• 東征

【東征】隠の寺沢/邪蛇轟雷

マスター:とりる

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/07/20 19:00
完成日
2015/08/03 20:43

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 山本五郎左衛門を討ち果たし、歓喜に湧いた東方が、再び絶望で塗りつぶされようとしていた。
 突如その姿を表した九つの蛇をその尾に宿した大狐。妖怪の首魁にして、憤怒の歪虚の至高存在。比喩抜きに山の如き巨体を誇る妖狐は既に展開されていた結界を抜け、東方の地を蹂躙しながら天の都へと至ろうとしていた。
 ――数多もの東方兵士たちの生命を貪りながら。
 同時に、妖狐は東方の守護結界に大穴を作っていた。今もその穴を通じ妖怪たちが雪崩れ込んでおり、百鬼夜行が成らんとしている。

 かつて無いほどの窮地に立たされながら、東方はそれでも、諦めなかった。
 最後の策は指向性を持った結界を作り九尾を止め、結界に開いた穴を新たなる龍脈の力を持って塞ぐこと。それをもって初めて、最終決戦の為の舞台を作る。

 そのために今必要とされるのは人類たちは九尾達の後方――かつて妖怪たちに奪われし『恵土城』の奪還と、可及的速やかな結界の展開。
 東方の民と東方の兵の亡骸を――僅かでも減らすその為に。


 暴れ回る大妖狐を大きく迂回し、漸く辿り着いた恵土城を遠方に見やったハンターと東方武士達は、言葉を無くしていた。美しき東方の城。その天守閣を覆うほどに黒々と広がった、『泥』。
 同道していた術士が呆然と呟いた。
「……龍脈が」
 喰われている、と。
 地下から吸い上げられた龍脈が天守閣の泥へと吸い上げられている。しかし、果たして、この戦場における狙いは定まった。

 地下と天守閣。その二つを、落とさなくてはならない。
 この局面での失敗は、即ち東方の終わりを意味する。だが、恐れずにハンター達は歩を進めた。
 ――運命に、抗う。
 ハンター達は、その言葉の意義を自ら証するためにこの場にいた。


 恵土城・城内――。
 城の内部構造は不透明。故に斥候やハンター達は複数経路から天守閣へ続く道を探索中。

 斥候である忍の女性二名とハンター達は城内の通路を直走る。
 暫く進むと一行は、とある部屋に突き当たる。そこは水が張られた庭園らしき場所。
 かつてそれは見事な庭園であった筈であるが現在ではその面影はなく半ば朽ちた足場と濁った水場が残るのみ。
 一行が部屋に入ると突然、入口の扉がひとりでに閉じた。直後に悲鳴。
 見れば忍二名の姿が無い。扉に注意が行っていた隙の出来事。ハンター達は忍の姿を探すが見当たらない。
「上だ!」
 猟撃士の女性が声を上げた。
 高い天井に視線を向ければ、漆黒のぼろマントを纏った男が片腕から伸びる蠢く縄の様な物で忍二名を拘束している。
 もう片方の手は天井を掴んでいた。猟撃士は即座に銃撃。男は天井から手を離し落下、着地。
 忍二名は尚も拘束されている。口も塞がれ声を出せない模様。蠢く縄――否、よく見れば、それは男の腕から伸びる『無数の蛇』だった。
 まさしく歪虚。
「……動くなよ? 動けばこやつらの命は無い」
 もう片方の手には短刀が握られ、男は切っ先を忍の女性の喉元にあてがう。
 男の蛇の様な目、鋭い眼光がハンター達を睨み付ける。長く垂らした黒髪、青白い肌、異様な不気味さ以外は、男の容姿は眉目秀麗であった。
 忍二名は苦悶と恐怖の表情。その時。
 男は短刀を向けたまま、拘束している物とは別に忍の女性二人の身体へと多数の蛇を伸ばした。
「……中々の上玉ではないか。少し、楽しむとするか」
「お前……!」猟撃士の女性が声を上げるが蛇目の男は「……動くなと言った筈だ」と再び睨みを利かせ、女性二人を弄ぶ。
「ぐ……っ!」
 猟撃士の女性は構えた銃を下ろす。他のハンター達も得物を下ろした。

 しばしの間。

 只管に蛇に弄ばれた女性二名はくたりと力が抜けたように動かなくなる。
「……物足りんな」
 蛇目の男は拘束を解いた。忍二人は床に倒れ息を荒げている……。
「……どうした、掛かって来ないのか?」
「くっ……不意打ちとは言え実力差は思い知った……」
「この様な歪虚に辱めを受けた汚らわしい身……これ以上はやらせぬ……ハンターの皆様……後は……どうか――」
 忍二名は背中の刀を抜き、自らの首筋へ押し付ける。
「……っ! 見るな!!」
 ハンターの一人が叫んだ。――忍二名は同時にばたりと床に倒れる。自刃。
「……何という事……」
 聖導士の女性は目を伏せた。
「……つまらぬ女共に相応しいつまらぬ最期だな」
「お前ぇーー! お前がぁ!!」
「許せません……!」
 気の強そうな猟撃士の女性は蛇目の男の言葉に激昂し、突撃銃を乱射。隣に居た大人しそうな聖導士の少女も魔法を詠唱。
「……俺は餌場に飛び込んできた獲物を味わった後に捨てた。それに何を怒り狂う?」
 蛇目の男は鋭い視線を猟撃士へ向ける。彼女の放った銃弾はほぼ空を切り、一発だけ蛇目の男の頬を掠めたが――そこは蛇の鱗に覆われており、銃弾は弾かれた。
 その後に蛇目の男は蛇を伸ばし、その頭が猟撃士の腕に喰らい付く。
「……ッ!」
「――鈍いな」
 猟撃士が気付いた時には、眼前に蛇目の男が迫っていた。――刺突。
「かはぁっ!?」
 猟撃士は心臓を正確に貫かれた様で一撃の元に倒れた。
「……粗暴な女子は好みでは無い」
 他のハンター達が応戦を開始する中、
「あぁ……ぁぁ……」
 先ほどまで魔法を詠唱していた大人しそうな聖導士の少女は膝を折り、泣き崩れていた。恐らくは猟撃士の女性の友人だったのだろう。
 片手の短刀でハンター達の攻撃を軽くいなしていた蛇目の男はその少女に目を付け、もう片方の腕から蛇を伸ばし捕縛して後方へと下がった。
「きゃあああああ!?」
 少女は悲鳴を上げる。
「……愛い奴よ。そう怖がるでない」
 多数の蛇が少女へと伸び、先程の忍二名と同様の行為を行った。……悲痛な声が上がる。
 だがしかし他のハンター達が黙っている筈も無く、今度は少女を救出するべく接近。
「……俺の楽しみを邪魔するとは無粋な。勿体無いが、仕方あるまい……【天雷轟鳴】」
 蛇目の男がぽつりと言うと、その身体から凄まじい雷撃が放たれた。
「アアアアアアァァァァアアアアアアアッ!!!!」
 迸る雷光。絶叫は少女のもの。接近するハンター達は足を止めて難を逃れた。この攻撃は一定距離までしか届かないらしい。
「……ぁ……ぁぁ……」
「……ふん、本当に勿体の無い。邪魔さえ入らなければもう少し悦ばせてやった物を」
 虫の息の少女に対し、蛇目の男は――
「……苦しかろう。すぐに昇天させてやる」
 ぼろマントの中から短刀を取り出し、切っ先を少女の胸に突き立てた。
「……ぁ」
 少女はびくびくと痙攣した後に絶命。
 
 蛇目の男は目を見開いたままの少女の瞼をそっと閉じさせ、漆黒のぼろマントをはためかせて立ち上がる。
「……俺は生憎と男色の気は無くてな。野郎相手ならば躊躇いなく殺す」
 鋭い眼光がハンター達を射抜いた――。

リプレイ本文

●邪蛇轟雷

 目の前の惨劇に、残った六名のハンターは一時言葉を失った。
 ……その後に激怒。

 米本 剛(ka0320)――。
「其処へなおれ……外道、即刻引導を渡して差し上げます……!」

 ボルディア・コンフラムス(ka0796)――。
「クソ野郎が! テメェは、ゼッテェに、生まれてきた事を後悔させてやる!」

 ルーエル・ゼクシディア(ka2473)――。
「……お前の様な歪みを打ち貫く事が、僕の使命だ」

 サクラ・エルフリード(ka2598)――。
「酷い事を……。あなたの様な外道には遠慮はしません……。全力で叩き潰させて貰います……」

 八代 遥(ka4481)――。
「…………あぁ、なんという事を」
 彼女はどこか怯えた様子。

 神谷 春樹(ka4560)――。
「……お前は、ここで、必ず倒す」

 それに対し蛇目の男は。
「実に惜しい事をした。手前らが邪魔をしなければもっと悦ばせてから殺した物を」
 発せられたその言葉と同時に、ハンター達は全員獲物を構える。
 それを見て蛇目の男は口元に邪なる笑みを浮かべた。
「先程のつまらぬ女共よりは気骨がありそうだ。こういう時には……ああ、名乗るのだったな。俺は九尾御庭番衆が一人、寺沢慶典。――参る」
 寺沢と名乗った男は腕の蛇を天井に伸ばし、勢いを付け、振り子の様にハンター達の直上へ移動したのち瞬時に着地。
「【天雷轟鳴】」
 迸る雷光。
「――っ!?」
 予想外の先制攻撃にハンター達は全員が焼かれた。
 まさか、初手でこちらへ飛び込んで来るとは。
「ほう、抵抗して見せたか。対応が早い」
 敵中だというのに寺沢は余裕。

 身体に痺れを残しつつもハンター達は反撃を開始。

 ボルディアの【クラッシュブロウ】を使用した戦斧とルーエルの鋭い杭が寺沢を狙うが躱される。
 間髪置かずに米本。
「今この時は……悪鬼羅刹と成りましょう」
 怒り心頭により鬼と化した彼の刀が寺沢を捉えた。しかし、まだ浅い。
 サクラも続くがそれは避けられた。
「逃がさない」
 春樹の鞭が寺沢の脚に巻き付く。【エンタングル】。

 遥は敵を重石にするべく【ストーンアーマー】を詠唱。
「その動き、奪ってあげましょう」
 だが――
「ふっ、相手を間違えているのではないか?」
 寺沢は嘲笑。それと共に彼へ集おうとしていた土砂は崩れ、消滅。
 この魔法は本来敵性対象へ用いる物ではなく、それを無視する程の強制力は持たない。故に、無効。
 消滅する土砂を目にし、遥は焦りを覚える。
「ふふ、この状況でドジを踏むとは愛い奴め。上玉……しかも俺の好みと来た。邪魔者を片付けた後に、たっぷりと悦ばせてやろう」
「何を……!」
 本能的に身の危険を感じた遥は拳銃を抜いて発砲するが寺沢は身を反らして軽々と避けた。
「ふざけた事言ってんじゃねぇ!」
 ボルディアが割って入り斧を振るうが寺沢には当たらない。
「八代は下がれ! 奴はお前に目を付けた!」

 寺沢は目標を米本へ変更。短刀を突き出すが間一髪で回避。
「こっちだ外道……言っただろ、貫くって」
 続いてルーエルが前に出る。
「その胸を、撃ち抜けぇえええ!!」
 渾身の一撃は確かに寺沢の急所へ突き刺さる。
「……ぐっ」
 流石に効いた模様。更に米本の追撃が寺沢へ入った。
「これ以上仲間に手出しはさせません」
 漆黒の鎧を纏ったその身体からは憤怒の歪虚にも劣らぬ様な怒りのオーラが噴出。
 サクラと春樹も攻撃を仕掛けるが何度も攻撃を受け続ける程甘くは無く、寺沢は躱す。

 遥は閉じられた入口側へ下がりつつ【ファイアアロー】を放ち、寺沢の身体を焼いた。
「私だってそう簡単には……!」

●VS 寺沢慶典

「中々に熱かったぞ。益々楽しみだ」
「ぐっ!」
 寺沢の目標は尚も米本。短刀が鎧の隙間に刺さった。

「さっさと尻尾を巻いて逃げ帰ってもいいんだぜ、蛇野郎! 九尾様、負けちゃったんです~ってなぁ?」
 ボルディアが大声で煽りつつ斧を振り上げる。寺沢へ重い一撃。ルーエルも続くが避けられた。
 米本も斬撃を繰り出し敵の生命力を削る。サクラも槍を突き出すが躱されてしまう。春樹の鞭も同様。
 また後方から遥の炎の矢が飛び、寺沢を焼く。
「これはしっかりと効くみたいですね……」

 寺沢と、ボルディア・ルーエル・米本・サクラの短刀、斧、杭、刀、槍の応酬。
 米本の斬撃が寺沢の脚を切り裂いた。そこを覆っていた蛇の鱗が砕けた。
 その隙に春樹の鞭が寺沢を絡め取る。
「蛇面の不細工が、助平で性格まで腐ってんだからモテねぇよな。そりゃ、無理やりやるしかないわ」

 遥の炎の矢が飛び、また寺沢を焼いた。

「やってくれるな」
 春樹の鞭に続いた遥の炎の矢で少なくないダメージを受けた寺沢は目標を変更。鋭い突きが来る。
「当たらないっての!」
 春樹は後退して避けてみせる。
 それと同時にボルディアとルーエルが攻撃を仕掛けるが躱された。
 だが米本の斬撃が寺沢を捉える。
「余所見をする暇があるのですか、外道」
 サクラの槍も寺沢に命中するが掠ったのみ。
「硬い……!」
 春樹は鞭を振るうも避けられた。が、遥が放つ炎の矢は確実に寺沢を焼く。

「熱い……熱いな。余計に燃え上がるという物だ」
 そう言って繰り出した寺沢の短刀が春樹の足を深々と貫く。
「ぎゃあああ!!」
 鮮血。春樹は致命的な傷を負う。

「野郎!!」
 ボルディア、ルーエル、米本が攻撃を仕掛け、ルーエルの杭だけが寺沢の生命力を削る。

「流石に口だけでは無い様です……。被害が増えていく前に回復もしていかないといけないですね……」
 ここでサクラは【ヒーリングスフィア】を詠唱。全員が回復。
 ともあれ春樹は非常に不味い状態。足を引きずり全力で後退。
 遥の炎を矢が飛び、それを援護。

 寺沢は【多蛇操生】によって瞬時に移動、春樹へ追撃を駆けるが何とか避けた。
「だから、当たらないっての……」

 ボルディア、米本、サクラは全力で駆け、春樹の救援へ。
 ルーエルは【ホーリーライト】を放つも寺沢には当たらなかった。

「ま、だ……」
 春樹は寺沢から距離を取るべく必死に移動。
 遥が再度炎の矢で退避を援護するも――

 やはり寺沢は【多蛇操生】により瞬時に追いつき、春樹へ止めを刺した。
「ここまで、かよ……」
 春樹は床に伏し動かなくなる。春樹、戦闘不能。

「神谷!? くそぉ!!」
「くっ……」
「……また、仲間を……」
「もう少し早く回復していれば……!」
「神谷さん……くぅ」
 皆が一様に悔しそうな声を漏らしつつ、寺沢を追う。

●蛇突震電

 寺沢は【多蛇操生】により瞬時に移動し、米本の目の前に降り立ち、素早く短刀を突き出した。
 が、米本は的確に受け止め、ダメージを最小限に抑える。
「これ以上は……やらせませんよ、外道!」

「待ってろ! 今行く!」
 ボルディアは全力移動。
「聖なる光よ! 邪を滅せよ!」
 ルーエルはまた【ホーリーライト】を放つが当たらない。
 続き遥は炎を矢を放つ。
「お願い……当たって……!」
 それは確かに寺沢を焼いた。

 米本は――
「神谷さんの分です。やあああっ!!」
 鋭く重い斬撃。それはぼろマントごと寺沢を切り裂いた。
「――っ!?」
 一瞬、寺沢は驚愕の表情を浮かべる。
「…………」
 その後に、これまでは表情が一変。寺沢から慢心が消えた――様に米本は見えた。

 サクラは槍を投擲するも躱される。
 そして……。
「俺にこれを使わせるとはな。――【蛇突震電】」
 寺沢は腕から凄まじい速度で蛇を伸ばした。それは【多蛇操生】の比では無い。
 蛇の頭は米本の鎧を貫通し、直に腹へと突き刺さる。
「ぐぁっ!?」
「死ね」
【天雷轟鳴】を凝縮した様な雷光が迸る。
「があああああああああああっ!!!!」
 これには流石の米本も声を上げた。身体の内部から雷撃を喰らっているのだ。
 ……程無く、焼け焦げた臭いと共に米本は力無く崩れ落ちた。
 米本、戦闘不能。

「米本!? また仲間を……クソォ!!」
 ボルディアは悔しそうに叫び、駆けた勢いのまま斧を振り被るが寺沢には当たらない。

 ルーエルは、魔法攻撃では命中させるのが難しいと判断し、全力で寺沢の方へ向かう。
 サクラは槍の突きを繰り出すも……これもまた寺沢には届かなかった。

「…………」
 遥はしばし思案した後、【ファイアアロー】の詠唱を開始。
 本当は切り札として温存するつもりだったがこれだけの仲間が倒されたのだ。
 温存などとぬるい事を言っている場合では無い。――そして炎の矢が放たれる。が、無慈悲にも寺沢には命中せず。
 最後の炎の矢は射程外まで飛んだ後に消滅した。
「どうして……こんな時に限って……!」
 悔しそうな遥の声。これで彼女は主力と言える魔法攻撃の術を失った。
 後はあまり威力が期待出来ない近接攻撃と射撃攻撃のみ……。

 ***

「【蛇突震電】」
 寺沢は、あのタフな米本を倒した攻撃を、次はボルディアへ向けた。最早一切手加減するつもりは無いらしい。
 彼女は寸での所で避ける。
「くっ、危ねぇ……」
 ボルディアは冷や汗をかきつつ、【クラッシュブロウ】を使用した斧による一撃を繰り出すが寺沢は躱した。
 続いてルーエル。彼の杭は――寺沢の顔面に打ち当たった。
「やったか!?」と思う一同だったが……寺沢の顔面は一部が蛇の鱗に覆われ、最も硬い部分であり、大したダメージにはならず。

 サクラは槍の突きを繰り出し、遥は拳銃で射撃するがどちらも寺沢は避けて見せた。
「速い……!」
「もっと魔法が使えれば……!」

「…………」
 ギロリと、寺沢の蛇目がルーエルを睨む。先ほど顔面へ攻撃を当てた為だろうか。
 その後に。
「【蛇突震電】」
 蛇が神速でルーエルへ伸び、服を貫いて直に拘束する。
「……僕だって男だよ。それとも見抜いてた?」
 額から汗を垂らし、苦しそうにしながらもルーエルは強がって見せる。
「女子かどうかなど、一目見れば判る。――死ね」
「アアアアアァァァアアアアアァァァアアアアアッ!!!!」
 迸る雷光と共にルーエルは絶叫。だが……彼は……まだ倒れていなかった。満身創痍ながらも、踏み留まっている。
「はぁ……はぁ……ぐっ……この程度……なの?」
「まだ虚勢を張るか、小僧」

「テメェ! 離れろォ!!」
【クラッシュブロウ】を使用したボルディアの一撃が入り、寺沢から瀕死のルーエルを引き離した。
「大丈夫か!? ゼクシディア!?」
「はは……なんとか……ごほっ、ごほっ!」
 ルーエルは咳き込みながら尻餅をつくが、再び立ち上がる。
「僕だって、男の子、なんだよね……」
「馬鹿、下がれ!」
 ボルディアが制止するが、
「だからさ……もう一撃くらい……入れてみせる……!!」
 渾身のパイルバンカーによる打突。それはしっかりと寺沢を捉え、確実に生命力を削った。
「馬鹿な。【蛇突震電】受けた身で、どこにそんな力が残っているというのだ」
「それってさ、必殺技みたいな物だよね。という事は、そっちも相当追い詰められているって事……!」
 血反吐をはきながらルーエルは寺沢を指差す。
「――っ!?」
 寺沢は虚を突かれた様な表情を浮かべる。

「今の内に少しでも回復を……!!」
 サクラは寺沢を範囲内に入れない様に注意して【ヒーリングスフィア】を詠唱。
 遥はそれを守る様に拳銃で牽制射撃。
(こんな事くらいしか出来ない自分が憎い!)

 そして……寺沢は再度ルーエルを睨む。
 ルーエルは悟った。ここで逃がしてくれるほど敵は甘くないと。
「【蛇突震電】」
 神速の蛇がルーエルの腹へ突き刺さる。
「がはっ!!」
「今度こそ死ね」
 凄まじい雷撃。
「ぐぅ……アアアアアァァァァァッ!!!!」
 声を堪えられるほど生温い攻撃では無かった。
 絶叫の後に、焼け焦げたルーエルは床にばたりと倒れる。
「……サクラさん……ボルディアさん……遥さん……、倒れた仲間を……犠牲者の、お姉さん達の遺体を……お願い……します……」
 最後の力を振り絞ってそう口にした後に、力尽きた。
 ルーエル、戦闘不能。

●死闘

「ゼクシディア……お前の想い、確かに受け取ったぜ」
 床に倒れた少年に目をやり、ボルディアは最早スキルの残数が尽きた斧を構え直す。
「このクソ野郎は……俺が、俺達が、必ずぶち殺す。――はあああああ!!」
 上段からの一撃は確実に寺沢を捉え、肩口に食い込んだ。
「ルーエルさんの……いえ、仲間皆の想いは無駄にはしません! やあああああっ!!」
 渾身の突きを繰り出すサクラ。それもまた寺沢の生命力を削る。
「援護程度しか出来ないとしても……!」
 魔法攻撃を撃ち尽くした遥は拳銃の射撃で牽制。

「【蛇突震電】」
 寺沢の反撃が来る。狙いはボルディア。――今度は回避が間に合わない。
 凄まじい速度の蛇がボルディアの脇腹を貫いた。
「いい加減に死ね」
 迸る雷光。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
 流石のボルディアも激痛と衝撃に絶叫。
 攻撃が収まるとボルディアは床に膝をつく。焦げ臭いにおいが自分でも感じ取れた。あと一撃喰らえば死ぬ。
「すぐに回復を……!」
 サクラが回復魔法を詠唱しようとするが、ボルディアは止める。
「アイツもあと一撃ぐらいな筈だ。回復する暇があったら攻撃の手数に回してくれ……ぐっ」
 そう言ってボルディアは立ち上がる。

 ***

 それから先は、はっきり言って泥仕合だった。
 寺沢の攻撃は満身創痍のボルディアが全て引き受け、紙一重で躱し続ける。
 そしてボルディア、サクラ、遥は只管に攻撃を続ける。
 寺沢も粘った物で、双方中々攻撃が当たらない。

 ***

 肩で息をするボルディア――
「はぁ……、はぁ……。死んでなお女漁りか。テメェ、余程生前女に相手されなかったんだな?」
「何とでも言え。手前を殺してから後ろの女子二人は俺が貰い受ける」
「まだそんな事を言う余裕があったのか……。とんだクソッタレな助平野郎だな…………お前が死ねェェェェェッ!!」
 ボルディアが大声で叫びながら飛び掛かる。それに呼応して寺沢は【蛇突震電】を繰り出すが――ボルディアは空中で身をひねって避ける。
「――っ!?」
「女を舐めるなあああああっ!!!!」
 ボルディアの、全ての力を注ぎこんだ斧による攻撃は寺沢の身体を袈裟斬りにする。
 そうして……ついに討ち取った。
「馬鹿な」
 寺沢の肉体は黒い霧となって消えゆく。
「女はお前の玩具じゃねぇんだよ、クソ野郎」
 寺沢の身体が完全に消滅した事を確認すると、ボルディアもその場にぶっ倒れた。

 ***

 それからはボルディアや戦闘不能の仲間をサクラが介抱し、開かれた出入口から遥が外へ応援を呼びに行き、寺沢の犠牲者となった遺体も全て運び出した。
 こうして九尾御庭番衆が一人、寺沢慶典はハンター達の活躍によって見事討ち取られたのだった。

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  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリードka2598

重体一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛ka0320
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディアka2473
  • 月下紫想
    神谷 春樹ka4560

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 猛炎の奏者
    八代 遥(ka4481
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 月下紫想
    神谷 春樹(ka4560
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/16 02:07:33
アイコン 相談卓
米本 剛(ka0320
人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/07/20 13:26:17