• 東征

【東征】隠の筋違/抜穴奇襲

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/07/20 22:00
完成日
2015/07/26 18:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

――事前連動共通オープニング――

 山本五郎左衛門を討ち果たし、歓喜に湧いた東方が、再び絶望で塗りつぶされようとしていた。
 突如その姿を表した九つの蛇をその尾に宿した大狐。妖怪の首魁にして、憤怒の歪虚の至高存在。比喩抜きに山の如き巨体を誇る妖狐は既に展開されていた結界を抜け、東方の地を蹂躙しながら天の都へと至ろうとしていた。
 ――数多もの東方兵士たちの生命を貪りながら。
 同時に、妖狐は東方の守護結界に大穴を作っていた。今もその穴を通じ妖怪たちが雪崩れ込んでおり、百鬼夜行が成らんとしている。
 かつて無いほどの窮地に立たされながら、東方はそれでも、諦めなかった。
 最後の策は指向性を持った結界を作り九尾を止め、結界に開いた穴を新たなる龍脈の力を持って塞ぐこと。それをもって初めて、最終決戦の為の舞台を作る。
 そのために今必要とされるのは人類たちは九尾達の後方――かつて妖怪たちに奪われし『恵土城』の奪還と、可及的速やかな結界の展開。
 東方の民と東方の兵の亡骸を――僅かでも減らすその為に。


 暴れ回る大妖狐を大きく迂回し、漸く辿り着いた恵土城を遠方に見やったハンターと東方武士達は、言葉を無くしていた。美しき東方の城。その天守閣を覆うほどに黒々と広がった、『泥』。
 同道していた術士が呆然と呟いた。
「……龍脈が」
 喰われている、と。
 地下から吸い上げられた龍脈が天守閣の泥へと吸い上げられている。しかし、果たして、この戦場における狙いは定まった。
 地下と天守閣。その二つを、落とさなくてはならない。
 この局面での失敗は、即ち東方の終わりを意味する。だが、恐れずにハンター達は歩を進めた。
 ――運命に、抗う。
 ハンター達は、その言葉の意義を自ら証するためにこの場にいた。

――――――――――――――――



――歪虚要塞襲撃の時の事

 轟音。そして、激しい揺れ。
 大轟寺蒼人はそれが意味する事をすぐに理解した。
 歪虚に襲われているのだ。急いで城下を見下ろすと、既にいくつか炎が上がっていた。
「……スメちゃん、油断したな」
 結界を破られたのは一時的なようだ。
 それは同時にスメラギが生存している事も意味していた。
 結界が一時的に解かれた一瞬の隙を突いて所で――
「だよね」
 ニヤリと笑う。
 歪虚の襲来を告げる者が駆け抜けて行った。城内は一気に慌ただしくなる。
 恐れていた『万が一』が発生したのだ。そういえば、民の避難所は使われるのだろうか……。
「これだけ派手にやって、まさか、『来ない』という事はないよね」
 独り言……ではなかった。いつの間にか、黒装束を身に纏った数人が姿を現していたからだ。
「当主、いかがなさいますか」
「決まっている。例の抜け穴で待ち伏せする」
 不敵な笑みを浮かべて蒼人と数人の黒装束は駆けだした。

「うぶぶ。城内が混乱している隙に、麿がスメラギをマロマロしちゃうマロン」
 麻呂顔した何かが暗闇の通路を歩いていた。
 同じ様な……少し情けない顔をした麻呂顔の部下――全員が同じ顔をしている――が、「マー!」と奇声を上げる。
「この地を治めるのは、この麿こそが相応しいのじゃマロン」
 気合いを入れる為か、胸を張ると、着物が破け、薄い布一枚になった。
 光が届いていたら、きっと、照り照りに光る筋肉を観る事になっていただろう。
「マー!」
 部下の1人が驚きの声をあげる。
「どうしたマロン。……ん? ここは、先程も通った気がするでマロン!」
 麻呂顔した筋肉質の大男が驚きの声を上げる。
 ここは、龍尾城の抜け穴の一つである。万が一の際、スメラギや重要人を逃がす為のものである。
「そりゃ、抜け穴モドキだからな。外からの侵入は迷子になる仕掛けになっているのさ」
 戸惑う大男と一味を見下ろす様に現れたのは、蒼人だった。
「な、なんだマロン! 誰だマロン!」
「僕の名は、武家四十八家門、第九位大轟寺家の当主。大轟寺蒼人だ」
 ズレた眼鏡を中指で直しながら蒼人が宣言した。
「うぶぶぶぶぶぶぶ!」
 口を尖らせて叫ぶ麻呂顔の大男。
「麿は、筋違マロンだマロン。大轟寺! ここで会ったが百年目。麿の積年の恨み受けるでマロン!」
「……曾爺にぶっ殺された勘違い野郎か。スメちゃんに、こんな気持ち悪いのを見せるわけにはいかねぇから、ここで……くたばれ!」
「麿の力、受けマロォォォォォン!」

●蒼人の話
「……という事があって、結局、取り逃がしたんだけど、って話がズレたね」
 話もズレてるし、眼鏡もズレてる。
 蒼人は中指で眼鏡を直すと、思い出した様に、手を叩いた。
「そうそう。恵土城への侵入の話しだ。抜け穴から、つい、逸れてしまった。申し訳ない」
 他にも色々ツッコミ処が満載だが、蒼人の話はこうだ。
 恵土城への攻撃。
 それを支援する為に、城の抜け穴から内部に侵入。城攻めを行う部隊を迎撃する敵勢力を奇襲する任務だ。
「目立たないし、地味だが、とても大事な事だ」
 城の抜け穴から侵入するとは、まさしく奇襲の醍醐味。
 ……そもそも、なぜ、大轟寺が恵土城の抜け道を知っているかという疑問もあるのだが……。
「それと、抜け穴を通過するには難所が3つあって、苦労するかもしれない」
 一つ目は、強風吹き荒れる通路。目を開ける事もままならぬ強風は、時として皮膚さえも切り裂くという。
 二つ目は、冷たい地下水の通路。しかも、流れが急で異物も流れている。
 三つ目は、とにかく、よく滑る通路。しかも、所々に小さく鋭い突起物もある硬い地面だ。
 これらを抜けて消耗してから城の内部に侵入するという。
 下手したら、通過するだけで動けなくなる場合もあるかもしれない。
「なので、僕の部下じゃ、ちょっと荷が重いから、君達にお願いするって事さ。僕も行くよ。道案内する必要があるからね」
 ハンター達と話す事ができて嬉しい様子の蒼人だった。

●恵土城のある一角にて
 筋違マロンが城のある通路で構えていた。
 その通路は天守閣に至る道を斜め後ろから見下ろす絶好の場所なのだ。天守閣へと向かう者からは気がつきにくい位置になる。
「うぶぶ、麿、涎でちゃったマロン」
 ダラァァーと伸びた粘着性のある涎を、麻呂顔を左右に振る事で飛ばす筋違マロン。
 この堕落者の狙いは単純だ。
 天守閣へと向かう侵入者を背後から奇襲するつもりなのだ。
「早く来いマロン。早く来いマロン」
 楽しみでしょうがない様子である。
「マー!」
「マー!」
 麻呂顔した部下達も楽しみのようだ。
 だが、それは筋違マロンにとって不愉快だったようだ。
「この楽しみは麿だけの物だマロン! お前達は、下の通路で足止め係だマロン!」
「マー!」
 部下共が命令を忠実に聞いて、天守閣を通る通路に降りて行った。
「うぶぶぶ。早く来いマロォォォン!」
 再び涎が激しい筋違マロンの背後に、城の外へと繋がる抜け穴の隠し扉がある事を……彼はまだ知らないのであった。

リプレイ本文

●開始
「この間ぶりだからな、本当なら手合わせの続きといきたい所なんだが、まずは依頼を処理してからだ」
 不敵な笑みを浮かべてエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が依頼主でもある蒼人に声をかける。
「エヴァンス君と手合わせすると、戦い所じゃなくなるしね」
「まったくだ。さっさと、東方の厄介事になりそうな、その奇妙な野郎の面も含め、歪虚共をパパッと切り裂いてやるぜ」
「頼もしい事だ……というか、見知った顔ばっかりで、助かるよ」
 先日、天乃都内に避難所を構築する依頼を蒼人は出していた。その時依頼を受けたハンターも今回参加していたからだ。
「蒼人くん、一緒に戦いましょうって、お話したの覚えてる? 意外と……早く叶ったね」
 セイラ・イシュリエル(ka4820)の言葉に蒼人はズレかけた眼鏡を直す。
「こういう展開はお互い望む事ではなかったけど」
「まったくそうよね。だからこそ、作戦を成功させたいわ」
 山本五郎左衛門を打倒したと思ったら、今回の大妖狐の襲撃である。
 恵土城を奪還し、龍脈の力を使わなければ、来るべき大妖狐との戦いが不利になるのは必至。その為にも、今回の作戦。成功させねばならない。
「万が一、が起きてしまったか。じゃがまだ諦めてはいない、その思いは十分伝わって来た」
 真剣な表情でクラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)が、腕組をする。女性らしい豊かさが強調された。
「此度の作戦が上手く行けば蒼人に前回お預けした物を見せてやってよいかもな?」
「ほ、ほんとに!? ならば、今度は絶対に!」
 蒼人の反応に思わずクスっと笑ってしまう。
 思春期を迎えたこの青年は、こんな状況においても、ブレる事はない。
「気負い過ぎて、抜け穴を突破する際に、消耗し過ぎないように注意が必要です」
 J(ka3142)が冷静に忠告する。
 今回の恵土城へ侵入するに当たって、障害が多い抜け穴を通過する事になっている。
 いざ戦う時に、既に消耗しきっていては話しにならないからだ。
「それと、交戦時は連携を重視していきましょう。円滑に包むように掩護します」
「ジェーンさん、よろしくお願いします。九尾を止めている侍達のためにも……彼らの命は無駄にさせない!」
 強い決意を口にしたのは、アルファス(ka3312)だった。
 東方の侍達は命を掛け、ここまで戦ってきた。それを無駄にさせてはいけない。
「兄さん。私も全力を尽くします」
 アルファスにロープの端を手渡しながら、彼と同じように決意に満ちた瞳でマーゴット(ka5022)も宣言する。
「わかってるよ。でも、無理は禁物だからね」
 義妹の頭を、アルファスは優しく撫でる。
 少し照れながらマーゴットは静かに頷いたのであった。

●突破
「ここで、頑張らなくて……いつ、頑張るの、私……!」
 全身がずぶ濡れになりながら、セイラがショットアンカーから伸びるロープに捕まるJを引き上げていた。
 激しい勢いで水が流れる通路。クラリッサから水の上を歩けるようになる魔法をかけてもらい、セイラが一気に奥まで駆け抜ける……手筈だったが、何度か水の上で転倒してしまい、ずぶ濡れだ。
「後、少し詰めれれば、機導術で飛べるわ」
 水の流れに抵抗しながら、少しずつ前に進むJ。
 後ろからは、壁に引っ掛けた別のショットアンカーに掴まりながら仲間達が続く。
「強風通路は巧くいったと思ったが、水は面倒だ……なっ!」
「まったくです。ですが、1人でも到達できていれ……ば!」
 エヴァンスが水の中を流れてくる異物をギリギリの所で避け、アルファスが浮いて流れてくる鋭い木片を銃撃で吹き飛ばした。
 水路に至る前は、鋭い風が吹き抜ける通路であり、この2人が大剣や盾を構えて突破したのだ。
「大きい漂流物が流れてくるようじゃな」
 ロープに掴まりながら、クラリッサが漂流物を視線を向けていた。
 直撃を受ければひとたまりもない。彼女は土の壁の魔法を発生させる。発生させた壁は水の流れと漂流物によってすぐさま消え去ったが、軌道がズレれ、ハンター達の真横を轟音と共に流れて行く。
「次の人へ」
 Jが奥に到達したようだ。ロープをアルファスの方へ投げ渡す。
「マギー、きみから行くんだ」
「はい。兄さん」
 引き上げ要員はまだ2名だ。ここは、体重の軽いマーゴットを優先させた方が良いとアルファスが判断した。
 マーゴットと繋いでいる紐を外すと、それをロープとの固定に使う。
 こうして少しずつ水路を進みつつ、引き上げも兼ねて行う事で、この難所も比較的スムーズに突破した。いくつか漂流物で危ない場面もあったが、運が良かったのか直撃する事もなかった。

 水路を抜け、しばらく進むと一行の前に大きな空間が広がっていた。
 地面が見るからに堅そうで滑りそうだ。ここが、『滑床』なのだろう。所々に鋭い突起物が見える。
「私が、試してみます」
 セイラがショットアンカーを突起物を狙って打ち出してみた。
 だが、先端が打ち込まれる事がなく、滑っていくだけだった。壁に向かって放つも同様だ。硬くて滑る岩盤なのだろう。
「行きます」
 姿勢を低くして盾を構えながらJが進みだした。歩くと言うか、重心を動かして、氷の上を滑る様に移動する。
「なるほど! あれは、良い方法だぜ!」
 驚きの声を上げると共に、エヴァンスが大剣をボード代わりにする。
 冗談と思っていたが、本気の様だ。大剣の上でバランスを取りながら進みだしたエヴァンスにアルファスが叫んだ。
「エヴァンスさん! それじゃ、障害物を避けられませんよ!」
「うぉぉ!?」
 時、既に遅し。突起物を盾で受け止めたJと違い、エヴァンスはそのまま突っ込んでいく。
「やれやれ、手のかかる男じゃのう」
 突起物を埋める様にクラリッサが土壁を出現させる魔法を使う。
 間一髪でエヴァンスは壁に大剣ごと突き刺さって止まった。
「ここは、気をつけながら行くしかなさそうだね」
 安堵のため息をついて、アルファスが紐を取りだしてマーゴットに渡した。繋ぐ為だ。
「私が転んで、兄さんも転んでしまったら、申し訳ないです」
 逆に、転ぶのを助けやすい場合もあるので、身体を繋ぐのは一長一短だろう。
 連結する為に身体に紐を結びつけている横を、蒼人がスーと抜けて行った。Jと同じように姿勢を低くして滑って行く。
「蒼人くん、罠の突破方法わかるの?」
 それを見てセイラが声を掛ける。だが、彼は首を振った。
「まぁ、これが妥当だと思ったからね」
 直後に豪快に転んだ蒼人の眼鏡が宙を駆けて行った。

●奇襲
 抜け穴を通過し、無事に恵土城に侵入した一行は、ある隠し扉の前で静かに立ち止まっていた。
「間違いないな。筋違マロンだ」
 そっと、扉の隙間から外の様子を伺った蒼人が呟く。
「隠し扉の先は、天守閣へと続く通路に繋がっているはずだ。あそこに筋違マロンが立っているという事は、天守閣に向かう隊を背後から襲撃するつもりなのだろう」
「待ち伏せによる襲撃か……。本隊がそれによって痛手を被るのは避けたい。なら、その前にコイツを討つしかない」
 蒼人の説明にマーゴットが真剣な顔で、そんな言葉を口にした。
「ここは、一斉に奇襲を仕掛けましょう」
 アルファスの提案に全員が頷いて、それぞれ獲物を構えた。
 近接戦を挑む事になるマーゴットには、Jが自身のマテリアルを付与させる。
「蒼人もだが、女性陣には前以上に格好良いとこを見せねぇとな! 頼りにしてるぜ、テンペスト!」
 エヴァンスが愛用の大剣を構えて、壁際に立つ。仲間の遠距離攻撃後、一気に突撃するつもりだ。
「後ろががら空きとはな……それにしてもすごい身体じゃな」
 気持ち悪いものでも見ているような雰囲気でクラリッサは後ろに下がる。
 筋肉質な身体だが、顔は麻呂顔しているという。そんなのに抱きつかれたりしたら、きっと、耐えられないに違いない。
「私もホント無理……」
 想像してしまったのか、鳥肌を立たせたセイラが両腕で自分の身体を包む。
「では、皆さん、行きますよ」
 拳銃を持たない方の手でカウントするアルファス。

 5・4・3・2・1

 最後に指差すと同時にハンター達の銃撃やら術やらが一斉に筋違マロンの筋肉質な背中に突き刺さった。

「な、なんじゃマロン!」
 体勢はそのままにぐるりと麻呂顔を回転させた筋違マロンに向かって、背を低く落としてマーゴットが迫る。
 刀先で斬りつけると、そのまま離脱した。それを追いかけるように伸びる筋違マロンの手刀。
「女子からマロマロしちゃうマロン!」
 腕から手刀を飛びださせたが、間一髪、マーゴットの動きの方が早かった。
 この一連の隙を突いて、エヴァンスが大剣を振りかぶって迫る。
「まだいるのかでマロン!」
「我が名はエヴァンス・カルヴィ! 悪を断つ剣なり!」
 筋違マロンは胴からいくつも手刀を出現させ、それを受けようとしたが、彼の勢いの方が上手だった。重たい一撃は手刀の守りを破る。
「その口上、以前にも聞いたのう」
 クラリッサの感想に彼はニヤッと笑った。
「こういうのは、気合いだからな!」
 彼らしいというのか、なんというのか。
 そのやり取りに思わず微笑を浮かべながら、アルファスは拳銃を撃つ。
「私の銃撃も通るようですね」
 銃撃を弾こうとした手刀が打ち抜かれていた。
「残念だけど、僕の方はダメかもしれない」
 そう言ったのは蒼人だった。攻撃が胴体に届く前に、手刀で受け止められてしまうのだ。
「気をつけて。全周囲でこちらの攻撃を防げるという事は、逆もしかりです」
 Jが警戒の声をあげた。
 その声に反応し、更に踏み込もうとした蒼人とマーゴットが一瞬留まった次の瞬間、鋭い突きの手刀が筋違マロンの胴体から放たれた。
「マロロロン。よく気がついたマロン! 攻防一体の麿の力、その身で味わえマロン!」
「防御が硬いのは想定済みだぜ!」
 エヴァンスが前衛に立つ仲間にアイコンタクトを取る。
 連携によって、敵の守りを崩すつもりなのだ。
 低い姿勢で駆け抜けるようにマーゴットが蒼人とタイミングを重ねて攻撃すると見せかけた所、セイラが無数の棘のある鞭を振るう。
「麿に、そんな趣味はないマロン!」
 セイラの鞭は筋違マロンの足腰に巻きついた。
 態勢が崩れた所に、エヴァンスの強烈な一撃が叩き込まれる。
「エヴァンス! 後ろじゃ!」
 焦った様なクラリッサの叫び。
 見れば、伸ばした両手の先から、手刀を回して彼の背後を今まさに突こうとしていたからだ。
 だが、手刀の攻撃はエヴァンスに届かなかった。
「大轟寺! 邪魔するなマロン!」
「卑怯なお前の事だからな。こういう事をすると思っていたよ」
 片腕から血を流しながら蒼人が庇いに入っていたからだ。
「蒼人!」
「いいんだ。僕の刀では、筋違マロンに届かない」
 そして、視線をマーゴットとセイラに向けた。その意味を2人は瞬時に理解できた。有効打を与えられるには連携が必要だからだ。
「掩護する」
 Jが機導砲を放ったのに合わせ、マーゴットが斬りかかる。
 ほぼ同時に、アルファスの銃撃とセイラが鞭をしならせた。

●討伐
 振り返ってみれば短い時間だったかもしれない。だが、激戦は長く感じられた。
 隙を作る為、身体を張って前に出たマーゴットは手痛い反撃を受け蒼人と壁際まで後退。スキルを撃ち尽くしたJとクラリッサは武器を構えているが、仕掛ける事はせず、辺りを警戒しながら戦闘の行方を見守っている。
 抜け穴を突破する為に予備の装備を持ってこなかった事が仇となったのだ。それでも、ほぼ無傷で抜け穴を通過できたのだから、どっちが良かったかわからない。いや、もしかして、ハンター達の選択は正しかったかもしれない。そんな戦況だった。
「私が前にでます」
 アルファスが盾を構えて筋違マロンの正面に立つ。彼の守りは手刀を通す事はなかった。
 位置を入れ替わるようにエヴァンスが背後に周り、側面からセイラが牽制する。
 ここで、この強敵を打ち倒さなければ、天守閣に向かう本体に多大な障害となってしまう。最悪、恵土城攻略そのものが失敗に終わってしまうかもしれない。
「しつこいマロン! こうなったら、麿の隠し技だマロン!」
 筋肉質の身体が一瞬盛り上がったように見えた。
 刹那、身体のあらゆる部位から鋭い針のような手刀が現れる。それは針鼠の如く、びっしりと全身を覆った。
「……なんじゃ、あの気持ち悪いのは」
 クラリッサが吐き捨てるように呟いた。
 巨大なウニの様な姿になった筋違マロン。麻呂顔とすね毛の両足が異様さと気持ち悪さを増大させていた。
「足、汚い」
「同感です」
 マーゴットの言葉にJが頷いた。
「ホント無理。絶対無理」
 倒れそうな勢いでセイラが首を振りながら言った。
「素晴らしい麿の姿のどこが悪いのだマロン! こうなったら、奥の手だマロン!」
 そう言うと、残っていたすね毛の両足からも針の様な手刀を噴き出す。こうして、人の背丈はあるウニの様な、毬栗のようななにかが誕生した。
「これで、麿は無敵でマロン!」
「……エヴァンス。やってくれ」
 筋違マロンは全身が針手刀になってしまったせいで、身動きができなくなっていた。
 蒼人のクールな言葉に、大剣を上段に構えた戦士が口を開く。
「最後に言い残す事はあるか?」
「毬栗をウニと言って投げるおん…「くたばれぇぇぇ!」」
 最後の言葉を遮って、エヴァンスが大剣を力一杯振り下ろした。
 断末魔の叫び声をあげて、筋違マロンは灰となって消え去っていく。一行は、勝利したのだ。

●帰路
 天守閣に向かうハンター達に声援を送ってから、一行は恵土城から脱出する為、来た道を引き返していた。
「戦いはエヴァンスとアルファスに負担をかけて、すまないのう」
 クラリッサが本当に申し訳なさそうに言った。
 戦闘の際、彼女だけではなく、スキルを使い果たしたり、もしくは怪我をして戦線を離脱さぜるえなかったからだ。
「気にするな。そもそも、通路を無事に突破できなかったら、俺も立っていられなかったかもしれないしな。全員の戦果だ」
 大剣を背負いエヴァンスが笑顔で応じた。
「全員が其々の役割を果たした結果です」
「私も、そう思うな」
 蒼人と共に先頭を行く、Jとセイラが振り返って言う。
「兄さん。私もですか?」
「当たり前じゃないか。マギー」
 マーゴットが心配そうな顔を向けてきたので、アルファスが微笑を浮かべながら義妹の髪をわしゃわしゃと撫でる。
「もうすぐで、出口だ! さぁ、前回、お預けになったままの物を見せてよ!」
 怪我している事を忘れているような蒼人の言葉に一行の視線が、クラリッサと彼女のスカートに集まる。
「見せてやってもよいと言っただけで、見せるとはいっておらんがの」
 いじわるそうな小悪魔的な表情を見せるクラリッサ。
「そんなぁぁぁ!」
 蒼人の沈痛が声が抜け穴の中に響き渡るのであった。


 おしまい。

依頼結果

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面白かった! 9
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MVP一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィka0639
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファスka3312

重体一覧

参加者一覧

  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 風の紡ぎ手
    クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659
    人間(蒼)|20才|女性|魔術師
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファス(ka3312
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 正しき姿勢で正しき目を
    セイラ・イシュリエル(ka4820
    人間(紅)|20才|女性|疾影士
  • 元凶の白い悪魔
    マーゴット(ka5022
    人間(蒼)|18才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659
人間(リアルブルー)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/07/20 20:46:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/16 17:20:20