• 聖呪

【聖呪】『分担』して臨め!

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/25 07:30
完成日
2015/08/29 14:28

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●小さい見張り塔にて
 緑髪の少女と白髪のお爺さんが荷物を背負って森の中の見張り塔に到着した。
「重かった……です。オキナ」
 ぐったりとして荷物を降ろす少女。
「まったく、これしきで、情けないのぉ、ノゾミ嬢ちゃんや」
「わ、わたし、これでも、女の子なんですよ!」
 やや膨らんできた――と思える胸に手を当てながら抗議するノゾミ。
「強くなりたいと言ってたのは誰じゃ?」
「う、ぐっ……」
 言い返せなくなった所で、塔の分厚い扉が開いた。
 兵士の1人が顔を出した。
「おぉ。補給物資の配達か。ご苦労さん。さぁ、中に入ってくれ」
 ノゾミとオキナが運んでいたのは、塔への物資だった。
 食糧や武器の類だけではない。兵士達への手紙も含んでいる。2人はそれを運ぶ仕事を請け負っていた。オキナの知り合いを通じて得た仕事である。
「ようやく休めます」
 安堵の表情を浮かべるノゾミだった。

「王国北部はどこも亜人の襲撃って噂なのに、ここは平和だよな」
「まったくだぜ。人里から遠く離れているのもあるしな」
 兵士達が周囲の森をぼんやりと眺めながら、そんな会話をしていた。
 ここは、パルシア村とウィーダの街の間に広がる針葉樹林のど真ん中だ。パルシア村へ行く程、森から荒野となっていく。
「そろそろ、帰還命令なんじゃねぇ?」
 亜人の動きを確認する為に、見張り塔に派遣された兵士達は5人。
「早く帰りたい……」
「そういや、お前、領主に臨時徴兵されたって言ってたよな」
「故郷の収穫時期までには戻らねぇと。それに……」
 兵士は首にかけているロケットを取りだした。――が、開くと同僚にからかわれると思い、再び胸の中に戻した。
「もうじき、子供も生まれる時期だし」
「名前、決めてるのか?」
「あぁ……」
 兵士は懐からメモ書きを取りだした。
 色々と名前が書いてあったり、それが線で消してあったりと、ぐちゃぐちゃだ。
「へぇ。男の子と女の子で、二通り考えたのか。やるな」
「準備がいいだろう」
 へへって笑う兵士。
 メモを綺麗にたたもうとした時だった。
「ぐぁ! ……な、な、に……」
「おぉぉぉいっ!!」
 兵士の胸に矢が突き刺さった。メモを握りしめたまま兵士は倒れる。
 慌てて同僚が抱えながら、床に降ろすと、襲撃の合図を知らせる笛を全力で吹いた。
 その間にも、ヒュンヒュンと立て続けに矢が飛んでくる。脇に立て掛けてあった木板を兵士の上にかけると、弩に手を伸ばした。
「こんな所で死ねるかよ!」
 同僚は森の中にチラリと見える亜人に向かって矢を放った。

「亜人の襲撃じゃと!」
 オキナは素早く格子窓から外を確認した。数は不明だが、囲まれているのは間違いない。
「ノゾミお嬢ちゃんはここに残るんじゃ」
「オキナは?」
「ワシは森を抜けてパルシア村へ状況を伝えてくるわい」
 そう言って、オキナは屋上へと駆け上がって行った。

●ウィーダの街で
 『軍師騎士』こと、ノセヤは上司であるゲオルギウス隊長からの急な知らせを読んでいた。
 パルシア村とこの街の間にある見張り塔が亜人の襲撃を受けて危機的な状況にあり、救助するようにとの事であった。
「……改造したのを実戦で使ってみるのもいいかもしれませんね」
「という事は要請に応じるという事でいいのかな?」
「お願いできますでしょうか」
 街の領主の質問に、軍師騎士は丁寧に頭を下げた。
「この街に、動かせる余剰戦力は無い。偵察、守り、隊商の護衛……それでも、見捨てたとあっては、武闘派と名高いウィーダの街の名に傷が付く」
「ありがとうございます。しかし、全軍は必要ありません。手勢と……リルエナ殿、そして、ハンター達にて対応させていただきたいと思います」
 『北の戦乙女』の名が出て、領主は心配そうな顔を浮かべた。
「大丈夫なのか? 聖女の亡霊の話しは。急に村に帰るとか言いだすのではないか?」
「その心配は御無用です。先日、改めて確認したのですが……この前パルシア村から戻った時と違って、なにか、憑き物でも取れた様な感じでしたので。余程の事がない限り、ここを離れないでしょう」
「この数日の間になにか……戦乙女の心に触れるなにかがあったかな」
 そんな感想を言いながら、領主は安心した様子で書類を書き始めた。
 救助に関する指揮権を軍師騎士に一任する旨の書類だ。
「そんなところだと思います」
 街の様子を確認しに来たハンターとなにかしらの接触があったかもしれない。
 もっとも、それは軍師騎士も言えた事ではあるのだが。
「早急に準備取り掛かります」
 書類を受け取って、軍師騎士はそれを告げると、部屋から出て行った。

●見張り塔付近の森の中
 朝から続く嵐は、森の中というのに頬を激しく叩いていた。
 ただでさえ、視界の悪い森の中はより一層、悪くなっている。
「天候さえも操れるというのであれば、『軍師騎士』……恐ろしい存在だ」
 『北の戦乙女』リルエナが、女性特有の大きいそれを嵐よりも激しく揺らしながら森の中を行く。
「と、ともわれ、これで、決死隊の突入も少しは容易になります」
「その通りだ。そして、それを必ず成功させるにも、我々が大暴れしなくてはならない」
 スラリと音を立てて、リルエナは剣を抜いた。
「本気を出す事はない……と命令だが、ここは生意気な亜人共に深手を負わせる、良い機会だ。全力で一撃を入れる……やれるか?」
 凛々しい顔で振り返ったリルエナに、手勢達は自信溢れた表情で応える。
 軍師騎士の作戦は、リルエナと手勢が森の中に潜んでいる亜人の集団に奇襲。戦闘の混乱に乗じ、ハンター達が亜人の囲みを突破。見張り塔の兵士達と合流し、川から脱出。そのままウィーダの街まで川を下るというものだ。
 『北の戦乙女』は剣を掲げた。エクラの加護が宿っているとも言われる宝剣だ。刀身がぼんやり白く光っていた。
「エクラの加護を!」
 剣を森の先に向けると、手勢達は怒号を上げながら突撃していくのであった。


 戦いの音は森の中の見張り塔でも確かに聞こえた。
 塔の入口は堅く閉じているので、破られる心配はない。3階建てで、途中、小さい格子窓はあるものの、壁は垂直だから亜人は登って来られない。
 すぐ脇を流れる川から塔に直接出入りできるのが不安であったが、幸い、亜人がその事に気がつく事も、川を利用する事もなかった。もっとも、今は、嵐で川が増量し危険な状態になっているが。
「救援が来たのか?」
 見張り塔の兵士の1人が屋上から森の中の様子を見て思った。
 亜人の数は不明。救援の数も不明。おまけにこの嵐だ。
「た、助かるかもしれない。おい、誰かアイツに伝えろ! 助けが来たってな!」
 下の階に向かって叫ぶ。
 そこには、矢を受けて負傷した兵士と看病している兵士がいるからだ。
「絶対に帰るんだぞ、生まれてくる子供の為にも、な!」
 再び下に向かって叫ぶと、彼は矢が飛び交う中、救援を少しでも早く見つける為に、身を乗り出した。

リプレイ本文

●矢文
 昼間というのに嵐の為、その視界は極めて悪い。
 吹き抜ける風の音に混じって争いの音が聞こえていた。
「なかなか骨が折れそうねぇ」
 Non=Bee(ka1604)が藪の中から突如として現れたゴブリン数体に向かって機導術を放つ。
 機導術の炎に焼かれ、転がっていくゴブリン。Nonは仲間達を守るように一行の外側を立ちまわっていた。
「ゴブリンなんかに好かれても全く嬉しくないわね」
 刀で切り捨てたゴブリンの死体を見下ろしながらアルラウネ(ka4841)が次の目標を探す。
 視界が悪い状態は亜人にとっても同様な様だ。リルエナ率いる囮部隊が派手にやらかしている影響で、亜人達は組織的な反撃ができず、結果として、ハンター達が遭遇する亜人は群れからはぐれた不幸な者達であった。
「ゴブリンの襲撃か……塔の兵士達が無事でいるといいんだが。多少無茶でも急がないとな」
 特製脱出セットを両手で持つヴァイス(ka0364) が、木々の枝葉の先に塔を見つつ、そんな言葉を発する。
 亜人達が森の中で潜んでいるのは、見張り塔が陥落していない事を予見させていた。
(今日は酔い止め飲んだし、準備万端っ……)
 心の中でグッと念じて、自分に言い聞かせたのは小鳥遊 時雨(ka4921)だった。
 船酔いしやすい体質なのか、別の依頼で酷い目にあったのを思い出す。
 今回、塔の兵士達と川を下るのだ。その為に、時雨も特製脱出セットを両手を精一杯広げて持っている。
「なるほど矢文ですか」
 マヘル・ハシバス(ka0440)は脱出セットを抱えながら、仲間が用意している矢を見て驚きの声をあげた。
 塔の入口は内側から堅く閉じてある様で、兵士達に救助を来たと知らせる必要があるからだ。
「届くかどうか不安ですけどね」
 準備を整えたエリス・カルディコット(ka2572)が弓を構える。
 一行はその様子を固唾を飲んで見守った。距離としては150歩前後はあるだろうか。おまけに、嵐の中、風の勢いもあり、視界も悪い。
 豆粒よりも小さい目標に向かってエリスは矢文を放とうというのだ。
「右側から、来るぞ」
 箱を庇うように体勢を変えながらヴァイスが警戒の声をあげた。
 すぐさま、アルラウネが円を描くような機動で飛び出すと、現れた亜人を両断する。
「危ない!」
 流れ矢が飛んでくるのを見つけたマヘルが箱を持ちながらも、時雨の守る様に光り輝くマテリアルの壁を作り出す。
「びっくりっ」
 流れ矢だったので威力は無かったようだ。矢はマテリアルの壁に突き刺さって止まった。
 その時、エリスの初撃が放たれた。しかし、あらぬ方向へ飛んでいく。
 失敗した時に備え、時雨はトランシーバーを携帯している位置を思い出す。最悪、塔の直下から渡すしかない。
「エリスちゃん、慎重に、そして、大胆に、ね」
 2発目も外したエリスに向かって、Nonが微笑みながら声をかけた。
 覚醒者とはいえ、この状況下である。外すのも無理はない。矢を番えるエリス。再度、マテリアルを集中させた。これで、矢文は最後だ。
(届いて下さい……っ!)
 マテリアルの光跡を残しながら矢文が叩きつける雨を切り裂いて飛翔する。

 それは――

 見張り塔屋上に矢避けで立ててあった木板に突き刺さる。
 兵士が驚きながら、その文を手に取る姿を見届け、エリスは静かに弓を降ろした。

●合流
「良し、荷物は無事の様だな……って、ノゾミじゃないか」
 塔の中に入る事ができたヴァイスは目を丸くしている緑髪の少女の姿を見つけて驚いていた。
 一般人がいると聞いていたが、まさか、この少女だったとは。少女に怪我は無い様子だ。
「やっほ、ノゾミ!」
 元気よく声を掛けながら少女に抱きつこうとした時雨が、ノゾミの横で横たわっている兵士の状態をみて、立ち留まる。
 既に応急手当済みではあるが、やれる事が無いかと確認しようとした。それは、Nonも同様で怪我している兵士の容態を診る。
「私は出発まで、亜人を塔に寄せ付けないようにしてきます」
 銃を構えて、エリスは階段を駆け上がって行った。
 塔の屋上からゴブリンを牽制するつもりなのだろう。
「それでは、私はボートを膨らませますね」
 脱出セットを開けて、中から足踏み式の空気入れを取りだすマヘル。
「ほらほら、手伝って、ね」
 アルラウネが前屈みになって兵士3人ばかりに声をかける。
 兵士達は「も、もちろんだ!」と表情を明るく、脱出セットに取りついた。
「このボートを使って川を下る作戦だ。外は……亜人だらけだからな」
 隊長格の兵士にヴァイスが説明する。
「分かった。だが……」
 視線を怪我している兵士に向ける。
 あの状態で、果たしてボートに乗れるのだろうか。
「き、気にする……な……置いて……け……」
「馬鹿を言うな!」
「いいんだ……こんな状態じゃ、足手まといに……しか……。俺を楽にして……行って、くれ……」
 ボートのバランスも悪くなる事で、最悪、転覆する可能性もある。
 自分よりも仲間達の安全を願う兵士の言葉に塔の中は静まりかえった。
「亜人達が攻め寄せてきました!」
 その時、屋上で射撃を続けるエリスの声が響いてきた。
 塔の入口が開くのを目撃されていた様だ。森の中に何体いるか、エリスは50を越えたあたりから数えるのを止めた。
 迷っている時間はあまり無い様子だ。既にリルエナ達の囮部隊は引き揚げており、亜人達の混乱は収束しかけている。
「は、はやく……」
 傷ついた兵士の言葉に、ノゾミが手元にあった彼の剣をスラリと引き抜いた。
「貴方のノゾミを叶えます」
 無表情で剣を構える緑髪の少女。
 だが、剣が振り下ろされる事は無かった。少女の腕をヴァイスが掴んだからだ。驚いたノゾミが目を向けてきたが、ヴァイスは静かに首を横に振った。
「全員で、脱出するんだ」
 その言葉に対して口を開こうとしたノゾミによりも先にNonが人差し指で少女の口を止めた。
「ノゾミちゃん。希望する事を叶う事が正しいとは限らないわ。時には諦めない事も必要なの」
「川を下る途中で死ぬ事になってもですか?」
 恐ろしい程、冷静な表情でさらりとそんな事を言う少女の頭をNonは撫でた。
「死んだら、希望はないわ。この人も、そして、この人を待つ家族もね。ノゾミちゃんがやれる事は命の灯を消す事でなく、貴女が希望になる事よ」
「私が……希望に?」
 戸惑いながら、少女は時雨に視線を向けた。時雨は応えるようにニコッと笑った。
 そして、兵士が持っていた子供の名前が書かれたメモが入った小袋を、兵士にしっかりと握らせた。
「もーちょいの辛抱だかんね? お父さんになるんだから、ふぁいと!」
 兵士は痛みに耐えながら力強く頷いた。
「ノゾミ、任せたよ!」
 少女の肩をぽんっと軽く叩き、時雨は塔を上がって行く。エリスを呼びに行ったのだ。
 川下りの先頭を行くのは、時雨とエリスだから、彼女――彼だが――が降りて来ないと出発できないからだ。

●出発
「この川を下るのですか……軍師騎士さんも無茶な事を考えますね」
 マヘルが塔から直接出入りできる川を見て呟いた。
 嵐で増水している川は激流という言葉を通りこしている。普通は……下るまいと思う事だろう。
「ここのボタンを押しながら話す事で、使えますので」
 兵士にトランシーバーの使い方を丁寧に説明するエリス。兵士達に連絡は任せ、自身はオール操作に集中する為だ。
 依頼主の話しによると、川下りは特に難しい箇所が3つ程あるという。無事に突破できなければ、最悪、ボートが壊れる可能性もある。増水している川の状況をみると、それは極めて危険な事を意味していた。
「人、人、人っと」
 左手に文字を描き舐めているのは時雨だ。この土壇場になって、船酔いするのではないかと緊張しているようである。
 ゴーグルをかけて気合いを入れる。先頭は後続に川の状況を知らせる大事な役目があるのだ。
「それで……お前達は何をやっているんだ?」
 ヴァイスの目が冷静を装いながらオロオロとしていた。
 一緒にボートに乗るノゾミの背中にアルラウネが思いっきり抱きついているのだ。丸くて柔らかいアレの横が見えそうで……見えない。
「いいじゃない。女の子同士なんだし」
「あの……お、思いっきり当たってます!」
 ノゾミが言うと生々しい。
「あっ! ヴァっくん、今、エロい事考えたでしょ」
「か、考えてない! 断じてない!」
 顔を真っ赤にしてヴァイスはオールの点検に戻る。オールダイジ。
「とても、楽しそうね」
 そんな光景を眺めながらNonはトランシーバーを首から下げて、括りつける。
 基本的に後続のボートは応答する必要がないからだ。ついでに、アルケミストデバイスの位置も確認した。
「追って来た場合は、私達が殿だから、ね」
「はい。私は防御障壁を使えるように準備しておきます」
 同じ機導師であるマヘルが頷きながら応じる。
 こうして、3台のボートは荒れる川に漕ぎだすのであった。

●突破
 二つ目の難所を抜けた一行は、いよいよ、最大の難関に差しかかろうとしていた。
 普段は小さい落差なのどうが今は水量を増して、ちょっとした滝の様になっている。おまけに巨大な岩も張りだし、とても危険だ。
「後ろの方達に、予め右に寄っておくように伝えて下さい!」
 エリスがオールで巧みにボートを操作しつつトランシーバーを持つ兵士に声をかける。
「さ、難所だー! いくよっ」
 時雨が注意を呼び掛ける。この難所を漕ぐタイミングを合わせて乗り越えないと、さすがにボートが壊れてしまいそうな気がしていた。
 先頭を行くこのボートは既にボロボロだ。先が分かっていても、肝心の操作が上手くいかないと意味がない。時の運と言ってしまえばそれまでだが、これまでの難所では岩に何度も打ちつけてしまった。
(後ろ、特に怪我人乗せてる真ん中が心配だけどー……きっとやってくれるはずっ)
 安否を心配しながら、時雨は心の中で少女に声をかけた。

 先頭のボートが無事に最後の難所を突破したとの連絡が入り、ノゾミが嬉しそうな声をあげた。
「ノゾミちゃん、いくよ!」
「はい!」
 タイミングを合わす為、アルラウネは少女の名を呼んだ。少女はオールを構える。
「できる限り、ボートに掴まっているんだ!」
 ヴァイスが負傷して横になっている兵士に叫ぶ。
 前回の難所を突破する際に、岩場に激しくぶつかった為か、意識が朦朧としている兵士に聞こえているかどうかわからない。それでも彼は叫んだ。諦めない為に。
「ひだりぃ!」
 巨大な岩が、突き出している。それを避ける為、アルラウネとノゾミが、別の岩をオールで力の限り押した。

「さすがに、もう追って来ないわね」
 一度目の難所を突破するまで陸上から追いすがってきていた亜人共の姿は後方にはない。
 振り返って確認したNonは正面に向き直す。
「最後の難所ですね。最後は無事に切り抜けたいと思います」
 ヴァイス達が乗る二台目のボートも無事に突破。負傷している兵士も無事とのノゾミが興奮した様子で連絡があった。
「そうね。最後は華麗に決めていきましょう!」
 Nonの呼び掛けに兵士達は威勢良く返事をして答えた。

●帰還
 難所を突破してそのまま川を下った一行は、あっという間にウィーダの街まで到着した。
「それにしても、このボート、偶然作っていたわけでは無さそうですよね。この状況を想定していたわけでは無いでしょうし。何の目的で作ったのでしょうか……」
 マヘルが真剣な表情でボートを見つめていた。
「きっと、別の目的があったかもしれないな。この街は、川と面しているわけだし」
 難所を突破できる程、耐久性を増したボート。そして、即席でも利用できる空気入れに、オールが4本。
 ヴァイスも考えるが、真の目的は思いもつかなかった。
 とりあえず、ボートの性能も確認する事ができたのは間違いない。今回の成果と脱出セットが作られた理由が後ほど判明するのだが、それは別の話しである。
「同じ川でもこないだのとはえらい違いねぇ! 」
 丘に上がったNonが川の様子を改めて観察しながら言った。
 先日、ここで、川遊びしていたのだが、今は見る影もないからだ。
「無事に帰って来れて良かったです」
 肩を撫で下ろしたのはエリスだった。
 負傷した兵士も含め、全員で帰って来れた。依頼は完遂しただろう。
 ハンター達の元へノゾミがやってきて、深く頭を下げる。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、ノゾミさんがいてくれて助かりました。ありがとうございますね」
 マヘルの笑顔にノゾミが嬉しそうな表情を浮かべた。
「まさか、荷物を届ける仕事をしていたら、こんな事になると思ってもみなかったです」
「兵士さんも無事だったし。よかったよかったっ」
 時雨がノゾミの右肩に飛び付きながら感想を口にする。
「みんな、頑張ったからよね」
 アルラウネはノゾミの左肩に抱きつく。
 あれは、確実にアレが当たってる。
「って、ヴァっくん、また、エロい事考えたでしょ」
 その言葉に全員の視線がヴァイスに集中した。
「待て、誤解だ!」
 真っ赤な顔をしながらヴァイスが弁解するのであった。
 可笑しな彼の様子に、ノゾミが眩しい程の笑顔を見せていた。


 見張り塔の兵士達と一般人に合流し、無事にウィーダの街に帰還したハンター達。
 負傷した兵士は命を取り留め、それを待っていたかの様に、この日、兵士の子供が生まれたという。


 おしまい。


●後日
 ノゾミはウィーダの街郊外のある場所に向かって走る。
 理由は――主がそこで待っているという連絡があったからだ。
「ネル・ベル様!」
 姿を見つけると、走っている勢いのまま、歪虚に飛びつく。
「ふむ……しばし、見かけないうちに、大きくなったか?」
「そ、そうですか?」
 抱きついたまま顔を上げるノゾミ。愛らしい上目使いが可愛い。
「そして、だいぶと『人間』らしくなったな」
 抱きついた少女の両肩を掴むと、引き離した。ノゾミは上げていた顔を落とす。
「そうだ……ネル・ベル様……私、分からなくて……希望とはなにか、生きるとはなにか……私は誰かの希望になれるのでしょうか」
 その言葉に歪虚は一瞬驚いたが、表に出す事はしなかった。
 静かに、少女の頭を撫でる。
「『人』は本来、弱い生き物だ。力ある誰かが導かないといけない。そう思わないか?」
 その言葉に少女は塔の中でのやり取りを思い出していた。
「はい。仰る通りだと思います」
「だからこそ、強者の存在が必要なのだ。お前は不安になる事はない。強者である私に従えばいいのだ」
 歪虚の黒い瞳を見つめる少女。
 まるで、飲み込まれるような感覚を覚えたが、それは一瞬の事だった。
「……はい。ネル・ベル様」
 人形を思わす様な、空虚な表情で緑髪の少女は歪虚の言葉に応じた。
「さて、ノゾミよ。私の願いを叶えるのだ」
 歪虚の甘い声が響いていった。

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MVP一覧

  • Beeの一族
    Non=Beeka1604
  • ピロクテテスの弓
    ニコラス・ディズレーリka2572

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 憧れのお姉さん
    マヘル・ハシバス(ka0440
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • Beeの一族
    Non=Bee(ka1604
    ドワーフ|25才|男性|機導師
  • ピロクテテスの弓
    ニコラス・ディズレーリ(ka2572
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士

  • 小鳥遊 時雨(ka4921
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ヴァイス・エリダヌス(ka0364
人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/08/25 00:45:06
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/20 03:36:55