たちが来たからには安心ッスよ!」
「わわわ私の力は小さいですが、む、村の方々には指一本触れさせませんです!」
 夕刻。アーヴィー村中央広場。教会前──
 迫るゴブリンの襲撃に備える為、防衛線となる外縁部から逃れて来た村人たちに、無限 馨(ka0544)とターニャ=リュイセンヴェルグ(ka4979)は自信満々(?)でそう言った。
 おおっ、と湧き上がる歓声。拍手に手を振って応えながら、「ゴブリンなんてワンパンすよ!」と調子の良いことを言う馨。実際の所は……そこまで楽観できる状況ではなかった。だが、ハンターである自分が怖気づいては、村人たちが不安がる。
 黒ゴシックドレスのターニャの方は明らかに慣れてはいなかったが、ワタワタと慌ててながらも頑張る姿に、村のお年寄りたちが集まって来てなんか干し果物とかくれた。
 一方、なんかちっちゃ……いや、自分たちと近しい背の高さに親しみを覚えられたのか、ユナイテル・キングスコート(ka3458)は多数の子供たちに群がられ、マントとか引っ張られたり、鎧をぺたぺた触られてたり。
 泣いている女の子に気づいたアルト・ハーニー(ka0113)は、彼女の側に片膝をつくと、胸元から取り出した埴輪を恭しく差し出した。
「こいつはお守りだ。……俺の魂と言ってもいい。きっと君たちを守ってくれる」
 良かったわね、と母親に促されて手を伸ばしかけた少女が、その空虚な面貌に、瞬間、触るのを躊躇して。戸惑う女の子にシレークス(ka0752)が耳元で何かを告げて、ようやく少女が笑顔で受け取る。
「矢面には私たち、ハンターが立ちます。皆さんには主に警戒と援護をお願いします」
 慣れない固い口調のまま、イーディス・ノースハイド(ka2106)は、得物を手に集まった村の男たちに指示を出し。
 女子供から離れてやって来た馨が牛飼たちに呼びかけた。
「放牧中の家畜は集まったッスか? なら、直ぐに反対側の南側へと誘導するッス。できればゴブリンが気づかぬ内に村から放しておきたいッス」
「待ってくれ! まだ集められていない牛がいるんだ!」
「……大事な財産なのは承知しているッスけど、もうこれ以上は諦めてください。ゴブリンがこちらに気づいてしまったら、最悪、全滅しかねないッス……」
 そんな、と馨に反駁しかけて、だが、何も言えずに肩を落とす牛飼。仲間たちが慰めるようにその肩を叩き…… すぐに避難行動へと移る。

「……あの子に何を言ったんだ?」
「さあ? おまじない?」
 埴輪を持って手を振る母娘を手を振って見送りながら、アルトは改めて決意した。
「防衛戦ってのは得意じゃないんだが…… 出来るだけやってみようかね、と。負けるのは性に合わないし、埴輪のご利益を嘘にするわけにもいかんしな」


 西の丘に日が沈み、荒野に夜がやって来た。
 丸い月には雲が掛かり、闇の帳が村を包む。微かな風の音に虫の声。村の周囲に用意した篝火の爆ぜる音だけが小さく響く。
「……静かな夜ですね。嵐の前の静けさでしょうか」
 人気のなくなった夜の村。愛馬の鼻先を撫でながら、ユナイテルが呟いた。彼女とイーディスの2人は唯一の騎兵戦力として遊撃を担うべく、皆から離れた所で待機していた。たった2人の遊撃隊── だが、彼女たちの士気は高い。
「故あって騎士団からは離れましたが、我が忠誠は未だ王女殿下に捧げております。王国の民を守るは殿下の意。元従騎士として微力を尽くす所存。頼りにさせていただきます」
「よしてください。元騎士と言っても新米でしたから…… とは言え、ここは退くわけにはいきません。たとえ押し寄せる敵の数が圧倒的多数であったとしても、王国の秩序と民の安寧の為、何としても守りぬかないと」
 決意を新たにする2人の耳に、遥か遠く夜を渡って聞こえて来る獣の悲鳴──
 警笛が鳴り響く。ケイ(ka4032)は魔導小銃を手に立ち上がると、村人たちが蹴り消す焚き火を見ないようにしながら駆け出した。村の外縁部に到達するや、立てかけておいた梯子で建物の屋根へと上がり。身を伏せ、敵を求めて闇の中へと目を凝らす。
 ターニャもまたそちらへ走りながら、手にした槍の鞘を払った。漆黒の地色に昏き赤味の混じった禍々しき刃が夜の闇に顕に溶ける。其を手に戦線へと走るターニャに、先程までの仔犬の様な愛らしさは既にない。
 外縁部の石垣に取り付き、防衛体制を整えるハンターと村の男たち。既に牛の悲鳴は止み、時間ばかりがジリジリとこめかみに浮かんだ汗と流れる。
 伏射姿勢でジッと闇を見つめていたケイが、篝火に揺れる地面を這い進む小さな人影を見つけた。敵である事を再確認した後、照準し、発砲する。──命中。ギャッ! という悲鳴と共に件の影が闇へと引っ込む。
 敵の発見にどよめく村の男たちを手で制して、セリス・アルマーズ(ka1079)はガッと足を掛け、石垣の上へと登った。仁王立ちで敵前に身を晒したまま、闇の中へと呼びかける。
「襲撃者たちよ! 既に事は露見している! 逃げるのなら追わない。だが、続けるというのなら容赦なく滅ぼす! 死にたくないものはただちにこの場より去るが良い!」
 ……返事はない。ゴブリンたちは戸惑った様に顔を見合わせ…… 粗末な小弓を構えると一斉にそれを放った。放った後、得物を手にして突撃を開始する。
 篝火を蹴倒しながら、突っ込んでくるゴブリンたち。その装備は貧弱で、一目で戦闘職ではないと見て取れた。恐らくは併合されたという地元のゴブリンたちだろう。
 セリスは一瞬だけ唇を噛むと、壁上にその身を晒したまま、合成弓を構えて『敵』へと放った。村の狩人たちの応射も放たれ、矢を受けた敵が何体か地に転がる。突撃して来る敵を一人ずつ屋根の上から狙い撃ちにしていくケイ。構わず突進して来る敵へアルトもまた石壁の上に身を乗り出し、至近距離からデリンジャーを立て続けに発砲する。
 あと少しで石垣へと取り付ける── ゴブリンたちの希望は、だが、側方の闇より現れ出でた2人の『騎士』に砕かれた。
「突撃! 敵中を衝き抜けます!」
「応! 蹴散らすさ!」
 蹄が打ち鳴らす襲歩の戦舞── 戦列の最も端にいたゴブリンが気づいて振り返った時には、ユナイテルの純白の無鋒剣がその首を斬り飛ばしていた。続くもう1体の頭部をイーディスの金色剣が叩き潰し、2騎はそのまま全速力で敵中を横断。掻き乱す。
「命が惜しくば退け! さもなくば覚悟を決めてもらう!」
「そんな装備じゃ騎兵の突撃を受け止める事なんてできないけどね」
 敵中を突破した彼女らが再び馬首を廻らした時には、敵の第一時攻撃隊は散り散りになって逃げ始めていた。彼らの士気は既に打ち砕かれていた。
「……出番がなかった。せめてこちらの得物が届く場所まで来やがれっちゅー話ですよ」
「……所詮はゴブリン。その程度か……くだらない」
 蜘蛛の子を散らすように逃げ去る敵の背にシレークスとターニャは声を浴びせる。
 月に掛かった雲が晴れる。天上から降り舞う月光が荒野を薄く照らし出し…… 逃げていくゴブリンたちの更に向こうに、敵本隊の姿を浮かび上がらせた。
 ただの一目でそれが精強であることが分かった。装備が違う。佇まいが違う。何より、戦意に満ちている。
「……ゾッとしないわね。正に数は力なり、かしら?」
「あれが本命、さっきのは威力偵察ってわけか。やれやれ」
 屋根の上から敵を見渡し、呆れたように呟くケイとアルト。石垣から一旦下りて負傷者たちを回復するセリスの横で。
「……今度こそ出番がありそうだ」
 呟き、不敵に笑うターニャ。
 再び隠れ行く月光の下、前進を命じる敵の声が響き渡った。


「……始まったッスね。思っていたより敵の数が多そうッスけど……」
 村の方から聞こえて来る戦いの音を振り返りながら、馨は小さく呟いた。
 戻るか……? 一旦、馬首を巡らせかけて。拍車を掛けずに沈思する。
 熟考の後、馨は再び馬首を巡らせると、村とは反対の方へと向かって走り出した。
 どこへ、と問う牛飼の問いに、ベテラン一人について来るよう呼びかける。
「ここまで来れば家畜はもう大丈夫ッス。自分は増援を迎えに行って来るッス。案内人がいれば、より早く到着できるはずッスから!」

 夜の帳の向こう側から、ゴブリンたちが放った矢が一斉に降り落ちて来た。
 再び壁上へと戻ったセリスが、己に降り掛かって来る殺意の雨を睨み据える。──平均を遥かに超えた悪魔じみた確率で、次々と『急所』へと飛び込んでくる矢の豪雨。避けることも受けることも出来ないと思われたその集中攻撃を、本人すら信じられない神がかり的な動きでかわし、避け、受け弾く。
 そんな射手の支援の下、前進して来る敵の姿はまだ見えない。配置しておいた篝火は既に先程のゴブリンたちが蹴散らしてしまっている。
「あれは…… ゴブリンの『魔法使い』、か……?」
 だいぶ接近されてしまった後で、屋根上のケイはようやく雲越しの薄明かりに敵の姿を確認した。敵隊列の最も後方、呪術師めいた格好の1体に照準をつけ、無防備なその胴のど真ん中を撃ち貫く。
 血煙と共に倒れるメイジ── 狙撃手の存在を確認した敵の弓手が一斉にそちらへ矢を放つ。ケイは軽く舌を打つと狙撃銃を手に飛び降りた。屋根に手を掛け、振り子の様に地面へ下りる。降り掛かってきた矢の雨が鈍い音と共に周囲へ突き立つ。
「狩人は第二線まで後退! ここはもう敵の射程内よ!」
 弓を持った村人たちに指示を飛ばすケイ。その背景、闇の中を『リトルラプター』──小型恐竜に乗った敵の騎兵が4騎、村の防御が手薄な箇所へと回り込んでいく……
「イーディス、敵の騎兵です」
 戦場を抜け馬首を廻らすケイの視線の先に、走っていく敵の姿。だが、先程の戦いを見られていたのか、2人が最も遠くに離れたタイミングを狙われた。
「おっと、そっちに行かせるわけにはいかんな!」
 シレークスと共に突入地点へと走るアルト。だが、敵の方が早い。十分に加速をつけた敵騎兵たちが石垣を容易く飛び越え── 直後、無数の鋤に串刺しにされた。
 罠だった。この人数で全周の防御は不可能と判断したハンターたちは、事前に防備の薄くなる場所にそれを仕掛けておいたのだ。地面に刺さった農具を踏み抜き、倒れ込むラプターたち。何が起きたか分からぬまま起き上がろうとする騎手の頭を、アルトの錨が叩き潰す。
 自身よりも長い棒をぶぅんと頭上に振り回し、鎖で繋がれた棘鉄球で次々とのたうつ敵を砕いていくシレークス。悲鳴と血飛沫。乗騎を打ち捨て這う這うの体で村から逃げ戻る敵を、ユナイテルとイーディスの2人が風上にも置けぬとばかりに切り捨てる。
「……生き残る為ならば、どんなえげつねーこともしねーとですよ?」
 怯えた目でシレークスを見る、戦い慣れぬ村人に。棒を肩に鉄球をジャラリと提げたシレークスが、返り血の跳ねた顔を向け、真顔で告げる。
 遠くで笛の音── 敵騎兵がこちらを引きつけている間に、別の敵が防衛線に取りついたのだ。
「野郎ども! 男気を見せるは今でやがります! 手前ぇらの女房子供を、親を、家族を、故郷を守って見せやがれ!」
 村の男たちに発破を掛け、走り出すシレークス。応じる男たちの野太い声に、怯みの気配は既に無い。

 一方、正面──
 見張りが逃げ、無人と化した石垣を次々と乗り越え、村内へと侵入するゴブリンたち── だが、どこからともなく銃声が鳴り響いたと思った瞬間、先頭のゴブリンが地に倒れた。
 慌てて物陰に隠れるゴブリンたち。どこから──と思った瞬間、闇に光るマテリアルの閃光。直後、背後の石垣に弾けた跳弾が、建物に隠れたゴブリンの脇を貫く。
 混乱するゴブリンたちのただ中へ。隣りの石造りの建物が伸ばした影の中から、赤黒い刃のグレイブを振り被ったターニャが側方から突っ込んだ。
「貴様等の『墓場』へようこそ。早速で悪いが『失せさらせ』」
 闇の中に弧を描いた紅き刃が横合いから敵を切り飛ばす。剣を手に迫る相手に一歩退きながら脛を払い。倒れたところを突いて刺す。
 その間もケイからの射撃は続き。先に射手を倒そうと迫った個体はセリスによって阻まれた。ケイに切りかかるゴブリンの横合いから体当たり。盾ごと、鎧の質量ごとそのまま建物の壁へとぶちかまし、カハッと息を吐くその顎を聖印付きの手甲でぶん殴る。
「ゴブリン如きが陽動とか、しゃらくさい」
 突破を諦め、一旦、後退する敵を見やって、刃から血を滴らせたままターニャが呟く。
 その側から再び鳴り響く笛の音──
 セリスは仲間たちとやれやれと顔を見合わせると、再び戦場へ向け走り出した。


 前衛の思わぬ苦戦に、族長たるメイジは、それまで後衛で弓を放っていた戦士たちにも前進を命じた。
 ゴブリンたちにとって、ハンターたちの存在は誤算であった。とは言え、その優勢は変わらない。既に人間たちは第二線まで退いた。騎兵の2人も既に下馬戦闘を強いられている。
 犠牲は大きかったものの、いずれ村の攻略はなるだろう。
 だが……

 突如、丘の上から喚声が湧き立ち── 彼我の両者は戦いの手を止め、思わずそちらを振り返った。
 月明かりの下に部隊がいた。予定よりも随分と早い。
「タリホー! 『騎兵隊』の到着ッスよ!」
 叫ぶ馨。動揺するゴブリンたち。目端の利く者は既に逃げ出し始めていた。族長の魔術師は、だが、鳴り響いた銃声と共に倒れ伏し。討伐を確認したケイが息を吐いて銃を下ろす……

「王国騎士団…… ではないな? あの旗印はマーロウ大公のものか?」
「我々はこの王国の危機に際して編成された、大公お預りの戦士団だ。……我々の到着までよくぞ村を守り抜いてくれた、ハンターたちよ」
 増援の隊長と思しき男はハンターたちの労を労うと、部下たちに追撃の命を出し、自らも前に出る。
 戦いを終え、地面に刺さった矢の数に辟易するセリス。シレークスは自己を回復しながら、息を吐いて倒れ込んだ。
「あー……疲れたのです。早く酒を寄越しやがれです」
「帰ったらケーキバイキングにでも行くかな…… カロリーなんか気にしない。今なら全メニューを制覇できる自信があるよ」
 お前にはたらふく人参を、と愛馬の首をポンポン叩くイーディス。皆を大勢の村人が出迎えた。ユナイテルはあっという間に子供に集られ。ターニャは慌てて得物を仕舞う。

 アルトを見つけた女の子が笑顔で埴輪を手に走り寄り。ありがとうと礼を言いながら、おもむろに地面へと叩きつけた。
「なぜっ!?」
「だって、あのおねーちゃんが『そーするものだ』って言ったから……」
 愕然とするアルトにニヤリと笑うシレークス。ガクリと膝を付くアルトの頭上で、空が白ばみ始めていた。

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重体一覧

参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 黒衣の小狼娘
    ターニャ=リュイセンヴェルグ(ka4979
    人間(蒼)|12才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
イーディス・ノースハイド(ka2106
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/05/27 20:08:50
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/24 00:46:18