悪意を喰らう『悪意』

マスター:香月丈流

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/30 12:00
完成日
2015/10/08 13:24

みんなの思い出

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オープニング


 最初は、単なるミスかと思っていた。『それ』が後々になって大事になるとは、誰も想像しなかっただろう。
(あれ……? この木箱、カラだ。間違って搬入されたのかな?)
 荷物の確認をしながら、男性は軽く小首を傾げた。西方から大量に送られてくる、救援物資の数々。彼は東方に届いた物資の中身を確かめ、仕分けする作業を担当していた。
 各国からの協力は厚く、復興は想像よりも早く進んでいる。そんな情勢もあり、空箱を疑問に思う者は1人も居なかった。むしろ『中身が入っていないなら、荷物の運搬に使える』と、前向きな解釈をしたのである。
 だが……。
 1度や2度ならまだしも、空箱の輸送は何度も続いた。それだけでなく、箱の中に石を詰め込んで重さを誤魔化したり、『木箱の中から木箱、その中から更に木箱』という事も起きた。
「またかよ……ったく、西方サンは何を考えていやがるんだか!」
 荷物チェックをしていた男性が、不機嫌な表情で声を荒げる。こんなイヤガラセ行為を何度も受けたら、怒るのは当然ではあるが。我慢の限界に達したのか、男性は抗議の連絡を西方に送った。


「そんな馬鹿な!?」
 連絡を受けた集荷場は、軽くパニック状態である。空箱も、『木箱を入れた木箱』も、送った記憶が無い。そもそも、そんなイヤガラセをする理由もない。原因究明のため、緊急の調査が行われた。
 その結果、導き出された答えは……運搬中の『荷物スリ替え』。集荷場は人の目が多いため、荷物に細工をするのは難しい。それに、荷物の積み下ろしをした時点でバレてしまうだろう。
 だとしたら、問題が起きているのは『その前』。物資の運搬中しかない。
 無論、証拠も見付かった。荷物から空箱が見付かった時、運搬には『とある人物』が関わっている。書面や記録には残っていないが、彼が周囲に内緒で運搬を代行する事もあったらしい。
 同僚達にとっては、『仕事が減って助かる』程度の認識だったようだ。しかし……事件に発展した今となっては、不自然な行動だとしか思えない。
 これで、犯人は特定できた。あとは、その人物を捕まえれば事件は終わる。

 ハズだった。

 月の無い静かな夜……集荷場の職員達は犯人を捕まえるため、憲兵と協力して荷馬車を追跡していた。相手に気付かれないよう、木陰や物陰に隠れてコッソリと。
 犯人が出発してから数時間。倉庫らしき建物の近くで、馬車が不意に停まった。その扉が開き、数人の男性が庫内から木箱を運び出す。
 恐らく、彼らも共犯者なのだろう。物資の一部を横領し、国内で転売。元手はゼロに等しいが……人々の好意を踏みにじる、卑劣な行為である。
「そこまでだ! お前達、全員そこを動くな!」
「ヤベェ、憲兵だ!」
 憲兵の叫びに反応し、犯人達が一斉に駆け出す。このまま、長い追い駆けっこが始まるかと思った瞬間……その場に居た全員が『異変』に気付いた。
 闇の奥から肌を叩く、圧倒的過ぎる威圧感。
 鼻を貫くような獣臭に、吐き気を催すような腐臭。
 そして……低い唸り声。
 背骨に氷柱を突っ込まれたような寒気が、全身を一気に駆け抜ける。全員の動きが凍りつく中、異形が静かに姿を現した。
 闇の中で蠢く巨体に、真紅の眼。照明が映し出したのは……3つの首を持つ犬だった。全身の肉は腐れ、死臭と腐臭が絶妙なバランスで混ざり合い、不快感を加速させている。
「あ……あぁ……!」
 声にならない悲鳴。人智を超えた存在を目の当りにすると、人は無力な存在と化す。それを知ってか知らずか、三つ首の犬は地面を蹴って跳び掛かった。
 巨体が宙を舞い、血飛沫が派手に舞い散る。犬の3つの口は、犯人達を一撃で噛み砕いていた。状態は説明するまでもなく……即死。
 更に、犬の口から炎が噴き出した。赤々と燃える炎が死体を焦がし、馬車を燃やし、周囲に燃え移っていく。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
 恐怖が限界を超え、狂ったように叫び出す憲兵と職員達。そのまま、彼らは無我夢中で逃げ出した。
 どこをどう走ったのか、覚えている者は1人も居ない。ただ……翌朝に発見された惨殺死体が、雑魔出現の証拠となっていた。

リプレイ本文


 『窃盗集団がバケモノに襲われた』。
 その事実が周辺住人に伝わるまで、長い時間は必要なかった。話は瞬く間に広まり、尾ヒレが付いて恐怖を煽り、不安だけが募っていく。
 住人達の混乱を治め、犠牲者を増やさないためにも、ハンター達が現場の街道に急行。そこには……焦げた匂いと犠牲者の死臭が、生々しく残っていた。
「リアルブルーで泥棒やってたけど……品物の中抜きするドロボウが怪物に襲われるなんて、皮肉なものよね」
 周囲を見渡しながら、葛城 ゆい(ka5405)が溜息混じりに言葉を漏らす。彼女は『転移』前、姉や妹と一緒に盗みを働いていた。転移後はハンターに専念しているが……ゆいのクリッとした猫目は、今でも『獲物』を探しているのかもしれない。
「天に唾して自分に返ってきちまった訳だな。ま、小悪党の末路なんてそんなモンだろ」
 アーサー・ホーガン(ka0471)の言う通り、今回の事件は自業自得。彼は被害者の小悪党よりも、目撃された雑魔に興味があった。強敵を求め、逆境を楽しむアーサーにとっては、絶好の相手だろう。
「そうかもしれんな。犠牲者がその悪党共だけに治まっているうちに、速やかに退治することにしよう」
 アーサーに同意し、静かに闘志を燃やす榊 兵庫(ka0010)。無愛想な表情と鋭い黒眼から、冷たい印象を受けるが、内面は人情味にあふれている。一般人への被害拡大を防ごうとしているのが、その証拠である。
 気勢を上げる仲間達を尻目に、ショウコ=ヒナタ(ka4653)は軽く溜息を吐いた。
「だと良いんだけど……ね」
 誰にも聞こえないような、小さな呟き。彼女は事件に関する情報を一通り聞いたが、素直に納得できない点も残った。それは胸の内にとどめているし、口外する気もないが……依頼を素直に信じて良いのか、疑問が湧き上がっていた。
「どうしたのかな? 何か気になる事でもあるのかい?」
 ショウコの呟きが聞こえたのか、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が顔を覗き込む。整った容姿は『クールビューティー』と表現しても差し支えないが、元気いっぱいな雰囲気と赤い双眸が相まって、太陽のように明るい。
 アルトの言葉に、ほんの少しだけ笑顔を浮かべるショウコ。小声で『別に?』とだけ返し、魔導バイクに跨った。
 機動力確保のため、今回は全員がバイクや馬に騎乗する事になっている。幸いにも、事件現場は町外れの街道。道は整備され、人通りは少ない。敵の敏捷性は不明だが、不利な状況にはならないだろう。
「んじゃ、行こうぜっ!」
 全員の準備が整ったのを確認し、リュー・グランフェスト(ka2419)は気合を入れて魔導二輪を走らせた。その全身が赤い燐光を纏い、燃え盛る焔を背負うかの如く輝いている。
 リューを追うように、軍馬を走らせるアルト。2人から離れて併走する形で、兵庫とアーサーも戦馬で疾走していく。
 参加者8人のうち、前衛で戦えるのは彼ら4人。2手に分かれたのは、敵が複数だった場合を考慮しての事である。複数なら手分けして戦い、単体なら4人で集中攻撃できる。
 更に、4人の後方には後衛担当が待機。こちらも馬やバイクで移動し、一定距離を保っている。街道を挟んで、左右に前衛が2人ずつ、その後方に後衛という布陣で、敵の探索が始まった。


「さて……匂いで僕達を見つけてくれるかな?」
 不敵な笑みを浮かべながら、前衛を見守る水流崎トミヲ(ka4852)。丸い体で童顔ながらも、バイクを駆る姿はサマになっている。眼鏡に隠れて瞳は見えないが、敵を探して周囲を見渡している。
「トミヲちゃん、魔術師同士、頑張ろうねぇ~♪」
 不意討ちギミに、トミヲの耳に響いた声。視線を向けた先で、はるな(ka3307)が笑顔で手を振っていた。
 彼女は俗に言う『バンギャ』であり、服装やメイクも個性的。バイクではなく電動スクーターに乗っているあたり、独特の感性を持っているようだ。
「あ、はい。よろしくお願いしますデス!」
 突然声を掛けられ、トミヲは挙動不審に陥った。彼は不名誉な意味で『魔法使い』であり、女性と話す事も少ない。故に、異性の前ではオドオドしてしまうのだ。
 トミヲの苦労をヨソに、雑魔の捜索は続いた。どれくらい走っただろう。事件現場から数km離れ、視界に森が見え始めた頃……異変は何の前触れもなく起きた。
 最初に感じたのは、僅かな獣臭。次いで、地を駆ける動物の足音。前衛の4人が警戒を強めた瞬間、側面の原野から炎の渦が迫ってきた。
 標的となったのは、リューとアルト。咄嗟に、アルトは軍馬の手綱を右に引いて急旋回。そのまま力強いステップを踏ませ、炎を回避した。
 逆に、リューは炎に向かって突撃。アクセル全開で炎を突き抜け、振動刀を構えた。黒い両眼が捉えたのは、3m近い体躯の猛犬。しかも……体は1つなのに頭部が3つあり、全身から死臭と獣臭が漂っている。
「うおおおおおおお!!」
 殲滅対象を確認し、リューは武器にマテリアルを込めた。刀身が金色の光を纏い、宙を奔る。狙うは、3つ首のうち『中央にある頭部』。擦れ違いざまに斬撃を叩き込み、リューはそのまま離脱。切先が雑魔を斬り裂き、血が舞った。
「溢れよ、独り枕を濡らした僕の哀しみィ……!」
 トミヲの奇抜過ぎる詠唱に呼応し、大気中の水分が球状に収束。彼の隣では、はるなも同様に水球を生み出している。タイミングを合わせ、2人はそれを撃ち放った。
 魔力を帯びた水が、高速で猛犬に迫る。2人の狙いは、頭部ではなく胴体。衝撃が連続で叩き込まれ、雑魔の体を揺らした。
 街道を挟んで逆側に居た兵庫は、馬の腹を蹴って加速。一気に距離を詰め、身長よりも大きな槍を構えた。
 ほぼ同じタイミングで、アルトも敵を射程圏内に収める。視線や馬の動きにフェイントを混ぜ、中央の首を狙って振動刀を振り下ろした。刀身が直撃し、更なる傷を刻み込む。
 兵庫は疾走の勢いを槍に上乗せし、全力で突き出した。鋭い刺突が『右側の首』に突き刺さり、頬の腐肉を抉り取る。
 2人の連撃に続くように、アーサーが敵の左側から急接近。巨大な剣を両手で振り上げ、渾身の斬撃を叩き込んだ。狙いは首ではなく、敵の『左前脚』。移動速度を上乗せした一撃が、丸太のように太い脚部を両断した。
「死体だろうが、千切れちまえば動かせねぇよな?」
 若干の皮肉を込め、鼻で笑うアーサー。雑魔は片脚を失って前のめりになっているが……逆に言えば『左側の首とアーサーの距離が縮まっている』。倒れる勢いを利用し、猛犬が牙を剥いた。
 鋭い犬歯がアーサーの肩口に突き刺さり、傷口から鮮血が舞い散る。鋭い痛みに、思わず顔が歪んだ。
 更に、雑魔は倒れがなら右前脚を薙いだ。鋭い爪が空を切り、兵庫に迫る。反射的に体を捻って直撃は避けたものの、二の腕を深々と斬り裂かれて血が流れ落ちた。
「どいて! 早く!」
 後方から響く、ショウコの叫び。その声に反応し、兵庫とアルトは大きく後退。入れ違うように、ショウコはバイクごと雑魔に突撃した。
 そのままブレーキとクラッチを操作し、アクセルターンの要領で鋭く旋回。浮いた後輪で雑魔の『左側の首』を豪快に殴ると、アーサーの肩から牙が抜けた。
 その隙に、ショウコとアーサーは一旦離脱。アーサーは敵との距離を置き、ショウコは後衛の位置まで後退した。
「えっ、ちょっ……大きくて強そうなんだけど!? これ、カードなんか効くかしら……」
 想像以上の巨体に驚いたのか、ゆいが弱音を漏らす。彼女の手にあるのは、奇術師や占い師が使うような一般的なサイズのカード。敵の巨体に比べたら、あまりにも小さい。
 それでも、彼女はカードを投げ放った。仮にダメージを与えられなかったとしても、仲間が攻撃する隙が生まれたら無駄にならない。カミソリのような鋭さが、空を切りながら雑魔に迫る。横合いから投げたカードは、敵の脇腹に深々と突き刺さった。
 ゆいに続き、兵庫は距離を空けたまま槍を薙いだ。穂先に溜まったマテリアルが衝撃の波と化し、雑魔に命中して全身を駆け巡る。
「一撃必殺にならずとも、無視出来ぬ斬撃を喰らった感想はどうだ?」
 敵の注意を引くように、挑発的な言葉を口にする兵庫。彼の思惑通り、雑魔の首は全て兵庫を捉えていた。
 それに気付いたアルトとリューが、猛犬の死角側から距離を詰める。
「横領犯を退治したご褒美だ、速攻で冥土に送り返してやる」
 言うが早いか、太陽のような赤と、炎のような赤が交差。2人の振動刀が中央の首を捉え、『×』字の傷を深々と刻み込んだ。
 腐血が舞い散る中、中央の首が口を大きく広げる。その口内に禍々しい力が集まり、一瞬で炎と化した。このまま、炎を吐き出すつもりなのだろう。
 雑魔の炎に気付いたトミヲは、素早く水球を作り出した。敵の炎撃に合わせ、口内に目掛けて水球を発射。圧倒的な水量が炎を打ち消し、水蒸気が周囲に広がった。
 中央の炎は潰したが、まだ雑魔には左右の首が残っている。牙が鋭さを増し、アルトとリューの背後から迫る。
 雑魔の攻撃が届くよりも早く、ショウコは左右の鼻先を狙ってダーツを投擲。それが狙い通りに突き刺さると、牙の勢いが瞬間的に緩んだ。
 その隙に、アルトは馬を華麗に操って攻撃を完全回避。リューは身を翻して直撃を避けたが、牙が太腿に赤い線を描いた。
「援護、ありがとな! って……おまえ、バイクは?」
 敵から若干離れつつ、後衛に礼を述べるリュー。彼の視界に映ったショウコは、バイクから降りて敵と対峙していた。リューの質問に、彼女の口から小さな溜息が零れた。
「余計な事、気にしないで。今は戦闘中だろ?」
 素気ない、ぶっきらぼうな返答。ショウコとしては、騎乗による高機動で、戦線が無駄に広がるのを防ぐためにバイクを降りたのだが……それを説明する気はないらしい。
 他人に関心が無いように見えるが、彼女はリューとアルトを援護している。冷血というワケではなく、義理や人情を内に秘めているようだ。それに気付いたリューは、少しだけ笑みを浮かべた。
 彼とは対照的に、ゆいは複雑な表情で空を見上げたり、左右をキョロキョロ見渡している。
「ショットアンカーを打ち込む天井も遮蔽物もないじゃない! キツイわ!」
 思わず、弱音が漏れる。ショットアンカーを使えれば立体的な攻撃が出来るが……ここは街道だし、周囲は原野。アンカーを使えそうな所は見当たらない。観念して、ゆいはカードを投げ放った。
 投擲が弧を描き、雑魔の右側から迫る。それが右頭部の眼球に突き刺さり、舞い散る血液が瞬間的に視界を塞いだ。
 この好機をアーサーが見逃すワケがない。馬を駆って一気に距離を詰め、大剣を右頭部の口内に突き立てる。そのまま全力で薙ぎ払い、アゴを斬り裂いた。
「アーサーちゃん、ナ~イス♪ はるなもイっちゃうよ~!」
 腐血が舞い散る中、はるなが元気に叫ぶ。細く長い指を伸ばすと、先端から雷光が奔った。閃光が一直線に伸び、雑魔の無防備な口腔を直撃。電撃が炸裂し、腐肉を焦がした。
 敵の状態を確認し、アーサーの銀眼が鋭く光る。大剣を上段に構えてマテリアルを活性化させると、全身からオーラが噴出。レッドゴールドの光を纏い、武器を全力で振り下ろした。
 黄金が一閃し、負傷の激しい右首を切断。斬り落とされた首が、そのまま地面を転がった。
「汚ぇ首だが、貰っといてやるぜ」
 アーサーの言葉に、怒りの咆哮を上げる雑魔。周囲の大気が震える中、アルトは至近距離まで接近し、全身にマテリアルを行き渡らせた。
 直後。彼女の姿が真紅の閃光と化し、神速の斬撃が雑魔を斬り裂く。マテリアルによって高速化された動きでの連続攻撃……その直撃を喰らい、中央の首が細切れになって地面に散らばった。
 頭部を2つ失いながらも、雑魔は残った首を伸ばして口を大きく開く。口内に一瞬で炎を生み出し、吐息の如く吐き出した。
 反撃の炎が渦を巻き、アーサーとアルトを飲み込む。炎自体はすぐに消えたが、ダメージは2人の体に残ってしまった。
(最後まで無駄な抵抗とか、めんどくさ……)
 往生際の悪い雑魔に呆れつつ、ショウコは敵に向かって疾走。籠手を装着した手を強く握り、拳撃を放った。
 拳が口内を直撃したが、彼女の『本当の狙い』は敵の舌。手を開いて舌を握った瞬間、雑魔は口を閉じて反撃してきた。牙が肌に刺さるが、ショウコはそれを気にせず力任せに引きちぎる。予想外の攻撃に、猛犬は悲鳴に似た鳴き声を上げた。
 無防備に開かれた口に、2筋の電光が突き刺さる。それは、はるなとトミヲが放った雷撃。単発でも強力な攻撃が連続で突き刺さり、焦げた臭気が周囲に広がった。
「あ~もぉ、この臭い……染みつきそ~。サイアクだしぃ~」
 鼻をつまみ、はるなが顔を歪める。死臭と腐臭に焦げ臭さが加わると、想像を絶する臭いと化す。彼女が不快感を露にするのも、当然の事だろう。
 その臭気に耐え、ゆいは敵に向かってショットアンカーを打ち込んだ。鈎爪に似た錨が敵の胴に突き刺さり、血が噴き出す。錨には紐が結ばれ、リールの付いた魔導機械と繋がっている。ゆいはマテリアルを込め、リールを動かした。
 紐が高速で巻き取られ、反動で彼女の体が引っ張られる。その勢いを利用し、彼女は渾身の蹴撃を雑魔に叩き込んだ。衝撃で巨体が軽く揺れ、打ち込んだ錨が外れて地面に落ちる。
 止めとばかりに、兵庫とリューが左右から挟撃を仕掛けた。
「お前が何者であっても、この一撃で終わらせる……!」
 兵庫の静かな宣言と共に、マテリアルが武器に集まる。2人は騎乗状態で大地を駆け、移動のエネルギーを攻撃に上乗せ。力強く武器を握り、疾風の如く突撃した。
 リューの振動刀が最後の首を斬り落とし、兵庫の槍が胴に深々と突き刺さる。左右からの圧倒的な衝撃に、雑魔は断末魔すら上げる事なく絶命。窃盗団の命を奪った異形は、ハンター達の手で葬られた。


 戦闘終了後、8人は雑魔の残党を警戒して近隣を見回った。敵が居ない事を確認すると、その足で事件現場に直行。遺品や荷物が残っていないか、焼けた建物内を隅々まで調べた。
 探索中、パンッという乾いた音が周囲に響く。音の主は……トミヲ。彼は手を合わせ、静かに黙祷を捧げていた。仲間達の視線に気付き、苦笑いを浮かべながら口を開く。
「ほら、『自業自得』とはいえ……さ。弔われないのも可哀想じゃないか」
 そう語るトミヲの横顔には、悲しみの色が浮かんでいた。
「水流崎さんと一緒に居ると、『人は見かけによらない』という事を実感させられるよ」
 友人の新たな一面を発見し、アルトは微妙な褒め言葉を口にして、思わず笑みを浮かべていた。

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MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 恋愛導師
    はるなka3307
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲka4852

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 恋愛導師
    はるな(ka3307
    人間(蒼)|18才|女性|魔術師

  • ショウコ=ヒナタ(ka4653
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師

  • 葛城 ゆい(ka5405
    人間(蒼)|21才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン VS犬犬犬
水流崎トミヲ(ka4852
人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/09/30 02:37:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/29 13:25:38