ゲスト
(ka0000)
少年、カツアゲに遭う
マスター:狐野径
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/23 07:30
- 完成日
- 2015/09/28 06:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●やっぱり王国が好き
そよぐ空気の軽さに、プエル(kz0127)はマントをなびかせスキップする。
町に入るところで、フードを目深にかぶり門をすり抜ける。両肩またがるように乗っている毛玉が目立つが、意外と問題なかった。
レチタティーヴォと一緒なら、どこにでも行くが、やはりグラズヘイム王国が良かった。
「余の故郷?」
「きゅ?」
「レチタティーヴォ様に会う前、僕はどこにいたんだろう?」
胸の中がざわついた。先日、ハンターから問いかけられた言葉であった。
「……ま、いいや。僕は今がいい。レチタティーヴォ様も何も言わないし」
「きゅ」
プエルは店の前に立った。きれいなハンカチや布でできたアクセサリーが売っている。
眺めるだけで、買わずに場を後にした。
トコトコと歩いて、ガラの悪い地域に足を踏み入れた。
昔はこんなところに入ることはなかった。危険だから入ってはいけないと言い含められているから。
(誰に?)
良くわからないことは考えないことにして、プエルは不穏な空気に心を躍らせる。
いかつい青年たちが「いいカモが来た」とプエルを見て思っているだろうことは想像できた。
青年たちによって行く手はふさがれる。細い路地にも入れない、おろおろとプエルはわざと動く。
「なあ、坊や、ここを通りたければ、財布の中身を全部おいていきな」
「……なんで?」
怯えた声を出しておくと、後でプエルが抵抗した時の相手の反応は面白くなる。
男たちは唾を飲み互いに顔を見合わせた。
「フード外しな」
「……でも、町の中では外してはいけないって言われているし、人間に命令されたくはない」
一人がフードをはぎ取る。
フードを取った男はプエルの顎を掴んで上を向かせる。違和感はあったはずだが、気付くのは遅かった。薄暗いために、これまでのイメージにより。
「へえ、可愛いじゃねぇか。お兄さんたちと遊ぼうか?」
「かわっ……余は、遊ぶとしても下賤なお前らとはない」
プエルが引き抜いた剣は男の心臓を貫く。
「やっちまえ」
恐怖に駆られた青年たちは突撃を選んでしまった。
全員が殺されて横たわるのをプエルは見つめる。モフリが人間の死体の周りを楽しそうに動き回る。
「ああ、服が汚れちゃったから帰ろう」
歩き始めたプエルはエクラの教会からオルガンと子どもたちの声が響くのに気付いた。
●市場の取引
商人のデリクは行商として扱うものを広げたいと辺境に行ったが、歪虚の襲撃によりすべてが台無しになった。集落一つ消えるのに立ち会う羽目になり、仲良くなった子も死んだ。もう少し冷静に行動をとっていればと悔やんでも悔やみきれなかった。
彼が声を上げたために一人の少年の命が失われた。それまでに生きていた希望もあった。
美しい少年の姿の人形。レチタティーヴォ配下であることは本人が名乗っているので間違いはない。
商人はできれば倒したいと願うが、彼は商人であり、戦士ではない。商人でも豪商でもない、お金すらない。悶々とした日々を過ごす。
町の中で店を広げる。香辛料を中心に運びやすいものだ。
フードをかぶった青年が通った。
座っていた彼には見えた、フードの中が。顔立ちは十人並だが、髪は銀、目が金の目立つ色合いの青年。
「あ、ああ、あいつはっ! エクエスッ」
青年は足を止めた。
デリクは冷や汗が湧き上がった。夕食前の買い出しの時間で人が多く集まっている市場で、以前やった過ちを再び繰り返したのだ。
「ああ……辺境ではどうも」
青年の人形は礼儀正しくお辞儀をする、まるで旧知に会ったように。
人々が動き出す。知り合いを見つけて商人は声を掛けたのだ、と認識して。切羽詰まっていたのは、なかなか会える相手ではなかったからだろう、と。
エクエスが常識を持ち合わせているわけではないし、歪虚である相手に望むものではなかった。
「どうしたんですか? ああ、うちの若君を見つける手伝いをしてくれるんですか?」
あの人形も来ている? デリクは喉がひり付いた。ハンターズソサエティの支部がない町を選んでいるのか?
エクエスが喉の奥で笑う。
「まあ、あなたの勝手ですが、プエル様がどこにいるかなど私は知りませんよ? あの方、大人しく人間ごっこしているかもしれませんが、不興を買うようなことをする人がいれば……」
「……」
「あの方、魔法も使えますし……」
「はったりだろう?」
「そうですね、はったりかも知れません。ですが、ここは町中。鍛えられた兵士でもハンターでもありませんよ、犠牲になるのは」
デリクは息をのんだ。
「でもまあ、あの方は分別あるので、この町を襲撃しようとは考えないですよ、ええ、可愛らしいのでうちの若君は」
数で押せば行けるのではないかとデリクは思わなくはない。何も備えをしていない町を戦場にするわけにはいかない。
「どうです、取引しませんか? 私達を町の外に無傷で出すということ。そうすればここで私は剣を抜きません」
商人はうなずくしかなかった。自分の不用意な発言で死人が出ることは望まないから。
●教会
「いいですか、次はこの音ですよ?」
司祭がオルガンを鳴らすと、子どもたちは声を出す。
「では……」
がちゃりと礼拝堂の扉が開いた。
「余も歌いたい!」
飛びこんで来た少年は小走りにやってくる。
羽織っているマントも服も、貴族が身に付けるような立派な物であるが、このあたりで見ない少年。
かすかな血臭が漂う。少年のマントには血の跡があり、はねあげたフードの下から現れた美しい顔は、陶器めいたつやを持つ。
「ねえ、オルガン弾いてよ」
司祭は理解した、この少年は人間ではないと。
「ねえ、なんで黙っているの? ああ、余が独りじゃないから? じゃあ、そこの子たちを殺そう」
にこりと愛らしい笑顔でぞっとする提案をする。
突然のことで黙っていた子らが騒ぎ出す。司祭は子どもたちとの間に割って入った。
冷や汗が流れる。
「では弾きましょう? 何の楽曲がよろしいのですか? 知っていないモノもあると思いますが……」
司祭は子どもたちを逃がすタイミングを探す。
「いいかい、大人しくしているんだよ? 合図をしたら裏から……」
大きい子に話しかけてから司祭はオルガンの椅子に座る。
要求が通って喜ぶ歪虚の少年が上げたタイトルは、どれもここの子らに教えているようなモノであった。
そよぐ空気の軽さに、プエル(kz0127)はマントをなびかせスキップする。
町に入るところで、フードを目深にかぶり門をすり抜ける。両肩またがるように乗っている毛玉が目立つが、意外と問題なかった。
レチタティーヴォと一緒なら、どこにでも行くが、やはりグラズヘイム王国が良かった。
「余の故郷?」
「きゅ?」
「レチタティーヴォ様に会う前、僕はどこにいたんだろう?」
胸の中がざわついた。先日、ハンターから問いかけられた言葉であった。
「……ま、いいや。僕は今がいい。レチタティーヴォ様も何も言わないし」
「きゅ」
プエルは店の前に立った。きれいなハンカチや布でできたアクセサリーが売っている。
眺めるだけで、買わずに場を後にした。
トコトコと歩いて、ガラの悪い地域に足を踏み入れた。
昔はこんなところに入ることはなかった。危険だから入ってはいけないと言い含められているから。
(誰に?)
良くわからないことは考えないことにして、プエルは不穏な空気に心を躍らせる。
いかつい青年たちが「いいカモが来た」とプエルを見て思っているだろうことは想像できた。
青年たちによって行く手はふさがれる。細い路地にも入れない、おろおろとプエルはわざと動く。
「なあ、坊や、ここを通りたければ、財布の中身を全部おいていきな」
「……なんで?」
怯えた声を出しておくと、後でプエルが抵抗した時の相手の反応は面白くなる。
男たちは唾を飲み互いに顔を見合わせた。
「フード外しな」
「……でも、町の中では外してはいけないって言われているし、人間に命令されたくはない」
一人がフードをはぎ取る。
フードを取った男はプエルの顎を掴んで上を向かせる。違和感はあったはずだが、気付くのは遅かった。薄暗いために、これまでのイメージにより。
「へえ、可愛いじゃねぇか。お兄さんたちと遊ぼうか?」
「かわっ……余は、遊ぶとしても下賤なお前らとはない」
プエルが引き抜いた剣は男の心臓を貫く。
「やっちまえ」
恐怖に駆られた青年たちは突撃を選んでしまった。
全員が殺されて横たわるのをプエルは見つめる。モフリが人間の死体の周りを楽しそうに動き回る。
「ああ、服が汚れちゃったから帰ろう」
歩き始めたプエルはエクラの教会からオルガンと子どもたちの声が響くのに気付いた。
●市場の取引
商人のデリクは行商として扱うものを広げたいと辺境に行ったが、歪虚の襲撃によりすべてが台無しになった。集落一つ消えるのに立ち会う羽目になり、仲良くなった子も死んだ。もう少し冷静に行動をとっていればと悔やんでも悔やみきれなかった。
彼が声を上げたために一人の少年の命が失われた。それまでに生きていた希望もあった。
美しい少年の姿の人形。レチタティーヴォ配下であることは本人が名乗っているので間違いはない。
商人はできれば倒したいと願うが、彼は商人であり、戦士ではない。商人でも豪商でもない、お金すらない。悶々とした日々を過ごす。
町の中で店を広げる。香辛料を中心に運びやすいものだ。
フードをかぶった青年が通った。
座っていた彼には見えた、フードの中が。顔立ちは十人並だが、髪は銀、目が金の目立つ色合いの青年。
「あ、ああ、あいつはっ! エクエスッ」
青年は足を止めた。
デリクは冷や汗が湧き上がった。夕食前の買い出しの時間で人が多く集まっている市場で、以前やった過ちを再び繰り返したのだ。
「ああ……辺境ではどうも」
青年の人形は礼儀正しくお辞儀をする、まるで旧知に会ったように。
人々が動き出す。知り合いを見つけて商人は声を掛けたのだ、と認識して。切羽詰まっていたのは、なかなか会える相手ではなかったからだろう、と。
エクエスが常識を持ち合わせているわけではないし、歪虚である相手に望むものではなかった。
「どうしたんですか? ああ、うちの若君を見つける手伝いをしてくれるんですか?」
あの人形も来ている? デリクは喉がひり付いた。ハンターズソサエティの支部がない町を選んでいるのか?
エクエスが喉の奥で笑う。
「まあ、あなたの勝手ですが、プエル様がどこにいるかなど私は知りませんよ? あの方、大人しく人間ごっこしているかもしれませんが、不興を買うようなことをする人がいれば……」
「……」
「あの方、魔法も使えますし……」
「はったりだろう?」
「そうですね、はったりかも知れません。ですが、ここは町中。鍛えられた兵士でもハンターでもありませんよ、犠牲になるのは」
デリクは息をのんだ。
「でもまあ、あの方は分別あるので、この町を襲撃しようとは考えないですよ、ええ、可愛らしいのでうちの若君は」
数で押せば行けるのではないかとデリクは思わなくはない。何も備えをしていない町を戦場にするわけにはいかない。
「どうです、取引しませんか? 私達を町の外に無傷で出すということ。そうすればここで私は剣を抜きません」
商人はうなずくしかなかった。自分の不用意な発言で死人が出ることは望まないから。
●教会
「いいですか、次はこの音ですよ?」
司祭がオルガンを鳴らすと、子どもたちは声を出す。
「では……」
がちゃりと礼拝堂の扉が開いた。
「余も歌いたい!」
飛びこんで来た少年は小走りにやってくる。
羽織っているマントも服も、貴族が身に付けるような立派な物であるが、このあたりで見ない少年。
かすかな血臭が漂う。少年のマントには血の跡があり、はねあげたフードの下から現れた美しい顔は、陶器めいたつやを持つ。
「ねえ、オルガン弾いてよ」
司祭は理解した、この少年は人間ではないと。
「ねえ、なんで黙っているの? ああ、余が独りじゃないから? じゃあ、そこの子たちを殺そう」
にこりと愛らしい笑顔でぞっとする提案をする。
突然のことで黙っていた子らが騒ぎ出す。司祭は子どもたちとの間に割って入った。
冷や汗が流れる。
「では弾きましょう? 何の楽曲がよろしいのですか? 知っていないモノもあると思いますが……」
司祭は子どもたちを逃がすタイミングを探す。
「いいかい、大人しくしているんだよ? 合図をしたら裏から……」
大きい子に話しかけてから司祭はオルガンの椅子に座る。
要求が通って喜ぶ歪虚の少年が上げたタイトルは、どれもここの子らに教えているようなモノであった。
リプレイ本文
●商人と歪虚
依頼を出しに行くにしても隣の町という悪条件。それでも救いがあるのは、各地を回るハンターと偶然。
「……てめぇ、なんでこんなところにいるんだ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は聞き覚えのある名前に足を止め、近寄ってきた。最近見かけないプエルの従者がそこにいる。
エクエスは後ろに下がり、レイオスと距離を取る。
「うう、あなたは、以前のハンターの方」
デリクは泣き出しそうな顔ですがる。エクエスの突き付けた条件のために、プエルを探すのを手伝ってほしいと告げる。報酬も支払うとも。
『手伝うよ』
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は通りすがりで内容を聞き、文字を書きこんだスケッチブックを見せた。
「よろしければ、手をお貸しいたします」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は気になり声をかける。
「あの、よろしければ、私もお手伝いします」
にこりと微笑みながらステラ・レッドキャップ(ka5434)は告げた。
デリクはひたすらお礼を言い、良い方に導いてくれた神に感謝した。
●情報
「では、私は入口で待っておりますので、くれぐれも若君……」
「待て、聞きたいこともあるから」
レイオスが強い口調で引き留める。戦いになると一般人が巻き添えになるが、優しく言って聞いてくれるかは不明だ。
『そもそも、プエルが分からない。似顔絵を描くから特徴を教えて』
エヴァの書きこみにレイも頷いた。
「身長はあなたくらいですよ」
エクエスはエヴァを指さす。
「人間と変わりませんよ、目が一対、鼻が中央にあって、口がその下にあります。可愛らしいですよ」
「……」
人間四人は沈黙する。
『具体的なところは!』
「だから、可愛らしいですよ? あなたくらいの身長の茶髪の子に向かって『可愛い』と褒めて剣を抜いたらそれがプエル様です」
いろいろ突っ込みどころはあるが、情報の一つと言えば一つだ。
「薄茶色の髪で短髪より長め……私に似ています髪型」
「目は紫で……細いより、ちょっとふっくらした顔型だったっけ?」
面識があるステラとレイオスが教える。
エヴァはうんうんとうなずいて描いていく。
「時間かかりそうですね……」
レイが思案する。
「何か目立つ特徴は?」
その瞬間、レイオスとステラ、そしてエクエスがそれぞれ手を叩く。
「毛玉」
それぞれの声が重なった。
レイとエヴァが首をかしげる。
「プエルがペットとして拾った妖怪だ」
「白くてもこもこしているので毛玉と呼んでいました」
レイオスとステラが忌々しげに告げる、大きさや注意事項も。
手がかりもできたため、トランシーバーでやり取りすることを決め、捜しに行くことにした。
「ところで、どうしてその四か所なんですか?」
少しでも情報を欲してレイが尋ねるとエクエスは肩をすくめる。
「歩き回るのが好きですからねぇあのお方は。市場は買い物、路地裏は子どもなので狭い所が好きなんでしょうねぇ? 劇場はただの音楽好き、教会は……まあ、建物がいろいろありますからねぇ」
快活にしゃべっていたエクエスが一部言い淀んだ。
「建築好きということですか?」
「さて? 本人ではありませんのでなんとも」
ハンターたちはとりあえず別れて行動を始めた。
●捜索
路地裏を通って教会を目指そうと考えたレイオスと、デリクを同行させ捜索を行おうとするレイが途中まで一緒に行く。
「デリクはもしプエルを見つけた場合、黙って即刻宿に戻れよ」
レイオスに諭されてデリクはうなずく。過ちを二度行ったため、さすがに神妙だ。
超聴覚を使いながらレイは周囲をうかがう。
「何か騒がしですよ? 死体が出たというような声がします」
犯人がプエルかは分からないが向かうことにした。
高い所から見ようとエヴァは建物を眺める。自由に入れそうなところがない場合は交渉しないとならないだろう。
この間にステラは町娘のような格好になり、眼鏡をかける。遠めとはいえプエルと遭遇していたことを考慮した。
(毛玉って鼻効くのか?)
ふと思ったが分からないことは分からない。
『あの建物の上からみよう』
「分かれますか?」
エヴァとステラの視線はエクエスに向かう。
「そもそも、私まで一緒にいないといけないんですか。入口で待っていると言っているではないですか」
エヴァとステラは顔を見合わせて、「見えるところにいる方がいいと思う」というようなことを口や表情で告げた。
深いため息が返ってくる。
「プエルさんは今日、どのようなご用件でこちらに?」
ステラは情報収集と思い話しかける。
「買い物ですかねぇ……歪虚としてであれば、私も連れて来るでしょうし」
首をかしげて苦笑するエクエスに、ステラは「そんなものか」と眉を寄せる。
建物の屋上には自由に入れたところで、町を見下ろす。その時、トランシーバーから声が届いた。
血臭が漂うところは騒然としていた。
壁に落書きが多く、ごみの散乱状況から、柄の良くない地域と見受けられた。町の兵士らしい人物を見つけ、話しかけると返答があった。
「ああ、この先は迂回してくれ……事件? いや、このあたりでも悪がきでな、恐喝をよくやる奴らが犠牲者だ」
プエルと関係なさそうである。
「内部闘争?」
確信と手がかりを得るためにレイオスは掘り下げて尋ねる。
「いいや。つるんでいた奴ら全員が死んでる」
「全員?」
「剣で……って刀?」
兵士の視線がレイオスの武器に向かっている。
「オレ、こっちにはじめて来たんだが。それに、ハンターで」
「事件はいつ起こったんですか? この方とは先ほどからご一緒しています。それに、市場にいたので関係ないですよ、返り血も浴びていませんし」
レイのフォローに一応兵士は納得した。
「何らかの刃物で切られて死んでいると事実があるということですね?」
レイは首をひねる。
「上から見たとき、綿を持った男の子が絡まれてて、可哀そうだなって思ったんだよ。水でもかけて散らそうと思ったんだけど、バケツに水を入れて戻ってきたときには、あいつら倒れてたんだ」
兵士に事情を話す人物の声が二人の耳に届いた。
「……隊長は?」
レイオスとレイは今の状況を現場にいた兵の長に話した。
歪虚が二体紛れ込んでいること。それなりに強い者で、倒すためには危険が伴うということ。増援を呼ぶ間に、死者が増える恐れがあると説く。そして、デリクが脅されていることも含めて告げた。
さすがに逃がすということに難色を示したが、長は諦めた。
「分かりました、信じますよ。災厄の十三魔の配下なんかに目をつけられるような町でもないので、疑いたくなりますがね」
軍事的な要所ということもないため自嘲気味だ。
「犯人不明でも納得できる……可哀そうだがあいつらはそういうことをしてきてしまった」
「まあ、犯人がプエルだとは決まってないんだが……ハンター以外でそこまで短時間に力を発揮できるとしたら歪虚だろうし」
レイオスは唇を噛んだ。
「行きましょう……この近辺にいるとなると要注意ですが、買い物で来たヒトがとどまるとは思えません。本気で人間を殺すなら、ここに来た人たちがすでに犠牲になっていたかもしれませんよね」
「だな……」
デリクを宿に戻るように告げ、二人は教会に向かう。
「おやぁ、人間を殺していましたか? プエル様、久々に剣を握られましたね」
エクエスはククッと喉で笑い、トランシーバーからの声を楽しそうに聞く。
「最近大人しくなさっていましたから……旅行で忙しくて」
『旅行?』
エヴァは首を傾げ、ステラが唾を吐き捨てそうな顔になる。
「私はプエル様に付いて回っただけですが、なかなかあの方は楽しんでいたみたいですよ」
「歪虚の旅行なんて、ロクなもんじゃねぇ」
ぼそり、ステラが素でつぶやいた。
エクエスは聞いていたらしく「お互い様でしょう」と返事をしてきた。
教会に近づく。
扉も閉められているが、かすかに音は漏れる。
「……おやおや、楽しそうに歌っていらっしゃる」
『うらやましいわ』
「なら、あの方の取り柄なので、褒めて差し上げて下さい」
エクエスは笑う。
「裏手に回りますか?」
ステラの問いかけにエヴァはうなずいた。正面切って入るには条件が悪い。
●教会
音楽で気を引くことで人質状態の子らを解放する。そのあと、プエルを外に誘導する。
「ハーメルンの笛吹き男か」
リアルブルーにある昔話をレイオスは思い出し、頭痛がした。
外で演奏してプエルをおびき出すにしても、音が届くか不明。壁とプエルの声が響きすぎている。
一方でエクエスから目を離すことになれば、これまで何もなかったが不安もある。剣技以外で魔法や技を持っていれば、裏をかいて一般人を殺すことも可能だろう。
『シスターの服があれば』
紛れ込みやすいとエヴァは示す。
面が割れているレイオスは子どもたちがいるときは危険だ。
「私とエヴァさんでお子さんたちと司祭様を誘導します」
ステラは眼鏡をかけ直して告げる。
「そうですね、何かあったらすぐに声を上げてください」
レイは心配そうに言った。
エヴァとステラは異口同音に了解の旨を示した。
かちゃり、扉が開いた瞬間、プエルとモフリが臨戦態勢になる。司祭と子ら以外に来るということに不審を抱いた。
子供たちが悲鳴を上げた。
『司祭さま、お客様がいらしていますよ』
スケッチブックに字を書く見知らぬシスターに司祭は驚く。
「あの、よろしければ、私達が変わりますよ? お客様ですよね?」
ステラはにこやかに告げる。
「きゅきゅ」
モフリが威嚇する。
『オルガン代わりに弾きます! 歌、すごく上手でうらやましいです』
エヴァがプエルに紙を見せた。
エクエスが言ったようにプエルの敵対行動が薄れる。敵対しなくてはという反射行動と、褒められて嬉しいと言う二つが同居しているようだ。
「きゅ」
モフリが子どもたちに近寄る。
「まあ、可愛らしい生き物ですね」
ステラは自分でも思うほどわざとらしく言った。子らとモフリの間に割って入る。その時、若干乱暴でも子どもを後ろに突き飛ばした。
エヴァが子の肩を掴んで、後ろに進める。
子らはクモの子を散らすように隣の部屋に入った。
『司祭様、ここはお任せください』
エヴァは別の紙を見せ、ウインクをする。
「う、うむ」
司祭はプエルから目を離さず、冷や汗をかきつつ下がった。
オルガンにしがみついたプエルは何か感じ取ったらしく、二人を見つめる。
裏手に来た子らと司祭をレイオスとレイが迎える。
「た、助かりました……」
司祭は明らかにエクエスを見ている。
「歪虚を暴れさせるわけにもいかず、撤退させたい。それと……今ここで騒いだ場合……」
「町は混乱しますね」
レイオスの語る事情を聴いた司祭は冷静だった。
子らは逃げたがっているが、レイがなだめてとどめようとしている。
「この二名を町の外に追い出すまで、ここで待機してもらっていいでしょうか?」
子らを逃がしたいのもやまやまだが、子らが騒がないという保証はなかった。司祭はうなずき、部屋の隅に子らを集めて隠れた。
「……違う、嘘だ」
プエルは距離を作り、マテリアルを紡ぎあげる。矢をつがえる動作の直後、手には闇の弓矢が握られていた。
エヴァは首をかしげて、なぜと問いかける。
「モフリが反応をしている。それに、お前見たような気がする」
「ちっ」
ステラが舌打ちをした。
「プエル様お待ちください」
奥の部屋から来たエクエスが声をかける。
レイオスとレイも入ってくる。いろいろ言いたいことはあるが、戦いに転ばないように説明をしなければいけない。
「助けてください、この方々が私を人質に」
「なっ!」
エクエスの言葉にプエルとハンターたちの声が重なる。一気に緊迫した空気に包まれる。
魔法をエヴァに向かって放ったが、回避される。
ハンターたちは武器を抜くか、ぎりぎりまでねばる。
「この場で嘘つくんですか」
「いえ、ちょっと面白くしようと思いました」
レイが問いに、エクエスはさらりと応える。
プエルの魔法の矢の矛先がエクエスに向いている。
「貴様、余は心配したのだが……嘘? ハンターを連れて何をしようとしている」
プエルの声は冷たく、視線は氷をまぶしたような色を纏う。
「つまりな、てめぇを探すようにこいつが商人脅した。それを受けたってわけだ」
ステラがバッサリと言った。
『私達と君達が戦わない』
条件が微妙に変わっている気もするが、エクエスは黙っている。
「ああ、もう!」
天井に向かって放たれた魔法の矢は目標物がなく、消滅した。
プエルは理解したため、いらだつ。おとなしくしていれば攻撃はされない、一方で人間を殺すということはあきらめるしかないのだ。殺すことはできても、このような狭い室内で争うのは分が悪すぎる。
「モフリ、聞いた? 今日は人間、ご飯にできないって」
「きゅー」
「相手を知ってからこっそり仕掛けないと駄目だって……」
「きゅきゅ」
「調査は重要だって……皆言ってるし、今日はこれでおしまいだよ」
「きゅー」
プエルに諭されてモフリは炎を消した。
「場当たりのようでしたが、意外と事実を言ってませんか?」
「口だけじゃないか?」
ぼそぼそとレイとレイオスが会話をしている。
「さて、帰りましょう?」
エクエスはプエルにお辞儀をした後、手を差し出した。
●不満
「約束を守っていただきありがとうございます」
エクエスの嫌味たっぷりの笑顔がハンターの気を逆なでる。
モフリを抱きかかえたプエルは黙り、大人しくしている。
納得しているが、遊びを中断されたプエルは不機嫌なのだ。モフリも同様にふて腐れている様子。
足早に立ち去るプエルに続き、エクエスはお辞儀一つ残し立ち去った。
「……なんか、腹立つ」
戻ってこないか見送った後、ステラが憎々しげにつぶやく。
『はた迷惑、能天気! 嫌味の一つくらい言いたかったけれど!』
むしろ、ほめて終わってしまったとエヴァは不満を募らせた。
「敗北感が非常に大きいですね、これは……亡くなった人達の仇討を……」
レイが端正な顔をゆがめて唇を噛む。童心を持つ子に見えようと、人類の敵ということは事件が雄弁に語る。
「デリクにも伝えないとな、終わったって」
倒すチャンスをうかがってもなかなか隙ができずにいる歯がゆさがレイオスを揺さぶる。
「辺境で商売しようとしていたみたいだし……いっそのこと王国に来る鬼との商売でも提案してみるかな」
レイオスは溜息をもらした。それに重なるように仲間の溜息も聞こえた。
依頼を出しに行くにしても隣の町という悪条件。それでも救いがあるのは、各地を回るハンターと偶然。
「……てめぇ、なんでこんなところにいるんだ」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は聞き覚えのある名前に足を止め、近寄ってきた。最近見かけないプエルの従者がそこにいる。
エクエスは後ろに下がり、レイオスと距離を取る。
「うう、あなたは、以前のハンターの方」
デリクは泣き出しそうな顔ですがる。エクエスの突き付けた条件のために、プエルを探すのを手伝ってほしいと告げる。報酬も支払うとも。
『手伝うよ』
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は通りすがりで内容を聞き、文字を書きこんだスケッチブックを見せた。
「よろしければ、手をお貸しいたします」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は気になり声をかける。
「あの、よろしければ、私もお手伝いします」
にこりと微笑みながらステラ・レッドキャップ(ka5434)は告げた。
デリクはひたすらお礼を言い、良い方に導いてくれた神に感謝した。
●情報
「では、私は入口で待っておりますので、くれぐれも若君……」
「待て、聞きたいこともあるから」
レイオスが強い口調で引き留める。戦いになると一般人が巻き添えになるが、優しく言って聞いてくれるかは不明だ。
『そもそも、プエルが分からない。似顔絵を描くから特徴を教えて』
エヴァの書きこみにレイも頷いた。
「身長はあなたくらいですよ」
エクエスはエヴァを指さす。
「人間と変わりませんよ、目が一対、鼻が中央にあって、口がその下にあります。可愛らしいですよ」
「……」
人間四人は沈黙する。
『具体的なところは!』
「だから、可愛らしいですよ? あなたくらいの身長の茶髪の子に向かって『可愛い』と褒めて剣を抜いたらそれがプエル様です」
いろいろ突っ込みどころはあるが、情報の一つと言えば一つだ。
「薄茶色の髪で短髪より長め……私に似ています髪型」
「目は紫で……細いより、ちょっとふっくらした顔型だったっけ?」
面識があるステラとレイオスが教える。
エヴァはうんうんとうなずいて描いていく。
「時間かかりそうですね……」
レイが思案する。
「何か目立つ特徴は?」
その瞬間、レイオスとステラ、そしてエクエスがそれぞれ手を叩く。
「毛玉」
それぞれの声が重なった。
レイとエヴァが首をかしげる。
「プエルがペットとして拾った妖怪だ」
「白くてもこもこしているので毛玉と呼んでいました」
レイオスとステラが忌々しげに告げる、大きさや注意事項も。
手がかりもできたため、トランシーバーでやり取りすることを決め、捜しに行くことにした。
「ところで、どうしてその四か所なんですか?」
少しでも情報を欲してレイが尋ねるとエクエスは肩をすくめる。
「歩き回るのが好きですからねぇあのお方は。市場は買い物、路地裏は子どもなので狭い所が好きなんでしょうねぇ? 劇場はただの音楽好き、教会は……まあ、建物がいろいろありますからねぇ」
快活にしゃべっていたエクエスが一部言い淀んだ。
「建築好きということですか?」
「さて? 本人ではありませんのでなんとも」
ハンターたちはとりあえず別れて行動を始めた。
●捜索
路地裏を通って教会を目指そうと考えたレイオスと、デリクを同行させ捜索を行おうとするレイが途中まで一緒に行く。
「デリクはもしプエルを見つけた場合、黙って即刻宿に戻れよ」
レイオスに諭されてデリクはうなずく。過ちを二度行ったため、さすがに神妙だ。
超聴覚を使いながらレイは周囲をうかがう。
「何か騒がしですよ? 死体が出たというような声がします」
犯人がプエルかは分からないが向かうことにした。
高い所から見ようとエヴァは建物を眺める。自由に入れそうなところがない場合は交渉しないとならないだろう。
この間にステラは町娘のような格好になり、眼鏡をかける。遠めとはいえプエルと遭遇していたことを考慮した。
(毛玉って鼻効くのか?)
ふと思ったが分からないことは分からない。
『あの建物の上からみよう』
「分かれますか?」
エヴァとステラの視線はエクエスに向かう。
「そもそも、私まで一緒にいないといけないんですか。入口で待っていると言っているではないですか」
エヴァとステラは顔を見合わせて、「見えるところにいる方がいいと思う」というようなことを口や表情で告げた。
深いため息が返ってくる。
「プエルさんは今日、どのようなご用件でこちらに?」
ステラは情報収集と思い話しかける。
「買い物ですかねぇ……歪虚としてであれば、私も連れて来るでしょうし」
首をかしげて苦笑するエクエスに、ステラは「そんなものか」と眉を寄せる。
建物の屋上には自由に入れたところで、町を見下ろす。その時、トランシーバーから声が届いた。
血臭が漂うところは騒然としていた。
壁に落書きが多く、ごみの散乱状況から、柄の良くない地域と見受けられた。町の兵士らしい人物を見つけ、話しかけると返答があった。
「ああ、この先は迂回してくれ……事件? いや、このあたりでも悪がきでな、恐喝をよくやる奴らが犠牲者だ」
プエルと関係なさそうである。
「内部闘争?」
確信と手がかりを得るためにレイオスは掘り下げて尋ねる。
「いいや。つるんでいた奴ら全員が死んでる」
「全員?」
「剣で……って刀?」
兵士の視線がレイオスの武器に向かっている。
「オレ、こっちにはじめて来たんだが。それに、ハンターで」
「事件はいつ起こったんですか? この方とは先ほどからご一緒しています。それに、市場にいたので関係ないですよ、返り血も浴びていませんし」
レイのフォローに一応兵士は納得した。
「何らかの刃物で切られて死んでいると事実があるということですね?」
レイは首をひねる。
「上から見たとき、綿を持った男の子が絡まれてて、可哀そうだなって思ったんだよ。水でもかけて散らそうと思ったんだけど、バケツに水を入れて戻ってきたときには、あいつら倒れてたんだ」
兵士に事情を話す人物の声が二人の耳に届いた。
「……隊長は?」
レイオスとレイは今の状況を現場にいた兵の長に話した。
歪虚が二体紛れ込んでいること。それなりに強い者で、倒すためには危険が伴うということ。増援を呼ぶ間に、死者が増える恐れがあると説く。そして、デリクが脅されていることも含めて告げた。
さすがに逃がすということに難色を示したが、長は諦めた。
「分かりました、信じますよ。災厄の十三魔の配下なんかに目をつけられるような町でもないので、疑いたくなりますがね」
軍事的な要所ということもないため自嘲気味だ。
「犯人不明でも納得できる……可哀そうだがあいつらはそういうことをしてきてしまった」
「まあ、犯人がプエルだとは決まってないんだが……ハンター以外でそこまで短時間に力を発揮できるとしたら歪虚だろうし」
レイオスは唇を噛んだ。
「行きましょう……この近辺にいるとなると要注意ですが、買い物で来たヒトがとどまるとは思えません。本気で人間を殺すなら、ここに来た人たちがすでに犠牲になっていたかもしれませんよね」
「だな……」
デリクを宿に戻るように告げ、二人は教会に向かう。
「おやぁ、人間を殺していましたか? プエル様、久々に剣を握られましたね」
エクエスはククッと喉で笑い、トランシーバーからの声を楽しそうに聞く。
「最近大人しくなさっていましたから……旅行で忙しくて」
『旅行?』
エヴァは首を傾げ、ステラが唾を吐き捨てそうな顔になる。
「私はプエル様に付いて回っただけですが、なかなかあの方は楽しんでいたみたいですよ」
「歪虚の旅行なんて、ロクなもんじゃねぇ」
ぼそり、ステラが素でつぶやいた。
エクエスは聞いていたらしく「お互い様でしょう」と返事をしてきた。
教会に近づく。
扉も閉められているが、かすかに音は漏れる。
「……おやおや、楽しそうに歌っていらっしゃる」
『うらやましいわ』
「なら、あの方の取り柄なので、褒めて差し上げて下さい」
エクエスは笑う。
「裏手に回りますか?」
ステラの問いかけにエヴァはうなずいた。正面切って入るには条件が悪い。
●教会
音楽で気を引くことで人質状態の子らを解放する。そのあと、プエルを外に誘導する。
「ハーメルンの笛吹き男か」
リアルブルーにある昔話をレイオスは思い出し、頭痛がした。
外で演奏してプエルをおびき出すにしても、音が届くか不明。壁とプエルの声が響きすぎている。
一方でエクエスから目を離すことになれば、これまで何もなかったが不安もある。剣技以外で魔法や技を持っていれば、裏をかいて一般人を殺すことも可能だろう。
『シスターの服があれば』
紛れ込みやすいとエヴァは示す。
面が割れているレイオスは子どもたちがいるときは危険だ。
「私とエヴァさんでお子さんたちと司祭様を誘導します」
ステラは眼鏡をかけ直して告げる。
「そうですね、何かあったらすぐに声を上げてください」
レイは心配そうに言った。
エヴァとステラは異口同音に了解の旨を示した。
かちゃり、扉が開いた瞬間、プエルとモフリが臨戦態勢になる。司祭と子ら以外に来るということに不審を抱いた。
子供たちが悲鳴を上げた。
『司祭さま、お客様がいらしていますよ』
スケッチブックに字を書く見知らぬシスターに司祭は驚く。
「あの、よろしければ、私達が変わりますよ? お客様ですよね?」
ステラはにこやかに告げる。
「きゅきゅ」
モフリが威嚇する。
『オルガン代わりに弾きます! 歌、すごく上手でうらやましいです』
エヴァがプエルに紙を見せた。
エクエスが言ったようにプエルの敵対行動が薄れる。敵対しなくてはという反射行動と、褒められて嬉しいと言う二つが同居しているようだ。
「きゅ」
モフリが子どもたちに近寄る。
「まあ、可愛らしい生き物ですね」
ステラは自分でも思うほどわざとらしく言った。子らとモフリの間に割って入る。その時、若干乱暴でも子どもを後ろに突き飛ばした。
エヴァが子の肩を掴んで、後ろに進める。
子らはクモの子を散らすように隣の部屋に入った。
『司祭様、ここはお任せください』
エヴァは別の紙を見せ、ウインクをする。
「う、うむ」
司祭はプエルから目を離さず、冷や汗をかきつつ下がった。
オルガンにしがみついたプエルは何か感じ取ったらしく、二人を見つめる。
裏手に来た子らと司祭をレイオスとレイが迎える。
「た、助かりました……」
司祭は明らかにエクエスを見ている。
「歪虚を暴れさせるわけにもいかず、撤退させたい。それと……今ここで騒いだ場合……」
「町は混乱しますね」
レイオスの語る事情を聴いた司祭は冷静だった。
子らは逃げたがっているが、レイがなだめてとどめようとしている。
「この二名を町の外に追い出すまで、ここで待機してもらっていいでしょうか?」
子らを逃がしたいのもやまやまだが、子らが騒がないという保証はなかった。司祭はうなずき、部屋の隅に子らを集めて隠れた。
「……違う、嘘だ」
プエルは距離を作り、マテリアルを紡ぎあげる。矢をつがえる動作の直後、手には闇の弓矢が握られていた。
エヴァは首をかしげて、なぜと問いかける。
「モフリが反応をしている。それに、お前見たような気がする」
「ちっ」
ステラが舌打ちをした。
「プエル様お待ちください」
奥の部屋から来たエクエスが声をかける。
レイオスとレイも入ってくる。いろいろ言いたいことはあるが、戦いに転ばないように説明をしなければいけない。
「助けてください、この方々が私を人質に」
「なっ!」
エクエスの言葉にプエルとハンターたちの声が重なる。一気に緊迫した空気に包まれる。
魔法をエヴァに向かって放ったが、回避される。
ハンターたちは武器を抜くか、ぎりぎりまでねばる。
「この場で嘘つくんですか」
「いえ、ちょっと面白くしようと思いました」
レイが問いに、エクエスはさらりと応える。
プエルの魔法の矢の矛先がエクエスに向いている。
「貴様、余は心配したのだが……嘘? ハンターを連れて何をしようとしている」
プエルの声は冷たく、視線は氷をまぶしたような色を纏う。
「つまりな、てめぇを探すようにこいつが商人脅した。それを受けたってわけだ」
ステラがバッサリと言った。
『私達と君達が戦わない』
条件が微妙に変わっている気もするが、エクエスは黙っている。
「ああ、もう!」
天井に向かって放たれた魔法の矢は目標物がなく、消滅した。
プエルは理解したため、いらだつ。おとなしくしていれば攻撃はされない、一方で人間を殺すということはあきらめるしかないのだ。殺すことはできても、このような狭い室内で争うのは分が悪すぎる。
「モフリ、聞いた? 今日は人間、ご飯にできないって」
「きゅー」
「相手を知ってからこっそり仕掛けないと駄目だって……」
「きゅきゅ」
「調査は重要だって……皆言ってるし、今日はこれでおしまいだよ」
「きゅー」
プエルに諭されてモフリは炎を消した。
「場当たりのようでしたが、意外と事実を言ってませんか?」
「口だけじゃないか?」
ぼそぼそとレイとレイオスが会話をしている。
「さて、帰りましょう?」
エクエスはプエルにお辞儀をした後、手を差し出した。
●不満
「約束を守っていただきありがとうございます」
エクエスの嫌味たっぷりの笑顔がハンターの気を逆なでる。
モフリを抱きかかえたプエルは黙り、大人しくしている。
納得しているが、遊びを中断されたプエルは不機嫌なのだ。モフリも同様にふて腐れている様子。
足早に立ち去るプエルに続き、エクエスはお辞儀一つ残し立ち去った。
「……なんか、腹立つ」
戻ってこないか見送った後、ステラが憎々しげにつぶやく。
『はた迷惑、能天気! 嫌味の一つくらい言いたかったけれど!』
むしろ、ほめて終わってしまったとエヴァは不満を募らせた。
「敗北感が非常に大きいですね、これは……亡くなった人達の仇討を……」
レイが端正な顔をゆがめて唇を噛む。童心を持つ子に見えようと、人類の敵ということは事件が雄弁に語る。
「デリクにも伝えないとな、終わったって」
倒すチャンスをうかがってもなかなか隙ができずにいる歯がゆさがレイオスを揺さぶる。
「辺境で商売しようとしていたみたいだし……いっそのこと王国に来る鬼との商売でも提案してみるかな」
レイオスは溜息をもらした。それに重なるように仲間の溜息も聞こえた。
依頼結果
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相談卓 ステラ・レッドキャップ(ka5434) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/09/23 06:34:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/22 08:36:22 |