親をなくした子猫たち

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2015/09/28 07:30
完成日
2015/09/30 06:24

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 その日、ブックカフェ「シエル」には珍しい来客がいた。
「まあ、ユニオンリーダー直々にいらっしゃるなんて、光栄です」
 そう、そこにいたのはリムネラ(kz0018)だったのだ。店主のエリスが緊張した面持ちになっているのも無理はない。
「前に、ハンターの皆サンからこの店の評判をうかがいマシタ。トテモ美味しいそうデスね」
 リムネラの言葉に、顔をぱあっと明るくさせるエリス。
「そんな、ありがとうございます」
 年齢の割に幼さの残る雰囲気を持ったブックカフェの店主は、そう言って何度も頭を下げた。


「――トコロで」
 リムネラは運ばれてきたカフェラテに舌鼓を打ちながら、少し困ったような顔を見せた。
「ココには、ガーディナ以外のユニオンハンターも、それ以外のヒトも、訪れると思ったのですケド……少し、お願いがあるのデス」
「私で力になれることなら、喜んで。何かあったんですか?」
 エリスが尋ねると、リムネラはそっと脇に抱えていた大きな袋から小さな何かを取り出した。
 ――猫だ。それも、まだようやく目が開いたくらいの、子猫が、二匹。こわごわと、顔を出したかと思うと、すぐに隠れてしまった。随分臆病な性格らしい。
「……とある歪虚事件に巻き込まれタ、猫だそうデス。歪虚を退治することはできたのデスガ、子猫が取り残されてイテ……ハンターサンたちが、保護シタんですケド……ハンターは何かと忙しいノデ、里親を探しタクテ」
 リムネラはある程度事情を知っているからだろう、わずかに目を伏せた。
 ユニオンやハンターズソサエティ任せではなく、さまざまな人に接して貰いたくて、この店を選んだのだ、と言う。
「引き取りたい人がイレバ、ハンターでも、一般の方でも、むろんかまいマセン。デモ、この子の幸せも考えてアゲタクテ……手伝っていただけ、マスカ?」
 エリスは微笑んだ。
 まだ若いユニオンリーダーは、とても優しい人なのだとしみじみ思う。
「手伝えることがあれば、喜んで」
 その笑顔は、とても綺麗だった。

リプレイ本文


 親をなくした子猫たち。
(猫に縁がある私としては、放っておけないのよね)
 人間の血を引くエルフ少女・ケイルカ(ka4121)はそう言って、子猫の頭を軽く撫でようとした――が、すっと猫は隠れてしまった。
 ブックカフェ『シエル』には今、子猫たちの里親を探してあげたいと思って名乗りを上げたハンターたち六名が集っていた。ちなみにほぼ全員、往々にして動物好きである。まあ、そういう人じゃないとなかなかこういう趣旨の依頼に入らないだろうとは思うが。
「リムネラさんも言ってましたけど、この子たちはほら、この通り本当に臆病でね……多分その辺も、何か事情があるんだろうけど」
 マスターのエリスが、そう言ってため息をつく。店はブックカフェと言うことで、猫を長く置くわけにも行かないのだろう。本人は猫好きなのだがそれ以上に本が大事なのだ、と彼女は苦笑いを浮かべた。
「里親捜しもだけど、やっぱリこの子たちが巻き込まれた事件ももう一度調べ直した方がいいよね」
 童顔だが立派に成人済みのドワーフ、メルクーア(ka4005)は神妙に頷いた。
「まだこんなに小さいのに……かわいそうにな……」
 親猫もきっと無念だったことだろう。そう思いながらグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が小さく、瞑目する。いわゆる巨躯のグリムバルドだが、心優しい青年だ。
「まずはポスターかな。それから、周囲にも聞いて回ったり……エリスさん、この店にもポスターを貼っていいかな? あと、連絡先をここにしてもいい?」
 ミューレ(ka4567)に尋ねられると、勿論かまわないという返事がすぐに返ってきた。
「そうとなったら、ポスター作りと里親、それから……事件調査、見たいにわかれたほうがいいかな?」
「うーん、細かく役割分担を決めると逆に身動き取りにくいこともあるから、そこは流動的でいいんじゃないかなぁ」
 ケイルカたちがそんなことを話し合う。と、二匹の猫を連れた来未 結(ka4610)が、不思議そうな顔で恋人であるミューレの顔をのぞき込む。結の二つに結んだ髪が、まるで子犬の耳か何かのように揺れる。
 ――ミューレはぼんやり思い出していたのだ。結と出逢ったときのことを。
(……彼女も、歪虚の騒動で親と離ればなれになってしまった、からかな……放っておけないんだ、結を見ているようで)
 小さく、可愛らしく、そしてか弱い子猫たち。
 それは確かに、出逢ったばかりの結によく似ていた。……もっとも、結は猫と言うより犬っぽい雰囲気なのだけれど。
 ともあれ、大まかな方針は決まった。
(親は生きているか分からない。あるのはこの身ひとつ――まるで、今の僕みたいだな、いや僕はこんなに可愛くないけど)
 子猫たちに優しい眼差しを送っているのはリアルブルーからの転移者、檜ケ谷 樹(ka5040)だ。
「……それじゃ、一肌脱いでみますか」
 樹がそう呟くと周囲にも聞こえたのだろう。ハンターたちはこくり、と、誰からともなく頷いていた。


 ポスター作りはある程度の絵心があるメンバーが中心になった。
 ケイルカと樹である。
 その館にグリムバルドは枚数を増やす為の、いわゆる簡易印刷の手段がないかをエリスに尋ねる。
「ああ……この間同人誌を作ったりもしてた人もいたでしょ? 一番安上がりで手っ取り早いのはやっぱり版画なんだけれど……できるかしら」
「なるほど。リアルブルーみたいに、コピー技術は無いですからね……でも、そのくらいなら、多分大丈夫です。ものすごい量を刷るわけではないですしね」
 単色印刷のものに手で色をつけたりするくらいなら難しい話ではない。どちらかというと版画用の板に誤った線を刻みそうだが、まあこれは何とかなるだろう。
 ケイルカがラフイラストを描き上げる。ふわふわした毛並みの子猫が二匹、寄り添っているようなデザインだ。あえて覚醒し、彼女の覚醒の証である幻影の猫を上手く使ったこともあって、子猫たちの容姿も良く似せることができた、と思う。
 さらに細かい特徴やトイレのしつけ済みであることなどを記述していく。
 一方の樹はポスターと言うより宣伝用のチラシサイズのものを描いた。ケイルカが気を引いているすきにこちらもざくっと描いたその得も、シンプルながら特徴がよくつかめていた。
 これでポスターやチラシのほうはおおよそ大丈夫だ。
 あとは版画用の板にこれを上手く写し、そして刷り上げる。
 決して下手ではない。むしろ暖かみのあるポスターができあがったので、喜色満面な一同だ。
 では、これをもって里親捜しへ出よう。
 ――そう、街へ繰り出そう。


 さて、ポスターやチラシを持った面々は、さっそくリゼリオの街を訪ね歩いた。
 もともとリゼリオは自由で活発な雰囲気の都市だ。猫もあちらこちらをひょいひょい歩いている。
 飼い猫か野良猫かも分からない。
 つまりリゼリオは、猫にも優しい街なのだろう。
 ――これならすぐに、里親も見つかる。
 誰もがそう思った。
 だが、そうなるとふと頭をもたげる疑問がある。
 ――では、どうして彼らは引き取って貰うべき存在を探して貰っているのだろう。

 ハンターオフィスで事件の関係者などに連絡をつけることが出来るだろうか。
 ミューレや、彼に付き添ってきた結が事情を説明したところ、オフィスの職員は成程、と納得した顔をしてぱらぱらと書類の束を探してくれた。
「……余り気持ちのいい事件じゃないんですけどね」
 職員はそう付け加える。それでも後悔しないならば、と言う意味なのだろう。

 ――事件は、典型的な雑魔退治。事件が解決してから一週間も経過していないこともわかる。場所は、リゼリオ郊外の小さな村のようだ。
 よく見ると、正確にはオフィスからの依頼ではなかったらしい。別の依頼の帰り道に遭遇した、偶発的な事件。
 撃退した雑魔は、決して強くはなかったらしい。そして特記事項として――おそらくもとは猫の姿をしていたのだろう、と、書いてあった。
「猫……?」
 それでは、まさか。
 嫌な予感が、じわりと胸に広がっていく。
「……うん。雑魔を退治したあと、その雑魔のいた付近に子猫が三匹いた。……但し、一匹は既に事切れていたそうだ」
 結は、思わずぎゅっとミューレの腕を掴む。
「……猫さん、それじゃあ」
「――」
 ミューレは、言葉に出来なかった。たとえ結が、目に涙を浮かべているのに気づいても。

 ――一方、みずからの足で発端となった事件現場を探し当てたメルクーア、そしてグリムバルド。
 しかし、こちらでも苦い話を聞くことになってしまった。
 話してくれたのは、如何にもおしゃべり好きな村のご婦人たちだ。ケイルカの特製ポスターを見て、ああ、とおしゃべり好きな女性たちはため息をつく。
「かわいい猫だったんだよ、野良だけどよく人に懐いててね。子猫も生まれたばかりだったんだけれど……きっかけは分からないんだけど親猫だけ死んじまって、――転化しちまった」
 転化。
 つまり、死体となったそれが、歪虚となってしまった。
 話を聞いたふたりは、思わず顔を見合わせる。
「それでたまたま通りかかったハンターに急いでお願いしたのさ、子猫だけでも助けてやってほしいってね。一匹は死んじまってたけど、そうか……あんた、あの子たちの里親捜ししてるんだね」
 子猫たちはマテリアルに異常も無く、ごく普通の子猫の状態だそうだ。
「ずっと心配してたんだよ、あたしらにゃ出来ることは限られてる。それならハンターに頼んじまえってことになったんだけど……いい人たちがちゃんと世話を見てくれるといいねぇ」
「この村に返してあげることはできないだろうか……?」
 グリムバルドは尋ねるが、婦人たちは小さく首を振る。
「ここにいたら、あの子猫たちも思い出しちまうだろうさ。自分の親が、自分や人間たちを襲いかけたなんて、あまり知りたくないだろう?」
 想像して、メルクーアも頷く。
 自分だったら、耐えられるかどうか分からない。


 ――いい里親が見つかればいい。
 ごくごくそう言った、純粋な思いで始まった里親捜しは、子猫たちの悲しい過去を探り当ててしまった。
 一度『シエル』に集合した一同は、情報の共有を行なう。
「そっか……猫たちのお父さんたちが……」
 寂しそうに声を上げるのはケイルカ。
 それでも、猫たちは日々成長していくし、このままこの店に置くわけにも行くまい。
 既にポスターやチラシは主に樹が中心となって、リゼリオの街のあちこちに回っている。
 ついでにチラシは『シエル』の宣伝も兼ねてあって、実は最近店は結構な賑わいを見せている。今日も何のかんのと賑やかだ。
 興味を持った優しい人たちが、子猫たちを引き取りたいという希望も出している。
「……そろそろ一旦締め切って、面接にするべきかな」
 誰からともなくそう言って、うなずき合っていた。


 里親の面接会場は、やはり『シエル』が選ばれた。
 連絡先にしていたし、その方が何かと便利なのだ。
 子猫たちはハンターたちが心を砕いた結果、当初よりも随分人にも慣れてきた様子を見せている。掌に載せた鶏のささみを自分から食べにいったり、確実に人間との距離は狭まっていた。

 里親希望者は、五組。
 夫を早くに亡くして働くシングルマザーの親子、老夫婦、生まれたばかりの赤ん坊を連れた若い夫婦、エルフの青年、そして東方出身らしい男性。
 希望者は皆猫好きで、そして家族同然に扱いたいと言っていた。
 ただ、審査をするのはハンターたちだ。
 経済的な都合や体質、さまざまな条件があるだろう。
 この子猫たちを幸せに出来る人に、引き取って貰いたいからだ。

 結果として、若い夫婦とシングルマザーのもとに、それぞれの子猫は引き取られていった。
 オス猫は若夫婦の元へ。シングルマザーのもとにはメス猫が。
 引っ越す可能性も少ないし、比較的経済状況もいい。途中で捨てることもないだろう。
 何より、子どもの情操教育にいい。
 それも決め手と言えた。
 譲るのはもう少し先。子猫たちに社会性が身につく頃を狙っている。
 これは結の提案だった。確かにその方が、社会のルールというものを理解しているだろう。

 引き取り手がいなかったら引き取りたかったんですけどね、結はそう呟きながら微笑む。ミューレといっしょに育てたかったに違いない。
 いや、この場にいるほぼ全員が、もしもの時は子猫を引き取ろうと決めていた。
 樹は店の看板猫にしてもと思ったが、よく考えたらここはブックカフェなので難しい。結果はまあ、無事に引き取り手が見つかったわけだが。
「また今度、遊びに行くからね」
 ケイルカはそう笑って、子猫の小さな肉球をぷにっと押す。

 接する期間は長かったわけではない。
 それでも、子猫たちを大切にしたい気持ちが伝わったことが嬉しかった。
 一人一人が小さな手を取り合えば、こういう小さな幸せは必ず訪れる。
 それをなんとなく確認した、一同なのだった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    メルクーア(ka4005
    ドワーフ|10才|女性|機導師
  • 紫陽
    ケイルカ(ka4121
    エルフ|15才|女性|魔術師
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • 共に紡ぐ人を包む風
    ミューレ(ka4567
    エルフ|50才|男性|魔術師
  • そよ風に包まれて
    来未 結(ka4610
    人間(蒼)|14才|女性|聖導士
  • 幸せを手にした男
    檜ケ谷 樹(ka5040
    人間(蒼)|25才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 仔猫達の未来のために。
ミューレ(ka4567
エルフ|50才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/09/27 22:37:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/26 12:36:45