• 幻導

【幻導】大霊堂に謎の○○をみた……?!

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
7日
締切
2015/06/26 12:00
完成日
2015/07/04 20:28

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ――聖地リタ・ティト。
 ファリフ・スコール(kz0009)のもたらした情報に、わずかにほくそ笑むのは大巫女だ。
(まさか、幻獣の力を今更お借りすることになるとはねえ……。ファリフはこういうときに強い子だ、本当に何とかしちまうかも知れない)
 リタ・ティトには多くの伝承が書きとめられ残されている。
 むろんその中には幻獣についてのことも、結構な量が記載されていた。
 ただ――正直、一人で探すのは難しい。
 理由は簡単、残されている資料があまりにも莫大なのである。
 多ければ多いほどいいのは当然のことではあるが、一人二人で作業をするには手に余る量と言って間違いないだろう。
(……こういうのはハンターが手伝ってくれるんじゃないかね。ファリフについての白龍の言葉通り、彼女を手助けしてくれる存在は今とてつもなく多い……あたしたちだって、結果的には助けていることになるしね)
 巫女たちの長である大巫女は、そんなことを考える。
 この聖地、所蔵している書物も多いのだが、同時にさまざまな伝承を知っている巫女も多く、目的のものを探すには骨が折れるのは間違いないだろう。
(こんな時、「あいつ」がでてくれれば、随分と助かるんだけどねぇ)
 大巫女はくすりと笑った。
 幻獣もさまざまな種類があるのは承知の上だが、彼女は何を思ったのだろうか――?
「とりあえず、ファリフやハンターたちの助けになる情報を探すのが勇戦さね。ビャスラグの大幻獣が呼んでいるとおぼしき声――それと、歪虚が確認されたという事実。少なくともあたしたちの出る幕じゃ無かろうし、ファリフ一人で解決の出来る問題でもない。こういうときは助けあってこその人というものだからね……」
 大巫女はそう言いながら頷くと、今回の件で情報を求めているであろうハンターたちに手紙を出した。
「大霊堂で何か情報を得てから、ファリフと合流するのがいいんじゃないのかね? 幻獣や過去の伝承についての情報なら、こちらも用意出来るだろうさ」


 ――『それ』は、そんな大霊堂の様子を陰からひっそりと見守っていた。
 期待に、少し胸を膨らませて。
(我輩の英知を授けるときがとうとうきたのです!)
 しかし『それ』は、今、誰の耳にも聞こえることなく。
 静かに、ときの訪れを待っているのであった。

リプレイ本文


 『それ』は、ざわざわと人がやってくるのを感じて小さな胸を高鳴らせた。
(いよいよ我輩の出番なのです……!)
 しかしその小さなつぶやきは、誰の耳にも届くことがなかった。



「これが……大霊堂……」
 キヅカ・リク(ka0038)はわずかに興奮した口調で、聖地リタ・ティトの大霊堂を見つめていた。
 今回、ビャスラグ山に現れたという幻獣騒動をきっかけとして大霊堂を訪れたハンターの数は二十五人。
 大霊堂と一言で言っても広大だ。
 何しろ中には多くの啓示を受けた巫女が住まい、日々様々なことに祈りを捧げている。加えて、つい先日まではこの聖地に消滅してしまった白龍もいた――つまり、それだけの人や物がいて、居住も十分に出来る空間が備わっているのだ。広くないというほうがおかしい。彼の他にも麗奈 三春(ka4744)やフレデリク・リンドバーグ(ka2490)のように何人ものハンターたちがはじめて訪れるこの聖地を緊張や驚き、感動といった感情をもって見つめていたが、キヅカは慌てて首を横に振る。
「み、見とれてる場合じゃないよな」
 でも、と声を上げるのは興味深そうにこの光景を見つめているリアルブルー出身のどこか可愛らしい雰囲気を持つ少年、葛音 水月(ka1895)が、感嘆の声を上げる。
「はふ……広いですねー、おっきいですねー♪」
 口調がどこか楽しそうなのは、やはり胸が高鳴っている証拠だろう。特にリアルブルーではこんな光景にお目にかかれる機会なんてゼロに等しい。世界遺産級の場所を見て、興奮するなと言う方が無理という話なのだ。
「それにしても幻獣ねえ。俺たちにとっちゃときどき暴れてるグリフォンの段階で幻獣だしよー……そもそも幻獣ッたって、友好的なやつとかそーでもねーやつとか、色々いんだろ? たぶん」
 そう言いながら周囲をぐるっと見回すのは、岩井崎 旭(ka0234)、彼もまたリアルブルー出身だ。
 リアルブルーには幻獣と呼ばれる生き物は存在しない。物語や伝承の生物として、現代に伝えられてはいるが、そのものがいたという確かな証拠は存在しないのだ。
 だから、リアルブルー出身者にとっては『幻獣』というカテゴリそのものが伝説上の何かと等しくなっており、その辺りはクリムゾンウェスト出身者との認識の違いの一つでもあった。もっとも、グリフォンも幻獣かと問われると、クリムゾンウェストではカテゴリが違うのかも知れないが――
「そうですねぇ。グリフォンやミノタウルス、セイレーンなども幻獣ですよ。ただ、幻獣は幻獣で難しいのです。もともと他の生物よりもマテリアルが多い為、歪虚に狙われやすいですから」
 案内役の巫女が、少しばかりのんびりした口調で、そんなことを言ってみせる。
「つーかさ、大ってなんだ、大って。大がつくと何か変わるのか?」
 大幻獣という単語はなかなか耳慣れない。何か理由があってそう呼ばれているのだろうが、皆目見当がつかないのは辛いところだ。すると先ほどの巫女が、優しい声で説明をしてくれた。
「んーと、言葉で説明するのは、少し難しいですね。ただ、幻獣の中でもとくに秀でたもの、と言うのが、わかりやすい解釈でしょうか」
 リムネラ(kz0018)よりもわずかに年かさであろう巫女はこうも続ける。
「もともと幻獣というもの自体、マテリアルを豊富に持っているのですが……詳しいことは私の口から説明するよりも、書庫で実際に文献にふれたりする方が、理解をしやすいかも知れません」
 と、そこで巫女は悲しそうにそっと目を伏せる。
「辺境は他の地域よりは幻獣は多い方なのだと聞いています。辺境以外の地域における幻獣の量は私にもわかりかねますが、この辺境で多いというのなら、他の国――王国や帝国ではどれだけ減っているのでしょう……?」
 なるほど、幻獣という存在についてのある程度の基礎知識を教えてくれたらしい。ハンターたちも知らないことの多い幻獣という存在の生息についてはやはり地元のもののほうが知っている、と言うことなのだろうか?
 兎にも角にも、主に旭をはじめとしたリアルブルー出身者、そして他のハンターたちも、感謝の礼を示す。
「幻獣たちはそう言う意味で、とても見つけるのが難しいと言われているのです。そしてまた、知能の高い幻獣の一部は人語も解することが出来るとされている為、辺境の部族によっては祖霊と同様に敬われたり、あるいはこの聖地にいた白龍ともまた少し違いますが、彼らのように崇敬の対象とされるのです」
 そしてそれはこのクリムゾンウェスト全域で見られる現象であると、巫女は付け加えた。
「おそらく東方でも、似たような幻獣に対する信仰のようなものがあるのではないでしょうか」
 長らく交流の途絶えていた東方ではあるが、その根っこは同じ。ならば、きっと信仰なども似ている――彼女たちはそう考える。
(でも、大幻獣かぁ……会えるなら、友達になってみたいな)
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はそう考えながら、あとをついて行った。


「よくきたねぇ、ハンターのみんな」
 しわがれているがよく通る声が、奥から聞こえてきた。
 声の主は大巫女――この聖地リタ・ティトの最高責任者であり、指導者である存在だ。と言っても、見た目も中身もどこか食えないばあさんであるのも事実なのだけれど。それでも彼女の巫女としての能力は尋常ならざるもので、その風格は間違いなく大物であることを感じさせた。
「今日はハンターたちの為に、書庫も開放している。普段はなかなかそこまでしないんだけどね、幻獣の情報というものを求めているなら、書庫にもある程度はあるだろうさ」
 大巫女の言葉は各国の元首たちとは違うが、何かしらの圧倒感を伴っている。
「ありがとうございます!」
 ハンターたちは深々と礼をした。
「それに、『あいつ』も、こんだけ人がいれば興味を持ってやってくるかも知れないし、ね」
「……あいつ?」
 どこか含みのありそうな大巫女のつぶやきに首をかしげたのはヒース・R・ウォーカー(ka0145)。この大霊堂にもかつていたという幻獣のことだろうか。しかしそれを尋ねる前に、一人の男性ハンターがすっと前に出た。
「大巫女どの、もしよろしければ」
 そう言って大巫女に声をかけたのは、漆黒を纏った戦士、レイス(ka1541)。
「俺はリムネラ嬢とも面識があるんだが……彼女も変わりつつあると思っている。俺たちハンターから見たリムネラ嬢を、大巫女殿にもお話ししたいのだが」
 レイスがリムネラと知己なのは間違いない。それを口実に、大巫女への接触を希望したのだ。若い巫女はくすりと笑う。
「大巫女様なら、どなたとでも接して下さいますよ。特に若い殿方の話なら、きっと喜んで。……ですよね?」
「もちろんさ。なんだい、その若者が、あたしと話したいって?」
 大巫女はなにやら楽しげに、にまにまと笑っている。他にも大巫女との接触を図ろうとしているハンターたちはいて、その言葉にどこか安堵を覚えた。大巫女なんて取っつきにくそうな雰囲気の存在かも知れないと、無意識に思っていたからかも知れない。
「あれが大巫女のオババ、か。こういうのはオババ仲間に聞くのが手っ取り早かろうのう」
 そう言ってにまっと笑うのは外見は幼子だが既に五十は超えているという銀髪のエルフ、星輝 Amhran(ka0724)。巫女としての修行経験もあるというUisca Amhran(ka0754)の姉でもある。その妹はと言えば――
「そういえば転移門があるなら神霊樹もあるってことですよね」
 随分前に大霊堂を出たとは言え、一応勝手はある程度わかっている。資料集めと言うことで書庫に行くことを希望するハンターが多い為、道々を軽く案内しながらウィスカはそんなことをぼんやり考えていた。
「ああ、私も少しそれは考えていた。短時間で情報を得るのなら、それを知っているであろう人物に聞くのが筋だからな。都合のいいことを聞くのは難しいだろうが、何かのヒントにはなるかも知れない」
 同調したのは騎士たるべく育てられ、自身も騎士としての矜持をもつレオン・フォイアロート(ka0829)。まっすぐな人柄が、その言葉の端々からもうかがい知れる。
「神霊樹ならその奥。最深部にありますよ」
 長いこと聖地で修行をしている巫女に言われ、後で行ってみることに決めたウィスカたちだった。
 またその一方で、地図を求めたのはドワーフの少年ラプ・ラムピリカ(ka3369)。魔導短伝話とトランシーバーを駆使して、状況に応じて情報の共有をする為には、それぞれがどの方面にいるかを把握した上で、自身はなるべく動かないでいる方がいい。
 そのためには、地図の存在はある意味不可欠なのだ。横には彼を補佐するかのように、スピノサ ユフ(ka4283)が座っている。それぞれが集めた情報をわかりやすく書き出す為には、一人では大変だ。やはり伝承などを知るのが好きなスピノサは、情報の整理や共有の為のまとめを担当することにしている。
 何しろ今回探すべき情報も膨大だ。情報も幻獣やビャラスグ山、その他という大きなカテゴリ分けをした上で、時代、情報のソース、そしてキーワードなどをチェックしていく必要があるのだ。
「でも、こういうんって、パズルみたいと思わん? 楽しなってきそうやな~」
 スピノサの真面目な顔を横目に見つつ、ラプは楽しそうに微笑を浮かべながら、地図と連絡ツールを見比べていた。


 書庫までの道は決して短くない。
 それは聖地に伝わる巫女のみが語り継ぐことの出来る伝承などを他に滅多なことで漏らさぬための対策でもあるのだが――それにしても、遠い。
 何しろ大霊堂という空間は想像よりも広いのだ。仕方のないことなのだろうが。
 と、ぱっと目に入ったモノを認め、足を止めたものがいる。
「あ、あノ壁画……」
 声を上げたのはアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)だ。声に引かれ、大霊堂の見取り図を手にあちこち見ていたフレデリク・リンドバーグ(ka2490)が思わず足を止めて、アルヴィンの示す方を見る。
 ――そこにあったのは、クリムゾンウェストに生きる人々の誰もが知っているような精霊、幻獣、そしてドラゴンなどの逸話をモチーフにした画像だった。筆致はシンプルながら幻獣やドラゴンにまつわる伝承がわかりやすく記されており、見ているだけでもなんだか胸がどきりとする。
 しかしその絵を解釈しようにも、自分たちだけでは細かくはわからないし、ぱっと見る限りごく一般的に知られている逸話をモチーフにしているようにも思われる。
 案内をしてくれている巫女にも尋ねてみたが、結果としてはそれほど芳しくないモノだった。つまり、自分たちの持っている幻獣に対する基礎知識と大きな差がないと言うことだ。この話には少しがっかりしたが、よく考えたらそうそう見えるようなところに秘伝を置くわけがない。
 それでもその壁画は古いものらしく、見ているだけでなぜだか妙に胸を揺さぶってくる。これがいわゆるプリミティブな魅力というやつなのだろうか。
「書庫にたどり着くだけでも凄いな」
「成る程、大霊堂の大霊堂たる理由がわかる気がするな」
 そんなことを言い合っているのは『広い山の中から小動物を一匹探すような依頼だ』と評したフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)や、大霊堂や幻獣に思い入れはないものの歴史そのものには興味を持っているというダリオ・パステリ(ka2363)などだ。するとダリオの友人でもあるエアルドフリス(ka1856)も楽しそうに微笑みながら、
「そうだなあ、大霊堂のなかってだけで満足しちまいそうな感じだ」
 そんなことをうそぶいてみせる。むろん言われた依頼をこなすのは当然だが、彼には彼なりの考えというものもあった。
 書庫に入る人たちが多い中で、彼は古参の巫女に会うことを望んでいた。
 もともとこの聖地に住まう巫女は多くが幼くして素養を見いだされ聖地に入り、その小さなコミュニティで一生を終えるものも少なくない。
(……それに)
 エアルドフリスはアルヴィンの言葉をぼんやり思い出す。
(情報収集勝負とか、そう言うのには負けたくないしね)
 負けず嫌いな一面を小さな笑顔に覗かせると、彼の友人でもあるジュード・エアハート(ka0410)もにやっと笑って見せた。彼も巫女に幻獣にまつわる話を聞こうと思っているのだが、同時に『幻獣のことは幻獣か、それに近しい存在に聞くのが一番かも知れないな』と思っている。傍をふわりと飛んでいる桜型妖精「アリス」は、あるいはそんな情報を知っていたりするのではないだろうか?
「ねぇアリス、この近くにお仲間の気配とかは感じない?」
 そうそっと尋ねてみるが、アリスは首をひねってしまうばかり。どうやら精霊と幻獣のあいだにも、何か違いがあるのだろう。
「そうそう、そう言えばここにも何かいるっぽいんだっけ? 案外幻獣さーん、って呼んでみたら出てきたりして」
 アルトはそう言うと、楽しげな声で呼びかけてみた。
「幻獣さーん! 出てきてくれないかなー?」


(我輩の出て行くタイミングを見計らわないといけないのです……!)
 『それ』は緊張していた。
 ハンターを知らないわけではない。この聖地に、以前にもハンターは訪れている。
 しかし、今回の彼らの目的は『幻獣』とそれに関する情報だ。
(我輩、役目は果たすのでありますっ)
 『それ』はしかし、緊張のあまりずっこけた。
 それに気づくことができたハンターは……いなかった。


 大巫女の周りに集まったのはレイスやキララ、それにアクセル・ランパード(ka0448)などといった、大巫女や古参巫女への聞き込みを希望していた何人かである。
「ハンターのみんなはリムネラと懇意にしてくれてるんだってねえ。まったく、ありがたいことだよ」
 あの子はもともとはけっこう裡にため込みやすいところもある子だからね、と大巫女が笑ってみせる。
「リムネラ嬢は辺境ユニオンのリーダーとしても成長中です。確かにそう言う面はありましたが、今は周囲にも頼り、仲間たちとともに苦境に向き合うようになっています」
 その話を聞いて、大巫女もまんざらではないという風に笑顔を浮かべる。
 聖地の巫女は皆彼女の孫のようなものだ。そんな中の一人が懸命に頑張っている姿を想像して、嬉しくないはずがない。
「オババはオババ同士で話すのも一興じゃろうしのう」
 キララがそう笑うと、手荷物の酒をひょいと取りだした。
「大巫女は酒を飲んだりするのかのう? 土産と言うほどではないが、持ってきたのじゃ」
 何かしらのとっかかりをみつけて、相手の緊張を緩め、最終的に情報を得たい――と言うのがキララの作戦だ。
「酒は百薬の長だ。ありがたく頂くとするかね」
 老いてなお健康なのは、そういった適度な生活を心がけているのもあるらしい。近くにいた古参巫女も数人、近づいてご相伴にあずかる。
「にしても、大幻獣というのは何者なのかのう?」
 キララの問いに、「うーん」とうなったのは古参の巫女の一人。
「我々も大幻獣についての情報を多く持っているわけではないのですけれど、そもそも『大幻獣』というのは一体ではないのですよ」
 ある程度予想されていたことだったが、巫女は言葉を続ける。
「つまり、同じ種族にあったとしても、マテリアルを豊富に持っているとすればそれは大幻獣と呼ばれることになります。ドラゴンなどは幻獣の範疇からずれるので少し解釈が異なりますが……ここに来るまでにも簡単な説明を受けてもらったと思いますが、『諸々の能力に秀でた幻獣』を、通常は大幻獣として分けることが多いのです」
 成る程、わかりやすい説明である。
「ビャスラグ山の大幻獣については、口伝など残っていないのでしょうか?」
 アクセルは問う。しかし、巫女たちは残念そうに首を横に振った。
「ちょいと調べればわかることだが……あのあたりは今、まともに人間の住めるところではない。つまり、ビャスラグの口伝などがあったとしても、既に絶えてしまっているのだ」
 やはり古参らしい、こちらは男性の巫女がそう説明する。リタ・ティトの巫女は男女問わず「巫女」と表記するので、はじめは戸惑う人も多いらしいが、クリムゾンウェストではある意味常識でもあるので慣れっこでもある。
「そういえば大巫女殿は、それこそ白龍から何か聞いたことなどはないのだろうか」
 レイスはもしやと思って聞いてみる。
「白龍は……そうさね、そう言う話をあまりしなかったと記憶しているよ。今となっては聞けるわけもないしね」
「東方の技術にある龍脈などは」
「それも、あたしは聞いたことがない。東方と交流が途絶えてずいぶん経つからね、白龍の中で必要のない情報とされていたのかも知れないしねぇ」
 レイスの問いは非常に面白いところをついてはいたが、しかし大巫女は聞いたことがないらしい。これもまた時間の流れや情勢の違いというものの影響はあるのだろう。
 『伝説の子』が生まれ、『星の友』とは何かが明らかになった今、情勢はとどまることなく急速に動き始めている。今はもういない白龍もここまでの変化は読めなかったのかも知れない。
「それで、大巫女殿。ものは試しで、一つ頼みがあるのだが」
 レイスは静かに言った。
「……手を、届かせなければならない相手がいるのです。出来ればそのために、奴が使う術とは別系統の浄化術も知っておきたい。――彼女の歪みを祓い、その先で向き合う為に」
 その瞳は真摯。しかし、大巫女はその瞳をじっと見つめてから、呟いた。
「浄化術は一朝一夕で身につくものじゃない。それに、今あんたがやるべきことは大幻獣の調査だろう、油を売っているヒマはなかろうさ。それに、巫女になる為にはそれなりの素養も必要なのさ。そして少なくとも今のあんたは、それを学ぶときではない。まあ、将来的にどうなるか、それはわからないけれどね」
 大巫女の言葉は低く落ち着いている。
「……そうか。その言葉だけでも、感謝する」
 黒い青年はそう言って、小さく礼をした。


 神霊樹の分樹に向かったのは、ウィスカ、そしてレオン。
 神霊樹というのは知っての通り、既に数千年の昔には存在したと言われている。もっとも、今神霊樹と言われてすぐに思い浮かべるのは分樹のことだろうが。
 しかし分樹と言っても侮ることは出来ない。神霊樹間のネットワーク、【ライブラリ】が機能しており、多くの情報が蓄えられているはず――だからだ。その情報はいずこかにある神霊樹本体と繋がっており、パルムたちを通じて情報を引き出すことが出来る。
 ウィスカもレオンも、少し緊張気味に胸を高鳴らせながら、連れてきたパルムとともに周囲を確認する。
 神霊樹までの道のりは、レオンのパルムが案内してくれた。居場所の好みなどが似ているのではないかという推測の元だったが、正解だったようだ。
 そして、静かに神霊樹の【ライブラリ】にアクセスをした。
 対価は彼女らのパルムが知る情報。
 そして受け取りたい情報は、ウィスカは『大霊堂の小さくて生意気な幻獣』『大幻獣』そして『イステマール、ナーランギ』。
 レオンは、『以前に試練を受けたものの有無』や『試練の内容』等だった。
 それぞれのキーワードから引き出せる情報は決して多くはなかった。が、一つの収穫としてあったのはかつて存在した大幻獣の名前が『イステマール』と『ナーランギ』であることがはっきりしたことだった。
 つまり、大幻獣は固有名を持っていることが多いということがわかった、ともいえる。これはこれで一つの収穫とも言えた。……もっとも、大霊堂に住まう幻獣という話にはあまり深く調べられなかったのが残念だが。
 試練の内容についても決して芳しくない返答だった。あるいは情報の量が多すぎたり少なすぎたりで、満足に引き出すことが出来ないのかも知れない。
 とりあえず姉や知人たちに連絡をしておこう。そう思える成果をある程度手に入れることができたのは事実だった。
 


「大霊堂全体も凄いけれど、書庫もすごいねぇ」
 そう言って目を輝かせているのは書庫での調査中心と決め込んだシュクトゥ(ka5118)である。
「うん……いやはや確かに凄いな。これはまさしく叡智の偉大な集積だ」
 エアルドフリスもそう言って目を細めた。
「何しろ人海戦術とは言え、一番人手が必要なのは書物の調査だろうからね」
 自他共に認める読書家のシュクトゥはさっそく書物のタイトルをチェックし始めている。エアルドフリスのほうは、もともとの知人たちとグループになって調査に当たるつもりでいた。
 また、別の感慨にふけっているものもいる。サーシャ・V・クリューコファ(ka0723)だ。
(図書館で調べ物、か……なんだか、学生の頃を思い出すね)
 リアルブルーの士官学校出身の彼女は、時折学生時代を懐かしむところがある。……いや、リアルブルー出身者が故郷を懐かしまぬことなんてないのだろうが。
(でもあの頃より、協力し合える仲間が多いのは幸いだな)
 そんなことを思いながら、トランシーバーと短伝話の調子を確認する。
 この書庫というのが、正直、それを駆使しないといけないレベルの大きさなのだ。
 話によると本好きな巫女の何人かが交替で管理に当たっているらしく、今は三十路がらみに見える女性の巫女が書庫の出入り口で本を読みながらハンターの登場を見つめていた。彼女から聞き出せることもあるかも知れない。
「書庫、随分広いんですね」
 世間話のように逝ってみれば、司書のようなその巫女は手にしていた本をパタンと閉じて、如何にも嬉しそうに微笑む。
「ええ。この大霊堂ができた頃からの書物というものも伝わっていると言いますが……少なくとも、人が一生かけて読み切ることが出来るかどうかもわからないくらい、ここには資料で溢れていて、私などはとても楽しいのですが……読書を苦手とする巫女もいますけれどね」
 その笑顔は本当に楽しそうで、思わず見惚れてしまいそうだ。
 ただ、その言葉を思うと、この書庫の管理を任されている巫女というのは余程の本好きであるだろうし、その巫女たちですら目的の書物が本当にあるかどうか、知らない可能性が高いというわけだ。何人かのハンターが、うなってみせる。
「でも本当、この量では、一筋縄ではいきませんね」
 そう言葉にして指摘したのは東方からやってきた三春である。せめていくつかの班に分かれ、調査する書架をある程度指定した方がいいだろうと言うアイデアに、
「確かにそうだね」
 何人かがしみじみと頷いた。特に、今回調べるべきは幻獣やビャスラグ山に関してのことが中心だ。皆、それ以外の文献や資料にも興味がないわけではないが、そう言う寄り道ばかりしていては肝心の調査が進まなくなってしまうだろう。
「それにしても面白そうだ」
 と呟きながら伊勢 渚(ka2038)は書庫の巫女に尋ねてみる。
「そういえば、俺は歴史書などを調べてみたいと思うんだが。いや、時代の変遷を追うのが好きでな……起源から今に至るまでを一気に読むと結構面白いしな。で、だ。この書庫にはやはり幻獣の起源や、この大霊堂最古の記録……なんてものが残っているんじゃないか?もしよかったら見てみたいんだが」
 すると、司書の巫女が顔を青ざめてとんでもない、と首を横に振った。
「歴史が好きなのはけっこうきわまりないと思います。が、大霊堂の歴史をひもとくことが出来るのは巫女と、大巫女に認められた者だけなのです。大巫女も、流石にその許可は出してないのではないでしょうか?」
 言われてみれば、そこまで深い調べ物をすることは宣言していなかった。確かに、聖地リタ・ティトの歴史を――となれば、いわゆる巫女にのみ伝えられるであろう秘伝のようなものがあるだろう。それをまだ駆け出しのハンターに知られるというわけにもいくまい。渚も、その意図がわかるから、苦笑して頷いた。
「いや、こちらも踏み込んだ話をして住まなかった。じゃあ、せめて何か面白い伝承でも調べてみたいんだが」
「それならこれが」
 渚はさりげなく、司書の巫女と親しくなったようだ。
 その傍らで、シュクトゥや三春がまず調べたかったのはビャスラグ山周辺の地理、そしてその近くに部族があるかどうかと言った、ビャスラグ山関連の伝承である。
 正直、ビャスラグ山は聖地リタ・ティトよりも更に北方。歪虚勢力もまだ残っている危険地域だ。今もかつてのように残っている部族というのはおそらく存在していないが、書籍を調べていくとたしかにいにしえにはビャスラグ山周辺にも部族が存在していたことは間違いないようだった。
 名前も存在も忘れかけられていたその部族は、一体どんな部族だったのか。
 調べてみるとどうやら幻獣の守護に当たっていたらしい、と言うことが見て取れた。
 しかし幻獣のもつ強大なマテリアルは歪虚の格好の標的にもなる。結果、歪虚の標的となってしまい、今は消滅してしまった――らしい。
 ビャスラグ山は予想通りというか、リタ・ティトよりも冬は雪深く、標高自体も全体的に高い。その分夏は涼しいかも知れないが、決して恵まれた環境とは言えないだろう。
 そしてその北部に、ナルカンド塔がある。いつごろ誰がなんの目的で立てたかもわからないその塔であるが、いまは歪虚の格好のねぐらになっているだろう。何しろ、周囲は歪虚の支配地域なのだから。
 しかしそんなところに大幻獣がいる――となれば、もふもふなのだろうか、などと楽しい想像もしてしまう。
 旭などはそれらしき本を見つけても読書に集中出来ず、半分眠りこけているが、まあそう言うメンバーがいるのもある程度想定の範囲内だ。
「さて、調べるとしますか」
 そう張り切った声で言ったのはルスティロ・イストワール(ka0252)。
「惜しいね……もっと時間があれば、じっくり調べたいところなのに……っ」
 いいながら彼はメモを取る準備を万全にしている。
(そういえば、大巫女殿は何かの存在をぼんやりと示唆していたような)
 ルスティロは物は試しとスキルで感覚を研ぎ澄まさせる。
 と――
 思いもよらないところで、かさりという物音がした。それは小さな動物が動くような、本当に小さな音で、音の出所は――書庫の隅の壁の、そのまた奥だった。本当に、思いもよらぬ場所である。
「あの……何かの気配が、あちらの方からするんですが」
 書籍を手分けして調べる作業に移っている面々の中から何人かにそう声をかけると、その話を聞いたものたちは互いに顔を見合わせた。
「ちょ、本当になんかいるのかよ……ネズミ? それともなんだ?」
 と、そこになにやらビスケットやキャンディと言った菓子を持ちだしてきたのは――ジュードとキヅカ。一方ヒースは、相手が自尊心の強いねじくれものと仮定したら言葉で煽ってあぶり出すのも手だな、とぼんやり考える。
「案外、童話に出てくるランプの魔神みたいに、何かにふれたらでてきたりとかもあるかもしれませんねー」
 水月もなんだか楽しそうに、鼻歌交じりに書架の奥に何かないかをチェックしてみる。
 ――ただ、そちらも気になるのは間違いないが、資料探しもしなければならないのも事実である。
 ビャラスグ山周辺の様子はわかったし、地図も獲得することができた。
 ナルガンド塔については詳しい記述がなかったが、いつごろ誰がなんの為に建設したのかもわからない――と言う点は収穫なのかも知れない。
 万が一持ち出し禁止の可能性を考えて、地図についてはスケッチを担当すると宣言していたダリオが早速書き写し始めている。幻獣にや大霊堂に思い入れはないと言っても、友人の手助けは当然だし、歴史自体には興味があるから、こういう作業は嫌いではなかった。
「こちら書庫のサーシャ。ビャスラグ周辺の地図は発見することができた。あと、あの地域にはやはりかつては住民もいたらしいが……詳しくはまた合流後に」
 まとめ及び連絡係も兼ねているサーシャが、他の場所にいる仲間たちと情報を共有出来るように定時連絡をいれる。
「大幻獣の情報もありましたよ!」
 ルスティロが見つけてきたのは随分装丁の損傷の激しい本だった。
「大幻獣はやっぱり、幻獣の中でもマテリアルをひときわ多く保有する個体……とみるのが良さそうですね。種類には関係なく、マテリアルの保有量で決まるようです。マテリアルの量が多いということもあって、他の個体よりも寿命も長いともあります」
 また、人語を解する幻獣は、大幻獣である可能性が高いとも。
 それを聞いて、ヒースは意味ありげに笑って見せた。そして、これ見よがしという風に、声に出して言う。
「他人に授けるに値する叡智があるのならば、それを照明して欲しいところだねぇ。だってもし出てこないなら、人前に姿をさらす勇気も覚悟もない、臆病者を探し続けることになるんだから、ねぇ?」
 理性ある相手が効いたら、おそらくかちんとくるであろう、挑発めいた言葉。

 すると、そこへ――キイキイと甲高い声が聞こえた。
「我輩のような素晴らしい大幻獣がそんな人に臆することなんて、ないのです!
 見くびられては困るのです!」

 聞き覚えのない声に、誰もがみんなはっと顔を向ける。地面から約三十センチくらいの、ところに。
 そこには――でっぷりと太った、体長も見た目もジャンガリアンハムスターに似た『何か』が、杖を片手にふんぞり返っていた。
 だけど、そのもう片方の手にはいつの間にやらキヅカの用意したビスケットを手にしており、よだれをちゅるんとたらしている。かじったあとも見られるが……これについてはもう何も言うまい。
 ただどっちにしろ、予想外の存在の登場にあっけにとられたジュードが、呆然と声を出す。
「……ネズミ?」
「違うのです! 我輩こそが幻獣王、チューダなのです! 皆のもの、我輩を崇めろなのです!」
 チューダと名乗ったどうやら幻獣らしき『それ』は、一言で言うと激おこぷんぷん丸だった。ついでに言うとハンターたちを若干「しもべ」か何か何かと勘違いしているような嫌いがある。
 そしてそのチューダは一歩足を踏み出そうとして――背中のマントを思いっきり自分で踏んづけて、ずっこけた。
 それを見ていたハンターたちは思った。
 あ、これなんかちょろい、と。


「……さて! いよいよ我輩の出番なのです! ……って、そう言う運び方はやめるのですー!」
 チューダと名乗った自称『幻獣王』は、首根っこを猫か何かのように捕まれた状態で大巫女たちもいる広間に連れて行かれる。幻獣を見つけたという連絡を受けたハンターたちも、広間に皆集まっていた。
「おやまああんた、見つかったのかい」
 大巫女はその様子を見てクスクスと笑いながら、しかしハンターたちの能力を認めていた。幻獣をこうやってあっさり連れてこられるのは、やはり幻獣という存在に恐怖などを抱いていないからだろう。
「大巫女! ハンター諸君は我輩に対してかなり野蛮なのです!」
「いや、どうせあんたもしょうもないことを言ったりして売り言葉に買い言葉なんじゃないのかい?」
 大巫女の発想は当たらずとも遠からず。いきなり上から目線で話し始めようとする小動物など、それこそマンガや童話の世界でしかお目にかかれない。それをやってのけたわけだから、まあ、決して百パーセントの好印象、と言うわけにはいかないだろう。……その見た目が随分得をしている、と言えばしているのだろうが。
「……で。チューダって言ったっけ、随分可愛い感じの幻獣ですけど」
 もっとメカメカしいものを期待していたフレデリクとしては、少しばかり残念そう。逆にウサギなどのもふもふ系を期待していたアルヴィンはご満悦の表情だ。
「これは光栄やんなぁ……ちっこいけど」
 ラプも感慨深げに呟く。
「そうなのです。我輩は幻獣王、つまり他のみんなは我輩のしもべも同然なのです!」
 自信満々に言うチューダ。しかし大巫女は少し苦笑を浮かべてから、言葉を紡ぐ。
「もともと大霊堂の辺りには、キューソって言う幻獣がいてね。チューダを見てもわかると思うけど、決して大きくない、せいぜい野ねずみ程度の大きさなんだが……何がどう間違ったのか、こいつはそのキューソの中でも特にマテリアルの量が多くて質も高い。自然、大幻獣になっちまったのさ。ま、こいつは自分のことを幻獣王なんて名乗っているけれど、おっちょこちょいなところもあるからね……話をぜーんぶ真に受けると痛い目に遭うかも知れないよ?」
 大巫女の説明に、なるほどと頷くハンターたち。大幻獣ならば言語を解した上で会話出来るものもいる――と言う言葉もあったし、このチューダという幻獣がいわゆる大幻獣であるのは間違いなさそうだ。そしておっちょこちょいというのも、何となく納得がいく。背中に申し訳程度についている羽は、確かに普通の動物と異なるが、このふくふくした身体で本当に飛べるのか、それはそれで不安だ。
「ちなみに、キューソって幻獣は今も他にいるのかなぁ?」
 純粋な疑問を口に出したのは桜色の髪と瞳をもつドワーフの少女ミィリア(ka2689)だった。書庫ではビャスラグ山周辺を調査していたが、チューダのかわいらしさ(?)にすっかりめろめろであるようだ。すると、チューダは少し寂しそうに顔をうつむけた――ような気がした。
「昔はもっともっとたくさんのキューソがいたのです。しかし、歪虚が力をつけてきたことなどもあって、以前よりも大分減ってしまったのです」
 今は大霊堂のなかに巣を作って暮らしているらしい。ある意味見た目通りともいえる、したたかな幻獣である。
「……で。出てきたからには、何か話したいことがあるのかな」
 幻獣はみずから姿を現すことは決して多くない。特に、このチューダのような小柄な幻獣であれば、たとえ大幻獣といえども危険が多いのは承知の上だろう。それが、ハンターたちの前に現れ、みずからの叡智を云々と言っているのだから、期待するなと言う方が無理な話だ。
 と、床に立ってふんぞり返っているチューダは杖――と言うよりもおそらく錫――を振りかざし、自信満々に言った。
「ハンターのみんなは、我輩の持つ叡智を求めているのです! そう、例えば――ビャスラグ山の、大幻獣についてとか!」
 その言葉に、誰もがはっとする。
「……まさか、知っているの?」
 アルトが興味津々に尋ねると、
「勿論なのです!」
 これまた力強い返事。
「ビャラスグ山の近くに住んでいる大幻獣――それならば、まず間違いなく大幻獣『トリシュヴァーナ』に違いないのです!」
 自信満々に言うチューダだが、聞き慣れない名前にハンターたちは顔を見合わせた。
「トリシュヴァーナ? 一体どう言う大幻獣であろうか?」
 首をひねったのはダリオだ。
「あ、もしかして……コレ?」
 そこに本の写しらしきイラストを持ってきたのはアルヴィンだ。首の三つある狼か何かのような、美しく威厳ある幻獣の姿がそこには描かれていた。
「それなのです!」
 チューダはまたもやふんぞり返る。ひっくり返りそうになるが、それは何とか踏ん張って見せた。
「そういえばファリフの痣も狼の形だっけ? 関連性があるのかも知れない」
 誰かがそう呟くと、そういえばと何人かが頷いた。
「おそらくそうなのです。というのもトリシュヴァーナはとても強力な大幻獣なのです……我輩と同様話をすることが出来るのです。とても強い、大幻獣なのです」
 自称幻獣王チューダ、他の大幻獣を褒めちぎっている。しかも大事なことなのか二回繰り返した。
 まあこのあたりは人間への信頼などもあるだろうから一概に色々突っ込みすることは出来ないが。
「んじゃ、トリシュヴァーナっていうのは間違いなく大幻獣なんだな?」
 幻獣には興味はあるがちまちま調べるというのが性に合っていない――とうそぶく劉 厳靖(ka4574)が、そう顔を近づけて尋ねてみると、チューダはこくりと頷いた。
「トリシュヴァーナは、それはそれは美しい幻獣なのです。近衛にもあるとおり、三つの首をもつ大きな犬の姿をした大幻獣で、ファリフを呼んでいるのもおそらくトリシュヴァーナなのです。似たような大幻獣にフェンリルというのもいるのですが、ナルカンド塔と言うことなら、トリシュヴァーナで間違いないはずなのです!」
 トリシュヴァーナ――その性格は獰猛で攻撃的だが、群れの一員と認めれば命を賭して護るという風に、プライドや社会性の強い幻獣らしい。姿を想像してわかるように攻撃力も優れているが、同時に深い知識や知恵を備えているという一面もあるらしい。
「もともと辺境の白龍が消滅したことで、危機感を持っている大幻獣は多いね。姿を現すことこそ多くはないが、辺境部族に協力しようとしている個体も確認されているよ」
 大巫女もそう言って、彼らの行動が人間たちに友好的だと説明してくれる。
「本当はきっと、トリシュヴァーナもそんな一体なのです。でも、歪虚との戦いで多くの眷属を失ったこともあって、歪虚に対して激しい復讐心を持っているのです……」
 チューダは少し寂しそうに、言葉を紡いだ。
「……あと、トリシュヴァーナは、人間の力を格下に見ているのです。実力を信用しきっていないのです……幻獣の多くに見られる現象ではあるのです」
 人間を信じ切ることの出来ない、悲しい大幻獣――それがトリシュヴァーナ。
 けれど、そのトリシュヴァーナこそがファリフを呼んでいるというのであれば、行かない理由はない。
「じゃあさ、チューダって言ったっけか。お前さんに、協力を頼みたい。今回だけじゃなく、幻獣が持っているという知識や、トリシュヴァーナに対しての対応策とかを、さ」
 厳靖がそう提案すると、チューダは目を丸くした。
「わわわ、我輩にそんなこと、出来ないのです! たとえ我輩が偉大なる幻獣王でも、大幻獣たちにそんな風に……ッ」
 チューダは誰が見てもわかるくらいに焦っている。まあ、『幻獣王』なんて名称はあくまで自称にすぎないとは多くのハンターもうすうす気づいている。しかしこのなりでも、人間に友好的な大幻獣には間違いない。きっと手伝って貰えることはある筈だ。
「そうだよ。ボクたち、君の友達になりたいんだ」
 その言葉に、チューダはヒゲをぶわっと膨らませた。
「と、……トモダチ、でありますか?」
 周囲を見れば、ハンターたちの目は優しい。チューダのような、どこか小生意気な幻獣も受け止めてしまえる、その懐の深さが見て取れる。
「ハンターたちはずっと協力してくれる存在を探していたんだ。チューダ、あんたがそれになるときじゃないかい?」
 大巫女にもいわれ、ついでに何人かのハンターにしっかり餌付けもされ、チューダは断る手段をすっかり失っていた。
 ――でも、このハンターたちなら信用出来るかも知れない。
 トリシュヴァーナも、受け入れてくれるかも知れない。
 チューダはちらちらとそんなことを考えたあとで、
「そ、そんなの、仕方ないから手伝ってやるのです!」
 とても、とても、テンプレな台詞を吐いて。
 そして、高らかに宣言した。
「我輩こそは『幻獣王』チューダ! 我輩はこれより、ハンターに助力するのです!」
 そう言ってのけるチューダは、なんだかちょっぴり楽しそうだった。


 ――大幻獣トリシュヴァーナ。
 ナルカンド塔の最上階で、ファリフを待っているという、大幻獣。
 怖くないと言えば嘘になる。
 しかしその情報を得られたのは確かなことだ。
 自称幻獣王チューダという小さい大幻獣の助力も得ることができた。
 聖地の巫女たちも、必要あれば力を貸してくれるだろう。
 知りたい情報も、完全ではないが整ってきた。
(どうかこれが、幻獣たちの力を借りることのできる機会を生み出しますように)
 誰もがそれを祈りつつ。
 ハンターたちは深々と巫女たちに礼をして、帰途を急ぐのだった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 18
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカーka0145
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハートka0410
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月ka1895
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチka2378

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 英雄を語り継ぐもの
    ルスティロ・イストワール(ka0252
    エルフ|20才|男性|霊闘士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 救世の貴公子
    アクセル・ランパード(ka0448
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • まないた(ほろり)
    サーシャ・V・クリューコファ(ka0723
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 堕落者の暗躍を阻止した者
    レオン・フォイアロート(ka0829
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 白煙の狙撃手
    伊勢 渚(ka2038
    人間(紅)|25才|男性|猟撃士
  • 帝国の猟犬
    ダリオ・パステリ(ka2363
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • 礼節のふんわりエルフ
    フレデリク・リンドバーグ(ka2490
    エルフ|16才|男性|機導師
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 一夜の灯り
    ラプ・ラムピリカ(ka3369
    ドワーフ|14才|男性|魔術師
  • 救いを恵む手
    スピノサ ユフ(ka4283
    人間(紅)|29才|男性|機導師
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖(ka4574
    人間(紅)|36才|男性|闘狩人
  • 戦場の舞刀姫
    麗奈 三春(ka4744
    人間(紅)|27才|女性|舞刀士
  • 狂喜の探求者
    フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808
    人間(紅)|35才|男性|疾影士

  • シュクトゥ(ka5118
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/22 19:23:18
アイコン 情報収集相談所
レイス(ka1541
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/06/26 00:09:25