【蒼祭】夜空に大輪の花を!

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/20 09:00
完成日
2015/09/28 05:01

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●冒険都市リゼリオ
 同盟地域内に漂着したサルヴァトーレ・ロッソ。
 その大きな戦艦を視界に、リーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は忙しそうに錬金術師組合の組合員に向けて指示を飛ばしていた。
「機材の積み下ろしは慎重にお願いしますね。あ、その機械はこちらの舟にお願いします!」
 そう指示を飛ばす先には海があり、その上に数隻の小さな舟が浮かんでいる。
 これらは彼女が今回の任務に必要だと言うことでリゼリオで借りて来たものだ。
「提案を貰った時はどうなるかと思いましたけど、順調で良かったです」
 リーゼロッテは浮かぶ舟の1つに歩み寄ると、筒のような装置に繋がる魔導機械に手を伸ばした。
 これは機導術を使った花火を打ち上げる装置だ。
「しかしマテリアル式花火なんてよく考えましたね。もし今回の打ち上げが成功すれば誰でも簡単に、しかも安全に花火を打ち上げる事が出来るようになりますよ」
 組合員はそう言うと、事前に用意しておいたマテリアルの玉を筒に差し入れた。
 この“マテリアル式花火”はリーゼロッテが今回のために設計したマテリアルを使って打ち上げる花火だ。
 筒に仕込んだマテリアルの玉へ魔導機械を使ってマテリアルを注ぐと、起動させた者のマテリアルに合せた花火が打ち上がる。
 例えば、マテリアルの玉は同じなのにAさんが打ち上げた花火は赤かったのに、Bさんが打ち上げた花火は青かった。と言う違いが出るわけだ。
「イマイチ仕組みが理解できないのですが、この魔導機械に花火の種類を決める機能はあるのでしょうか?」
「いいえ。覚醒者を見てわかると思いますが、個人が持つマテリアルは全て同じではありません。個々のマテリアルに反応して色や形が変わるようにマテリアルの玉を作ったんです。魔導機械は誰でも簡単に打ち上げる事が出来る装置で、こちらに細かな細工はありません」
「と言うことはつまり……」
「先生ー。残りの魔導機械が届きましたけど、どこに置きますか?」
 組合員の思考を遮るように響いた声に、リーゼロッテや周囲の組合員の目が向かう。
 そこに在ったのは、リーゼロッテの助手ペリドだ。彼女は両腕に新たな魔導機械を抱えて港を走っている。その足元はかなりおぼつかなく怪しい。
「ぺ、ペリド! ゆっくりで良いですから、慎重に持って来てください! ここで転んだりしたら機械が海に落ちて使い物にならなくなってしまいますよ!!」
「大丈夫ですよ~、ボクそんなにドジじゃ――あ?!」
 笑顔でペリドが声を上げた瞬間だった。
 彼女の足が地面に転がる小さな石に躓いたのだ。そして大きくよろけた彼女の手から、抱えていた魔導機械が飛び出した。
 その軌道は綺麗過ぎるくらいの円を描いて海に向かって落ちてゆく。その姿にリーゼロッテが飛び出すが、残念なことに彼女に運動神経は備わっていなかった。
「先生っ!?!?!」
 ジャンプしたリーゼロッテと、海に向かう魔導機械。その双方が触れ合う直前、物凄い飛沫が海に上がった。
「ひいいぃぃぃい! だ、誰かぁ!!! 先生がっ、先生が魔導機械に海にーーっ!!!」
 慌てるペリドは魔導機械とリーゼロッテが落ちた場所に駆け寄る。そして恐る恐る覗き込んだ彼女が目にしたのは、脂肪で浮き上がるリーゼロッテと、完全に機能が停止したであろう魔導機械だった。

●災難? それとも、好機?
 小舟の傍で頭からタオルを被ったリーゼロッテは、組合員が報告する花火型魔導機械の状態に目の前が真っ白になっていた。
「つまり、先程の飛沫が原因で殆どの魔導機械が壊れたと……」
 嘘。そんな言葉が頭を過るが、耳に届く説明は紛れもない事実だ。
「花火大会開始まであとどれだけの時間がありますか……?」
 リーゼロッテは顔を覆うようにして息を吐くと、頭の中で修理できる見込みを逆算する。そうして導き出されたのは「無理」と言う答え。
 だがこの花火大会はどうしても成功させたい。これはただの花火大会ではなく、サルヴァトーレ・ロッソの人たちにこの世界は怖くないんだと、こんな技術もあるのだと見せる目的があるのだ。
「あの、組合長……ショックを受けているところ申し訳ないのですが、錬魔院の少女が組合長に面会を――あ、コラ!」
 慌てる組合員を他所に、リーゼロッテのタオルを奪って現れたのはブリジッタ・ビットマン(kz0119)だ。
「ボイン、元気なのよー!!」
「ぶ、ブリちゃん!? なんでここに」
「ワカメのつかいっぱしりなのよさ!」
 ブリジッタはそう胸を張ると後ろに控える錬魔院の輸送トラックを指差した。その様子にリーゼロッテの眉が寄る。
「……ナサニエル院長の指示……」
 どう見ても普通じゃない様子のトラックだが、ブリジッタは深く物事を考えていないらしい。
「ボインー、ヒマなのよさー、何してるのよさー?」
「え、えっと……マテリアルの花火を作ったのですが、肝心の魔導機械が壊れてしまいまして……」
 どうやらブリジッタは次の指示があるまで本気で暇しているらしい。
 普段では有り得ないくらい自分から絡んでくる彼女に苦笑して、リーゼロッテは傍にあった機械を彼女に差し出した。すると、
「これなら魔導機械はいらないのよ。たぶん、ここの配線をこうして……あ、そこの配線ちょうだいなのよ」
 ブリジッタは見るや否や筒と機械を切り離し始め、あっと言う間に筒自体に銅線らしき物を設置してしまった。
「これで魔導機械を媒体にしないでも花火を打ち上げられるのよ。前にワカメがやってたスペルランチャーの応用なのよさ♪」
 得意気に筒を差出すブリジッタに、リーゼロッテの目が向かう。
 そして改良部分を触って理解した。
「これ……マテリアルの供給を起動者自身が行うと言うことですか?」
「そうなのよ。銅線に触ってマテリアルを供給すると着火するシステムなのよ。ちょっと危険だけど覚醒者に頼めば大丈夫なのよさ♪」
 確かにこれなら花火を打ち上げる事は可能だ。
 リーゼロッテは僅かに思案すると組合員を振り返った。
「使用可能な魔導機械はどれだけありますか?」
「元々用意しておいて無事だったのは4機だけです。これは組合員でも打ち上げ可能かと」
「わかりました。ハンターズソサエティ本部へ連絡をしてハンターに花火打ち上げの協力要請します。あなたがたは当初の予定通り、打ち上げ準備を続けて下さい」
 慌ただしく動き出す組合員。それを見送り、リーゼロッテは少し離れた場所で項垂れるペリドを見た。
「ペリド。あなたにハンターズソサエティへ行って依頼を出してもらいます。花火の仕組みは説明できますね?」
 この子とて悪気があった訳ではない。それに解決策は見つかったのだから、あとはそれに向かって進めば良い。
「大丈夫なのよ、心配ならあたしも一緒に行くのよさ♪」
 暇だしついてく♪ と呑気に言ったブリジッタに、ペリドはぎこちなく頷いて微笑んだ。

リプレイ本文

「マテリアル式花火か。仕組みは単純そうだが、なかなかどうしてこりゃ難しいぜ!」
 グハハ、と海に向かって叫ぶのは開始まで暇をもてあましていたデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だ。
 彼は今宵使う魔導機械を思い出し胸を躍らせている。
 そしてそんな彼の足元で、友だちのパルムと一緒にいたチョココ(ka2449)は首を傾げていた。
「花……鼻火?」
「鼻……いや、花火だ。見たことねぇのか?」
「うーんと……今まで見たことは……」
 ない。と首を斜めに動かす彼女に、デスドクロの大振りなジェスチャーが登場する。
「マ・ジ・か!」
「花火というのは火薬と金属の粉末を混ぜ、それを円形に包んだものに火を付けることで、燃焼や破裂時に飛び散る火の粉の色や形を楽しむものです。クリムゾンウェストにはあまり馴染みがないのでしょうか?」
 暇をなのは2人だけではかった。天央 観智(ka0896)はそう解説を添えると、地面に絵を描きはじめる。
 そこにメリエ・フリョーシカ(ka1991)も加わる。
「わたしは見たことありますよ。この前も夏祭りで花火見たなぁ……あれは綺麗だった」
「綺麗なものですの?」
「うん、すっごく綺麗でしたよ!」
 がんばってどんなものか説明するメリエに、チョココは真剣に耳を傾けている。
「まー大船に乗ったつもりで任せておきな。このデスドクロ様が万事パーーフェクツに決めてやっからよ!!」
「楽しみにしてますの♪」
「任せておけ。打ち上げるだけなら問題はねぇ! だがしかしっ、俺様クラスの超越者ともなれば、万民を喜ばせる義務がある。花火鑑賞ってのは一般大衆にとっちゃ、非日常を感じられる特別なイベントだからな。連中を満足させてやらなきゃ嘘ってもんだろッ!」
 至高の夢を見せてやるぜ! そう声を上げる彼に、メリエは「はは」と笑いを零す。そして小舟を覗き込んでいた観智に気付いた。
「何かおかしいですか?」
「いえ、どの様な構造のものなのかと思いまして。マテリアルが思いの影響を受けるモノ……とは言え、気になりますね」
「確かに構造は気になりますね。元の世界にいた時の花火のように打ち上がった時に絵が出来る感じなのでしょうか」
 観智もコランダム(ka0240)もリアルブルー出身だ。向こうの花火は何度か見たことがあるし、その仕組みもなんとなくだが知っている。
 しかしマテリアル式となれば話は別だ。
「あちらの世界では職人の技ですが……やはりこの世界は色々と興味深いですね」
 言って懐かしそうに目を細める。
 そんな彼女に同行していた役犬原 昶(ka0268)が声をかけてきた。
「師匠! そろそろ準備が終わるみたいっすよ! もうすぐ師匠の名前が世界に轟く時がくるっすね!」
「世界に名前を轟かせるほどの花火……」
 ゴクリ。そう生唾を飲み込んだのはフランシスカ(ka3590)だ。
 彼女は今回の話を聞いて少しでも役に立てればと思ってやってきた。しかしここにいる皆は、それ以上の想いを持ってこの場にいるのだろうか。だとすれば場違いなのでは――
「役犬原!」
 ゴンッと強烈な拳骨が昶の後頭部を襲う。それに思考を奪われたフランシスカは、驚いたように目を瞬くと彼の頭を襲ったコランダムを見た。
「気負わなくて良いんですよ。花火は皆が楽しめるように上げるものです。打ち上げる側が楽しまなければ意味がありません。特に今回の花火は」
「……そうですよね。私もついこの前、おともだちと一緒に見に行きました。次々と夜空に咲く色鮮やかな光たち……あの瞬間の光景は、今でも鮮明に思い出せます」
 笑顔でそう言うフランシスカにコランダムの笑顔が重なる。それを交互に見比べて、昶は項垂れたように海を見た。その時だ。
「ブリちゃん! 久しぶりだね♪」
 魔導機械の最終調整が終わったのだろう。
 リーゼロッテと共に戻ってきたブリジッタに駆け寄ると、天竜寺 詩(ka0396)は遠慮なく彼女を抱きしめた。
「な、なんなのよさ?!」
「私もロッソに残ってる人達に、この世界が決して怖くないって知って欲しいもんね♪」
「そ、そんなのは当たり前、なの……よ?」
 言えない。動機が限りなく不純でやましいなどと。
 思わず目を逸らしたブリジッタとチョココの目が合う。彼女はニコッと笑顔をのぞかせると、パルムと一緒にちょこんっと頭を下げた。

●ザ・カブキ&きのこ乱舞
「詩はなんの花火を上げるのよさ?」
「私もロッソに残ってる人達に、この世界が決して怖くないって知って欲しいんだ♪」
 そう言ってロッソを見て目を閉じる。
 リーゼロッテに事前にお願いしていたとおり、サポートにはブリジッタがついていてくれる。
 そのことを心強く思いながら、リアルブルーで見た花火を思い浮かべる――と、次の瞬間。

 ドォーーンッ!

「本当にあがった!」
「当然なのよさ♪」
 普通の花火を夜空に上げて感激する詩に、びりジッタが胸を張る。そんな彼女を見てあることを思いついた。
「ふっふっふー、次はこれだよ♪」

 ドドォーンッ!

「ふぉ!?」
 夜空に浮かんだ着物姿のブリジッタ。それに当の本人は目を真ん丸くして驚いている。だが詩の真骨頂はここからだ!

 ドドドーンッ!

『まあ、あれって』
『歌舞伎?』
 観客席のあるロッソから歓声にも似たざわめきがあがった。それに笑顔を浮かべると、口を開けて空を見ているブリジッタに気付いた。
「これ何なのよ?」
「リアルブルーにいるお父さんの歌舞伎姿を想像したんだよ。格好良く見得を切っている姿だね♪」
「カブキ? ミエ?」
 なにそれ。と目を瞬かせる彼女に、詩は含みを持たせて笑むと、歌舞伎とは何かを語り始めた。
 そして同時期。出番を待っていたチョココは、打ちあがる花火を見てなんとなく感覚をつかんでいた。
「打ち上げられそうですか?」
「もちろんですの♪」
 リーゼロッテに応えて頭に乗せたパルムと揺れる。そうして紡ぐのはぱるぱるの歌。
「ぱるぱる、ぱるる~♪ ぱるぱるる~♪」

 ぱるるるどーんっ☆

『なんだあれは?!』
『きのこ!?』
 歓声とはちょっと違うザワめきがあがる。だがチョココは気にしない。
 むしろ夜空に浮かんだパルムに頬を紅潮させてもう一発!
「夜空いっぱいのぱるるですわ♪ ぱるぱる~♪」
 両手を空に伸ばして複数のパルム型花火が次々と打ちあがる。その姿は夜空を彩る無数のきのこ。
「……きのこ好き、とか思われそうですね」
 リーゼロッテはそう零しながら、楽しそうにパルムと踊って花火を打ち上げるチョココに笑みを向けた。

●これぞ花火なりっ!
「今、きのこと歌舞伎がかぶって見えた気がしましたが……」
「気にしてるヒマはないよのさ♪」
 次はアンタの番なの! そう言ってフランシスカと魔導機械を接続したブリジッタ。そんな彼女を見てから、フランシスカは合間に打ち上げられるリーゼロッテの造った簡易花火に目を向けた。
「誰でも上げられる花火の打ち上げ、成功みたい。さすがはリーゼロッテ組合長ですね」
「……まあ、そうなのよ……」
 ぶぅ。と不貞腐れるブリジッタに笑み、リーゼロッテのため、彼女の研究途中の花火のために意識を集中させる。
(おともだちと見た花火……今まで生きてきた中で、一番大切な思い出……あの感動を。あの美しさを。未だ知らない方々へ――伝えたい)

 ……どぉぉおおんっ!

 大輪の色鮮やかな花が空に浮かぶ。火花を散らし闇へ消えるその姿は、まさに星の瞬きそのものだ。
「もう1度……あの赤い船で過ごしておられる皆様に。このお祭りを楽しんでいらっしゃる全ての方々に。私に生きる喜びを教えてくださった、素敵なおともだちに」
(……もう二度と会えなくなってしまった、大切なあの人にも……どうか、どうか……私の想いを込めたこの光が、届きますように……)

 どぉーん、どぉぉぉおんっ!

『うわっ、今のすごくおっきくなかった!?』
 次々あがる圧巻の花火に大歓声が上がる。それを受け、次にスタンバイしていたデスドクロの魂に火がついた。
「これが人で見た目が変わる花火かっ、面白ぇじゃねぇか!!」
 浪漫・コスト削減・しかもゴージャス!
 だが! と声を切らせ、デスドクロはリーゼロッテを見た。
「このデスドクロ様はこうも思うわけよ。とんかつを食いにきた客に出すカツは、期待を下回っちゃいけねぇが上回りすぎてもいけねぇ。花火もそれと同じなんじゃねぇか、ってな」
「え、っと?」
「客が望むものを過不足なく提供するのが真のプロってもんだ。変わり種は確かに心浮き立つもんだが、あくまでスタンダードありきの話だと考えたぜ?」
 つまり彼が言いたいのは、平凡があるから非平凡が際立つ、と。
「ンなワケで俺様は天才的な頭脳に貯蔵された記憶を元に、極めて普通の花火らしい花火をクリエイトするぜ」
 誰が予想していただろう。
 一番奇抜で、一番予想外な花火を上げると思っていたデスドクロが普通の花火をあげるだと!?
「ある意味予想外ですね……」
 思わず零したリーゼロッテを他所に、デスドクロは記憶の限りを尽くして花火を思い出す。そして――
「食らえ! 熟練の職人による渾身のファイアワークスッ!!」
 はためくマントと打ちあがった花火。
 夜空を彩る絢爛たる緋牡丹。鮮やかで華やかで、見る者の目を惹きつける花火はまさにジャパニーズソウル!!
 もちろんロッソからの歓声は上がりっぱなしだ。そのことに口角を上げると、デスドクロは人差し指で空を指し、更なる大輪の花を咲かせた。

●師と弟子と花火
「いろいろと趣向が凝らされた花火が上がっていますね」
「師匠ー! 花火っすよ! 花火! 盛大に打ち上げるっす!」
「ぬあ!?」
 小舟なのに揺らすバカがあるか! そう怒鳴りそうになったブリジッタを制し、コランダムが昶の足を抓る。
「い!?」
「役犬原……落ち着きなさい。舟が転覆したらどうするのです」
 しゅんっとうな垂れる昶を「犬みたい」と思いつつ、ブリジッタはコランダムの接続を終わらせた。
「準備OKなのよさ」
「私は……そうですね……今後もこの世界で研鑽を詰めるように……」
 意識を集中させて思うのは、リアルブルーで自らが鍛え上げてきた技術だ。
 家を継ぐ流れから得た技術だが、自分はそれに誇りを持って臨んできた。そしてそれはこの世界でも――
「流石師匠っす……花火にすら建築を取り入れる……流石っす!」
 夜空に浮かんだのは日本家屋をイメージした花火。見た目はそこまで華やかではないが、どこか素朴さと安心感を与える花火に昶が喚起の声を上げる。
「うおー! この感動を花火にするっす! 素敵な花火を打ち上げてみせるっすよ!」
 言うや否や、昶は勢いよく花火を上げる。それを見たブリジッタの首が傾げられた。
「文字、なのよ?」
「おう!」

 師・匠・命・! 師・匠・最・高!

「こ、れは……」
 1文字ずつあがる花火にコランダムが呆気にとられている。だが次にあがった花火に彼女は今期一番の羞恥心を感じることになる。
「わぁお~」
 闇を照らす鮮やかな花火。満面の笑顔で地上を見下ろすのはコランダムだ。
 兼ねてより妄想する、いや熱望する師匠の笑顔。その笑顔を創造して花火にしたのだ。
「師匠が俺に微笑んでくれているっす……」
「何をしているんですか役犬原!!!」

 どっぼーん☆

 ものすごい勢いで海に沈む昶。それを見送った後に頭を下げたコランダムは、首を横に振るブリジッタに安堵の息を零し改めて機械に意識を送り込む。
「醜態のお詫びに私の記憶の限りで綺麗な花火を……」
 そう言って打ち上げられた花火は、確かに見事でどこか儚い花火だった。

●フィナーレです!
「い、今のはなんなのよさ?」
 いろいろな色の無数の輪が重なってあがったかと思ったら、次の瞬間にはロケット花火のように四方に散った花火を見たブリジッタは、次の花火を上げるべく意識を集中している観智を見上げた。
「『自由』を。何ものにも縛られず、何ものをも束縛しない……そんな在り様を、ですね。汎用的且つ具体的にイメージして。人は色々と縛られ過ぎていますから……」
 自由。とは壮大なテーマだ。
 だが今のでなんとなく彼のあげたい花火がわかった気がする。
「次に『理』を、ですね。数理・公式の様な類ではなく、覚醒者に成った時に、精霊に魅せられた様な……知識の泉の様な、視覚的・直感的なものとして……世界を支えているものを、イメージして」
 これまた難しいイメージだ。とは言え、なんとなく興味はある。

 ひゅ~~……シャラララッ。

『まあ綺麗!』
『滝みたい~♪』
 上空に上がると同時に火花を散らせて流れ落ちる光に歓声が上がる。だがこの花火はここでおしまいではない。
「おお!!」
 海上に光が落ちると、その一体がマテリアルに反応して輝きだしたのだ。
 これには側で準備をしていたメリエも驚いて手を止める。それを知ってか知らずか、観智は最後の花火を上げにかかる。
 最後の花火のテーマは――
「『平和』ですかね。争いと争いのインターバル、ではなく……皆が皆、人が他人"ひと”を尊び、互いに支え合う事で社会を為し……争いを避け合う様な、そんな平和を具体的にイメージして……」
「! すごっ」
 メリエはそう零して円を中心に四方へ鳥になって飛んでゆく花火を見つめる。
 事前に話を聞いていたがやはりこの花火はすごい。
「機材自体の重さにも少し驚きましたけど、こんなにも思い通りにあがるものなんですね」
「みなさんのマテリアルのおかげですよ」
 微笑むリーゼロッテはそう言うと、メリエと機械を繋いだ。そして彼女を見上げると、打ち上げを促すようにして頷いた。
 それを目にしてメリエの目がロッソに向かう。
「たまーに散歩で遠くに見る事はあっても、ここまで近づいたのは初めてですねー……いやぁ大きい」
 あんなに大きな乗り物が空を飛んで宇宙に行くなど想像も出来ない。とは言え、CAMを見る限り眉唾物の話ではないだろう。
「なにはともあれ、まずはウェルカムトゥザクリムゾンウェスト……ですね。歓迎しましょう……盛大にな!」
 彼女の周りに立ち昇った陽炎の光。それが魔導機械に流れ込むと、空に赤と青の大きな花火が打ちあがった。
「夏祭りで見た花火の再現です。ロッソの人たちも、気に入ってくれるといいけどっ!」
 もう一発。
 今度は大きな星型の花火だ。
「さぁドンドンいきますよっ! どうせ明日は寝るだけです! ここでスッカラカンにするぐらいで丁度いいんですよ!」
「同感だぜっ!」
 いつの間に集結したのか。ハンターを乗せた小舟がメリエの周囲に集まっている。
 彼らは思い思いの花火を上げながらロッソに向けて歓迎の意を示す。その姿にリーゼロッテは達成感と幸福に包まれ笑顔を零した。
「誰よりも高く大きく光り輝く! 我が野望乗せてかっとべファイア!」

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参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師

  • コランダム(ka0240
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • 師を思う、故に我あり
    役犬原 昶(ka0268
    人間(蒼)|27才|男性|霊闘士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 幸福な日々を願う
    フローラ・ソーウェル(ka3590
    人間(紅)|20才|女性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/19 15:32:14
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/09/20 06:09:22
アイコン 質問卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/09/18 23:05:00