• 東征

【東征】隠の一ツ橋/御魂啜リテ

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
4日
締切
2015/07/19 22:00
完成日
2015/07/28 01:31

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●明神とスメラギ
 生体兵器“ヨモツヘグリ”の襲撃を退けた天ノ都には、一時の平穏が訪れたかに思えた。
 傷を癒し、次なる戦いに闘志を燃やそうとする東方に、突如として響いた九尾の咆哮。
 迫り来る新たな脅威に、東方の地は息つく間も無く戦火が続いてゆくのである。
「よぉ、随分と久しぶりじゃねぇかよ。汀田の」
 その日、朝命により宮殿に召喚されていた符術師・汀田明壬は、肘置きに頬杖を突いて出迎えたスメラギ帝を前に深々と頭を下げていた。
「いやいや、スメラギ様も多忙なお方。宮殿を出られる事もそうありませんからな……私は何時でも、都中を駆け回っておりましたぞ?」
「汀田殿、無礼でございますよ」
 眼前の畳に向かって挑戦的にそう口にした明壬を、スメラギの傍に控える立花院紫草が静かに諌める。
「いや、構わねぇよ。そのくらい言ってくれねぇと、陰陽寮の符術師は任せられねぇ」
 そう言ってニヤリと笑うスメラギに、紫草は小さくため息を吐きながらコクリと頷く。
「まあ、表を上げろよ。先の龍脈奪還、御苦労だったじゃねぇか」
 スメラギに促され、頭を上げる明壬。
 ばさりと狩衣の袖を靡かせ、体裁を整わせる。
「スメラギ様の命でございますから、この明壬、断る故などありませぬ」
「よく言うぜ、いつも何かしら理由を付けて断るくせによ」
「ははは、巡り合わせと言うのは奇妙なものにございましてな」
 そう口にして、笑い所だとでも言うように、互いに声を上げて笑いあう2人。
 スメラギは膝をパンと叩いてその笑いを鎮めると、変わらぬ表情で明壬へと向き直った。
「相変わらずで安心したぜ、明壬。いい加減年老いのたかと思っちまった」
 そう旧友に出会ったかのような口ぶりで言うスメラギに、明壬は再度の笑みで返す。
「まぁ、世間話は後でゆっくりとだ。今はそんな時間はねぇ……朝命だ」
 スメラギはそう話を切って、やや声のトーンを落として言葉を続けた。
「“九蛇頭尾大黒狐・獄炎”、ヤツの力を抑えるために要石を設置する事が決まったのは話に聞いているだろう。その内の1つを明神、お前に頼みたい」
「それはそれは、何とも名誉あるお仕事で」
 スメラギの語る責務に、明壬は小さく頭を下げて拝聴する。
「もし、お断り申したら?」
「構いやしねぇよ、その時は別のヤツに頼むだけだ。ただ、一つだけ耳に入れて置いて欲しい事がある」
 そう言って、真っ直ぐに明壬の瞳を見据えるスメラギ。
「“魂啜り”ってぇ、覚えてっか?」
「それは――妖刀“魂啜り”の事でございますかな」
「ああ、それそれ。悪いけどな、それ盗まれた」
 あっけらかんとして言い放つスメラギに、ピクリとその眉を動かす明壬。
「妖刀“魂啜り”と言えば、先々代の我らが当主が、当時の帝の命により龍脈へ封じたと言われる品。それが何故?」
「クソジジイに都の結界をやられた時のゴタゴタでな……」
 口惜しそうに吐き捨てるスメラギに、紫草が「帝のせいだけではございません」と言い添える。
「妖怪共の手に渡ったとなれば、厄介だ。それも武術に通じるヤツの手に渡ればな」
 そこまで言ってスメラギは、一度言葉を切った。
 それは明壬の出方を伺っているかのようで、ひんやりとした沈黙が、部屋を包み込む。
「――あい、分かり申した。要石設置の儀、謹んで拝命させて頂きまする」
「おう。都を出られない俺の代わりに、頼んだぜ」
 先の明壬の言葉を取ってか、含み笑いを浮かべながら言い添えたスメラギ。
 そうして朝命を承った明壬が準備のために部屋を去った後に、紫草はひそりとスメラギに言伝た。
「良いのですかスメラギ様。雲を掴むかのような者に、大事な命をお任せして」
 その言葉に、スメラギはハンと鼻を鳴らして言葉を返す。
「構わねぇよ。いけすかねぇヤツだがな……自分の仕事は、人一倍理解している男だ」
 それ以上スメラギは何も言わず、ただ儀式の成功をどかりと腰かけ待つのみであった。

●我ガ名ハ一ツ橋
「それでは各々方。これより堂の中にて儀を執り行う故、警護は任せたぞ」
 夜半。
 天ノ都から北へ向かった先にある古いお堂にて、明壬は己が護衛にそう告げ込んだ。
 先の戦いで多くの兵を失った東方には、この作戦に十二分な戦力を裂く余裕が無く、護衛は西方のハンター達に任されている。
 総勢十数名。
 彼がお堂に姿を消して、しばらく。中で祝詞のような唄が詠まれてゆくのを背に、風の音に耳を澄ませるハンター達。
 不意にジャリっと――何者かの足音を、その耳に感じていた。
 ピクリと弾かれたようにして各々の武器に手を添えるハンター。
 警戒を強めるその眼前に、月明かりに照らされて現れた姿。
 大鎧を全身に着込み、抜身の刀を右手に携えた、大仰なる鎧武者であった、
「な、何だお前は……!」
 護衛の猟撃士が叫ぶ。
 彼の言葉に鎧武者は何も語らず、ただただ、お堂へと歩み寄って来る。
 その姿勢と、抜身の刀に確かな敵意を感じ取ったのか、猟撃士は迷わずその引き金を引き絞った。
 轟く銃声、数瞬、キンと高鳴る金属音が響き渡る。
 次の瞬間には鎧武者の後方、左右にそそり立った枯れ木の幹が、木くずを巻き上げて砕け散っていた。
「こいつ……銃弾を叩き斬りやがった?」
 眼前で起きた出来事に、思わず目を見張る猟撃士。
 同時に、一斉に散開するハンター達。
「俺達が抑える、支援は頼んだぞ……!」
 闘狩人と疾影士の男が地を駆り、魔術師の女性がマテリアルを頭上に練り上げる。
 振り下ろした闘狩人の大剣を、半身引いて捌く鎧武者。
 頭上から襲い掛かった疾影士のナイフは刀の先ではじき返すと、柄を両手で掴んで翻し、2人まとめて袈裟に切り捨てる。
「みんな……ッ!」
 両断され、崩れ落ちる2人の姿を目に焼き付けながら、練り上げたマテリアルを火球へと変える魔術師。
 撃ち放たれた火球は鎧武者を中心に着弾し、衝撃となってはじけ飛ぶ。
 確実に捉えた――仲間の仇を取ったと涙ぐむ魔術師であったが、やがて眼前に広がった光景に、その涙も枯れ果てた。
 燃え盛るマテリアルの炎が、まるでテープを逆再生するかの如く、その中心へと集まり始めたのだ。
 否――炎が、鎧武者の持つ刀へと“吸い込まれて”ゆく。
「うそ……」
 運命を呪ったその視線の先、力を吸った打刀で、上段から振り下ろした鎧武者の一閃。
 刀から放たれた赤黒い斬撃が、魔術師と奥に構えた猟撃士の身体を腹から上下に引き裂いた。
 その一瞬の出来事に、残されたハンター達は思わず息を呑む。
 不意に、空間に響くかのような低い声が、周囲に響き渡った。

『我ガ名ハ……雅勝。一ツ橋雅勝。イザ、尋常ニ……勝負ッ』

 雅勝と名乗った歪虚は、斬撃を放った刀を正眼に構えハンター達へと向き直る。
 その手にした刀からは、禍々しい負のオーラが立ち昇っていた。

リプレイ本文

●隠ノ一ツ橋
「尋常に? 仲間をぶった斬っといて宣言が遅いんじゃねーの?」
 一触即発。
 抜身の刀を携える一ツ橋雅勝を前に、ジャック・エルギン(ka1522)は怒りを隠しきれぬ様子で食って掛かった。
 目の前で共に依頼を受けたハンター達が惨殺されたのが、ほんの数瞬前の事。
(いざとなったら、明神さんだけでも馬で逃がすよ……でござる)
(その為にも、堂からは出来るだけ離れなければのう……)
 静かに目配せで合図するミィリア(ka2689)に、紅薔薇(ka4766)は頷き、答えた。
 共に刃を抜き放つと、その切っ先を、眼前の大鎧へと指し示す。
「シルヴィアは後方へ……これ以上、私のいる場で仲間が死ぬのを見たくは無い」
 口にして、手にした日本刀で防策を張るオルドレイル(ka0621)。
 シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は、バイザーの奥から覗く瞳を哀しく曇らせると、ライフルのグリップを握る手に力を込める。
「皆様にはご迷惑をお掛け致します……出来得る限りは尽力します」
 その重厚な鎧の奥の身体がみっちり包帯巻きで、動くのもやっとの状態である事に歯がゆさを覚えつつも、彼女は自らのポジションを後方へと決め込んだ。
「一ツ橋雅勝、ここを襲ったのは九尾の命令か?」
 刃を向ける前衛から一歩下がった位置で、ザレム・アズール(ka0878)は声を張り上げ問い掛ける。
 その問いかけに、一ツ橋は口を割るでもなく、ジリリと指先からにじり寄る足運びでハンター達に間合いを詰め、返答と成す。
「聞く耳持たずか……化け物相手に言葉を交わそうと言うのが間違いなのだろうかね」
 鞘に刃を収めた東方独特の構えで、同じく間合いを測る三條 時澄(ka4759)。
 東方武芸に通ずる者が多い故か、ザワリとした緊張が周囲を包み込む。
「さっきの無双ぶり……ミキリとかいうヤツか。あの刀を抑えねーと駄目だな」
 銃弾をも叩き斬る一ツ橋の剣技に、一目見ただけでも迂闊に攻め込む事の危険度が推し量れた。
「……何とか、自由を奪ってみっか」
 そう覚悟を決め、張りつめた緊張を蹴破って、ジャックが先駆者となって大鎧の化け物へと切り込んで行くのであった。

●魂ヲ啜ル
「仲間をやられて、こちとら腸が煮えくり返ってんだ……容赦はしないぜ!」
 重厚なバスタードソードを片手で軽々と振り上げ、幅の広い兜の上から袈裟に振り下ろすジャック。
 それに対して一ツ橋は身を翻すでもなく、逆にジャックとの間に身体を入れ込むように、前へと踏み出した。
 剣閃が煌めき、迫り来る刃を撫でるように刀が翻る。
「何……!?」
 手首の返しだけで支点をずらされた刃は、そのまま粉塵を巻き上げて地面へと突き刺さった。
 翻った刃から流れる動きで頭上へと刀を掲げ上げる一ツ橋。
 照らされた刃が、ボウとくすんだ黒い輝きを放ち、同時に一ツ橋の身体からもどす黒いオーラ――否、マテリアルが放出され、刀身へと吸われてゆく。
「マテリアルを啜る妖刀――その悪食は正負問わずですか!」
 シルヴィアが覗くスコープの先に、マテリアルを吸って真っ赤に輝く刀身が映し出される。
 あれを食らってはいけない――つい先ほど目の前で繰り広げられた惨劇が、脳裏に蘇る。
「させっかよ!」
 煌々と輝く刃を前にジャックは退くでもなく、逆に自らの身体を潜り込ませる。
 ゴウと鳴り響く威圧と共に振り下ろされた刃へと、片手に携えた円盾をかち当てた。
「……ッ!」
 盾越しに伝わる衝撃に、思わずその身体を強張らせる。
 まるで斬撃だけが通り越して伝わるかのような感覚。
 いや、伝わる確かな衝撃に服が裂け、鮮血が飛び散る。
「ジャック……!」
「俺に構うな、突っ込め!」
 声を張り上げたミィリアに、ジャックは歯を食いしばり怒声を上げる。
 その言葉に鼓舞されて振り下ろしたミィリアの振動刀に、視線を合わせる一ツ橋。
 が、翻すべきその刃がガチリと音を立てて盾に阻まれる。
 狙うは刀を握るその腕……が、一ツ橋はさらに一歩踏み出してジャックの身体に肩からぶち当たった。
 目測を失った刃はそのまま強固な胴へと吸い込まれ、赤い火花を散らしながらその表面を僅かに抉る。
「か、かったぁ……!?」
 手の平に伝わる振動に、思わず顔を顰めるミィリア。
 しかし、間髪入れずに閃く紅薔薇の光斬刀が追い撃つように鎧へと迫る。
 一ツ橋も今度は自由になった妖刀の切っ先でその一閃をいなすも、その上を縫って紅薔薇の刃が逆袈裟に翻った。
「知るがよい。お主が死した後も研鑽が積まれ続けたエトファリカの刀術を……!」
 振るわれた2撃目に返す刃も間に合わず、ビーム刃を纏う刀が小手の鋼板を引き裂き腕へと食い込んだ。
 その裂かれた鋼板の先に覗く素肌は緑色の縄のようで、それがずるりと蠢いて切り込みの入った部分を覆い尽くすかのように修復する様子が見て取れる。
「いくら蔦の塊といっても修復には限度はあるだろ……無きゃそれこそ詰みだぞ」
 その様子をまざまざと目にしながら、時澄の額には嫌な汗が伝っていた。
「ここを襲ったのは九尾の命令か? 他の御庭番衆はどうした?」
 乱戦に入った陣を一度整えるべく、ザレムの魔導拳銃が唸りを上げる。
 一ツ橋はその弾丸を無言で叩き斬ると、その隙に前衛のハンター達は一度間合いを置いた。
「牽制の一手、私も手を貸そう」
「悪ぃな。悔しいが、さっきと同じ1撃なら……もってあと1発だ」
 ジャックとオルドレイルが左右に分かれ、同時に一ツ橋へと接近。
 振り下ろされた刃に、敵は妖刀の峰を左の手で支えその2撃を同時に受け止める。
「敵の刃を受けて返すのは至難……先に動くしかない!」
 鞘を走らせる時澄の刃が一ツ橋の脇から肩に掛けてを切り上げる。
 同時にミィリア、紅薔薇もまたその刃を四方八方から敵へと浴びせ掛ける。
 一ツ橋は力任せに2対の刃を押し返すと、自らのマテリアルを妖刀へ食わせ、眼前に群がるハンター達へと横一文字に振り抜く。
「……これしき!」
 返すオルドレイルの刃を、真っ向から刀でいなす一ツ橋。
「戦い大好き大いに結構だけどな、自分を収める鞘を何処に置いてきやがったッ!?」
 触れれば切れるナイフの如く、己を抑えることを忘れたモノノフへ放ったジャックの戒めの一言。
 一ツ橋は振り下ろされた刃を横薙ぎ一閃で弾き返すと、そのまま切っ先を手元へ引き寄せ、眼前のジャックへと突き立てる。
 無情に突き込まれた刃は盾をも貫通し、彼の脇腹を深く、貫いていた。
 肺からせり上がる血液が、ゴポリと音を立てて口から洩れる。
 ふらりと遠のく意識。
 しかし、妖刀が貫いた盾をその両の手でしっかりと抑え込む。
「紅薔薇……ッ!」
 叫ぶ彼の言葉に、紅薔薇は刃を大きく振りかぶり、ジャックを貫く刃に自らの刃を合わせ撃つ。
「すまんジャック……じゃがその刃、捉えたのじゃ!」
 2人に抑え込まれ身動きの取れない刀に、一ツ橋の身体が硬直。
「この一撃で……!」
 その無防備に伸びた腕に向けて、叩き込まれたミィリアの振動刀。
 勢いに乗って振るわれたその刃は、固い手甲をもぶち抜いて、両の腕のひじから先を一刀の元に叩き斬っていた。

●修羅ノ世
「へっ……どう足掻いても、俺はてめーみたいにゃならねーからな……」
 粘ついた血液と共に、自らにも言い聞かせるかのような言葉を吐き捨て地面へと崩れ落ちるジャック。
 彼の腹から抜け落ちた刀が、かしゃりと音を立てて転がった。
 それを看取るや否や、隙を突いてザレムの身体が戦場を駆ける。
 身を屈め、刀に攻めより、手にしたシールドでその刀身ごと弾き飛ばす。
「直接触れなければ……どうだ!」
 その様子を兜の奥の瞳で捕えた一ツ橋は、切断された右の腕を刀の方へと掲げ上げた。
 次の瞬間、断面から飛び出した数多の蔦が、触腕のように弾かれた刀の柄を包み込み、手元へと引き寄せる。
 一ツ橋の両の腕の切断面から伸びる緑色の蔦が、刀の柄に絡みつくように握り込んだ。
 一層化け物染みたその姿に、眼前の敵がどういう存在であったのかを改めて思い知らされる。
「……お主の事は憐れにも思うのじゃ、一ツ橋。平穏の世に生きた人斬りよ」
 ハンター達の再三の問いかけに耳を貸す様子も無く刀を振るい続けて来た武者へと、それでも語り掛けるように言葉を紡いだ紅薔薇。
「妾が産まれた時、すでに東方は滅亡の危機にあった……味方を斬らねば剣を試せん状況など考えられんかったのじゃ」
 それは生きた時代の違い。
 歪虚の勢力圏に晒されながらも、独自の繁栄を築いたかつてのエトファリカの強さの証明。
 それが眼前の一ツ橋雅勝という存在であることを、彼女は強く噛みしめる。
「……イザ尋常ニ、勝負ッ」
 触腕で刀を握りしめ、自らはまだ戦えると誇示するかのようにそう言葉を発する一ツ橋。
 自らのマテリアルを吸わせ、赤黒く輝く刀を振り上げ、足元を踏みしめる。
「皆さん気を付けてください!」
 シルヴィアが叫ぶや否や、振り下ろされた刃から発せられる負のマテリアルの波動。
 その一撃が自らの腕を切り落としたミィリアとザレムを巻き込み、枯れ木の森へと突き刺さる。
「くぅ……何て破壊力だ」
 シールドでもって全力で防ぎこんだザレムであったが、受け止めきれなかった衝撃が全身を軋ませる。
「これだけの攻撃をジャックは2回も受けたんだから……まだまだ、これくらいじゃ諦めないよ!」
 焼けつくような全身の痛みを圧して、刀を構え直すミィリア。
 倒れるわけにはいかない。あと20秒――何としても耐えきるのだ。
「ジャックの抜けた穴は皆でカバーするしかない! 攻め立てるのじゃ!」
 防御を捨てて放つ、紅薔薇大振りの2閃。
 1撃目はやはりいなされてしまうも、2撃目がその地を踏みしめる足首を切り飛ばす。
 ぐらりと、一ツ橋の重心がぶれた。
「そこだ……ッ!」
 僅かな機を見のがさず、時澄が地を駆ける。
 疾風の如き踏み込みで一ツ橋の小脇を潜り抜け、勢いのまま振り向きざまに刀が鞘を走る。
 曇りなき太刀筋が錣の隙間を縫い込むように突き込まれ、その延髄を捉える。
「人間相手ならこれで殺せる……が、相手が蔦の化け物じゃ」
 伝わる刃の感触に、時澄の表情が曇った。
 人体の急所を狙ったハズの1撃であるが、やはりこの化け物に対しては手ごたえが無かった。
 斬り飛ばされた足と共に、延髄の傷もまた、蔦によって修復される。
「そこまでして、そんな身体になってまで戦う意味って何? それが、おサムライの歩むべき道なのかな?」
 これが自分の目指す侍の姿なのかと、疑問を感じざるを得ないミィリア。
 打ち合い、つばぜり合いに持ち込んだ際に覗き込む一ツ橋の瞳の奥。
 血走った眼の先に映るのは、ただただ勝利への執念のみ。
「それは違う、ミィリア。こいつはただの、殺人鬼……我々の敵だ」
 力の差で押し込まれつつあったミィリアに、オルドレイルが刃を交えて加戦する。
 2人の力で撃ちとめた刃に、その身が再びがら空きとなる。
「捉えた……今度こそ!」
 狙いを絞り込んだザレムの魔導拳銃。
 その弾丸が、風を切って一ツ橋の瞳へと打ち込まれた。
 反動で、流石に仰け反るその身体。
 目元を抑え、ゆらりと後方へと引き下がる。
「我ハ……負ケヌ」
 初めてまともな言葉を口にして、妖刀に吸わせる己が魂。
 溜め込んだマテリアルを、波動として解き放った。
「ミィリア……!」
 波動の先で身を翻しきれないミィリアの身体をオルドレイルが突き飛ばす。
「……そんな!?」
「防御壁、間に合え……!」
  展開したザレムの防御壁も易々と砕け散り、見開いたミィリアの視線の先で波動に呑み込まれるオルドレイル。
「今、奴に対抗する要を落とすわけにはいかない……後は頼んだ――」
 この戦いの未来を信じたオルドレイルの意識は、そこで途絶えた。
「仲間を2人もやられて黙っていられるほど、妾も温厚では無い……修羅の世に生まれたその生き様を知るのじゃ!」
 紅薔薇の2筋の剣閃に、むき出しの触腕を再び切り裂かれる一ツ橋。
 その切り口へと、詰め寄った時澄の刃が突き立てられる。
「グゥゥゥ……ッ!」
 その一撃に、一ツ橋は見るからに苦悶の表情を浮かべ、触腕を激しくしならせる。
 ぼとりと、修復した腕の切り口から真っ赤に燃え盛る炭が零れ落ちた。
「ちょうど良いものがあったのでね……流石に、熱は身に染みるだろう?」
 流石に燃えまではしなかったが、それでも確かな効果を目にして、不敵に落ち着いた笑みを浮かべ切っ先に焼け付いた炭を振り払う時澄。
 が、同時に、瞳の輝きを取り戻して刀を諸手で握りしめた一ツ橋の姿に目を見張った。
「我ハ……負ケヌ……ッ!」
 妖刀へとマテリアルを吸わせた一ツ橋が、大きく振りかぶった刀を横薙ぎに振り抜いた。
 既に防御を捨てた紅薔薇は元より、咄嗟に刀で応じた時澄も巻き込み、その胸部を力任せに切り裂く。
「……やはり化け物、か」
「そこまで力に固執し……何故、歪虚を討ち果たす道を歩まなかったのじゃ」
 一歩及ばず、崩れ落ちる2人。
 が、その時すでに、ミィリアの身体がその頭上から一ツ橋へと迫っていた。
「託された命……いざ参る、でござる!」
 振り下ろされたひと太刀が、重厚な兜を切り裂き、顔を覆ったマスクまでもをかち割る。
 これ以上戦う手段は残されていない、正真正銘の最後の一撃。
 それをもろに受け、一ツ橋は――なおも、刀をミィリアの頭上目がけて振り上げていた。

●未来ヘノ撤退
 もう終わり――そう思った瞬間であった。
 お堂を中心に立ち昇る、巨大なマテリアルの柱。
 同時に、戦場に聞き慣れない声が響き渡った。
「――皆の衆、待たせた!」
 一斉に、一ツ橋さえも向けた視線の先、お堂の扉を開け放った明壬が、息を切らせながら要石設置の報を飛ばす。
「撤収だ! 儀式は終わった!」
 叫ぶザレムの言葉に、弾かれたように地面を転がり、一ツ橋の下から離れるミィリア。
「明壬さん、ジャックを連れて森に繋いだミィリアの馬で逃げてッ!」
 ミィリアの言葉に頷いた明壬は、戦場の真ん中に倒れるジャックを担ぎ、森へと消えて行く。
「待テ……!」
 それを追おうとした一ツ橋の鼻っ先を1発の銃声が霞める。
 オルドレイルの回収に走ったシルヴィアの、牽制の銃声であった。
「皆さん、今のうちに負傷者を!」
 彼女の掛け声に、ミィリアとザレムで紅薔薇と時澄もそれぞれ回収し、足早に堂を立ち去るハンター達。
 その背中に尚も追い縋ろうとする一ツ橋であったが、不意にその膝がガクリと折れ、妖刀を地面に突き立て身体を支える。
「修復ガ追イ付カヌカ……無念」
 口惜しそうに奥歯を噛みしめ、視線だけハンター達の背中を追う。

 後日、遺体回収に駆り出された兵の話によると、一ツ橋はお堂には目もくれず、その痕跡も残さずどこかへと消え去ってしまっていたと言う。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 8
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522
  • 春霞桜花
    ミィリアka2689
  • 不破の剣聖
    紅薔薇ka4766

重体一覧


  • オルドレイルka0621
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522
  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄ka4759
  • 不破の剣聖
    紅薔薇ka4766

参加者一覧

  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士

  • オルドレイル(ka0621
    人間(紅)|23才|女性|闘狩人
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄(ka4759
    人間(紅)|28才|男性|舞刀士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
オルドレイル(ka0621
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/07/16 10:50:56
アイコン 相談卓
オルドレイル(ka0621
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/07/19 00:07:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/16 16:40:59