大蛇が巣くった地 ~ミヤサ~

マスター:天田洋介

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/19 07:30
完成日
2015/08/24 09:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ここはグラズヘイム王国・港街【ガンナ・エントラータ】。
「えっ? これからですか?」
「はい。すみませんがそのようにお願いしたく。下でお待ちしております」
 早朝、宿屋に泊まっていた探検家ミヤサ・カミーのところへ使者が訪れる。実業家ウリッシュ・ビスナーからの遣いの者に同行を願われた。
 ウリッシュからの仕事はよく受けている彼女だが、このようなことは今までにない。それだけ急用なのだろうと思いながら白銀の髪を梳かし直す。身支度が終わったところで宿屋前に待機していた馬車へと乗り込んだ。
 十数分後には屋敷の執務室に到着していた。
「どうされたのですか? ウリッシュさん」
「ミヤサくん、急遽呼びだして本当にすまない。実は昨晩に連絡が届いてね。キミとハンターが見つけてくれたオールスパイスの樹木植生地からだ」
 ウリッシュが事情を説明する。現地に数え切れないほどの蛇が現れたと。
 以前、ミヤサはハンターの協力を得て香辛料オールスパイスが採れる樹木の植生域を探しだした。現在、ウリッシュの関係者が栽培園にしようと現地で作業をしているのはミヤサも知っている。オールスパイスは種子から育てて実がなるまで七、八年を要する。故に自然木が育っている地域を栽培園にするのが手っ取り早い。
「蛇? どのような蛇なのですか?」
「どれも大蛇と呼ぶべき大きな個体ばかりのようなのだ。頭が三つある個体も目撃されている」
「歪虚や雑魔、もしくは幻獣?」
「それはわからない。私は雑魔だろうと考えているが確証があるわけではない。三頭の大蛇に関しては歪虚のような気はするのだが雑魔なのかも知れず……。とにかく大蛇退治をミヤサくんに頼みたいのだ。是非に」
「あの、ご存じのように私は冒険家で」
「それは承知している。しかしキミもオールスパイスについては気に掛けていただろう? ハンターに協力してもらってあの地を取り戻してもらいたい。収穫の秋はもうすぐだというのに……悔しくて堪らないのだ」
 ミヤサはウリッシュからの蛇退治を引き受ける。
 相談が終わった後、再び馬車に乗って今度はハンターズソサエティ支部へ。蛇退治の募集をかけるのだった。

リプレイ本文


 港町から森外縁まで馬車二両で移動。馬車の留守番はここまで同行してきたウリッシュの部下に任せる。ハンターとミヤサ一行は荷物を分担して担いで現地へと向かう。
 森外縁付近は馬車がすれ違えるほどの森道が整備されていた。二百メートル(以下M)ほど進んだところで作業員の集団と遭遇する。栽培園の整備担当要員も現在こちらを手伝っていた。三十分ほど留まって現地の話を直接聞く。
「大蛇、倒してくれな!」
「怪我した奴の仇、よろしくな!」
 作業員からの声援を浴びながら一行は再出発。ここから先は一人が歩くのにギリギリの道幅である。長い一列になって先へと進んだ。
「この道でもあるとないとでは大違いですね。迷子になることがないのは何よりも素晴らしいです」
 道中、ミヤサが最初にこの森を探検した時の苦労を話す。一本道のおかげか想像していた時間の半分で現地近くに到着した。
 真新しい大きな看板が地面に突き刺さっている。『これより先、栽培園予定地。許可なき者立ち入り禁止。実業家ウリッシュ・ビスナー』と。その他の署名からいって領主との交渉は成立済みだ。
「ぶっふぉ! カレー! 夏カレー! くっそ、ぱねェなあ、もぅ。粋だなァ! さあ、やってやろうじゃないか……リアルブルーに伝えられし真実のカレーを、顕現させたろうじゃないか!」
 握り拳を掲げた後で水流崎トミヲ(ka4852)は我に返る。そうだ、大蛇退治が先だったと。
「香辛料にオールスパイスの乾燥葉も使うから間違ってはいないが……水でも飲んで落ち着いた方がいいな」
「カレー作りに惹かれて参加したんでね。つい。いやまァ、良かったよ。メンバーが女の子だらけじゃなくてさ」
 ロニ・カルディス(ka0551)から受け取った水筒の水を飲んで水流崎は人心地つける。
 まずは全員で小休止。すでに大蛇の生息域に足を踏み込んでいるかも知れない。岩の上に腰かけつつも周囲への警戒は怠らなかった。
「さて、蛇をだすために藪を突かねばならんな」
 ロニは拾った枝で砂地をなぞり、全員の名前を書いていく。ここに至るまでに決めた班分けの確認だ。三班に分かれて大蛇退治を行う。
 A班はミヤサとザレム・アズール(ka0878)。
 B班はヴァイス(ka0364)、水流崎、柊 真司(ka0705)。
 C班はロニ、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)、アイ・シャ(ka2762)。
「折角見つけたオールスパイスを守るためにも、ここはボクが力を振るわなければな。民を守るのも大王の務めだ」
「蛇さんも悪気はないとおもうのですが……雑魔ならお話は違います。まずはそこを確認してみないと」
 ディアドラとアイが広げた地図で担当区分を確認する。栽培園予定地は発見したオールスパイスの自然木を囲むように決められていた。
「十M級を発見したら無線で連絡だな」
「互いの位置を確認しながら行動しよう」
 柊真司とヴァイスが武器を抱えて立ち上がる。同じB班の水流崎も一緒に森の奥へと消えていく。
「前に冒険したミヤサからの頼みなので、オールスパイスのことだと思ってた。頑張るので宜しくな」
「こちらこそ。雑魔かどうかは倒してみればすぐわかるでしょう」
 A班のミヤサとザレムも大蛇退治を開始。野宿用の荷物は枝に引っかけた縄でぶら下げておく。地面の上だと野生動物に荒らされることがあるからだ。
 C班も動きだす。
 オールスパイスの樹木には色つきの紐が目立つ枝に結ばれている。この時期は白い花が咲いているので誰にも一目でわかる状態になっていた。


「少し先の茂みにいるな」
 木に登ったザレムが双眼鏡を覗き込んだ。緑色の茂みの中に毒々しい鱗状の紫色が蠢いている。
「私たちは二人なので一度に多くの雑魔と戦うのは避けましょう」
「俺もそう考えていたところだ。一匹ずつ戦うのが得策だな」
 降りてきたザレムとミヤサは話し合って作戦を煮詰めた。
 まずは戦う拠点として切り立った崖下の拓けた土地を選んだ。周辺にオールスパイスの樹木がないのも確認済みだ。
「崖上で大蛇は見かけられませんでした。覚醒する一時間ぐらいの間は大丈夫。大蛇が不意に落ちてくることもないはず。背にする崖方面は安全地帯と考えましょうか」
「わかった。警戒するのは正面のみだな。それなら二人でも何とかなるだろう」
 拠点に大蛇をおびき寄せる役はザレムが引き受ける。
 覚醒したザレムの瞳が真紅に染まり、黒い竜族様態の幻翼が発現する。ミヤサの覚醒は外見的な変化は認められなかった。
 ザレムはわざと茂みから身を乗りだしてボウ「レッドコメット」を構える。遠くの茂みで蠢いている大蛇と思われる紫色の何かに矢を当てた。
「やはり」
 想像していた通り茂みから現れたそれは大蛇だった。ザレムは四M級だと判断。しっかりと自身を目視させてから逃げる振りをする。こうして拠点へと導いた。
「連れてきたぞ」
「任せて」
 ミヤサの横を通り過ぎてからザレムが反転。大蛇とぶつかり合うミヤサに防御障壁をかけた。
 ミヤサが袈裟斬りのソードの刃が大蛇の右牙をたたき折る。ザレムもムーバブルシールドで身を守りつつ突進。灼熱のバーンブレイドで左牙を斬り取った。
 これで噛みつきは封じることができた。また地面に転がった牙から零れた毒液が異様な臭気が放たれている。
(これを浴びたのなら只では済まなかったな)
 ザレムは毒液を飛ばす習性を持つ蛇がいるのを知っていた。そこで対策として仮面を被っている。ミヤサには水中眼鏡を貸してあった。
 毒蛇が蜷局を撒きつつ身体を縮込ませる。
「ザレムさん!」
「わかった!」
 危険を察知したザレムとミヤサが樹木の裏側に隠れる。蜷局を弛めた瞬間、鱗が飛び散って周辺に突き刺さった。
 やり過ごしたザレムは右側から、ミヤサは左側から大蛇に迫る。長い胴を両側から刃で掻っ捌いた。
 これで大蛇の動きは一気に鈍くなった。再び鱗を飛ばそうとした大蛇だが、ザレムのエレクトリックショックで阻害される。
 跳んだミヤサが大蛇の脳天へとソードを突き立てる。間髪入れずザレムの放った全力の灼熱の赤い刀身によって頭の付け根をぶった切られた。
 大蛇が地面に転がってまもなく散って消えていく。
「やはり雑魔だったようですね」
「あの大きさでこの手応えか。それにもして残念。雑魔じゃなきゃ食えたのにな」
「えっ? 気にするのそこです?」
「結構重大だぞ。Bの水流崎も気にしていたからな」
 ミヤサとザレムは休むことなく大蛇退治を続行した。覚醒状態が終わるまでに六体を仕留めきる。その間に十M級との接触はなかった。


「つい先程A班が四M級の大蛇を倒したそうだ。雑魔で間違いないそうだ」
 ヴァイスはザレムとの無線交信を終了。その内容をB班の仲間に伝える。
「蛇の肉って結構美味しいらしいけど……! え? 雑魔?」
 ヴァイスが交信している間、水流崎と柊真司はカレー談義で盛り上がっていた。水流崎の蛇肉カレーの夢がここに潰える。
「肉のことは後回しにして蛇退治といこうじゃないか」
 柊真司を先頭に森の奥へと進んでいく。B班が担当する範囲は三班の中で最奥といってよい。
「三から四M級が一匹二匹のときはそのまま戦うつもりだったが……」
「十M級がいなかっただけよかったと思うべきだな」
 柊真司とヴァイスが大樹の裏から様子を窺う。
 木漏れ日落ちる草原に三M級が三体、四M級三体が屯っている。そのうち一匹はオールスパイスの樹木に絡まっているといった最悪の状態だ。
「ここは僕の出番かな」
 水流崎が二人に説明。即興で立てた作戦を実行に移すこととなった。
 B班は次々と覚醒する。
「さあ、やろうか」
 ヴァイスは炎のような紅蓮のオーラを身に纏う。水流崎と柊真司の姿は変わらない。
「すべてはカレーのために!」
 水流崎が放った終末幻想七式の青い霧が雑魔の大蛇を包み込んだ。大蛇六匹が眠りに誘われて弛緩していく。
 柊真司が構えた水中用アサルトライフルP5は陸上でも使用可能。顎部を狙って撃ち込まれた銃弾が時に毒牙を叩き折る。
 そうなれば当然、大蛇は目を覚ます。
 大きく飛び跳ねたヴァイスが一匹目の背中の上に立つ。試作振動刀「オートMURAMASA」を突き刺し、そのまま刃を走らせて背開きにする。
 急所をやられた一匹目の動きは極端に悪くなった。
 柊真司が放った銃弾が一匹目の額にめり込む。これが止めとなり塵となって消えていく。
 幻想七式による睡眠は永続的なものではない。ちょっとした切っ掛けで目覚めてしまう。水流崎はそれに備えて見張り続ける。
 柊真司とヴァイスが二匹目、三匹目を退治。
「これで最後だからねっ」
 それまで寝ていた三匹が目を覚ます。水流崎はすかさず二度目の幻想七式で眠らせた。
「蛇は頭を潰すのが一番らしいな」
 柊真司は四匹目の頭部に弾丸を撃ち込んでいく。的としては大きいので当てやすいが、毒牙を狙うとなれば別。口が大きく開けられた瞬間を見逃さなかった。
「地面に残った跡をみるともっといるかも知れないぞ。散らばっているだけで」
 ヴァイスの刃が四匹目の頭部に深い傷を負わせる。次の動きに移る寸前、五匹目の目覚めに気づく。即座に四匹目ではなく五匹目に対応。ヴァイスが時間を稼いだ。
「すぐにそっちをやるからね!」
 水流崎が振り下ろした腕の勢いに合わせてウィンドスラッシュの風の刃が飛んでいく。これで傷ついていた四匹目の頭部が完全に割れる。消滅の兆しを確認したところで水流崎はヴァイスに加勢した。
「こっちも目を覚ましたか」
 柊真司は目覚めたばかりの樹木に巻きついていた六匹目に銃弾を撃ち込む。自らが囮となり、駆けながら銃弾を撃ち込むことで引き延ばす。その間にヴァイスと水流崎が五匹目を仕留めきった。
 六匹目に鱗をまき散らされたものの、B班は戦闘を続行した。他の個体よりも手こずりつつ、ヴァイスの脳天唐竹割りによって決着がつく。
 覚醒からここまでかかった時間は約三十分。長く感じたが実際には短かった。まだ戦えたがここで退散することにした。担当した周辺が集合地点から離れているので退却に時間がかかる。十M級と遭遇する危険性を加味してのことだ。
 実際、覚醒が切れる直前に三M級一匹と接触して倒しきる。長居しなくてよかったと話しながらB班は他班との合流を果たした。


 アイは茂みの中からそっと頭をだして覗き込む。C班が担当した地域には小川が流れていた。大蛇は水をものともせず、悠々と泳いでいた。
 ロニは頭上に注目する。近辺の樹木の枝には白い花が咲き乱れていた。色つきの紐を確認するまでもなくオールスパイスの樹木だとわかる。
「作業員のみなさまが数え切れないぐらいの蛇さんがいたとおっしゃっていましたが、その通りのようですね」
「鬼が出るか蛇がでるか……いや、蛇でいることは間違いないか」
 アイとロニが小声で話していると後方の茂みから音がする。振り返ると斥候にでていたディアドラが戻ってきた。両手には擬装用の枝が握られている。
「戦うのよさそうなところを見つけてきたぞ。あそこなら毒液を吐かれても大切なオールスパイスにかかることはないだろう。さあこっちだ」
 手招きするディアドラの後ろを二人がついていく。小川から五十M離れたところに丸太が多数積まれた。さらに建築途中で放置された倉庫がある。
「なるほどな。三方が壁になっている倉庫に大蛇を誘え込めば気兼ねなく戦えるな」
「もしものときは窓枠の穴から逃げだせそうですし」
 ロニとアイが倉庫の内側に立つ。
 三方の壁は完成している。しかし一方は両開きの扉が未設置のため大きく開放されていた。
 屋根は作りかけで陽の光が射し込んでいるので視界は良好。内部に置かれた物品はほんのわずか。これなら自由に戦えそうである。
 アイが他班と無線でやりとり。準備が整ったところでC班全員が覚醒する。
 ディアドラはまるで太陽が降りてきたかのような白光を纏う。
 アイの瞳と髪の色が紫色に変化する。背には光のトンボ翅が生えた。その姿はまるで妖精のようだ。
「まずは俺からおびき寄せをやろう」
 ロニは外見的変化はなかったものの覚醒済み。小石を拾って大蛇へと近づいた。小石をぶつけて振り向かせ、自らを追いかけさせる。
「ロニさま、こちらです。そのまままっすぐ」
 樹木の影からロニと大蛇が姿を現す。アイはチャクラムを投げ当てて大蛇をより怒らした。
「ボクが相手をしてやるのだ。光栄に思うがよいぞ!」
 シールド「トゥルム」を構えつつディアドラはタイミングを計る。ロニが自分より後方にまで駆け抜けた瞬間、騎士剣「ローレル・ライン」を一文字に振った。薙ぎ払いの勢いは凄まじく、身体をうねらせた大蛇の胴体に長い傷を負わせる。
 割れた長い舌をだしながら大蛇が二つの毒牙を目立たせた。地面に垂れた毒液が煙を昇らせる。
 反転したロニは大蛇の右側へと回り込む。マルチステップを踏んだアイは一歩早く大蛇の左側へ移動していた。ダガー「コルタール」で鱗肌を斬り裂く。
「今度はこっちだ!」
 ロニがフォースクラッシュで大蛇の注意を引いて盾役を受け継いだ。その間にディアドラが仲間達が刻んだ傷跡を目印にして刺突一閃で貫く。暴れている間に首が千切れ飛んで一匹目の大蛇は消滅する。
 二匹目はアイが誘う。スローイングでチャクラムの威力を高めて見事一匹だけ釣ってくる。四M級のこの個体は一匹目と比べて鱗が硬くて刃が通りにくい。それでも徐々に削っていたが突然に蜷局を巻き始める。
「きっと鱗攻撃ですっ」
 アイは無線で他班から鱗飛ばしの初期動作を教えてもらっていた。仲間にも伝えてあるが声にだして注意を促す。
 それぞれに近くの窓枠を潜り抜けて倉庫の外壁を盾とする。鱗の突き刺さる無数の音が周囲に響き渡った。それを合図に再び倉庫の内側へ。
「鱗飛ばしは大蛇にとって最後の攻撃方法だったようだな」
 ロニの呟き通り、鱗が剥がれている部分になら刃が簡単に通る。こうして二匹目も消滅に追い込んだ。
 三匹目、四匹目と順調に倒していく。ヒーリングスフィアの輝きで全員の身体を癒やしてから退治を再開する。
「鱗があたったら痛そうですね」
「どの鱗も消えているが鋭かったからな。それにほら、毒液がかかったところも酷いぞ」
「あ、雑草が枯れています」
「オールスパイスにかかったら大変な損害になってしまうな」
 アイとディアドラは倉庫内でロニを待つ。しかし誘いに行ったロニは中々戻ってこない。
 もしやと考えて向かおうとしたところでロニの姿が見えた。大蛇は釣っていなかった。
「大蛇の発生原因らしきものを見つけたんだが」
 ロニに誘われて二人も観に行く。小川沿いに直径五M前後の大穴が空いていた。
「おそらく遺跡の穴だ。小川の増水で蓋の部分が削れたんだろう。浸水しているしな」
 地下で燻っていた雑魔が這いだしてきたというのがロニの仮説である。すでにさしたる変化はなく、すべて外へでてしまった印象だ。
「大蛇をすべて倒してからあの穴を埋めてしまおう。そうすれば憂いはなくなるぞ」
「わたくしも、それに賛成です」
 このことは別班の仲間達に伝えるとして、もう一匹大蛇を倒してから最後にする。
 栽培園予定地周辺には様々な動物が棲んでいた。カレーの肉は事欠かないと話しながら他班と合流するC班であった。


 想像していたよりも多く大蛇は巣くっていた。
 退治は無理をせず覚醒時のみ。日中に限定して行う。それでも三日目の夕方までには大半の大蛇を退治し終える。
 四日目。掃討しながら誰もが疑問を感じていた。それは十M級大蛇の存在だ。
「大きさからいって接触は容易と考えていたのですが」
「俺もそうだ。まさか見つけだすのに手こずるとはな」
 ミヤサとロニが相談しているとB班からの無線連絡が入った。
 十M級発見の報である。
 急遽向かうと確かに十M級が存在していた。枝分かれした三本の首をもたげつつオールスパイスの大樹に絡みつく形で。
 近くの大地に大穴が空いている。先日まで大地の下に隠れていたと思われた。
 全員が揃ったところで覚醒の残り時間は二十分を切った。今のところ大樹に毒液が掛かった形跡はなかった。それに小枝は別にして太枝は折れていない。
「明日まで放置したのなら無残な結果が待っているだろうな」
「ボクもそう思うぞ。このオールスパイスを守るなら今しかないのではないか」
 柊真司とディアドラの意見に誰もが同意した。
 大急ぎで役割を決めて配置につく。残り十五分。
「まったく……そんなところに絡みつくなんて。枝を折らないでくれよ。クソァ!」
 水流崎が射程のギリギリの距離でDT魔法『終末幻想七式』を使う。
 十M級の頭三本が霧に包み込まれる。長い全身が緩んで地面へと落下。衝撃でどの頭もすぐに目を覚ますがそれも計算のうちだ。
「こっちですよ♪」
 アイの投げたチャクラムが壱頭の額に命中。スローイングの一撃故に鱗を引きはがすほどの威力が込められていた。
 水流崎は茂みに姿を隠している。故に十M級の三つ首が凝視したのはアイ一人だけ。ジャラジャラと鱗同士が当たる音を立てながら蛇行してアイに迫る。アイは待ってましたとばかりに反転して樹木の間を駆け抜けた。
 百メートルほど彼女がかけて辿り着いたのは大岩が複数転がる一帯だ。周囲にオールスパイスの樹木は一本も生えていなかった。ここなら鱗や毒液を飛ばされても後処理さえすれば問題はない。
「大王はここぞよ。忌まわしき大蛇よ」
 拓けた土地の中央に立っていたディアドラは盾を構えて十M級を睨みつける。いつの間にかアイは大岩の裏側に姿を隠す。
 ディアドラに突進しようとした十M級が途中で勢いを鈍らせた。ザレムとミヤサが大急ぎで樹木の間に仕掛けた数本の針金に引っかかったからだ。
 ディアドラが三つ首にまとめて薙ぎ払いの刃を浴びせかける。それを合図にして周囲の岩陰に隠れていたハンター達が飛びだした。鱗と毒液を使わせる暇を与えない超短期決戦を仕掛ける。
(被害がでないうちに、とっとと潰れちまえ)
 柊真司は大岩の上に腹ばいになりながら水中用アサルトライフルP5の銃爪を絞った。
 初撃は壱頭の右目を潰す。左目にも当てられたがそれはしない。見えなくなってやけになった十M級が鱗による範囲攻撃を仕掛けてきたら厄介だからだ。弐頭、参頭も狙ったがどれも片眼だけ潰していく。
 前衛達は担当した大蛇の首に迫る。
「こちらだ! 大蛇よ!!」
 ヴァイスは全速で駆け寄りつつ渾身の一撃を壱頭に見舞った。試作振動刀の刃が食い込んだ瞬間、十M級が長い舌を伸ばして震えさせる。
「よそ見をしている暇はありませんよ」
 ミヤサはヴァイスの刻んだ傷が深くなるようソードを射し込んだ。捻りつつ抜くと黒い血のようなものが傷口から吹きだす。
「そのままだ。そのまま!」
 ロニのクロノスサイズにフォースクラッシュの威力が乗った。衝撃と同時に襲ってくる痛みに弐頭が暴れだす。
 ディアドラの刃は壱頭、柊真司の射撃は弐頭を的確に追い込んでいく。
 ザレムが仕掛けたのは参頭だ。Mシールドで巨大な毒牙を抑え込みつつ、エレクトリックショックによる電撃で焼いた。その衝撃は参頭だけに留まらない。一瞬だが十M級の全身すべてが棒立ちとなる。
 この機を逃がさずに全員で一気に攻めた。
 マルチステップで背後に回ってから繰りだされるアイのスラッシュエッジ。水流崎の風の刃、ウィンドスラッシュ。先に壱と弐の頭が千切れ飛ぶ。
 残った参頭は全員で追い込んだ。
 傷口から飛沫が飛び散らせながら十M級の鱗が蠢いた。
 鱗飛ばしの直後まで達したものの散らばることはない。柊真司の放った銃弾が参頭の後頭部を破裂させたからだ。暫し動いていた胴体だが先に消滅していく。頭部も塵となってその場から消え去る。
 十M級が大将格の歪虚だったのかは最後までわからずに終わる。しかしこれを期にすべての大蛇が姿を見せなかったことは確かなことだった。


「そしてついにカレー曜日! いや、カレーの日!! ヤッフゥ~!」
 五日目の朝。水流崎は躍りながら満面の笑みを浮かべる。彼にとってはカレーこそが今依頼の大事であったからだ。
 クリムゾンウェストにおいてカレーは珍しい料理である。
 ロッソの支給品にあるカレーのレトルトパックは例外中の例外だ。レシピがわかっていてもいくつかの香辛料が高価かつ貴重なので中々食することができない。
 ウリッシュのような香辛料に精通した者でなければ、カレーを振る舞う発想はでてこなかったに違いなかった。
 数日前からオールスパイスの葉は乾燥させてある。生の葉と両方を使うことにした。
「ジャガイモが入った木箱が倉庫の片隅にあったからな。探してくるか」
「よし、ついにカレーだな。荷物の中の香辛料も持ってこないとな」
 ヴァイスとディアドラがジャガイモ、人参、玉葱が詰まった木箱を持ってきてくれる。元々は作業員用の食材として保管されていたものだ。許可をとってあるので問題ない。
 そして問題は肉。ディアドラは牛肉を望んでいたが、さすがにそれは無理なので諦めてもらう。この森で一番手に入りやすいのは鳥肉だった。
「危険動物の確認も含めて俺がいこう」
「ちょっくら鳥でも狩ってくるぜ」
 ロニと柊真司が散歩にでるような気軽さで森の茂みに消えていく。
「私もお肉狩りにいってきます。余っても他の料理に使えますしね」
「よっしゃ! 肉はまかせろ!」
 アイとザレムも張り切って狩りに出かけていった。
「さて、下拵えは私がやりましょうか」
 ナイフを手に取ったミヤサは慣れた様子でジャガイモの皮を剥き始める。
 ヴァイスとディアドラは見つけた樽を抱えて水汲みをしてくれた。小川の上流にある石清水から採取する。
「ぼ、ぼぼぼぼくもやるよ。カレーとあっては萌え、いや燃えるからね」
「ここ空いてますよ」
「いいい、いいんだ。おっかまいなっくぅ」
「そ、そう……」
 水流崎がミヤサの皮剥きを手伝ってくれた。但し、彼女から十メートル以上離れた丸太の上に腰かける。
 一時間後、狩りにでかけていた全員が戻ってきた。
「小川の近くにいたんでな」
 ロニは真鴨二羽。
「枝に留まっていたんだ」
 柊真司はキジ一羽を捕まえてくる。
「これ、おいしいと思います」
 アイはライチョウ一羽だ。
「よくわからないが、これだ」
 ザレムの獲物はヤマウズラ二羽だ。
「どれも美味しそうですね」
 ミヤサはすべての肉を少しずつカレーに使う。残った分は香辛料を塗して焼くことに。
「ターメリックを良く混ぜ、バターを入れてから炊くんだ」
 御飯は柊真司が希望したターメリックライスと普通のを用意。今日までに何度か炊いていたので飯炊きは全員がお手の物だ。
 手が空いている者は枯れ枝を集める。火を熾して調理開始。
「前に作ったことがあるからな」
 ルゥ作りは柊真司に任せた。手際よく脂身を使い、香辛料、小麦粉等を加えて仕上げていく。根野菜も鳥の脂で炒めると一味違う。
「あ、蜂蜜でコク出そうぜ」
 ザレムが荷物の中から取りだした蜂蜜の瓶をミヤサに手渡す。
「いいですよ。これも混ぜましょう」
 隠し味として蜂蜜も加えられた。この時点ですでに周囲はカレーのにおいに包まれている。空腹がより深い空腹へと導かれていく。
「こここ、これだけ作れば、あ、明日の朝の分のカレーもあるよね?」
「これでもかと作ったから大丈夫ですよ。全員が何杯もおかわりしても充分に残るはず」
「ちょ、朝食は、ぼ、僕に任せてくれるかな?」
「何か考えがあるようね。どうぞ、お任せします」
 水流崎はミヤサと話をつける。その後、ザレムと暫し話し込んだ。
 夕暮れ時、久しぶりに本格的な食事となる。しかもそれは『カレーライス』だ。
「うまい。野外で食べると格別だな」
「まだまだありますからね♪」
 空腹だったヴァイスはあっと言う間に完食。ミヤサがおかわりをよそってくれる。
「香辛料の利いたお肉、美味しいですね」
 アイもターメリックライスのカレーを口にした。
「大蛇がいなければここは安全な森なのか?」
「熊がいると聞いています。この周辺には滅多にでないようですけど。後は猪でしょうか」
 ロニはカレーを味わいながらミヤサに栽培園の今後を聞いた。動物避けとして栽培園は柵で囲まれる予定とのことだ。
「うむ。牛肉のカレーもいいが、野趣溢れるジビエカレーも中々のものだな」
「脂は主に鴨のを使ったそうです。ですよね、柊さん?」
 ディアドラに答えたミヤサが柊真司の方へと振り返る。ルゥを作った柊真司は腕で丸を作った。ちょうど口の中が一杯だったからである。
「ムッチャうまいからな。バリおかわり!」
「ブッハァ……うま……うめェ……うめェ!」
 ザレムと水流崎がカレーにかける情熱は並々ならぬものがあった。二人とも目尻に薄らと涙を浮かべる。
「カレーは美味しいです。ウリッシュさんもおつなことをしてくれます」
 ミヤサにとってカレーはとても懐かしい味である。
 人それぞれであったが、その晩多くの者は楽しい夢を見た。
 翌朝、ミヤサが目を覚ますと朝食が完成している。
「さあ……リアルブルーに伝わる秘奥……そう、カレーUDONだ!」
「俺も麺を打ったんだぜ。さあ、冷めないうちに食べた食べた!」
 水流崎とザレムは昨晩のうちに小麦粉を練っておいた。一晩寝かせて早朝に包丁で切って大量の湯で茹でる。カレーを昆布出汁で割った。一つにまとめて大椀料理『カレーUDON』の完成に至る。
「懐かしいですね。うん、おいしー♪」
 ミヤサが普段以上の笑顔を浮かべる。
 もちろん仲間達も頂いた。水流崎はずるりと勢い良く吸い込む。まさに大和魂を叩き付けるが如くという感じだったが途中で咽せる。
「も、もう、護るものなんて無い歳だからね」
 それでも一気にすべてを完食しきったのは流石であった。
「うまい。カレーウドンはうまい! だが……あー、マトモな蛇ならなあ……」
「そんなに蛇肉のカレーが食べたかったのですか?」
 ザレムは次の機会にとっておくとミヤサに微笑んだ。
 そして帰路。森の道を歩いていると道路拡張中の作業員達に再び出会う。
「みなさま。大蛇の退治は終了しました♪」
「安心するのだ! これでオールスパイスは守られたぞ!!」
 アイとディアドラが大蛇退治の無事完了を報告した。
「ガンナに寄って報告をする予定だ。そうしたら工事再開の連絡が届くだろう」
「それまでは森の道の工事、頑張ってくれ」
 ロニとヴァイスはそう付け加えて作業員達に別れをいう。まもなく森外縁へと辿り着いた。
「ミヤサが御者をするのか?」
「そうしたい気分なので」
「ならつき合おうか」
「それでは警戒を頼みますね」
 二両のうち片方の馬車の御者台にミヤサと柊真司が座る。ミヤサが手綱を撓らせると馬車はゆっくりと動き始めた。
 一行はガンナ・エントラータに立ち寄る。ミヤサが屋敷のウリッシュに報告したところで依頼は完全に終わった。
「来月になればついにオールスパイスの実の収穫です。青い時点で採って乾燥させるそうなんです。葉の部分とどのくらい風味が違うのか、実はとても楽しみにしています」
 ハンター一行はミヤサに見送られながら転移門でリゼリオへ帰っていくのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • Bro-Freaks
    アイ・シャ(ka2762
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/18 12:03:13
アイコン スパイスを求めて
ロニ・カルディス(ka0551
ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/08/19 02:49:44
アイコン ミヤサへの質問
アイ・シャ(ka2762
エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/08/16 22:42:48