尽きた燭光、広がる悲しみ

マスター:香月丈流

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/06 12:00
完成日
2015/08/15 03:03

みんなの思い出

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オープニング


「嘘……ですよね?」
 絞り出すような、若い女性の声。彼女の『すがるような視線』を受けながら、3人の兵士は首を横に振った。
「お気持ちは分かりますが……事実です。自分達の隊長、アルト・フリューゲル殿は……先の戦いで」
「いやぁぁぁぁぁ!」
 兵士の言葉を遮るように、女性が悲鳴を上げて泣き崩れる。
 アルト・フリューゲル。それは、彼女が『永遠の愛』を誓った相手。10代の頃から数年付き合い、半年前に籍を入れたばかりである。
 そんな相手が……戦の中で命を落とした。部下を逃がすために囮役を演じ、敵軍やゾンビ達の注意を引きつけ、戦場に散った。蹂躙と破壊の荒野に晒された遺体は、原型すら留めていない。唯一残ったのは……頭部のみ。
 それを発見した部下達は、血と泥の汚れを落として酒で清めた。頭部を木箱に収め、慎重に梱包。アルトの妻……ルージュ・フリューゲルに遺体を渡し、戦死の報告をするため、アルトの自宅を訪れたのだが……。
「申し訳ありません。自分達が力不足のため、アルト隊長を」
「止めて! そんな話、聞きたくない!」
 現実を否定するように、我儘を言う子供のように、半狂乱になって叫ぶルージュ。兵士達を責める気も、戦争を憎む気も、彼女には無い。ただ……泣く事しか出来なかった。
「ルージュ殿……」
 悲しみを吐き出す彼女を、静かに見守る兵士達。ルージュの涙を止める術を、彼らは知らない。知っていたとしても、それを実行する手段が無い。
(アルト……あなたが居ない世界なら……)
 心の中で、『命の灯火』が消えたアルトに話し掛ける。それが届かないと知りながらも。返事が無いと分かっていても。
(あたし、ここに居たくない。アルトの傍に行きたい……!)
 最愛の夫を失ったルージュの、切なる願い。その想いが心を満たした瞬間、室内に『黒い風』が吹き込んだ。
「うぉ!?」
「な、何だ!?」
 予想外の事態に、驚愕の声を上げる兵士達。そんな彼らの目の前で、吹き込んだ風が『遺体を収めた箱』に吸い込まれていく。数秒もしないうちに、更なる驚愕が全員を襲った。
 遺体を収めた箱が禍々しい輝きを纏い、光が溢れ出す。それが空中で収束し、人の形を成していく。
 180cm弱の、痩身な男性。藍色の長髪に、茶金色の瞳、整った顔立ちが印象的だが……その全身が透けている上、膝から下の『足』が無い。この人物が『人外の存在』なのは、一目瞭然だろう。
「あ……アルト?」
 それでも、ルージュは嬉しそうに呟いた。目の前に現れた、愛する夫に向かって。それが……人ではないと分かっていながら。
『るー……ジュ。一緒に、イく……か?』
 たどたどしい言葉遣いで、アルトが問い掛ける。ルージュの心に、迷いは一片も無い。彼に誘われるまま、静かに頷いた。
 次の瞬間、アルトの手に『黒い風』が収束。一振りの片手剣が具現化すると、彼はそれを無造作に薙いだ。刀身がルージュの首を切断し、頭部が床に転がる。傷口から鮮血が噴き出し、彼女の体は血溜りの中に崩れ落ちた。
『モう、離れナい……おレ達の、邪魔ヲスる……やつは』
 血濡れた刃を手にしたまま、アルトの視線が兵士達を射抜く。そこに、隊長だった時の面影は無い。
『誰であろうとも……殺ス!!』
 言葉と共に、殺意が一気に膨れ上がった。突き刺さるような威圧感に、短い悲鳴を上げる兵士達。そのまま、彼らはフリューゲル家から逃げ出した。

リプレイ本文


 厚い雲が空を覆い、太陽を隠す。森を抜ける風が涼を纏い、頬を撫でていく。真夏にしては珍しく、涼しい……いや、『肌寒い』空気。その不自然な雰囲気に『彼ら』は気付いていた。
 深い森を奥へと進んで行く、8人の男女。向う先には、一軒の民家が建っている。屋根や壁の大半が崩れた、廃墟同然の民家が。
「これは……見事なまでにボロボロだね。全部亡霊の仕業、かな?」
 視界に映った家屋を眺めながら、バジル・フィルビー(ka4977)は苦笑いを浮かべた。その緑眼に宿っているのは、深い悲しみの色。胸が痛むような光景だが、周囲の状況や家の間取りを覚えるため、視線を走らせている。
 この民家の住人ルージュ・フリューゲルは、雑魔に命を奪われた。正確には……『命を差し出した』と表現した方が良いかもしれない。
 彼女が愛した夫……アルト・フリューゲルの姿を模した、亡霊型の雑魔に。
 戦地に赴いたアルトに、帰りを待つルージュ。そんな彼女に届いたのは……夫の戦死報告と、遺体の頭部だった。愛する夫を突然失い、ルージュは錯乱して半狂乱になったが、それは悲劇の幕開けでしかない。
 悲しみに沈む彼女の前に、アルトの姿をした亡霊が出現。ルージュは生きる事よりも、その亡霊と一緒に行く事……つまりは『死』を選んだ。彼女は雑魔に斬殺され、遺体は部屋に放置されたままである。
「ルージュが生んだのか、アルトが生ませたのか、はたまた通りすがりの歪虚がタイミングよく入り込んだか……面倒だけど、放っちゃおけないね」
 時雨 凪枯(ka3786)が言う通り、雑魔が生まれた原因はハッキリと分かっていない。状況的に、通りすがりの歪虚がアルトの『フリ』をしている可能性が高いが……真実は闇の中。確かめる術は、無い。
「もし、ルージュさんの愛故の妄執が原因だとしたら……悲しい事ですね」
 ポツリと呟き、日下 菜摘(ka0881)は胸の前で両手を重ねた。医療に携わってきた菜摘にとって、命が失われる事は辛い。その原因が悲恋なら、尚更に。
 そして、故人を悼む気持ちは皆同じ。誰もがルージュの境遇に同情し、雑魔を倒す決意を固めている。
 ただ、1人を除いては。
(戦いの中で命を落とした夫、最愛の人といることを願った妻……か)
 今回最年少のティス・フュラー(ka3006)は、ルージュの気持ちが理解できなかった。むしろ、彼女の行動を否定的に捉えている。
 ルージュは愛する夫を失い、自分も死んで傍に行く事を願った。その是非は個人の考え次第で変わるが、ティスの言葉を借りるなら『バカじゃないの』という一言に尽きる。
 時が過ぎ、彼女に恋人ができたら、ルージュの気持ちが分かるかもしれない。が……今は、無理に理解しなくても良いだろう。感傷を胸の奥にしまい、ティスは家の奥に視線を向けた。
 十数メートル先……リビングらしき部屋に居座る、長身痩躯の男性。全身がプラスチックのように透け、膝から下の脚部が無い。その背後のテーブルには、40cm程度の木箱が置かれている。
「うわ……足が無いとか、まんま幽霊じゃないっすか。銃も剣も効かないらしいですし」
 亡霊型雑魔を目の当りにし、無限 馨(ka0544)は思わず苦笑いを浮かべた。口調が若干軽薄な優男だが、胸に抱いた想いは皆と同じ。青い瞳に闘志が燃えている事を、全員が知っている。
「さぁ、忌まわしくても楽しい戦争(デート)を始めましょうか。今を生きる生命の為に、暴走する死霊を黙らせる……!」
 冷たく、凛とした声。フィルメリア・クリスティア(ka3380)の言葉に、誰もが静かに頷いた。彼女は元軍人という事もあり、その雰囲気は冷静で厳か。フロスティブルーの頭髪と青系の衣服も相まって、氷剣のような印象を受ける。
 誰もが敵を見据えて武器を構える中、真っ先に動いたのは二ノ宮 灰人(ka4267)だった。両手に銃を握り、散歩でもするようにゆっくりと雑魔に近付いていく。
 亡霊型の雑魔は、大抵『自分の領域』が荒らされる事を嫌う。特定の場所に踏み入ったり、一定の距離まで近付くと襲ってくるのだ。それは、今回の雑魔も例外ではない。
 不意に、アルトは剣を抜いて虚空を薙いだ。切先から『黒い風』が吹き出し、刃の形を成す。それが灰人を狙って高速で放たれた。
 灰人が居るのは、テーブルの木箱から約10mの位置。恐らく、箱を中心に半径10m圏内に入られたくないのだろう。迫る風刃を眺めながら、灰人は残念そうに溜息を吐いた。
「つまらないね、きみは。想像通り、アルトでも死者でもない……『普通の』雑魔だ」
 静かに呟き、大きく身を翻す。灰色の頭髪が揺れ動き、その数本が風刃に斬られて宙に舞った。
 そのまま若干後退し、灰人は銃を斉射。両手の魔導拳銃から弾丸が放たれ、アルトの両肩を撃ち抜いた。が、ダメージは皆無。実体を持たない亡霊に、物理攻撃は効果が無い。
 それでも彼が銃撃を放ったのは、敵の注意を引いて一瞬でも隙を作るため。ティスは素早くマテリアルを開放し、球状の水を生み出して敵に放った。水球が直撃して弾け、衝撃がアルトの全身を駆け抜ける。
 菜摘とバジルが追撃に動いたのは、ほぼ同時だった。2人の周囲に光が集まり、輝く弾と化す。それが一斉に放たれ、光弾が連続で雑魔に直撃した。
 仲間達から若干離れ、銃を構えるマウローゼ・ツヴァイ(ka2489)。相手が亡霊型なら、必ず『核』となる物が存在する。それを破壊しない限り、戦闘は終わらない。
 今回の核は……テーブルの木箱。あの中には、アルトの頭部が収められている。マウローゼは霊体を無視し、核を狙うつもりなのだ。
(死人が此の世にとどまり、挙げ句の果てには生者の命を奪うとは……命に対する冒涜だな。滅ぼしてやる、何もかも……!)
 鋭い殺意が静かに溢れ出す。普段の彼女は無口で無表情だが……今は、銀色の瞳に敵意が宿っている。巨大な魔導銃を構えて狙いを定め、引金を引いた。
 ほぼ同時に、雑魔が後方に移動。木箱を守るように割って入り、剣を振り上げた。金属音と共に火花が散り、マウローゼの正確無比な銃撃が空の彼方へと消えていく。
(亡霊が遺体を守る、か……邪魔だな。先ずは奴から滅する)
 攻撃を防がれても、彼女に動揺する様子は微塵も無い。気持ちを即座に切り替え、再び銃を構えて狙撃の機会を窺っている。
 敵の注意を引くため、馨は敢えて敵の射程圏内に飛び込んだ。自身を囮にする事で仲間が狙われる危険性を減らせるし、攻撃に専念して貰える。灰人とは逆に、全速力で木箱に接近していく。
 当然、雑魔がそれを黙っていない。馨の進路を塞ぎ、全力で剣を薙ぎ払った。血濡れた刃が殺意を帯び、猛烈な速度で迫る。
 馨は崩れた床を蹴って跳躍し、更に壁を蹴って後方に跳び退く。立体的な動きで斬撃を回避し、華麗に着地した。
 が、そこはまだ敵の射程圏内。すぐさま追撃がきてしまう。
「『俺達の邪魔をする奴は』ね……現状、どちらが邪魔者になっているのか、ハッキリさせてあげましょう」
 雑魔が動くより早く、青い光がリビングを奔った。それは、高速移動から斬撃を放ったフィルメリア。魔導ガントレットから一瞬だけ光が溢れ、亡霊を深々と斬り裂いた。
 間髪入れず、凪枯は横合いから光弾を放つ。彼女も馨やフィルメリア同様、敵の射程圏内に飛び込んでいる。追撃に放った輝く光が亡霊を直撃し、弾けた光の粒が周囲に舞い散った。
 それを振り払うように、アルトの斬撃が奔る。馨を、フィルメリアを、凪枯を……『箱に近付く者』を排除するように。
 剣戟を避けるため、馨は床や壁を蹴って跳び回る。時折、金髪が切断されてパラパラと散っているが、傷は負っていない。凪枯は舞うような動きで攻撃を避け、反撃の隙を狙っている。
 フィルメリアは刀を強く握り、雑魔の斬撃に合わせて防御を固めた。固い金属音が周囲に響く中、攻撃を受け止めて完全に無効化。お返しとばかりに、瞬間的にマテリアルを放出した。
 それが『三角形の光』となって頭上に現れ、頂点から光が奔る。閃光が高速で伸び、敵の腕部を貫いた。
 手痛い反撃を受けた雑魔は、一旦フィルメリアから離れるため横に跳び去る。その判断が失策だと知るのに、長い時間は必要なかった。
 雑魔が着地するのと同じタイミングで、2方向から光弾が殺到。1つは横合いから凪枯が、もう1つはバジルが正面から放った攻撃である。2人の攻撃が敵の上で重なり、輝く光が降り注いだ。
 相次ぐ攻撃に怒りを感じたのか、雑魔は剣を薙いで風の刃を生み出す。さっき灰人を狙った時とは違い、一振りで3枚の刃が空中に出現。更に2度、3度と剣を振り、大量の風刃を一気に撃ち放った。
 手数は増えたのは脅威だが、慌てる者や逃げようとする者は1人も居ない。ここでアルトを倒さなければ、似たような悲劇が生まれてしまう。そんな事は、誰も望んでいない。
 8人は風刃の動きに集中し、軌道を予測。タイミングを合わせて身を翻し、紙一重で攻撃を回避した。
「いくら攻撃しても、命中しなかったら意味は無いよ。普通に考えれば分かる事だけどね」
 若干の皮肉を込め、灰人が引金を引く。ほんの一瞬だけ間を置いて、マウローゼも弾丸を発射。2人の弾道が空中で交差し、雑魔の両肩を射抜いた。
「わざわざ射線を拓いてくれたなら、遠慮なく狙わせて貰うわ」
 雑魔が砕いた壁の陰から、ティスが敵を狙い撃つ。マテリアルが水を呼び、球状に収束して発射。魔力を帯びた水が敵を直撃し、水飛沫が虹を描いた。
 7色の光を突き抜け、輝く球が亡霊を撃ち貫く。光球は、菜摘が放った援護射撃。輝く光の直撃に、雑魔の体が大きく揺れた。
 それでも……アルトは戦う事を止めない。敵意や殺意は一切衰えることなく、剣を高々と振り上げた。
 次の瞬間、強烈な銃撃が刀身に命中。その威力と衝撃で、剣がアルトの手から弾き飛ばされた。
「死人は死人らしく、かくあるべきだ。これ以上の狼藉は許さん……!」
 静かだが力強い、マウローゼの言葉。死した者が暴れ回り、他者の命を奪うなど、あってはならない。そんな想いが、敵から攻撃手段を奪ったのだろう。
「そういう事。死者は眠っていなくちゃね」
 マウローゼに同意し、ティスが杖にマテリアルを込める。高まる魔力が生み出したのは、燃え盛る炎。それが矢となって放たれ、亡霊の片膝を砕いて体勢を大きく崩した。
 この千載一遇の隙を、灰人は待っていた。一気に戦場を駆け抜け、銃にマテリアルを込めて亡霊の眉間に突き付ける。
「僕はお前にはならないよ。さよなら、偽物の愛」
 否定と別れの言葉を口にして引金を引くと、荒れ狂う雷が溢れ出す。魔力を纏った雷撃が敵の頭部を焼き散らすと、アルトの全身が霧のように消えていった。
 これで亡霊は倒したが、まだ『全て』が終わったワケではない。悲劇を終わらせるため、フィルメリアは脚部からマテリアルを噴射して高速移動。木箱との距離を、一気に詰めていく。
 と同時に、木箱から黒い風が溢れ出した。亡霊も使った風刃が生み出され、フィルメリアの肌に赤い線を描く。
「二人きりで居たいなら、在るべき場所へ送ってあげる。現世に留まらず早々に去りなさい……!」
 風も負傷も一切気に留めず、フィルメリアは降魔刀を両手で握って振り下ろした。斬撃に対抗するように、黒い風が一ヶ所に集まって防御を固めたが……彼女の攻撃は止まらない。渾身の一撃が黒い風を捉え、その全てを斬り散らした。
 風を失った今、雑魔の核は完全に無防備である。破壊するチャンスは、今しかない。
「誰か、支援を頼むっす!」
 反射的に、馨は武器を握って駆け出していた。彼を追うように、菜摘も木箱に向かって走る。
「僕の分まで頼んだよ、馨!」
 馨の言葉に応え、バジルはマテリアルを使って精霊に干渉。その力を借り、馨に付与した。武器が白い光に包まれた事を確認し、馨はマテリアルを足に集めて更に加速する。
 菜摘はホーリーパニッシャーに光の精霊を宿らせ、両手で強く握った。
「亡者は地に還るが定め! 速やかにお眠りなさい!」
 想いを込めて叫び、武器を全力で叩き付ける。馨は全身のマテリアルを瞬間的に開放し、洗練された動きから槍を突き出した。
 殴打と刺突……種類の違う2つの衝撃が重なり、木箱を粉々に打ち砕く。その反動で、中身に入っていた頭蓋骨が宙に舞い、地面を転がった。フィルメリア、馨、菜摘の攻撃が効いたらしく、亀裂が何本も走っている。
 放り出された遺骨に、凪枯が静かに歩み寄る。その手に、『アルトが使った剣』を握って。
「隊長だったあんたの事だ、尻拭いは自分でやりな!」
 叫びながら、剣を突き立てる。陶器が割れるような乾いた音が響き、頭蓋骨と剣は粉々に砕け散った。もう、黒い風が吹き荒れる事は無い。
 そして……アルトとルージュの笑顔を見る事も、無い。


「これで良し……と。私達にできるのは此れ位さね」
 悲しみを隠すように、ぎこちなく微笑む凪枯。彼女の足元には、小さく簡素な墓が建てられている。
 亡霊型雑魔を倒したハンター達は、2手に別れた。マウローゼ、ティス、フィルメリア、灰人の4人は、万が一の事態に備えて周辺の警護に。凪枯達4人は、アルトの遺骨とルージュの遺体を回収し、埋葬した。
 墓を作る義理は無いのだが……歪虚の被害者を見捨てておけないし、遺体を放置するのは気が引ける。それに、ハンターの仕事は歪虚退治だけではないのだ。
 幸か不幸か、ルージュの遺体は部屋の隅に横たわっていた。戦闘に巻き込まれなかったのが、せめてもの救いである。
 墓を建てる前、菜摘はルージュの遺体を繋ぎ合わせ、死に化粧を施した。そして、4人で協力して家の裏手に穴を掘り、遺体と遺骨を納めて埋葬。石を荒く削った墓を設置し、花を供えた。
「天に召されたお二人の魂が、安らかならん事を……」
 手を合わせ、冥福を祈る菜摘。他の3人も同様に、黙祷を捧げている。
 数分の沈黙……馨は静かに空を見上げた。
「事件の真相はわからないっすけど、VOIDが原因ならやりきれないっすね……」
 誰に聞かせるワケでもない、独り言のような呟き。歪虚が関与しなければ、今回の事件は起こらなかった可能性が高い。そう考えると、馨の心に悲しみが広がった。
「そうですね……でも、例え偽りだったとしても。命が消えた瞬間は、ルージュが幸せだったら良いなと願うよ」
 同意しながらも、悲しそうな笑みを浮かべるバジル。『死ぬ事が幸せ』とは言いたくないが……ルージュは亡霊がアルト本人だと思っていた。最期の瞬間は、小さな幸せを抱いていたのかもしれない。少なくとも、バジルはそう信じている。
 こうして……悲しみが周囲に広がる前に、悲劇は幕を下ろした。

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重体一覧

参加者一覧

  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士

  • マウローゼ・ツヴァイ(ka2489
    エルフ|25才|女性|猟撃士
  • ツナサンドの高みへ
    ティス・フュラー(ka3006
    エルフ|13才|女性|魔術師
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 白狐の癒し手
    時雨 凪枯(ka3786
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • Flawed "Nor"
    二ノ宮 灰人(ka4267
    人間(蒼)|17才|男性|機導師
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
二ノ宮 灰人(ka4267
人間(リアルブルー)|17才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/08/05 22:32:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/01 22:45:36