夏の夜を楽しもう!(夜)

マスター:星群彩佳

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
8日
締切
2015/08/09 07:30
完成日
2015/08/22 20:43

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 白いサマーワンピースを着たルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)と、夏用のメイド服を着たフェイト・アルテミス(kz0134)は、完成したばかりの別荘に移動した。
「大人数が泊まれる用の貸別荘が一つに、少し離れた森の中に少人数用のコテージをいくつか建てたけど、充分よね?」
「はい。貸別荘はお屋敷ほどの大きさがありますし、コテージはお一人様からでも使えるようになっております。使用人達はお屋敷にしか滞在できませんが、コテージはそれほど不便があるとは思えませんので」
「そうよね。夕食もバーベキューとかだったら別に料理人なんていらないしね。ハンター達は自炊の方が良いかも」
「でもせっかくですので異国の物になりますが、浴衣や甚平を準備されてはいかがでしょう? 夏らしくて良いと、評判が良いようです」
「ああ、ハンター達の中にはそっちの方が着慣れている人もいそうだしね。それじゃあ用意しときましょうか」
 ルサリィはソファー椅子の上にピョンッと飛び乗り、ため息を吐く。
「はあ……。結構用意する物が多くて大変だわ。他に何か気にかけることはあったかしら?」
「そうですね。貸別荘の方には露天風呂があることと、山の中でホタルが見られることは重要かと。そして夜の海岸で、花火をすることもオススメできますね」
 フェイトは思い出しながら意見を言う。
 指折り数えていたルサリィは、ふむっと頷いた。
「温泉が出たのは良かったわ。ホタルも街の中では見られないしね。海岸で花火をするのも楽しそうだわ」
「ですがその……ルサリィお嬢様はいいのですか?」
 不意にフェイトは心配そうに、主人を見つめる。
 その視線の意味に気付いたルサリィは苦く笑う。
「わたしが子供らしく夏を過ごしていないことが不安なのね。でも大丈夫よ。お父様とお母様がそろってお屋敷にいる時は、ちゃんと十歳の子供に戻るから。それまでは仕事をしていた方が気が楽だし、楽しいの」
 多忙な両親はなかなか一人娘と共に過ごす時間が取れず、ルサリィはそれまで屋敷で待つ身となっている。
「それに、ね。こうやってフェイトと一緒にいろいろな所に行くのも楽しいのよ? 今日だって日帰りだけど、遠くまで来れて嬉しいんだから。普通の貴族の子供だったら、遠出なんて滅多に許されないし。そしてハンター達と関わるのも、刺激的で良いわ。普通の人からじゃあ得られないものが、たくさんあるしね」
 ルサリィがクスクスと思い出し笑いするのを見て、フェイトはヤレヤレと肩を竦めた。
「ルサリィお嬢様が楽しければ良いのです。私はどこまでもお付き合いいたします」
「ありがと♪ さて、それじゃあハンター達に楽しく過ごしてもらう為の準備をはじめましょうか」

リプレイ本文

☆それぞれの夏の夜

 森の中にあるコテージの一つは、人がいるのに灯りはついていない。
 リビングルームの窓を開けて、満月を見上げているのは和服姿の榊兵庫(ka0010)と日下菜摘(ka0881)だ。
 兵庫は紺色の生地に白の格子柄の甚平を着ており、菜摘は白い生地に色とりどりの朝顔柄の浴衣を着ている。
 氷水で冷やした瓶入りの冷酒を、美しいガラスグラスに注いで飲んだ兵庫は「ほぅ……」とため息を吐く。
「満月を見上げながら波の音を聞きつつ酒を飲むなんて、随分と久し振りの事だ」
「うふふ、そうですね。やはり夏は海へ来るのが、楽しいものです。でも実際に来たのは、学生以来だったかもしれません。今日は誘ってもらって感謝しています、兵庫」
 菜摘はにっこり微笑み、海でとれた魚や貝、イカやタコなどを調理したおつまみをのせた皿を兵庫の前に差し出す。
「んっ、美味いな。……男達と酌み交わす酒も良いものだが、こうして菜摘と二人っきりで飲む酒が格別だ。お互い普段はハンターとして忙しい身だし、これからこういう機会は滅多にないのかもしれないな。だからこそこの一時を、大切に過ごしたいと思う」
「兵庫……。ええ、こういう場所であなたとのんびり過ごすのは、悪くないです。それが好きな人相手ならば、尚更ですし」
 菜摘はそう言うと自分のガラスグラスを両手で持ち、一気にグイッと飲む。
「……ふぅ、お酒が美味しいです。兵庫と二人っきりだと、つい飲み過ぎてしまって困りますね」
 熱っぽい吐息をもらしながら、菜摘は兵庫の肩にもたれかかる。
 兵庫は柔らかな表情で、菜摘の顔にかかっている髪を優しい手つきでよけた。
「あまり飲み過ぎるなよ? 今回の依頼で、英気は養えた。明日からまた、仕事を頑張らなければいけないんだからな」
「分かっていますよ。本当に真面目な人なんですから」
 口ではそう言いながらも、菜摘は甘えるように兵庫に体を預ける。
「……そろそろ酒がなくなってきたな。俺は休むが、菜摘はどうする?」
「まあ、女性にそういう事を聞きますか?」
 菜摘は少し拗ねた顔をしながら、兵庫の唇に人差し指を当てた。
 そんな菜摘の行動に、兵庫はクスッと笑みをこぼす。
「無粋だったな。それでは共に寝室へ行こうか?」
「はい。あっ、ちゃんと窓は閉めてくださいね」
 兵庫は窓を閉めると、菜摘をお姫様抱っこをしながら立ち上がった――。
 

 別のコテージの寝室では軽食と飲み物を載せたテーブルをはさみ、月野現(ka2646)と櫻井悠貴(ka0872)が向かい合ってソファ椅子に座っている。
「この前悠貴と一緒に行った海の家の料理は、なかなか良かったな」
「ええ。それにここの海の幸を使ったお料理も、とても美味しいです。現さんと二人でのんびり過ごすのも、良いものですね」
 悠貴は胸元が少し開いた白く薄いネグリジェを着ており、ニコニコしながらシーフードピザを食べている。
 黒いTシャツとハーフパンツを着ている現は、目の前にいる愛おしい恋人と海へ行った時のことを思い出す。
「そういえば、悠貴の水着姿は綺麗だった。今のネグリジェ姿も魅力的だがな」
「んぐっ……! いっいきなりそういうことを言わないでください。……ただでさえ現さんと二人っきりのせいで、胸のドキドキが止まらないというのに……」
 プイッと顔をそむけた悠貴は、フルーツアイスティーを飲む。口には出さないが、悠貴も今の現が魅力的に見えてしまっているのだ。
 そんな悠貴の仕草に、思わず現の表情が緩んだ。
「ああ、突然悪かった。――束の間の休息に何を求めるかは人それぞれだが、『夏の夜を恋人と過ごす』というのは全世界共通だと思ってな。まあ季節のイベントに恋人との大切な思い出があるというのも、全世界共通なんだろうな」
「……そういう言い方はズルいです」
 悠貴は頬を赤らめながら立ち上がると、現の膝の上に乗って身を寄せる。そして潤んだ瞳で、現を見上げた。
「……二人っきりでいるここならば、誰の目にも映ることはありません。だからいつもよりも、現さんに甘えていいですか? 今はあなたと触れ合いたいです……。もっとその……近付きたいのです」
 恥ずかしそうに照れながらも必死の悠貴のおねだりに、現の胸が高鳴る。だが男のプライドをかけて、必死に平静を装う。
「随分と魅力的なお誘いだな。だが触れ合うことで、様々な不安が無くなるということもある。……今夜は悠貴の不安を忘れさせてやるよ」
「はい……。お願いします」
 現は悠貴の額に口付けをして部屋の灯りを消すと、お姫様抱っこをしてベッドまで運ぶ。そして悠貴の片手を握り締め、もう片方の手で茶色の髪を撫でながらキスをした。
 

 貸別荘の前では、白い生地に格子柄の浴衣を着たビスマ・イリアス(ka1701)が立っている。
「お待たせ」
 そこへやって来たのは、紺色の生地に白百合柄の浴衣を着たリューナ・ヘリオドール(ka2444)だ。
「リューナの浴衣姿は新鮮だが、良く似合っているな」
「ありがと。ビスマも渋いわよ」
 二人はクスッと笑い合った後、共に歩き出す。黙っているがいろいろな思いを抱きながら、ウィクトーリア家の使用人から聞いた場所へと向かう。
 そこは山の中にある川辺で、今は大量の蛍の光を見ることができる場所。
 リューナは目的の場所に到着すると、風を受けて気持ち良さそうに眼を細める。
「山と川のおかげで、風が涼しくて良いわね。蛍もとても綺麗……」
「そうだな。何と言うか……幻想的な光景だ」
 どこか寂しげな表情を浮かべるビスマから、リューナは視線をそらした。
「……蛍は亡くなった人の魂を運ぶと言われているけれど、やっぱりビスマは奥様に……」
「そうだな。亡き妻に会えるものなら会ってみたいが……。リューナも……いや、何でもない。今はとりあえず、この美しい光景を目に焼き付けよう」
「ええ、そうね。今はこの時を楽しみましょう」
 リューナの頭の中には一瞬、亡き恋人の姿が浮かんだがすぐに消える。何故なら隣にいるビスマの存在を、今は強く感じているからだ。
 そして肌寒く感じた頃に、二人は蛍に背を向けて貸別荘へ歩き始める。
 玄関ホールに到着すると、二人はブルッと身を震わせた。
「ふう……。夏とはいえ、夜の山の中は冷えるわね。露天風呂にでも入ろうかしら?」
「そうだな。あるいは酒でも飲んで寝るか……」
 そこで二人は『部屋で一緒に酒を飲もうか』、という誘いを思いつく。
 しかしいざ顔を見合わせると、何故かお互いに一歩後ろに下がる。 
「そっそれじゃあ私は露天風呂に行くわね」
「あっああ。俺は使用人に酒を用意してもらって、部屋で飲むことにする。おやすみ」
「ええ、おやすみ」
 笑顔で二人は別れたものの、相手の顔が見えなくなると同時に重いため息を吐いた。
「私ったら、何をやっているのかしら。恋を知ったばかりの乙女じゃあるまいし……。スマートに誘えば良かったのに」
「ったく……。俺はいい歳して、何をやっているんだ? 飲みの誘いぐらい、大人なら普通のことだろうに……」


 貸別荘の露天風呂に入り、先に上がったレオン(ka5108)は黒い浴衣を着て、玄関ホールの椅子に座って待っている。
「レオン、お待たせ。着付けに時間がかかってしまった」
「あっ、師匠! その浴衣、とっても似合っています! 綺麗だ……」
 うっとりしたレオンの視線の先にいるのは、ルシール・フルフラット(ka4000)だ。黒い生地に花火柄の浴衣を身に着けて、髪は結い上げている。
「レオンもその浴衣、良く似合っている。随分と大人っぽく見えるな」
「ほっホントですか? 嬉しいです! あの……それなら今夜だけ、ルシールさんとお呼びしてもいいですか?」
 レオンに上目づかいで頼まれては、ルシールは断れない。
「良いだろう。しかしその分、しっかりとエスコートしてくれ」
 ルシールが手を差し伸べると、レオンは恭しく握った。
「それじゃあ行きましょうか。……ルシール、さん」
 レオンの誘いで、二人は蛍を見に行くことになっている。
 月明かりが照らす夜道を、二人は並んで歩いた。
「暗い道なので、気を付けてくださいね。場所は使用人の方に聞いたので、俺がしっかりと案内しますから!」
「ああ。頼りにしている」
 そうして蛍が生息している場所へ到着した二人は、美しい光景に喜び驚く。
「ルシールさん! スッゴク綺麗……」
 はしゃいだレオンはしかし、ルシールを見て言葉を失う。
「ん? どうしたレオン?」
「あっ、いや……。その、本当に綺麗だなぁって」
「ああ、そうだな。蛍の光は美しくも儚いが、一生残る思い出になる」
 ルシールは蛍を見入っていたが、レオンはそんな彼女に見入っていた。
「――さて、そろそろ戻ろうか。ここからコテージまでは、距離があるしな」
「へっ!? あっああ、そうですね……」
 帰り道はルシールが前を歩き、手を繋がれたままのレオンは真っ赤な顔で俯いたままだ。
 そしてコテージに入るとすぐに寝室へ行き、二人は別々のベッドに入る。ルシールは背を向けているレオンの姿を見つめて、嬉しそうに眼を細めた。
(……いつの間にか、私とほとんど身長が変わらなくなったな。男の子は成長が早いと言うが、中身はまだまだのようだ。だが師匠としてこれからが楽しみだ。ちゃんと一人前の男に鍛えなければ、な)
 ルシールは満足げに眠ってしまったが、レオンは彼女を意識してしまい、結局朝までろくに眠れなかった。


 コテージの中で雨宮紅狼(ka2785)は用意してもらった浴衣を見て、遠い目をする。
「浴衣か……。懐かしいな。元いた世界ではよく見かけたものだが、こっちの世界では珍しい衣装になっているんだよな」
 シミジミ言いながらも、黒い生地に白い流水柄の浴衣に袖を通して着崩す。
「まっ、俺はこんなもんで良いだろう。後は……」
「紅狼! 浴衣ってどうやって着んの?」
 ルシエド(ka1240)は藍色の生地に金魚柄の浴衣を、何故か頭からかぶって来た。
「……しっかり着付けてやるから、大人しくしていろ」
 紅狼は浴衣を取り上げると、あっと言う間にルシエドに浴衣を着付ける。
「うわっ、足がスースーする! 浴衣って面白い服だな!」
「あんまりはしゃぐと着崩れるぞ。これから海辺で花火をするんだろう?」
 紅狼は使用人に用意してもらった色々な種類の花火を持ち上げて、ルシエドに見せた。
 するとルシエドはピタッと静かになり、自分も花火を抱えながら夜の海辺へ二人は移動する。
「火をつけた花火は危ないから、自分や他人に向けるなよ。しっかり持ち手を握って……」
「おおっー! 手持ち花火ってすっげぇ良いな! 打ち上げ花火は見たことあるけど、こういう花火は生まれてはじめてだぜ!」
「注意しているそばから聞いていないなっ!」
 ルシエドは両手に花火を持ちながら、クルクルと回っていた。
 やがて火花が小さくなった花火をルシエドから取り上げて、水を入れたバケツに紅狼は入れる。
「今は俺だけだからいいが、他の人がいる場所では絶対にやるなよ? それともう浴衣が着崩れている。俺みたいな着方は大人になってからするもんであって、子供のうちはしっかり着ていろよ」
 注意しつつ紅狼はルシエドの浴衣を直すも、拗ねた声が聞こえてきた。
「俺、別に女じゃねーし、肌見せたっていいし。着崩した方がカッコイイじゃん」
「大人は花火を振り回さないものだ」
 ドスッと軽く頭にチョップをされて、ルシエドはフグのように頬を膨らます。――しかしその後も花火を続けていくうちに、機嫌は回復した。
 そして花火をやり終えるとコテージへ戻り、ルシエドは紅狼のベッドの中に潜り込む。
「紅狼、今夜は楽しかった! 明日は露天風呂に行こうな♪」
「ああ。……ったく、子供の体温はあっついんだよ」
 言葉ではそう言いつつ、紅狼は微睡みはじめたルシエドの体を引き寄せた。


 使用人から手持ち用のランタンを借りた龍華狼(ka4940)と鬼百合(ka3667)は、二人並んで山の中を歩いている。
「俺は昔っから山の中を歩いてきたが、この山は割と安全だな。オバケとか出たら、肝試しに使えると思ったんだが……」
 橙色の生地に鬼灯柄の甚平を着た狼は、残念そうに肩を竦めた。
「確かに悪いのはいねぇみてぇだが、逆にオバケや熊なんか出たらウィクトーリア家のこの商売がヤバくなるでさぁ」
 呆れながらため息を吐いた鬼百合は、紺色の甚平を着ている。しかし履き慣れていない草履のせいで、山道に足を取られてしまった。
「うわっ!」
 だが咄嗟に狼が鬼百合の腕を掴んで、引っ張り寄せる。
「おっと。鬼百合は草履と山道に慣れていないようだな。何だったら手を繋いで、俺が前を歩いてやろうか? 何せ俺は隊長だからな!」
「いつからお前が隊長になったんですかぃ。……でも山道に慣れていねぇのは本当でさぁ。とりあえず今は頼む」
 鬼百合がぎゅっと手を握ってきたので、狼は満面の笑顔で歩き始めた。
 そして蛍の生息地に到着した二人は、幻想的な風景に眼を細める。
「うわぁ……! コレはスゴイでさぁ。キレイですねぃ」
「そうだな。人が今まで訪れなかっただけはあって、自然が生きている」
 二人はしばし蛍に見とれていたが、やがて狼は姿を消した母のことを思い出す。
(母さんに鬼百合の事を、『俺のマブダチでライバルだ!』って紹介したいな……)
 隣にいる鬼百合は、眼をキラキラと輝かせながら蛍を見ている。
(……一匹ぐらい、捕まえられないかな?)
 ふとそう思った狼は手を伸ばすも、ズルッと足を滑らせて川へ落ちた。
「うぎゃあっ!」
「はっ!? 何いきなり落ちているんでさぁ!」
 鬼百合は突然狼が川へ落ちたことに驚くも、すぐに助けに行く。
「……死ぬかと思った」
「膝上までしかない川で、どうやって死ぬんでさぁ? これだからカナヅチは……」
 ブツブツ言いながらも、鬼百合は狼の手を繋いでコテージへ向かう。
 川へ落ちた時に慌てて全身ずぶ濡れになった狼に対して、冷静に川へ下りた鬼百合は膝上までしか濡れていない。
「ううっ……。鬼百合、ワリィ」
「まっ、オレもさっき助けられましたしねぇ。マブダチなら、お互い助け合わないと」
「……ああっ!」
 ニヤッと笑う鬼百合を見て、ようやく狼の表情に笑顔が戻った。


「ふう……。良いお湯でした」
 貸別荘の露天風呂から出てきたのは、藍色の生地に菖蒲柄の浴衣を着た雨月彩萌(ka3925)だ。
「日頃の疲れを癒す為に参加した依頼ですが、運良く女性専用時間に一人で露天風呂に入れました。貸し切りでゆっくり入れるのは、至福の時でしたね」
 満足げに部屋へ向かっていた彩萌はしかし、とある気配に気付く。
「……そこですっ!」
 そして風呂上がりに飲もうと思っていたコーヒー牛乳の瓶を、廊下の角に向けて投げた。
「ごはっ!?」 
「よしっ! 変態に命中しました」
 グッと握り拳をつくった彩萌の前に、廊下の角から兄の雨月藍弥(ka3926)が転がり出てくる。黒い浴衣を着ている藍弥の手には、デジタルカメラがあった。
「くぅっ! せっかくのシャッターチャンスだったのに……! 彩萌の振り向きざまの殺意に満ちた瞳の美しさといったら、黒曜石も霞むほどの……」
「まだ言いますか」
 スタスタと歩いて近付いた彩萌は、床に倒れている藍弥の背中をドスッと踏みつける。
「何故ここにいるんですか? 同じ依頼に参加したまではいいですが、別行動をしましょうと言ったはずですよ? そもそもリアルブルーから持ち込んだデジカメを、あまり使わないでください。こちらの世界ではカメラという存在はないんですから、貴重品なんですよ?」
「そっそうは言いましてもね。露天風呂から上がったばかりでしっとりと濡れた天使……いや、女神のような美しい彩萌を撮らないなど、私には耐えられないことでして……」
「わたしにはあなたの存在が耐えられません」
 いろいろな意味ですっかり冷めてしまった彩萌は、腕を組みながら考えた。
「……このままあなたを放っておけば、わたしが入った後の露天風呂を無理やり独り占めしそうですね。わたしとあなたが兄妹であることは同業者は知っていることですし、恥になる前に何とかしますか」
「えっ?」
 ――そして貸別荘の柱の一本に藍弥は縄で括り付けられたが、彼の表情はとても嬉しそうだった。
「はあ……。ようやく落ち着けました」 
 一人部屋に戻った彩萌の手にはうちわがあり、開けた窓近くの椅子に座りながら夜空を見上げている。
「あの空にわたしの居場所があったのならば……。今思うと、感慨深いですね」
 夜風にふかれて、彩萌はようやく微笑みを浮かべた。


「ふう……。夜の海で花火をしたり、山で蛍見物をすることは、恋人がいれば楽しめたんだろうけどな。……独り身には冷たい場所だ、ここは」
 紺色の浴衣を身に着けて、貸別荘の周辺を散歩しているオウカ・レンヴォルト(ka0301)はがっくりと項垂れる。
 しかしそんなオウカの頭の上で同行してきたペットのパルムのポムが乗っかり、ペチペチと額を叩く。そして肩には同じくペットのイヌワシの雪丸がとまる。オウカの体を囲い護るように、何かの気配が降り立つ。
「ポム、雪丸、ツクヨミ様……。そうだな、俺にはおまえ達がいたな。元いた世界では一人だったが、今はそうではない。一緒にいてくれるモノが人外であっても、嬉しいものだな」
 オウカは微笑みながら、月の光が照らす夜道を歩き続けた。


 同時刻、露天風呂は女性専用時間になっており、四人の女性ハンターが入っている。
「すっかり日が暮れてしまったな。それでも楽しめることが多いのが、夏の夜の良いところだな!」
 ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は露天風呂を堪能しており、満足げにため息を吐いた。
「大王たるもの、身を清めることは大切だからな。気持ち良い露天風呂に入り、ボクは上機嫌なのだ♪」
 ディアドラが鼻歌を歌う隣では、リンカ・エルネージュ(ka1840)が大きく背伸びをする。
「ハンターがこういうふうにのんびりする依頼って、あんまりないわよね。私ってば、戦闘依頼ばっかり参加しちゃうし。ここで残っている疲れを癒して、久し振りに羽を伸ばそうっと♪」
「そういやあ夕方に海岸でやったバーベキュー、美味かったな。肉や野菜はよく食うが、海鮮バーベキューは新鮮で良かったし、用意された酒も美味かった」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)は味を思い出して、嬉しそうに頷く。
「みなさん、露天風呂から上がったら、夜の海を散歩してみませんか? 花火をする人達がいるらしいので、見に行きません?」
 ヴァルナ=エリゴス(ka2651)の提案に、三人は眼を輝かせた。
「ん? 花火はここから見られないのか?」
 ディアドラが窓際へ近付くと同時に、防水加工された壁掛け時計を見上げたリンカが声を上げる。
「でもそろそろ男性専用時間になるみたい。出ないとダメよ」
「えっー! ボクはここで見るのだ!」
「そうも言っていられないだろう?」
「さあさあ、上がりましょうね」
「なっ何をするのだ! 無礼者めー!」
 ボルディアとヴァルナにそれぞれ左右の腕を掴まれて、ディアドラは無理やり露天風呂から出された。


「おーいっ! オウカ、一緒に海まで花火を見に行かないか?」
 オウカは散歩の途中、赤い生地に太陽の模様の浴衣を着たディアドラに声をかけられて振り返ると、女性達の艶姿に顔を真っ赤にする。
「あっ、ああ……」
「海辺で花火をする人達がいるんだって。見せてもらいましょ♪」
 リンカは白い生地に水色の花模様の浴衣を着ており、うちわを持っていた。
「使用人に酒を用意させている。夜の海で花火を見ながら、一緒に飲もうぜ。最近は忙しすぎたからな。今日ぐらいはのんびり過ごそうぜ」
 赤い生地に黒い蝶々模様の浴衣を着たボルディアは、オウカの肩をポンっと叩く。
「花火を見終わったら、一緒に蛍も見に行きませんか? せっかくですから、みなさんと一緒に夏の夜をいっぱい楽しみましょう♪」
 白い生地に藍色の菖蒲柄の浴衣を着ているヴァルナは、オウカにニッコリ微笑みかける。
「そっそうだな……」
 オウカは女性四人の後ろに回り、静かに歩く。
「ボルディアは何だかんだ言っても、ただ酒を飲みたいだけであろう?」
「あははっ、バレたか」
 ディアドラに呆れた眼差しを向けられても、豪快なボルディアは笑い飛ばす。
「夕方食べたバーベキュー、美味しかったわね♪ 私、今夜は一人でコテージに泊まるつもりなの。せっかくだし、贅沢をしようかなって思って」
「私は貸別荘の方で、お部屋を借りました。こういうふうに和装をして、夏の夜を仲間達と楽しく過ごすというのははじめてのことなので、今とても楽しいです♪」
 歳が近いリンカとヴァルナは、キャッキャッとはしゃいでいる。
 会話に参加していないオウカはしかし、じぃんっ……と幸せを感じていた。
(話にまざれなくても、四人もの女性と一緒にいられる……。今の俺には、コレで充分だ)
 感慨に浸っているオウカに、三体の人ならざるモノは呆れた視線を向ける。 


 五人が海辺に到着した頃には、既に花火ははじまっていた。
 柘榴模様の浴衣を着ている時音ざくろ(ka1250)、黒い生地に花柄の浴衣を着ているイレーヌ(ka1372)、薄緑色の生地に桃色の花と葉っぱ模様の浴衣を着ているアルラウネ(ka4841)、黒い生地に朝顔柄の浴衣を着たコーシカ(ka0903)、青い生地に白い花柄の浴衣を着たアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)、橙色の生地に黄色の花柄の浴衣を着た舞桜守巴(ka0036)が、いろいろな花火を楽しんでいる。
 その様子を少し離れた所から見ているディアドラは、腕を組みながら深く頷いた。
「なるほど。アレがリア充と言うものなんだな」
「うっかりすると、別の意味で火花が出そうだけどね」
 リンカは冷静にうちわで自分を扇ぎながら、見守っている。
 やがてほとんどの花火を使い終えた時、ざくろは線香花火の束を持ち上げた。
「みんなっ、最後に線香花火対決をしようよ! 一番長く残った人が勝ちで、ご褒美をもらえるよ。けれど一番早く終わった人には、罰ゲームを与えるってのはどう?」
「それは良いが……、褒美と罰ゲームは何にする? やはり勝者が敗者に命令するという形にするか?」
 イレーヌの意見を聞いて、ざくろはフムと考える。
「そうだね。でもできれば今夜中に終わることにしてほしいな。ざくろもそうだけど、みんなも明日から仕事があるから」
 五人は賛成だと言うように、頷いて見せた。
「それじゃあ一人一本、好きな線香花火を選んでね」
 まずはイレーヌが線香花火の束を受け取り、選んでいく。
「ふっ……。女性達を侍らせて夜の海を楽しんでいるざくろは、相変わらず贅沢者だな。罰ゲームはぜひざくろに受けてもらいたいものだ」
 どこか闇のある笑みを浮かべながらイレーヌは一本の線香花火を引き抜き、隣にいるアルラウネに束を渡す。
「罰ゲーム、ねぇ。私ははじめてやる花火が楽しいから、何だっていいけど。ん~、でも与えるならば、寝る時に抱き枕になってもらうとか? ざくろん以外の女性達ならば、苦く笑いながらも引き受けてくれそうだしね。彼には……ふふっ、もし私が勝者になったら改めて考えることにするわ」
 そしてアルラウネも線香花火を選び取り、悩んでいるコーシカに束を渡した。
「う~ん……。本当はざくろに勝ってもらいたいけど、一応私が勝った場合も考えとかなきゃね。まだまだ暑いし、敗者には水鉄砲をくらわすってのはどうかしら? ……ああでも涼しくはなるけど、海水じゃあ体がベタベタになるわよね。使用人に頼んで、普通の水を汲みに行ってもらわなきゃ」
 準備の事を考えながらも、コーシカはざくろにベッタリくっついているアデリシアに束を渡す。
「普通の罰ゲームならば買い出しってとこなんですが、ここら辺にお店ってあるんでしょうか? いえ、そもそもこんな時間では閉まっていますね。……あっ、ですが私達はコテージに泊まりますし、貸別荘にいる使用人の方達に食べ物か飲み物を作ってもらって、それを運ぶというのが良いかもしれません」
 名案を思い付いたアデリシアは、残り少なくなった束を巴に渡した。
「んー、こういうゲームの場合、私は特に勝ち負けにはこだわらないんですけどね。可愛いみんなともうちょっと起きていたいという気持ちはありますし、ざくろとイチャイチャしつつ、もう少し一緒に過ごすというのが良いですね。ざくろハーレムではなく、巴ハーレムというのも良いですわ♪」
 五人の女性が怪しげな空気を出しながらクスクス笑っている姿を見て、ボルディアは酒を飲む手を止める。
「何だかあそこから、異様な空気が生まれているんだが……大丈夫か?」
 空気を読めず、最後の一本を手に取ったざくろは満面の笑顔で告げた。
「それじゃあスタートっ!」
 一本のロウソクの火を線香花火に移して、六人は輪の形に並びながらしゃがみ込む。
 ざくろは真剣な表情で線香花火を見つめている五人の女性を見て、ぽっと顔を赤くする。
「綺麗だな……」
 すると早速、ざくろの向かいにいるアルラウネが動いた。
「ざくろん……♪」
 浴衣の合わせ目を緩めて、胸元を見せる。
 しかしざくろはケロッとして、微笑み返すだけ。
「むっ……! アルラウネめ、いきなりざくろに攻撃を仕掛けるとは……。ふふっ、コレでもくらいなさい」
 アルラウネの隣にいるコーシカは、空いていた片手で彼女の脇腹をくすぐった。
「きゃははっ! なっ何をするのよ、コーシカ。お返しよ!」
 コーシカにくすぐられたアルラウネは、仕返しとして脇腹をくすぐり返す。
「ちょっ、やめっ、ふっ……あははっ!」
 笑い出したコーシカは逃げようとして体をひねり、思わず隣にいる巴にぶつかってしまう。
「きゃあっ」
「うわわっ」
「はわわわわっ!」
「おっと」
 巴に続き、アデリシア、ざくろまで横倒しになってしまったが、イレーヌだけはヒョイッと避けた。
「……何をやっているんだ、あいつらは」
 呆れたオウカは、思わず呟いてしまう。
 体を揺らしたせいでアルラウネとコーシカの線香花火から火の玉は落ちてしまい、倒れたせいで巴・アデリシア・ざくろの線香花火は砂浜に落ちる。
 結局、イレーヌの花火だけがずっと続いていた。


 花火を終えて、六人はコテージへ移動する。
 人数が多いので寝る時は寝室ではなく、家具を避けたリビングルームに布団を持ち込んで寝ることにしていた。
「ギルドで寝泊まりするのとはまた違って、新鮮ね。ざくろんももちろん、ここで寝るのよね?」
「そっそうだね、アルラ」
 男一人のざくろは少し恥ずかしそうだったが、自分の分の布団を敷く。
「ああ……、熱い夜はまだまだ終わりそうにないわね。億劫だわ」
 言葉とは裏腹に、コーシカは楽しげにクスクスと笑う。
「……ふぅ、ざくろの隣をゲットしました。でも眠るまで、時間がかかりそうですね。明日は寝不足でしょうか?」
 しかし満更でもない表情を、アデリシアは浮かべている。
「ところでイレーヌ、結局敗者はざくろになったんだけど、罰ゲームは考えた?」
 ざくろに問い掛けられて、イレーヌは首を傾げた。
 線香花火対決の時、六人全員が一斉に動いたものの、最初に終わったのはざくろだったのだ。
「……実は『浴衣を脱ぐ』というのを考えていたんだが、よくよく考えてみると下着と水着はかなり似ている。ここ最近はいろんな人の水着姿をよく見かけていたし、今更下着姿を見たところで何も感じないと思ったんだ。だから、な?」
 イレーヌは小悪魔的な笑みを浮かべると、枕をがっしりと掴む。
「こういうお泊りは、いわゆる修学旅行のようだと思ったんだ。その夜にやることと言ったら、一つしかないだろう?」
 イレーヌに声をかけられた四人の女性は、それぞれ自分の枕を手にした。
 その意味を察したざくろは、青い顔色で後ろに下がる。
「えっ? いや、花火対決は楽しかったし、みんなにご褒美を与えるのは良いんだけど……」
「ならば覚悟してくださいまし。ざくろ、忘れられない夏の思い出にしてあげますの♪」
 にっこり笑った巴のその一言で、女性達はざくろに向けて一気に枕を投げ始めた――。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 母親の懐
    時音 巴(ka0036
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 炎からの生還者
    櫻井 悠貴(ka0872
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士

  • ルーティア・ルー(ka0903
    エルフ|12才|女性|霊闘士
  • 孤狼の養い子
    ルシエド(ka1240
    エルフ|10才|男性|疾影士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 未来に贈る祈りの花
    ビスマ・イリアス(ka1701
    人間(紅)|32才|男性|疾影士
  • 青炎と銀氷の魔術師
    リンカ・エルネージュ(ka1840
    人間(紅)|17才|女性|魔術師

  • リューナ・ヘリオドール(ka2444
    エルフ|23才|女性|猟撃士
  • 戦場の護り手
    月野 現(ka2646
    人間(蒼)|19才|男性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 漂泊の狼
    天宮 紅狼(ka2785
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 瑞鬼「白澤」
    鬼百合(ka3667
    エルフ|12才|男性|魔術師
  • エメラルドの祈り
    雨月彩萌(ka3925
    人間(蒼)|20才|女性|機導師

  • 雨月 藍弥(ka3926
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 落花流水の騎士
    ルシール・フルフラット(ka4000
    人間(紅)|27才|女性|闘狩人
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • 清冽なれ、栄達なれ
    龍華 狼(ka4940
    人間(紅)|11才|男性|舞刀士
  • 死者へ捧ぐ楽しき祈り
    レオン(ka5108
    人間(紅)|16才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/09 01:07:46