• 東征

【東征】少年、梓弓いる迷い道

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/07/02 22:00
完成日
2015/07/07 11:12

みんなの思い出

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オープニング

●夢と現
 大江紅葉は風邪こじらせ、熱を出して眠る。
 熱に浮かされてみる夢は子供の頃。幼い妹若葉を連れて逃げたときのこと。
 妖怪に囲まれて逃げ切れなくなったとき、あの鬼は助けてくれた。
 まさに一騎当千。
 記憶は美化されているかもしれないが、紅葉と若葉を安全とされるところまで連れて行ってくれてくれたのは事実。
『オガツ、一緒に行こうよ』
『紅葉や若葉みたいな人間ばかりじゃないから』
 優しい鬼は困ったような顔をして、紅葉の頭を撫でて立ち去った。

●手紙
 西方と細いながらもつながり、活気が戻ってきた天ノ都。
 都の中でじっとしている若葉としては、己を磨くためにも外に出て行きたかった。
 姉は都にいて欲しいと言うが、若葉としては姉の役に立ちたいし、姉のように人々のためにもなりたかった。
 姉がいつまでも子ども扱いすることも不満。六歳も離れていれば仕方がないのだが、若葉からすれば不満しかない。
 今、姉が寝込んでいるのはちょっと嬉しい。もちろん元気なのがいいが、忙しく動き回る姉が家にいるというのが嬉しいのだった。
 早朝、玄関で家令が男から手紙を受け取って何か話をしているのを見た。家令は眉をひそめて入ってきた。
「どうしたの?」
「ああ、若葉さま。ご宗主様は寝ていらっしゃいますよね」
「寝てるよ。それ、姉上宛て?」
「そうだと思いますが、至急」
「あ、あたしが見る! そして、判断するよ。駄目?」
 家令は渋る。若葉はこの家で一番小さい子のままだ。
「見るよ!」
 ひったくるように取って中を見る。
 流麗とは言い難い文字で『あなたに有益な情報がある』と記され、場所と時間が書いてある。時間はすでにいかねば間に合わない。
「行って話を聞くだけだからあたしが行ってくる」
「若葉さまっ!」
 咎めるような家令の声を振り切る。
「だって、姉上が起きて準備してたら間に合わないよ」
 若葉は供を連れて馬を駆った。
 そう、話を聞いて帰るだけなのだ、姉のために、情報提供者のために。

●お遣い
「まず、あっち行ったでしょ? 解決済み」
 天ノ都の結界外にある岩陰でプエルは指を折りながらつぶやく。災厄の十三魔レチタティーヴォ配下の少年の姿をした歪虚は、フード付マントを羽織って目立たないように潜む。
「目玉位置はあそこっぽい」
 こっくりととうなずき、指を一つ折る。
「手紙は出したから……人間に行ってもらう」
 ふんふんと二つうなずく。
「最悪の場合はクロフェドやラトスが……でも、僕がやったと言いたいから……」
 穴だらけの計画に追加を考え、溜息をもらしてつぶやいていた。

●邂逅
「手紙の人?」
「知識喰いの大江紅葉?」
 プエルはフードの下で眉をひそめる。予想より、相手が若い気がする。
「何、それ! 姉上のその二つ名嫌! もっときれいなのにしてよ! 知性あふれる美巫子とか」
「……姉? 余は本人に……」
「至急ってあるし、姉は寝込んでる」
 渋面でプエルは考える、二秒ほど。
「なら、お前に教えるからな。鬼の居場所を知っている妖怪の……」
「なんでそんなこと姉上が知りたがっているのか分からない」
「余だって知らない!」
 若葉の供は少し離れた所で聞いているが震えている。二人の供は小声で「大丈夫か」「いや、なんか面白い」と。
「ま、まあいいわ。で、場所は?」
 プエルは若葉の側に寄って、背伸びをすると耳元でささやく。
「ちょ、近づかないで」
 顔を真っ赤にした若葉にプエルは突き飛ばされる。
「余だって近づきたくはない!」
「わ、分かったわ。あなたが言ったことが本当か分からないから、あたしが精査して……」
「……好きにすればいいじゃないか!」
 プエルは岩の上にひょいと座る。
「馬で行けばすぐよね……妖怪に遭うとは限らないし……」
 供は渋面を示すが、そのあたりならもしもでもまだモノノフなどもいる可能性もある。馬で行けば逃げ切れるだろう。
 若葉は姉のためにと意気揚々と出かけた。
「彼女、歪虚だって気付いていませんよね……それと、不安なんですが」
 岩陰から青年が声を掛けるが、プエルは無言。
「エクエス、知識喰いが来るかここで待ってみて。僕、あっちにいってくる……」
「分かりました」
「お前も適当に離脱しろよ」
 岩から飛び降りるとプエルは出かけた。

●疾駆
 目を覚まして白湯を飲み、熱っぽいが出仕準備をしようとしていた。
 起きるまでにあったことを聞き、紅葉は目を見開いた。続いて、家令にハンターを至急雇うよう指示を出し、自身は戦える準備をして手紙の場所に行った。
 結界の外は空気が重い、いつも以上に何かあることを告げるように。
 岩の近くに一人の青年の姿をした歪虚を発見した。
「そのあわてぶりは……大江紅葉?」
「お前が手紙の主?」
「いえ、違いますが関係者です。伝言です。鬼の居場所を知っている妖怪はあの崖の上にいます」
「……それを若葉に」
「ええ。かれこれ一時間以上前ですね。すでにたどり着いているかと」
 歪虚は姿を消す。紅葉が弓をつがえたのを見たからだ。
 紅葉はすぐに行きたいが、単騎でどうなるものでもない。雇われてくれるモノノフやハンターはいるのだろうか。
 早く!

●歪虚の影
 天ノ都が一望できる結界外の崖の上。
 大きな目玉の頭を備えた、奇妙な僧形の妖怪は都を見つめる。側にいるのは鬼だった歪虚や亡者と化した鬼たち。
「監視だけはつまらぬ……鬼は人と同じじゃが、此方に来ればいい護衛と言える」
 鬼だったモノをはべらすことで、生きている鬼たちの反応も面白くなってきている。妖怪は胸がすく思いだ。
 都ではまだ何も起こっていないが、妖怪の近くで変化が起こる。崖の下に馬に乗った人間が三人やってきた。
「オガツ、人間を殺すのじゃ」
 目玉が下した短い命令の後、鬼の歪虚は急こう配を滑り降りる。
 馬に乗っている者たちはあわてて方向を変える。しかし、馬が動き出す前に衝撃波が彼らを襲った。

●悲鳴
 何もなければ復路についていてもおかしくはないのに、若葉には会わなかった。迷子になっているのか、それとも別の道があったのかとさまざま紅葉は考える。
 紅葉はかすかな悲鳴が聞いた気がした。馬等の音ではっきりはしなかったので止めたくなるが、先に進むのが重要だ。
 ハンターたちも耳にしたらしく、声を上げている。
 崖の上と下に向かう分かれ道に来た。
 紅葉は唇を噛む、妖怪たちの罠の可能性だってあるのだ。
「もし、人間を見つけた場合は保護してください。最優先は……妖怪がいれば……妖怪を殲滅してください。みなさんの命も大事です、危険ならば撤退を」

リプレイ本文

●分かれ道
 ハンターには護衛以外の情報が告げられていない。大江家からは紅葉が結界の外に出る為、その護衛をということだった。合流した紅葉は真っ蒼で、急いで現場に向かうと告げた。
 妖怪がいる可能性があるところに、一般人たる彼女の妹が向かったとのこと。行った理由は不明だが、全速で移動するしかなく、会話はままならなかった。
 崖の上と下につながる道、どちらに向かうかと素早く検討する。悲鳴は下からのようだが、確信はない。
 地理を知っている紅葉は「上に何かある可能性が高い」と推測し、地形から上から下に移動するならハンターには造作ないと告げた。
 そのため上に七人と紅葉、下に三人が用心のために向かう。

●崖下、接敵
 若葉は己のうかつさを呪い、姉に謝罪をした。
 最期の記憶は妖怪の怒りの顔であり、浮かんだ記憶は優しい姉の微笑みだった。

「やめなさい!」
 上泉 澪(ka0518)は接敵をしつつ、手裏剣を放った。真っ直ぐ飛んだそれは、歪虚の脚に突き刺さる。
 歪虚は苛立ちを募らせ、澪を睨む。刃に刺さっている少女を振り捨てる。
 生存の希望はまだ捨てられない。歪虚の攻撃は不明だが、こちらに移動させないと倒れている人々を巻き込んでしまうと予測した。
 澪は静かに大太刀を構えた。
 アティニュス(ka4735)の表情が曇る。少女を助けに行きたいが、歪虚をどうにかしないと向かうことはできない。
「私はアティニュス。『悪刀』たることを負う者です。貴方の名はございませんか? 鬼の方」
 刃を構えアティニュスは名乗るが、鬼の歪虚は言葉なく怒りで応えた。
(行きつく先はいつも地獄か、若い奴らばかりが矢面に立たされるのはなぁ)
 DYNAMIS君(ka5167)はキグルミで見えないところで渋面を作り、同行者を見る。目の前に広がる現実は若者たちに苦難を提示する。
 トランシーバーで接敵したことを伝え、手には刀と銃に持ち替える。彼が仲間に告げるジェスチャーは『ちーむわーくでいくよー』だった。

●崖上、疑惑
 先端に向けて狭くなる崖の上を駆けあがる。
 馬を下りて用心しつつ進む中、下の道を行った者から接敵したと連絡が入る。
 崖には鬼の亡者が佇み、その先には目玉の頭部の妖怪がいる。天ノ都を見つめ、ハンターの登場にかすかな苛立ちを見せる。
「事態を考えるには時間はなさそうだ、早々に蹴散らしてしまおう」
 ロニ・カルディス(ka0551)は先手打って行動すれば、敵を引き付け大きな魔法も使えると踏むが、ロイド・ブラック(ka0408)が止める。
「手の内見てからでも遅くはない」
 ちらりと依頼人の紅葉を見るが、妖怪に関して判断しかねている様子だ。
(クライアントの事情は詮索無用だろうけど、わざわざここに来たのは? もしかして、歪虚に協力する人だったり?)
 アメリア・フォーサイス(ka4111)はちらりと紅葉を見る。巫子らしいが、心の中までは誰も分からないのだから。
「大江さんはできるだけ私から離れないでください」
 夕凪 沙良(ka5139)は紅葉の側で周囲に目を光らせる。
「面妖な面を並べおって……まあ、どのみち全て斬ればいい話だが」
 フィオナ・クラレント(ka4101)は不敵な笑みを浮かべ武器を構えるが、鬼の亡者に関しては嫌悪を表す。
「よう、目玉野郎、お前さんは焼く方がいいのか、茹でたほうがいいのか? まあ食えないってのはつまらんから勘弁してくれよな」
 ニヒルに笑い伊勢 渚(ka2038)は銃口を向ける。
「高い所にいる目玉のお化け。護衛がいなけりゃ使い捨てで切る下っ端確定だな」
 レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は鼻先で笑い、武器を構える。
「ぬぅううううう、貴様ら、黙って聞いておればいい気になりおって!」
 目玉の妖怪の怒りが膨れ上がっていく。
 紅葉は妖怪の状況に悩む。挑発に乗った憤怒の歪虚であり、懐から取り出したのは符術の道具。背後に山本五郎左衛門がいることは否定できない。
 確実なことは、山本五郎左衛門が現れた場合、太刀打ちできないことだ。
「皆様、あの妖怪の撃破を優先させてください」
 依頼主として迷いはあってはいけないと、紅葉は凛と告げる。
「巫子かぁ! 刻限も迫るが相手してやろうかの。無力さにむせび泣く姿も一興じゃ!」
 妖怪の号令下、鬼の亡者は動き始めた。

●激闘
 鬼の歪虚は強い。まだ直接刃を交えていないが、体格の良さや身のこなし、闘気から実戦を重ねた者には強さを測るなら。
 倒れている人達を巻き込まないようにする形で位置を変えさせた。
 一気に攻めるか、防戦に徹するかを占うための一刀が振り下ろされる。
 澪は相棒となる動物の協力を引き出し、自身の能力を上げつつ攻撃を仕掛ける。
 アティニュスは退いたところから大上段に構え、電光石火の攻撃を行う。
 DYNAMIS君も刀をもって切りつける。
 全力で斬りつけたところ、相手は避けることは苦手なのか手ごたえはあった。鎧よりも肉体の硬さを手が感じる。
 歪虚が両手の刃を構えた。
 無数の刃が飛び来るような感覚を三人を襲う。そして、大上段から切り込む刃がDYNAMIS君に向かう。
(攻撃回数が多い)
 澪は冷静であるが、ヒヤリとする。崖の上の者は片付き次第来ることになっているが。
「防戦に徹します。DYNAMISさん、下がって上に連絡を。アティニュスさん、回避は捨てないでください」
「そうですね……受け流すだけにします」
 アティニュスはうなずき再び武器を構える。
 DYNAMIS君は了解とジェスチャーで示しつつ後退し、トランシーバーで連絡を取る。
 
 妖怪からの号令の下、鬼の亡者たちは動き始めた。動きも素早く、手短にいるハンターを襲う。攻撃が当たると重たい攻撃に怯みそうになるが、全体として奇妙な動きが目立つ。
 鬼の亡者は妖怪を守るようで守っていないようなのである。一直線に駆け込める……そんな感覚があるのだ。
 罠か否か?
「来ないなら行くぞ」
 ハンターが守りに入っているのを優越でとらえ、目玉の妖怪は機嫌よく魔法を放った。一直線に紅葉を狙う。
「くっ」
 沙良は慌ててかばいつつ、少しでも離れたところに移動させる。沙良も攻撃ができなくなるが、護衛対象は紅葉だ。
 亡者に対し、レイオス、フィオナが切り込むが回避される。
 回避の仕方が、目玉までの道が開いたようで気味が悪かった。
 渚、ロイドそしてアメリアが目玉を一気に銃撃する。避けられた弾もあったが、着弾している。
 ロニのレクイエムが亡者たちの動きを阻害した。
「紅葉さん、あれが何か分かっているなら、能力分からないか?」
 ロイドの問いかけに紅葉は首を振る。
「憤怒の歪虚で、それなりに強いかと……。死者を操るすべを持つのであれば、都に何かしているのかとも思いますが距離がありますので違うでしょう。ならば、別の術を持つ者。監視? 偵察?」
 何をしているかなど敵に答えてくれはしない。

●混乱
 鬼の歪虚の猛攻に、澪は傷を癒したいが攻撃の回避に専念している現在余裕がなかった。
 アティニュスも技を使って攻撃と防御を行うが、三人で足止めは現実として厳しい。撤退も視野に入れないとならない。
(死にも物狂いにならんと危険だな。鬼さんこちら手の鳴る方へと行きますか)
 DYNAMIS君は後方から鬼の腕を狙うように銃弾を叩きこむ。
 鬼の歪虚は三人の人間を葬り去る寸前にはなっていたが動きが突然止まった。
 上の戦場を気にするように見上げたのだ。
「クレハ? 殺す、殺す、人間を助けなければ、俺はっ!」
 崖の上に足を向けた。
『俺はどうして怒るのだろう? 俺は……あの子らを助けられ満足したのに』
 澪は歪虚の背後に刃を叩きこもうとしたとき、奇妙は声を聞いた。歪虚の腹に口がある、そんな感じのくぐもった声。
(どういう意味でしょうか?)
 戦闘中であるため澪は思考に専念はできない。
「行かせられない!」
 アティニュスは鬼の歪虚を追いかける。上に人数はいるとしても、乱戦になることは避けられない。
 DYNAMIS君は銃でもって追撃を行う。

「おうおう、おんしら、仲間が下で戦っておるぞ? オガツの腕っぷしは強いからな、最初に来た小娘たち同様、死ぬかもしれんぞ」
 目玉の妖怪は魔法を放ち、銃を向けているロイドに当たてた。
「小娘? オガツ?」
 紅葉は目を見開く。このようなところに来る人間がいるわけがない。聞いたことのある名に衝撃が走る。
「大江さん?」
 沙良は紅葉の腕をつかんでとどまるように示す。
「くくくっ、なかなかいい光景だぞ? オガツに切り刻まれて……」
 駆けだそうと足を踏み出した紅葉を沙良は羽交い絞めにする。紅葉は抵抗しており、振りほどかれそうだ。
「目玉野郎、良くしゃべるぜ」
 レイオスは一か八かで、目玉に伸びる真っ直ぐ行く亡者の道に足を踏み入れる。それにフィオナとロニも続いた。三人いればいざとなったら切り開く道も増える。
 渚は援護のため目玉を撃つが、避けられて舌打ちをする。
 ロイドは亡者の対処のためにファイアースローワーで牽制する。
 アメリアは確実性を考え、亡者に制圧射撃を仕掛ける。すでに弱っていたものも含まれ、一部倒すことに成功する。

「そっちに歪虚が!」
 澪の叫びが届く。
 トランシーバーでやり取りする余裕がない、切羽詰まったものだ。
 ロイドがちらりと見ると、鬼の歪虚が登ってくると共に、満身創痍のアティニュスが後ろから攻撃しようと足を進め、DYNAMIS君が銃で攻撃をしている。澪も叫んだあと、傷を少しだけ癒し、走り出す。

 鬼の歪虚が来ればヤバイ、それはハンターたちは共通に抱いた思いだ。
「なんで……」
 羽交い絞めへの抵抗の後、弓を握り締めて立っている紅葉は眉を寄せる。崖の下が見えない位置で姿は見えない。
 レイオスの攻撃がたたきこまれ、目玉はうめく。
「……遺体の弄びは、もっとも怒りを買うとな」
 フィオナの声は敵を凍えさせるような怒りに満ちている。もちろん、そのようなものを気にする相手ではない。
「死者には安らかな眠りを、歪虚は滅びを」
 ロニの一撃が鋭く決まる。
「お、己ぇ」
 目玉の怒りが爆発した。このままだと己の任務が遂行できないどころか、命すら危険だ。
 オガツがいれば下から逃げられたが、状況が変わってしまっている。
 ニタリ……目玉の妖怪は小さな口をゆがめる。
 それならば、怒りの対象になるすべてを焼きつくしてしまえばいいことなのだと。任務も何も後回しで構わない。
 ブワリ。
 妖怪が膨れ上がる。負のマテリアルが内部から湧き上がり、周囲に炎となってまき散らされる。
 炎に気付いて接敵している者は魔法と同じ原理で受け流そうと考える。
「駄目です、逃げてください!」
 紅葉が叫んだため、レイオス、フィオナとロニは後衛のラインまで逃げる。鬼の亡者たちも炎にまかれて倒れていく。
 妖怪を取り巻く炎の防護壁は一過性ではなく、とどまっている。近接しないといけない者は攻撃ができない。
「銃弾は効くか? 途中で燃え尽きる、爆発することもありうるか?」
 ロイドは眉をひそめて考える。
「やってみてから悩むぞ」
「そうですね」
 渚にアメリアが同意し、銃を構えた三人は目玉に引き金を絞った。
 鬼の歪虚の迎撃も待っているのだから、悩んでいる場合ではないのだ。込められるマテリアルも乗せ銃弾は目玉の妖怪に向かう。
「なんてことだぁあ、山本さまのぉ……」
 目玉の妖怪は絶叫を残し、自らの炎にまかれるように消えて行った。直後、全ての炎も消える。

 銃を構えた三人は崖の下を視界に収めつつ、鬼の亡者を攻撃する。炎やこれまでの受けたダメージもありあっけなく落ちた。
 鬼の歪虚に備え、ロニは魔法で仲間の傷をいやす。
「みなさん、奴が来ます」
 沙良は紅葉を引き留めつつ警告した、下の状況を確認して下りそうになっていたのだ。
 アティニュスと澪が登っているがまだ距離はある。DYNAMIS君は顔色も見えないが肩で息をしているようにうかがえた。

 登りきった鬼の歪虚は困惑を示す。目玉の妖怪の姿がないためだろう。
 レイオスとフィオナ、ロニが武器を構え歪虚を囲む。
「殺す、殺す……俺を死に追いやった人間を。クレハとワカバを」
 鬼の歪虚はうめく。武器を持っていない手で頭を抱える。
 呆然とする紅葉の肩を沙良は抱くように様子を見る。
「あいつ、いない……命令はない……俺は自由……」
 らんらんと輝く目でハンターを見る。
「鬼とやりあえるのは興味があったが……」
 鬼が亜人なら酒も飲みかわせるかもしれない、手合せもできたかもしれないと色々な思いと共に、レイオスは渾身の力を込めて振るう。
「我も面白そうとは思ったがな」
 畳み掛けるようにフィオナが続く。
 射撃するには位置が悪いため、銃を構えた者は隙を掴もうと移動した。
 ロニが攻撃を叩きこんだとき、歪虚は笑ったようだった。

「駄目です、近づきすぎはっ!」
 アティニュスは登りきる寸前で声を上げる。

 歪虚は武器二振りして薙ぎ払う。
 二度の攻撃によりレイオスとフィオナが倒れる。ロニはかろうじて踏みとどまったが、次が来たら危険だった。
 渚、アメリアそしてロイドの銃弾が鬼の歪虚に惜しみなくたたきこまれる。死にもの狂いの攻撃だった。

 鬼の歪虚は衝撃で我に返ったようだった。
「ここは抑えて……おかないと、あいつの二の舞になる……殺すために」
 鬼の歪虚は立ち去った。

●弔い
 魔法で傷がふさがるとしばらくしてから、レイオスとフィオナは目を覚ました。目を覚ますなり武器を構えたが、状況が分かり安堵を見せる。
 ロニは崖の下に下り、倒れている一般人らしい三人の状況を確認する。恐怖に見開かれた目を何とか閉める。
「わ、若葉っ」
 紅葉は崖を転がるように下りてきた。ロニが首を横に振った瞬間、彼女の表情は恐怖と悲しみで凍った。
 沙良も一緒に下りるが、周囲への警戒を怠らない。紅葉の様子を見たくないという思いも湧いた。傷ましすぎる。
「わ、私が……寝込んだばかりに……あああ」
 遺体を抱きしめ紅葉は号泣した。
 澪、DYNAMIS君とアメリアが紅葉の側に残る。
 敵はいないと思われるが、戦いを聞きつけて妖怪が来ないとも限らない。

 上に残るのは操られていた鬼の死体たち。
 渚は一服しつつ、無表情に見つめる。この鬼たちは何を思って生き、死んだ後も蹂躙されないとならなかったのか?
 フィオナは鬼を弔うために動く。目玉を守るようでいていなかった。不思議であったが助かったのは事実。
 レイオスは黙々と穴を掘り埋葬をする。
「……何の思惑があったのか? 考えても仕方がないことであるが」
 ロニも弔いに手を貸す。敵であったが、操られた死体であれば、それは話は別だ。
「暴食の歪虚か、さもなくば特殊な術か?」
 ロイドは分析するが答えは出ない。助言ができそうな紅葉のすすり泣く声が上がってくるため、唇を噛む。

 埋葬が終わり、崖の下に下りると、紅葉はすでに泣いていなかった。
「どうしてここに来たのかと聞いていいでしょうか?」
 アメリアは妖怪との交戦も入っていたが、答えが見えない。
「……探している鬼がいたのです」
 幼い頃助けてくれた人物の事を話す。
「気になって情報を探していました。鬼について知っている者がここにいると」
「どんな奴が教えてくれたんだ?」
 レイオスの問いかけに紅葉は一瞬目を泳がし、「見知らぬ青年でした」と応えた。
「……あの歪虚はもう一つ口があるのか、助けたことを喜んでいる声がしたのです」
 澪はかすかに聞こえた声の事を告げる、呪いのような口とは別の言葉を。
「あの腕は? 腹に何かいるんでしょうか?」
 アティニュスは首をかしげる。
「何かを取り込んだか、取り込まれたか。マテリアルの膨張で異形と化している可能性もあるので……」
「ある意味、歪虚らしい姿といえるわけですね」
 沙良が納得する。
「暴食の協力者がいるとか?」
 ロイドの問いに、紅葉は首をかしげる。
「あなた方が私に手を貸してくれているのと同じ……でしょうか?」
「遺体を弄ぶのは悪趣味だな、本当に」
 フィオナは敵に対し苛立ちが募る。
「協力者か?」
 ロニはロクでもない相手だったに違いないと感じる。
「いい仲間ないね」
 渚は苦笑を洩らした。
(こんな悲劇が起こらないように歪虚は消さなくちゃな)
 DYNAMIS君は静かに一行を見守った。

「そろそろ、行こう。レチタティーヴォ様に報告しないと、うまくいったって」
 ハンターと妖怪の戦いを見ていたプエルはエクエスに微笑む。
「ちょっと、近付けるかな?」
 楽しそうに歩き始めるプエルを、エクエスは無表情で見つめて後に続いた。

 ハンターたちは何かの音を聞いた。
 アティニュスと沙良が警戒して確認に行ったが、特にはない。
「誰かいたんでしょうか?」
 沙良が指さす先に二種類の足跡が残っている。
 情報源が怪しい妖怪退治に操られている感覚が付きまとった。

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MVP一覧


  • 上泉 澪ka0518
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカーka1990
  • 傲岸不遜
    フィオナ・クラレントka4101

重体一覧

参加者一覧

  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラック(ka0408
    人間(蒼)|22才|男性|機導師

  • 上泉 澪(ka0518
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • 白煙の狙撃手
    伊勢 渚(ka2038
    人間(紅)|25才|男性|猟撃士
  • 傲岸不遜
    フィオナ・クラレント(ka4101
    人間(蒼)|21才|女性|闘狩人
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 世界に示す名
    アティニュス(ka4735
    人間(蒼)|16才|女性|舞刀士
  • 紅瞳の狙撃手
    夕凪 沙良(ka5139
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士

  • DYNAMIS君(ka5167
    人間(蒼)|74才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/28 23:26:39
アイコン 相談
アティニュス(ka4735
人間(リアルブルー)|16才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2015/07/02 21:35:27