悪に強きは、善にも……?

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/10 07:30
完成日
2015/09/12 04:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 折れた柳の枝に、ほつれた自分のスカートから解いて取り出した絹糸を取り付けて作った簡単な釣竿で、池のほとりに座っているのは旧帝国の皇女クリームヒルトであった。
 しかし、それはよくよく見なければわからないほどであった。パッと見た限りでは貧乏人の娘だと思ったことであろう。
 事実、道行く人々はそれがクリームヒルトだとは気付かずそのまま通り過ぎたり、もしくは「何が釣れますか?」と茶化すように話しかける者がほとんどだった。クリームヒルトはほとんど微笑んで会釈するだけで、後はまるで時が止まったかのように日が暮れるまでただただずっとそこに座り続けていた。
「まあ。もしかしてクリームヒルト様?」
 そんな彼女を名前を正確に言い当てた声の主に至り、ようやくクリームヒルトは頭を巡らせた。
 身なりの良い女だった。やや旧式な衣装に結い上げた髪は一世代前の貴族のようだった。肩にパルムを乗せているのがなんとも道楽者のイメージだ。
「わたくしはアミエル。小さい時にバルトアンデルスで一度お目通りさせていただきましたのよ」
 アミエルと名乗った女の自己紹介にクリームヒルトはしばし驚いた顔をしたが、過去の自分と比較されていることに気付いて、若干恥ずかしそうに顔を伏せて釣りに戻った。
「こんなところで釣りなんて、お姫様なら食べ飽きるほどのお魚があるのでは?」
「そんなことないわ。革命で城を追われた人間ですもの。まともな料理より野草を食べて暮らした生活の方が長いくらいよ」
 クリームヒルトは苦笑いをしつつ、空の魚籠をそっとアミエルに見えないように自らの身体の陰に隠したのはせめてもの恥じらいであろうか。
「まあ。なんということでしょう。クリームヒルト様は帝国地方の人々のためにお金を出していたというのに?」
「アウグストという男が財布を握ってたんだけどね。結局どこにあるか分からずじまいで死んでしまったわ。私は財布も持っていないし、お金の稼ぎ方を教えてもらったこともないもの。今の私は無一文。漂泊の旅人といえば聞こえはいいかしら。浮浪者とは紙一重」
 自嘲するようにクリームヒルトはそう言うと、アミエルは心配したのか興味がわいたのかその横について座った。
「ねぇ、クリームヒルト様。よろしければわたくしの家に御出でになりません? もっとお話がしたいと思いますわ」
「いいわね。私も話したいと思っていたのよ」
 クリームヒルトはそう言うと、池に伸ばしていた釣り糸を引き上げた。その先には小石がつながっているだけで、仕掛けも釣り針もない。
 その糸の先を見てアミエルは怪訝な顔をした。
「その釣竿で、何が釣れますの?」
「アミィっていう大物よ?」
 クリームヒルトはにっこり笑い、怪訝な顔をする彼女の名前を言い当てた。
 そこまで来て、ようやく自分が待ち受けられていたと気づき距離を取ろうとしたアミィであったが、クリームヒルトは即座に竿を振って彼女にその糸を絡ませて行動を阻害した後、一気に飛びかかって彼女を押さえつけた。
「ヴルツァライヒがそのままわたしを放っておくはずないって思ってたわ」
「な、な、な……」
「アウグストがお金を握っていた上にその在り処がわからないわたしは放っておいたら、きっと貧乏と空腹に耐えかねて理想より甘いエサに食いつくと思ったのよね? そして義理と人情で徐々に縛れば第二のヒルデガルドを作り出せる、とか?」
 アミィは言葉を失ったことからそれは図星であることはクリームヒルトにもよく理解できた。
 だが、逃亡生活を続けていた彼女にとっては多少の極貧生活など苦しくもない。高い理想では腹は膨れないと言われるが、彼女はそれで空腹を耐え抜く生活を続けてきたのだから。
「あたしをどうするつもり?」
 仰々しい喋りを止めたアミィの言葉を聞いてクリームヒルトは微笑んだ。
「わたしの活動を手伝ってほしいのよ。貴女は知恵がよく回る人だと聞いたわ。人を使うのも上手だって。わたしよりもずっと賢くて色んな作戦を考えることができる。帝国の人々を助けるためにその力、貸してほしいのよ」
「はぁ!?」
 その発言にアミィは目を丸くした。
「一生懸命記憶を手繰ったけれど、アミィもアミエルも旧帝国貴族の子女にはいないし顔も体も帝国系じゃないわ。という事は、帝国の人間じゃない。なのにヴルツァライヒに加担するのは……愉快犯かなと思ったんだけど。過去のしがらみのない貴女ならと思ったの。帝国の人を喜んでもらいたいの。だけどわたしにはそんな頭はないし、武力もない。お願い。力を貸して欲しいの!」
「ばっかじゃない? そんな面白味のない活動なんてお断り~っ。あたしはね、人をきりきり舞いさせるのが楽しいの!」
「うん、そう言うと思った。だけどね。わたしも諦めないよ」
 クリームヒルトはにっこり笑った。その笑顔は恐ろしくも見える。
 それもそうだ。彼女が空腹に耐えてでもこの瞬間のためにハンターと共にこの瞬間を待っていたのだから。

リプレイ本文

「くぅぅ、まさかこんなに簡単に捕まるなんて……」
 アミィが池のほとりで釣り糸で拘束されて呻いていた。それを見計らうようにしてハンター達が彼女をぐるりと取り囲む。街道の上方からエアルドフリス(ka1856)とアウレール・V・ブラオラント(ka2531)。村のある下方からはヒース・R・ウォーカー(ka0145)とリュー・グランフェスト(ka2419)。木立からエステル・L・V・W(ka0548)。そしてそして。
「ふははははっ。観念してもらうっすよ!!」
 池の中から無限 馨(ka0544)。
 集まった全員の目が点になる。
「お、お前何してんだよ……」
 リューが唖然とした声を上げると、無限は藻草のドレッドヘアーをかき分けて親指をぐっと立ててスマイルを見せた。
「いやだって、この前はいいようにあしらわれたっすし、ビックリさせて驚いた顔のひとつも見たいじゃないすか」
「姫様ったら楽しいお友達いっぱいいらっしゃるのねー」
 そんな無限にアミィにすら半笑いの同情に満ちた眼を向けられる。
「あの、無限さんは普段もっとかっこいいですから!!」
「お姫様? それは上げつつ落とすという漫談の高等テクニックですわ?」
 クリームヒルトが慌てて庇うだてた台詞にエステルが小首を傾げてツッコむと、無限はさらにいたたまれなくなって、ぶくぶくと池の中に再び潜り込んでしまった。
「何やってるんだ、あの馬鹿は」
「いや、しかし、それなりの効果はあったようだ」
 自分も同類に見られるのではないかと顔を赤くして怒るアウレールの横で、エアルドフリスはなだめすかすようにパイプをふかした。
 こわばらせてたアミィの肩がストンと落ちているとことを診てとったエアルドフリスは口元を少し微笑ませた。つい骨格だの筋肉のこわばりなどを見てしまうのは職業病的なところはあるが緊張感の失せたアミィを見てこれなら交渉も進むだろう。
「しっかし、捕まえようとした奴を逆に捕まるだなんて、本当よくやるよな」
「ピンチの時こそチャンスって、言いますから」
 アミィの取り押さえをクリームヒルトから代わったリューがそう言うと、クリームヒルトは晴れ晴れしく笑った。
 こりゃ予想以上のタマだな。一番厄介だと思っていた相手を味方に引き入れようとする考えや、それを上手くおびき寄せる作戦とか。
 償いをしなくちゃならない。そう考えてたリューは違った思いが芽生えるのを感じていた。
「さて、それじゃあ場所を変えるとするかぁ。ここじゃ誰が狙っているかわからない」
 ヒースはがんじがらめのアミィの肩に乗っていたパルムの頭をつまんでそう言った。
 覚醒者なら不意を打たれたとしても一般人ごときに取り押さえられるようなことはない。何かしらの企みがあるように感じつつも、そのまま村の宿がある方へと向き直った。


「なんだ満席か……?」
 宿の一階は酒場や食堂であると相場は決まっているものだが、村にしては非常に賑わっていることに一同は少々面食らった。少し迷うところはあったが、大きくもないこの村では他に場所もない。
「では待っている間に身体検査をさせてもらいますね」
「こっちは『いいテーブル』につけるよう店員に交渉してくる。アミィ、どこにも逃げ場はないと思え。あとウマい飯を食わせてもらったとしても全部『吐いて』もらうことになるだろうから、そこそこにしておけよ」
 エステルがアミィの服を確認する横でアウレールは冷たい視線と含んだ物言いを投げつけるとそのまま店の中に入っていった。何人かはその意味がわからずキョトンとする。
「うまいこと言うね。交渉に有利な『場』で、軒並み心の裡を『吐露』させる、だとさ」
 エアルドフリスの解説にエステルはああ、と頷いた。
「子狐ちゃんってばそういうの好きですね。まったく」
 エステルはアウレールに目を合わせることもなく、小さく鼻を鳴らした。同じ国の同じような身分の生まれながらも、支持する方向から生まれた違い。今や不倶戴天の間柄ながら、同じ依頼を請けているのだから世の中は広いようで狭いものだ。
「特に不審なものはありませんね」
 ピエロのような服を着せられたパルムも調べ終えて、エステルは頷いた。
「本当に一人でどうこうするつもりだったのか」
「うふふ、聞き出してみるのが依頼なんでしょ?」
 リューの問いかけに返ってきたのは耳元にかけられた温かい吐息だった。思わず反射的にリューは耳を塞いで距離を取る。
「なに、そんなことをするわけじゃあない。最初にクリームヒルト嬢の言った通り、手伝いをしてほしいってことだけさ」
 悪戯な微笑みを浮かべるアミィにエアルドフリスがそう言う横でアウレールが準備はできたとの合図が送られてきた。

「さて、お前には詐欺、窃盗、誘拐、ついでに国家反逆罪の容疑が出ている訳だが」
 店の中央の席に陣取った一同のテーブルに書類の束をばさりと投げつけたアウレールは荒々しくアミィに長柄物が入った袋でその顎を軽くつついた。
「監獄行きなら300年でもまだ足りないだろうな」
「証拠ないと名誉棄損で訴え直すよ。あ、お姉さん、あたしキノコリゾットね。あとビールがひーふーみー。お姫様のめる?」
「随分余裕だな?」
 のうのうとオーダーするアミィの喉を袋で突き黙らせるアウレール。
「第一師団の憲兵隊はとっくにマークしている。お前に選択肢は、ない」
「あっははは! 子狐ちゃんったら冗談うまーい♪」
「誰が子狐だ」
「さっきエステルちゃんが子狐っていってたから」
 と言ったところでアミィの顔が少し歪んだ。テーブルの下でアウレールが彼女の足をねじるように踏んでいた。公共施設でなければそのまま殴り飛ばしていたところだ。
「やめるんだアウレール。あんまり手荒な真似はするな。俺は女性が悲しむ顔は見たくない」
 エアルドフリスはそっとなだめた後、アミィに軽く微笑んで見せた。
「人を操るのは本当に得意のようだ。人を変える力が存分に活かせる仕事なんだが、考えてみてはくれんかね」
「へぇ?」
 エアルドフリスの一言にアミィは少しばかり興味を示したようだったのを見て、タオルを頭からかぶっていた無限がそっとクリームヒルトの背を押した。
「この国に困っている人に知識と技術を与えたいと思うんです。平民には知識がない、技術がない。だから目の前の報酬に目を奪われ戦いに傾倒してしまいます。農業や酪農は富とマテリアルを豊かにします。国に武力以外の路線を歩めるように突き付けることもできるようになるんです! その為には今ある技術だけではなくてリアルブルーの技術も必要です。一般市民に知識を広めることも必要です」
「それにあたしが何の関係が……」
「リアルブルー人、だからさぁ。しかも相当の知識のある。その能力の使い道を探していたんじゃないかと推測するんだけどねぇ。そうすることでしか生きられないから、この世界でもそれを選んだ」
 ヒースはアミィではなく、周囲に目を向けながらそう言った。
「あら、ばれてたんだ」
「クリームヒルトの慧眼は馬鹿にならんぜ。こいつ、言葉遣いや体型から出自を類推したんだからな」
「去年の選挙のゴタゴタにおいて、わたくしがいたこともちゃんと覚えていました。軍隊や群衆も含めたら千人以上いた最中で、です」
 意外な顔をするアミィにつけたすように、リューとエステルがそう言った。
「技術革新で国を動かす。その為には人にヴィジョンをもってもらわなきゃならない。その道筋を作ってやらなきゃならない。お前さんならできるんじゃないかね? 言葉により人を、国を変えていく仕事だ」
 エアルドフリスがそう言うと、アミィは下を向いて黙り込んだ。
 真剣に考えている表情だ。
「……こっちの人のこと、嫌いっすか?」
「え?」
 そんなアミィに無限が小さく語り掛けた。
「俺もリアルブルーの生まれっすよ。そりゃそれなりに毎日楽しいけど帰れる方法とか興味あるっすよ。でも転移したリアルブルーの人間だけじゃどうにもなんないっすよ」
「転移したきた人間の中には、ここに馴染めないヤツもいる。そんな奴らに居場所を作る意味でも、力は必要さぁ。それはクリームヒルトの力も、あんたの力も」
 しばらくアミィはヒースと無限の目をじっと見ていた。この世界にはない蒼を見てきた目。そして止まらない紅の世界を見てきた目。
「どうせたばかるなら、もっと大きな相手に挑めよ。それだけの力があるならな」
 リューの言葉が最後の一押しになった。アミィはまた悪戯っぽい笑みを浮かべてそれに応えた。
「ふふふ、いいね。じゃあ受けて上げる。国をぶっ潰してでも叶えるというなら、いいね。楽しい舞台を作ってあげる」
 アミィは楽しくてたまらないといった顔だったが、ふと思い出して「でも」と続けた。
「報酬次第ね。今考えられるだけの報酬を提示してくれなきゃ、フるからね」
 ぐ。その言葉に一同はつまった。あくまでそれらはすべて心行きの話で、飯の種にもなりはしない。
 一瞬、張り詰めた空気が漂うが、それにはアウレールが答えた。
「はっ、ここで師団の人間に突き出されないだけでも有り難いと思わんのか。不遜を通り越して間抜けだな。貴様の以前もこれからも黙認してやろうというのだ。感謝もできんのか」
「ふーん?」
 アウレールの言葉にもアミィは欠片も恐れていないようだった。アウレールは短く嘆息すると、手を上げて軽く振った。「ダメだ」と言わんばかりに。すると入り口にいた男はそれを見て立ち上がり、外へ出ていく。
「……人を使うとは、ガキの癖にやるね」
「いいですね。もっと言ってやりなさい」
「そこ、黙れ」
 エステルがアミィの悪口に称賛したのをアウレールが一瞥した。
「でもタダ働きもやだなぁ。目先の報酬として刺激が欲しい気もするんだけどなー」
「ほう、偶然だな。ひと段落ついたらご一緒しようかと思っていたところだ」
 アミィの流し目とエアルドフリスのたらし目がぶつかった。
「ちょ、エアルドフリスさん……」
 クリームヒルトが囁く横で、エアルドフリスに絡みつき首筋に口づけするアミィに全員が唖然とした。そればかりか、アミィは無限に向かって艶のある目で微笑む。
「ここにいるみんなでちょーっと刺激的な一夜を過ごせたら、協力してあげてもいいよ。あ、お姫様はちょっと青そうだからいいや。横で見ててくれれば」
「わ、こら何ていうことを。ちょっ……」
 慌てて無限がアミィの口を閉ざそうとし、すぅ、と脇から腰へと撫でられて思わず身を震わしてしまう。横でクリームヒルトが赤くなったり青くなったりしている気配はひしひしとするが、視線が凍り付いたように動かない。
 色仕掛けに弱いのは見透かされてたらしい。
「おいおい、お前……」
「ここにいる全員、大好きなタイプばかりだからぁ。崇高なる理想の為には命捨ててもいいと思っているんだよね。じゃあ命はいらないからー、誠意だけ見せてくれればいいよ」
 自分たちへの、クリームヒルトへの挑発だ。ヒースは気だるげな顔の奥でアミィを見やった。
「そんな馬鹿げたことに乗ると思うのか?」
「乗らざるを得ないんじゃない?」
 アウレールが憤懣やる方ない声でそう言ったところだった。
 鳥籠でずっと大人しくしていたパルムがにぃ、と鳴いた瞬間。周りの客が一斉に立ち上がった。その数40。
「!」
「お姫様が再起のきっかけをうかがっていたことは知ってたのよね。ハンター雇ってたのも知ってたし。じゃあ懐柔策に出るなら一番近い宿に来るよねーって。読み全部当たっちゃった♪ あ、ところでさっきの人って師団の人だったかなぁ。あたし普通に雇ってたけど。あはは、最近の兵士はお金で雇えるのね」
「貴様……」
 アウレールは苦虫を噛み潰したような顔をした。アウレールのブラフは彼女にとってはすべて見抜かれていたのだから煮えくり返るような苛立ちに顔から色が失せていく。
「あと、リューくんも。一緒に楽しもうね。この前の彼女と使命とどっちが大切なのか、誠意を知りたいなぁ」
「て、てめぇ……」
 これが人形使いか。リューは歯噛みした。心を揺らして本意を見破るつもりが。もはや立場は逆転しているのがよくわかった。
「お金も払えないようなら、このくらいのことしてよね?」
「ふむン。いい度胸だなぁアミィ。いいさ、手付だ」
 高笑いをし始めたアミィの顔めがけて、ヒースが金貨の詰まった袋を叩きつけた。
「ぶふぉっ!」
「確かに賭けには掛け金を払うのがルールだ。300万ある。受け取ってくれ」
 顔面に袋の一撃を受けて床に沈んだアミィを見下ろしてヒースは冷ややかに言い放った。
 すぐさま起き上がったアミィが喚こうとした瞬間、周りの空気をも震わせるブロウビートで吹き飛んだパルムと鳥籠がまとめてアミィの顔で跳ねた。
「大人しく受け取ってくださいな。40対6じゃ勝ち目は薄くても、少なくともあなたを始末して脱出くらいはできますよ」
 エステルが冷たい笑顔で微笑んでいた。シルクグローブから煙が噴き上がっているのは相当強く鳥籠を殴ったのだろう。それでもまた強く拳を握りしめると獅子のオーラがエステルに漂わせながら言葉を続けた。
「どうせ陰謀なら相手は国一つ。それもこれっきゃない手札ばかりで貴女の価値、牙の痕を遺して頂戴な」
 その言葉にアミィは涙を浮かべながらカクカクと首を縦に振ったのだった。


 次の日。
「おっはよーございます! このアミィ、今日より誠心誠意の働きにより、権謀術数、地方再生、平民万歳、世界平和をかなえましょー」
 肌艶の大変宜しいアミィは声高らかにそう宣言した。
「アミィは底なしっすね……」
 悪心を鳩型ビスケットで紛らわせながら無限は呻いた。あの後は夜を徹しての『懐柔と報酬の支払い』が続いた。おかげでだいたいみんな悪心で身も心も死にかけている。
「牙痕を残しなさいとは言いましたけれど……別の意味で残りましたね」
 横で清ましているクリームヒルトだが、彼女も徹夜で相手していたのだから顔とは裏腹に脳と心は死んでいるかもしれない。
「アルはいつか愛に殺されるぞ」
「ははは、愛に死ねるなら本望だ。……が、はめられた感はあるな」
 エアルドフリスは水を飲み干してそう言った。
「はめられた……?」
「昨日、再起を目論んでいるのを知っていたと言っていただろう? つまり、アミィはわかってて近づいて、わざと捕まったんだろう。交渉を有利に進めつつ、あの悪戯心を満たすためにな。この依頼はクリームヒルトからだが、下手すりゃそれを吹き込んだのもアミィかもしれんということだ」
 その言葉を聞いて無限はビスケットをぽとりと落とした。
 驚かそうと思って周りに相談もせず池に隠れたのに……。
「説得は楽しかったよ。この楽しさが続く限りは、いくらでも協力してあげる」
 壊れる無限にウィンクして、アミィはくすくす笑った。

依頼結果

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MVP一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカーka0145
  • その名は
    エステル・L・V・Wka0548

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • その名は
    エステル・L・V・W(ka0548
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/30 20:18:36
アイコン 説得作業のお手伝い
無限 馨(ka0544
人間(リアルブルー)|22才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/09/13 22:27:54