邂逅への道〜流浪部族

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/06 22:00
完成日
2015/06/12 21:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●砦へのお誘い
 大鉱山レゲンイリス。虹の名を持つ鉱山が人類の手に戻って数日が経った。
 この鉱山は部族会議直轄の所有地とされ、今後辺境の為に活用されることが期待されている。
「ところで何で私がここの責任者になってるわけだい?」
 ラナ・ブリギットはふとした疑問、というより不満を横に控えていた同じ部族の仲間である男、ラッヅに問いかける。
「そりゃあ奪還作戦の指揮を取ったのも族長だし、一番暇そうなのも族長だからでしょう」
 ラッヅはその問いに淡々と答えた。つまりはそういうことだ。部族会議は今とても忙しい。それこそ猫の手を借りたいくらいに。
 そんな中で前線に出る戦力は持たず、鉱山や各種資源に関する専門知識を持ち、そのポストに就けても周りが文句を言わない功績のある部族。それを遊ばせておくほど部族会議のお偉方は甘くはなかった。
「はぁ、これでまた私達の物作りをする時間が減るわけか」
「いや、実際のところは族長だけですけどね。ハンマーを振る時間が減ってるの」
 悲しげな目をするラナに、ラッヅはまた淡々とそう答えた。

 そんな大忙しの鉱山には今何人かのお客様がやってきていた。
 その中には齢90を超える辺境の生きる伝説であるシバも含まれていた。
「邪魔するぞ。っと、取り込み中だったか?」
 小屋の中を覗いたシバの目に映ったのは地面とキスをしているラッヅと、拳を振り下ろした体勢のラナの姿があった。
「いや、何でもないよ。それにしても久しぶりだね、シバ爺」
「ああ、前に会った時はこれくらいの時だったか?」
「それは初めてあった時のことだろう?」
 右手の指と指の間を3cmほど開けて問いかけるシバに、ラナはくすりと笑いながらその間違いを正す。
「たしか10年前だったか。子供が立派な戦士になっていても当然だな」
「だから私達は戦士じゃないって。ただ物を作るのが好きなだけさ」
 シバの明らかな子供扱いにラナは反感も含めてその言葉を否定する。
「いや、立派な戦士だ。アイツもそうだったからな」
 懐かしむような目で自分を見てくるシバの瞳に、ラナは頬を掻いた後に降参とばかりに手を振って別の話題を始める。
「それで何の用だい? てか、その怪我治ってないんだろう?」
 ラナはシバの体のあちこちにある包帯を見て言う。一見すると健常そうだが、今もテーブルに手をついてふらつく体をなんとか抑えているのが分かった。
「それはお前さんが中々返事を返さないからだ。2ヶ月は前に使いの者を送ったはずだが?」
「ああ、パシュパティ砦の件かい。確かにしっかりした工房は魅力的だね」
 シバの言う返事とは簡単に言えばパシュパティ砦への勧誘だ。山岳猟団が居城としているその砦には規模は小さいがしっかりとした工房がある。
 流浪の部族であるヴァルカン族がもしその工房を使えば今より早く、そして多く、良質な物を作ることができるだろ。
「しかし、帝国がよく許したもんだね。いや、あくまで見逃されてるだけなのか」
 そう、実は山岳猟団と帝国の間には軋轢があり、ついこの前にとうとうその袂を別つことになったのだ。
 そして帝国から独立したことにより色々と足りないものが出てくる。その中で武具の供給を頼める相手として白羽の矢が立ったのが辺境の物作り部族であるヴァルカン族なのだ。
 だが、そんな経緯を持つ山岳猟団に手を貸すとなればヴァルカン族も帝国に睨まれる可能性がある。
「さて、どうしたものかね」
「別に断って貰っても構わんぞ」
 真剣な表情で悩む仕草をするラナと、その視線を受けてただただ返事の言葉を待つシバ。言葉も音もない時間が過ぎていく。
「族長、何を焦らしてるんですか。答えならついこの間皆で出したばっかじゃないですか」
 そこで今まで地面に転がっていたラッヅが急に起き上がってそう口にした。
「何だ、ラッヅ。私の楽しみを奪うな。もう少しくらい楽しませてくれてもいいだろうに」
 ラナは不満そうに眉を顰めながらラッヅの向こう脛をブーツで蹴りつける。
「やれやれ、そういうもったいぶるところもアイツに似ている。やはり血だな」
 肩を竦めて見せるシバに、ラナは席から立ち上がりぐっと伸びをする。
「それじゃあまずは挨拶にいかないとかな。手土産も忘れずにね」
 ラナは悪戯に笑いながらそう口にした。

●輸送任務
 レゲンイリスからパシュパティ砦まではそこそこ遠い。レゲンイリスのある場所自体がまだ歪虚から取り戻したばかりで輸送路は整備中でありまだまだ安全とは言えなかった。
「いや、助かったよ。シバ爺の護衛がいてくれて」
 そういう訳で使者としてやってきたシバと数名の山岳猟団のメンバーを護衛に加え、数台の鉱石を満載させた馬車を率いながら一行は辺境の地を南へと進んでいた。
「なんだ。儂もいざとなれば戦えるぞ?」
「いや、それはやめてください。絶対に」
 ニヤリと笑うシバに対してラッヅが全力で止めにかかる。これで山岳猟団の重鎮の1人なのだから扱いに困るのである。
 空は晴天。吹く風の匂いを嗅ぐ限りでは雨が降ってくるような兆候はない。のんびりと辺境の自然を眺めながらの簡単な任務になりそうだ。
 と、そう思ったのがいけなかったのだろうか。それは突然に現れた。
『フシュルルル……』
「怠惰の巨人? まだこんなところに残っていたのかい」
 輸送部隊の真横にある森から現れたのは一つ目の巨人、サイクロプスだった。
 この辺りの巨人は全て排除されていたと思ったが、どうやら森の奥でしぶとく生き残っていたようだ。
「何だ、1体くらいならこの面子なら余裕だろう」
 シバがそう言ったところでがさがさと木々が揺れ、さらに2体の巨人が姿を現す。
「あー、まあ3体くらいなら何とかなるかね」
 ラナがそう口にしたところでさらに森が揺れてずらりと巨人達が並ぶ。その数は見たところ十数体はいる。
「ほほう。ラナよ、どう思う?」
「はっはっは、こりゃ流石に無理だよ」
「何で冷静なんですか2人とも!」
 2人のやり取りにラッヅが悲鳴を上げる。
 ラナはひらりと馬車の屋根の上に登ると周囲を見渡す。正面と後ろはまっ平らな平地、左手には巨人達の現れた森、そして右手には小高い山と……。
「あれは廃村か。よし、皆あそこに逃げ込むよ!」
 ラナは素早く判断を下して指示を飛ばす。馬車達は道を逸れて全速力で廃村へと駆ける。
「ラナよ、あそこに逃げ込んでも袋の鼠だぞ?」
「ああ、だからこそ守りやすいんだ。で、シバ爺。あとは分かるよね?」
「なんだ。儂は仲間外れか?」
「怪我人は大人しく一回休みしてな」
 走る馬車の上でラナは不敵に笑い、馬で併走するシバはやれやれと首を横に振る。
「すぐに戻る。1時間だ」
 それだけ言うとシバは輸送部隊から離れ、一直線に平原の向こうへと消えて行く。
「1時間か。まあやってみせるさ」
 後ろから迫り来る巨人を一瞥し、ラナは走る馬の手綱を強く握った。

リプレイ本文

●篭城戦
 大勢の巨人達に追われたハンター達とラナが打ち捨てられた廃村へと逃げ込んだ。
 そこは切り立つ崖に囲まれた一種の天然の要塞だ。守るべきは入り口の一本道ただ1つ。
 そこを守り抜けば時期にパシュパティ砦から山岳猟団の援軍が来る。それを信じてハンター達は防衛を始める。
「俺達は、袋の中に追い込まれた窮鼠ってわけだ」
 入り口に迫り来る巨人達の群れを見据えアーサー・ホーガン(ka0471)はぽつりと呟く。
 一度にあれだけの巨人を相手にしてはここにいる人数では数分と持たないだろう。だが地形を利用し、知恵を巡らせ、準備さえ整えればいける。そう判断してアーサーはにやりと笑みを浮かべる。
「策があるんだろう? こっちは任せな」
 そう言いながらエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が鞘から引き抜いた青みを帯びた剣を肩に担ぐ。その刀身に纏う風が赤茶色の彼の髪を揺らす。まるで来る戦闘を急いているかのように。
「そうそう。お前さんが上手くやってくれないとな。さっさと終わらせて美味い酒が飲みたいんだ」
 エヴァンスの隣に立ったグレイブ(ka3719)はずれた帽子を被り直し、改めて地面に突き刺していた槍を抜く。片手で扱えるそれは軽いがその分鋭い矛先を持っている。
「おう、それじゃあ任せた。それでアンタ、そうそこの黒髪の嬢ちゃん。ちょっと手伝って貰うぜ」
「はい。私で手伝えることなら……ですが」
 アーサーに呼ばれたナツキ(ka2481)は薙刀を背に担ぎ直し、入り口に作るバリケードの作成を手伝うことにする。
「さて、そろそろお出でなさるな。お嬢さん方、準備はいいかい?」
「ここでお嬢さん扱いなんて期待できないけどね」
『同感です。それにあの巨人からしたら私達ってお人形ですよねー』
 金の刃を持つハルバードを構えた逢見 千(ka4357)が真面目に答え、魔導短伝話越しに話を聞いていたアメリア・フォーサイス(ka4111)がある意味的を射ていることを言う。
「いや、そういう意味じゃなかったんだがな」
 軍に居た頃に使っていた冗句への思わぬ返しにグレイブはくつりと笑う。
 そしてまた短電話から、今度はジルボ(ka1732)声が皆の下へ届く。
『さて、楽しいお喋りもそこまで。お仕事の時間だ』
 ついに追いついてきた巨人の一匹目が村の入り口の一本道に足を踏み入れた。

「遅れてごめんね! 戦況は?」
 交戦してまだ5分といったところか。村の中をマテリアルを靴から噴射して飛び回っていたメル・アイザックス(ka0520)が村の入り口に戻ってくる。
「一進一退ってところ、かな?」
 答えた千の視線の先では倒れている1体の巨人、そしてそれを乗り越えようとしている巨人、そんな巨人を妨害する為切りかかるエヴァンスの姿が見えた。
「見ての通り魔術師の団員さんのスリープクラウドで1体はお寝んねしてる。回りがあれだけ五月蝿いからそのうち起きるだろうけど」
「とりあえず第一段階は成功ってことか」
 千の言葉にメルはほっと胸を撫で下ろす。
「千、そろそろ交代だ。突っ込むぞ!」
「了解だよ!」
 グレイブの言葉に千は答えてハルバードを構えて入り口で繰り広げられる戦闘に参加していく。
 その時、村のどこかから一発の銃声が響いた。放たれた弾丸は巨人の膝元で炸裂し、関節部を僅かだが凍りつかせる。膝を上手く曲げられなくなった巨人はバランスを崩し、岩壁に手をついた。
「そんだけ動かなけりゃ狙い放題だぜ」
 入り口後方に陣取っているジルボは握る黒い銃身のライフルを僅かに横にずらし、引き金を引く。放たれた弾丸は寸分違わず巨人のもう片方の足を食い破る。
 その間に接近して行った2人が巨人の下に到着する。
「エヴァンス、チェンジだ」
「なんだ、もうちょいで倒しきれたのによ」
「お替りはまだ沢山ある。欲張らなくても問題ないだろう?」
「ははっ、違いねぇ!」
 エヴァンスは膝をついた巨人の前から飛び退き、変わりにグレイブと千が前へと出る。
「その足痛そうだな。悪いが遠慮なく狙わせて貰うぞ」
 黒い血を流す巨人の足にグレイブは容赦なく片手槍を深々と突き刺す。悲鳴を上げる巨人。振り上げられた鉄刀を確認しグレイブはすぐさま盾を構える。
 ぶつかる鉄と鉄の音。グレイブは正面からは受けとめず、受け流すように力を逃がしたが盾を持つ手はビリビリと痺れ感覚が殆どない。
「ちぃ、化け物め」
 そんな舌打ちをするグレイブの隣を後ろから千が追い抜く。振りかぶったハルバードにはマテリアルが圧縮され充填される。
「これは、どうかな!」
 インパクト。ミシリという何かが軋む音が聞こえた。巨人の足に刃は殆ど通らなかったが、その衝撃が歪虚の体内に確実にダメージを蓄積させる。
 そこでもう1つ。村の中から重量のある音が響く。飛来した破壊を招く弾丸が巨人の額に突き刺さり、その一部を砕き中身が零れる。
『ごめんなさい。隙だらけでついやっちゃいましたー』
 短電話から間延びしたアメリアの声が聞こえる。それとほぼ同時に目の前の巨人はぐらりと揺れてその場で倒れた。
「オーケー。どんまいだ。それにすぐ次がお出ましだ」
『はい。時間を稼ぐ為にも次はもう少し遊びますねー』
 倒れた巨人の体が引きずられ一本道の向こうに消えると、また無傷の鉄刀を持つ巨人が侵入してきた。
「はぁー……ねえ、今この場で言うのは不謹慎かもしれないけどさ。巨人ってやっぱ、壮観だよね」
『安心しろ。そのうち見上げるのに疲れて、依頼が終わった後も暫くは空を見上げるのも億劫になるからよ』
 千の言葉にさらりとジルボが答える。それは嫌だなと小さく返しながら千は巨人の振り回す鉄刀に自分のハルバードを打ち合わせた。

●決壊
 戦闘を開始してどれだけの時間が経っただろうか。少なくともまだ救援がこの場に現れた様子はない。
 初めは順調に村の入り口の地点で防戦を繰り広げていたハンター達だったが、段々と疲れも表れ始め徐々に一本道の中で後ろへと押されてしまっていた。
「この、出てくるな!」
 メルの機械仕掛けの白い杖から三つの光線が放たれた。その光が入り口から飛び出そうと勢いをつけた巨人達の勢いを削ぎ、さらに押し込むために銃弾と魔法の集中砲火によって辛うじてその危機を乗り切る。
「お待たせしました」
 そこでナツキが防衛を行うメルの隣へとやってくる。
「おっ、やっと準備が整ったんだね」
「はい。私も防衛。参加です」
 ナツキは懐から小銃を取り出すとそれを構えて引き金を引く。小さな弾丸だがそれでもその威力は巨人の皮膚を破り痛みを伴わせる。
「勿論俺も参戦だ。待たせたな!」
 両手剣の切っ先を地面ギリギリに擦らせながらアーサーが疾走する。今まで戦闘に不参加だった分、余力が余っているのから最初からフルスロットルだ。
 重量のある突撃はそのまま威力へと転化される。肉厚な刃を巨人の足に深々と突き刺し、力任せに横薙ぎにしてその肉を引き千切る。
「何とか持ってるようだね。それにどうやら騎兵隊もお出ましになったようだ」
 バリケード作成を手伝っていたラナは魔導ガントレットをぶつけ空を見上げる。耳を澄ませば確かに少し遠くで馬の走る音が聞こえてきた。そしてそれ以外に何かが。大きく重量のあるナニかが地面を走り出したのも聞こえた。
「どうやらここからが本番のようだね」
 ラナの言葉にハンター達も気を引き締める。そして改めて村の入り口へと視線を向けたところで、その最奥に一回り大きな巨人が立っていることに気づいた。
 一つ目の角を持つ巨人、サイクロプス。それはしっかりとハンター達の目があった瞬間だった。
「やばいな、何かくるぞ」
 第六感とも言うべきか、グレイブが皆に警告をする。勿論それは言われずとも皆が感じ取っていたが。
 サイクロプスが一度入り口から姿を消す、そして数秒で戻ってきたかと思えばその両手には石を持っていた。
 いや、それは巨人にとっては手のひらに乗るサイズの石であるが。人間にとっては自分の体よりも大きな岩だった。
「させるか!」
 サイクロプスが投げる構えになったところでジルボは照準を素早く合わせ引き金を引く。だが放たれた弾丸は狙いを僅かに逸れてその頬を一部削るだけだった。
 岩が一本道を進もうとしているオーガ達の頭上を越えて、村の入り口すぐ近くにある家屋に激突した。がらがらと建物はあっという間に崩れて土煙が周囲に巻き上がる。
「くそっ、次が来るぞ!」
 ジルボの言葉と共にもう1つの岩が投擲され、作っていたバリケードの一角に激突して木片と石の破片を辺りにばら撒く。
「不味いですね。何とかあの投石を止めるには……」
 飛来する質量弾への対抗策を何か案を考えようとしたアメリアだったが、その前に短電話が音を立てる。
『駄目、正面は突破される。次の段階に進めるよ!』
 それは僅かな隙だった。後方援護を行っていた者達がサイクロプスに意識を持っていかれた瞬間、オーガ達が再び強引に突っ込んできたのだ。
 その先頭の巨人は炎の魔法により燃え上がり、村に入ったすぐのところで倒れ伏した。だがその後に続く巨人達がわらわらと入り口から村の中に侵入してくる。
「いよいよ正念場のようですね」
 アメリアは撃ち尽くした弾倉を取替え、初弾を装填して再びライフルを構える。そう、彼女の狩りの時間はまだ終わっていないのだ。

●村の中の死線
「ちっ、折角作ったバリケードが5分も持たないとはな!」
 アーサーは腕から流れる血を止めるために破れた服を雑に巻きつけて縛り上げる。
 バリケードはオーガのぶちかましも数発耐えたがそれまでだった。その後はハンター達もそれぞればらばらに逃げ、村の中に入った巨人共を各個撃破する為に動いている。
 そしてアーサーの目の前には一匹、鉄刀が半ばから折れた傷だらけのオーガが吠えている。
「自慢の得物が折れてご立腹か? 上等、それをやったのはこの俺だぜ!」
 アーサーの切る啖呵に巨人が吠えながら突撃してくる。アーサーもそれに真っ向から剣の切っ先を向けて走り出す。
 1人と1匹がぶつかる寸前、腹に響く重低音が鳴り響き巨人の片足から黒い血が吹き出る。その音がした場所にはスコープを覗くジルボの姿があった。
 銃撃を受けたことで僅かに速度が緩む巨人に、アーサーはそのまま速度を緩めずその懐に飛び込んだ。
「貰うぜ。その心臓!」
 硬く分厚い皮膚を貫き、分厚い刃が巨人の命の源を切断した。
「ナツキ、ちょっとの間だけ頼むよ!」
「任せて」
 とあるポイントでメルがナツキにこの場を任せる。
 任されたナツキは振り返り、追いすがってきた巨人の振るう鉄刀を受け止めた。全身の骨が砕けるような衝撃が駆け抜ける。内臓にもダメージがいったのか、口元にせり上がってきた黒っぽい血をナツキは吐き出して巨人を睨む。
「まだ!」
 薙刀を手にしたナツキの一閃が巨人の足に傷をつける、だが巨人はそれを全く気にせずに足を振り上げてナツキの体を踏み潰そうと地面を踏みつけた。
 ナツキは間一髪それを避けるが、巻き上がる風と土ぼこりに地面を転がり咳き込みながら何とか立ち上がる。
「ナツキ、こっちへ!」
 そこでメルがナツキを呼ぶ。ナツキはメルの元へと走り、それを追う様に巨人もまた接近してくる。
「全く、巨人は学習しないね。それならもう一発、これが最後のデトネイト!」
 ドンっと地面を揺らすような爆発が起こる。がらがらと崩れる廃屋と巻き上がる粉塵、それが破壊の力を物語る。
 だがそれでも巨人は倒れていなかった。それを見てメルとナツキは再び武器を構える。
「ああ、安心しろ。死んでるよ」
 その言葉を口にしたのはグレイブだった。その手には彼の得物である槍はなく。よく見れば立ったまま動かない巨人の脇腹に突き刺さっている。
「確かもう1匹居たはずだが……」
 と周囲に視線を向けるグレイブ。
「その腕重そうだな。斬り落として軽くしてやるよぉ!」
『エヴァンスさん、邪魔です。頭が狙えませんよー』
 1ブロック先ほどでエヴァンスの雄叫びと、それを援護しているらしいアメリアの声も短電話から聞こえてくる。
「残るはサイクロプスだけのはずですね」
 ハルバードをひきずるようにしながら千が現れてそう口にする。額からは血が流れ、服はぼろぼろだ。だが体はまだちゃんと動くらしく軽く顔の汚れを拭うとしっかりハルバードを持ち直す。
「ああ、それならすぐに何とかなりそうだ。騎兵隊もすぐこっちにこれるみたいだよ」
 そう言いながらラナがパンパンとマントについた埃を払う。巨人達はほぼ壊滅状態。残るはボス格のサイクロプスのみだが、もはや多勢に無勢の「多勢」はこちら側になっていた。
「いけるかい?」
 ガンッと魔導ガントレットを打ち付けながら問うラナに、一同は頷いて答えた。



 数時間後、ヴァルカン族の族長ラナがパシュパティ砦へ無事に辿り着いた。
 馬車の積荷には多少損害があったものの、人的被害はなかった為に一先ずは一安心といったところだろう。
 だが今回、人類が取り戻した区域で数多くのうち漏らしの怠惰の歪虚が出た件といい、なにやら釈然としないこともある。
 今の辺境にある一時の平和すらまやかしなのか? それを知る術は今のところない。

依頼結果

依頼成功度普通
面白かった! 7
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 一転突破
    グレイブka3719

重体一覧

参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 「ししょー」
    岩井崎 メル(ka0520
    人間(蒼)|17才|女性|機導師
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • にゃんこはともだち
    ナツキ(ka2481
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • 一転突破
    グレイブ(ka3719
    人間(蒼)|42才|男性|闘狩人
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 心に鉄、槍には紅炎
    逢見 千(ka4357
    人間(蒼)|14才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
グレイブ(ka3719
人間(リアルブルー)|42才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/06/05 10:36:29
アイコン 相談卓
逢見 千(ka4357
人間(リアルブルー)|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/06/06 21:52:19
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/02 08:47:41