• 東征

【東征】隠の中雀/幻燈童歌

マスター:稲田和夫

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/07/20 19:00
完成日
2015/08/03 16:02

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 山本五郎左衛門を討ち果たし、歓喜に湧いた東方が、再び絶望で塗りつぶされようとしていた。
 突如その姿を表した九つの蛇をその尾に宿した大狐。妖怪の首魁にして、憤怒の歪虚の至高存在。比喩抜きに山の如き巨体を誇る妖狐は既に展開されていた結界を抜け、東方の地を蹂躙しながら天の都へと至ろうとしていた。
 ――数多もの東方兵士たちの生命を貪りながら。
 同時に、妖狐は東方の守護結界に大穴を作っていた。今もその穴を通じ妖怪たちが雪崩れ込んでおり、百鬼夜行が成らんとしている。

 かつて無いほどの窮地に立たされながら、東方はそれでも、諦めなかった。
 最後の策は指向性を持った結界を作り九尾を止め、結界に開いた穴を新たなる龍脈の力を持って塞ぐこと。それをもって初めて、最終決戦の為の舞台を作る。

 そのために今必要とされるのは人類たちは九尾達の後方――かつて妖怪たちに奪われし『恵土城』の奪還と、可及的速やかな結界の展開。
 東方の民と東方の兵の亡骸を――僅かでも減らすその為に。


 暴れ回る大妖狐を大きく迂回し、漸く辿り着いた恵土城を遠方に見やったハンターと東方武士達は、言葉を無くしていた。美しき東方の城。その天守閣を覆うほどに黒々と広がった、『泥』。
 同道していた術士が呆然と呟いた。
「……龍脈が」
 喰われている、と。
 地下から吸い上げられた龍脈が天守閣の泥へと吸い上げられている。しかし、果たして、この戦場における狙いは定まった。

 地下と天守閣。その二つを、落とさなくてはならない。
 この局面での失敗は、即ち東方の終わりを意味する。だが、恐れずにハンター達は歩を進めた。
 ――運命に、抗う。
 ハンター達は、その言葉の意義を自ら証するためにこの場にいた。


「駄目じゃ。開かぬのう……」
 まだ少年と言って良い年頃の舞刀士が溜息をつく。
 恵土城の中層部まで辿り着いたハンターの一隊と、彼らに随行して来た武家四十八門の一人である少年は、巨大で分厚い金属の扉に行く手を阻まれていた。
 繊細な作りで、何やら華麗な翼を備えた鳥――鳳凰、あるいは不死鳥の類を描き出したその扉は城の内装にはどこか不釣り合いな作りにも見え、あるいは今回のハンターたちの侵攻に備えて急遽設えられた障害物かもしれず、だとすれば扉というより壁であり、そもそも開く手段があるのかさえ怪しいだろう。
「若。ならば外は如何でしょう?」
 付き人が提案する。
 確かに、ここに来る前下から見上げた限りだとこの階には大きな屋根が張り出しておりハンターたちの身体能力なら外壁を伝って昇る道を探すことでは不可能ではないかもしれなかった。


「どうかお放し下さい! 中にまだ子供たちが……!」
 必死に暴れる私を男たちが数人で押さえつける。
「諦めなさい! この炎では……」
 呆然とする私の前で、やがて屋敷が焼け崩れる。
 どうして、こんな事になってしまったのか。
 何故、私の子供たちがこの様な目に会わねばならないのか。
 何故、四十八門とは名ばかりの末席に近い家門の家督如きのために、ここまで酷いことが出来るのか。
 私はそれらを言葉にする事すら出来ず、只、叫び続ける。
 やがて、周囲が時間が、全てが炎の中に消え世界には私と炎のみが残った。
 その炎がやがて、ゆっくりと形を成す。
 燃え上がる翼を私の周囲に広げたそれは、私の身体を憐れむようにそっとその翼で包み込んだ。
 その中で、私は一時の安らぎを覚える。
 しかし――何の罪もないのに無残に業火で焼かれた我が子らの事を思うと、胸の中に宿った憎しみは消えることは無かった。
 あのお方によって人間では無い者となった私は、隠棲しているあのお方では無く、獄炎様にお仕えすることを選んだ。
 御庭番衆として取りたててくださり、人間共に復讐する機会を与えて下さった獄炎様にも私は感謝している。
 だからこそ、主のために戦うことに迷いなどない。
 嗚呼――なのに、何故私の矛先はこうも鈍るのか。
 目の前に、奪われた私の子を思い出させる齢の人間がいるというだけで。


「なんじゃ、こやつ! さっきから当てる気の無い技ばかり繰り出しおって、我らを嬲る気か!?」
 それは、罠だった。
 屋根の上に進みだしたハンターたちを待ち受けていたのは、先日龍脈のある島で現れた姑獲鳥とよばれる鳥型の歪虚であった。
「若。ご用心を。ここに我らを誘い出したのと同様、何かを企んでおるのやもしれませぬ故!」
 ハンターたちも気付いていた。
 島での戦闘の際とは違い、本気をだしたかのように姑獲鳥は強力な炎の技を繰り出してくる。
 にもかかわらず、その攻撃のほとんどが精彩を欠いておりまともに当たる様な攻撃でないことに。
 時間稼ぎ、ということも考えられるがそれにしても倒せるならここで倒して損はない筈であり、やはり不自然さは拭えない。
 そんな時、姑獲鳥が甲高い耳障りな声で鳴き、新たな歪虚が城の中から飛来した。


 打開の糸口を与えくれたのは、あの島で出会った同じ年頃の少女だった。
 無論、向こうがそう認識したかどうかは解らない。
 私の姿は人間だったころとは大きくかけ離れてしまっているから。
 それでも、あの時私たちはお互いの目の中に同じものを見たのかもしれなかった。
「戦場における現実とは何か」
 あの島からの撤退の後、彼女は私にそう語った。
「要は敵部隊に被害を与えし。味方部隊の損害を抑える。突き詰めればこれだけだ。それ以外の事など不要。だが、長く戦ってきた兵士には心に歪みを抱える者もいる」
 そして、彼女はその少し無理をしているようにも見える堅苦しい口調で続けた。
「――ならば、『戦場の現実』以外見るな。戦場における最大の敵が兵士一人一人の心の歪み――恐怖であるなら、それを麻痺させる事で精強な兵士へと近付くというのも考え方の一つだ。古今東西の軍隊が兵士から恐怖を取り除くあらゆる方法を模索したように」


「皆様! ご用心を! あの術は恐らく幻術の類です!」
 新たに出現したコウノトリのような頭部を持った歪虚が何かの術式を発動した際、十社が叫んだ。
 咄嗟に身構えるハンターたち。しかし、戦場にも敵にも特に変わった様子はない。
「くぅ! ……やっと本気になったか、望むところじゃ!」
 しかし、姑獲鳥の攻撃に明らかな殺意が宿り始めていた。

リプレイ本文

 悠司の視線の先では捨て鉢とも取れる荒々しさで姑獲鳥が空を乱舞していた。
「多分、貴女はずっと探しているんだね。貴女の、子供を……」
 照準を定めた時、鈴木悠司(ka0176)はふとそんな呟きを漏らしていた。
「でも、此処には居ないよ……!」
 だが、次の瞬間悠司は我が目を疑った。突然、視界の中の姑獲鳥が増えたのだ。
「……! これは、幻術!?」
 咄嗟に発砲する悠司だったが、弾丸は完全に別の方向に逸らされてしまう。
 そして、この攻撃で悠司に気付いた姑獲鳥は、一声泣くとその翼を悠司に向けて大きく打ち振るった。
 直後、翼から放たれた赤く燃える羽毛が悠司に向かって降り注ぐ。
 しかし、一発の銃弾が羽毛に命中。その羽毛を爆発させた。
「当てることは出来ましたが……」
 だが、この狙撃をやってのけたカグラ・シュヴァルツ(ka0105)の表情は険しかった。
「数が、多過ぎますね……」
 一つの羽毛が空中で爆発してもまだ無数の羽毛が地上に放たれていた。精密に狙いをつけるため、どうしても一発に時間がかかるシャープシューティングでは全ての羽毛を撃ち落とすことは不可能だったのだ。
「いかん! このままでは……皆、散れ!」
 ロニ・カルディス(ka0551)が大声で警告を飛ばし、ハンターたちは咄嗟にその場を飛び退いて散開する。
「そこから離れてください!」
 カグラも最初に目視した羽毛の弾速や、風向きからより安全な方向を測定し、更に飛来する羽毛らの、密集している部分を狙って狙撃。
「これなら……!」
 カグラの狙い通り、射抜かれた羽毛が爆発するとそれに巻き込まれた複数の羽毛が撃墜された。
 しかし、なおも羽毛の数は多く、遂にそれまで悠司の居た位置を中心に着弾した羽毛が次々と爆風と熱を周囲に撒き散らした。
 ハンターたちは直撃こそ避けたものの、そのすさまじい熱風は、ハンターたちに更なる不利をもたらす。
「ロープが……! これほどとは……」
 自身のロープがじゅわっという音を立ててあっという間に乾き、次いで焼き切れるのを見たカグラが呻く。だが、被害はそれだけでは済まず、足場の固定をロープのみに頼っていた数名のハンターを押し、バランスを崩させる。
「……! しまった!? この、鳥婆ぁああ!」
 バランスを崩して屋根の縁まで風圧に押されたショウコ=ヒナタ(ka4653)は悪態をつきつつ、必死に体勢を立て直そうとするショウコ。しかし、既に覚醒者の身体能力をもってしても不可能な位置である。
「掴まって!」
 そのショウコに、悠司が咄嗟に手を伸ばす。彼の両脚は高所での作業に適した地下足袋であり、これでロープが切られた後も何とか踏み止まったようだ。
「すまない、助かったよ」
 危ないところを助けられたのはロニも同様であった。
「いいってことよ。……だが、どうせなら俺もアイツみてぇに美人を助けたかったがなァ」
 からからと笑うヤナギ・エリューナク(ka0265)。
 一方、今の攻撃によるハンターたちへの被害が少なかったことに腹を立てのか姑獲鳥は屋根の周囲を旋回すると再度翼を振るおうとする。
「鳥婆め……! そうそう好きにはさせないよ」
 ショウコは屋根の構造物に身体を預けて固定すると、ライフルの照準を姑獲鳥の翼に合わせる。
「狙撃で撃ち切れないってんなら……発射口を潰す……!」
 かくして、姑獲鳥が羽毛を発射するより一瞬早くショウコの弾丸がその翼にヒットした。
 その弾丸は、発射直前で既に赤熱化の始まっていた羽毛の一つに命中して爆発を引き起こす。結果発射される直前の羽毛が次々と誘爆、瞬く間に姑獲鳥は火球に包まれた。
 この爆発は、姑獲鳥にダメージを与えることは出来なかった。姑獲鳥はその高熱を吸収し、自身のマテリアルへと変換したのだ。
 しかし、爆発による一時的な視界の混乱と、衝撃までは吸収出来ず、僅かな時間ではあるが姑獲鳥の動きは止まった。
 そして、ロニはその隙を逃さず自らのマテリアルを静かではあるが勇壮な歌声に乗せて、姑獲鳥へと叩き付けた。
『あ、が……戦歌(いくさうた)……? 男など、男など……殺すばかりで……!』
 姑獲鳥は苦悶の声を上げ、身を捩りその動きをわずかな時間ではあるが完全に止めた。
 この瞬間、幻術による妨害に集中していたシャックスは完全に無防備となったのである。
「あの歪虚が急に動きを変えたのが、こいつのせいなら……!」
 その隙を逃さず、シュネー・シュヴァルツ(ka0352)は一気に攻勢に出た。マテリアルを足に集中させ、屋根から壁面へ、壁面から屋根へと立体的に飛び移って奢夜躯主の頭上を取ったシュネーはワイヤーを両手に握り、一気に飛び掛かると慌てて離脱しようとしていた奢夜躯主の体を絡め取った。

「シュネー!? 何をするのですか……!?」
 その瞬間、シュネーは我が耳、そして我が目を疑った。
 彼女のワイヤーに捕えられ、必死にもがくのは信頼する義兄であるカグラであったからだ。
「そんな……? カグラ兄さん!?」
 敵の幻術に惑わされ、カグラにワイヤーを巻き付けてしまった、と判断したシュネーは思わず拘束を緩めてしまう。
「何ボサッとしてやがるんだ!?」
 シュネーが折角奢夜躯主を拘束したワイヤーを緩めるのを見て、ヤナギはそう叫ぶと自身の鞭を相手に絡みつかせた。
「痛いっ! ヤナギさん……どうして!?」
「悠司ッ!? わ、ワリぃ……!」
 自分が、鞭で友人の悠司を絡め取ったことに気付いたヤナギは慌てて鞭を緩め始める。
「男共は何やって……くそっ、あの札だね……!」
 相次いで奢夜躯主への攻撃を中止しようとする二人を援護しようと、ショウコは敵の持つ札に照準を合わせた。
「なっ……何時の間に入れ替わった!?」
 だが、引き金を引く直前に相手が姑獲鳥ではなくロニである事に気付いたショウコは慌てて銃口を下してしまった。
(何か……おかしい……? そうか! これが……!)
 ようやく、幻術に気付いたシュネーはカグラがワイヤーを振り解く直前、自分の唇を思いっ切り噛んだ。
 地の筋が流れ、激痛が走るがその痛みは彼女に幻術に抵抗する力を与えた。
「よくもカグラ兄さんの姿を……」
 逃げられる直前に、シュネーのワイヤーが再度奢夜躯主を締め上げる。
「ぐ……シュネー、目を覚ましてくださいっ!」
 だが、再度奢夜躯主の姿がカグラへと変じる。
「カグラにいさ……うるさいうるさいうるさいっ!」
 シュネーは激痛のおかげで辛うじて、これは幻術であるという認識は維持できていた。だが、視覚と聴覚に対する支配は解けておらず、彼女の締め付ける相手は依然カグラのままであった。
「が……シュ、ネー……」
「やめろ、やめろぉ……!」
 しかし、シュネーがカグラの苦悶にまたもやワイヤーを放しそうになった瞬間、突如ライフルの銃声が響き、その直後兄の声は奢夜躯主の、外見通りの甲高い鳥の鳴き声に変わった。
「本当に味方でも……要は武器だけ撃てば良いってことね。ま、やっぱり正解だったみたいだけど」
 ショウコが呟いた。
 彼女は、幻術によって偏向された視界の中でロニが持っていた盾、すなわち奢夜躯主が持っていた札を撃ちぬいたのである。
「散々舐めたマネしてくれやがって……これは礼だッ! 受け取りな!」
 幻覚が晴れた瞬間、ヤナギは己の身体にマテリアルを循環させると、柔軟さを増した身体能力を活用してノーモーションで抜刀した刃を一閃。
 直後、奢夜躯主の首がごろりと地面に転がった。
「あ、ああ……」
 悲痛なうめき声を上げる姑獲鳥。彼女がハンターたちを狙って放ったはずの羽毛は狙いを外れ、見当違いの方向で空しく爆発するのだった。


「どうやら、正気に戻ったみたいね」
 ショウコはそう呟くとハンターたち、それに若と付き人に素早く目配せした。
「や、やはりやるのか? 仕方がないのう……背に腹は変えられぬか」
 若、それに付き人が渋々ながら承知したのを確認したショウコは無言で頷くと、いきなり若に駆け寄って首を抱え、その頭部に拳銃を突き付けた。
「動くな、鳥婆」
 それまで手を出しあぐねていたかのように屋根の周囲を旋回していた姑獲鳥の動きがピタリと止まり、空中でまるで固まったかのようにホバリングする。
「このガキが歪虚のスパイだってことはとっくにバレてるんだ。……手を出せば、こいつを殺すよ」
 勿論、スパイ云々というのは行動を不自然にみせないためのこじつけではあるが、ショウコの演技は中々堂に入っていた。
「動きが完全に止まりましたね。これなら……」
 カグラはライフルを構え、その照準を今度は姑獲鳥の頭部へと合わせた。
「可哀想だとは思う……けど、ここで終わりにしなくちゃね……」
 悠司も、拳銃で頭部を狙う。
「鳥頭のクセにこっちのいうことは解るみたいだね。よし、まずは屋根の上に降りな。ゆっくりとだよ!」
 姑獲鳥はショウコの要求に従うかのように、ゆっくりと高度を下げる。そして、放心したかのように虚ろだった目が紅い光を宿した時――突如、その姿が掻き消えた。
 その直後、ショウコが感じたのは片手で首を抱いていた若の感触が突然なくなった、というものである。ついで、焼けるような痛みが胴体に走り、次の瞬間にはショウコは城の壁面に叩き付けられていた。
「……あ?」
 ようやく事態を認識したショウコが上を見上げると、頭上にはやはり事態に反応が追い付かず、きょとんとしたまま姑獲鳥の脚に握られた若が見える。
 そして、今度は自分の体を見ると、たった今ヒートリバーで焼き切られた自分の胴体に、止めとばかり姑獲鳥の放った羽毛が次々と突き刺さって来た。
「鳥婆あああああああああああ!」
 誰も、どうすることも出来ないままショウコは空中で火球に包まれる。その余波で、壁と床の一部も壊れ、ショウコは階下へと落下していった。


『人間共許さない……! 私から子供たちを奪った挙句に、今度はこんな卑劣なマネを……!』
 姑獲鳥が、咽から発した押し殺しした怒りの声がハンターたちの耳に届く。
 時に、限界を超えた怒りや悲しみは却って人を冷静にさせることがある。
 恐らく、奢夜躯主を倒した時点でハンターたちは正攻法で姑獲鳥を攻めるべきであったのだろう。
 姑獲鳥とて名のある歪虚であり、この状況における人質作戦が自分の弱点を突くためのものだということを認識するくらいの知能はある。
 それ故、ハンターたちの行動は却って姑獲鳥の迷いを取り払ってしまう結果を招いてしまったのだ。
「若を放しなされ!」
 主君を助けるべく、付き人が姑獲鳥に攻撃した。だが、姑獲鳥は素早く振り向くと赤熱化した爪を振り上げる。
「一旦退くんだ! 迂闊に近づいては……!」
 付き人が危険だと判断したロニは盾を構えて両者の間に割り込み、必死に爪を受け止めめ、シールドを姑獲鳥に叩き付け押し切ろうと踏みとどまる。
「ぐぅ……!」
 しかし、姑獲鳥の超高熱化した爪は、その衝撃に耐え切り、そのまま盾を掴むと、ロニと付き人を纏めて壁面に叩き付け、容赦なく焼いた。
「ぐぁっ……若っ!」
『死ね!』
 姑獲鳥はそのまま叩き付けた二人に至近距離から羽毛を撃ち込み、黒焦げの二人が動かなくなったのを確認すると、悠司とカグラが放つ弾丸を回避しつつ超低空を滑空しながら口をぱかりと開いた。
「口だ! 口の中を狙って!」
 悠司が叫ぶ。
 だが、その時姑獲鳥は歌い始めていた。


「放せーっ、放さぬかぁっ!」
 姑獲鳥に捕獲された若は、引張り回されながらも手当たり次第に刀を振り回して必死に抵抗していた。
その刃がたまたま姑獲鳥の羽毛の薄い部位に命中した瞬間、術式に集中していた姑獲鳥は怒りで我を忘れていたこともあり、若を放してしまった。
「思い知ったか……ややっ!?」
 力任せに姑獲鳥の胴体を蹴った若はようやく気付いた。
 自分が中空に投げ出された事に。
 その瞬間、鈍化した時間の流れの中で、若は姑獲鳥の歌声を聞いた。
「……これは、童謡……童歌(わらべうた)かの……母さま……」
 そっと目を閉じた若だったが、その瞬間彼の母親のものではない声が響いた。
「諦めるのは、まだ早いです……」
 次の瞬間、若は細くしなやかな女性の身体に自らが包まれるのを感じ、恐る恐る目を開けた。
「そ、そなたは……」
「……大丈夫ですか? すみません。まさか作戦が裏目に出るなんて……」
 若を抱き止めたシュネーは、そう謝った。彼女自身はロープをぎりぎりまで伸ばして壁面からぶら下がっており、はるか眼下には城の中庭が見えていた。
 庭には造園用の石なども置かれており、そのまま落下すれば若の命はなかったろう。戦闘の序盤に、背後から姑獲鳥に近づいたためロープが無事だったのも幸いしたようだ。
 しかし、二人が安堵したのも束の間、二人の頭上で微かに歌声が響いたかと思うと、凄まじい爆発が先刻まで彼らが戦っていた屋根の辺りを包み込む。
「カグラ兄さん……!」
 それを見たシュネーは青ざめた表情で叫ぶのだった。


 一刻ほど後、苦労してロープを登り切ったシュネーと若が、城内に突入していた別のハンターたちと合流した時には、既に恵土城を巡る戦闘は終結していた。姑獲鳥は各所での戦闘が終結するまで暴れ、何処かへ飛び去ったという。
 幸いにも、カグラたち他のハンターも階下まで落下していたショウコが重体であった他は、黒焦げになって気絶していただけで全員無事であった。
「奇計が失敗したのは残念じゃが……命あっての物種じゃ。礼を言うぞ」
 目に涙を溜めて、包帯を巻かれた付き人の手を握っていた若はロニに頭を下げた。付き人はショウコ同様重体であったが、一命をとりとめていた。
「……いや」
 しかし、ロニは少しだけ笑いながらもすぐ俯いてしまう。
 他のハンターたちも重苦しい沈黙で応えるばかりであった。

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MVP一覧

  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツka0352

重体一覧


  • ショウコ=ヒナタka4653

参加者一覧


  • カグラ・シュヴァルツ(ka0105
    人間(蒼)|23才|男性|猟撃士
  • 缶ビールマイスター
    鈴木悠司(ka0176
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • ブラッド・ロック・ブルー
    ヤナギ・エリューナク(ka0265
    人間(蒼)|24才|男性|疾影士
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士

  • ショウコ=ヒナタ(ka4653
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ショウコ=ヒナタ(ka4653
人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/07/20 10:19:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/16 12:14:22