• 春郷祭1015

【春郷祭】採光花の観賞と命名

マスター:村井朋靖

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2015/06/24 19:00
完成日
2015/07/14 00:10

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 今回のジェオルジ村長祭で大々的にお披露目されるのは、前領主で農業研究家のルーベン・ジェオルジが発見した不思議な花、その名も「採光花」。
 これは昼に溜めた光を、夜に発光させる花であり。切花にしても光り、周囲をほのかに照らす。見た目はデージーで、色は多種。そのぼんやりとした光はとても幻想的だ。ルーベンはこの花を激しい戦いに晒された辺境に贈ることを決めている。

 この植物もまた、おにぎり草「まめし」に続いて、ルーベンが手がけた傑作という立場は揺るがしようのない事実だ。
 しかし、一家の女性陣はひとつだけクレームをつける。まぁ、だいたい察しはついていると思うが……
「なぜだ! なぜ、そんなに嫌がる!」
 家族が集う食卓で、半年前とまったく同じセリフをのたまうルーベンは、妻・バルバラと娘・ルイーザに訴えかける。
「採光花でいいじゃないか! サイコーじゃないか!」
「あなた、口が酸っぱくなるほど言ってますけど……つくづく名付けに向いてませんわ」
「お母様の言う通り。採光花っていう名前は端的に本質を捉えてるんだけど、ちょっとセンスがないのよね……」
 要するに「ダサい」と口を揃える二人。なお、今回もセストは何も言わずに、黙々と食事を続けている。
 また自分の味方をしてくれない息子を横目で見ながら、ルーベンは無駄な熱弁を振るう。
「ならば、どうする。私の採光花は、もうすぐ鑑賞会でお披露目するんだぞ!」
「ああ、採光花は仮称よ。あなたが何度叫んでも、正式名称にはしませんから」
「ぐぬぬ……!」
 農業研究にかけては右に出る者はいないルーベンも、ひとたび家庭に戻ればただのダメ親父である。
「お父様、今回も鑑賞会に参加された方に命名してもらおうと考えてるの」
 ルイーザはそう切り出した。
 今回の祭も盛り上がっている背景には、前回以上にハンターの活躍がある。そんな彼らに命名をお願いすれば、農耕推進地域ジェオルジとしても最大のPRとなる。この祭に協力する他の都市に華を持たせるのもいいが、ここは我等が領地。積極的に動かない理由などないわけで。
「姉上らしいご提案ですね。僕は賛成です」
 最近は領主らしく、ハンターとも付き合っているセストも賛成。バルバラは……もはや説明するまでもない。
「ということで、鑑賞会にお越しのハンターさんに命名をお願いする手はずを、すでに整えてあります」
 そこまで聞いたルーベンは「それじゃあ、もうラウロ師に手配を済ませているのか?」と聞くと、妻は「察しのいいことで」と微笑んだ。
「とはいえ、あなたの辺境への思いは私の知るところでもあります。ですから、今回は採光花の呼び名を考えていただくことにしました」
 半年前の村長祭では「おにぎり草」というネーミングが複数のハンターから支持を受け、結果的に命名された名前に残った経緯がある。なので、今回は「採光花」というネーミングは最初から残す形で命名の募集を行うことにしたのだ。
「これで、お父様の顔も立つでしょ?」
「ま、まぁ、それならいい……かもしれんがだなぁ」
「じゃあ、万事オッケーということで」
 ルイーザが一方的に話を打ち切ると、母と弟も「うんうん」と頷く。ルーベンはどこか腑に落ちない表情を浮かべてはいたが、そのうちに諦めて食事を口に頬張るのだった。


 数日後。鑑賞会の会場に、審査員を務める自由都市評議会の議長、ラウロ・デ・セータ(kz0022)がやってきた。
「いやはや、この度も名誉ある任務をお任せくださいまして、お礼の申し上げようもございません」
 この言い方から察するに、どうやら報酬の話はまとまっているらしい。領主のセスト・ジェオルジ(kz0034)は、ラウロと母の表情を見て察した。
「ほほぉ、これが採光花……今は昼なので、光を集めている状態なのですかな?」
「ええ、夕暮れを過ぎると徐々に発光します。とはいえ、遠くを見通す程の光量は発しません。周囲をぼんやりと照らす程度です」
 セストがそう説明すると、ラウロは「なるほど」と顎に手をやる。
「ルーベン殿が辺境にこの花を贈りたいと思う気持ち、なんとなくわかる気がしますな」
「父は辺境での農業研究も進めてますから。おにぎり草「まめし」もそうです。今回は特にその気持ちが強いようです」
 すでに領主の自覚はどこかその辺に放り捨てたはずのルーベンだが、今回は「村長祭を延期させたのは私の一存だ」と公言するなど、強い気持ちで挑んでいることは誰の目にも明らかだ。だから、家族もその珍しい心意気に応えようとしている。
「とはいえ、花の観賞だけでは退屈するかもしれませんので、お料理などを準備させていただきますわ。前回お披露目したおにぎり草「まめし」もたくさん準備しております」
「戦いに明け暮れたハンターの皆さんにとって、安息の一日になるといいですな」
 ラウロはそう言って、採光花を見た。今のハンターに必要なのは、もしかしたら花を愛でる時間や余裕なのかもしれない。

 かくして、「採光花」の観賞会と命名パーティーが、領主の土地で盛大に開催される運びとなった。
 今回の開催は夜。採光花がほのかに輝くテーブルを囲み、皆で賑やかな一時を過ごしてみませんか?

リプレイ本文


 ジェオルジ一族が開催する鑑賞会の舞台は、前回とは違って夜である。
 テーブルの中央には主役となる新種の花「採光花」が飾られ、その周囲にさまざまな食事が並ぶ。そこには、前回の祭で評判となったおにぎり草「まめし」も顔を揃えている。足らなければ、普段は一族の畑を耕す者たちが給仕する手はずだ。

 このパーティーの開催にあたり、領主のセスト・ジェオルジ(kz0034)の挨拶に始まり、父で農業研究者のルーベン・ジェオルジの研究発表と辺境への思いを語り、最後はゲストの自由都市評議会の議長、ラウロ・デ・セータ(kz0022)が乾杯の音頭を取ってスタートとなった。


 ルーベンはジュースを片手に歩いていると、リューナ・ヘリオドール(ka2444)に呼び止められた。隣には白衣姿の滝川雅華(ka0416)が座っている。どうやら気の合う者同士で語り合っているらしい。
「まめしは面白いわよね。スパイシーチキンを入れて作ったんだけど、どうかしら?」
 リューナの差し出したまめしをかじり、ルーベンは「ふむ」と頷く。同じものを食べる雅華は「リューナさんの味付け、美味しいわ」と賛辞を述べた。
「煮るだけで味付けまでできるとか嬉しいところだわ。私としては、夏に向けてウナギのかば焼き味とか作ってほしいところね」
 雅華は奇妙な植物に備わった機能美を褒めるが、ルーベンの興味はウナギのかば焼きに向けられたらしい。
「なるほど、それはまめしに合う食材ということか……」
「今はお酒が進む味付けがたくさん用意できるから、特になくても問題ないけどね」
 リューナもグラスを上げ、それに応じる。
「そうそう、花の名前は【夜待花】なんてどうかしら? 昼に集めた光を夜に放つところから名付けたわ」
「あたしは採光花って名前、シンプルでいいと思うけどねぇ。提案としては【なにか光るの】とか、どうかしら?」
 ふたりの提案を聞き、ルーベンはメモを走らせた。
「ほら、雅華さんも食べてる? あそこにチョコレートケーキあるわよ」
「それ、いただきましょうか」
 ふたりの会食は、まだまだ始まったばかりである。

 ルーベンが歩みを進めると、今度は仲のいいエルフの姿が目に入った。
 アルナイル(ka0001)はテーブルの中央に飾られた花を見て、仲良し幼馴染のシリウス(ka0043)に声をかける。
「素敵なお花……どんな名前が良いかなぁ。わたしの好きなお星さまの優しい光に少し似てると思うの。シリィはどう思う?」
「僕も同じ。お星様みたいだって思った。淡くても強く湧き上がるような光……」
 さっきまで空にあった太陽を思い、シリウスは頭上を見上げた。アルナイルはあの空に輝く星を見て微笑む。
「わたし、名前を考えてみたの。名前は【せいか】。聖なる火、星の華……たくさんの意味を込めて」
「いいね。僕は【エトワール】、希望の星だね。お日様が分けてくれた光を大切に抱えてるこの花にピッタリだよ」
 そう言いながら、シリウスはアルナイルにまめしを勧める。それは薄い色で染まっていた。
「おにぎりってあんまり食べないけど、バタークリームを入れて作ってみたよ!」
 シンプルな味付けながら、少し甘く調理されているらしい。アルナイルが一口かじれば、甘味が広がった。
「うん、おいしい! わたしもスイーツを入れて作ってみたの!」
 少女が出したのは、果物を入れたまめし。シリウスがそれを食べると、自然と笑顔になる。
 その姿を見ながら、ルーベンは微笑みながら席を離れた。


 一方、別のテーブルでは、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が響ヶ谷 玲奈(ka0028)のドレス姿を筆談で褒めていた。
『今日のレナはかわいい!』
「それはきみも一緒だよ。ああ、愛しのエヴァ。何か食べたいものはあるかい? 彼に取ってこさせよう」
 エヴァがイラストで『これが欲しい』と指示を出すと、彼ことトライフ・A・アルヴァイン(ka0657)が脇のテーブルへと歩き出す。玲奈には甘い物が好きなので、それを丁寧に皿に盛って差し出す。
「やけに親切な対応だね……」
 玲奈はトライフの行動にどこか不審さを感じたが、エヴァに対しては味付けもされていない山盛りのまめしを皿に載せて出すところを見て「そうでもないか」と感じた。
 エヴァはひとまず『ありがとうございます』の単語帳を見せながらも、すかさずドレスを摘みながら立ち上がり、そのまま次の単語『知ってた』を見せながら、トライフの背後めがけてカチ上げ式のラリアットで報復した。
「痛って! 質より量だろ、お前は」
 相手の返答を聞き、エヴァはまた腕を振り回し始める。何度もアレを食らっては困るとばかりに、トライフは玲奈の隣にさっと座ってエスコートした。
「何時にも増して綺麗だね、どちらも。眼福ものだ」
『一言多い』
 トライフに対して用いる単語なのか、エヴァはそれをスッと差し出した。その速さに玲奈も笑う。
「エヴァ、そのまめしとやらを半分おくれ。代わりにケーキを、あーん?」
 エヴァは口を開けてケーキを食べ、即座に『美味しい!』と反応を見せる。玲奈も素のまめしを食べ、「確かにおにぎりだね」と納得の表情を浮かべた。
 そんな姿を見ながら、トライフは玲奈の髪に採光花の切花を挿す。
「思った通り。よく似合うよ。こうしてみると、花の名は【希望の兆し】と呼ぶべきか、【暗き夜を越える為の導】、いや【gleam】か……」
「わたしは【エスペランサ】と考えているよ。暗闇の中でこそほのかに明かりを灯し、我々を導く道標……なんてね」
 こうやって玲奈のドレスに合う色の花を添えると、今度はエヴァの方を向くが、相手はすでにジト目で睨んでいた。
「……ん? なんだエヴァ。ああ、ほれ」
 食材を入れる都合上、つぼみの大きなおにぎり草の花をちぎって渡す。
『いーりーまーせーんー!』
 エヴァはそのままスケッチブックを持って席を立ち、セストとラウロのいるテーブルへと向かった。どうやら自分の絵の売り込みに行くらしい。
 その場に残された玲奈は、今までの自分への態度を見て気づく。
「なるほどね、そういうことか。もちろん、まだ怒ってはいるよ」
「ま、そうだろうな……」
 トライフは甘い香りの煙草を燻らせながら、そう告げる。
 しかし、玲奈の返事が意外なものだった。
「……トライフ、わたしは嘘をついた。すっかり忘れていたとも。だからきみも蒸し返さないでくれたまえ。また同じ事をしたら、承知しないがね」
 玲奈がそう言って睨むと、トライフは「わかったよ」と手をひらひらさせて微笑んだ。


 その隣のテーブルでは、テーブルの中央に向かって手を伸ばす少年がいた。彼の名は鬼百合(ka3667)。今日は同居人のファウストゥス(ka3689)と共にやってきている。
「ファウのにーさん! オレも花みたい!」
「ああ、テーブルの上の花は見辛いか」
 椅子の上に立つのは憚られるので、ファウは鬼百合を抱き上げた。ボンヤリと光る花を見て、少年は嬉しそうに笑う。
「花が光るってのは、フシギな話ですねぃ。ランタン代のセツヤクになりまさ」
「家で使う分にはなんとか……といった感じだな」
 鬼百合がひとつ花を取って帽子に飾ると、今度はまめしに興味を移す。
 見た目は完全に野菜なのだが、中身はおにぎりなので、少年はあっさりと全部食べてしまった。
「ん? たべたら、味が野菜じゃなかったんでさ!」
 そう言うと、鬼百合が味付けされたまめしを両手に抱えて帰ってくる。ファウは「結局は野菜じゃないのか」と思いながら茶色い鞘を開けると、カレーの匂いが漂う。
「カレーだ! うん、これ美味しい!」
 少年から差し出されたカレー味を手に取ると、ファウもそれを一口。なるほど、確かにこれは野菜じゃない。
「……なるほど、これは美味いな」
 ファウは「野菜嫌いの子どもには効きそうだ」と思った。
「にーさん、にーさん! 花の名前を考えないと。オレは【みちしるべ】にしますぜぃ! 未来は明るいって教えてくれる気がしたんでさ」
「なるほどな。ならば私は【Wunsch】にするか。願いという意味が込められている」
 ふたりのパーティーはまだまだこれからだ。


 主催者のテーブルは少し大きく、時としてここにハンターが陣取ることもある。先ほどはエヴァが自分で描いた採光花のイラストを、植物学的かつ広報面で周知に便利だと説きに来た。
 今はパーティーを楽しむハンターたちがここを陣取る。軍服姿に着飾ったイルム=ローレ・エーレ(ka5113)、端正な顔立ちの静架(ka0387)、そしてまだまだ子どもの面持ちを残す龍華 狼(ka4940)がそうだ。イルムはひときわ目立つドレスを着るルイーザの隣に座り、静架はセストの、狼はあえて言うなら食事の前で一心不乱に食っている。
「しかし、彼はよく食べるねぇ……ま、年頃の子どもはああでなくちゃね!」
「セストもあれくらい食べてくれると、私がもう少し食べれていいんだけど……」
 ルイーザの家族は少食らしく、ハンターで食ってる彼女はやや肩身の狭い思いをしているらしい。イルムはこれを聞き逃さず「なら、外で一緒に食事でもどうかな」とナンパに精を出す。
 姉にそんな悩みがあったのかと驚くセストだが、静架から採光花についての質問を受けていた。
「この花は、種と株分けのどちらで増えるのですか?」
「種です。光を放つ力が弱まってくると種を作るようなのですが、その数はあまり多くありません」
 なるほどと話を聞く静架は、心なしか楽しげに育て方や取り扱い方を知りたがった。それにセストも丁寧に答える。
 その間、狼は腹いっぱい飯を食い、いろんな味のまめしを平らげた。あんまり勢いよく食うものだから、ラウロが近くの者に「少年の近くに飲み物を」と気を遣うほどだった。

 そんなこんなで、採光花の命名へと話が移った。
 イルムは【フェアリーライト】と言えば、静架は【milky way】と応える。
「そのミルキーウェイって、どういう意味なの?」
 ルイーザが問うと、静架は「天の川」と表現した。
「地上に零れ落ちた星の川の意味を込めて、この名を贈らせて頂きます」
 それを聞いた狼が、不意に花を見る。正直、今まで興味も持たなかったが、今の名付けを聞いて顔を上げた。脳裏に蘇るのは、星を見て育った過去の記憶。母との思い出にふと涙が溢れた時、彼は胸を叩きながらその場を離れた。
「あれ……なんで……? はは……恥ずかしいな……」
 今さら感傷に浸ったって、母は帰らない。そうわかっていても涙は止まらない。密かにそれを追ったイルムは「複雑なんだね」と微笑み、ゆっくりと自分の席へと戻った。


 さて、気心知れた友人たちと「闇まめし会」を楽しもうとするが、そこで神代 誠一(ka2086)が採光花の命名について声を上げた。
「【ぱっ花】なんてどうです?」
 肩に乗ったカモメのシエロが盛大にズッコケるのを見て、アリア(ka2394)が困った笑顔で「それはナイとおもうなー」と軽くジャブ。すぐに話を白藤(ka3768) に振った。
「お陽さんをあつめて、灯りにする……【灯花】とかどないやろうかな……」
 指先でちょんと花弁に触って命名を披露すれば、シエロも「うんうん」と頷く。しかし残念ながら、誠一はめげない。
「椿姫さんもいいと思いません? ぱっ花」
 おにぎり草の仕込みを終えた椿姫・T・ノーチェ(ka1225)は「なんだか馬の蹄の音みたいですね……」とぱっ花を評した。
 それを聞いたアリアは、その場でパッカパッカと馬の蹄をイメージしたステップを踏んでのダンスを披露する。これがアッパーとなり、ようやく誠一に「俺のはダメかなぁ」と思わせるきっかけとなった。
「私は【ホシアカリ】はどうかなって。地上に輝く星みたいで」
「それ、いいですね。じゃあ俺は【ホシアカリ】を支持します」
 そう言いながら、嬉しそうに酒瓶を取り出し、それをまめしの蕾に染み込ませようとする。
「やー、実はこの日の為にとっておきの酒を……」
 誰の、というか、全員の冷めた視線を感じ、最後まで言葉を紡がず、スッと酒瓶を隠す男・誠一。しかし、彼は別の素材をコッソリ仕込んだ。そこへアリアの特製まめしが差し出される。色は茶色っぽいが、何か香ばしい匂いがした。
「はい、どーぞ♪」
 誠一がそれをかじると、口いっぱいに肉汁のような風味が広がる。なるほど、これはハンバーグだ。
「でしたら、こちらをどうぞ」
 誠一が差し出すのは黒っぽいまめし。形状が丸いので、元の素材を想像しにくいものなのだが……アリアは一口食べると、笑顔で「チョコだー♪」と喜ぶ。
「アリアさんは初まめしですからね。忘れられない思い出にと思いまして」
 思い出作りという観点から言えば、むしろこれからが本番か。椿姫は海老柄に緑の点が入ったものと、アリアのハンバーグに似た色に白の混じったまめしを出す。
「ん? これ何やろ……ああ、ハーブで味のついた海老か」
「御名答。こちらは、胡椒で味付けした干し肉とチーズです。まめしによく合いますよ」
 アリアは自分好みのお子様メニューが出てきて大満足。白藤も「これは……使えそうやなぁ……」と料理の案に頭を悩ませた。
 その輪の中に、シェラリンデ(ka3332)がやってきた。彼女もまたパーティーに参加するひとりである。
「あ、お久しぶり」
「シェラさんじゃないですか、こんばんは」
 椿姫が挨拶をすると、白藤も「あら」と声を上げる。ふたりは誠一、アリアにシェラを紹介すると、今度は銀 桃花(ka1507)がやってきた。こちらは誠一と既知で、彼女もまたこの輪の中に加わる。
「桃花さんはこちらをどうぞ。プリン味のまめしです」
「これが噂に聞いたまめし! 携帯に便利で、いろんな味が作れるなんてさいこー☆」
 まずはデザート系まめしを口にすると、桃花はいろんなまめし探しの旅に出る。そして刻みトマトとチーズのリゾット風味や、牛丼風味のまめしを抱えて帰ってきた。それをもしゃもしゃ食べているところに、誠一はさっきの話を蒸し返す。
「ところで、テーブルの中央にある花の名前……【ぱっ花】とかどうです?」
 シェラは椿姫にもらったまめしを落としそうになるほど驚いたが、桃花はいろもあっさりと「せーちゃん先生……アウト」と腕でバツを作って全否定してみせた。
「ボクは【夜謳花】って考えたんだ。昼の光を受けて夜には自ら幻想的に輝いて、まるで夜に自分の存在を謳うように知らしめている印象から考えてみた名前だね」
「ふむふむ、それも素敵だね! 僕は椿姫さんの【ホシアカリ】を推しとく!」
 誠一が少し俯きがちになったので、椿姫はすかさず干し肉とチーズのまめしを出した。
「あ、これとか好評なんですよ。食べてみてください」
 放置プレイにされそうな不安を振り解いてくれた椿姫に感謝しながら、誠一はそのまめしを食うが……それは色が一緒なだけでまったくの別物。実はチョコ餅とアイスの激甘まめしだった!
「!!?」
「言ったはずですよ……闇まめしの会だと」
 口を押さえて悶絶する誠一は椅子の上で盛大に身を揺らすが、椿姫は勝利の美酒を味わわんと手元にあったお茶に手を伸ばす。それをクイッと一口飲むと、今度は椿姫の口がへの字に曲がった。
「ううっ、こ、これは!」
「ゆ、油断大敵、ですよ。お茶を激渋のものに、すり替えておきました」
 苦しみながらも反撃できて喜ぶ誠一の姿を見て、アリアと桃花は「おおー」と賛辞を送る。彼もまたしてやったりの表情でお茶に手を伸ばし、それに口をつけるが……
「う、うぐっ! い、いつの間にっ! ゲホゲホ!」
 なんと口に流し込んだのは、椿姫に仕込んだはずの激渋茶。ただでは転ばないのは椿姫も同じで、勝ち誇る誠一を見て気力を振り絞って反撃に転じたのだ。アリアと桃花はもちろん、シェラと白藤もその様子を見ていたが、誰もそれを喋らないという空気の読みようである。
「白藤さんは食べる前に確認した方がいいね」
 自分に世話を焼くシェラに「そのようやね」と返し、匂いを嗅ぎながら食事を再開する白藤。そう、闇まめし会はまだ始まったばかりだ。


 テーブルの中央に咲く花をじーっと見て、浅黄 小夜(ka3062)は「綺麗、です」と呟いた。
「ルーベンのおじちゃんは……どうしてこういう発見を……できるんやろ……」
 小夜は、素朴な疑問を本人にぶつける。
「まずは知ることだ。知っていれば、違いに気づく」
 隣に座るルーベンは、そう語った。
「やっぱり……たくさんお勉強……してるから……わかる?」
「勉強というよりも、興味を持つところが大きいかもしれんな。リアルブルーで言うところの、下手の横好きに近い」
 そうは言っても、前回はおにぎり草「まめし」、そして今回は採光花の発見だ。いかに子どもの小夜にしても、下手は謙遜にしか聞こえない。
「不思議なもの……見た事ないもの……見るんは楽しいって……小夜も思うから……そうゆうこと、なのかな……?」
「そうだな。どんなことも同じだと思うが、当たり前のことを当たり前で済まさず、何かに気づけるようになると、かなり見える景色も変わってくる。違いはそこだけかもしれん」
 小夜は頷きながら花を見て、小さく「【ほたる】とか……かわええと思うけど……」と呟く。すると、隣で同じ花を見ていたエステル・クレティエ(ka3783)が、蛍について尋ねる。
「小夜さん、ですか。突然ですが、教えてください。蛍はリアルブルーにいるふんわりと光って舞う虫ですよね?」
 小夜は突然の問いかけに戸惑いながらも、何度か「うん」と頷いて見せた。
「なら、私はお花の蛍をイメージして【咲蛍】にします。私はエステル、さっきからまめしを半分に割って、中に具を入れて食べてるんです。これがリアルブルー式のおにぎり、なんですよね?」
 小夜は懐かしさを感じたのか、また「うん」と頷いてそれを見る。エステルは割った中にスライスチーズと野菜、ベーコンなどを混ぜて食べていた。中身はクリムゾンウェスト風だが、食べ方は確かにリアルブルー風だ。
「なんだか、懐かしい……気がします……」
 そこへ自転車を引きながら歩くエステル・ソル(ka3983)が近づく。どうやら先ほどのやりとりを途中から聞いていたようだ。
「あなたも、エステルさん……? わたくしもエステル、エステル・ソルと言います」
 それを聞いたルーベンは「広い世界には、こんな偶然もあるものか」と驚いた。
 小夜は青い髪のエステルにご挨拶すると、花の名前について話してたと伝える。
「私は【誘月】と考えてました。お日様の光を集めて夜に光るのは、お月様に気が付いて欲しいみたいです。私に気が付いてください。貴方を想っています。そんな風に話しかけているみたいです」
 黒髪のエステルは「素敵ですね」と微笑み、小夜も「綺麗……」と呟いた。


 名前を聞いて回るルーベンの傍を、ナナート=アドラー(ka1668)が近づいた。
「あ、私の命名も参考にしてよ。キラキラ光って綺麗だから……キララなんてどうかしらん?」
「キララか、候補に挙げておく」
 どうやらラウロに審査をしてもらう必要があるらしく、足早にその場を去った。それを見ていた妻のバルバラがナナートに近づく。
「バルバラ・ジェオルジと申します。先ほどは夫が失礼をしませんでした? あの人は考え事をすると、いつもああで……」
「いいえ、そろそろ宴もたけなわですし……ところでお願いがあるんですけど、お聞き届けくださるかしらん?」
 ナナートの申し出を耳元で聞き、バルバラは「ぜひ」と快諾。命名の発表が済んでから、ステージでの披露を打診した。

 そしてラウロがステージに立つと、後ろにルナ・レンフィールド(ka1565)とエステル・クレティエが控える。どうやら発表のファンファーレを奏でるために準備しているようだ。
「それでは、採光花の命名について発表を行いますぞ。今回も多くのご提案をいただき、誠にありがとうございます。皆で協議した結果、今回の命名者はエステル・クレティエさんと浅黄小夜さんの2名とし、その名前は【咲蛍】といたします」
 脇で控えていたエステル、テーブルにちょこんと座っていた小夜、そして共通の友人であるルナは大いに驚いた。まさかファンファーレが友人を祝うものになろうとは、ルナは思ってもみなかったが、すぐさまリュートで演奏を開始。エステルとの合奏はしばしお預けとなったが、これは望むところだ。
「さあ、お二人のために奏でましょう!」
 万雷の拍手の中、ルナが曲を奏でると、上手から着飾ったナナートが現れる。彼が着ているのは、切花として飾られていた採光花だ。
「花の国から今宵一夜限りの夢をお届けに上がりました。――皆様、とくとご照覧あれ……!」
 祝福の舞いは影に入ると花から光の雫が零れ落ち、光へ出ると鮮やかな花弁で観客を魅了する。そこに花の妖精をイメージした優雅な舞が合わさり、誰もがそれをじっと見つめた。
 そこへエステルの笛も重なれば、いよいよクライマックスにかけて盛り上がりも駆け上がる。それに観客の手拍子が重なると、ナナートは舞いを早め、ルナとエステルにそっと目配せし、終わりのタイミングを探り、一気に終劇まで盛り上げた。そして曲が鳴り止むと、そのまま華麗な一礼をし、観客から割れんばかりの拍手を得る。
 そんなナナートの手を取るのは、下手から現れたイルム。彼女はステージから観客へ声をかけた。
「おお、麗しき人よ、凛々しき人よ。一夜限りのステップをボクと踏もうじゃないかっ」
 彼がそう言えば、ステージの下に酔客が集まり、即興のダンスパーティーが幕を開けた。今度はパートナーのいるダンスに、ナナートは「よろしくねぇ~」とイルムに声をかける。ルナとエステルの曲も冴え渡り、このパーティーは夜更けまで大いに盛り上がった。

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参加者一覧

  • 幸せ歌う双兎
    アルナイル(ka0001
    エルフ|13才|女性|聖導士
  • 笑顔を掴む者
    響ヶ谷 玲奈(ka0028
    人間(蒼)|20才|女性|聖導士
  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 世界爪弾く双兎
    シリウス(ka0043
    エルフ|13才|男性|魔術師
  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 哀しみのまな板
    滝川雅華(ka0416
    人間(蒼)|24才|女性|機導師
  • 大口叩きの《役立たず》
    トライフ・A・アルヴァイン(ka0657
    人間(紅)|23才|男性|機導師

  • 椿姫・T・ノーチェ(ka1225
    人間(蒼)|30才|女性|疾影士
  • 身も心も温まる
    銀 桃花(ka1507
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 誘惑者
    デルフィーノ(ka1548
    エルフ|27才|男性|機導師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ミワクノクチビル
    ナナート=アドラー(ka1668
    エルフ|23才|男性|霊闘士
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 愛おしき『母』
    アリア(ka2394
    人間(紅)|14才|女性|疾影士

  • リューナ・ヘリオドール(ka2444
    エルフ|23才|女性|猟撃士
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 【魔装】花刀「菖蒲正宗」
    シェラリンデ(ka3332
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 瑞鬼「白澤」
    鬼百合(ka3667
    エルフ|12才|男性|魔術師
  • 幸せを願うもの
    ファウストゥス(ka3689
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 清冽なれ、栄達なれ
    龍華 狼(ka4940
    人間(紅)|11才|男性|舞刀士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/24 00:04:56
アイコン 観賞会待合室
イルム=ローレ・エーレ(ka5113
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/06/22 21:06:58