ブラストエッジ鉱山攻略戦:復讐編

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/14 07:30
完成日
2015/09/22 05:43

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 かつてヒトの英雄は、生活圏を得るために亜人の領域へ攻め込んだ。
 勇者と彼が率いる十人の騎士は皆精霊の寵愛を受けた強力な戦士だった。
 マハの王ゾエルはこれに同族を率いて立ち向かうも、圧倒的な騎士の力に敗退を繰り返した。
 瞬く間に領土を奪われ、数えきれぬ同胞の亡骸を踏み越え逃げ続けたゾエルは、聖地である光の山へ向かう。
 そこで王は自分達が信じた神――山や森の精霊達に助力を乞うも、その願いは聞き届けられなかった。
 ヒトは精霊に最も愛された種族だと言える。ヒトの何がそこまで精霊の心を惹きつけるのかはわからない。
 だがそれが違えようのない現実。世界は、獣よりもヒトを選んだのだ。
 ゾエルは最後までヒトに抵抗し、最後にはその胸に聖剣を受けて散った。
 果ての穴蔵に押し込められた後、コボルドは自らが抱いた信仰を別の形に歪めてしまった。
 自分達を守らぬ神よりも、自分達の為に最後まで戦った者を崇めよう。
 そして願わくばその嘆きと怒りが、正しい形でヒトに苦痛を与えるように。
 ――獣に神はいない。ならば、その手で産み落としてしまえば良いだけのことだった。

 長い長い年月を経て蓄積された祈りは、歪んだ神を生み出すには十分過ぎるほどであった。
 或いは英霊と呼ぶべき存在なのかもしれないその怪物は、聖剣カルマヘトンを依代に目覚めようとしていた。
「おお……素晴らしい……これが我らが父祖、ゾエル神の輝き……」
「英霊としても歪虚としても、こいつに望まれたのは“人殺し”だけだ。人間を殺す事に関しちゃ高位歪虚すら凌駕するだろうぜ」
 感激に打ち震えるマハ王とは対象的に疲れた様子で溜息を零すメイズ。マハの領域奥底にあった奈落へ通じる穴からは、赤黒い光が立ち上っている。
「ンッン~。どうやら仕事は終わったようですね、メイズ」
「カブラカンか。ゾエルの神降ろしは終わったが、俺達はこれからどうするんだ?」
 メイズの質問にカブラカンは腕を組み。
「う~む。そうであるなあ。そもそも我輩たちは状況を引っ掻き回すのだけが仕事なのであって、もうここでやることはないような~」
「だったら俺はもう少しここに残って顛末を見届けさせて貰うぜ」
「別に問題ナッシングであるが、気になることでも?」
「アフターケアもある。それに、死に損ないの兄弟が来てるみたいだからな」
 楽しそうに頬を引きつらせ、メイズは笑う。
「オルクス様への報告は任せるぜ。うまくやりゃあ、幾らか帝国の領土をひっくり返せるかもしれねぇ」



「ホロン……どうしたべか!?」
 ブラストエッジ鉱山駐屯地では夕飯も終わったばかりの頃合いであった。
 突如苦しみだしたホロンは、近づくシュシュに大きく吠えると同時、鋭い爪で襲いかかった。
「シュシュ、何が起きたんだい!?」
 爪で腕を引き裂かれたシュシュに驚くカルガナ。そこへ帝国兵がテントへ飛び込んでくる。
「ブアナ兵長、ご報告申し上げます……うわっ、コボルド族!?」
「これは気にしなくていい。報告を続けてくれ」
「は、はあ……。帝国軍で保護しておりましたイヲの領域のコボルド達が突然凶暴化し、我が軍を攻撃! 既に多数の死傷者が出ております!」
「イヲ族は力の弱いコボルドの筈だ。現地の兵で対処できないのか?」
「それが、凶暴化したコボルドは見たことのない力を使ってきて、訓練された兵士でも鎮圧は難しく……」
 驚きに言葉も出ないシュシュ。と、そこでホロンは苦しみながらも落ち着きを取り戻したようで、その場にへたり込んだ。
「ホロン! どうしちゃっただよ!?」
「……強力ナ、同族カラノ支配……。コレハ、恐ラク……」
「ゾエル・マハ……まさか、実在したというのか……」
 腕を組み考えこむカルガナ。それから直ぐに部下へ指示を出す。
「保護区に増援を送り込んでイヲ族を鎮圧するんだ。殺傷も許可する」
「そんな……!」
「シュシュ、君達も現場に向かってくれ。折角保護したんだ、止められるなら止められたほうがいい」
 頷き、直ぐに装備を手にとって走りだすシュシュ。ホロンはその後に続いてテントを飛び出した。
「シュシュさん、なんの騒ぎですか!?」
「イヲ族が暴れてるって! ベルフラウも一緒に来て欲しいだよ!」
 洗ったばかりの皿を慌てて近くに置くと、ベルフラウはテントから聖機剣をひったくり、二人の後を追う。
「今イヲ族と人間が争ったら、折角進めてきた和平交渉が振り出しに戻っちまうだよ!」
「イヲ族ハ、知能ノ低イ普通ノコボルド……コノ命令ニハ逆ラエナイ」
「ホロンさん、何が起きてるんですか!?」
「本能的ナ命令ヲ感ジル。単純ナ……“人ヲ殺セ”トイウ……」
 顔を見合わせる二人の少女。向かう先、イヲ族を保護しているキャンプ地は森の中にある。
 既に森の方からは銃声と火の手が確認できた。

「イサ……しっかりしなさい!」
 気を失っていたイサ・ジャが意識を取り戻したのはブラストエッジ鉱山の麓の森であった。
「ラシュラ・ベノ……? 俺は一体……それに何故鉱山の外に?」
「驚いたわね、あんた正気なの?」
 意味がわからない様子で首を傾げるイサ。見れば森の奥で火の手が上がっている。
「落ち着いて聞いて。恐らくだけど、ゾエル神が復活し始めたのよ」
「んんん? いや、思い出したぞ……俺は急に暴れだした部下を窘めようとして……」
「その部下の事は諦めなさい。ゾエル神の支配下に入ってしまったらもう話は通じないわ。殺意の波動に耐えられるのは高位のコボルドだけよ」
「どういうことだ? 全く意味がわからんぞ!?」
 冷や汗を流すラシュラ。こいつは高位ではあるが、頭は悪いのだ。
「つまり、ゾエル神を止めるかこの鉱山から離れない限り、全てのコボルドが暴走しちゃうってことよ」
「何故そんな事をする?」
「復讐の為……かしらね。とにかく、まずは状況を把握しないと。あの炎の方へ行ってみましょう」
「何故貴様が仕切るのだ!?」
「うっさいわねー! あんたやけにデッカイからここまで引きずるの大変だったのよ!? 少しは感謝したら!?」
 未だにさっぱり状況が把握できていないイサを連れ、ラシュラは森の中を走りだした。

リプレイ本文

 銃弾を回避し飛びかかるコボルド達。剣を抜いて応戦しようとした兵士がまた一人、次々に噛みつかれて悲鳴を上げる。
 そこへ近衛 惣助(ka0510)の制圧射撃がコボルド達を追い払うが、襲われていた兵士は微動だにしない。
「くそ、間に合わなかったか!」
 馬上で舌打ちする惣助。だがハンター達はそれぞれ騎乗状態で現地に駆けつけたのだから、これでも早かった方だ。
 メリエ・フリョーシカ(ka1991)の馬、ジールの背中から飛び降りたシュシュは目の前の光景に思わず絶句する。
「彼らが本当にあのイヲのコボルドなの……?」
 豹変したコボルドにイェルバート(ka1772)も驚きを隠せない。
 どこか愛嬌すら感じられた姿は見る影もなく、本能的に危険な存在であると感じられた。
「さて、馬鹿が成るのは多くを助ける為に少数を殺す現実の英雄か、誰も彼も救う御伽噺の理想の英雄。どっちっすかね」
 ぽつりと呟く神楽(ka2032)の視線の先、シュシュは斧を構える。
「一体何が起こっている……? いや、考えるのは後だ。まずは被害を抑える為に動かなければ!」
 夕鶴(ka3204)の言う通り、ぼんやりしている余裕はない。
「皆下がるんだ! ここは俺達が抑える!」
「助勢に参上仕りました! 兵士様! ジールを預けます。お使い下さい!」
 惣助とメリエが呼びかけると兵士達は後退を開始するが、コボルド達は逃げる相手もしつこく追撃する。
「まずは奴らの出鼻をくじく。突撃から蹴散らしにいくじゃーん。一緒に来る人いるかにゃー?」
「このままでは彼らが危ない。私も行こう」
 ゾファル・G・初火(ka4407)は夕鶴と共に騎乗状態からコボルド集団へ突撃。
 真っ直ぐ兵士を追撃するコボルド達を同時に薙ぎ払った。
 しかし夕鶴の方は戦闘用の馬ではない。大剣を振るい体勢を崩したところへコボルドが一斉に襲いかかる。
 その狙いは夕鶴にのみ集中。次々に繰り出される攻撃に夕鶴は大剣で防御を試みる。
 幸い敵の攻撃は夕鶴本人に集中している為、馬の方に怪我はない。
「夕鶴ちゃん、そのままそのままー」
 馬に乗って逃げる夕鶴の背後から反転してきたゾファルがギガースアックスでコボルド達を薙ぎ払う。
 巨大過ぎる武器故に若干バランスを崩すも敵を蹴散らす事に成功した。
「やべー、やりすぎた? 手加減ってむずかしくね?」
 装備的にも性格的にも下限に向かないゾファル。ユウヅルは下馬、馬を後退させ構え直す。
「やはりクリムゾンウェスト人が狙われるか。ベルフラウ、ホーリーセイバーを!」
 レイス(ka1541)は混戦状態の中で自らを囮とする。
「このオーラ……消す方法はないのか?」
 連続して襲いかかるコボルドの放つオーラを次々とかわし、バック転しつつレイスは敵を観察。しかし、亡霊型特有の核は見当たらない。
 敵の総数は30と多勢。前衛だけで対処できる筈もなく、三体のコボルドがイェルバートへ向かう。
「帝国兵の方は下がってください。ここは僕が……!」
 銃の狙いを定めつつ、イェルバートは目を細める。
「イヲの皆……ごめん!」
 暴走するコボルドは一発二発の銃弾では怯みもしない。
 血を吐きながら、それでも真っ直ぐに突き進んでくる。
 止まらない敵の勢いにたじろぐイェルバート。そこへ側面から駆け寄ったメリエが飛び蹴りで一体をふっ飛ばした。
「コボルド共! ヒトが憎いか! ならかかってこい! 植え付けられた野心で、私を害せると思うな!」
 更に神楽が間に入り槍で敵を弾くと、イェルバートはエレクトリックショックでコボルドを攻撃する。
 これが目に見えて効果的であり、雷撃を受けたコボルドはオーラも薄まり倒れこんだ。
「効いてる……? それなら!」
 懐から取り出した四神護符を額に貼り付けてみる。すると札が輝き、コボルドがむくりと起き上がった。
「うお、マジっすか?」
「ホロンに使った護符も効果はあると見た。オーラさえなければ行けるかもしれん!」
 驚く神楽。メリエが力強く拳を握り締めると、シュシュは嬉しそうに頷いた。
「これが亡霊型の影響だとすれば、魔法攻撃が効果的な筈です」
「そんならシュシュ達の出番だな! 神楽、一緒に行くだよ!」
 帝国兵にコボルドを引き渡すイェルバートを横目に神楽はわしわしと頭を掻き。
「これはひょっとすると英雄ワンチャンあるかもしれねっすね。仕方ない、ここは付き合ってやるっすよ!」
 霊闘士の二人にはファミリアアタックがある。敵を弱らせオーラを消して札を張る。それが救済の方程式だ。
「――驚きましたね。本気でコボルドを助けるつもりですか」
 アメリア・フォーサイス(ka4111)はコボルドに全く狙われないまま、目的地である狙撃地点へつくことができた。
 屋根の上からの一方的な射撃は緊張感に欠ける程で、戦域全体を眺めつつ考え事をするくらいの余裕がある。
 人類が文明的を開拓すればそれだけ他が犠牲になる。それはリアルブルー人のアメリアには当たり前に思えた。
 しかし彼らはどうやら本気でコボルドを救うつもりらしい。
「止める程の理由もありませんが……銃というのは加減の難しい武器なんですよ」
 惣助が制圧射撃てコボルドの動きを止めた所で頭上へ向けて銃を連射。弾丸は光の雨となり降り注ぐ。
「行くっすよ、シュシュ!」
「ちゃんと加減して!」
 シュシュは左右の斧で、神楽は戦槍で回転し、怯んだコボルドを蹴散らす。
 続けて神楽は自前のパルムを、シュシュはホロンをマテリアルで強化し、オーラを打ち払った。
「え……ホロンはペットという扱いなんすか?」
「いいから札張って札!」
「へぇー。なんだかよくわかんねーけど、とりあえず気絶させて後はお任せって感じー?」
 馬を疾走らせながら口笛を吹くゾファル。やたらとでかい斧を団扇のように構え、コボルドを殴り飛ばす。
 敵は相変わらず夕鶴を集中攻撃しゾファルには目もくれない。攻撃されたら一応反撃する程度だ。
 イェルバートは夕鶴へ防性強化を施し銃撃で支援。更にベルフラウがレクイエムの光を放ち、コボルドの動きを止めた。
「手を貸すぞ、夕鶴……!」
 駆けつけたレイスに頷き返し、二人はコボルドを攻撃。そこへ鉱山獣が放つ雷撃が大地を穿つ。
「うっ、なんですかアレ……」
 スコープを覗きながら青ざめるアメリア。グネグネした謎の生き物が奇声を上げている。
「こっちは殺していいですね、うん」
 銃身に光が収束し、放たれた弾丸は加速しながら青い軌跡を描く。
 鉱山獣の身体に直撃すると、一気に凍結しその動きを止めた。
「きもい」
 同じくジト目で呟くゾファル。馬は大きく跳躍し、振り下ろされたギガントアックスの一撃が頭部を文字通り真っ二つにした。
「うあーっ、まだ動いてるぜ! っつーか変な汁飛ばしてんじゃーん!?」
 叫ぶゾファル。アメリアは完全に無表情で引き金を引いている。
「レイスさん、夕鶴さん、敵を一箇所に集めましょう!」
 ベルフラウの声に頷くレイス。だが別の鉱山獣の突進に身をかわす。
 雷撃を回避している間に夕鶴が背後へ回り込むと、狙うは騎乗したコボルド。
「操るコボルドを無力化すればおとなしくなる筈だ」
 飛びかかるとコボルドの背中を斬りつける。繊細に切っ先を操作すれば重傷は与えない。そして鉱山獣は予想通り攻撃を停止した。
「皆さん集まって!」
 大地に聖機剣を突き刺し変形させると、セイクリッドフラッシュの光が集まったコボルドを次々に吹き飛ばした。
 オーラが消えた所へ札を貼る仲間の様子を眺めていたアメリアは、そこで新たなコボルドが接近する事に気づいた。
「あれは……この間のコボルドの族長?」
 保護区へ駆けつけたイサ・ジャは状況を理解出来ず首を傾げる。
「奴らは一体何をしているのだ? というか何が起きているのだ?」
「まさか、ゾエル神の支配からコボルドを救おうとしているの……!?」
 すっと目を細め、イサは直ぐに駆け出した。真っ直ぐにハンター達へ向かうと、ハンターへオーラを飛ばすコボルドの首根っこを掴み、別個体へ放り投げた。
「お前……! と、知らないの!」
 二体のコボルドを指差すメリエ。惣助は銃を下ろしイサと見つめ合う。
「イサ・ジャ……その顔の傷は」
 イサの右頬には引き裂かれたような傷跡があった。それは惣助の銃弾がつけたものだ。
「この間の人間共か……フン、いいか、貴様らが……ええい、邪魔だ! イヲの分際で!」
 駆け寄るコボルドを踏みつけるイサ。そこへラシュラ・ベノがヒトの言葉で語りかける。
「あたしはラシュラ、こいつはイサよ」
「貴様等、正気なのか? ……って、そっちの知らないのは人語分かるのか!」
 メリエが驚くのも無理はない。ラシュラの発音は限りなく人間に近い。
「そうよ。あなた達が手紙をくれたのね?」
「そうだ。話が早いな。見ての通り、今俺達は彼らを救おうとしている最中だ。手を貸してくれ。それがお前達の未来を拓く為の一助にもなる筈だ。確執を忘れろとは言わない。今は俺達を利用してやるくらいの気持ちでいい、頼む!」
 レイスの瞳を真っ直ぐに見つめ、ラシュラは頷く。
「わかったわ。イサ、彼らは今は敵ではない。それよりイヲ族を取り押さえて!」
「貴様に仕切られんでもそうする。ただの労働階級に過ぎんイヲ族だが、同胞には違いあるまい」
 事実として、血の流れる戦場で彼らはコボルドを救おうとし、そして実際に救ってみせた。
 その救いがいつまで続くかはわからない。それでも、今この場において目的を共にしている事は疑いようがない。
「一緒に戦ってくれるだか……?」
「そっちの彼の言う通り、過去を忘れたわけではないのよ。だけど、今この瞬間を生きる為に、必要な選択から目を逸らしてはいけないと思うの」
 ラシュラはシュシュにそう言って笑いかける。
「さあ、どうしたらいいの!? 指示を頂戴!」
 二体のコボルドを戦線に加え、ハンター達は再び動き出す。
「お前! 邪魔はするなよ!」
 イサと共にコボルドを殴り飛ばすメリエ。イサはコボルドを捕まえ、大地に抑えつけたり投げて一箇所にまとめたりしている。
「折角素手で戦っているのだ、殴るだけではなく掴め!」
「ぐっ、コボルドのくせに賢い……何言ってるのかわからんがそこはかとなくバカにされている気がする」
 二人はそれぞれコボルドを掴み、味方の方へ投げ飛ばす。
 ラシュラはシャドウブリッドに似た魔法で攻撃。イェルバートは雷撃でオーラを吹き飛ばす。
「その魔法すごく便利そうね?」
「動きも止まりますからね」
 惣助は札を貼られたコボルドを縄で縛っていく。これならもし暴れだしてもある程度押さえ込めるだろう。
「窮屈だろうが我慢してくれ。すぐに元に戻してやるからな」
「折角手加減したのに死なれちゃ寝覚め悪いしなー」
 簀巻きになったコボルドを左右の手でぶら下げながら馬で疾走するゾファル。次々に後方の帝国兵へ引き渡していく。
「コボルド達をトラックに乗せ、この場からできるだけ離れて欲しい」
 夕鶴は増援として戦うつもりでやってきた帝国兵達に事情を説明。乗ってきたトラックに簀巻コボルドを詰めこみ、運ばせる。
「『貴様』の相手はここにいるぞ! ナイトハルトを知る俺を殺したくはないか――亡霊!」
 オーラに襲われながらもレイスは囮として走り続ける。
 コボルドの数は一体、また一体と減り、やがて戦場の混乱は終息していった。



「信じられないね……まさか、24体ものコボルドを無事に取り押さえるとは」
 というのは、後から駆けつけたカルガナの言葉である。
 全30体中、命を落としたコボルドは6体だけ。これは驚愕の結果と言えた。
「手を貸してくれてありがとう。この間は悪かったな……」
 惣助の言葉に腕を組んだまま鼻を鳴らすイサ。
「勘違いするな。ヒトとの戦いは終わっていない。だがヒトを憎むからこそ、借りは作りたくないのだ」
「シュシュの言う通り、住民は一旦開拓村から避難する事になった。逆に開拓村は空いてるから、イヲ族はそちらに避難させるよ」
 大きく離れた場所は避難民と一緒に輸送は軋轢を産む。遠ざけたいのは山々だが、ここらが限度だ。
「え? シュシュは何にも言ってないだよ?」
 首を傾げたカルガナは神楽に視線を向ける。神楽は頬を掻き、シュシュの背中を叩く。
「シュシュが俺に指示したんすよ。もう忘れたんすか?」
「神楽……ありがとね」
 少女の笑顔に少年はポケットに両手を入れ、優しく頷いた。
「幸い、どうやらゾエル神の広域支配は一旦弱まったみたいね。鉱山内は“城”の影響下だろうけど、ここなら大丈夫かも」
「そうか。それは何よりだ」
 ラシュラの言葉に微笑むレイス。とりあえずイヲ族に関してはしばらく問題ないだろう。
「ラシュラさん。コボルド達は、暴走してまで人間を滅ぼしたいんでしょうか?」
「そう考えているのはごく一部でしょうね。でも、あたし達にも王がいて、その王が望む限り逆らう事はできないわ」
 イェルバートの問いに肩を竦めるラシュラ。最早鉱山内で自我を保てるのは高位のコボルドだけだろう。
「自分以外の全員を巻き込んでこんな事して……そんなのが王様のやることなのかな」
「確かに、もうマハ王に王としての資格はないわね。ただの歪虚の操り人形だもの」
 二人の会話にホロンは複雑そうに俯いていた。そしてハンター達と向き合うと。
「……謝罪ヲサセテホシイ。我ハ人ヲ諦メテイタ。人ト獣ハ決シテ相容レナイト……」
 人間と共に生きる事はそもそも不可能。だから、コボルドが殲滅される前に王を倒す。そう考えていた。
 ホロンはある意味人間を利用していただけなのだ。人を信じないからこそ、打算で動く性質を信じられたから、手を組めたのだ。
「それはお互い様だ。私も最初は所詮コボルドと、そう思っていたからな」
 腰を落とし、小さなホロンと視線を合わせるメリエ。
「だが、これまで何度も肩を並べ戦ったのだ。ここに至って疑心を持つほど薄情じゃない。ホロン……お前は仲間だ」
「ナカマ……」
 小さな獣は、ずっとその言葉を信じなかった。
 大切な師を、ヒトの師をヒトに奪われてから、自分の存在がヒトを傷つけると知った。
 だから心を開くことも、打ち解けることも罪であると考えていた。
「アリガトウ……ミンナ」
「ベルフラウ、あなたはどう思う? 帝国とコボルドの和平交渉とやらを」
 少し遠巻きに眺めるベルフラウに夕鶴は問う。
「本当に、彼等と私達は分かり合えるのだろうか」
「私にもわかりません。だけど……わからなくてもいいんじゃないでしょうか? 未来が暗闇でも、今ここにある光は本物。嘘も、真実も……全てが価値のあることなんだって、そう思えたから」
 そう言ったベルフラウは確かに優しく微笑んでいたから。
 夕鶴は笑みを返し祈る。分かり合えない者達が、それでも共に歩む未来を信じて。

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MVP一覧

  • 愛しい女性と共に
    レイスka1541
  • →Alchemist
    イェルバートka1772
  • 大悪党
    神楽ka2032

重体一覧

参加者一覧

  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 質実にして勇猛
    夕鶴(ka3204
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 暴動コボルト鎮圧(殲滅)本部
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/09/14 00:14:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/13 20:33:38