哀しみの記憶から

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/07/03 19:00
完成日
2015/07/10 03:53

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「そうですか。記憶が戻りましたか」
 ナサニエル・カロッサの私室に呼び出されたベルフラウに男はあっけらかんと言い放つ。
「で、どれくらい思い出しました?」
「まだ完全ではありません。でも……あなたが私の記憶を奪った事は」
 くるりと椅子を回転させ振り返り、男はニヤリと笑う。
「憎いですか? この私が」
「……いいえ。先生は私にこれをくれました」
 ベルフラウが取り出したのは血に汚れた十字架だ。
「これがなければきっと私はもっと早く壊れていたと思います。先生が記憶を制御する薬を処方して、このポンコツの身体の面倒を見てくれたから、私はまだ生きていられるんですよね?」
 ナサニエルは一切否定しなかった。少女は胸に手を当て。
「先生。私、あとどれくらい生きられますか?」
「半年以内には。あなたは本来もう死んでいてもおかしくない身体ですから」
 四霊剣、不変の剣妃オルクスの血を浴び、少女は歪虚の力を得た。
 自らが完全に歪虚化したわけではなかったが、オルクスという歪虚の加護を得た彼女はその力で人間を殺戮した。
 代償は自らの命。高位の歪虚の力を受けるということは生物のマテリアルバランスを崩壊させ、それは生体寿命の消耗を意味する。
「あなたを捕らえたのは、ヴィルヘルミナ陛下でした。軍は当時あなたを殺そうとしていましたが、彼女は活かせと私に命じた。そうでなければ私もあなたの事なんかとっくに見捨てていましたよ」
「皇帝陛下が……どうして……?」
「そりゃ、貴重なサンプルだからでしょう。しかしあなたから得られる情報は殆どなかった。期待はずれもいいところです」
「そりゃそうですよ。記憶を消しちゃったら、思い出せるわけないじゃないですか」
 だからそれは詭弁だ。きっとあの人は、記憶にないあの人は、ただ人助けをしただけなのだ。
 しかし、これがれっきとした人体実験であるというのもまた事実。ナサニエルは目を細め。
「革命前の旧錬魔院が研究していた人体改造技術。投薬と肉体改造で強化兵を生み出す計画、あなたには私が自分なりに解釈したその技術を応用しています」
 本当の事がわかって、少女は少しだけ安堵していた。
 これまでの自分は人間ではなかった。記憶を閉ざされ、決められた事を繰り返すだけの人形だ。
「それで、これからどうするのです? オルクスの下へ戻りますか?」
 少女は俯き、思い悩んだ後、正直に答えた。
「迷っています。残りの人生をどう使うべきなのか……」
「死ぬのが恐ろしいのですか?」
「私は…………人間が嫌いです。皆死ねばいいのにって、そう思うんです」
 物心ついた時、少女はひとりぼっちだった。
 革命戦争の後、貴族の一人娘だったとある少女は突然着の身着のままで貧民街に放り出された。
 家は焼け落ちた。両親は殺された。特に善人でも悪人でもなかったが、ともかく全て失ったのだ。
 そんな彼女にも救いの手は伸ばされた。エクラ系の小さな教会に作られた小さな孤児院で少女は育った。
 しかしそこにもある日哀しみがやってきた。人間の盗賊である。
 盗賊は僅かばかりの孤児院の財産を奪い、抵抗する者は皆殺しにした。少女はそれをただ見ていただけだった。
「つまり、抵抗しなかったんです。だってするだけ無駄だから」
 抗っても無駄。運命とはそういうものだ。
 しかし新しい家族が揃っていなくなると、急に少女はひらめく。戦わなければ大切なモノは守れないと。
 だから思い出したように落ちていたナイフを手に、まずは生きる事を始めた。
 通りがかりの商人を殺し、着るものと食べるものを得る。
 兵隊から武器を奪い。今度は別の人を殺し。奪って奪って、力をつけた。
 盗賊団のアジトに乗り込み、一人一人を殺していった。それは直ぐに終わったので、今度は別の盗賊を殺しにかかった。
 そうやって無差別殺人を続け、より深い闇に迫っていくうちに、オルクスと出会ったのだ。
「あの人は私より先に悪人を皆殺しにしていたんです。沢山の血の海の上に舞う彼女は、本当に美しかった……」
「それで、弟子入り志願ですか。歪虚の力で悪人を殺して正義の味方にでもなったつもりですか」
「違いますよ先生。私はただ、他人を殺したかっただけです」
 奪われる前に奪いたかった。他人から何かを奪う間だけ、生きた心地がしたから。
「でも、今は……」
 イルリヒトに来て、ハンターと出会い、何度も取りこぼした記憶を思い出した今。
「過去の記憶と、今の記憶がまるで別々みたいっていうか……ねぇ先生、こんな事あるんでしょうか?」
「うーん。まあ君はある意味二重人格みたいなものですからねぇ。記憶を失い、基礎人格に戻った君が歩んだここ一年ちょっとくらいの人生は、全く別の人格を作ったと言っても過言ではありません」
「この過去が罪だと今の私は理解します。だからこそ、罪は償わなければならないと」
「追いかけるつもりですか? オルクスを」
「もう、私と同じようなバケモノを作らない為に。ヴルツァライヒの人達が、そうなってしまわないように……」
 ナサニエルは頷き、用意していたアタッシュケースを差し出す。
「中に延命剤とブースタードラッグが入っています。イルリヒトの方には上手く言っておきますよ」
「……いいんですか?」
「新しい服も用意しておきました。……おっと。これはもう要りませんね」
 十字架を奪い、代わりに服を押し付けるナサニエル。ベルフラウは涙声で頭を下げ。
「ありがとうございます、先生」
「あ、その代わりできるだけハンターと行動を共にしてください。支払いはこちらの方で持ちますので」
 ナサニエルに見送られ、少女は部屋を後にした。
「純粋ですね~。私が渡した装備の中に爆薬が仕掛けられてるとか、考えないんでしょうか?」



 ナサニエルの依頼でベルフラウに同行したハンター達。
 目指す場所がどこかさっぱりわからなかったが、ベルフラウは明確な目的地を定めている様子だった。
 ハンター達がやってきたのは、ブラストエッジ連山と呼ばれる地域にある山の一つ。
「あっちにはコボルド族の一大集落があるそうですが、用があるのはこっちです」
 険しい山道を登った先、そこにぽっかりと開いた洞窟の入り口がある。
「私の記憶によれば、ここは二年前まで剣機型の研究施設だったはずです。カブラカンの拠点の一つでもあります」
 立ち上がったベルフラウは懐から取り出したアンプルを首筋に打ち、苦しそうに肩を上下させ。
「今どうなっているかはわかりませんが、何か手がかりがあれば……。大軍で押し寄せれば警戒されます。どうか、手を貸してください」
 洞窟の入口付近はなんともないが、なるほど。奥に進むに連れ不自然に整地されているようだ。
 どうやらリンドヴルム型が出入りする為、竪穴も存在しているらしい。ハンター達は覚悟を決め、洞窟へと駆け出した。

リプレイ本文

「こんな山の中に研究施設があるなんてねー」
 ブラストエッジ連山の険しい山の傾斜にぽっかりと開いた洞窟。
 ロベリア・李(ka4206)が感心するように、それと疑わなければこの場所を発見する事は出来なかっただろう。
「何分古い記憶ですが、一度オルクス様に連れて来られた事があります」
「噂の剣妃本人を拝めるかもしれないって事かね?」
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は腕を組み笑みを浮かべる。
「そうね。可能性は低いかもしれないけど、何らかの手がかりを得られるかもしれないわ」
 ロベリアの言葉にエヴァンスは拳をぐっと握りしめる。一方、夕鶴(ka3204)は目を伏せ。
「オルクス様、ね……。まあいいさ。私とて歪虚よりも人の方が……いや、今は関係ないな」
 今のベルフラウは非情に不安定な存在だ。遠巻きに見つめる夕鶴の前でオキクルミ(ka1947)はベルフラウの手を取る。
「お久しぶり~、ベル君。前よりもずっといい顔してるね!」
「そう……なんでしょうか?」
「前はニコニコしてても上の空だったからね~」
 確かに以前とは雰囲気が違う。それがプラスなのかマイナスなのかは、今はまだわからないが。
「一つだけ確認しておく。ベルフラウ君……死に急ぐつもりはないな?」
 帽子のつばを持ち上げた扼城(ka2836)の問いに少女は頷く。
「はい。何も出来ないままで死ぬのは嫌ですから」
「……ならば良い。その言葉を忘れるな」
 改めて洞窟に向き合い、ハンター達はその中へと足を踏み入れた。

 ひんやりとした空気の中、かすかに漂う腐臭が施設の健在を伝えてくる。
 物音を立てないように注意しつつ、ハンター達は洞窟内を進んでいく。
 見た目以上に施設は広く、ハンター達は分岐路で二手に分かれる事になった。
「どう? ここに見覚えはある?」
「曖昧ですが……確か、こっちに……」
 こちらはA班。ベルフラウに続くロベリア達が見たのは、吹き抜けから降り注ぐ光と、その下に待機するリンドヴルムの姿であった。
 無数のコンテナが並んでいるが人気はない。どうやら倉庫的な場所らしい。
 その場所に隣接している部屋の中を覗くが人の気配はない。扉代わりのカーテンを潜ると、複数の魔導機械が暗がりに光を明滅させている。
「どこか気になる点はあるか、ベル?」
「魔導機械に関しては、なんとも……」
「私が見てみるわ。あんた達は書類の方を漁ってみて」
 魔導端末を前にPDAを取り出すロベリア。エヴァンスはベルフラウと共に散らかった机を調べる。
「随分埃が積もってやがるな……」
「こんな場所だし、研究員は缶詰状態で人間らしい生活はしていないのかもね」
 ロベリアの言葉に納得したようにエヴァンスは肩を落とす。
 確かに、ここは覚醒者でもなければ往来も難しいような場所だ。リンドヴルムでなければ、出入りも難しいだろう。
「それにしても全然人の気配がないね? 見回りとかあるかなと思ったけど」
「半分くらいは倉庫みたいなものですし」
 オキクルミとベルフラウが小声で会話する横でロベリアは眉を潜める。
「あららー? これってどういう事?」
「何かわかったの?」
 画面を覗き込む三人だが、何がどうなっているのかはさっぱりわからない。
「この端末、ちょっとリアルブルーっぽいのよ」
 装置は間違いなく魔導機械だが、どうもリアルブルー式端末と互換性があるように思えるのだ。
「これUSBポートだし」
「なんだそりゃあ?」
「……ちょっと待って! 誰か来るみたい」
 超聴覚を発動したオキクルミが接近する足音に気づいた。
 ハンター達は調査を中断し、雑然とした部屋の中に隠れる場所を探す。

「あの人達、何してるんでしょう?」
 物陰から覗くヒヨス・アマミヤ(ka1403)の視線の先、白衣の男達が棺桶から何かを引き出している。
 男達はその死体を近くの部屋に運び込んだ。
「どうやら人がいるのは間違いないようだが、警戒が薄いな」
 夕鶴の言う通り、基本的に研究員達はここに侵入者が現れる事を想定していないようだ。
 頃合いを見計らい駆け出したヒヨスが棺を覗きこむと、そこにはコボルドの死体が詰められていた。
「……こっちを見てみろ」
 扼城の視線の先には無数の棺が並んでいる。
 棺にも幾つか種類があり、死体が詰められている物とそれ以外の何かが入っている物とである程度整頓されているようだ。
「まさか、この中身は全て……」
 冷や汗を流す夕鶴。ふと二人が振り返ると、ヒヨスは先程の部屋の前で聞き耳を立てていた。
「中で何かやってるみたいだよ」
 ボソボソと話し合うような声の後、突然チェーンソーのような工具の騒音が響き出す。
 あまり想像したくないものを切断しているらしい。
 こっそりカーテンの向こうを覗きこむと、ある意味において手術室のような光景が広がっていた。
「なんか血がすごいことになってた……」
「ふむ……」
「とても人間の暮らす環境とは思えん……」
 何かを納得したように頷く扼城。夕鶴は気分悪そうに吐き捨てる。
「ここは後にして、他に調べられる場所を探してみるか……」
 扼城の言葉に頷き、二人はそそくさと移動を開始した。

「シュレーベンラント行きのゾンビは大体出荷したか……」
「また新鮮な死体が手に入りそうだ」
 部屋にやってきた二人組の研究員は、ハンター達が隠れている事に気付かず端末を操作する。
「しかし、手作業で一体一体施術するのは骨が折れるよ」
「新型剣機の建造の方が手を焼いていると聞いたぞ」
「ああ……バテンカイトスか。あれは大きさが……」
 聞こえてくる言葉に耳を澄ますオキクルミ。研究員の声は小さく、彼女以外には聞き取れなかった。
 やがて研究員の一人が部屋を後にし、一人が端末操作を開始すると、ハンター達は息を合わせて飛び出した。
「はーい、静かにして頂戴」
「大事なモノをちょん切られたくなかったら話してね?」
 背後から口を押さえるロベリア。オキクルミが下半身に斧を突きつけると研究員は目を白黒させる。
「ロックは解除してくれたみたいね。それにしてもこの装置、どこで作ったの?」
「し、知らん……仕事場は博士が用意したものだ」
「そいつ、リアルブルー人なの?」
「彼と直接会った事はない……」
 ロベリアの質問に汗だくで答える。
「さっき新型の剣機がどうとか言ってたよね?」
 まさか聞こえていたとは思わなかったのか、ぎょっとする研究員。
「何? 新型なんて作ってやがるのか?」
「そいつの製造場所とゾンビの出荷先に着いて教えてもらいましょうか?」

「いや、私は……特に政府に不満があるわけではない」
 一方、B班。こちらでもハンターは在庫を数えていた研究員を捕らえていた。
 主に尋問しているのは縛り上げた男の前に腰を下ろしたヒヨスで、男は緊張した様子で応答している。
「それなのにゾンビ作ってるんですか?」
「他に行き場もないからな」
「いつもどんなお仕事をしているんですか?」
「ゾンビ化する前の死体を機械化している。動き出す前でないと施術は出来ないからな」
「ご飯は何を食べてますか?」
「缶詰だな……」
 ふむふむと頷きながらメモを取るヒヨス。微妙に作戦に関係なさそうな質問もあるが、本人的には興味深い事柄であった。
「ヒヨは政府とかどうでもいいけど、今の生活が好きなんですよね。研究員さんはどうですか?」
「死体の相手をするのは嫌気が差すな」
「……では、何故ここに留まっているのだ?」
 夕鶴の質問に男は顔色の悪い笑顔を作り。
「外の世界ではお尋ね者だよ。悪い事は言わない。お嬢ちゃん達はこんな所に居ちゃいけないよ」
 どうも男の言葉は本心に思える。扼城は白衣を漁り、男が持っていた通信機を奪う。
「これは……リアルブルー式のようだな」
 小型のトランシーバーの様な装置を手に扼城は男を見下ろし。
「君にはまだ訊きたい事がある。命が惜しければ協力してもらおう」

「何やってんだ、オキクルミ?」
「うーん。死体が起き上がった時の為に足でも括っておこうと思ったんだけど」
 部屋の中に気絶させた研究員を転がし、オキクルミとエヴァンスは倉庫に出ていた。
 並んだリンドヴルムに最初は慎重になったが、どうも現在は起動していない事に気付き、並んだゾンビコンテナに手を出し始めたのだ。
「数多すぎて気が遠くなりそう」
「壊しちまうんじゃダメなのか?」
 腕を組むオキクルミ。ゾンビは本当に眠っているだけのようで、このコンテナに保全の能力があるようには見えない。
「衝撃与えたら起きそうだけど」
「寝てるんだし首落とせばいいんじゃね?」
 試しに棺をそっと開け、エヴァンスは大剣に真上から大剣を落とす。
 首を切断されたゾンビは動き出したが、すぐ蓋を閉めるとしばらくもがいた後静かになった。
「いけるいける」
「どっちみち時間かかるねー」
 そんなこんなで端っこからゾンビを始末していたその時だ。
「メイズ、こっちであるか?」
 長身のスーツの男と小柄な少女が一人、研究員を伴い歩いてくる。
「こんな辺鄙な施設に侵入者などいるはずもないと思うのですが」
 その言葉に二人は顔を見合わせる。棺の影に隠れていて姿は見えない筈だが……。
「そこに二人隠れてるぜ」
 一瞬で看破された。
 大男が歩いてくるのを確認し、エヴァンスは大剣に手をかけ飛び出し剣を繰り出す。
「ムムッ!? 本当に侵入者ですと!?」
「奴らは任せろ。お前等は集められる資料を片っ端からかき集めな!」
 男の反撃の拳を大剣を縦にし受け止めるエヴァンス。その衝撃で背後へたたらを踏む。
「なんだこのおっさん……剣機じゃねぇぞ?」
「そちらこそどちら様でしょう!?」
 黒衣の少女は掌に風を集め、エヴァンスへと放つ。
 冷気を帯びた竜巻がエヴァンスを襲うが、男は剣の一振りで風を薙ぎ払った。
「こいつ、結構強いな」
 困惑する白スーツ。エヴァンスはニヤリと笑みを浮かべ、剣を構え直した。

「まずいな……どうやら敵に見つかったらしい」
 資料を漁っていたヒヨスと夕鶴が扼城へと振り返る。
 無線機では侵入者を発見し、迎撃用のゾンビを起動させる旨の会話が飛び交っていた。
「えっとえっと、そしたらどうしよう?」
「俺に考えがある。とりあえずこの場の装置は破壊して引き返そう」
「ふむ……この場合は多少派手にやった方がいいか」
 覚醒した夕鶴がクレイモアを振り上げ、魔導端末へと振り下ろした。
「これってどこなら壊していいのかな? よくわかんないけど……!」
 とりあえず逃げ道の邪魔にはなるまい。ヒヨスも拳銃を構え、遠慮なく装置にぶっ放した。

「ごめん、見つかったみたい!」
 戻ったオキクルミの言葉の前に既にロベリアとベルフラウは撤収の準備を進めていた。
「音が聞こえたからわかってるわ!」
「詰められるだけ書類は詰め込みました!」
「こっちも吸い出せるデータはとりあえずね。さてと!」
 ロベリアは端末に手をつくと同時、雷撃を流し込む。モニタが明滅し、黒煙を上げて装置が停止した。
「ここの装置は全部壊してから行くわ!」
 先に外に出たオキクルミとベルフラウは倉庫のゾンビが動き出すのを目にする。
 が、もう半分くらいは首がもげていて起き上がらない。
「いやー、せっせとやっつけた甲斐があったね」
 しかしエアポートに待機していたリンドヴルムが起動しており、部屋から出てきた二人のガトリングを浴びせてくる。
「すごい……一人で耐えてます」
 見ればエヴァンスは大剣を盾にガトリングの雨を堪えている。
「剣機との戦いは久しぶりとか言ってる状況じゃねぇっ! 二人共手伝ってくれ!」
「いや~、多分撤退した方がいいと思うよ?」
「その前に俺が死ぬ!」
 動き出したゾンビがエヴァンスに向かうのを見てオキクルミとベルフラウはそれぞれ得物を振るう。
 相手は鎧がついてはいるが武装はない。頑丈なのが厄介だが、数が多くとも渡り合えないことはない。
「ムムッ? そこにいるのはベルフラウ?」
 黒衣の少女は首を傾げ。
「懐かしい奴が出てきたな?」
 薄く笑みを浮かべる少女。そこへ研究員が声をかける。
「カブラカン様! 無線で連絡がありました! ハンターと帝国軍の大部隊が押しかけてきたと!」
「はあ? そんな音聞こえないぜ?」
 メイズが首を傾げた直後、施設内を照らしていた薄暗い照明が全て沈黙した。
『施設内の照明を落とした……逃げるなら今の内だ』
 扼城からの通信にハンター達は振り返る。暗くてよく見えないが、なんとなく道は分かる。
 カブラカン達が騒いでいる声を背にハンター達は道を引き返し始めた。
 暫く手探りに進んでいると、正面からランタンを持った夕鶴が走ってくる。
「皆無事か? こっちだ!」

 出口には既に扼城とヒヨスが待っていた。
 魔導ライトの電源を落としに向かった二人。扼城もライトを持っていたので、闇の中から脱出出来た。
「あの状況を生き延びるとは、俺ってすごい……」
「お陰でゆっくり火事場泥棒できたわ。ご苦労様!」
 エヴァンスの背を強めに叩くロベリア。
「ベル君、体は大丈夫?」
「はい。エヴァンスさんのおかげです」
「辛いなら無理しちゃダメだよ? 覚悟と無駄死には別だからね。約束だよ?」
「ベルフラウさん、記憶がないって聞いたけど、お体も悪いの?」
 顔を覗き込むヒヨスにベルフラウは曖昧な笑みを返す。
「あのねあのね、記憶がないってどんな感じなのかな? ヒヨは記憶あるんですよ! でもね、昔のヒヨよりね、今のヒヨはとても幸せですよっ!」
「……そうですね。少なくとも過去よりは今の方が幸せだと思います」
「過去は所詮過去、だからな……。なくした所で、それはそれで生きていける。そんなものだ」
 肩を竦める扼城。夕鶴は腕を組み。
「ベルフラウ。あなたが何者なのか、興味が無いと言えば嘘になる。だが今は一つだけ、“焦ってもロクなことにならない”とだけ言っておこう」
「焦っているんでしょうか、私は……」
「残り時間が限られているのは誰しも同じだよ。その中であなたが本当に成したい事は何だ?」
 視線を逸らすベルフラウ。その体をオキクルミは抱きしめ。
「大丈夫だよ。“自分の邪悪を信じて殴れば何とかなるのですよ~”って精霊さんも言ってた! キミだけの答を見つけたんでしょ? ならそれに殉じて笑って生きて、笑って死のう」
「……はい。もしかしたら、それは……皆さんにとって望まれない答えかもしれませんが」
 オキクルミに笑い返す儚げな笑み。ロベリアはそんな少女達の背中を押し。
「さて、そろそろ山を下りましょう。調べなきゃならない事も沢山あるものね」
 まだ追手が来る気配はないが、急ぐに越した事はないだろう。
 ハンター達は険しい山道を下り始めた。
 彼らがシュレーベンラント州という出荷先で事件が起きた事を知るのは、もう少し後の事である。

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MVP一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィka0639
  • 答の継承者
    オキクルミka1947

重体一覧

参加者一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 爛漫少女
    ヒヨス・アマミヤ(ka1403
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 答の継承者
    オキクルミ(ka1947
    エルフ|16才|女性|霊闘士

  • 扼城(ka2836
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 質実にして勇猛
    夕鶴(ka3204
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 軌跡を辿った今に笑む
    ロベリア・李(ka4206
    人間(蒼)|38才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】剣機施設破壊作戦
夕鶴(ka3204
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/07/03 10:02:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/01 19:03:33