輸送依頼『鉄鳥の亡骸』

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/08/11 09:00
完成日
2015/08/14 06:42

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●暗い倉庫の奥
 辺境と帝国の間に位置する要塞都市ノアーラ・クンタウ。
 その一角にある古い倉庫の鍵が取り外された。軋む音を立てながら開く扉、その奥は明かり1つなく、真っ暗である。
 松明を片手に数名の男が奥へと進む。数年は放って置かれた倉庫なのだろう、歩くたびに地面に積もった埃が舞う。
 そして数メートルも中に入れば、そこには布で覆いかぶされた大きな物体の前へと辿り着いた。
「外してください」
 数名いる男達の中で、唯一身形の良いスーツ姿の1人の男が、他の者達に指示を飛ばす。
 すぐさま布は取り払われ、同時に壁に吊るしてあったランプにも火が灯されて、その全体像をしっかりと照らし出した。
「久しぶりですね、この『鉄の鳥』を見るのも」
 それは奇妙な形をしていた。翼のように左右に丸みを帯びた平たい板が伸ばされているが、その片方は半ばからその先を失っている。
 尾にあたる部分は完全に喪失し、そこにどんなものがくっついていたのかは検討もつかない。
 そして頭に当たる部分には捩れる形をした左右対称の平たい棒が突き出ているが、全体が罅割れており少し触っただけで割れてしまいそうだ。
 さらに良く見れば、その翼や胴体の部分に無数の丸い傷穴が開いているのが分かる。
「やはり、取っておいて良かった。役に立つときが来ると思っていましたよ」
 そう独り言を呟く男は、半分も形が残っていないその『鉄の鳥』の亡骸を撫でる。
 これがリアルブルーからの漂流物であることは当初も分かっていたことだが、使い方も分からず、そもそも壊れているようで何をしても動くことはなかった。
 その為に最初は溶鉱炉で溶かして再利用する話も上がったのだが、それに待ったをかけた男がいた。それが今ここにいるスーツ姿の男、ノールド・セッテントリオーネである。
「さて、それではまず運び易いように分解してください。くれぐれも、これ以上傷つけないように」
 ノールドはそう指示をして、倉庫を後にした。次は、執務室でペンを取らなければと考えながら。

●開発部での一幕
 サルヴァトーレ・ロッソの技術開発部、そこは日々様々な研究と開発が行われている。
 最近輩出されたもので言えば、魔導バイクが記憶に新しいことだろう。今もその改良や、さらなる発展型の開発に余念がない。
「たーだいまっと。皆の愛するリーダーがお帰りだぞ」
 そんな開発部の1つの班のリーダーであるトーマス・W・ヴィンチが、丁度自分の開発室に戻ってきたところだ。
「愛とか反吐がでるんでやめてくれませんか。セクハラで訴えますよ」
「同じく。気分が悪くなったんで早退していいっすか?」
「はははっ、そんな照れ隠しなんてしなくていいんだぞ、お前達」
 それに対して愛すべき彼の部下達は、その胸に言葉のナイフを突き立てた。トーマスのほうは全く堪えている様子はないが。
「それでリーダー。会議のほうはどうだったの?」
「ああ、色々と難航してるよ。上層部はやっぱり頭が固くてね。新しいことはやりたがらない」
 サルヴァトーレ・ロッソ、もとい地球連合では定期的に会議が開かれている。それは様々な案件の報告であったり、新たな議題の討論だったり色々だ。
 このトーマスも技術開発部の一員としてその会議に参加している。彼は技術畑の人間なのでそのあたりの話でよく口を開くことになるのだが、どうにも会議の参加者への受けはあまりよくない。
 技術開発部は金食い虫なのだ。成果が出るか出ないかは試してみないと分からない。その試すのにはお金が必要で、成功してもやっぱりさらにお金がいる。だから、中々新しい試みへのGOサインは出してくれない。
 トーマスは肩を竦めながら、自分のデスクへと腰を下ろす。と、そのデスクの上に一枚のメモが置かれていることに気づいた。
「ああ、それはさっき連絡があったんっすけど。リーダーにアポを取りたいって用件らしいっす」
 トーマスがメモに目を通す前に、班員の1人がその内容をざっくりと教えてくれる。トーマスはふむと唸りながら改めてそのメモに目を通す。
「ああ、何だ。ノールドからか」
 そこにあるアポを取りたいという相手は、商業管理事務所『ゴルドゲイル』のノールド・セッテントリオーネであった。
 辺境の商人ギルドのトップである彼とは、色々と縁がある。リアルブルーからの漂流物である機械や本、クリムゾンウェストの貴重な鉱石なんかも融通して貰ったこともあったから、トーマスもよく覚えている。
 そんな彼がわざわざ同盟の端っこにあるこのリゼリオに来るというのであれば、会わないわけにはいかないだろう。
「また面白いものでも持ってきてくれるのかね。楽しみだ」

●ハンターオフィス
 その日、1つの依頼が張り出された。
 辺境にある要塞都市ノアーラ・クンタウから、同盟の隅っこにあたる位置にある冒険都市リゼリオまでの護衛任務だ。
 それは商人がよく出す商隊の護衛依頼であるように見えたが、どうも今回のものはそうではないらしい。
 まず報酬が随分と高い。普通のものの倍の額はあるだろうか。その上で違約金や罰則が結構厳密に設定されている。
 まあ、それでもこれくらいならば、何か重要な品を運ぶのだろうと納得がいくところであろう。
 だが、最後の備考の欄にさりげなく書いてある一文が、これを読むハンターに僅かな警戒心を生じさせた。

 『尚、この護送には商業管理事務所『ゴルドゲイル』のノールド・セッテントリオーネも同行する』

リプレイ本文

●護衛の旅
 天気は快晴、夏の日差しが恨めしくなるような暑さの中で、4台の馬車が帝国の街道を南へ真っ直ぐに進んでいく。
「さあ、皆さん。これから暫くの間、リゼリオに着くまでよろしくお願いしますよ」
 2台目の御者台に座る紳士風の男、この護衛の依頼主であるノールド・セッテントリオーネはハンター達全員に聞こえるように少し大きな声でそう声をかけた。
「あの人が辺境の商人ギルドのトップか……そんな人が直々に、ね」
 先頭の馬車の荷台に乗っているユリアン(ka1664)は、そんな彼の顔を眺めながらぽつりと言葉を漏らす。
「確かに気になるよね。ノールドさんもそうだけど、何よりあの馬車の積荷がさ」
 そんな彼に声をかけたのは、馬車と並ぶように馬を歩かせているジュード・エアハート(ka0410)だ。
「というか、俺達以外の他の皆も気になってると思うんだよねー」
 ジュードの言う通り、今回護衛に参加しているハンター一同は要塞都市で集合した時から、何度か件の馬車の荷台へと視線を向けている。
 だが、その馬車の荷台にはしっかりと厚手の布で覆われており、僅かの隙間も無く中を覗くことはできなかった。
「2人とも、長話はよくないぞ。今は仕事中なんだからな」
 そんな諌めるような言葉をかけてきたのはエアルドフリス(ka1856)だった。
「はーい。じゃあ、また後でね」
 ジュードはそう一言だけユリアンに告げて、中央を走る馬車二台の側面へと回っていく。
「申し訳ありません、セッテントリオーネ氏」
 エアルドフリスは普段は使わない敬語を使いながら、依頼主である彼へと謝罪を入れる。
「いえいえ、まだ要塞都市をでたばかりですからね。少なくともこの街道を進んでる間はそんな危険もありませんよ」
 対するノールドは気にした様子もなく、会ったその時から崩さない笑顔のままでそれを許した。
「しかし、やはりハンターの方々は好奇心が旺盛ですね。勿論、貴方も類に漏れず」
「……分かりますか」
「ええ、これでも私も商人の端くれですから」
 微笑むノールドの瞳と、真面目な顔を維持しているエアルドフリスの瞳が互いを映す。商人特有と言うべきか、こちらの考えを見透かすような感覚をエアルドフリスは覚えた。

 積荷を運ぶ一行は何事も無く、1日目は町に辿り着いて宿に入った。
 ハンター達にも部屋があてがわれるが、勿論積荷の警護を怠るわけにはいかない。話し合った結果、2人ずつ馬車を泊めている倉庫の前で番をすることとなった。
「まずは私と貴公か」
「そうですね。よろしくお願いします!」
 アウレール・V・ブラオラント(ka2531)の言葉に、ソフィア =リリィホルム(ka2383)はぴしっと片手を上げて可愛らしく微笑んで答えた。
「宿の主に聞いた限り、この宿に不審な人物は泊まっていない。盗賊などに関してもこの町にはいないそうだ」
「へえ、もうそこまで調べたんですか。流石ですね」
「これくらい簡単だし、当然のことだ」
 アウレールは口調は固く毅然とした態度を取っているが、明るく話しかけるソフィアの言葉には律儀にしっかりと言葉を返す。
 町の片隅からはまだ人々が楽しんでいる声が聞こえてくる。その人の営みの音を傍らに、2人は言葉を途切れさせず会話を続けた。
「ところで、この積荷って本当に何なんでしょうね?」
 そんな話の中で、やはり話題に上がるのは護衛している荷の件が上がってきた。
「フムン、何か余程キナ臭い物と私は見ているが――恐らく武器だな」
「武器ですか? その考えの根拠ってあります?」
「いくつかある。まずソサエティや国に頼らず、リゼリオに……いや、例の船に頼ろうとしているようだからな」
 この世界の者に頼らないということは、必然的にリアルブルーに関するものだろうとアウレールは予想をつけていた。
「なるほど。んー、ますます気になっちゃいますね……どうしましょう、こっそり見ちゃいますか?」
 ソフィアはうーんと腕組みをして頭を捻った後、悪戯な笑みを浮べてアウレールに問いかけた。
「それは本気か?」
「いいえ、勿論冗談です」
 片眉を上げたアウレールに、ソフィアはすぐさま自分の言葉を撤回した。ソフィアも元からそんな気はなかったのか、アウレールの反応を見たところでくすくす笑っている。
 そんな笑うソフィアを見て、アウレールは槍を掴もうとしていた手を下ろし、小さく溜息を吐いた。

●旅の障害物
 旅を始めて3日目、一行はうっそうと茂る森の中を進んでいた。
「暑いわね」
 牡丹(ka4816)が額に浮いた玉のような汗を拭っていると、すっと視界に何かが伸びてきた。よく見れば、それは水筒のように見える。
「どうぞ、お嬢さん」
 牡丹がその差し出した人物へ視線を向ければ、笑みを浮べたノールドの姿が目に入る。
「……ありがとうございます」
 僅かな間の後、ここで断るのも失礼かと思い牡丹はその水筒を受け取った。口をつけてぐいと傾ければ、冷えた水が喉を通っていく。そこで初めて自分の喉が相当渇いていたことを牡丹は自覚した。
 水筒から口を放したところで、丁度無線機が音を鳴らす。それと共に進んでいた馬車が歩みを止めた。
『さて、あなた達。お客さんみたいよぉ』
 無線機の向こうで何かを見つけたらしい黒桐 白夜(ka4125)の声が聞こえてくる。
「おやおや、今回の旅にお客様を招待した覚えはないのですが」
『あらぁ、セッテントリオーネさんが知らないってことは招かれざる客って奴みたいねぇ。どんな対応をしたほうがいいかしら?』
「それは勿論、ハンター流でお願いします」
『了解よぉ♪』
 ちょっとした言葉遊びに、白夜はくすりと小さな笑い声と共に了解の意を示した。
「では、迎撃に向かいます。貴方は荷台の中に隠れていてください」
「ええ、よろしくお願いしますね。牡丹さん」
 ノールドは牡丹に言われた通り、すぐに荷台の中へと姿を消す。牡丹はそれを見届けると、手綱を操り騒がしくなってきた商隊の前方へと馬を走らせた。

 商隊に襲い掛かってきたのは猿型の雑魔だった。木々を飛び回り、茂みに隠れ、死角に回り込むようにして襲い掛かってくる。
「何のつもりか知らないけど、積荷には手を出させないよ。あれはすごいお宝で、とてつもない可能性の塊なんだからね!」
 頭上から飛び掛ってきた猿に、仁川 リア(ka3483)は槍を薙いでその体を弾き飛ばす。だがその後ろにさらに続いた猿がニアの体に掴みかかった。
 地面に血が飛び散る。だが、それはリアのものではなかった。
「邪魔っ!」
 覆いかぶさっていた猿を蹴り飛ばし、立ち上がったリアは手にしたダガーを振るって刃に付いた血を払う。
「そことそこと、そこっ!」
 ジュードはその言葉と共に、矢継ぎ早に3本の矢を放つ。空を切り駆けた1矢は飛び掛ってこようとしていた猿の肩を掠め、残り2本は木の枝を折って、その枝を掴もうとしていた猿がそのまま地面へと落下して行った。
 その落ちた猿の胸を、その黒髪を風で揺らすユリアンがサーベルで一突きにする。さらに枝の上で足止めされた猿には一瞬の青い光と共に、雷撃がその頭を貫いていた。
「一切合財灰燼に帰せ、という訳にはいかんからなぁ。山火事は流石に危ないし」
 エアルドフリスが帯電してパチリと音を鳴らす杖を振るうと、マテリアルに応えた風が刃を構築して猿の群れへと撃ち込まれる。
 その時、一匹の猿が馬車の馬に向かって飛び掛った。だが、馬の体にその鋭い爪を振るう前に、焔の幻影をその腕に纏わせたソフィアがその間に割り込んだ。
「おっと、乙女の足を奪おうとは太い、もとい不逞な野郎ですねっ」
 甲高い振動音を伴わせたソフィアの盾は猿の爪をいとも容易く弾き返し、猿はそのままバランスを崩して地面へと転がった。
 猿はすぐに立ち上がろうとするが、その前にその首に刃が滑り込み、骨ごと両断して頭がそのまま地面に転がる。
「遅れたかしら?」
「いえいえ、ナイスタイミングです」
 龍の紋様持つ刀を構えなおした牡丹がそう問うた。ソフィアはそれにニッと笑って答えを返す。
「とりあえず、後方に敵はいないわ」
「なら、このお猿さん達を退治すればオッケーですね」
 牡丹とソフィアの視線の先では、また数匹の猿が森の奥からこちらに向かって木々の間を飛びながら迫ってくる。
「もう、ガツガツした連中ねぇ。一体何匹いるのかしら?」
「どれだけいようと、切り伏せるだけだ」
 銃のマガジンを交換する白夜の声にアウレールが答え、アウレールはその言葉を実行するべく槍を構えて突撃した。

●旅の中程
「皆さん、ここからは同盟ですよ。これで道程の半分といったところですね」
 一つの関所を越えて、ノールドはそんな言葉をハンター達にかける。
「少し行けば農耕推進地域のジェオルジです。そこからは3日ほどで極彩色の街ヴァリオスに、そしてもう2日もいけば目的地である冒険都市リゼリオです」
「はぁー、これでやっと半分なんだ。まだ先は長いね」
 ノールドの説明にまだ見えぬ冒険都市があるであろう方向の空をジュードは見上げる。
「秋も深まればこの辺りは色鮮やかな紅葉に包まれるのですよ。少し行けば川がありますからお昼はそこで取りましょう」
「やっと昼休みかー。しかし、ノールドさんは随分とこの辺のことに詳しいんだね?」
 ノールドの乗る御者台の前からリアが顔を出してそう口にする。
「ええ、これでも商人ですから。昔はよくこの道を通って帝国や辺境へ足を運んでいたんです」
 ノールドは懐かしむように周囲の風景を眺めている。人に歴史あり、彼も辺境の商人ギルドの所長になる前は1人の商人として各地を旅していたのだろう。
「セッテントリオーネさんの過去、興味があるわね。若い頃からやり手のイケイケな人だったのかしらぁ」
「ははは、そんなまさか。しかし、そうですね。私は今も昔もあまり変わってはいませんよ。世の為人の為、必要な場所に必要な物を、それが私のモットーです」
 途端に胡散臭い雰囲気を纏って嘯くノールドの言葉は、嘘か本当かその真偽は全く読み取れない。やはり侮れない、そんな印象をノールドはハンター達へと植え付ける。
「ところでノールドさん。ずっと気になってたんですけど、聞いてもいいですか?」
 そんな印象を抱いた後でも躊躇わず、ソフィアはノールドに話しかける。
「はい、私に答えられることでしたら」
「では、率直にお聞きするのですけど。運んでる時の音とか揺れ方からすると、この積荷って相当量の金属で出来てますよね?」
 今も少し馬車が揺れた時に、何か金属が擦れるような音が聞こえた。気にはなっていたが、ド直球なその質問に他のハンター達の口元が僅かにひくりと上がる。
「おや、耳が良いのですねリリィホルム嬢。その通り、積荷の大部分は金属で出来ていますよ」
 ノールドは特に気分を害した様子もなく、寧ろソフィアを褒めながらその指摘を認めた。
「ではずばり、何ですこれ?」
「ふむ、そうですね。私はこれをこう呼んでいました。『鉄鳥の亡骸』と」
 ノールドは積荷の載っている荷台に視線をやってそう答える。
「亡骸ですか?」
「ええ、それ以上はまだ秘密ということで。おっと、川が見えてきましたよ。今日の昼食は何でしょうね」
 ノールドは一つ笑い、正面に見えてきた川へと視線を向けながら話題を変えた。

●旅の終わり
 要塞都市ノアーラ・クンタウを出て10日余り。幾度かの敵の襲撃を退け、商隊とハンター達は無事に冒険都市リゼリオへと到着した。
「1人も欠けず、無事に着きましたね」
「そうであるな。依頼完了ももうすぐだ」
 馬から降りてぐっと伸びをしたユリアンの横で、アウレールもまた馬を降りて少し懐かしさを覚えるリゼリオの町並みを眺める。
 馬車はそのまま街中を通り、サルヴァトーレ・ロッソが停泊している海岸に程近い建物の前までやってくる。
 門の横の壁に埋め込まれたプレートにはこう書いてある。『サルヴァトーレ・ロッソ 技術開発部 第1研究所』と。
 そして出迎えたのは癖っ気な髪をした白衣姿の若い男だった。
「おー、やっときたか。ノールド、元気だったか?」
「ええ、この通りです。君は相変わらずのようですね」
 気さくに話しかけてくる男――トーマス・W・ヴィンチに、ノールドは笑みを浮べながらそう返した。
「それで、今回はどんな面白い物を持ってきてくれたんだ?」
「おや、早速本題からですか。まずは久しぶりに会えたのですし、食事でも如何でしょう?」
「生憎と腹は減ってないんだ。勿体ぶらずに早く見せてくれよ、その中なんだろ?」
 トーマスは馬車を指差して催促する。その様子はまるでアイスクリームを前にした子供のようだ。
 ノールドはくすりと笑みを浮べると、それではまずと一言置いて告げる。
「では、少しお庭をお借りできますか?」

 馬車の荷台が解き放たれて、中に積んであった荷物が庭に並べられていく。
「これが『鉄鳥の亡骸』って奴なの? 鳥には見えないけど……」
 ジュードの言葉通り、それは鳥には見えなかった。金属で出来ているらしい板や、中が空洞な樽のような部品が次々と並べられていく。
「あれは……弾痕?」
 昔は商人として、今は職人として色々詳しいソフィアもそれが何なのか検討が付かずに首を傾げる。
 だが、リアルブルーの出身の物であれば一目でソレが何なのか分かった。
「驚いたわぁ。これ、飛行機ね」
 白夜は久しく見覚えのなかったソレに本当に驚いたといった声色で言葉を漏らす。
「飛行機って、何なのかしら?」
 聞き覚えのない単語に牡丹は首を傾げる。
「簡単に言うと、空を飛ぶ為の乗り物よぉ」
「空を飛ぶ……このガラクタが?」
 牡丹は半信半疑という目で、目の前に並べられていく亡骸に視線を戻す。
「ああ、壊れているけど。こいつはその昔、鳥のように空を飛んでたんだよ」
「飛ぶ? こいつが? ……興味深い。大変、興味深い」
 トーマスの後押しの言葉に、エアルドフリスはその目に焼き付けんとじっと亡骸を見つめる。
「お気に召しましたか、ヴィンチ様?」
「他人行儀はよせ。で、値段は? 今金庫に入ってる金なら全部出すぞ」
 トーマスの言葉にノールドは首を横に振る。
「いえ、お代は結構です。ただ、少しこれからの事をお話できれば。ええ」
 ノールドはそう言って笑みを浮べる。要はこれに関することに一枚噛ませろということだ。
「よし、任せろ」
 トーマスはそれに二つ返事を返して、ニヤニヤと笑みを浮べている。そしてぐるりと首だけ振り向かせてハンター達に視線を向けた。
「お前達、空を飛びたくないか?」
 新しい玩具を手に入れた子供のように、トーマスは喜びの色を隠さない声でそう告げた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 大地の救済者
    仁川 リア(ka3483
    人間(紅)|16才|男性|疾影士

  • 黒桐 白夜(ka4125
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • マケズギライ
    牡丹(ka4816
    人間(紅)|17才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/08/06 19:54:06
アイコン 相談卓
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/08/11 07:30:59
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/07 12:14:47