濃霧の影――港町ジルバーベラウ救出依頼

マスター:旅硝子

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/07/30 12:00
完成日
2015/08/07 19:25

みんなの思い出

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オープニング

●ベルトルードにて
「まぁダフネさん、今ちょうどお訪ねしようと思ってたのホホホ。ねぇ、ちょっと出掛けない?」
「あらあらいいですねぇユーディトさん。どちらへ?」
「夏だから、海の方なんていいじゃない?」
「なるほどねぇ。……うちのお嫁さんもいいかしら」
「うふふ、女ばかりで羽を伸ばしましょ」
 そんな、ベルトルードの街角で、おばあちゃん2人の会話から。
 あれよあれよと言う間に準備は整って、久しぶりに車庫から引っ張り出したバス風改造魔導トラックで、師団員も商人側も女性ばかりの一団が出発することになったのである。

●海沿いの町ジルバーベラウにて
 空は爽やかな快晴なのに、町の空気は暗く引きつっていた。
 人々は息を潜めるように早足で歩き、用を済ませればすぐさま踵を返す。
 家には固く鍵を掛け、大通であっても往来は僅か。
 1ヶ月に1度ほどやって来るこの町の支配者は、町長でも第四師団でもない。存在したはずの兵士の詰め所は、半ば炭化した骨の転がる無残な焼け跡になっていた。
 ――港に、濃灰色の旗を立てた船が来る。漁の準備をしていた猟師達が、途中であっても慌てて船を出す。
 ほとんど空になった港に、最新のエンジンを積んだ船がすっと素早く入り込む。停泊させた船から、濃灰色の頭巾で頭を包んだ柄の悪そうな者達が、次々に町に散っていく。
 漁師達の詰め所の扉を乱暴に叩いた男女は、おずおずと開いた扉から我が物顔に立ち入ると、やがて女は両手に金袋、男は肩に表情をこわばらせた少年――否、よく見れば男装した女性――を担いで船へと戻って行った。
 酒場では木のグラスが派手に打ち合わされる。ガラスや陶器の食器はとうに全て割られてしまい、真鍮のマグはこの前ウェイターが殴られて大怪我をしたから食器は全部木に入れ替えた。
 酒を注がされていたウェイトレスの1人は、泣きながら酔っ払った巨漢に店の奥へと引っ張られていった。店主はそれを止めることはなく、けれど血が出るほどに唇を噛む――彼の妻と息子は、停泊している船の船底に篭められているはずだった。
 街では闊歩する頭巾の者達が、目に付いた家の扉を叩いては入っていき、そこから怒声や泣き声、何かの壊れる音が聞こえて、やがて手に『戦利品』を抱えて出て行く。それはアクセサリーや金貨だったり、軽く炙った新鮮な魚だったり、時には血の滴る――けれど扉を開けなかった家の末路は、兵士達の詰め所と同じ焼け跡が物語っていた。

 悪夢のような昼夜が三度過ぎ、ようやく濃灰色の旗が、船が去っていく。
 もはや慣れたように黙々と片づけをする人々の表情は、既にまた一ヶ月後の悪夢を思い描いているかのようだった。
「……この海に、英雄はいないんだよ」
 誰かが呟く。それは、ベルトルード周辺地域に伝わる御伽話。百の齢を数えるほどの昔、腐敗した帝国軍の、さらに弱小なる海軍を引きて、あまたの海賊や海の歪虚を倒した英雄の物語。
 英雄なき海に面した街では、その御伽話すらも絶望の糧でしかなかった。

●遭遇
「……暗いですね」
「ええ、暗いわ」
 ジルバーベラウの通りを歩きながら呟いた2人の老女に、着いてきた師団員の1人は首を傾げた。
 さんさんと太陽が照りつける、爽やかな陽気である。
「……街の空気の話ですよ」
「へ、あ、はい」
 隣の女性――オヴェリス商会では調査・企画を担当しているダフネの義娘に突っ込まれて、まだ少女の面影を残した師団員は慌ててこくこくと頷く。
「確かに、大きな通りなのに人もいないし、屋台の1つも出てないし……」
「市場も、ほとんどの店が閉まっていましたし」
 街の入り口から、市場を通り、港へと続く道である。そろそろ港が見えようというところで――絹を裂くような、悲鳴。
「師団長!」
 先ほどの師団員が叫んだ時には、ユーディトは背負っていたトライデントを構え足を速めていた。
「レオニー、テレーゼはダフネさん達を護衛して安全を確保しつつ続いて。イルメラ、フリーダ、ソフィ、走るわよ」
「はい!」
 師団員達の声が唱和する。だが走り出し、あるいは護衛についた彼女達の中で、武器を構えているのはそれぞれ1人ずつだけだ。
 それに疑問の目を向けたダフネ達に、レオニーと呼ばれた師団員が微笑む。その手には、幾分の補強と術式の書かれた手袋がはめられていた。
「ご安心ください。今回同行しているうちの3人は事務担当の師団員ですが……」
 ぱし、と掌と拳を打ち合わせ、安心させるように頷いて。
「税関業務で密輸商人や犯罪者を捕まえるために、事務の師団員は全員素手格闘のプロですから」

 漁師達の詰め所で蛮行に及ぼうとしていた者達を、とりあえずは生かして捕まえようと試みたのだが。
「お、俺達を邪魔していいと思ってんのか!? 人質がどうなっても」
「人質?」
「アタシ達の邪魔をすると、船に捕まえてある人質がどんなめに遭うか……ここから叫べば船に聞こえ」
 言葉を待たず、トライデントが女の喉笛を貫いた。すっとそれを抜くと、まだ事態を理解できていない男も同様に葬り去る。
 沈黙の中に、息を呑む音。やがて――襲われかけていた女性が発した掠れた声は、感謝でも喜びでもなかった。
「な……なんてことをしてくれたんですか……」
 その言葉を予想していたのか、2人を屠ったのと同じように表情を消したまま、ユーディトが振り返る。
「殺しちまった……」
「これがあいつらに知られたら、人質が……それどころかこの街も……」
 ふむ、とユーディトが唸ったのと、ダフネ達を護衛していたレオニーが詰め所を覗き込んだのは同時。
「海賊と思われる一団を迂回してきたので遅くなりました……あの、ダフネさん達入ってもらって大丈夫ですか?」
「ええ、見苦しい所をお見せするけれど」
 僅かに視線を巡らせると、ユーディトは冷静な声で告げる。
「レオニーとテレーゼはダフネさん達を護衛しながら、もしこの場所に海賊どもが来たら防衛。イルメラ、車で最寄のハンターオフィスまで走って緊急の依頼、内容はジルバーベラウから隠密にての海賊排除、そして人質救出。それから別にハンターを雇って、ベルトルードまで転移門で伝令を頼んで。一個中隊を編成しジルバーベラウ防衛任務に……はい、委任状」
「はい!」
「フリーダとソフィは2人で街に出た海賊の排除。優先事項は船への連絡を取られないこと、生死は問わないわ」
「はい!」
「私も遊撃に行っています。ハンターの皆さんも含めて集合はここ。合言葉は師団名の由縁」
「はい!」
「出撃!」
「了解!」
 素早く命令を終え、ユーディト達4人は飛びだして行く。その背を見送った詰め所の職員達が、唖然と呟く。
「第四師団長……ユーディト・グナイゼナウ……?」
 振り向いたレオニーは、彼らを安心させるようににっこりと微笑んだ。

「はい! 私達、第四師団クロイゼルングです!」

リプレイ本文

 染み付いたような血の匂いが、明るい空には不似合いに昏く漂っていた。
 気を付けて、との声は、響かぬよう抑えられて。けれど心からの想いを伝え、天竜寺 詩(ka0396)は別方向へと走る仲間へ背を向けた。既に魔導短電話を持つメンバー全員と通話できるようにセッティングした子機と、バリトン(ka5112)が持参した双眼鏡は、車を運転していた第四師団員イルメラの手に渡っている。街を見渡せる場所へと向かった彼女の中継が上手く行けば、分かれて潜入した者達が連携を取ることも出来るだろう。
 ふ、と立ち上った金色のオーラが、天使の輪と羽根を形作り輝く。覚醒によって飛躍的に高まった身体能力を活かし、詩は感覚を研ぎ澄ませながら街を駆けた。――押し殺した悲鳴が、聞こえる。それを頼りに辿り着いたドアを、蹴り飛ばすように開けた。
「止めなさい!」
 まだ幼げな少女を奥に引きずって行こうとした海賊に、詩は素早く弓を引き躊躇なく矢を放つ。相手の足を、床に縫い止めるように。
「ギャアアアアッ!?」
 床ごと貫かれた足にうずくまる男は、覚醒者ではないのだろうと判断し、詩は次の矢を番えながら家の中を見渡した。青ざめた顔の男女、少女よりもっと幼い少年達――その中でチ、と舌打ちし、腰に差したシミターやナイフを引き抜くのは先ほど無力化した海賊の仲間、男女一人ずつの海賊であろう。
「大人しくすれば殺さないよ」
「ハッ、それはこっちの台詞ね――ぐぁっ!?」
 ナイフを手に少年の1人を引き寄せた女の首筋を、神聖なる光が薙いだ。明らかに致命傷を狙った一撃に、少年にナイフを届かせる前にぐらりと揺れた体が床に伏す。
「お、おい!? ……くそっ!」
 窓から逃げようとしが海賊の足に詩が狙いを定め、次の瞬間足が壁に縫い止められる。
 壁に掛かっていたロープを使う了承を得て、まだ生きている2人の海賊を捕縛してから、詩は2人の見張りを子ども達の両親であろう夫婦へと依頼する。
「私刑は駄目だよ。ちゃんと裁くから、見張りをお願いします」
 緊張した顔で捕縛された海賊達を見つつ頷く夫婦に、ぺこりと頭を下げて詩は次の海賊を探す。――己の魔法で命を奪ったという事実に、奥歯を噛み聖光を放った手を握り締めた。
(人を守る為に人を殺すことは罪なのかな)
 海賊が奪おうとした少年の命と、自分が奪った海賊の命。どちらを奪うのも、罪なのかと詩は思いを馳せる。
(そうだとしても、誰かを救えるのなら罪は負うべき価値が、きっと……ある)
 そう、信じていたかった。
 けれど、彼女はまだ知り尽くしていない。人の心に生まれる、昏い感情を。それが人の善良さを、覆い隠すことも多いのだと。
 ――捕らえておいた海賊達を迎えに来た時、彼らは縛られたまま明らかに暴行を受けた状態で、『自ら舌を噛んで』口から血を流して死んでいた。

 大き目の商店に海賊2名が侵入。そう耳に届いた借り物の魔導短電話での通話に、短く頷いてバリトンは、年齢と巨体からは想像も出来ぬような身のこなしで大路を駆け抜けた。
 イルメラから伝えられた商店の前で、瞬時に脚と神経にマテリアルを行き渡らせたかと思えば、蹴破る勢いでドアを開く。部屋の隅で頭の後ろで手を組み、壁に向かって立たされているのは商店主の家族や従業員だろう。
 その中で、店主夫婦らしき中年の男女に首輪と引き紐を付けて弄ぶように商品を並べさせている途中で、開いたドアに気付いてはっとしたガラの悪い男女2人は。
「あ、お、おお!?」
「な……なによこの、デケェドワーフみてぇなの!?」
 それが彼らの第一声であり、断末魔となった。
 行き渡らせたマテリアルが地を蹴り敵を見る力を高め、駆けたと思えば腰だめに水平に構えた試作雷撃刀が男の喉を薙ぎ。さらに体の脇で刀を返すと、流れるような踏み込みと電光石火の如き下からの切り上げ。
 ――僅かに刃を止め、囁いた『さざなみ』の言葉に女は反応しなかった。第四師団員であればその言葉に反応しないはずはない、『さざなみ』の古語クロイゼルングは、第四師団の別称であり、今回の合言葉でもあるのだから。
 斬り裂かれた傷は、瞬時に流れた高圧電気で血が出ぬよう塞がれていたが、一撃で命を奪ったのは確実であった。
「やれやれ、こういう馬鹿どもの性根は文字通り叩き潰したいもんじゃがな……直るまで」
 だが、無辜の命が危険にさらされているならば……優先するのは、やはり街で日々を紡ぎ生活する人々の命。
「見苦しいものを残してすまんの。あとで片付けに来る」
 そう言い残し外に出ると、途端に入る次の連絡。再びバリトンは、巨大なる疾風となり街を駆ける。

「世に海賊の種は尽きまじと言う物の、これはひどいのう」
 ミグ・ロマイヤー(ka0665)は肩を竦め、ぬらりと金属光を放つシザーハンドを軽く鳴らすと、建物の影を伝い身を隠した。
 以前の依頼で仲立ちしたユーディトとダフネが仲良く視察という様――知った時には驚いたというか正直「軽っ」と思ってしまったわけ、それはそれとして橋渡しした身としては嬉しくて。
 今後の展開に期待が持てとう考えたところでこの緊急依頼であった。
「人使いが荒いのう、まったく元技術将校じゃというのに」
 肩を竦めるミグは、けれど見た目に見合わぬ年齢と、老獪さを兼ね備えて。
 港の方にある漁師の詰め所を目指しながら、騒ぎが起きているだろう方向へ進んでいく。家から少女が、巨体の満足げな笑みを浮かべる海賊に腕を掴んで引き出された瞬間、声も挙げられず絶命した。
 影から蔭へと潜んでいたミグが、飛び出したかと思えば関節の裏を蹴り飛ばし、しゃがんだところで口を塞ぐとそのまま首を掻き切り――崩れ落ちた死体を、近くの茂みへと皆に見えぬよう放り込んだ。
 呆然とそれを見つめてから慌てて礼を言う少女の頭を、ぽんと叩いてから再びミグは走り出す。もはや何度も繰り返された海賊退治の末――詰め所が、見えてきた。

 詩とバリトン、それにミグが街の海賊達を片付けていた頃、時音 ざくろ(ka1250)とステラ・ブルマーレ(ka3014)、そしてレベッカ・アマデーオ(ka1963)の姿は水中にあった。
「優しき流れに蕩う水よ……、水渡る加護を!」
 ステラが祈りを捧げてから、レベッカとざくろに続いて身を海へと躍らせる。
 街を襲う海賊船に乗り込んで、人質を救出し海賊のお頭をとっ捕まえる、それはまさに冒険というに相応しいだろう。
(町の人々への非道な行い、絶対に許しておけないもん!人平和を守るのも、冒険者の使命だからっ)
 きりっと表情を引き締めるざくろの隣をレベッカが泳いでいく。
 ――さっさと片付けよ? 放っておいていいものでもないしさ。
 海に潜る間に言ったそのセリフから、普段のレベッカを知る者なら気付くであろう。彼女が、妙に明るくしていることを。
 その様子を見つめてふと物思うのは、ステラだ。
 海賊には悪い人達が大勢いるけれど、良い海賊もいるとステラは思う。自分達の縄張りを守る為に外的と戦う海賊達――断例えばレベッカのような海賊達がいるから、海賊すなわち悪とは思えないが――今ジルバーベラウで行われているのは、ただの蛮行であり悪徳に他ならない。
 街とは反対側の舷側後部に回り込み、入れそうな窓の位置を確認する。ステラがウォーターウォークの効果で水中に立つと、隠れながらその窓を覗き込み、誰もいないことを確認してロープを引っ掛けた。
 その間にレベッカは、船の大きさと喫水線から階層の数を確かめ、ざくろがロープを受け取るとしなやかな身のこなしで部屋へ入り込む。続いてステラ、そしてレベッカと部屋に入ると、声を潜めレベッカが目を細めた。
「基本的に扉なんて上品なモン無いから気を付けてよ?」
 足音を殺し、次の部屋を覗き込んで頷く。やはり略奪に出かけている海賊が多く、また大抵は甲板や自室でくつろいでいるのだろう。
 それとは逆に、彼女達が向かうのは恐らく人質がいるであろう下層部――だが、見張りの交代でもあろうか、下に続く階段のある部屋で、3人ほどの海賊達が話しながら階段を上ってくるのが見える。
「……誘い出して、あたしより先まで」
 ざくろとステラに短くそう告げると、闇に紛れるようにレベッカが部屋の影に姿を隠す。軽く頷くと、ステラはすっと霊槍グングニルを構え、唇に呪を乗せる。
「戒め解き放たれし風よ……、轟け!」
 渦を巻いた風が作り出すは雷鳴、狭い階段を真っ直ぐに飛べば、そこにいる3人全員巻き込むは自明。
「なっ!?」
「侵入者か!?」
 男の一人が出そうとした呼子を、即座に接敵したざくろがパリィグローブで叩き落とす。そのまますっと後ろに下がり、呼子を踏んで壊してから、レベッカの隠れた場所を通り過ぎるよう誘導し――一番後ろの男が通り過ぎた瞬間、レベッカが動いた。
 後ろから口を塞ぎ、脇から首にナイフを突き立てる。そのまま自分と位置を入れ替えて部屋に放り込むと、間髪入れずその前にいた男も同じように始末する。
 ステラのスリープクラウドが完成したのは、その時だった。
「根源たる悠久の魔力よ……、深き眠りに誘え!」
 小声で唱えた呪文は、けれど確かな効力で先頭の男を捕らえる。伏した男にナイフを突き付けたレベッカに、はっとしてざくろがストップをかける。
「……何? ここでこいつら黙らせなけりゃ、人質まで危ないんだ」
「寝てるから、しっかり拘束しておけば大丈夫……情報、もらわなきゃだし」
 少し考えて、レベッカは頷くとざくろと共に男を縛り上げ、ステラが口に布を詰めてさらに猿轡をかける。
「……この下……だろうね」
 ステラの言葉に、2人が頷いて。
「街の人達の笑顔の為にも、絶対に助けなくちゃ」
 ざくろの言葉が、暗い階段に溶けていく。
 扉の外に、見張りはいなかった。扉に鍵はなく、そっと覗けば男1人、女2人の見張りらしき者達が、退屈そうにしながら人質達を弄んでいた。
 男はにやつきながら、もう抵抗する気力もないような少女の体を撫でまわし、女の1人はうろうろと歩きながら鞭を振るって気まぐれに人質達を打ち据える。最後の1人は、興味がないというように椅子の上で地図を眺めるのに没頭している。
 ざくろとレベッカの視線に、ステラが頷いた。――多数を同時に相手取れるのは、ステラの魔法だ。
 出来る限り3人が近づく時を狙い――ステラが口にした呪が、眠りに誘う雲となり、男と鞭の女を眠らせ倒す。
 椅子から立ち上がった女に、ざくろは即座に駆け出した。人質たちが道を空けようと苦慮する中、ジェットブーツで一気に椅子の女と距離を詰めると、鳩尾に拳を叩き込み――かけて、すっと横にずれて避けられた。
「覚醒者っ……!」
「そうだよ?」
 そう悪びれずに言った女は、良く見ればまだ少女めいていて、けれど身のこなしはハンター達の中でも中級以上の者と互角に戦えるだろうと思わせた。レベッカが戦況を見極めるように目を細めると、眠りに倒れた2人の傍に居て喉を掻き切り後顧の憂いを断つ。
 ざくろと戦いながらも、時折遊ぶように人質を狙おうとする女の攻撃を、ざくろが必死に食い止め、エレクトリックショックを剣に纏わせて着実に傷を刻んでいく。それでも庇い切れない攻撃は、ステラがその身とグングニルで受け止めた。
 接戦になってしまえば、範囲魔法を使うのは難しい。グングニルで攻撃を捌き、時に攻撃を加えて撹乱するのがめいっぱいで――だが、レベッカが背後から加わり戦況は好転した。余裕のなくなった相手がハンター達への攻撃に集中したため、かえって注意が分散しなくなったのだ。
 ――やがて、ざくろの剣が女の心臓を貫き、倒れ伏す女海賊を見る人質達の目に、光が戻ってくる。
「助け、が……?」
 安心させるように笑みを浮かべて、三人が頷いたと同時に魔導短電話が鳴り響いた。
「街の制圧ほぼ完了、ユーディト師団長とハンターさん達の4人が、港へと向かっています」
「了解、こちらも人質の救出に成功、あとは防衛と船長撃破っ!」
 ラストダンス――スタート。

 先に詰め所に向かい、師団員達と合流したミグは、状況を把握してからユーディト達と合流し、集団で略奪に及ぶ海賊達の制圧を終えていた。
「ミグちゃん、あなたの三角光線からの斬り込み、いいわねぇ、変幻自在」
「そなたの槍技も大したものではないか、それに師団の練度も上がっておるようじゃの?」
 緊張感の中にも言葉を交わしつつ、さらにバリトンと詩とも合流し、詩の癒しを受ける間にイルメラと連絡を取ったバリトンが、僅かに残る海賊が船に逃げ込もうとしていると口を開く。
「では、港と街の境目で迎撃かの?」
「そうじゃな、それが終わったら、船の方を援護じゃろか」
 頷き合い駆けながら、詩はユーディトへと問う。
「ねぇ、生きて捕らえた海賊も、余裕があったら治療していいかな?」
 ――海賊だって仲間が怪我したりしたら悲しいだろうと、それと同じ思いを街の人にさせてきたと理解してほしいと、言った詩にユーディトは優しく目を細める。
「詩ちゃんは、とても優しいわ。その優しさが、通じればいいのだけれど……」
 笑みを浮かべたままで、ユーディトは小さく溜息をついた。
「最初は生きるためであっても、非道を続けていくうちに、人の心は染まるのよ。仲間すら、大切に思わないほどに」

 甲板。
「逃がさない……街の人の苦しみは、こんなものじゃ無かったんだぞ!」
「お前等みたいなのが存在すること自体、本ッ当に迷惑なんだよ! マスケンヴァルの最下層で後悔しろ!」
 ざくろとレベッカの攻撃と叫びが、交錯する。
 この船長は、船の責任を一身に預かり、信頼を集め、行く先を決め、いざという時は乗員を逃がした後に船と運命を共に――そのような船長像とはかけ離れていた、ただの俗物であった。
 覚醒者ではない船員達を引き受け、階下に繋がる階段を守っていたステラも、怒りを禁じ得ぬほどの。
 力こそ強くはあったが、順調に他の海賊達を始末して人質の安全を確保し戦えば、そして、
「手伝いに来たよ!」
 舷側に下ろしておいた縄梯子を登り、ハンター達が全員揃えば――!
 満身創痍で海に飛び込み逃げようとした船長に、全員が追い打ちをかける。船べりから落ちた船長はやがて水に浮かび――顔を上げることは、なかった。

 ベルトルードには、海の英雄の伝説がある。かつて弱小だった第四師団を精強な海軍に育て上げ、海の安全を作り出し、けれど歪虚との戦いで英雄が死に全ては水泡と化した。
 英雄の名は、女提督エーファー。
 この地を訪れるハンター達は、伝説に再び命を吹き込む存在になるのかもしれない。

 だが、この海賊達も船1隻の勢力ではなく、さらに大規模な海賊団であることが明らかになった。
 彼らの名は、海賊団ネーベルバンク――『濃霧』。

依頼結果

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MVP一覧

  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオka1963
  • (強い)爺
    バリトンka5112

重体一覧

参加者一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオ(ka1963
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 海と風の娘
    ステラ・ブルマーレ(ka3014
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/26 21:59:21
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/07/29 22:43:33