デュニクス騎士団 第四篇『暗中』

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/24 09:00
完成日
2015/09/04 00:13

みんなの思い出

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オープニング


 拝啓 ゲオルギウス様
 ゲオルギウス様が北部で指揮を取っておられると風の噂で耳にしました。
 随分と日差しの強い季節になってまいりましたね。こちらは順風満帆――とは言いがたいですが、
 順調ではある、と感じる毎日です。

 先日、『毛』の事で悩んでいると部下に打ち明けた所、良い薬があるわ、と言われました。
 まだ時期ではないらしく、しばらくは待たねばなりませんが、一筋の光明を感じなくもありません――


 と、デュニクス騎士団の騎士レヴィンが出すあてのない手紙を書いていた頃。
「失礼します」
「お、おや、マリーベルさん」
 デュニクスに拠点を構える『デュニクス騎士団』――その実態は青の隊の分隊にすぎないのだが、通りがよい為通名としている――の有能なる秘書、マリーベル。
 絹糸のような金髪に理知的な蒼眼の少女は、分厚い資料を抱えながら執務室を訪れたのだった。それなりの付き合いになってきたが故に、レヴィンにも彼女の機嫌が解るようになってきた。細眉を見るに今日はいまひとつご機嫌斜めのようである。
「いくつか、ご相談があります」
「はっ、はい!」
 短く切り出された言葉に不必要に緊張してしまう雇い主を無視して、マリーベルは続ける。
「リベルタース地方での難民の受け入れはおおよそ終了しましたが……その結果、いくつか問題が上がっています。住居は各商会と調整のすえ空き家を開放する形で収まりましたが――」
「しょ、食料、でしょうか?」
「それと、就業、です」
 小さく息を吐いて、マリーベルは続けた。
「き、騎士団の増員では……?」
「若者を中心に希望者は居ましたからかなりの増員は見込めましたが、戦闘要員以外ですと……難しい、ですね」
「か、鍛冶や、雑事などで諸々……」
「ヴェルド様とアプリ様が有能過ぎましたね……最低でも夫々にあと一人か二人雇ってしまえば、それで終わり、です。もっとも、彼らが休みなく働く事が前提になっているので、彼らがそれを希望している点を鑑みればもっと雇い入れられるかもしれませんが……」
「……」
 計算するまでもなく、難民たちで往年に近しい住民を内に抱える事になったデュニクスを支えるにはとてもじゃないが足りない。
「以前、お考えがある、と仰って居ました。どのようにお考えなのですか?」
「あー……えー……それはー……」
「……」
 苛立たしげな視線におびえながら、レヴィンは生唾を飲み込んだ。
 ――いつか、言わなければいけない事だ、と。自らに言い聞かせて。
「これは、本来であれば、わ、『私達が扱う類の問題ではない』、ですから……」
「……っ」
 まるで、その言葉に撃ちぬかれたかのようであった。少女は言葉を飲み込まざるをえなかった。
「き、騎士団は協力を惜しまない、という方向で……そ、その、現在キャシーさんに調整してもらっています」
「それは」
 目を見開いたマリーベルには、隠し切れない激情が、滲みでていた。珍しいな、と思う事はなかった。少女の責任感は、短くない付き合いで解っていた。それ故に、その行いが残酷であることを男は十二分に理解していたから。
「――失礼します」
 今回の問題は根が深い。慎重を期さねばならなかった。
 騎士団が、おのずから介入するわけにはいかない。それが『彼女』の意向に沿わない事は解っているが、それでも。
 だからこそ、急ぎ足で退室していくマリーベルを留める事はしなかった。ただ、その小さな背中を見送って。
「……恨みますよ、ゲオルギウス様」
 と。短く、零したのだった。


 集合場所は現在デュニクス騎士団が居を構えているデュニクス郊外の廃農家である。
「……ン、これでそろったわね」
 牛小屋を改築した会議室で、デュニクス騎士団の渉外担当キャストンが居並ぶハンター達を見回して言う。通称キャシー。身長185cmを超える、”ブロンド美女”である。実際の性別は御察し頂きたい。キャシーは分厚い化粧の乗ったウィンクをかますと、ハンター達から視線を外した。
「今回は来てくれてアリガト。職人街と農業組合のオジサマ達も歓迎してるわ」
 言葉に合わせて、つい、と示した後方。居並ぶ強面のオジサマ達が会釈をした。どこか嬉しげなのはキャシーの美脚を拝みやすい位置だからだろうか。
「今回の依頼は、今、デュニクスを覆っている問題の解決よ。正確には、その道筋を考えてほしいの」
 キャシーは言いながら、活版印刷でつくられたであろう書類を配る。
「今の問題はズバリ、難民の問題。そして、デュニクス自身の問題よ。この町は、本来それを行うはずの貴族が高跳びしたせいで、現実的には彼らが自治をせざるを得ない状況になっているの。騎士団を通じての王国の援助もあって辛うじてやっていけるけれど、それでも、具体的な道筋は立っていない……」
 そうしてキャシーは微笑した。
「何で、ってのはいいっこなしよ。帳簿は付けられても政治はできない職人と、土地の恵みと故人の価値で生きてきた私達だもの。騎士団は防衛戦力であって、政治をする組織じゃないし――」
「言うなあ、キャシー」
「あら、本当の事じゃない」
「ぬふー……」
 冷たくいなされた農業組合のオジサマはそれでもどこか嬉しげだった。
「古くから街に居る町商人はまだ残っているけれど、輸送の問題もあって閑古鳥状態。有力な商会は……『第六商会』の商館と、細かなものが幾つかは残っているけど、静観しているみたいで、ね」
 キャシーはどこかに視線を送ったようだったが、微かに首を振って振り払う。
「……さて。貴方達に求めたいのは、『難民は、デュニクスはどうしたらいいのか』についての意見を募集しているわ。
 私はもう騎士団の所属だから、とやかく言うものじゃないけれど……彼らは、この街を、どうすればいいのか解らなくなっているの。
 問題は目の前にあって、先送りにできるものじゃない。でも、展望無しに出来る程、軽くもないことは私たちにも解っているわ。『それをすべき貴族は居ないのに、王国からは物資が届くだけ』っていう現状は……貴族と王家の問題、ということもね。今、物資が届くだけでも有難い事なのは私達も十分知ってるつもりだし、無いものねだりをしても仕方ないのだけど……」
 キャシーは艶然と笑い、こう結んだ。
「……だからこそ、貴方達の智慧を貸して欲しいのよ」



 マリーベルはその会議室から離れ、街中をあてもなく歩き回っていた。その先で、一人の男を見つけた。楽しげに町並みを見つめていた男は、マリーベルの視線に気づくと微笑みを浮かべた。
「おや? こんな所で一人で何しているんだい」
「――貴方は」
「久しぶりだね。元気にしてたかい」
 そう言った男の名前を、彼女は知っていた。
 ヘクス・シャルシェレット(kz0015)。貴族らしからぬこの男を、幼い頃の彼女は忌避していたのだ。
 でも。彼は、港町ガンナ・エントラータの領主でもあった。だから……。

リプレイ本文


 集った者の中には、かつてこの街で尽力した者もいた。誠堂 匠(ka2876)もその一人だ。
 面識があった職人街、農業組合それぞれの代表が嬉しげに目を細める姿に、会釈を返す。
 ――少し、やつれたか。
 再開にそんな事を思った。状況は焦れる程に動きが鈍い。けれど。
 ――それでも、この人達は“デュニクス”を選んだ。
 彼らなら。そして、彼らとなら、まだ勝負できる。彼らが望んだ“故郷”を取り戻すため、暫し沈思する。
「18になったし怪我を治すついでにお酒デビューでもしようと思ったんだけど……」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は眉を顰めていた。少女にとっては束の間の休息を滋養溢れると評判のワインと共に満喫しようとしていたのだろう。
「お酒なら出せるわよ?」
「んー……や、ちょっと考えたいからね。今はやめておくよ」
 キャシーの言葉に、アルトは苦笑を零した。そういう少女は、酒よりも花のほうが似合いそうな程に可憐だ。
 傷だらけで無ければ、だが。
 ――騎士団の上役はどう考えているのか……。
 どこか楽しげな空気とは裏腹に、アルルベル・ベルベット(ka2730)は気難しげで。
 デュニクスの混迷には王国騎士団全体も寄与しているといえなくもない。特に、この王国北西部では。
「……どうにか上役と連絡を付けられるものはいないだろうか」

 その頃、おおよそ連絡を付けられるであろう人物は――。



 その日は何処までも透き通る晴天であった。存分に陽光を浴びた草葉の香りが漂う牧歌的な光景。そこで騎士レヴィンは木製の椅子に座らされていた。
「あ”あ”あ”」
 上がる声はおっさんそのもの。無理もない。彼はおっさんなのだから。
「ぅ、あっ、そこは……っ!」
「ここがいいのですか?」
「……っ」
「言わなくてもレオにはぜーんぶ解ってるのですよ」
「あ”あ”あ”」
 彼は今、一人の少女にがっちり掴まれていた。
 少女の名を、Leo=Evergreen (ka3902)という。


「あれ、おたくら的にどうなんです?」
「クク……吐き気がするな」
「――ヴィサン」
「ククっ……」
 『頭皮マッサージ』中の二人にあきれていたヴィサンとポチョム――そして、ウォルター・ヨー(ka2967)。に、と人好きのする笑みを浮かべた少年は、こう告げた
「さて。聞きたいのは……“今の”デュニクスのことでしてね?」



「……んー、とりあえず現時点で考え付くのは産業復活やインフラ整備、かしらねぇ?」
 ナナート=アドラー(ka1668)の悩ましげな声が、室内に弾けて消えた。
「酒の醸造で知られていたならこれを騎士団主導で復活……公共事業としてやれないかなと思ったけど」
 アルトの言葉に、農業組合の代表もウンウンと頷いていた。
「第一の問題は農業と醸造業の復興が可能か、という処、ですが……どうでしょう?」
 匠が問うた先、農業組合の代表の表情は苦い。
「出来る、とは言いたいが――」
「人手なら、難民たちはどうかしら?」
 遮ったというにはあまりに絶妙な間で、ナナートが言う。
「あのひと達は農業従事者よね。なら彼らを頼れないかしら? 農耕地の警備は――騎士団が頑張ってくれるのよね」
「そうネ。そこは任せて。無駄に元気なのが増えちゃったから」
 ナナートに笑顔で答えるキャシーに、農業組合の代表は全力で頷きまくっていた。代表は眼福そうにナナートとキャシーを眺めている、が。
 ふたりとも、男だ。
 それはさておき。アルルベルが眉を潜めた。
「キャシー、騎士団は警護にはつくのか?」
「あら、モチロンよ」
「……これまでついていなかった理由は?」
「街自体の警護はしていたわ。でも、農業組合からの要請はなかったのよねえ……?」
 苦笑の気配と共に言うキャシー。言葉に含意を感じた。
 ――やはり、何かがおかしい。何かが噛み合わない……。

 その時。
 遠くから、声が聞こえた。


「あぁ!?」
「そ・う・い・う・わ・け・で・さァ!」
「おーぅ、そうか、そうか!」
 内心で舌打ちをするウォルターは、元騎士の老人、ボルクスを相手に格闘していた。
「他の事はわかったがな!! しかしなんだって団員同士で見張らねばならん!?」
「それも言ったところでしょうに……」
 万歳三唱しながら基礎訓練に勤しむボルクスは新兵の教官としては優秀だが、前時代的に過ぎる。というか、なによりも。

 耳が、遠かった。

「……と、とりあえず、よろしく頼みやす!」
 ウォルターは見切りの速い男だった。そうでなくても、やるべきは多いのだ。



「レヴィンおじちゃん、とっても乱れていたのです」
「め、面目ない」
「乱れた頭皮からは乱れた髪の毛しか生えないのです」
「は、はあ……」
 所変わってデュニクスの街。レオはレヴィンを伴って街を訪れていた。難しい話は良く分からないからレヴィンも手伝え、という寸法だ。頭皮をがっちり掴まれていたレヴィンに断れるはずもなかった。
 ざっくりと街を眺めて、レオは言う。
「みすぼらしい人は結構いますが、あんまり荒れてはいないのですね」
「……そ、そうですね。王国からの支援もありますし――じ、実際のところ、此処での暮らしは“村”のそれとはだいぶ違いますから……」
 勝手が違うのだろう、とレヴィンは言ったあとで、こう添えた。
「そ、それでも、問題がないわけではなさそうですが……」



「生産も、だけど。騎士団が介入するのなら、輸送や販売も一括して騎士団が管理できないかな。一つでも柱があると経済は回る――と思うんだけど」
「……そういえば、支援物資は騎士団が運搬しているんだね?」
「ええ、そうね。ハルトフォートの騎士団が、だけど」
 私達は長距離の護衛には向いていない、というキャシーに、匠は。
「なら、そのルートは使えないかな。何なら、デュニクスの品を帰りに荷を積んで貰う事も出来る筈……かな、と」
「……“騎士団”主導、か。たしかに」
「図々しいけど名案ね!」
 アルルベルとキャシーが賛意を示すと、軽く咳払いをした匠は、こう続けた。
「図々しい……いや、まあ、そうだね。もし名目が必要なら、デュニクスへの『進軍路確保』……は使えそうだし。此処は対イスルダの駐屯地でもある……ん、だよ……な?」
 見渡す先。代表達の望外の渋面に、言葉が途切れそうになった。
「そう、そうね。そう、なんだけど……」
 ちらり、と辺りを見渡したキャシーは心なしか声を潜めた。
「実際はそうじゃないんだけど、実態的にそうなっちゃうから、誰かさんは逃げたのよねぇ……」
「ああ、そこ、なんだけど」
 アルトは軽く手を掲げて、言う。
「お金もなんだけど、人集めも必要だと思うんだ。此処には歪虚や亜人なんかの敵がいるだろう? 彼らを相手にするなら、ボクらの同種――ハンターや傭兵達は集まってくるとおもうんだ。彼らを起点にすれば、報酬として支払った分もある程度帰ってくるのも見込めるよね……酒場に向いてる人もいるみたいだし」
「あら、嬉しいわね」
「……うん」
 口元に手をあててわざとらしく『しな』を作るキャシーに何と言ったものか解らず――とりあえず、視線を切った。そのまま、視線がキャシーから、職人街代表の方へと流れていく。
「それに僕らにとっては武具は生命線、だから。職人街の人たちも儲けられるんじゃないかなあ……?」
「あー……どうだろうな」
 所在なさげに、職人街の代表は頭を掻く。
「傭兵共は兎も角、ハンター達はあんまり良い客にならねェンだよな……大体がソサエティで完結してるし、旅先で装備を誂えるやつは少ねェ……違うか?」
「……あー」
 自らを省みて、思う。愛刀を始めとして、自らの武威を支える慮外の武具を。
「……そうかも、ね」
 他所の誰かに預けられるものではない気がしなくもなかった。



 その後匠が新規の加工品としてジャムを提案したりなど、一頻り話が進んだ後。
「私からは、教育について、だ……必ずしも目の前の事態に対処できるものではない、が。十年、二十年先の事を考えれば、住民たちでの自治を促すために必要だからね」
 知識を愛する彼女らしい言葉だった。
 だが。
「実は事前に、街の様子を見てきたんだ」
 そこに裏付けがあったとしたら、その真剣味は大きく異なろうというものだった。

 他方。
「なるほど、分かったです」
 レヴィンと見て歩きながら、レオ。
「難民達……その辺の村人は、あまりまともな教育を受けていないのですね」
「え、ええ……」
「めんどくさい人たちばかりです……多くて困るなら放り出してしまえばいいのです」
「ふぁっ?!」
「冗談です」
 ずるずると長い髪を引き釣りながら、少女は笑みを見せた。
「でも、勉強したらダマされることが少なくなるのですよ」
「……」
 途端、レヴィンの視線に憐憫が混じった。時折、少女の言動は痛ましく見える。
「もし教える人がいなければ、ハンター達を、雇ったらどうです? ハンターにはお人好しで一芸に秀でる人間が一定数存在するのですよ。その金も先払いはしても、難民が就業後に地道に返せばいいのです」
「……さ、先払い?」
 レヴィンは漁村生まれの人間だった。『奨学の為』の金など、考えもしていなかったから――正直な所、驚きもした。
「あとは、後ろ暗い人たちを招くとかですねー」
「そ、それはNGです」
「ちぇー……」


「街の暮らしと村の暮らしは違う……主たるは、識字や計算を、特に子供たちに身につけさせたい。彼らはもう”村人”ではなくなるからね」
 ふと。興味深げに見つめるキャシーの視線に気づく。小首をかしげながら、続けた。
「学びたい、という者は少なくなかったよ。農耕の合間に学べる程度でもいい。講師は雇い入れる必要はあるかもしれないが――なあ、キャシー。誰か心当たりはないかね?」
「ないでもないけど……学びたいかどうか、って、聞いて回ったの?」
「まあ、それなりにね」
「……そうねえ」
 零れた笑みの意味は、少女には解らなかった。
 それについて問う、という意味を、キャシーは理解していた。
 希求すればこそ、与えられなければ飢餓感ばかりが立つ。
「考えておくわ」
 ――この子は、そこまで考えていたのかしら?
 心の中で、優先順位をつけておく。それも、相応に高く。

 後に、レヴィンが帰ってきた時。アルルベルが掲げた牛小屋の『学校』案を聞き、目玉が飛び出そうな程に驚嘆した事は付記しておこう。



「大分疲れてきやしたね……」
 あれからウォルターはヴェルドとアプリの元を訪れ、夫々に提案をした。ボルクスと違い彼らの手応えは非常によかった。恐らく、自分があれやこれやと指摘しなくてもいいように回るだろう。
「――過労死しなければ、ですがね」
 くすくすと笑いながら、最後の目当ての一人を見つけた。
「ああ、いやした!」
「……貴方は」
 相手はマリーベルだった。どこかから帰ってきたところなのだろう。少し疲れた様子の彼女は生真面目な顔で会釈を一つすると。
「依頼を受けてくださったのですね、ありがとうございます」
「いや、実は話がありやして……」
「お話、ですか……?」
「ええ、ええ。姐さんにとっても、そう悪い話ではありやせんぜ」
 古今東西そういった話が虫のいい話だった事はそうありはしないのだが、さておき。
「……聞かせていただけますか?」
 ――やっぱり此の娘、イイトコの嬢ちゃんだなあ。
 兎角少女は乗ってきた。
 仕上げは上々と言えそうだと少年はきししと笑う。
 この街の本来の敵は“ハゲワシ”達だと、ウォルターは知っていた。だから、骨を折って『騎士団全員』の関与を促したのだった。

 ――さて、後はどう転びやすかねぇ……。



 農業についてのひとしきりの相談を終えた後。ナナート、アルト、匠――そして匠が連れてきた代表達とキャシーは、第六商会の門を叩いていた。たまたま向かう先が一緒だったというだけなのだが、それはそれとして。ハンターであることを名乗り通されたのは、豪奢な一室だった。彼はそこで一人、ワインで喉を潤していた。
「や、アルト君にナナート君……そして匠君、だね。やあキャシー、今日も綺麗だね。ダレンとグリンサムも、どうか座って」
「あら、どうも」
 示された席には、すでにグラスとチーズが置かれていた。男――ヘクス・シャルシェレットは先ずナナートのグラスにワインを注ぎながら、待ちきれぬように話題を振った。
「面白い話があるんだって?」

 特別此処に用があるわけでもなかったのだが、アルトは金が要るのなら、ヘクス・シャルシェレットはどうかな、と言った手前付いてきただけだった。
「……いや、まさか今日飲めるとは思ってなかったかな」
 まんざらでもなさそうに、アルトは注がれたワインの香りを味わう。デュニクスのワイン。それも、一等品だと知れた。濃厚な香りと酸味が同時に鼻腔を占める。
 本当に、本気で、用がない。ので。心ゆくままに楽しむ事にした。
「……というわけで、輸送についてはアテが出来ています。生産についても。とはいえ、この街には人は来ませんから」
「売り込みにいかなくちゃいけない、ね」
 弾むように話が進む事に、手応えを感じた。匠は
「よければ口添えを頂けませんか」
「んー……対価はなんだい」
「優先的に買い付けが出来る――など」
「……へえ」
 返った微笑は、代表たちへと向けられていた。その視線に、匠は怖気を感じた。
「君たちはソレで良いの?」
「ええ」「おう」
「――そうかい」
 今、確かに、何かが壊れた。
 いや。壊した。
 ……そんな気がした。

 最後にナナートが提示したのは、『公営カジノ』の案だった。リアルブルー式の最先端カジノを謳い、演出も留意することで事で人の流れを見込める、という。興味深げに話を聞いていたヘクスは、
「面白そうだけど、この街では難しそうだなぁ。そもそもこの街って“そういうの”が出来るほど安全じゃないから」
 と、ワインを味わいながらそう言った。
「あら……正直、残念だわ」
「なるべく“意に添うように”は善処はするよ。安心してくれていい」
 意味ありげに微笑んだヘクスはナナート達のグラスを片手で示すと。
「折角だから、もう少し付き合っていかないかい?」
 と、改めて酒を薦めたのであった。



「う、上役ですか」
「ここの騎士団の設立の、その意図を聞きたくてね」
 騎士団の騎士達を捕まえたアルルベルはそう問うた。
 だが。
「何か気になる事でも?」
「……それは」
 やんわりとした口調のポチョムに、アルルベルは上手く切り込むことは出来なかった。会おうと思って会える類のモノではあるまい。そもそも、彼女は『誰』が彼ら三人を配したかなど知り得なかった。

 ――兎角、舞台は巡る。
 斜陽の都市デュニクス。この街が抗うべきは、果たして――歪虚だけ、なのだろうか。

 無明の中を進む為の光を手に、この街は確かに熱を持つだろう。
 その先に、何があるとしても。

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    誠堂 匠ka2876
  • ミストラル
    ウォルター・ヨーka2967

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参加者一覧

  • ミワクノクチビル
    ナナート=アドラー(ka1668
    エルフ|23才|男性|霊闘士
  • 真摯なるベルベット
    アルルベル・ベルベット(ka2730
    人間(紅)|15才|女性|機導師
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • ミストラル
    ウォルター・ヨー(ka2967
    人間(紅)|15才|男性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • Philia/愛髪
    Leo=Evergreen (ka3902
    人間(紅)|10才|女性|疾影士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/24 06:01:15
アイコン 相談卓
ウォルター・ヨー(ka2967
人間(クリムゾンウェスト)|15才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/08/24 06:03:26