ガチで勝ちに行きたい運動会

マスター:瑞木雫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2015/05/30 12:00
完成日
2015/06/06 13:15

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●舞台となるのは

 運動会。
 あるところに、この行事に熱狂的な地域があった。


●紅白の睨み合い
 ―――A町を中心とする連合が紅組。
 ―――B町を中心とする連合が白組。


 ……というように紅白に分かれるというごく一般的な運動会。
 出場するのは主に町内の若き青少年達。
 しかし町民達がこのイベントを心から楽しみにする理由は、運動会らしいスポーツマンシップに乗っ取った爽やかさではなく、別のところにあった。
 つまり言うと、兎に角この運動会に掛ける青少年達の気合いが半端ではない。
 狙うは優勝。
 一致団結し勝利をもぎ取ろうと汗を流し、彼らは勝ちを全身で喜び、負けを全力で悔しがる。
 この運動会の事を何も知らずに巻き込まれた人物がいるならば、この熱さにはついていけない事態が発生してもおかしくはないだろう。とにかくガチガチのガチだからなのである。


「正々堂々と戦おう」
「あぁ。正々堂々とな」


 A町の町長の息子こと紅組大将と、B町の町長の息子こと白組大将。
 彼らは爽やかな笑顔を浮かべ、二人は握手を交わしあった。
 ガシッと力強く、そしてギチギチと競い合うように。


(汚い真似しやがって……!!)
(規約には背いてないだろ、言い掛かりはやめるんだな負け犬……!!)


 バチバチバチバチ


 飛び散る火花。激しい睨み合い。……彼らは因縁のライバルで普段から仲が悪く、その日は運動会当日の予定の相談を兼ねた両者の親睦を深め合う飲み会だった筈なのだが、余計に溝は深まってしまったのだという。



●紅組に勝利を!
「今までの運動会は主に若き青少年の町民達が出場し、町民以外の者の出場は禁止されていた。だが今年からは、『大将が承認した者であれば数名程度出場しても良い』という新たな規約を作ったんだ。俺らの運動会をもっと盛り上げていくためにな。―――そうしたらあの憎き白組の大将め、スポーツを得意とする身体能力の高い奴らをわざわざ遠い町からスカウトしてきたんだ!」
 ハンターオフィスにやってきたA町の町長の息子・リッドは歯ぎしりして、新人職員とハンター達に悔しさを募らせた想いを吐露する。
「頼む! 力を貸してくれ! なんとしても、なんとしても勝ちたいんだ!!」

 ―――今年は運動会10周年。
 勝者に贈られるというそれは、例年よりも大きく輝くばかりの豪華絢爛なトロフィー。
(アレを絶対、紅組に!)
 紅組の仲間と共にあのトロフィーを抱いて、勝利を喜びたいのだ!



●運動会、開幕!

 晴れ渡る空。
 運動会当日は天候に恵まれ、絶好の運動会日和だった。

「今日は宜しくな……! ほんとマジで!」
 ハンター達に、リッドがお願いすると紅組の青少年達も続いて、「お願いしまーす!!!」と深く頭を下げた。
 紅組陣営の仲間達は熱血漢なスポーツマンが多いようだ。
「今年の勝利は俺達白組のものだ。精々負けた言い訳でも今から考えておくんだな」
「何をぅ!」
 対する白組陣営は上下関係がしっかりとしていて、精鋭の面子はどうもドライでいけ好かない連中であっただろう。

 そんなこんなで開幕前から紅組と白組の戦いは勃発中なのはさておいて。
 運動会の会場は町内で行われるわけではなく、競技場を借りて開催される。
 因みに競技場席はすべて埋まって満席状態。
 出場選手の家族や友人達、そしてこの運動会に興味を持ったゲスト達が大勢募って賑わいを見せていた。

 ―――そして、開幕時刻。
 両者の代表は舞台に立った。

「宣誓ー!」
「俺達、紅組とー」
「白組はー」
「スポーツマンシップに則りー」
「正々堂々戦うことをー」
「ここに誓いまーす!」
「紅組選手代表ー、リッド!」
「白組選手代表ー、カーレル!」



 ワアアアアアアアアアアアアア!!!



 紅組、白組、声援を送る観客席からの熱気と。
 そして運動会楽団の力強い演奏が、会場を包み込んだ。


 泣くも笑うも、恨みっこなし!
 彼らの戦いが今、始まったのだった―――――!


●運動会の競技

 『玉入れ』
 『徒競走』
 『借り物競争』
 『障害物競争』
 『騎馬戦』
 『綱引き』
 ……以下省略。

 ―――プログラムを眺めると、やはりごく一般的な種目であることを窺えた。
 ただやはり出場者の白熱した気合いと勢いにはただならぬものがあり、障害物競争では障害物にぶつかり薙ぎ倒してでも全速力で駆ける者が居たり、『好きな人』とお題された借り物競争で本当に勢いで連れ出し振られる者が居たりと、大波乱は起きていることだろう。

「いいか! 絶対、勝てよ! 絶対勝ってくれよ!」
 ハンターが出陣する番になると熱く言ってくるリッド。
 少しでも気を抜くことを厳禁とし、正々堂々とした勝ちに拘っている空気。
 たとえハンター達がもうやめてくれと唱えても、リッドは酷いプレッシャーを与えながら背中を押すのだろう。
「絶対勝利だからなー!!」


●リレーの悲劇

 10年前……初めて運動会を開催した日、俺は10歳だった。
 当時は俺の親父が紅組の大将で、白組の大将だったカーレルの親父とよく喧嘩していたっけ。

「っく……!」

 俺はこの運動会が大好きだ。
 負けたら悔しい。
 だがチーム一丸となって勝利を掴もうと頑張り、一緒に笑い合ったり、悔しがったり。
 全力を出し切ったからこそ共有できる想い。
 これを分かち合う瞬間が、何より好きだ。


(だから、頑張れるだろ……俺……!)
 そんなことを考えながら、
 なんとか誤魔化す激痛。


 ―――実はリッドは無理をしていた。
 数日前から妙に左足に違和感のある痛みを覚えていたのだが誰にも相談せずに誤魔化していた。
 それがまさか、こんな大事な時に悪化しだすなんて。

(頑張れ、堪えろ……! もう少しだ! 紅組の大将としての意地を見せろ、俺……!!)

 この最終種目紅白対抗リレーでの点数は非常に大きく、両者共にこの種目においては是が非でも勝利をおさめたいところ。
 負ける訳には、いかないのだ。

 ―――だが。

『頑張れ!』
『頑張れ!』

 リッドの想いも、紅組を応援する声援も、むなしく。踏み出したリッドの左足がグネリ、と捻る。


「……!」


 ――――最終種目・紅白対抗リレー。第一走者・リッド、第二走者が待つラインまであと20mにて、転倒。

リプレイ本文

●開幕、運動会!
 会場は溢れかえる声援と熱狂に包まれ、両者一歩も譲らない紅白の激戦が繰り広げられている。
 果たして勝利の栄冠とトロフィーはどちらの手に渡るのか!?

「運動会だー。何年ぶりかなぁ。ねー、たかし丸ー」
 メオ・C・ウィスタリア(ka3988)は左手の鷹のパペットを覗きつつ、ティーナ・ウェンライト(ka0165)、来未 結(ka4610)と共に運動会の懐かしさに浸っていた。
「若い人達に負けないように頑張らなきゃ!」
(あとは少しダイエットの為にも!)
 意気込むティーナ。
「折角の機会。素敵な思い出にしたいですよね!」
 リッドの為、そして紅組の勝利の為にも真剣勝負!
 結もやる気満々なようで拳を作る。
 実はというと今回割と楽しみにしていた紅薔薇(ka4766)も、運動会の様子を眺めながら目を細めて。
「妾の地元だと大会と言えば木刀で相手をぶん殴るような物しか無いしのう」
「えっ」
「単純に運動能力を競うような祭りは初めてなのじゃ」
 木刀でぶん殴る大会!?
(なんて恐ろしい大会なんだ……!)
 その言葉の響きは、運動会しかしらない紅白の選手達にとって刺激が強すぎたらしい。
「ククッ! 愉快だねえ、このDT魔術師たる僕が! 大! 運! 動! 会! だなんて……!」
 右手にガントレットを装着し格好つけている水流崎トミヲ(ka4852)は、紅組の同胞達に向けて言った。
「安心するがいい紅組諸君! 後悔だけはコロニーに届く程してきた! つまりイメトレは完璧ってことさ! 僕が君達に勝利に導いて上げよう!!」
 続けて。
「大人の汚さってやつを見せてやろうじゃないか……!」
「おー!(?)」
 紅組達はノリという勢いで拳をあげる。
「うっし、勝てるように俺らも頑張んねぇとな」
 ジグ・ルルグ(ka4966)も気合いを入れて言った。だがしかし悲しきかな、次の種目というのは―――。

●玉入れ!
「玉入れ……玉入れか……マジか……」
 まるで入る気がしない。と、頭を掻くジグ。
 運動全般は得意だが、球技だけは不得意――所謂ノーコンなのだ。ジグは悩む。いっそひたすら妨害に励んで、猫騙し宜しく手を打ち鳴らしたり、変な顔でもして相手の気を散らすべきか、と。……仲間には見られたくないが。
「頑張りましょう、ジグさん……」
 ティーナも同じくあまり得意ではないようで、「一生懸命投げましょう……」「おう……」と励まし合う。
「大丈夫ですよ! 気持ちをのせて投げるといいってお母さんが言ってました!」
 結は二人にアドバイスすると、「見ていてくださいね!」と、どうやらお手本を見せてくれるらしく。
 午前の部最終種目・玉入れ開始の笛が鳴った瞬間―――。
「てやあ!」
 ビュンッ!
「!?」
「ひっさつ!お母さん直伝、縦(ヴァーチカル)スライダーです!」
 穏やかな少女が投げ放ったとは思えないスピンが炸裂し、ティーナとジグは度胆を抜かされる。
 そして同時に紅白の玉は無数に飛び交い、壮絶な戦いが今、始まった!
「ふむん、一応戦術らしき物も考えないとのう」
 紅薔薇は周囲の状況を読みながら呟き、紅組目掛けて飛び交う白玉の妨害を華麗に回避しながら、地面に散らばった紅玉を拾い1カ所に集めた。投げる人が投げる事に集中して貰う為に。
「ほれ、玉は集めてくるから投げる方に集中するのじゃ」
「おー、ありがとー」
 紅薔薇のナイスアシストに礼を言ったメオは身長を活かしてぽいぽいぽいぽーいと投げ、時折白組へと豪速球を。
「メオさんの怪力から放たれる豪速球はきっと痛いよぉ? あ、でも柔らかいから柔らかいよぉ?」
「痛っ、あっ、いや、柔らかいっ!」
 なんとも言えない当たり心地を味わう白組。
 ティーナはというと、執拗に当ててくる玉が気になってしょうがなかった。
 犯人は白組の男子で、どうやら気になる女子にちょっかいを出す思春期男子の心理。それにしてもちょっと調子に乗り過ぎたようだ。
 びゅんっ!
「!!」
 温厚なティーナは笑顔のままだけれど、白組男子にお返しの一投。
(あれ、嫌われた……?)
 その真意は謎のまま白組男子一名、ショックで戦意喪失!
 一方トミヲとジグは妨害へ力を注いでいた。
「喰らえ! 僕の魔法!」
 片足上げてトルネード!
 トミヲはコントロールがよさそうな白組ダンスィ四人を狙いうち。
 2、3個纏めてぶん投げたジグも、運よく白組男子に命中する。
 言わずもがな、白組の彼らに敵意を燃やされるトミヲとジグ。
「すまん」
 言葉では謝ったジグだったがまた一投!
 トミヲも連携して。
「来いよ若人……僕が相手をしてやろう」
 中指を突きたて煽った。そしてジグも乗っかって大人げな……いや、大人の怖さを思い知らせるドヤ顔コンビネーション!!
 案の定彼らは白組の猛攻撃を喰らい、特にトミヲは4人のヘイトを稼ぐことに―――
 だがしかし、これは全て計画通り。
 敵の得点機会を4つ奪う為の作戦だったのだ!
(めちゃくちゃあてられてるけど、球なんか全然痛くないもんね!)
 ※心が痛くないとは言ってない

 そして終了のカウントダウンが始まる!

 ―――3、2、1!

「あー、たかし丸ー!」

 終了ー!

 玉入れの結果。勝者、紅組!
 色んな意味で悔しがる白組と、勝利を喜び賑わう紅組!
 大盛り上がりの観客席!
 そしてこんもり玉が盛られた紅組の籠の頂点には、メオの左手からすぽっと抜けて飛んでいったたかし丸が勝利の栄光を象徴するかの如く立っていたそうな。

●騎馬戦!
 お昼はお弁当の時間。ティーナが皆の為にもと早朝から作ってきてくれたお弁当は、おにぎり、サンドイッチ、唐揚げ等簡単につまめる物をいっぱい。
 料理上手なティーナのお弁当は絶品で紅組の選手達はもぐもぐしながら目を輝かせる。
「うまい!」
 ジグも美味しそうに唐揚げ等の肉類をもしゃもしゃしていた。
 次の種目は騎馬戦。ハンター達からはティーナ、メオ、ジグが出場する事になっているのだが、実はというとメオは騎馬戦のルールを知らなかったようだ。
「本物の馬じゃないんだよね? 連れてきちゃったけど、ダメ?」
「!?」
 メオが連れてきた馬と目が合ったジグ。仰天しつつ「ダメ!」とツッコミをいれた。という訳でティーナと共に、メオへ軽くルールを説明しながら出場者の集合地へと向かう。

 ―――太陽が眩しい炎天下。
 ティーナ、メオ、ジグはそれぞれのチームに分かれて結成し、戦場に立つことに。

「やるからには全力です!」
「おう!」
 積極的に前に出ていく心意気のティーナと、チームメイト。激しい戦いとはいえ相手には怪我をさせないようにと、心掛けて。
「上に乗るのは怖……いや『ガタイ的にちょっとアレ』だから、俺は馬役で」
 ガタイのいいムキムキな男達で組んだジグは、上に乗るようチームメイトに勧められたがそれを断り馬役を希望した。切実に。
 だが騒ぎ立つような戦士の血が疼き、燃えているようだ。
「下のお馬さんたち、しっかり動いてねー? 女だから狙われるかもだけど逃げたらちょっとおしおきー」
 そんなふうにメオが悠々と指示すると、
「はい、メオさん!」
 馬役のチームメイトはいい返事をした。もしかしたらメオには部下に好かれる上司たるオーラがあるのかもしれない。
「ハチマキはたかし丸につけておこう。だってたかし丸もメオさんの一部なんだもん」
 ハチマキはこの騎馬戦において、奪われちゃダメなものだ。それをきゅ、きゅ、とたかし丸のおでこに結んで敵を見据えた。
(戦闘で騎馬やってる身としては負けたくないよねぇ……)
「本気でやっていいよね、たかし丸ー」 
 そして笛の音が開始の合図となり、
 いざ、尋常に勝負!

 紅白の騎馬は激突!
 両者好戦的な白熱の戦い!
 結は汗ふき用タオルや飲み物を用意しており、皆のサポートの準備も万端で。
「ふれ~っ、ふれ~っ、紅組!」
 チアポンポンを手に思いっきり応援した。
「皆、頑張るのじゃー。馬の足を引っ掛けてバランスを崩せばそれで勝てるのじゃ」
 紅薔薇もお弁当をモグモグしながら応援を。

 ティーナは向かってくる白組の手を瞬時にブロック。聖導士流格闘術によるガードの後は、カウンターで白組のハチマキを奪った。だが囲まれてしまい、絶体絶命のピンチに。―――こうなったら!
(使える手かはわかりませんが……!)
 うるっ。
 ティーナの涙目で訴える眼差し!
 ピタッ!
 効果は抜群だー!
「貰ったー」
「あ、しまった!」
 その隙にメオ、白組のハチマキを乱獲。
「ティーナ、メオ! 大丈夫かー!」
 彼女達はこの戦場において、紅組の中の紅一点。白組の標的となりやすく、また続々と囲まれていたのを察知してジグは駆けつける。土煙が上がる中、ムキムキ隊は突進!
 一騎でも多く崩し、その隙に彼女達がハチマキを奪ってくれればと思い、フォローした。

 取っ組み合い、掴みあう、凄まじい攻防戦。
 ヒートするバトルに観客達の胸は躍り、紅組も白組も最後まで果敢に戦った――そして!
『勝者、紅組!』
 ワアア!
 なんとか自分の紅のハチマキを守り切った三人は、歓声に沸く紅組の中でお互いを讃えあっただろう。


●リレー! そして友情と青春
 第一走者リッド転倒。それは絶体絶命の状況だった。
 紅白はそれぞれ三チーム結成しており、此処まで先頭をキープし走っていたリッドは、この隙に次々と抜かされてしまっていた。

「このまま負けてもいいのですか!? せめて自分にだけは負けないで!」
 ティーナは熱く励ました。気合い! とにかく気合、と。聖導士の師匠の教えを胸に。
「リッドちゃーん、がんばれー。みんな信じれば勝てるよぉ。リッドちゃん一人じゃないんだからちゃんと立ち上がってふぁいとー」
 たかし丸で応援するメオは、お菓子やお弁当を食べながら。
「リッドさん! 諦めないでくださいっ!! 私達が繋ぎます! 繋いでみせます!!」
 第三走者として待機していた結も想いを込めて、リッドに声を掛けた。彼女達の声と思いは負けムードだった周囲を巻き込んで、絶望から希望へと染めていく。
 そして放心から意識が戻り始めたリッドの目を覚まさせたのは、第二走者・紅薔薇の全力の大喝だった。
「何をしておる!! まだ負けたわけでは無かろう!! たとえ左足が千切れたとしても、手と右足だけでも這って進まんか!!」
 左足の激痛。紅薔薇の喝は、リッドの異変を見抜いたからこそ。勝利が欲しくば立ち向かえ――、と。
(そうだ……! 此処で倒れてるわけには……!)
 リッドは立ち上がった。だが走る事は叶わない片足を引きずりつつ、必死の思いでバトンを紅薔薇に託した。
「よう、届けたのじゃ。そこで見ておれ。狩人は決して獲物を逃がさぬ」
 紅薔薇は不敵な笑みを浮かべると、その思い、受け継いで。前方を走る5人を追いかけるように駆けだした。
「なぁに、バトンと一緒にその意志も繋がってんだ。大丈夫だろ」
 バトンパスを終え力尽きたリッドに、待機地点へ戻れるようジグが手を貸した。ジグは急遽ゴールテープ係の助っ人として呼ばれ、その場に居たらしい。凹んでいた彼に、勇気づけるような笑顔を浮かべて。
「ジグ……」
 その優しさと思いが、リッドの胸には沁みていた。

 ―――競技場は、沸き上がる!

「あの女の子早ぇ!」
「どんどん差が縮まってる!」

 最下位という状況でバトンを受け取った紅薔薇の一歩は非常に長く、まるで飛ぶような走法。本来は剣術において敵の目の前に飛び込む時のものだ。
(東方の乙女は不利な状況ほど燃える――!)
 熱き闘志を燃やした眼差しが前方を走る五人を捕え、接戦だった三人を一気に追い越した!
「何……ッ!?」
「妾は、絶対に逃がさぬと言ったぞ?」
 目を見開く白組の走者に、不敵な笑みを浮かべて零した紅薔薇。
「結殿、後は任せたぞ、リッド殿に勝利を渡してやるのじゃ」
「リッドさん、紅薔薇さん! 預かりましたっ!」
 第三走者・結はパスを丁寧に受け取ると全力疾走。
 リッドから紅薔薇へ、紅薔薇から結へ、そして結からトミヲへ繋ぐための。
(……これは魂のリレーです!)
 バトンには皆の想いと願いが込められている。だからこそ大切に握りながら一生懸命走った。

「また一人抜かしたぞ!」
「こりゃ一位も夢じゃねえんじゃないか?!」
 観客や紅組達の期待は大いに膨らむ。

「水流崎さん! 皆の想い、受け取ってくださいーっ!」
 結が一番遠くで待機していた第四走者・トミヲへと、バトンパス。
 ――だがしかし。

「……なん、だと」

 期待を膨らましていた者達の目が点になった。
 お、遅い!
 トミヲのスタートダッシュは遅く、フリーズしてしまった紅組。
 一方で白組はしめしめと思った。
(これで1位も2位も白組が貰ったぜ!)
 トミヲの後ろを走っていた白組はゲスい笑みを浮かべ、さらっと追い抜かそうと――
 ……した瞬間だった。

「あ。アイツだめだって思ったろ? ……僕もさ」
「何だと!」
 追いつかれそうになってからのペースアップ!
「何故そんなことするのかいって? いきなり全力で走ったら転ぶからだよ!!!」


   そうだ

  風のように

    忘れてたな

  身体を動かすことが

   こんなに気持ちいいなんて。



(by.水流崎トミヲ)


 競技場内は騒然としていた。
 なぜか?
 それはトミヲが恐ろしく早く、色々な意味で凄かったからなのだ。
 息を止め、全力疾走――。
 心の中では爽やかだが、実際には酸素不足なのか追い詰められているかのようにがむしゃらで。

「トミヲ……!」
 漂う全力感に、リッドは思わず感動した。そして観客、紅組だけに留まらず、白組にまで。

「なんだこの出鱈目な速さはぁ!」
 現在トップを走っていた第四走者・カーレルはトミヲの走力を恐れながら走るものの、どんどん差を縮められていく。

 トミヲはゴール目前で、仲間の声が届いたような気がした。

「トミヲ殿!! あと少しなのじゃ!! 最後の力を振り絞るのじゃ!!」
「お菓子おいしいよー」

 ―――そんな応援を、胸に。
 ゴールテープを切ったのは生きる伝説、トミヲ!

 疲れのせいで一気に老けながら息を乱しているトミヲ、紅薔薇、結の元、大勢の者達が涙しながら駆け寄って来た。
「紅薔薇、結、トミヲ! 本当にありがとう!」

 ―――そして。

『優勝は、紅組!』

 巨大トロフィーは、紅組の手に!
 ジグは拳を突き上げ歓喜! メオは紅組と共にリッドを胴上げしつつ、ティーナ、紅薔薇、トミヲも、嬉しそうな紅組に囲まれて優勝を実感するだろう。
 そして10周年記念ということで最後は皆で記念撮影らしい。珍品のカメラはその為、運動会側で用意されていた。
 運動会で戦い合った紅白はこの時ばかりは肩を並べ、爽やかな満面の笑顔。
 結もそんな彼らを眺めつつ微笑んで、思い出を刻むのだった。

 青春と友情の運動会は大盛り上がりでこれにて、終幕!

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参加者一覧

  • 天罰を与えし聖女
    ティーナ・ウェンライト(ka0165
    人間(蒼)|28才|女性|聖導士
  • たかし丸といっしょ
    メオ・C・ウィスタリア(ka3988
    人間(蒼)|23才|女性|闘狩人
  • そよ風に包まれて
    来未 結(ka4610
    人間(蒼)|14才|女性|聖導士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師

  • ジグ・ルルグ(ka4966
    人間(紅)|26才|男性|霊闘士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/27 19:59:37
アイコン 相談卓ですよ
来未 結(ka4610
人間(リアルブルー)|14才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/05/29 22:56:59