• 幻導

【幻導】Heat Beat Soul

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/07/13 22:00
完成日
2015/07/20 14:35

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●塔を目指す者達
 ――辺境、アルナス湖北岸。
 ここにかつて人間が住んでいた古い城がある。
 石造りで松明が燃えているにも関わらず、やけに薄暗い。空気も氷のように冷たく、人気をまったく感じさせない。
 何故、ここまで冷たく暗い雰囲気が漂っているのか。
 この古城が歪虚支配地域にあるからだろうか。
 それとも、この古城の主が強力な歪虚であるからだろうか。
「あの塔の上にいる物は……こちらがもらい受ける」
 巨大な人型の牛が、城の広間で静かに言い放つ。
 憤怒の歪虚『牛鬼』は、東方から強者を追い求めてこの辺境へやって来た。
 その結果、ナルガンド塔の頂上に大幻獣と呼ばれる莫大なマテリアルを保有する生物がいる事を知った。大幻獣の持つマテリアルが手に入れば、牛鬼は更なる力を得る事ができる。
「……知っていよう。
 我が主が狙う東方は、ハンターなる複数の強者が戦いを挑んでいる……。大幻獣のマテリアルがあれば、東方は完全に歪虚に沈む事となる」
 牛鬼がマテリアルを手に入れれば、東方の戦線に強大な敵が登場する事になる。
 未だ不穏な動きの続く東方に更に力を得た牛鬼が現れればどうなるか――。
 しかし、玉座に座る一人の老人は牛鬼に臆する様子は一切ない。
「……ロックじゃねぇ」
「……何……?」
 牛鬼は――怠惰の歪虚『BADDAS』へ聞き返した。
「ロックじゃねぇって言ったんだ。
 東方や主なんてのは、お前の都合だ。俺には一切関係ない。
 何より、なんで俺がお前に遠慮しなきゃならねぇんだ? 欲しい物は自分で手に入れる。それがロックだ」
 彼ら二人は同じ歪虚だ。
 だが、BADDASは牛鬼へ大幻獣を譲るつもりはない。むしろBADDAS自身も熱い戦いを欲するが故に大幻獣のマテリアルを欲している。

 ――欲しいものは、力づくで手に入れる。

 それは相手が同じ歪虚であろうと関係ない。自分の生き様を貫く事がロックンローラーとしての生き様だ。
「……敵に回るというのか?」
「そうじゃねぇ。言ってみりゃ競争だ。より早い奴が大幻獣を手に入れる。
 だが、走っている最中にちょっと肩ぐらいはぶつかるかもしれんな」
 BADDASと牛鬼。
 先にナルガンド塔の頂上へ到達したものが、大幻獣のマテリアルを奪い取る権利を得る。
 とてもシンプルで、かつエキサイティングなルールだ。
 何せ、相手が進路を邪魔するのであれば容赦なく排除するつもりなのだから。
「良いのだな?」
「ああ。俺の前を走る時は、せいぜい気を付ける事だ……当たると痛ぇぞ」
「…………」
 恫喝するBADDASを前に、牛鬼は沈黙を保ったまま踵を返す。
 こうして、二人の歪虚がお互いの意地をかけて大幻獣を奪い合う事となった。

●塔へと至る者
「気にいらねぇな」
 塔を目前にして、BADDASはそう一言口にした。
 そんな彼の前には牛型の歪虚が倒れ伏していた。その頭から生える角の片方は、今BADDASの手の中にある。
「ちょっと肩がぶつかるかもとは言ったが、態と当ててくるのは気にいらねぇ」
 BADDASがちょっと手に力を籠めれば、そこにあった角は軽々と砕け散った。
 消え行く牛型歪虚の亡骸には目もくれず、BADDASは歩みを再開する。
「どいつもこいつも、ロックじゃねえ奴ばかりだ」
 不機嫌を隠す気もないBADDASは、負のマテリアルをその体から漏れ出させながら林を歩いて抜けていく。その漏れでた負のマテリアルが木や草から生命を奪い、BADDASの歩いた後ろは死の世界に変わっていた。
 不機嫌なロックンローラーは至る、大幻獣が住まうと言う古の塔に。

「さあ、俺を痺れさせる熱い魂を持った奴はどこにいる?」
 塔を守るハンター達の前に突然現れたのは、先にファリフやその仲間のハンター達との交戦が報告されていた老人の歪虚だった。
 突然現れた強敵に、その場を任されていたハンター達は思わず身構えるだけで動くことどころか、声すらだせなかった。そして、それがBADDASの怒りに触れる。
「お前達はロックじゃねぇ。消えな」
 BADDASが手にしている杖を薙ぐように振れば、甲高いギターを弾く音が響くと共に彼の前に立っていたハンター達が全員吹き飛ばされる。
「次だ。ロックな奴だけ俺の前に立ちな」
 その存在を示すかのように、熱く鼓動するロックな音楽が塔の周囲に響き渡る。

リプレイ本文

●ミュージック・スタート
 塔のすぐ真下を会場にして、身体と心を打ち付けるような激しい演奏が掻き鳴らされる。
 耳が痛くなるほどの大音量に、ハンター達は思わず顔を顰めた。
 だが、前回の遭遇にも居合わせていたデルフィーノ(ka1548)は、あの時の耳を押さえたくなるほどの爆音には程遠いと感じた。
「ぉ、ロケンローラー、また会ったな。だが、今日のロックは控えめなのか?」
「今日は相棒が遊びに出ていてな。何、ロックは音量じゃねぇ」
 BADDASはあっさりとそれを認め、その上でトントンとつま先で地面を打ちながらリズムを取り、すぃっと杖を持ち上げてハンター達に向ける。
「さあ、今度こそ熱いハートを見せて貰おう」
「オーケー。ロック魂のぶつかり合い……始めようとしようぜ?」
 ニィと口角を上げて笑うBADDAS、デルフィーノも魔杖を正面に突き出すようにして構え、その挑発を真っ向から受ける。
「――上等だ」
 そして真っ先に動いたのはウィンス・デイランダール(ka0039)だ。足元から舞い上がる、銀とも紅とも変化するオーラを滲み出すように噴出させ、それを一度払うようにして槍を振るい、BADDASへと向ける。
 ウィンスの足元にマテリアルが集中し、その足で大地を蹴ると同時に、一拍の内にBADDASの間合いに潜りこんだ。短く持ったグレイブの切っ先を、その心臓目掛けて渾身の力で突き出す。
 だが、BADDASの構えた杖がそれを受け止めた。まるで鉄塊でも突いたのではないかという反動が、ウィンスの手元には残る。
「何だ、終わりか?」
 BADDASは杖を持たぬ逆の手を持ち上げ、ウィンスへと伸ばそうとする。だが、横合いから蛇が獲物を襲うように、白い鞭がその腕に絡みつく。
「焦りすぎだぜ、じーさん!」
 龍崎・カズマ(ka0178)は鞭の持ち手を強く引き、その腕を押さえつける。金髪に変化した髪の隙間から、黄金色の瞳がBADDASを睨む。
 これで杖と腕を封じた、そう判断した久延毘 大二郎(ka1771)は手の中で遊ばせていた指し棒をBADDASに向け、そこのマテリアルを集束させていく。
 だが、BADDASはその魔法が完成するより先に腕に絡まっている鞭を逆に掴み、軽く引いた。その動作は全く力を入れているようには見えなかったが、それでも尚構えていたカズマの身体を宙に浮かせて引き寄せるだけの力があった。
「のわっ!」
「ぐっ!?」
 引き寄せられたカズマは、杖を押さえつけていたウィンスへとぶつけられる。
 一瞬の間にフリーになったBADDASに、この状態で魔法を撃っても有効打を与えられないと判断した大二郎は、構築していた魔法をキャンセルする。
 やはり前回と同じような方法は通用しないらしい。少なくとも、前衛が2人だけでは容易く対処されてしまうことが証明された。
「やはり賢いね、BADDAS氏。彼方を知れば、私の世界の解明もまた一歩進みそうだ」
「ならばロックを知れ。俺を理解しようと思うなら、その身に受けてみるといい」
 親切にも、と言うべきか。その言葉の一瞬後に、大二郎の全身を叩くような衝撃がぶつけられる。
 その場で踏ん張る、という選択肢ごと吹き飛ばすように、大二郎の身体は軽々と後方に向けて飛ばされていた。
 大二郎は最後の意地で、飛ばされる中でバランスを取って足から着地するが、体中に走る痛みにその身が強張る。
「やはりそう簡単には行かんか。だが、それでこそ戦い甲斐があるというもの」
「正しく、彼が強者であることは明らか。その戦いにかける姿勢は、生半な人より余程好感がもてる」
 片や、炎を思わせる赤い髪を掻き揚げ、豪奢なドレスを見に纏う、巨人の斧を両手に構える貴婦人風の女――フラメディア・イリジア(ka2604)。
 片や、ワインのように深い紫の切れ長な瞳、動き易さを優先した肌にピッタリと合う戦衣装、紅い刀身を鞘から引き抜く武人風の女――クリスティン・ガフ(ka1090)。
 2人の対照的な女性が、高らかに叫ぶ。
「久しぶりの強敵じゃ。さあ、征くぞ!」
「斬魔剛剣術が剣士! クリスティン・ガフ! 推して参る!!」
 駆けた二人はBADDASの正面からそれぞれの武器を振るう。
 BADDASはそれに対し、真っ向からそれを受け止めた。フラメディアの戦斧を白い杖で、クリスティンの刀を素手で。
 ズンッと、BADDASの足元が僅かに沈む。そしてクリスティンの一撃を受け止めた手の平からは、僅かに黒い血が流れ出ていた。
「面白い――フンッ!」
 BADDASが杖を僅かに引き、間合いに引き寄せられたフラメディアは、すぐさま突き出された白き杖を腹に受ける。
 鉄槌にでも殴られたような衝撃に、フラメディアの身体が「く」の時に折れて、後方の地面に投げ出された。
「俺に傷をつけるとは、やるじゃねぇか」
「では、そのままその首も貰い受ける」
 地面を強く踏み、身体の中心を軸にしてその身を捻り、勢いに乗せた横薙ぎの一撃がBADDASを捉える。
 しかし、それは見切られていたのか白い杖であっさりと受け止められ、刀を弾き上げられる。
「あとはロックを知れば、もっと強くなれるぜ」
 それはBADDASなりの褒め言葉なのだろうが、その行動はクリスティンの胸元へ手をかざし、ゼロ距離から衝撃をその身に与えることだった。
 骨を砕き、内臓をぐちゃぐちゃにかき回すような、そんな形容し難い衝撃がクリスティンの身体を刺し貫いていく。
 身体は後方へ吹き飛ばされることはない。今まで使われていたのとは別種の、叩きつけるのではなく、貫くための衝撃がクリスティンの身体を通り抜けていく。
 膝をつくのは何とか耐えるが、胸元からせり上がってきたモノが、その口元から零れて地面を赤く染める。
「まだ立ってるか。丈夫だな」
「……鍛え方が、違う」
 言葉が返ってくるとは思っていなかったのだろう、それを面白いと感じたBADDASは、ニヤリと笑みを深める。
 もう一撃、そう思ったBADDASだが、すぐさま白い杖を構えると、背後から飛んできたワイヤーを払いのける。
「それ以上はさせませんよ」
 リリティア・オルベール(ka3054)は弾かれたワイヤーを一度手放し、自身の真横に突き立てていた長刀を手にしてBADDASに迫る。
 振り下ろされる龍をも叩き落すその一撃、それをBADDASが白い杖で受け止めると、杖から軋むような音が鳴る。
 その隙に、真白・祐(ka2803)はクリスティンを抱えると、すぐさまBADDASの間合いから飛び退る。
「全く、無理しすぎだぜ」
「ごほっ……無理でもしなければ、勝てない相手だ」
 祐の言葉に、クリスティンは身体の中に残る違和感を吐き出しながら、そう答えた。
「まあ、それもそうだな。嫌いじゃないぜ、そーゆーの」
 祐は笑う。視線を戦場に戻せば、BADDASに向かってリリティアが縦に横にと刀を振るい、BADDASはそれを只管に白い杖で防ぎ、時に弾き返していた。
「余裕そうだな、俺も混ぜてくれよ!」
 そこに飛び込んだのはミミズクの頭をした青き戦士――岩井崎 旭(ka0234)だった。
 軍をも破るという異名をとる戦斧が、BADDASの胴を薙ぐ。その刃はぎしりと、BADDASの脇腹をほんの僅かであるが傷つけた。
 だがそれ以上は刃が先に進まない。寧ろ押し返されるような感触が、旭の手元に伝わってくる。
「面白い。いいぞ、今回のお前達は熱いものを持っている」
 その時、甲高いギターの音が掻き鳴らされた。その予兆に気づいた八島 陽(ka1442)は、その意味を警告する為にハープを掻き鳴らす。
 その意味を予め聞いていたハンター達は、一斉にBADDASから距離を取る。だが、それでも尚BADDASを中心とした衝撃波は、ハンター達を複数巻き込んで広がっていく。
「序章は終わりだ。もっともっと熱く、魂を揺さぶらせろ」
 BADDASは、ハンター達に向けてそう宣言し、そして一歩前へと踏み出した。

●ロック・ロック・ロック
 旭の渾身の一撃が、BADDASへと振り下ろされた。だがBADDASは握った拳の甲でその刃の腹を殴りつけ、ただそれだけで軌道を逸らす。
「硬い上に技巧派ってわけか。とことんふざけてるなっ!」
「ああ、それこそがロックだからな」
 その言葉と同時にBADDASの上げた足が、旭の横顔に迫る。旭は咄嗟に上体を後ろに逸らしてそれを交わすが、続く真上から打ち下ろされた衝撃波に、地面に叩きつけられた。
 さらに掲げられた靴底が、旭の身体を踏み潰そうと迫る。
「いい加減に、しとけよっ!」
 足が振り下ろされるより速く、ウィンスのグレイブがBADDASのその足に突き刺さる。しかし、やはり切っ先が僅かに突き刺さるだけで、それ以上はぴくりとも前に進まない。
「お前は、まだ熱くなりきれていないようだな。遠慮する必要はないぞ?」
「上ッ……等ッ……だ――――――!!」
 ウィンスの足元から漏れ出るオーラが、吹き上がるようにしてその勢いを増す。自身の得物を持つ手を引き、次はその顔目掛けて鋭い突きを放つ。
 BADDASは顔を僅かに横に逸らし、それを避ける。だが、その頬には一条の傷跡が残っていた。
「そうだ。それでいい。その心が、ロックだ。覚えておけ」
 ウィンスの身体が突然に真横に押し出される。グレイブを地面に突き立てて何とか耐えようとするが、それでも地面を削りながら数メートルの距離を離されてしまった。
 同時に、その身体に残る激しい痛みにすぐには動けない。吹き飛ぶのに耐えようとした分、逃げなかった衝撃が身体に残り、それが予想以上の消費を強いていた。
「前よりもホットじゃねーか、ロケンローラー。なら俺ももっと熱くならないとな!」
 デルフォーノの視界では、フラメディアの巨斧を杖で受け止めている姿が見えている。
 このままでは射線が通らない。だから、デルフィーノは大地を蹴ると同時に、その靴底からマテリアルを勢い良く噴射して、無理矢理にその射線を確保した。
「燃えなっ!」
「ヌッ!」
 竜のブレスのような火焔がBADDASに襲い掛かる。嘗めるように全身を燃やし尽くさんとする炎が、BADDASを包み込んだ。
「危ないのう。もう少しで我のドレスまで燃えるところじゃ」
「悪いな。でもちゃんと当てなかったから、許してくれ」
 フラメディアのちょっとした苦情に、デルフィーノは肩を竦めて返す。
 燃え上がるBADDASの身体。だが、ぬぅっとその炎の中から片腕が突き出されると、それを真横に振るう。その動作と共に燃え上がる火は散らされ、それと共に周囲へ撒き散らされたのは、全てを死へと誘う負のマテリアルだった。
「いいぞ、これで更に熱くなってきた」
 BADDASの体は、あちこちからぶすぶすと煙を上げている。それと同時に体から滲み出る黒い靄が、BADDASを中心にしてそこに生きる草を枯らし、大地を殺していく。
 不敵に、不遜に、BADDASは堪えきれないとばかりにその表情から笑みを崩さない。
「一つ、ご教授願いたいことがある」
 その時、良く通る声でそんな言葉がこの場所に響いた。
 激しいロックな音楽が、音を支配しているこの空間で、大二郎は腹に力を籠めてBADDASに問う。
「貴方が奏でるその音楽や『ロック』という概念は、どこで知ったのだろうか?」
 それは純粋な疑問であり、BADDASという男のルーツを探る為の質問であったのだろう。
 BADDASの爛々と光る赤い瞳が、大二郎へと向けられた。
「それを知ってどうする?」
「私の好奇心を満たす為だ。ひいては世界の解明の為である」
 当然だ、と言わんばかりにはっきりと断言する大二郎の言葉に、BADDASは片手を持ち上げた。それは攻撃の合図かと身構える前に、その手はそのまま真上の空へと向けられた。
「ある日、ロックの神が俺の元に降りてきた」
 それは比喩なのか、それとも彼の身に確かに起こったことを誇張していることなのか、その判断はつかなかった。
「だから頂いた。最高だったな……アレを超えるロックな時間はなかった」
 BADDASはそれは懐かしむように、噛み締めるように、その瞬間だけはまるで人間であるかのように、その情景を思い浮かべ、そして歓喜しているようだった。
「だから俺は探している。あの時を越える、最高のロックを!」
 天へと伸ばされていた手が、ぐっと強く握られた。その瞬間に響き渡るのは甲高いギターの音。
 激しい衝撃が再びハンター達を襲った。何とかそれに耐える者、吹き飛ばされて地面を転がる者、それでも一様にその視線はBADDASから逸れはしない。
「ところで、お前。さっきから邪魔だな」
 そう言ってBADDASが視線を向けた先に居たのは、陽であった。その手に持つハープ型の弓は、その弦が揺れるごとに小さく澄んだ音色を鳴らす。
 ギターの音に重ねられる、ハープの音色。それはどれだけロックに真似ようとしても、不協和音を生み出してしまっていた。それが、BADDASには癇に障ったのだろう。
「人の演奏を邪魔しちゃいけないだろう。なぁ?」
 BADDASは、陽に向かってこれまでにない歩みの速度で接近していく。
 だがすぐさま、その体に漆黒のワイヤーが絡みついてその動きを阻害する。
「どこに行くんですか? 貴方の敵はここですよ!」
「五月蝿ぇな」
 ワイヤーが巻きついていた腕が、突然膨れ上がった。そうとしか思えないほどに、肥大化したのである。膨張したその腕は、ぶちぶちと巻きついていたワイヤーを引き千切り、拘束が解けるとすぐに元のサイズへと戻る。
 明らかに異様なその光景に、ハンター達はBADDASの本気具合が図り取れた。
「ここで後衛を狙うのか?」
「同じ戦場に立ってるんだ。前も後ろも違いがあるのか?」
「然り。だが、ここは通さん」
 クリスティンは赤い蟲を纏う刀を両手で軽く握り、丹田へとマテリアルを集めながら腰を落とす。
 BADDASが一歩進み、クリスティンの間合いに入ったその瞬間。肩に乗せた刀は跳ね上がり、その刃の先が円月を描くように、ただ真っ直ぐに振り上げられ、そして斬り下ろされる。
 ずぐっと、その刃はBADDASの肩口へとめり込んだ。だが、そこから刀はぴくりとも動かない。押しても、引いても、微塵たりとも。
 見れば、BADDASの肩を傷つけたその傷口の肉が膨張し、刀をまるで押さえ込むようにしてがっちりと押さえ込んでいた。
「通るぞ」
 BADDASが杖を振りかぶる。それは今クリスティンが振るったように、上段から打ち下ろされるようにして、彼女の肩口に叩きつけられた。
 クリスティンの体は地面に叩きつけられ、それでも殺しきれない威力が彼女の体を跳ねさせる。さらに其処にBADDASの雑な蹴りが、その腹部を捉えた。
 瞬間、光の防壁が張られるが、BADDASの脚はそれを紙細工のように破り、クリスティンの体は地面と水平に飛ぶ。
「まだ邪魔するのか」
「当たり前だろ。もっと聞かせてみろ、お前のシャウト! いくらだって受け止めてやるぜ!」
 祐の挑発に、BADDASは正直に答える。
 それは声ではないが、確かな空気の振動となって祐の体を震わせ、光の防壁を砕き、その身を後方へと軽々と吹き飛ばした。
 と、そこでまたBADDASの腕に、今度は白い鞭が絡みつく。
「無駄なことを」
 鞭を振るったカズマへと視線を向けるBADDAS。だが、カズマはただ鋭い視線を返すのみ。
「それはどうかなっ!」
 代わりにそれに答えたのは、陽だった。白い機杖をBADDASに向けてかざしながら大地を蹴ると、その体は急加速する。靴から吹き出るマテリアルをブースターに、陽は僅か数瞬でBADDASの間合いに入った。
 だが、BADDASの片腕がそれを迎撃する。振るわれた杖に、陽は背中に回していた腕に持っていた盾を構えた。
 鈍い音が陽の体から聞こえる。陽自身も盾を持っていた腕から感覚が喪失する。だがそれでも構わず、残る腕に手にしている機杖をBADDASの体に押し付けた。
「痺れとけっ!」
 マテリアルから雷撃へと変換された一撃が、BADDASの体を駆け巡る。
 その顔も僅かに苦痛の色が見える。好機、これを逃す手はない。誰もがそう思った。
 ハンター達はそれぞれの、これが最高という一撃をBADDASの体へと叩き込んでいく。
 その体からは黒い血が流れ、BADDASは苦い顔をしながら、その場で肩膝をついた。
「続けて、畳み込みますよ」
「いや、待て。ヤバイ!」
 今一度刀を構えるリリティア、だがBADDASから吹き上がる負のマテリアルに旭が待ったをかけた。
 次の瞬間、黒の波動がBADDASから放たれる。それは物理的にも魔法的にもハンター達にダメージを与えることはない。
 だがそれは、全員の背筋に冷たいものを走らせ、全身の肌を粟立せるほどの恐ろしさを感じさせた。
「――ぐっ、は……」
 次の瞬間、陽はBADDASの腕に掴まれていた。間合いは取っていた、少なくとも手を伸ばしても届かない位置にいた。
 そのはずであるのに、その体はBADDASの手の中にいた。
「……なんだ、そりゃ?」
 デルフィーノの口から思わず声が零れる。それはここにいるハンター達の代弁的な心情を語っていた。
 BADDASの腕が巨大化しているのだ。それは正しく、巨人の腕。人間の言う間合いなど関係ないとばかりに伸ばされた、丸太以上に太い巨腕が陽の体を掴んでいるのだ。
「言ってなかったか?」
 BADDASの体が変質していく。あくまで人のサイズであったその肉体は、巨大化したその腕に合わせるかのようにして、その大きさを変えていく。
 ハンター達を見下ろすような巨体へと変貌したBADDASは、先ほどより野太くなった声で言葉にする。
「俺は怠惰の歪虚だ」

●ジャイアント・ロックンローラー
「ぐあああぁぁぁぁ!?」
 陽の悲鳴が戦場に響き渡る。その体からマテリアルが抜き取られる。同時に陽の体を掴んでいる手が、中身を握り潰さんと力を籠めたのだ。
「不味い、急いで助けるぞ!」
 大二郎の言葉に我に返ったハンター達は、BADDASへの攻撃を再開する。
「俺様でもちょっぴり吃驚したぜ。流石はロックだな!」
 大二郎の炎の矢と共に、デルフィーノの火炎放射がBADDASの体を燃やす。
 それは確かにBADDASの体を焼くが、BADDASがその手で払えばそれだけで炎は散らされてしまった。
「チッ、腕を狙おうにも高すぎるか」
 ウィンスのグレイブを持ってすれば届かないことはない。だが、そこを狙うと相手に知られている時点で、当てられるかは微妙なところだ。
「それなら俺の出番だな」
 そこで飛び出したのはカズマだ。僅かな跳躍と共にBADDASの膝を蹴り、服を掴み、胸部まで一気に登っていく。
「無駄だ」
 だが、あと少しで腕に届くと言ったところでカズマの体に衝撃が走る。殴られたわけではない、不可視の衝撃波がその体を正確に捉え、カズマはそのまま宙に投げ出されてしまう。
「闇雲に攻めても駄目ですね」
「そうだな。協力していこうぜ!」
 リリティアの言葉に、旭も賛同する。
 まずはBADDASの気を引くこと。チャンスを作り出す為に、まずは攻撃を確実に当てることが必要だ。
「巨大化までするとは。ますます血が騒ぐのう」
 フラメディアはBADDASを見上げて呟く。用意したスキルは当に全て切れている。それでも尚その闘志に陰りはなく、寧ろ強敵のその真の強さに対して胸を高鳴らせていた。
 BADDASを前にして、くるりとダンスを踊るようにその体を回転させる。それは勿論踊っているわけではなく、その回転から生み出したエネルギーを、巨斧の破壊の力へと変える為だ。
 大木に打ち付けるかのように、フラメディアの巨斧がBADDASの脚へと叩きつける。その傷は僅か、だが今まで以上の手応えをフラメディアは感じた。
「もしかして、巨人に戻ると柔らかくなるのじゃろうか?」
「そいつは朗報だな。俺もいくぜっ!」
 旭もまた、巨斧を構えてBADDASへと肉薄する。
 だがBADDASも黙って攻撃を受ける訳がない。高く振り上げた足で、思い切り大地を踏みつけた。
 大地にひび割れを作るその一撃は、局地的な地震を引き起こす。ぐらりと揺れる地面に足をとられるハンター達。
 そこを狙われ、BADDASの視界に入ったメンバーは次々と衝撃波に飲まれ、地面を転がるはめになる。
「こんなものだったか、人間とは?」
 詰まらんと言わんばかりの落胆の声がBADDASの口から放たれる。
「誰が……まだやってやるよぉ!」
 ウィンスが吠える。グレイブを構え、BADDASへと突撃していく。
 それを援護するように、銃弾と風の刃が放たれる。BADDASはそれを煩わしいとばかりに腕の一振りで防ぐが、それだけで腕の動きが僅かだけでも制限された。
「まず、一突きっ!」
 ウィンスのグレイブがBADDASの右足に突き刺さる。ずぶりと、コレまでにない以上にしっかりと刀身を突き入れ、そして抉る。
「こちらもっ!」
 側面から回り込んだリリティアの長刀が閃く。踝にあたる部分を真横に斬り裂いた。斬れたのは表面の皮膚だけだが、それを斬れるようになったのはやはり大きい。
 このまま攻撃を続ければ、そう思ったところで視界が反転する。いや、自分の体が衝撃波に弾かれて、大地に対して正反対の方向へと回転させられたのだ。
 そんなリリティアの視界に、高純度のマテリアルをその巨斧に纏わせた旭の姿が映る。
「とっておきだぜぇっ!」
 気合の一声と共に、光に包まれた巨大な刃がBADDASの足に叩きつけられた。人間サイズをしていた時よりはマシだが、やはり硬い。だがそれでも渾身の力を持って、敵軍を打ち破る名が付けられたその武器を、思いっきり振りぬいた。
「ぐぅっ!?」
 BADDASの右足の太腿の肉を斜めに開いたその傷口からは、僅かに遅れて黒い血飛沫が吹きだした。
「そろそろ仲間を帰して貰うぜ」
 さらに、再びBADDASの体を駆け上ったカズマが、陽を掴むその五指に鞭を叩きつけた。僅かに緩む指の力、それを見逃さずカズマは陽の体をその手の中から引きずり出し、そのまま地面へと飛び降りる。
「悪い、助かった……」
「まあ、貸し一つだ」
 半死半生といった状態の陽を後方で下ろし、カズマはすぐにBADDASへと振り返る。
 その瞬間、ギターの音が届く。地面を抉るような衝撃が走り、それへの抵抗は無意味だと言わんばかりに、耐えようとしていたハンターも含めて全員が、BADDASから十数メートルの距離まで吹き飛ばされていた。
「でたらめだな」
 改めて思う。巨人の姿に戻ったが故に防御力は下がったようだが、そのマイナスを帳消しにするぐらいに攻撃力とその範囲が上昇している。
 ここにいるハンター全員が既にボロボロだ。立っているのがやっとだという者もいる。だがそれでも、諦めているものは1人もいない。
「俺ァよ、俺以外の意思で生き方曲げる訳にゃ行かねーのよ。抗わせて貰うぜじーさん!」
「いいぞ、その意気だ。抗ってみせろ、それこそロックな生き様だ」
 カズマの振るう鞭がBADDASの体を打つ。そこに生まれた傷を意にも介さず、BADDASは拳を握り上から振り下ろすようにしてカズマを殴りつけた。
 大地に押さえ込まれるようにして伏すカズマ。その背後からクリスティンが飛び出し、その下ろされた腕に剛剣を一閃する。刻まれる傷、さらにそこにデルフィーノの放つ火炎がその腕を嘗めるように焼く。
「息はあるか?」
「勝手に殺すな」
 クリスティンの単調な感情の篭らない問いに、カズマは仏頂面をしながら顔を上げて立ち上がる。
「さあ、この戦いを楽しみましょう?」
 リリティアが閃かせた刃が、BADDASへ届く。側面の足首から踵、そして内側へと流れるような連撃で確実に傷を増やしていく。
 BADDASの腕が彼女を掴もうと伸ばされるが、逆にその手のひらを素早く蹴って飛び上がり、内股の部分を真一文字に斬りつける。
「大きくなった分、やはり隙も増えましたね」
 地面に降り立つリリティアは刀を振るって黒い血液を飛ばす。その通り、隙は多く打ち込める数も増えたが、やはり決定打が足りない。
 物理的な攻撃が通るようになったとは言っても、その皮膚を裂くのが精一杯といったところなのだ。そして基本的に近接攻撃が下半身にしか届かない為、急所狙いが出来なくなったのも痛い。
 跳躍など無理をすれば届くが、その後に反撃を受けた場合は空中では受身も取りようがない。最悪、その隙に掴まれてマテリアルを吸収されたら、これまで与えたダメージを回復されかねないのだ。
「どうしましょうか」
「どうもしなくていいんじゃないか?」
 リリティアの誰に向けたわけでもない問いに答えたのは、大二郎だった。
「私達のそもそもの目的は、BADDAS氏の足止めだ。そうだろう、オルベール君」
 大二郎の言葉通り、ここに集ったハンター達はファリフが誰よりも先に塔に登るための足止め要員なのだ。
 その意味では、BADDASをここに釘付けに出来ている現状は、その目的をしっかり果たしていると言えた。
「けど、このまま戦い続けて時間を稼いだとして。結局は全滅っていうのは癪だな」
 そう口にする祐は、理解は出来るが納得はいかないといった様子だ。BADDASの強さは文字通りその身に叩き込まれたが、それでも折れぬ心が抗いたいと騒いでいる。
「確かにそれもそうだ。なら、一矢を報いる算段を立てようか」
 大二郎はBADDASを見る。その視線は、大きな傷が残るその右足を凝視していた。

●魂を砕く一撃を
「大分時間を潰したな。そろそろ、最高のロックを探しに行くか」
 BADDASはそう口にして、そこに聳える塔を見上げた。大幻獣が住まうとされる、その頂上へと。
「……待てよ」
 その正面を塞ぐようにウィンスが立ちはだかる。巨人と人間、その差から無視してしまえるような関係だ。
 だが、それをさせない気迫をウィンスは放ち、グレイブの切っ先をBADDASへと向ける。
「まだ立てるか。お前は熱いロックを持ってるな」
「違う、これはロックじゃねーよ。魂の反逆だ」
 ニヤリとBADDASは笑った。ゆっくりとウィンスに歩み寄り、拳を握る。
「耐えられるか?」
「……上等!」
 巨大な岩のような右の拳がウィンスに振るわれる。ウィンスはそれに真っ向から立ち向かい、体の捻りも加えた渾身の突きをぶつける。
 ぶつかりあった拳を刃は、僅かな拮抗の後に互いを弾く。BADDASは続く左の拳を振るい、ウィンスも再び全力の突きを放つ。
 二合、三合と打ち合う。互いに相手を弾き返すも、BADDASは絶えず笑みを浮かべているが、ウィンスのほうはもはや表情を作るのに力を使うような余裕すらない。
 正直なところ、一発目で残っていた体力を根こそぎ持っていかれた。二発目で気合を、三発目で意地を奪われていく。
 グレイブを持つ力もなく、気づけばそれを地面へと取り落としていた。それでもまだ足を折らず、ウィンスはBADDASを睨む。
「こんなものか、巨人ってのは?」
「その心意気、やはりロックだな」
 その言葉と共に振るわれた拳で、ウィンスの体は今度こそ殴り飛ばされた。そのまま後方に聳える塔の壁に叩きつけられ、ずるりと力なく地面へと落ちる。
「今、だあぁぁぁ!」
 旭が叫ぶ。白い光を宿した巨斧を振りかぶり、BADDASの右足へと斬りかかった。
「ぐうっ!?」
 縦に裂くような傷口か生まれる。さらにその傷口目掛けてクリスティンとリリティアも、その身の丈を越す刃を叩きつける。
 傷を深く、更に深くを抉るようにして、ハンター達は攻撃を重ねていく。
「まあ、あれだ。足の一本くらい置いていけ」
 大二郎はそう呟き、指し棒に似た杖を軽く振るう。構築される魔法の式をその目に写しながら、狙いを定めてそれを放つ。大気の中を滑るようにして飛び、敵を切り刻むことにだけ特化した刃が、BADDASの右足に新たな傷を作り出す。
「小賢しい真似をっ!」
「ロックってのは反骨精神だろう? ならこれが俺達からアンタへの反骨だ!」
 デルフィーノの靴底からマテリアルがジェット噴射する。飛び込んだその先にある傷口に杖を捻じ込み、最後の1発にありったけのマテリアルを込め、炎を吐き出させた。
「ぐ、ガアァァァ!?」
 BADDASが初めて悲鳴に近い叫びを上げる。次の瞬間には甲高い弦を掻き鳴らす音が響き、大地を砕く衝撃がハンター達にも等しく襲い掛かる。
 吹き飛ばされ、地面に投げ出されたハンター達は素早く立ち上がる。視線の先には土煙が舞い、BADDASの姿は見えない。
 そう思った時、煙を横に裂くようにしてBADDASの姿が見えた瞬間、その巨体が飛んだ。十数メートルはある距離を、一瞬で詰めたBADDASは大地をその両足で踏みつける。
 揺れる大地、僅かにバランスを崩すハンター達はそれに耐えるが、その隙は致命的でもあった。
 振り下ろされた拳がまずリリティアを捉え、その体を地面に陥没させるほどに叩きつける。BADDASはさらにそこから横薙ぎに拳を振るい、その傍にいた祐の体を空へと打ち上げる。そして、その落ちる先を見もせずにその視線をカズマへと向けた。
「ぐっ、がぁ!?」
 それはこれまでとは違う。体を前後左右から挟みこむような衝撃波だった。体が飛ぶことによってその威力が減ることはない。まさしく見えない巨人の手で握り潰されたかのように、カズマの体が圧縮される。
「獣のように暴れよって。先ほどまでの品性はどこにいった!」
 フラメディアの巨斧が再びBADDASの右足の傷を叩くと、焼け爛れた傷口から再び血が溢れだす。
 だがそこでフラメディアもBADDASの視界に入ってしまい、構える暇もなく後方へと弾き飛ばされる。だが傷口の痛みから調整が狂ったのか、フラメディアは体を捻り、斧の柄で大地を削りながらBADDASから数メートルの地点で着地する。
 BADDASはそれを見て、今度は叩き潰さんと拳を振り上げて彼女に迫る。だが、横合いから割り込んだクリスティンの剛剣が、BADDASの傷口をさらに抉った。
「ヌンッ!」
「ぐっ! あ、ああああぁぁぁ!?」
 BADDASはその襲撃者を掴みあげると、万力の力で締め上げ、さらにその体からマテリアルを奪い取る。己の生命の根幹を奪われる感覚は、痛み以上に生物としての本能が悲鳴を上げさせる。
 だが、全てのマテリアルを吸い終える前に、BADDASのその横面を殴りつけるようにして、炎の矢がその顔を直撃した。
「悪い。隙だらけだったものだから、ついぶち込んでしまった」
 大二郎が指し棒をもつ手をくるりと回して、再び灼熱の魔法を構築し、放つ。同時に大二郎の体を囲うような衝撃が発生し、一瞬でその体を押し潰した。
「この火は効くな。魂に響く、いい熱さだ」
「そりゃ、どうも……」
 炎の一撃を再度受けたBADDASが、理性の灯った赤い瞳で一睨みすると、大二郎の体が地面へと叩きつけられた。
 BADDASは顎に手を当て、一つ唸りながら周囲を見渡す。この場で立っているのは旭、デルフィーノ、フラメディアの3人だけ。他の者も息はあるようだが、少なくとも今立ち上がる力は残っていない。
 その時、塔へと至る坂の道が俄かに騒がしくなってきた。
「どうやらここまでのようだな。いいロックだった」
 BADDASが首元の襟を正すようなポーズをすると、その体が見る見るうちに縮んでいく。僅か数秒のうちにその体は最初の人間サイズに戻っており、その手には再びあの白い杖が握られている。
 そしてそのままハンター達に背を向けると、塔へと向かって歩き出した。
「待て、逃がすかよっ!」
 旭がそれを追おうとする、だが視線だけ振り向いたBADDASの瞳に移り、次の瞬間には後方の地面を転がっていた。
「生き急ぐな。炎のように一瞬で熱く燃え上がるのもロックだが、それはまた今度見てやる」
 BADDASは塔の壁に辿り着くと、その腕を振るって壁を殴りつける。石で出来た壁は一撃で破壊され、さらにBADDASが残る部分を蹴りつければ、人が1人通れる分の穴が開いた。
「さて、いよいよご対面だ。どんなロックな奴か、楽しみだな」
 BADDASは傷ついた右足を少し引きずりながら、その穴から塔の中へと入っていった。
 それと同時に、周囲に鳴り響いていたロックな音楽が鳴り止んだ。
「ふざけた奴だぜ、ちくしょーめ」
 そこでデルフィーノの体が後ろに倒れた。体の限界を超えた活動は、僅かに気を抜いたところで制御を失い、もはや指一本動く気がしない。
 同じようにフラメディアもその場で膝を突く。体力はまだ残っているが、それ以上に強敵と対峙したことにより精神的疲労が体に来てしまったようだ。
「全く、これじゃから強敵との戦いは、止められぬ」
 くつとその顔に笑みを浮かべ、ふと視線を移せば、坂を上ってくるハンター達と、腹部の紋章を輝かせるファリフの姿が見て取れた。
 やれるだけのことはやった。その自負の元、フラメディアもまたその場でゆっくりと地面へその体を投げ打った。

依頼結果

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MVP一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178
  • 誘惑者
    デルフィーノka1548
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジアka2604

重体一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダールka0039
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽ka1442

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽(ka1442
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 誘惑者
    デルフィーノ(ka1548
    エルフ|27才|男性|機導師
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人

  • 真白・祐(ka2803
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/08 22:13:42
アイコン 相談卓
リリティア・オルベール(ka3054
人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/07/12 20:46:43