ゲスト
(ka0000)
砂浜の大騒動
マスター:天田洋介
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/27 19:00
- 完成日
- 2015/07/31 18:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
土地に根付く文化によって娯楽も変わる。リアルブルー出身者にとって夏の行楽代表は海水浴だ。だがこのクリムゾンウェストの地でそのままを行うには不都合が多すぎる。これが冒険都市リゼリオならば問題はないのだが。
グラズヘイム王国・港街【ガンナ・エントラータ】より遙か東の海岸にリアルブルー式海水浴を謳う砂浜が存在していた。その名は『ミシナ海水浴場』。
切り立った崖下に広がる砂浜のおかげで他人の目を気にせずに海水浴を楽しむことができる。
地方貴族の趣味で経営されているので支払う料金も高額ではなかった。リアルブルー式の浜茶屋に更衣室、シャワー設備が完備されている。水着の貸し出しも行われていた。
完璧な味とまではいかないが、ソース焼きそばや冷たいジュースなどの販売も扱われている。
季節はもう夏。
リアルブルー式海水浴を楽しもうと各地から観光客がやってくる。しかし、今年は大変な事態が発生していた。
「なんか飛びだしたぞ!」
「本当かよ。崖まで飛んでったぜ」
砂浜に巨大なマテガイが大量に棲みついてしまったのである。
正確にはマテガイによく似た幻獣なのだろうが、大きさ以外には区別がつかなかった。塩をかけると砂穴から飛びだすところまでもがそっくりである。
巨体マテガイは白い。直径三十から六十センチメートルで、長さは一、二メートルもあった。二十メートルの断崖の上まで飛んでいった個体もいる。
「このままじゃ死人が出てしまう」
海水浴の責任者は身内で何とかしようと試行錯誤したもののついに音を上げた。
このような相手にはハンターに頼むのが一番だということで、ハンターズソサエティー支部に連絡が取られる。
それから数日後、ハンター一行がミシナ海水浴場に現れた。
夏の強い日差しの最中、目の前には誰一人いない砂浜が広がる。棲息する巨大マテガイとの戦いの火蓋が切って落とされるのだった。
グラズヘイム王国・港街【ガンナ・エントラータ】より遙か東の海岸にリアルブルー式海水浴を謳う砂浜が存在していた。その名は『ミシナ海水浴場』。
切り立った崖下に広がる砂浜のおかげで他人の目を気にせずに海水浴を楽しむことができる。
地方貴族の趣味で経営されているので支払う料金も高額ではなかった。リアルブルー式の浜茶屋に更衣室、シャワー設備が完備されている。水着の貸し出しも行われていた。
完璧な味とまではいかないが、ソース焼きそばや冷たいジュースなどの販売も扱われている。
季節はもう夏。
リアルブルー式海水浴を楽しもうと各地から観光客がやってくる。しかし、今年は大変な事態が発生していた。
「なんか飛びだしたぞ!」
「本当かよ。崖まで飛んでったぜ」
砂浜に巨大なマテガイが大量に棲みついてしまったのである。
正確にはマテガイによく似た幻獣なのだろうが、大きさ以外には区別がつかなかった。塩をかけると砂穴から飛びだすところまでもがそっくりである。
巨体マテガイは白い。直径三十から六十センチメートルで、長さは一、二メートルもあった。二十メートルの断崖の上まで飛んでいった個体もいる。
「このままじゃ死人が出てしまう」
海水浴の責任者は身内で何とかしようと試行錯誤したもののついに音を上げた。
このような相手にはハンターに頼むのが一番だということで、ハンターズソサエティー支部に連絡が取られる。
それから数日後、ハンター一行がミシナ海水浴場に現れた。
夏の強い日差しの最中、目の前には誰一人いない砂浜が広がる。棲息する巨大マテガイとの戦いの火蓋が切って落とされるのだった。
リプレイ本文
●
よく晴れた夏の早朝。現地に到着したハンター一行はミシナ海水浴場の責任者であるカハイの住処を訪ねた。彼の案内で砂浜へと向かう。
「事情を知らずに足を運んでくれる観光客が幾ばくかいらっしゃるのです。それがとても心苦しくて――」
カハイが崖の階段を下りながら事情を説明する。マテガイ似の巨大幻獣はミシナ海水浴場が収まる約一キロメートルの沿岸で大量発生しているという。
「ミシナ海水浴場は約三百メートルの範囲です。残り約七百メートルとの狭間には柵が設けられています。そちらもうちのオーナーが管理する土地なのですが、今のところ手つかずでして」
海岸まで下りたカハイが指さした数メートル先の砂浜は大きく窪んでいた。
「まぁ……見事な景観を作ってますわね、マテガイとやら達の仕業?」
砂浜を見渡したロジー・ビィ(ka0296)が多数の窪みを見つける。多くは三十センチメートル円といったところだが、カハイによればそれ以上の窪みもあるらしい。
カハイが窪んだ中央を拾った流木で突くと穴が空いた。
「みなさん、危ないですから離れて背を低くしていて下さい」
カハイが腰にぶら下げた袋から塩を掴んで砂穴へと投げ入れる。大急ぎで退いて砂地に伏せた。数秒後、凄まじい音と同時に砂が飛び散る。まるで花火のように青空に向けて茶色っぽい何かが打ち上がった。
「確かにこれはまごう事なきマテガイだな」
ザレム・アズール(ka0878)は砂浜に落ちてきた物体を興味津々な瞳で眺める。巨大マテガイは再び砂地の奥へ潜ろうとしていた。
「人間が知らないだけで、まだ見ぬ未知の生物はたくさんいるのかもしれませんね。それにしても硬そうな殻です」
レオン・フォイアロート(ka0829)が生きたままの巨大マテガイを抱える。こうしてしまえば相手に攻撃する術はなくなった。せいぜい体内に残った塩水を吹きだす程度だ。かといってこのままにはしておけないので仕留めておく。
「……ちょっと思ったんですけれど……。何だか美味しそうな予感がしますわ!」
実はロジーの仲の良い相手が急用で依頼に来られなくなっていた。少しだけ落ち込んでいた彼女だが目の前の食材らしき存在に俄然やる気がでてくる。
「食べるとなれば砂を吐かせるべきだな。案外、おいしいんじゃないか?」
レオンも非常に興味を持つ。食材として活用するのであれば捕らえ方にも工夫が必要だと呟きながら。
「マテガイと似ているのなら独特の貝臭さは酒で消せるな」
ザレムはとっくの昔に乗り気。すでにハンターの間で巨大マテガイは食材扱いだ。
「こ、こいつを食べるんですか?」
カハイは驚いていた。より正しくは呆れたのかも知れない。
ハンター達がミシナ海水浴場の名物料理になるとカハイの説得を試みる。しかし中々首を縦には振らなかった。論より証拠ということで退治済みの巨大マテガイを調理してみることとなる。開店休業中の浜茶屋で行う。
「砂抜きの必要は杞憂だったようですね」
包丁を借りたレオンが捌く。これだけ身が大きいと砂溜まりの部位を調理途中で取り除くことができた。
「よいのが見つかったぞ」
ザレムが浜茶屋内で茣蓙と網を見つける。
「天日に干せば海水でぶよぶよの身も引き締まるですの」
ロジーが砂浜に敷いた茣蓙に余った巨大マテガイの身を並べた。ザレムが虫除けとして網を被せておく。
まもなく巨大マテガイの塩焼きが完成する。カハイを巻き込んでの試食が行われた。
「不味くはないが」
「うまくもない」
味見したレオンとザレムが呟く。ロジーとカハイの感想も似たようなものだ。
「ほら、そうそう都合よくはいかないものなんです。私どもと致しましては退治さえして頂ければ――」
ロジーが笑顔でじっと見つめると喋るカハイの声が段々小さくなっていく。
「天日干しの身を試してからでも遅くないと思いますわ」
「そ、そうですね」
カハイはエルフの美人に弱かった。
三時間後、夏の強い日差しのおかげで巨大マテガイは三分の一に縮まる。干物というよりも半生の状態に近い。
「さっきのと全然違いますね! 何というか風味というか」
「これでくさみを消しさえすれば完璧ですわね!」
干した身をあらためて塩焼きにしたところ味は絶品。カハイもハンター達の提案を受け入れるのだった。
●
巨大マテガイを食材として活用するのが決まったところで退治が行われた。
今日のうちに干して食材にする巨大マテガイは十二体のみ。それ以上の個体は生きたまま東端の砂浜へと移動させる。
カハイから塩袋をもらったハンター三名は互いの退治が干渉しないように距離をとるのだった。
(シオマネキとかイソギンチャクと言ったより厄介と思われるものが巨大化しなかったのを喜ぶべきですかね)
レオンはシールド「エスペランサ」を勢いよく下ろして砂地に突き刺す。
これから塩を投入する砂穴は明らかに斜めになっている。そのまま巨大マテガイを飛びださせるとボート小屋に当たること必至だった。
そこで敢えて飛行弾道を遮る位置にシールドを立てる。覚醒してシールドの裏に隠れつつ非常に長い柄杓で砂穴へと塩を落とす。数秒後、盾越しの凄まじい衝撃がレオンを襲う。
勢いよく飛びだした巨大マテガイがレオンの支えるシールドに弾かれて上空に舞った。
まもなく落下してきたが元気に動いている。砂地へ潜ろうとしている巨大マテガイ目がけてレオンが金色鉞を振り下ろす。強打による一撃を食らわせた。
「やはり重量にものをいわせて殻ごと叩き割るのが一番だな」
砂地に落としてしまえば覚醒しないでも倒せるのだが、海水浴場を早く復活させたいのであれば彼の選択は正しい。
巨大マテガイをもう一体仕留めて両肩に担いで浜茶屋へ。さっそく解体して茣蓙の上に身を並べるのだった。
(海水浴場の端からやろうと考えていたが、もう少し浜茶屋に近いところから始めよう。食材の分を運ぶの楽だからな)
ザレムは目の防護のためにカニカルマスカレードをつけて作業に挑んだ。窪んだ砂地を突いて穴の状態を確かめる。
まずは真っ直ぐに飛びだす状態の巨大マテガイを狙う。塩を投げ入れて次々と飛びださせていく。
「武器の選択に間違いはなかったな。長いし攻撃力もあるから殴りやすいんだ」
落下中の巨大マテガイに薙刀「巴」の刃を貫通させる。手始めに食材分の四体を仕留めた。
一往復半して巨大マテガイ四体分を浜茶屋へと運び込む。殻から身を取りだして不要な部分を除去。茣蓙の上に並べて天日に晒す。
食材分の確保が終わったこれからが退治本番である。
海岸施設の脅威となり得る特に巨大なマテガイ退治は後回し。
ザレムはポイポイと塩を投げ入れて巨大マテガイとしては普通サイズの個体を砂地から飛びださせる。そしてハンマー投げの要領で東端側となる柵の向こう側へと投げ込むのだった。
「これでいいわ。美味しくなってねっ」
ロジーも食材分の巨大マテガイを解体して茣蓙の上に並べ終わった。
次に仲間と同じように巨大マテガイを砂地から飛び立たせる。東側の柵の向こう側へと移動させていく。
作業は想定よりも順調に進んだ。退治を殲滅ではなく東端への移動に留めたのもうまくいった理由の一つかも知れない。
暮れなずむ頃、超大型マテガイが潜んでいると思われる砂穴が残る。その数は三。
作業を円滑に進めるためにザレムとレオンはすでに覚醒を使い終わっていた。ロジーは仲間と相談してこのために残してある。
「いくぞ!」
ザレムが駆けながら砂穴へと塩を投げ入れた。まもなくこれまでに見たことがない勢いで超大型マテガイが砂地から飛びだす。
その勢いはまるで砲弾のよう。覚醒のロジーが構えたクレイモアで迫る超大型マテガイにフルスイング。強打を込めつつ振り抜いて硬い殻を突き破った。
「中身は柔らかいからな。今の私でも十分だ」
レオンが割れている殻の部分に金色鉞を滑り込ませた。こうして超大型マテガイが仕留められる。
「リアルブルーには野球という球技があって、確かこういうのをホームランっていうのですわ」
屈んだロジーが超大型マテガイの欠けた殻を拾う。超大型マテガイの殻は茶色を通り越して黒っぽい色をしていた。
三人で協力し、残り二体の超大型マテガイも日暮れまでには倒しきる。
ちなみに超大型マテガイの身は天日で干してもあまりに大味でとても不味かった。
●
カハイがいっていた通り、巨大マテガイの発生を知らずに海水浴場へやって来る客は少なからずいる。
早朝にハンター達が巨大マテガイが砂浜にいないことを再確認。これまで迷惑を鑑み、今日と明日の海水浴場は入場無料の大盤振る舞いとなった。
浜茶屋の売り子達によって流木などの砂浜掃除は済んでいる。巨大マテガイが残した砂穴もちゃんと埋められているので海水浴客が怪我をする心配はない。こうしてミシナ海水浴場に去年の活気が戻ってきた。
ハンター達の興味は食材としての巨大マテガイに移っている。その日、レオンが昼食がてらの試食作りに挑戦した。
「これのために綺麗な貝殻をとっておいたのです。できあがるのが楽しみですね」
レオンは縦半分に割った貝殻を鉄板にのせて干した身を並べる。そこへ白葡萄酒と刻んだ野菜を投入。残り半分の殻を蓋にして酒蒸しにしていく。
「期待通りにいくとうれしいのですが」
戦いの際に空いてた殻穴から吹き出る蒸気を見守って十五分が経過。頃合いだと感じたレオンが鉄板から下ろす。
浜茶屋の片隅でハンター達とカハイが巨大マテガイ殻の皿を囲む。
「うん、うまいな」
最初に食べたザレムが太鼓判を押す。
「よかった。想像通りの味に仕上がったようです」
レオンが酒蒸しを噛みしめる。ちょうどよい塩加減に歯ごたえのある身。白葡萄酒によって旨味が素直に引きだされていた。
「みなさんの説得で巨大マテガイの身を食材として扱うのはすでに決めていましたが……このメニューはとてもよいですね」
「そうでしょう。新しい名物としてお客さんに提供してみてはどうです?」
レオンはカハイに浜茶屋で扱ってみてはと薦める。
調理法そのものは難しくはない。カハイが早速お品書きに加えてみると大好評。昨日干した分の身を使い切ってしまう。
そこでハンター達は柵向こうの砂浜で新たな天日干しの身を用意したのだった。
三日目の朝食をザレムが作る。
「さて、ここからが本番だ」
料理なら任せろと包丁セットをバリバリと開いた。よく研いだ包丁で干した巨大マテガイの身を切っていく。
「こうしてみると白っぽい色といい、まるでイカの身のようだな」
食べやすい大きさに切った身を眺めてザレムは思いついた。浜茶屋では海鮮焼きそばが売られている。この身を使ってみたらうまいのではないかと。
ザレムは浜茶屋の調理人に麺やソースをもらってマテガイ海鮮焼きそばを完成させた。
「へい、らっしゃい。焼きたてだよ」
そんな冗談をいいながらザレムがテーブルまで皿を運ぶ。マテガイ海鮮焼きそばの美味しそうなにおいが辺りに漂った。
「美味しいですの。特に歯ごたえがっ!」
「普段使っているイカよりも断然いいですね」
ロジーとカハイが嬉しそうに焼きそばを頬張る。
「これも売って、減った収入の穴埋めしないか?」
自らも食べてにやりと笑うザレムは満足げだ。
昼食時も挑戦。水で戻した天日干しの身を炭火で炙ってラーメンの具にする。マテガイ海鮮焼きそばとマテガイラーメン、どちらも新メニューとして採用された。
「ビールビール……っと」
「私ももらおうか」
夕方、砂浜のザレムとレオンは巨大マテガイ料理を肴にして酒を愉しんだ。
「あ、ずるいですわ」
そこへロジーがやって来る。海辺の赤く染まる夕日を眺めながら、三人はゆっくりとした時間を過ごしたのだった。
そして四日目。ロジーが昼食を担当する。
「あたしのこの、天才的かつアバンギャルドな料理の腕と共に…っ」
早朝、ロジーは色とりどりの果物を抱えて戻ってきた。
「こんなフルーツ、見たことがありません。どこで売っていたんですか?」
「内緒ですわ♪」
地元のカハイでさえ知らない果物ばかり。ロジーが鼻歌まじりに果物を絞っていく。それらを調合して煮詰めたフルーツソースを料理に使う。
マテガイの身をこんがりと焼いてソースを絡める。器はこれまたどこで手に入れたのかわからない大きな二枚貝だ。内側の真珠層がキラキラととても美しい。完成した料理には野で摘んだ赤や黄色の花が添えられていた。
「さ、お食べになって。皆さんも遠慮なく……」
笑顔のロジーがカハイをじっと見つめる。
カハイは息を呑んだ。見た目は確かに綺麗。しかしにおいが嫌な予感を脳裏に浮かび上がらせる。
「えい! ままよ!」
カハイはそれから前後しばらくの記憶を失う。
「ここは……?」
気がついたのは深夜。カハイは浜茶屋の仮眠室で横になっていた。
「とても疲れていらっしゃったのね。それじゃあ早速」
「あ、お腹は空いていませ……」
カハイを看病してくれたのはロジー。彼女が再びマテガイの身で料理を作り始めた。
「これは身体にやさしい料理ですの。元気がでますわ」
親切を無下にはできない性分のカハイはどうにでもなれとロジーの料理を口にする。
「……うまい。美味しいです」
海鮮カルドスープの滋味がカハイの隅々まで染み渡る。海辺で倒れた客に食べさせたいとカハイはロジーにレシピを教えてもらうのだった。
●
こうして巨大マテガイの身は料理に化けて好評を博すようになる。
退治を経てハンター達が思いついた巨大マテガイの捕獲方法がカハイに伝授された。
砂穴の周囲に長い杭を四本打って網を被せる。杭に網の四隅を結びつけたら塩を投入。砂地から現れる巨大マテガイは網によって高く飛ぶことはない。再び潜る前に金槌と太い鉄釘で急所を打てば普通の者でも仕留められた。
ただ超大型マテガイ相手だとこの方法では難しい。それらはハンター達によって退治済みなので少なくともこの夏の間は問題ないのだが。
「来年の海開き前には超大型マテガイ退治を頼むことになると思います。そのときはとうかよろしくお願いします」
一行の去り際にカハイが金一封を贈る。それは依頼料とは別の心付けだ。
「忘れられそうにもないですね。あのような幻獣がいたとは」
「本当に」
「美味かったな」
ハンター一行は帰路の間、何度も巨大マテガイ料理を話題にするのだった。
よく晴れた夏の早朝。現地に到着したハンター一行はミシナ海水浴場の責任者であるカハイの住処を訪ねた。彼の案内で砂浜へと向かう。
「事情を知らずに足を運んでくれる観光客が幾ばくかいらっしゃるのです。それがとても心苦しくて――」
カハイが崖の階段を下りながら事情を説明する。マテガイ似の巨大幻獣はミシナ海水浴場が収まる約一キロメートルの沿岸で大量発生しているという。
「ミシナ海水浴場は約三百メートルの範囲です。残り約七百メートルとの狭間には柵が設けられています。そちらもうちのオーナーが管理する土地なのですが、今のところ手つかずでして」
海岸まで下りたカハイが指さした数メートル先の砂浜は大きく窪んでいた。
「まぁ……見事な景観を作ってますわね、マテガイとやら達の仕業?」
砂浜を見渡したロジー・ビィ(ka0296)が多数の窪みを見つける。多くは三十センチメートル円といったところだが、カハイによればそれ以上の窪みもあるらしい。
カハイが窪んだ中央を拾った流木で突くと穴が空いた。
「みなさん、危ないですから離れて背を低くしていて下さい」
カハイが腰にぶら下げた袋から塩を掴んで砂穴へと投げ入れる。大急ぎで退いて砂地に伏せた。数秒後、凄まじい音と同時に砂が飛び散る。まるで花火のように青空に向けて茶色っぽい何かが打ち上がった。
「確かにこれはまごう事なきマテガイだな」
ザレム・アズール(ka0878)は砂浜に落ちてきた物体を興味津々な瞳で眺める。巨大マテガイは再び砂地の奥へ潜ろうとしていた。
「人間が知らないだけで、まだ見ぬ未知の生物はたくさんいるのかもしれませんね。それにしても硬そうな殻です」
レオン・フォイアロート(ka0829)が生きたままの巨大マテガイを抱える。こうしてしまえば相手に攻撃する術はなくなった。せいぜい体内に残った塩水を吹きだす程度だ。かといってこのままにはしておけないので仕留めておく。
「……ちょっと思ったんですけれど……。何だか美味しそうな予感がしますわ!」
実はロジーの仲の良い相手が急用で依頼に来られなくなっていた。少しだけ落ち込んでいた彼女だが目の前の食材らしき存在に俄然やる気がでてくる。
「食べるとなれば砂を吐かせるべきだな。案外、おいしいんじゃないか?」
レオンも非常に興味を持つ。食材として活用するのであれば捕らえ方にも工夫が必要だと呟きながら。
「マテガイと似ているのなら独特の貝臭さは酒で消せるな」
ザレムはとっくの昔に乗り気。すでにハンターの間で巨大マテガイは食材扱いだ。
「こ、こいつを食べるんですか?」
カハイは驚いていた。より正しくは呆れたのかも知れない。
ハンター達がミシナ海水浴場の名物料理になるとカハイの説得を試みる。しかし中々首を縦には振らなかった。論より証拠ということで退治済みの巨大マテガイを調理してみることとなる。開店休業中の浜茶屋で行う。
「砂抜きの必要は杞憂だったようですね」
包丁を借りたレオンが捌く。これだけ身が大きいと砂溜まりの部位を調理途中で取り除くことができた。
「よいのが見つかったぞ」
ザレムが浜茶屋内で茣蓙と網を見つける。
「天日に干せば海水でぶよぶよの身も引き締まるですの」
ロジーが砂浜に敷いた茣蓙に余った巨大マテガイの身を並べた。ザレムが虫除けとして網を被せておく。
まもなく巨大マテガイの塩焼きが完成する。カハイを巻き込んでの試食が行われた。
「不味くはないが」
「うまくもない」
味見したレオンとザレムが呟く。ロジーとカハイの感想も似たようなものだ。
「ほら、そうそう都合よくはいかないものなんです。私どもと致しましては退治さえして頂ければ――」
ロジーが笑顔でじっと見つめると喋るカハイの声が段々小さくなっていく。
「天日干しの身を試してからでも遅くないと思いますわ」
「そ、そうですね」
カハイはエルフの美人に弱かった。
三時間後、夏の強い日差しのおかげで巨大マテガイは三分の一に縮まる。干物というよりも半生の状態に近い。
「さっきのと全然違いますね! 何というか風味というか」
「これでくさみを消しさえすれば完璧ですわね!」
干した身をあらためて塩焼きにしたところ味は絶品。カハイもハンター達の提案を受け入れるのだった。
●
巨大マテガイを食材として活用するのが決まったところで退治が行われた。
今日のうちに干して食材にする巨大マテガイは十二体のみ。それ以上の個体は生きたまま東端の砂浜へと移動させる。
カハイから塩袋をもらったハンター三名は互いの退治が干渉しないように距離をとるのだった。
(シオマネキとかイソギンチャクと言ったより厄介と思われるものが巨大化しなかったのを喜ぶべきですかね)
レオンはシールド「エスペランサ」を勢いよく下ろして砂地に突き刺す。
これから塩を投入する砂穴は明らかに斜めになっている。そのまま巨大マテガイを飛びださせるとボート小屋に当たること必至だった。
そこで敢えて飛行弾道を遮る位置にシールドを立てる。覚醒してシールドの裏に隠れつつ非常に長い柄杓で砂穴へと塩を落とす。数秒後、盾越しの凄まじい衝撃がレオンを襲う。
勢いよく飛びだした巨大マテガイがレオンの支えるシールドに弾かれて上空に舞った。
まもなく落下してきたが元気に動いている。砂地へ潜ろうとしている巨大マテガイ目がけてレオンが金色鉞を振り下ろす。強打による一撃を食らわせた。
「やはり重量にものをいわせて殻ごと叩き割るのが一番だな」
砂地に落としてしまえば覚醒しないでも倒せるのだが、海水浴場を早く復活させたいのであれば彼の選択は正しい。
巨大マテガイをもう一体仕留めて両肩に担いで浜茶屋へ。さっそく解体して茣蓙の上に身を並べるのだった。
(海水浴場の端からやろうと考えていたが、もう少し浜茶屋に近いところから始めよう。食材の分を運ぶの楽だからな)
ザレムは目の防護のためにカニカルマスカレードをつけて作業に挑んだ。窪んだ砂地を突いて穴の状態を確かめる。
まずは真っ直ぐに飛びだす状態の巨大マテガイを狙う。塩を投げ入れて次々と飛びださせていく。
「武器の選択に間違いはなかったな。長いし攻撃力もあるから殴りやすいんだ」
落下中の巨大マテガイに薙刀「巴」の刃を貫通させる。手始めに食材分の四体を仕留めた。
一往復半して巨大マテガイ四体分を浜茶屋へと運び込む。殻から身を取りだして不要な部分を除去。茣蓙の上に並べて天日に晒す。
食材分の確保が終わったこれからが退治本番である。
海岸施設の脅威となり得る特に巨大なマテガイ退治は後回し。
ザレムはポイポイと塩を投げ入れて巨大マテガイとしては普通サイズの個体を砂地から飛びださせる。そしてハンマー投げの要領で東端側となる柵の向こう側へと投げ込むのだった。
「これでいいわ。美味しくなってねっ」
ロジーも食材分の巨大マテガイを解体して茣蓙の上に並べ終わった。
次に仲間と同じように巨大マテガイを砂地から飛び立たせる。東側の柵の向こう側へと移動させていく。
作業は想定よりも順調に進んだ。退治を殲滅ではなく東端への移動に留めたのもうまくいった理由の一つかも知れない。
暮れなずむ頃、超大型マテガイが潜んでいると思われる砂穴が残る。その数は三。
作業を円滑に進めるためにザレムとレオンはすでに覚醒を使い終わっていた。ロジーは仲間と相談してこのために残してある。
「いくぞ!」
ザレムが駆けながら砂穴へと塩を投げ入れた。まもなくこれまでに見たことがない勢いで超大型マテガイが砂地から飛びだす。
その勢いはまるで砲弾のよう。覚醒のロジーが構えたクレイモアで迫る超大型マテガイにフルスイング。強打を込めつつ振り抜いて硬い殻を突き破った。
「中身は柔らかいからな。今の私でも十分だ」
レオンが割れている殻の部分に金色鉞を滑り込ませた。こうして超大型マテガイが仕留められる。
「リアルブルーには野球という球技があって、確かこういうのをホームランっていうのですわ」
屈んだロジーが超大型マテガイの欠けた殻を拾う。超大型マテガイの殻は茶色を通り越して黒っぽい色をしていた。
三人で協力し、残り二体の超大型マテガイも日暮れまでには倒しきる。
ちなみに超大型マテガイの身は天日で干してもあまりに大味でとても不味かった。
●
カハイがいっていた通り、巨大マテガイの発生を知らずに海水浴場へやって来る客は少なからずいる。
早朝にハンター達が巨大マテガイが砂浜にいないことを再確認。これまで迷惑を鑑み、今日と明日の海水浴場は入場無料の大盤振る舞いとなった。
浜茶屋の売り子達によって流木などの砂浜掃除は済んでいる。巨大マテガイが残した砂穴もちゃんと埋められているので海水浴客が怪我をする心配はない。こうしてミシナ海水浴場に去年の活気が戻ってきた。
ハンター達の興味は食材としての巨大マテガイに移っている。その日、レオンが昼食がてらの試食作りに挑戦した。
「これのために綺麗な貝殻をとっておいたのです。できあがるのが楽しみですね」
レオンは縦半分に割った貝殻を鉄板にのせて干した身を並べる。そこへ白葡萄酒と刻んだ野菜を投入。残り半分の殻を蓋にして酒蒸しにしていく。
「期待通りにいくとうれしいのですが」
戦いの際に空いてた殻穴から吹き出る蒸気を見守って十五分が経過。頃合いだと感じたレオンが鉄板から下ろす。
浜茶屋の片隅でハンター達とカハイが巨大マテガイ殻の皿を囲む。
「うん、うまいな」
最初に食べたザレムが太鼓判を押す。
「よかった。想像通りの味に仕上がったようです」
レオンが酒蒸しを噛みしめる。ちょうどよい塩加減に歯ごたえのある身。白葡萄酒によって旨味が素直に引きだされていた。
「みなさんの説得で巨大マテガイの身を食材として扱うのはすでに決めていましたが……このメニューはとてもよいですね」
「そうでしょう。新しい名物としてお客さんに提供してみてはどうです?」
レオンはカハイに浜茶屋で扱ってみてはと薦める。
調理法そのものは難しくはない。カハイが早速お品書きに加えてみると大好評。昨日干した分の身を使い切ってしまう。
そこでハンター達は柵向こうの砂浜で新たな天日干しの身を用意したのだった。
三日目の朝食をザレムが作る。
「さて、ここからが本番だ」
料理なら任せろと包丁セットをバリバリと開いた。よく研いだ包丁で干した巨大マテガイの身を切っていく。
「こうしてみると白っぽい色といい、まるでイカの身のようだな」
食べやすい大きさに切った身を眺めてザレムは思いついた。浜茶屋では海鮮焼きそばが売られている。この身を使ってみたらうまいのではないかと。
ザレムは浜茶屋の調理人に麺やソースをもらってマテガイ海鮮焼きそばを完成させた。
「へい、らっしゃい。焼きたてだよ」
そんな冗談をいいながらザレムがテーブルまで皿を運ぶ。マテガイ海鮮焼きそばの美味しそうなにおいが辺りに漂った。
「美味しいですの。特に歯ごたえがっ!」
「普段使っているイカよりも断然いいですね」
ロジーとカハイが嬉しそうに焼きそばを頬張る。
「これも売って、減った収入の穴埋めしないか?」
自らも食べてにやりと笑うザレムは満足げだ。
昼食時も挑戦。水で戻した天日干しの身を炭火で炙ってラーメンの具にする。マテガイ海鮮焼きそばとマテガイラーメン、どちらも新メニューとして採用された。
「ビールビール……っと」
「私ももらおうか」
夕方、砂浜のザレムとレオンは巨大マテガイ料理を肴にして酒を愉しんだ。
「あ、ずるいですわ」
そこへロジーがやって来る。海辺の赤く染まる夕日を眺めながら、三人はゆっくりとした時間を過ごしたのだった。
そして四日目。ロジーが昼食を担当する。
「あたしのこの、天才的かつアバンギャルドな料理の腕と共に…っ」
早朝、ロジーは色とりどりの果物を抱えて戻ってきた。
「こんなフルーツ、見たことがありません。どこで売っていたんですか?」
「内緒ですわ♪」
地元のカハイでさえ知らない果物ばかり。ロジーが鼻歌まじりに果物を絞っていく。それらを調合して煮詰めたフルーツソースを料理に使う。
マテガイの身をこんがりと焼いてソースを絡める。器はこれまたどこで手に入れたのかわからない大きな二枚貝だ。内側の真珠層がキラキラととても美しい。完成した料理には野で摘んだ赤や黄色の花が添えられていた。
「さ、お食べになって。皆さんも遠慮なく……」
笑顔のロジーがカハイをじっと見つめる。
カハイは息を呑んだ。見た目は確かに綺麗。しかしにおいが嫌な予感を脳裏に浮かび上がらせる。
「えい! ままよ!」
カハイはそれから前後しばらくの記憶を失う。
「ここは……?」
気がついたのは深夜。カハイは浜茶屋の仮眠室で横になっていた。
「とても疲れていらっしゃったのね。それじゃあ早速」
「あ、お腹は空いていませ……」
カハイを看病してくれたのはロジー。彼女が再びマテガイの身で料理を作り始めた。
「これは身体にやさしい料理ですの。元気がでますわ」
親切を無下にはできない性分のカハイはどうにでもなれとロジーの料理を口にする。
「……うまい。美味しいです」
海鮮カルドスープの滋味がカハイの隅々まで染み渡る。海辺で倒れた客に食べさせたいとカハイはロジーにレシピを教えてもらうのだった。
●
こうして巨大マテガイの身は料理に化けて好評を博すようになる。
退治を経てハンター達が思いついた巨大マテガイの捕獲方法がカハイに伝授された。
砂穴の周囲に長い杭を四本打って網を被せる。杭に網の四隅を結びつけたら塩を投入。砂地から現れる巨大マテガイは網によって高く飛ぶことはない。再び潜る前に金槌と太い鉄釘で急所を打てば普通の者でも仕留められた。
ただ超大型マテガイ相手だとこの方法では難しい。それらはハンター達によって退治済みなので少なくともこの夏の間は問題ないのだが。
「来年の海開き前には超大型マテガイ退治を頼むことになると思います。そのときはとうかよろしくお願いします」
一行の去り際にカハイが金一封を贈る。それは依頼料とは別の心付けだ。
「忘れられそうにもないですね。あのような幻獣がいたとは」
「本当に」
「美味かったな」
ハンター一行は帰路の間、何度も巨大マテガイ料理を話題にするのだった。
依頼結果
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面白かった! | 4人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/27 18:16:02 |