• 東征

【東征】彼の地へ ~捲土重来~

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/28 19:00
完成日
2015/06/05 03:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「……此処は」
 転移門を潜り抜け、初めに感じたのは懐かしい山土の香り。すぐに、故郷であるエトファリカの香りだと理解した。望んでいた故郷の香りには違いは無くとも――しかし少女は動悸する自身の胸を鎮める事はできなかった。
「何故、此処に」
 少女、朱夏は周囲を見渡した。すぐ近くには応援の為に訪れた沢山のハンター達。周囲にあるのは、見覚えのある山だった。フウビ山。都に出るはずの転移が――失敗した?
 転移門は繋いだ。数多の人命を賭したのに、何故。思考だけが巡る。巡る中で、溢れ落ちた言葉は。
「……ヒュウガの里」
 今、朱夏達がいる一帯の名だった。フウビ山とマルサキ湾に挟まれ、エトファリカの都へ通じる幹線道路があるこの道はエトファリカの都、天ノ都に向かう為には『必ず通らなくては行けない場所』だ。
「朱夏殿」
「解っている。罠だ」
 武僧の押し殺した声に、短く答えた。転移の位置を、外された。恐らくは恣意的に。それを成し得る者に、心当たりがあった。
「山本五郎左衛門」
 押し殺した感情と共に、エトファリカが誇る武家を屠った憤怒の高位歪虚の名を呟いた、その時だ。
「転移門が閉じるッ!」
「……!」
 喧騒を他所に、無情にも溶けるように消えていく転移門。そして――。
『黒竜の力で転移門を開けば、我が主が気付くに決まっておろう。愚かな』
 愉悦を孕んだ、老人の声が響いた。けたたましく笑う老人の姿は無い。いかなる術を用いたか、脳裏に響き続ける不快な声。
『のう、西方からの増援達よ。呪うがよいさ。己の決断を。ぬしらに縋った、この地のニンゲンの愚かさを』
 言葉に。蹂躙され、それでも諦めずに死地を抜けた誇りを穢された東方の人間たちの顔に、憎悪が滲む。朱夏も、そうだ。だが、それ以上に絶体絶命な状況が彼女に思考を強いさせていた。
 死ぬ。
 応援に来た、ハンター達が。
 ――それだけは。
「……皆様。私に、命を預けては下さりませんか」
 自然と、口をついて出ていたのは――それでも、死地への、誘いに過ぎなかった。
「私に、策がございます」



 朱夏を先頭にハンター達は駆け出した。
 眼前には歪虚の大群。それも西方では見かけた事もない、“憤怒”の軍勢が待ち受けている。
 特にこの東方では日本妖怪とも呼ぶべき憤怒が跋扈していた。
 緑色の体に長い舌を持つ子供のような姿の歪虚。
 白い着物に白髪頭を振りかざした包丁を持つ老婆の歪虚。
 巨大な男性の頭だけになっている歪虚。
 見た目にも悍ましいそれらが、目指すべき天ノ都への道に立ちはだかっている。
 既に退路は断たれた。増援も見込めない。活路は文字通り、自分達で切り開くしかない。
「白龍様の意志を継ぎ、我らの呼びかけに応じて下さったモノノフの皆様。辺境の民を救いし奇跡を、どうか我らにもお授け下さい!」
 刀を抜きながら叫ぶ朱夏。その呼び声に応えるようにハンター達は武器を手に取る。
 彼らは言わば陽動。朱夏は言っていた。この道沿いに存在するフウビ山は実は古墳であり、内部に山を突き抜けた隠し通路があると。
 今、敵陣の背後に向かって仲間達が走っている筈だ。それを悟らせない為にも、ここで獅子奮迅の活躍を魅せつけねばならない。
「――ほう? 正面突破を選択するとは、卑怯者の人間共にも思い切りの良い者がいるようだ」
 そんな妖怪の軍勢をかき分け、一体の歪虚が姿を見せた。
「なっ!? 悪路王だと……!?」
 一瞬で朱夏の顔色が変わった。
 その歪虚は六本の腕と三面の顔を持つ、赤い肌の鬼。それぞれの手に剣や独鈷杵を握る姿は阿修羅を思わせる。
「……最悪です。山本も悪路王も、これまで幾つも四十八家門を滅ぼしてきた強敵です」
 後方に回り込んでいる奇襲部隊が仮に上手く山本を抑えたとしても、あの怪物を突破しなければ都に辿り着けない。
「だとしても……我々はここで倒れるわけには行きません!」
「我を悪路王を知って尚挑むか。その潔さを、何故……」
 ギリ、と鬼は歯を鳴らす。そうして隆々と筋肉を滾らせた腕で刃を振るう。
 雷鳴が轟き、衝撃で大地が抉れる。鬼はその両の眼を輝かせ、ずしりと一歩を踏み出した。
「……怒りだ。貴様ら人間には怒りしか起こらぬ。脆弱にして矮小な人類よ! 無間の地獄で己が醜さを嘆くが良い!」
「四十八家門が一ッ! 立花院、朱夏! 推して参るッ!」
 肌に突き刺すような威圧感から、己を奮い立たせるように叫び駆け出す。
 エトファリカ東方連邦国での戦いが今、幕を開けようとしていた――。



「……ぐわっ!? クッソが、やりやがった!」
 エトファリカ東方連邦国首都、天ノ都。東方結界の中心部である龍尾城に少年の声が響き渡った。
「龍脈に介入して転移先をここからずらしやがったな、あんのジッジイ! 山田だったか!?」
 龍尾城の中庭では『歓迎! おいでませ東方!』と書かれた横断幕の下で多数の東方民が集まっていた。
「スメラギ様、それは山本五郎左衛門の事でしょうか?」
 側に控えた男の声に少年は舌打ちし。
「あ? そんな名前だったか? ったく、せっかくの歓迎会が台無しだぜ」
「スメラギ様! まさか、朱夏達は……!?」
「ああ。変なトコに跳ばされちまった」
 ざわめく陰陽師達。少年は酒瓶を手に取り、その先頭に投げつける。
「ガタガタ騒ぐなボケ。都からそう離れちゃいねーよ」
「山本の仕業でしたら、今頃攻撃を受けているはずです! 御柱様、どうか救援を!」
「それよりも転移門を再構築する。西方の連中の帰り道を確保しないとな。……山田のジジイ、朱夏を送り込んだ龍脈をずっと監視してたのか? 暇なの? アホなの?」
 少年、スメラギの判断に側近の男、征夷大将軍、立花院紫草は思案する。
 今ここで慌てて兵力を差し向ければ、都の守りが手薄になる。敵の狙いはそれかもしれないのだ。
「下手には動けませんか」
「おら陰陽師共、転移門の再設定だ。もう二度と介入させねーぞ、御柱様ナメんなマジで」
「し、しかし……」
「こっから先ずーっとこういう不利な戦いが続くんだ。ここで全滅するならそこまでって事だろ? 朱夏達の連れてきた連中がどれほどのモンかは知らねーが……ここはお手並み拝見といこうじゃねーの」
 ニヤリと笑い、スメラギは小指で耳をほじりながら去っていく。
 慌ててその後を追う陰陽師達を見送り、紫草は遠く空を見上げた。
「朱夏……頼みましたよ」
 せめて彼らを直ぐに迎え入れ、傷ついた者を治療出来るようにしておかねば。
 紫草は部下達に支度させ、結界の境界線へ向かうように指示した。

リプレイ本文

●包囲網
 東方の地へ転移したハンター達、その前に多数の歪虚が立ちはだかる。
 その総数は百を超える。そしてその先頭に経つ巨躯の修羅、悪路王。状況は間違いなく最悪と言えた。
「スメラギと将軍様からBLの匂いを感じ取って東方に行こうとしたらご覧の有様だよ!」
 小刻みに震えながら叫ぶエハウィイ・スゥ (ka0006)。朱夏は意味がわからず首を傾げる。
「あー、いや。それはわからなくていいぜ」
 肩を竦めるティーア・ズィルバーン (ka0122)。一方Uisca Amhran (ka0754)は胸に手を当て。
「この肌に刺すような怒気は一体……」
「さてね。だが、強さには間違いなさそうだ」
 グレイブ (ka3719)は笑みを作り、悪路王を睨む。
「俺は強者が好きでね。精々楽しませてもらうさ」
「恐らくは十三魔と同じレベル……その技、体感させてもらおうか!」
 振動刀を抜きながら声を上げるアルト・ヴァレンティーニ (ka3109)。アイビス・グラス (ka2477)は左右の拳を合わせ。
「まさかいきなり高位歪虚と対面するとはね……!」
「相応のプレッシャーだが、今更この程度で怯むものか」
「まずは奴を抑えない事にはどうにもならんな。奴を包囲するぞ!」
 レイス ka1541)に続きアウレール・V・ブラオラント (ka2531)が声を上げる。
 相手は強敵。そしてあれをどうにかしない事には、突破口を開く以前の問題である。
「全ては無駄な足掻きと知れ、人間。その命運はここに尽きたのだ」
 胸の前で二つの手を合わせ、残り四つに武具を握った悪路王は清澄な、しかし重苦しい闘気を放つ。
 包囲網突破の最初にして最大の壁となるこの怪物を包囲するように、ハンター達は四方から近づいていく。
「尻込みしても仕方ありません。まずは一太刀、仕掛けさせていただきましょう」
 頭の上に乗ったパルムが瞳を輝かせると同時、上泉 澪 (ka0518)の身体からマテリアルが迸る。
 踏み込みから鋭く抜刀、繰り出した一撃が悪路王の剣と激突し衝撃を走らせる。
 澪の一撃は強烈だ。並の歪虚ならひとたまりもない威力。だが。
「……ほう?」
 僅かに眉を動かし、悪路王は剣を振るう。甲高い剣撃の音と同時に澪が下がると同時、ルピナス (ka0179) の手裏剣とレム・K・モメンタム (ka0149)が迫る。
 手裏剣をなぎ払う悪路王の足元へ、大地を引き裂きながらレムはバルディッシュを打ち込む。これを別の腕が槍で払うと、レムの身体が僅かに浮き上がった。
「波状攻撃じゃ! 互いの動きをカバーし、奴の好きに動かせるでない!」
 レムへ迫る追撃の槍をフラメディア・イリジア (ka2604)がハンマーで打ち払う。
 ラン・ヴィンダールヴ (ka0109) はその間に背後から奇襲を仕掛けるが、三面の一つがぎろりと、目を向け、背後に回した剣が攻撃を防いだ。
「顔が3つかー、すごいねー? 意思も3人分あったりするのかなー? あははー」
「笑ってる場合じゃないでしょ、もう!」
 反撃の刃を飛び込んできたアイビスの拳が打ち払う。衝撃音と共に跳ね上がる剣、そこへレイスが低い姿勢から飛び込んでいく。
 繰り出す槍は術具に阻まれる。その瞬間光が瞬き、雷鳴が轟いた。
 大地を刳り吹き飛ばした雷撃。背後へ飛び退きながらレイスはその威力に息を呑む。
「化物だ……どう考えても化物! くっ、世界はどうしても私とBLを切り離したいらしい……!」
 頭を抱えわなわなと震えるエハウィイ。悪路王は胸の前で手を合わせた姿勢のまま、ふっと息を吐き。
「少しは腕の立つ者がいるようだが、所詮は個の力。貴様ら人間は群れを成せば成すだけその合理性を失っていく」
「確かに人は時に集まる事で過ちを起こします。しかし、互いに支えあう絆は確かに存在するのですっ」
 Uiscaの言葉に頷き、ティーアは朱夏の肩を叩く。
「何事もうまく運ぶ事ばかりじゃねぇさ。だが、力を合わせりゃ切り抜けられる事もある」
「どれ、一つやってみようか。報酬は朱夏嬢ちゃんの唇でどうかねぇ?」
 反対側の肩を叩きグレイブが笑う。朱夏は苦笑を浮かべ、迷いを振り切るように刃を構えた。
「挨拶はここまで。ボクの名はアルト・ヴァレンティーニ。悪路王に我が技の真髄、お披露目しよう!」
 叫び、笑みを作りながら駆け寄るアルトの一撃を交差させた刃で受ける悪路王。
「……気に入らんな」
 まるで自分達がきれいなものであるかのように語り。
「気に入らん」
 正義を成しているかのような口ぶりで刃を振るう。その自惚れが――。
「心底、気に入らんッ!」
 胸の前で合わせていた手で腰から更に刃を二つ抜き、悪路王はアルトを弾き返す。
「その本性を暴いてくれよう。仲間が次々に斃れ、いよいよ命が危うくなれば、貴様らもその性根を晒すだろう!」
 雷を纏った刃で、鬼は吼える。
「さあ、命乞いをしろ! 無残にその生命を散らしながら、絶望に悪辣を吐き出のだ!!」
「……なんなのよ、アンタ」
 冷や汗を流し、ぽつりとレムは呟く。
 それは間違いなく怒りだ。だがそれは同時に嘆きでもある。
「何がどうなれば……アンタみたいなヤツが出来上がるのよ……!」
 迷っていられる相手ではない。どちらにせよ全ては死闘。
 生き残る為には敵を倒さねばならない。それが戦場の単純な道理なのだから。

「うむ! 悪路王は抑えた! 我らは突破口を開くぞ!」
 馬上にてライフルを掲げるカナタ・ハテナ (ka2130)。悪路王との激戦を横目にハンター達は走り出す。
「皆が悪路王を抑えている今が好機だ! 気合入れて行くぜ!」
「一気に風穴を開けてやるっす!」
 剣を肩に乗せ歪虚の大軍に突っ込むヴァイス (ka0364) 。大きく跳躍し敵の中に飛び込むと、思い切り刃を振るう。
 紅い斬撃の軌跡が歪虚の大軍を切り伏せ、続いて精霊から力を得た神楽 (ka2032)が巨大な斧を手に、体ごと回転しながら薙ぎ払う。
「真ん中行くぜ、ミィリア! 付き合えよ!」
 斧を振り回し敵を蹴散らしながら叫ぶ岩井崎 旭 (ka0234) 。その肩の上に飛び乗ったミィリア (ka2689) は再跳躍。空中から大太刀で歪虚に斬りかかる。
「旭、その作戦乗ったでござるよ!」
 二人は互いの左手を掴み、回転するように右手に掴んだ得物で敵を吹き飛ばして行く。
「おらおらおらぁ! 温いぜヴォイド! 俺達を止めたかったらあと100倍は持ってきやがれ!」
「道がなければ作るまで! 無理矢理通してもらうからよろしく! でござる!」
 飛び込んだ前衛が既に大量の歪虚を薙ぎ払ったが、数には圧倒的な隔たりがある。
 一瞬で包囲された彼らを支援する為、近衛 惣助 (ka0510)は近づく敵を銃撃し、動きを牽制する。
「随分熱烈な歓迎じゃないか、精々派手に暴れてやろうぜ!」
「ヴァイス達は……やらせない……」
 跳躍し、掌の中に重ねた手裏剣を一斉に降り注がせるシェリル・マイヤーズ (ka0509)。
 エルバッハ・リオン (ka2434) が火球を放つと爆炎と共に歪虚が数体空に舞い上がった。
「いいぞ! その調子で前衛の隙をカバーし、攻撃の手が止まらないようにするんだ!」
「わかっています。右側、再攻撃します。シェリルさんは左側を!」
 アサルトライフルを連射する惣助。エルバッハは再び杖を構え、火炎弾を放つ。シェリルは前衛達の左側へ手裏剣で支援を行う。
「後方から仲間を支えるのも大事な戦術だ」
「そうだね……。たまには……いいかも、ね……」
 惣助の言葉に頷き返すシェリル。ヴァイスはそんな二人の様子を目端に捉え、背後からの敵を斬り伏せる。
「一体一体の戦闘力は大した事はない! 互いの背中を守って戦うんだ!」
 敵は前衛に集中しているが、それらを無視して雪崩れ込んでくる者もいる。
 突っ込んでくる妖怪へ神谷 春樹 ( ka4560 ) は馬上から銃撃。馬に乗せた犬はひっきりなしに吠えている。
「まいったな。敵の数が多すぎるよ。後方に下がらせないとこの子が危険かな……」
 ペットの犬の頭を撫でながらごちる春樹へ迫る妖怪。これを蘇芳 (ka4767) が大太刀で両断する。
「やれやれ……これは、やってもやってもキリがないね」
 馬から飛び降りた蘇芳が両手で構えた短剣を的に突き刺すと、蘇芳が止めの一撃を放つ。
「相手するにも、程々が一番だよ。これはね」
 溜息混じりに呟くと、敵陣からにょろりと飛び出した人の首が蛇のように迫る。
 鳳 覚羅 (ka0862) は機杖の先に三角形の魔法陣を浮かべ、三つの光弾を打ち出す。光は敵を追跡し、次々に射抜いた。
「してやったりといった感じがアリアリだね……だけど、あまり侮らないでもらいたいね、憤怒諸君」
 覚羅は馬上で刀を振るい、近づく敵を遊撃していく。春樹は銃撃でこれを支援。後方に犬を置いて戻ってきた馬に跨った。
 柏木 千春 (ka3061)がレクイエムを奏でると、歪虚の動きが止まる。その敵を斧で真っ二つにしつつ、神楽が振り返る。
「こんなに前に出てきて大丈夫っすか?」
「支援が届かなくなりますから。後ろは……私達は大丈夫です! だから、前へ!」
 千春が掲げたメイスから聖なる光が放射状に広がり、周囲の歪虚を次々に貫いていく。
「今です!」
「雑魚が雁首揃えやがって……蹴散らす敵には困らねぇぜ!」
 光に怯んだ敵を大斧で吹き飛ばす旭。構えたその斧の上に立ったミィリアを投擲し、刃を構えたミィリアは弾丸となって敵陣を食い破る。
「ミィリア達は一匹でも多くの敵を倒すから! 後ろの事は任せたでござる!」
「言われなくても!」
「お任せあれっす!」
 千春に迫っていた敵をヴァイスと神楽が斬り伏せる。肩に剣を乗せ頷くヴァイスとウィンクした神楽に千春は小さく頭を下げた。
「まったく、手荒い歓迎じゃな……む?」
 馬上から銃撃していたカナタが首を傾げる。
 あれだけの前衛の猛攻撃で歪虚の数は明らかに減った筈。だが少しずつその勢いが戻っているように思えるのだ。
 よくよく観察してみると、気のせいではなく明らかに歪虚の数が増えている。文字通り、どこからともなく湧いてきているのだ。
「いや~……増えるというのは聞いとらんのぅ」
 冷や汗を流しながら苦笑するカナタ。盛り返した歪虚は再びハンター達を飲み込もうと、雪崩のように迫っていた。



●禍津
 ――要するに、それは三体の歪虚が融合しているようなモノだ。
 通常の人型と一線を画す広大な探知範囲と六本の腕が成す鉄壁の防御。それは守備にだけ役立つわけではない。
 悪路王は雄叫びと共に大地を蹴った。一々包囲され、攻撃されるのを待つ理由はなかった。
「貴様らの弄する策など無意味! いかに雁首を揃えようと、圧倒的な力の前に為す術はない!」
 正面から刃を打ち鳴らすアルト。その視線が四方八方に動く。
 悪路王の腕がそれぞれ別方向から時間差で接近する。その攻撃軌道は全て別。当然だが一人でどうにか出来るものではない。
「アルトさん!」
 手裏剣を投擲するアイビス。一つの腕がそれを弾くのに止まる。
 アウレールとレイスが接近し、別方向から攻撃。これを止めるのに二つ腕が止まる。残り三つ。
 グレイブが槍を繰り出す。これを止めると残り二つ。
 だが、こうも前衛が密集して取り付けば、もうハンター達には思い通り武器を扱う程のスペースがない。
 悪路王の六本腕は人間が戦闘中に感覚で連携するのとは精度が全く異なる。これら攻撃を防いだ上で、二本腕でアルトを攻撃するのは容易い事だった。
 伸びてきた槍がアルトの脇腹を引き裂く。直後、術具が光を放ち、まとわりついていたハンター達を雷撃が吹き飛ばした。
「くそ、援護に入りてぇが攻撃が密集し過ぎるとお互いに当たっちまう!」
 舌打ちするティーア。朱夏も先の攻防、手出しをできず息を飲んでいた。
「文字通りの完全連携だね~」
「攻守共に隙なし、と言ったところですか。前途多難ですね」
 へらりと笑うラン。観察していた澪がすっと目を細めながら呟く。
「貴様らは我を捨てられぬ生き物だ。だが、我らは違う。融和する事こそ憤怒の真髄よ」
「貴方ほどの武人が……なぜ人間をそこまで嫌うのです?」
 Uiscaの問いを悪路王は鼻で笑う。
「単純な事よ。自らの弱性から目を反らし、数で他者を蹂躙する。人間とは醜く増幅された汚濁に過ぎん」
「そんなに怒るからには理由がちゃんとあるんだろうけど、力ある方がない方を甚振れば変わんないよ、それ」
 ルピナスは首を横に振り、真っ直ぐに悪路王を見つめる。
「繰り返すだけだよ。そんなんで楽しいの?」
「楽しい? 何を馬鹿な事を。今の我らに必要なのは怒り、只それだけだ」
「人間に絶望するのは勝手だけどね。こちとら人間ナメられるのは腹に据えかねるのよ」
 腕を振るい、レムは叫ぶ。
「何故なら私は人間だから。そして、人間の可能性ってヤツを信じているからッ!」
「その拙い希望が、種全体を死滅させるのだ」
「それでも!」
「ならば死ね! その理想のままに!」
 宝具から放たれた図太い雷撃がレムを飲み込む。
「人間だから、歪虚だから卑怯、なんてことはありません! 心の在り方は種族で隔てられる物ではないはずです!」
 Uiscaはレムにマテリアルの光を注ぎ、加護を与える。辛うじて雷撃を乗り切ったレムは肩で息をしながら悪路王を睨む。
「個人単位の連携では拉致があかん! 即席だが、少数単位で班を作る! その中で連携し、特に攻撃と防御に関して分担するぞ!」
 アウレールの声にハンター達は近くにいる仲間に目を向ける。
「レイス、私を盾にしろ!」
「わかった。まずは一撃入れにいく。ついてこられるな?」
 アウレールの隣で槍を握るレイス。この阿修羅を倒すには、どれだけ息を合わせた行動が出来るかにかかっている。
 誰が攻撃して誰が防御するのか。そんなことを一々考えている暇はない。反射で行動できなければ、同じ土俵にすら立てない。
「私が攻撃に回ります」
「落ち着けって。ここで君が倒れたら色々と後が厄介なんだからな」
「俺達がオフェンスだ。朱夏嬢ちゃんはアシストを頼む」
 ティーアとグレイブの言葉に朱夏は刃を握る。
「しかし、この状況は私達の不手際です」
「朱夏がいなくちゃ天ノ都へにの道わかんないんだからさ。それに、怪我したらちゃんと回復するから」
 笑いかけるエハウィイ。そんなハンター達に悪路王は目をつむり、そして怒りを灯して走り出す。
 悪路王は突進から槍を繰り出す。ティーアは跳躍してこれを回避。
 追撃の刃を朱夏が弾くと、グレイブが強く地を蹴った。衝撃を伴った突きの一撃、これを悪路王は剣で受ける。
 甲高い金属音と共に火柱が散る。舞い上がっていたティーアの空中からの斬撃、防がれる。
 背面からのランの斬撃、術具が防ぎ、雷撃が迸る。ランの首根っこを掴んで雷の範囲から外し、ルピナスは振動刀を振るう。
 背を向けたまま身をかわし、回転するようにして周囲のハンターを薙ぎ払う悪路王。レムは駆け寄り、下段をバルディッシュで薙ぎ払う。
「三面六臂でも、足は二本でしょうッ!」
 斬撃――回避。レムの視線が上へ。巨体は空中で足を折っている。跳躍したのだ。
 そのまま大地に槍を突き、棒高跳びのように空を舞う、回転しながら落ちてくる修羅が狙うのはエハウィイだ。
 盾を構える間もなく、目を見開いたまま少女の身体が地を跳ねる。怪物は二本の腕で逆立ちし、足を組んだ姿勢のまま息を吐いた。
「――オイ」
 冷や汗を流すティーア。人体において、脚部への攻撃は圧倒的に有効だ。
 何故ならば二本の足でしか人は基本的に立つ事が出来ない。腕を使えば自由が奪われる。だが、それが六本ある場合はどうだ?
 雷撃から身をかわすティーアへ、雷を追うように回転する怪物が突っ込んでくる。蹴りがティーアを吹き飛ばすと、朱夏がその名を叫んだ。
 グレイブは渾身の一撃を放つが、ひどく不安定な状態に見える悪路王はがっちりと二刀で受け、雷撃でグレイブを迎撃する。
「いやー……つっよいねー? アリなの~、あれ?」
 ぽつりと呟いたランの言葉。Uiscaは傷ついた仲間達を治癒し、エハウィイも鼻血を拭いながらそれに参加する。
「こんなに動き方が予測できないと、連携しようにもどうにも」
 苦笑を浮かべるルピナス。そう、悪路王は普通の人間とは違う。
 通常の人間ならば関節の可動範囲、視界、足運びから行動はある程度予測出来る。
 しかし三面六臂なら。別に――まともな人型で戦う必要はない。
 踊り狂うように尋常を超越した挙動で迫り来る暴力。それはまるで、生きた嵐のようであった。

「旭~……疲れてきたでござるよぅ!」
「倒しても倒しても減らねーじゃねぇか!」
「さっき100倍って言ってたじゃない」
「前言は撤回したくねぇがこれは……ミィリア、後ろだ!」
 一際巨大な壁の様な歪虚が倒れこむ。これを惣助の放った弾丸が凍らせ、粉々に砕いた。
「数が多すぎる……前衛が持たない!」
「スキルがもう……」
 舌打ちする惣助。攻撃魔法の残弾に焦り始めるエルバッハ。
 敵に囲まれ肩で息をするヴァイスと神楽。その間で千春も傷を負った腕を庇う。
「こいつら同士討ちすらお構いなしっすよ!」
「やられたら増やせばいい、そういう運用か」
「すみません。私がもっと回復を使えれば……」
「このくらいの傷、へっちゃらっすよ」
「ああ。千春はよくやってくれているよ。もう少しだけ付き合ってくれ」
 憤怒の歪虚達はどこからともなく現れる。
 理由は不明だ。ただ、状況が好転していない事だけはわかる。
 一体一体は大した敵ではない。精鋭達は次から次に切り捨て、切り捨て、切り捨て続けている。
 だが終わらない。突破口が見えない。敵の向こう側にか細く光るはずの希望、そこに辿り着けない。
 疲労も限界だ。何体倒したのかもう覚えていない。口数も少なくなり、暗澹とした空気に支配された、その時。
「――奇襲班じゃ! 敵後方に友軍あり!」
 馬上で望遠鏡を覗いていたカナタが通信に、そして直接近くの仲間へ叫ぶ。
 友軍が現れた。後方からの奇襲に対応する為、歪虚は二分される。正面の敵の密度が薄くなる。
「今! 南西の方角、一点突破じゃ! 悪路王の班にも連絡を!」
「してる……けど、向こうは劣勢みたいで……」
 困った様子のシェリル。カナタは振り返り、唇を噛む。
「この機を逃しては再び包囲される。待っている時間はないぞ……!」



●絆
 悪路王の攻撃にアウレールが血を流し倒れる。
 追撃を庇うアイビス。レイスとアルトの攻撃は、しかし敵には届かない。
 結局の所、悪路王と対峙したハンターの中でまともに連携出来たのはこの四人だけであった。
 ただの歪虚が相手ならば十分だった筈だ。しかし、相手は三位一体。
 “どこかの誰かと連携する”と言った甘い想定では、とても対応出来ない。
 ハンターは皆性格も武器も得意戦術も異なる。それを悪路王と同じレベルで揃えるなら、より緻密な意思疎通が必要だった。
 四人だけが連携したところで理想的な多重多面同時攻撃は成立しない。
 勿論、身を守ることは出来る。耐え凌ぐ事は出来たと言える。だが……。
「どうした? 我は健在だぞ?」
 撤退の連絡はもう来ている。レムは短伝を握り締める。
 逃げられない。こんな相手に背を向けて逃げたら、何がどうなるか。
「だとしても、やるしかあるまい。今だけが好機なのじゃ」
 ふっと息をつき。フラメディアが銃を構える。
 そうだ、やるしかない。だからハンター達は一斉に攻撃を放つ。例えそれが悪路王に届かなかったとしても。

「俺が穴を開けるんで続くっす!」
 味方を誘導しながら敵を食い止める神楽。旭とミィリアは先陣を切り、突破口を作っていく。
「一緒に生きて帰るよ、旭!」
「ったりめーだ! 俺達は生きて帰るんだ。じゃねーとメルちゃんがまた泣いちまう!」
 二人は交互に敵を蹴散らし、味方を先導する。
「最後の突撃だ! 暴れまくって勝ち逃げと洒落込もうぜッ!」
 馬上から火炎で薙ぎ払い、敵の上を飛び、デルタレイを放つ覚羅。
「退路を維持するにも限界があるよ!」

 離脱を開始したハンター達。一斉攻撃も虚しく、悪路王は猛然と追撃を開始する。
 その間に立ちはだかったのは澪だ。攻撃を弾き、背後に跳ぶ。
「殿を務めます。戦いながらでなければここからは逃げられません」
 悪路王の繰り出す槍、これをフラメティアが弾く。二人は肩を並べ。
「もう一息じゃ。なんとか後退するぞ!」
「アウレール、立てる?」
「くっ、すまない……」
「あんなに悪路王を押し留めたんです。胸を張ってください」
 血まみれのアウレールに肩を貸しながら歩き出すアイビス。そこへUiscaが回復を施す。
「朱夏! あんたはこっち!」
「しかし!」
「あんたは絶対生き残らなきゃダメ! もし道に迷ったらどうするの?」
 エハウィイに肩を揺さぶられ、朱夏は強く歯を食いしばり走りだす。
 ヒーリングスフィアを放ち、弓矢で後方を支援するエハウィイだが、まるで悪路王には届かない。
 ティーアとグレイブが左右から仕掛けるが、悪路王は止まらない。
 レイスはブランデーを投げつけ銃撃し発火を狙うが、火など恐れもしない。
 追い付いてきた悪路王へ振り返り、バルディッシュを叩き込むレム。だが反撃の一撃で大地を転がる。
 澪とフラメディアが交互に攻撃し、その頭上をルピナスが舞う。頭上からの斬撃を加え、三面同時攻撃。
「無駄だとまだわからぬのか!」
 全ての腕を同時に振るい、更に纏った雷撃が大地を刳り吹き飛ばす。
「こんの、バケモンがぁ!」
 額から血を流し斬りかかるティーア。それを悪路王は意に介さず、熱のない瞳で見下ろす。
「見下してんじゃねぇぞ……鬼が!」
「折れない心 胸に秘め 勇気の翼で 立ち上がれ♪」
 祈るように歌いつつ回復し続けるUisca。だが効果は焼け石に水だ。
「どうした。何が絆だ。何が人間の力だ」
 正面から力任せに繰り出すアルトの強力な一撃。だが悪路王はそれを三つの腕を重ね、にべもなく防ぐ。
「心一つに、想い一つに出来ぬ貴様らは! 理解し合う事を怠けた貴様らは! 不理解の果てに他者を拒絶し、弾圧する! 何よりも誰よりも絆を信じられぬのは、貴様ら人間であろうがッ!!」
 歯ぎしりし背後に跳ぶアルト。引き金を引きながら目を細める。
「情けない……でも、悪いけどここで死ぬわけには行かないんだ」
 雷と怒気を帯びた阿修羅が迫る。しかしその時、歪虚の軍勢の中から一人の鬼が悪路王に駆け寄る。
 鬼が一言二言伝えると、悪路王の顔から憎しみが消えた。そしてハンター達を一瞥し、背を向ける。
「ああ。当然だ、今直ぐ向かう。我は決して仲間を見殺しにはしない。あやつらとは、違ってな」
 鬼を片手で抱えると悪路王は大きく跳んだ。その姿は歪虚の軍勢に紛れて消える。
「――くそっ!!」
 拳で大地を打つアルト。その肩を叩き、レイスは頷く。
「悔しい気持ち、よく分かるよ~。だけど今は、ここから逃げなきゃ」
 待機させていた馬に乗り込んだランが傷だらけのアルトに手を差し伸べた。

「……来た!」
 悪路王と戦っていたハンター達の姿を捉え、春樹が声を上げた。
「もうすぐ別の仲間が援護に来ます! 急いでください!」
「うん? 来るのかい?」
「いえ……ハッタリなんですけど……」
 蘇芳の言葉に春樹は眉を潜める。策としては良い案だと思うのだが、妖怪連中に果たして言葉が通じているのかは怪しい。
 朱夏後ろに乗せたUiscaが最初に通過する。馬を持つ者は持たない者と乗り合わせ戦場を駆ける。
「こっちだよ、お嬢さん!」
 ヘトヘトになったエハウィイを場上に引き上げ走る蘇芳。立ちはだかる歪虚を斬り裂き、突破口を目指す。
「もう一息なんだ。どいてもらうよっ!」
「急いで! 逃げきれなくなる!」
 覚羅の炎で消滅した敵をくぐり抜け、ハンター達は走る。
「これで全員です!」
「うむ! よし、一気に行くぞ!」
 馬上から発砲する春樹の声にカナタは数珠を鳴らす。すると光の波動が広がり、周囲の歪虚の動きを止めた。
「千春どん!」
「はい!」
 二人はレクイエムを奏でながら走る。特にカナタはこの時の為に温存したレクイエムを連続奏射し、敵を押し留める。
「ふははは! 何か用かい? なのじゃ……妖怪だけにのッ」
「よ、余裕ありますね……」
 冷や汗を流す千春。惣助は銃を連射し、冷却弾で背後の敵を足止めしながら叫ぶ。
「シェリル! くそ、どこへ行ったんだ!?」
 先程まで一緒だったのだが、後続を支援する為にシェリルと逸れてしまった。
 そのシェリルは背後からの敵を食い止める為に刃を振るっていた。まとめた手裏剣で敵を足止めするが、数が多すぎる。
「シェリルさん!」
 そこへ火球が飛来し、歪虚を吹き飛ばす。馬で駆けるエルバッハは腕を伸ばし、シェリルはその腕を掴み、エルバッハに抱きつく。
「しっかり捕まっていてください!」
 スリープクラウドを残し撤退するエルバッハ。シェリルは手裏剣を投げ、道を作る。
「あんなところで活躍していたのか」
「二人は大丈夫そうだな。行くぞ、惣助」
 ヴァイスと共に走りだす。なんというか。
「いつの間にか成長しているものなんだな……」
「そうだな……」
 二人は少し寂しい気持ちになった。
「皆がここまで御膳立てしてくれたんじゃからの。踏ん張り所じゃ」
 レクイレムの連続使用で道を切り開いたカナタの視線の先、道を塞いでいた歪虚が吹き飛んだ。
 奇襲班が向こう側から支援しているのだ。魔法や銃撃で道が切り開かれ、剣を手にした仲間達が待っている。
 傷ついたハンター達は互いを支え合い、新幹道路を駆け出した。



 天ノ都を中心とした首都圏にまで辿り着けば、結界の守護を得る事が出来る。
 なんとか結界内に転がり込んだ一行は、天ノ都を目指す前に一休みする事になった。
「あ~、しんどかったっす……もう一回やれって言われても絶対ごめんこうむるっす」
 どっかりと座り込む神楽。他のハンター達も倒れたり座り込んだりしている。
「朱夏!」
「シンカイ……無事であったか!」
 別働隊の中から顔見知りを見つけ駆け出す朱夏。グレイブは帽子のつばを下げる。
「……こんな働きじゃ、朱夏嬢ちゃんの唇は強請れねぇな」
 ハンター達は目的を果たした。結果は間違いなく成功だ。だが、胸には悔しさばかりが募っている。
「あの悪路王って歪虚、ひどい顔してたね」
「ん、そうだねぇ。よっぽど何か、許せない事があったんだね」
 ルピナスの呟く声に腰を下ろしたリンが愛刀の刃を見つめながら答えた。
「私達は生きてこの地に辿り着いた。きっとここからでも、やれる事はあるんじゃないかな?」
 蘇芳が優しく語りかけると、澪は頷き。
「少なくとも、悪路王の力の一端を理解しました。次に繋げる対策も」
「より一層、心を一つにする必要があるのう。次も肩を並べてくれるか?」
 フラメディアの声に頷く澪。二人共実力は本物だ。動き方さえもっと早く噛み合えば……。
「やはり並の歪虚ではないみたいだね。あの後奇襲班の方に向かったと聞いたから、詳しい話を聞いてみよう」
 顎に手を当てる覚羅。その視線の先ではミィリアと旭が折り重なるようにして倒れている。
「二人共大丈夫ですか?」
「すみません……もうすっかりスキル切れで」
 顔色を窺う春樹。しゅんとした千春の声に旭は首を振り。
「いやいや。余裕だから、余裕……」
「旭~、へとへとでござるよぅ」
「バッカ今強がってんの! 顎を膝に乗せるな膝に!」
 拳を見つめ、歯を食いしばるティーア。その姿にUiscaが目を細める。
「あれに勝つには、こっちも鬼になるしかねぇのか……?」
「それは違うと思います。だって、悪路王は……私達に、鬼になってほしくないようでしたから」
 アルトは結界の向こうをじっと見つめ、小さく息を吐く。
 間違いなく、力を手にした筈だ。生半可な敵など寄せ付けない程の力を。
「強い敵だったな」
 レイスの声に顔を上げる。男は肩を並べ。
「あの強さは心から来る物のように思う」
「ボクの心が弱いって事?」
「そうではない。だが……」
 声に振り返ると、アウレールとアイビスが手を振っている。
 思えばあの戦いの中で、アルトは何度もアイビスとアウレールに守られていた。
「どうしたの、二人して?」
 アルトに笑いかけるアイビス。アウレールは肩を竦め。
「すまないな。守りきれなかった」
「悪かった。攻めきれずに」
 二人の男は顔も合わせず、互いの拳を軽く合わせた。
「それにしても……東方でも厳しい戦いになりそうじゃのぅ」
「ああ。だが、俺達も少しずつ強くなっている」
 カナタの声にヴァイスは頷く。惣助は少し離れたところで手を取り合うシェリルとエルバッハを見やる。
「そうだな。俺達も負けていられない」
 誰かが声をあげた。結界の内側、天ノ都の方向から東方の軍が近づいてくるのが見えたのだ。
 誰一人欠ける事なく、ハンター達はこの地に辿り着いた。それは間違いなく勝利と呼べる。
 だが、エトファリカでの戦いは始まったばかりだ。新たな脅威、そして新たな仲間が待つこの東の地に。
 ハンター達はまた、新たなる一歩を刻み込んだのだ。

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MVP一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭ka0234

  • ヴァイス・エリダヌスka0364
  • 双璧の盾
    近衛 惣助ka0510
  • 猫の守り神
    カナタ・ハテナka2130
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434
  • 春霞桜花
    ミィリアka2689
  • 光あれ
    柏木 千春ka3061

重体一覧

参加者一覧

  • もえもえきゅん
    エハウィイ・スゥ(ka0006
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 皇帝を口説いた男
    ラン・ヴィンダールヴ(ka0109
    人間(紅)|20才|男性|霊闘士
  • アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター
    ティーア・ズィルバーン(ka0122
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 運命の反逆者
    レム・K・モメンタム(ka0149
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • その心演ずLupus
    ルピナス(ka0179
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士

  • 上泉 澪(ka0518
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 勝利への雷光
    鳳 覚羅(ka0862
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 猫の守り神
    カナタ・ハテナ(ka2130
    人間(蒼)|12才|女性|聖導士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 光あれ
    柏木 千春(ka3061
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 一転突破
    グレイブ(ka3719
    人間(蒼)|42才|男性|闘狩人
  • 月下紫想
    神谷 春樹(ka4560
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 遠き我が子を想う父親
    蘇芳(ka4767
    人間(蒼)|43才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/26 06:29:14
アイコン 悪路王襲撃、相談所
カナタ・ハテナ(ka2130
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/05/28 04:41:13
アイコン 班分け表明所
カナタ・ハテナ(ka2130
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/05/27 02:32:17
アイコン 質問所
カナタ・ハテナ(ka2130
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/05/27 21:44:49
アイコン 突破口確保、相談卓
カナタ・ハテナ(ka2130
人間(リアルブルー)|12才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/05/28 14:46:26