地下神殿に猛る神あり

マスター:秋月雅哉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2015/08/19 07:30
完成日
2015/08/24 00:47

みんなの思い出

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オープニング

●山を慄かせるもの
 山が、鳴動する。たくさんの命を内包した魂の揺り籠が、立っていることすら困難なほどの地殻変動を起していた。
 地震の中心となるのは先日、祠が倒壊し地下神殿が露わになったあたりだ。
 べアルファレスと名乗る特徴的な兜をした歪虚の企みの一つの集大成が、今現れようとしていた。
 巨大な、あまりに巨大すぎてそれが何を象っているのか近くでは視認することも困難な歪虚の目覚め。
 地下神殿に祀られ、契約者としてゾンビの状態で眠りについたジャイアントたちは歓喜の雄たけびを上げた。
 彼らの神の目覚めだ。
「我ラの神ヨ! 人間二滅びヲ!」
 ジャイアントのゾンビたちの巨体に隠れるように蛙型の歪虚が静かに神殿内にたたずむ。
「さぁて、ハンターの紳士淑女諸君。そして小夜子。キミたちはこの騒動にどう結末をつける?
 禍の火種を巻くのがボクの舞台。此処での演目はそろそろ終わる。
 ボクにとっての喜劇。キミたちにとっての悲劇。
 ハッピーエンドに変えられるのか、お手並み拝見といこうじゃないか」
 暗鬱としながらもどこか愉悦を感じさせるべアルファレスの声はジャイアントたちの喜びと破壊を求める神への賛辞にかき消された。

 小夜子に言伝を頼まれたソサエティの職員の対応は迅速だった。
 可能な限り早くオフィスへと戻ると斡旋を担当するルカ・シュバルツエンドに面会を求め、事態を簡潔に、かつ過不足なく伝える。
 ルカは今集まる事の出来るハンターに声をかけ、小夜子の住む山に起きた異変を告げた。
「べアルファレスと名乗った歪虚がちょくちょく小夜子君の住む山にちょっかいを仕掛けていたのは、知っている人も何人かいるんじゃないかと思う。
 その山の、地下神殿がある辺りにとてつもなく巨大な歪虚の存在が確認された。
 おそらく亡霊型の歪虚と推測されるんだけど、山の命を吸収する力を持つ分裂体の存在が確認されているそうだ。
 小夜子君からの要請は大まかに分けて二つ。
 一つは歪虚……文献から、ブリーキンダ・ベルと呼ばれたかつての精霊だということは分かっているんだけど、この間一戦を交えたジャイアントのゾンビによって精霊から歪虚に堕ちてしまった存在だね。
 そのブリーキンダ・ベルの霊体、そして分裂体を地下神殿から引きはがし、少しでも無力化させること。
 そしてブリーキンダ・ベルたちが移動する間に被害が出る可能性のある村人の避難誘導。
 霊体には魔法攻撃しか通用しないから魔法攻撃を持たないハンターの人が避難誘導に、魔法攻撃を使える人が霊体を相手にするのがいいんじゃないかと思う。
 これが一つ目の要請。
 もう一つは、小夜子君と一緒に、ブリーキンダ・ベル本体が地下神殿から離れるのを見計らって神殿へ突入、祀られている核を破壊すること。
 ジャイアントのゾンビと、おそらくいるであろうべアルファレスを相手取ることになるかもしれないけれど、できる限り核の破壊を優先して欲しい。
 地上で分裂体が山の命を吸い尽くしてしまう前に片を付けなければ、両方倒してもある意味では僕らの負けになる。
 どちらの連携が欠けても山と、そこに暮らす全ての命が行き場を失う大ごとだ。
 ……健闘を祈るよ」
 今までハンターたちに見せた中でおそらく一番真剣な表情と声音で、ルカは静かに告げたのだった。

 地上でブリーキンダ・ベルが無差別な蹂躙を行っている間、彼の歪虚の核を守るべくジャイアントのゾンビたちは祭壇の前でハンターたちを待ち構えていた。
 舞台の幕引きを見守る演出家のつもりなのか、そこには蛙型の兜を被ったべアルファレスの姿も見られる。
「言っておくけれど、楽しそうならちょっかいは出す。でも本当の意味での味方には、ボクはなり得ないよ。
 ここでのボクの出番はもうすぐ終わる。そしたらボクは次の混乱と恐怖と死を振りまく舞台を別の場所で演出しよう。
 それが弔いの道化師の演出する喜劇なのだから」
「我ラを目覚メさせてクレタ恩もアル。多くは望ムマイ。例エ我ラの神ガ目覚めるマデノ一連ノ動キガ貴様ノ言う舞台デモ、目覚メハ喜ばしい事ダ」
「賢い認識だね。二兎を追えば一兎も得られない。現状での最善を模索するのは良策だよ。
 でもね、ボクは貪欲だから、もっともっと多くの人が嘆き苦しむさまを見ておきたい。それまでは一時的に手を組もうじゃないか」
「荒ブル神の贄ニハ我ラヲ迫害した人間ノ血肉ガ最も相応しい。この間やってきたハンターとやらを一網打尽にし、我ラの神の供物にしてクレようぞ!」
 一度棺に戻された契約者たちは再びの目覚めの後、自ら戦闘の邪魔になる巨大な棺を破壊した。
 何重もの紗がかけられた巨大な祭壇の中で、紗ごしに薄らと明滅する光はブリーキンダ・ベルの本体ともいえる核の物だろう。
 以前小夜子たちが突入した時よりもその光は強く、禍々しさを増している。
ジャイアントの数は六体、その巨体が悠々と動き回る事の出来るほど広い地下神殿には棺だった木片が散らばり、床に描かれた魔方陣のような物を隠していた。
 壁画には巨大で、通常の鹿より遙かに複雑に枝分かれした動物の姿……地上でブリーキンダ・ベルを目撃した者ならそれが彼の歪虚を描いたものだと気づいたかもしれない。
 その巨大な牡鹿に人間の供物を捧げるジャイアントと、苦悶の表情を浮かべる生贄とされた人間の姿が血色で鮮明に描かれているのだった。
 薄暗い地下神殿を、ぼう、ぼう、と核の発する邪悪な光が照らしている中、聞こえてきた少人数の突入体の足音に、ジャイアントたちは鬨の声をあげた。

リプレイ本文

●猛る神と、従者と、暗躍する演出家
(あの子のことは心配だけど、あたし達がさっさと核を破壊すれば済む事。山を守る為、村人を守る為、お姉ちゃん頑張るからね!)
 決意を胸に階段を下っていく天竜寺 舞(ka0377)の背中から何かを感じ取ったのだろう、御影・小夜子(kz0118)は顔に僅かに憂いの影を纏わせた。
「ここで幕引きですか。ならば、大円団といきたいですね」
「そうだな。あの蛙野郎を何とかできれば、小夜子さんや山に住む村の人も少しは安心して生活できるだろうし……」
 そんな小夜子を励ますようにレオン・フォイアロート(ka0829)とリシャール・ヴィザージュ(ka1591)が言葉を投げかける。
「相手の考えはどうあれ、こいつを放置するには後々のデメリットが大きすぎるな」
「陰でコソコソなにか企んでんのは気に食わないな、とりあえず目の前の問題からぶっ飛ばすか」
 エヴァンス・カルヴィ(ka0639)と彼の義妹のミリア・コーネリウス(ka1287)が互いの拳を軽く合わせて戦地に赴く祈りに変える。
「強敵との戦いこそが、我が生き甲斐よ!」
 気力体力共に若い者に負けてはいないとばかりにバルバロス(ka2119)が吠える。
「ベアルファレスには、いい加減に、してもらいたいところです。
 小夜子さんの、心の安寧のためにも、ブリーキンダ・ベルにも、早く、鎮まってもらいましょう」
 ミオレスカ(ka3496)が眉根を寄せた。
「精霊も歪虚になっちゃうんですね……でも大きな歪虚、放っておいたら大変ですっ。一緒に頑張りましょうっ」
 知り合いであり頼もしい仲間と共に戦えるということでアルマ・アニムス(ka4901)も気合が入っているようだ。
 かつて地下神殿へ足を踏み入れたことのあるメンバーの誘導で祭壇のある場所へと足を踏み入れると、陽気な口調の暗鬱な声と知性があまり感じられない罵倒の響きのあるうめき声がハンターたちを出迎える。
「どうだい、死の森を見た感想は。ブリーキンダ・ベルという名で崇められていた歪虚神の力は気に入ってくれたかな?」
「我ラが神二仇ナス者ハ、全テ贄トシテクレル!」
「もうお前の悪趣味に付き合うのはうんざりなんだよ。これで全て終わらせよう、小夜子さん!」
 舞の言葉に小夜子は首肯し、後衛に下がった。
 地下神殿からこの場にたどり着くまで御神刀の欠片にハンターたちが正のマテリアルを籠めた。
 一度歪虚に侵食され、破壊されたものだ。以前のような力があるかは分からない。
 けれど今まで地下神殿を封じ続けてきた、その御神刀をジャイアントのゾンビやブリーキンダ・ベルの核を弱体化させる舞を舞う小夜子の助けになりはしないだろうかと考えた末の選択。
「小夜子さん、これを君に預ける」
「承った。皆、どうか無事で」
「小夜子さんの選ぶ行動を、全力で、支援します。
 思うままに、思い切り、やってください」
「……感謝する、ミオレスカ殿。私は、私の家族を、私の家を守りたい。皆の力を貸してほしい」
「頼まれるまでもない。いくぜ、バルバロスのおっさん、お互いぶっ飛ばすのは得意分野だろ」
「立ちはだかる者は全て粉砕するのみだ!」
 ミリアとバルバロスが核を破壊する際に妨害行動に出るであろうジャイアントゾンビを抑え、核へ向かう仲間が突き進む突破口を開くために息の合った動きを見せる。
「道化師さん、手品でも見せてもらえませんか」
「キミたちは面白いね。実に面白いよ。どうせ何もできないのにこんな敵地まで少人数で切り込んでくるなんてね。
 種も仕掛けも……あぁ、雑魔の核は種になってしまうかな? お望み通り、手品をお見せしようか、冥途の土産になるかな」
「あなたこそ、そこで、何もできずに痛い目を見てください」
 レイターコールドショットにより冷気を纏った射撃攻撃を行いながらミオレスカが毅然とべアルファレスに向かって言い放つ。
「おやおや、怖いね、エルフのお嬢さんは。キミたちの方こそ手品師のようじゃあないか」
 行動を阻害され、レオンとリシャールからの攻撃をまともに受けながらもべアルファレスはおどけた素振りをやめようとしない。
 アルマは攻性強化で仲間を援護した後、核が射程に入るように前進。
 割って入ろうとしたジャイアントゾンビはバルバロスとミリアが攻撃して足止めする。
「有難うございます、バルバロスさん、ミリアさん。助かりましたっ」
「ワシらは肉弾戦が向いてるからな、礼には及ばんさ。核を破壊して陽動班を早く手助けしてやれ」
「敵地にありながら仲間を気遣うバルバロスさん格好良くて素敵ですっ」
「無駄口叩いてないでさっさと行けっての」
 ミリアに注意されてアルマは一瞬だけ肩をすくめるそぶりを見せた後祭壇にかかった紗の中で茫洋と光る核に向けて再び全身を開始する。
「我ラの神二手出シはサセヌ!」
「お前の相手は僕たちだ! 僕らの仲間に手出しはさせない!」
「神とやらを守りたいならワシらを倒してから行くんじゃな」
 舞に迫ってきたジャイアントは腐れ野郎に構っている暇はない、と舞が踏み台にして飛び越える。
「あんまり早く核を破壊されちゃうと、舞台の幕引きが早くなっちゃってつまらないな。というわけで邪魔させてもらうね」
 べアルファレスの操る刀剣型の雑魔が舞に向かおうとするのをレオンとリシャール、そしてミオレスカの銃弾が破壊していく。
「悔しいけど今はお前の相手はしてらんないの!」
 村人たちがきちんと避難できたのか、山にもたらされた被害はどれほどのものか、そして救助と陽動を引き受けている妹は無事なのか、色々と気がかりなことの多い舞だったが戦闘中に気を散らすようなへまはしない。
 祭壇に幾重にも重なる紗を引きちぎるように取り払うと、鹿の物と思われる、けれど一般的なそれよりはるかに大きく、複雑に枝分かれした角が現れた。
 紗ごしに見た時より強い、けれどぼんやりとした光の明滅。
「これが、核だね」
「小娘! 我ラの神の祭壇に近ヅクとは不敬ニモ程がアルゾ!」
「生憎あたしは歪虚を崇める宗派じゃないの! 大事なものに危害を加えるなら、誰かの神様だろうと倒すんだから!」
 核に攻撃を加えてみるがヒビすら入る気配がないことを見て取った舞は、立体攻撃の応用で近くの壁を蹴って飛び上がり、重力の助けも得てスラッシュエッジを叩きつけてみる。
「くっ……霊体の図体でかいだけじゃなく、結構固い……」
「機導砲も試してるんですけど、神と崇められるだけあってなかなか手ごわいですね……」
 アルマが遠距離から舞の援護を試みるが核の破壊はまだかかりそうだ。
「オノレ、貴様ラ! 我ラの神に傷ナド付けサセヌゾ!」
「だーかーら、お前らの相手は僕らだって言ってるだろ!」
 攻撃を繰り出さない核と核を破壊しようとする舞、アルマ。
 核を守ろうとするジャイアントゾンビと、それを阻止しようとするミリアとバルバロス。
 小夜子は敵が弱体化するようにと一心不乱に舞を続け、小夜子に近づく者を牽制するミオレスカ。
 そして愉快犯のように立ち回ろうとするべアルファレスを足止めするレオンとリシャール、そしてエヴァンス。
「道化師は尻尾巻いてとっとと逃げてもいいんだぜ?
 今回は構ってやってる時間が惜しいから見て見ぬふりをしてやるよ」
「そう言われると、ボクは天邪鬼だからもうちょっと邪魔していたくなるなァ、三つ巴の一角を担うのも、ちょっと楽しいし」
「下衆が」
「最高の褒め言葉として受け取っておくよ」
 雑魔を物量戦で操りながらのべアルファレスと、それを仲間と共に無力化させながらなんとかべアルファレスに一撃入れようとするエヴァンス。
 レオンがリシャールの攻撃する隙を作ろうと正面から仕掛け、横合いからタイミングを合わせてリシャールが攻撃を試みる。
(せめて、どこに核があるか分かればここで奴の息の根を止められるのですが……それは流石に高望みのしすぎですか)
 リシャールと攻撃のタイミングを入れ替わり、彼の攻撃後に薙ぎ払いで追撃をしかけながらレオンは核の位置を見定めようとしていた。
 一方、ジャイアントのゾンビ対ミリア、バルバロスのコンビとの戦いは数では負けていたがハンター組に有利に動いていた。
 理由の一つとしてジャイアントたちは自分たちに攻撃を加えてくる二人よりも核の破壊に動こうとするハンターへを妨害しようと動いていたためバルバロスたちの攻撃が当たりやすく、行動が読みやすい。
 そして小夜子の渾身の舞。封印する媒介として前回使用した棺に押し戻すことは、棺が破壊されているため不可能だったが、弱体化自体はなされていて本来の力を発揮できないのが二つ目の理由のようだった。
 ジャイアントが塵に帰っていく数が増えるにつれ、戦意が高揚した二人は新しい敵を屠るために猛る。
「うーん、このままいくと契約者たちは倒されて核も破壊されちゃうかな。それじゃ、キミたちのお望み通りボクは一足先に退場しようか」
 最後に十数体の刀剣型雑魔を生み出した後、べアルファレスは大きく跳躍して戦線を離脱。
「またどこか別の舞台で会おう、再会を楽しみにしているよ。ハンターの紳士淑女諸君。最後まで気を抜かずに健闘してくれたまえ」
「胸糞悪いやつだな……」
「うん、でも、強いのは確かだよ。退いてくれたのは、今回みたいにスピード勝負って時には助かるのが癪だけどね」
 核の破壊を試みていたエヴァンスと舞が攻撃を続けながら短い会話を終わらせる。
 べアルファレスが撤退したことにより手が空いたリシャールは床に描かれた魔方陣をクラッシャードリルを使って破壊しようと行動を変更した。
「ジャイアントゾンビへの加護か、核と霊体を繋ぐ楔になっててくれれば、大助かりなんだけどな」
 巨大な魔方陣の要所要所を破壊して回るとジャイアントたちの動きが徐々に弱くなっていった。
「ナイス、リシャールさん、核が少し脆くなったみたい! もう少しでひびが入りそうだよ!」
「ジャイアントの動きも鈍ってきたぞ。これなら殲滅もできるかもしれんのぅ」
「それはよかった。破壊するためにドリル持ってきた甲斐があったな」
「オノレ……!」
「さっきからよそ見が過ぎるぞデカブツども!」
 ゾンビ化したことで知能が下がり、核を守るということが何よりの使命と己に課しているジャイアントたちが暴れまわるがべアルファレスの抑えに回っていたメンバーの手が空いたことにより劣勢ぶりが加速していく。
「ヴィザージュ殿、よろしいか。御神刀に、本来の力から比べれば微細なものだが清浄な力を宿すことができたようだ。これを核へ!」
 舞の合間に刃の様子を見定めていた小夜子がリシャールの名を呼ぶ。
「お疲れ様、小夜子さん。確かに受け取った!」
「忌々シイ!」
「ソノ刀ヲ寄越セ!」
「誰が寄越すか!」
 ジャイアントの足元を駆け抜け、核の破壊に携わっていた舞に御神刀を届けるリシャール。
「ぜぇ……ぜぇ……こいつが切り札だぁっ!」
「いい加減に、壊れろっ!」
 舞が御神刀の一部だった刃を突きたてると核から深い緑色の光があふれる」
「歪虚の光にしちゃ……妙に正常な空気に思えるが……何が起こったんだ?」
 エヴァンスが呟いた言葉をかき消すようにまだ倒れていなかったジャイアントゾンビたちの苦悶の叫びが響き渡る。
 緑の光は一度収束し、光り輝く雄鹿となって地下神殿を飛び出していく。
 その光がかすめると同時にゾンビたちの体はボロボロと崩れ去り始めた。
「我ラノ、神、ガ……」
「我ラノ、悲願ガ……」
 口惜しそうに呻く声を神殿内にこだまさせながらジャイアントゾンビたちは粉塵と化していく。
「……どういうこと? ブリーキンダ・ベルは歪虚じゃなかったの?
 加護を与え、守護者にしてたジャイアントゾンビが滅びちゃうなんて……」
「おそらく、御神刀に注がれた力を媒介に、歪虚の力と邪悪な祀られ方によって縛られていた精霊の力が最後の力を振り絞って目覚めたのだろう。
 精霊の力も、それをよみがえらせた私たちのマテリアルも正のマテリアル、負のマテリアルを糧に動いていたゾンビたちには耐えられなかったのだと思う」
 ミオレスカの肩を借りて何とか立っている小夜子が切れ切れに推測を口にした。
「じゃあ、あの鹿は陽動班に危害を加えたりは……」
「しねぇと考えていいんじゃないか? 多分だけどな。見に行った方が早い。行こうぜ」
 レオンの疑問に答えながらエヴァンスが祭壇を飛び降り、階段へと向かう。
「そうだな。百聞は一見に如かず。それに何より……」
「なんだよ、バルバロスのおっさん」
「結構派手に暴れたからな、地下神殿が崩れる可能性もある。此処にいつまでも入るのは危険じゃないか?」
「げ」
 バルバロスの言葉に全員がそれを杞憂と聞き流すことができない程暴れまわった痕跡のある地下神殿から、列を組んで脱出する。
 最後の一人が階段を上がりきるのを待っていたように地盤が陥没した。
 が、それより先にハンターの注目を集めたのは。
「緑が……戻ってる……?」
「精霊としての最後の務めを果たしたか」
 突入前、ブリーキンダ・ベルの霊体と分裂体によってほとんどの命が絶えていた山が、今は緑と生き物の気配であふれかえるようだった。
「蛙野郎は仕留めそこなったが、小夜子さんの家族と家は守れたかな」
 よかったな、とリシャールが小夜子に声をかけると張りつめていた小夜子の表情が微かに緩み、頷きが返ってくる。
「改めて、感謝を。おかげで私は今度は家族と家を歪虚から守る事が出来た。一人では到底できなかったことだ」
「なあに、ワシらは暴れたかっただけだ。なぁ、ミリア?」
「そうだな。ジャイアント相手に暴れるのは楽しかったし、報酬もソサエティから出るだろうし。やりたいことをやったまでだ」
「次にべアルファレスと対峙した時は、その時こそ雌雄を決したいものですね」
「確かに。あのいけ好かない蛙頭は放置してたらろくなことがないよ」
 レオンの言葉にうなずいた舞だったが、今は妹の安否が気になるのかどことなくそわそわしている。
「皆さんお疲れ様でしたっ。山も元通り、べアルファレスは取り逃しましたけど、ハッピーエンドと考えてよさそうですねっ」
「地下神殿も祀られてた歪虚も、祀ってたジャイアントもなくなった。これでここらも平和になるだろうさ」
 アルマが笑顔になり、エヴァンスが伸びをしながら辺りを見回す。
「小夜子さん、よかったですね。私も、少しは力になれたでしょうか」
 ミオレスカの問いに小夜子がもちろんだ、と答え、黒曜の瞳が慈しむように優しい光を湛えて山の景色を眺めた。
「陽動班として動いてくれた皆にも、礼を言わなければな」
 その言葉が聞こえていたかのように、緑の向こうから幾つかの声が名前を呼ぶのが聞こえてきて、九人は顔を合わせてそれぞれ笑顔を浮かべたのだった。

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参加者一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 堕落者の暗躍を阻止した者
    レオン・フォイアロート(ka0829
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人

  • リシャール・ヴィザージュ(ka1591
    エルフ|29才|男性|疾影士
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/17 08:42:46
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 舞(ka0377
人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/08/19 00:35:21